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== PHBの食品への応用 ==
== PHBの食品への応用 ==
ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrte; PHB)はケトン体のポリエステルであるため、腸内細菌の酵素により加水分解され、哺乳類のケトン体濃度を増加させることができる。ケトン体は抗肥満作用や抗ガン作用を持つため、健康食品としての開発が期待されている<ref>特願2018-567965 特許第6571298 血糖値スパイク抑制剤、食品及び血糖値スパイク抑制剤の製造方法</ref>。また海外ではPHBはエビや魚の飼料としてすでに製品開発の途上である<ref>Wang X, Jiang XR, Wu F, Ma Y, Che X, Chen X, Liu P, Zhang W, Ma X, Chen GQ. Microbial Poly-3-Hydroxybutyrate (PHB) as a Feed Additive for Fishes and Piglets. Biotechnol J. 2019 Dec;14(12):e1900132. doi: 10.1002/biot.201900132. Epub 2019 Jun 27. PMID: 31119892.</ref>。
ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrte; PHB)はケトン体のポリエステルであるため、腸内細菌の酵素により加水分解され、哺乳類のケトン体濃度を増加させることができる。ケトン体は抗肥満作用や抗ガン作用を持つため、健康食品としての開発が期待されている<ref>特願2018-567965 特許第6571298 血糖値スパイク抑制剤、食品及び血糖値スパイク抑制剤の製造方法</ref>。また海外ではPHBはエビや魚の飼料としてすでに製品開発の途上である<ref>Wang X, Jiang XR, Wu F, Ma Y, Che X, Chen X, Liu P, Zhang W, Ma X, Chen GQ. Microbial Poly-3-Hydroxybutyrate (PHB) as a Feed Additive for Fishes and Piglets. Biotechnol J. 2019 Dec;14(12):e1900132. doi: 10.1002/biot.201900132. Epub 2019 Jun 27. PMID: 31119892.</ref>。

== [[ケトン供与体]] ==
ケトン供与体は消化管内でケトン体を放出して[[ケトーシス]を誘導するものと定義されるが、一分子から放出されるケトン体の数(N)によって3種類に分けられる。ケトン体ナトリウム(N=1)の他に、[[ケトンエステル]](N=2)や[[ポリヒドロキシ酪酸]](N>1000)などがある。ケトン供与体はケトン体の健康効果をヒトをはじめとした哺乳類に導入するためのツールとして今後健康食品やペットフードでの実用化が期待される。


== PHBの性質と産業利用==
== PHBの性質と産業利用==

2021年1月14日 (木) 02:35時点における版

Template:Infobox 生理活性物質

ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate; PHB)は、3-ヒドロキシ酪酸ポリエステルであり、ポリヒドロキシアルカン酸 (PHA)の一種である。 フランス化学者細菌学者モーリス・レモインが1925年に初めて単離し、性質を調べた。

PHBはバチルス・メガテリウムやラルストニア・ユートロファ(アルカリゲネス・ユートロファス、ラルストニア属)などの様々な細菌または古細菌が、炭素源が豊富な環境において細胞内封入体として産生する。このポリマーは、炭素同化の一次産物であり、細胞内にエネルギー貯蔵物質として蓄えられ、他に利用可能な炭素源が無ければ代謝される。PHBの細菌による生合成反応は、2分子のアセチルCoAが重合してアセトアセチルCoAになる反応で始まり、次にそれが還元され3-ヒドロキシブチリルCoAとなり、これを前駆体としてポリマーが合成される経路がよく知られている。[1]

PHBの海洋微生物による生産

ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrte; PHB)は海洋微生物[2]などにおいて、エネルギー基質として細胞質に顆粒(granule)として蓄積する[3]。ある種の微生物においては細胞質の大部分をPHBで占めるものもある。PHBはこのような微生物から容易に抽出することができる。そのため生分解性プラスチック[4]、再生医療のマトリックス材料[5]及びペットフード[6]など様々な分野への活用が研究されている。

PHBの生理作用

ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrte; PHB)には生物作用も報告されている[7]。 節足動物での生理作用が最初に報告された。エビの一種(Artemia franciscana)では、熱ショックタンパク質(HSP70)の誘導を介して病原体(Vibrio campbellii)に対して耐性を与える[8]。またバナメイエビ(Litopenaeus vannamei)ではmTOR経路を活性化して、腸内細菌を多様化させ、短鎖脂肪酸の産生を促進し成長を促進する[9][10]。さらにウシエビ(Penaeus monodon)では成長を促進するとともに、免疫機能を活性化させ生存率を高める[11][12]

脊椎動物でも生理作用が報告されている。スズキ目の一種であるヨーロッパシーバス(European sea bass)では腸内細菌を多様化させることで成長を促進する[13]。ナイルティラピア(Nile tilapia)では感染症への耐性が報告されている[14]

哺乳類でも生理作用が報告されている。PHBには哺乳類のケトン体濃度を増加させて、乳ガンを抑制する作用や肥満を改善する作用があると報告されている[15]

PHBの食品への応用

ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrte; PHB)はケトン体のポリエステルであるため、腸内細菌の酵素により加水分解され、哺乳類のケトン体濃度を増加させることができる。ケトン体は抗肥満作用や抗ガン作用を持つため、健康食品としての開発が期待されている[16]。また海外ではPHBはエビや魚の飼料としてすでに製品開発の途上である[17]

ケトン供与体は消化管内でケトン体を放出して[[ケトーシス]を誘導するものと定義されるが、一分子から放出されるケトン体の数(N)によって3種類に分けられる。ケトン体ナトリウム(N=1)の他に、ケトンエステル(N=2)やポリヒドロキシ酪酸(N>1000)などがある。ケトン供与体はケトン体の健康効果をヒトをはじめとした哺乳類に導入するためのツールとして今後健康食品やペットフードでの実用化が期待される。

PHBの性質と産業利用

PHBの性質

水に不溶であり、ある程度の加水分解耐性がある。これは、現在利用されている他の生分解性プラスチックの多くが水溶性であり、湿気に弱いのとは異なる特長である。酸素透過性がよく紫外線耐性が高いが、酸とアルカリに弱い。クロロホルムや塩素化炭化水素に可溶[18]。生体適合性があり、毒性もないので、医療への応用に適している。融点175°Cでガラス転移温度は15°Cである。引張強度40 Mpaであり、ポリプロピレンに近い。ポリプロピレンとは異なり水に沈むので、堆積物中で嫌気性分解されやすい。

産業利用

1980年代にインペリアル・ケミカル・インダストリーズ(ICI)がパイロットプラントレベルまで開発を進めたが、製造費用が高い一方で物性がポリプロピレンに及ばないことから興味を失った。1996年にモンサントがICI/ゼネカからポリマー製造に関する全ての特許を買収し、Biopolという商標でPHBをPHVとのコポリマーの販売を行った。しかし、モンサントは2001年にBiopolに関する権利を米国企業のMetabolixに売却[19]し、2004年始めには細菌からPHBを製造していた培養施設も閉鎖した。現在の焦点は細菌のかわりに植物からのPHB製造へ移っている。しかし、最近のマスコミの遺伝子組み換え作物に対する過剰な報道にも関わらず、モンサントのPHB産生用植物のニュースはない。[20]微生物が産生するポリヒドロキシアルカン酸としては、ポリヒドロキシ吉草酸 (Polyhydroxy hvalerate、PHV) やポリヒドロキシカプロン酸 (Polyhydroxyhexanoate、PHH)、ポリヒドロキシカプリル酸 (Polyhydroxyoctanoate、PHO) およびそれらのコポリマーが知られている。

参考文献

  1. ^ Steinbüchel, Alexander (2002). Biopolymers, 10 Volumes with Index. Wiley-VCH. ISBN 3-527-30290-5 
  2. ^ Jiang XR, Chen GQ. Morphology engineering of bacteria for bio-production. Biotechnol Adv. 2016 Jul-Aug;34(4):435-440. doi: 10.1016/j.biotechadv.2015.12.007. Epub 2015 Dec 19. PMID: 26707986.
  3. ^ McAdam B, Brennan Fournet M, McDonald P, Mojicevic M. Production of Polyhydroxybutyrate (PHB) and Factors Impacting Its Chemical and Mechanical Characteristics. Polymers (Basel). 2020 Dec 4;12(12):2908. doi: 10.3390/polym12122908. PMID: 33291620; PMCID: PMC7761907.
  4. ^ Somleva MN, Peoples OP, Snell KD. PHA bioplastics, biochemicals, and energy from crops. Plant Biotechnol J. 2013 Feb;11(2):233-52. doi: 10.1111/pbi.12039. Epub 2013 Jan 7. PMID: 23294864.
  5. ^ Goonoo N, Bhaw-Luximon A, Passanha P, Esteves SR, Jhurry D. Third generation poly(hydroxyacid) composite scaffolds for tissue engineering. J Biomed Mater Res B Appl Biomater. 2017 Aug;105(6):1667-1684. doi: 10.1002/jbm.b.33674. Epub 2016 Apr 15. PMID: 27080439.
  6. ^ 特願2018-567965 特許第6571298 血糖値スパイク抑制剤、食品及び血糖値スパイク抑制剤の製造方法
  7. ^ Zhang J, Shishatskaya EI, Volova TG, da Silva LF, Chen GQ. Polyhydroxyalkanoates (PHA) for therapeutic applications. Mater Sci Eng C Mater Biol Appl. 2018 May 1;86:144-150. doi: 10.1016/j.msec.2017.12.035. Epub 2018 Jan 5. PMID: 29525089.
  8. ^ Baruah K, Huy TT, Norouzitallab P, Niu Y, Gupta SK, De Schryver P, Bossier P. Probing the protective mechanism of poly-ß-hydroxybutyrate against vibriosis by using gnotobiotic Artemia franciscana and Vibrio campbellii as host-pathogen model. Sci Rep. 2015 Mar 30;5:9427. doi: 10.1038/srep09427. PMID: 25822312; PMCID: PMC4378509.
  9. ^ Duan Y, Zhang Y, Dong H, Zheng X, Wang Y, Li H, Liu Q, Zhang J. Effect of dietary poly-β-hydroxybutyrate (PHB) on growth performance, intestinal health status and body composition of Pacific white shrimp Litopenaeus vannamei (Boone, 1931). Fish Shellfish Immunol. 2017 Jan;60:520-528. doi: 10.1016/j.fsi.2016.11.020. Epub 2016 Nov 9. PMID: 27836720.
  10. ^ Duan Y, Zhang Y, Dong H, Wang Y, Zhang J. Effects of dietary poly-β-hydroxybutyrate (PHB) on microbiota composition and the mTOR signaling pathway in the intestines of litopenaeus vannamei. J Microbiol. 2017 Dec;55(12):946-954. doi: 10.1007/s12275-017-7273-y. Epub 2017 Dec 7. PMID: 29214487.
  11. ^ Laranja JLQ, Amar EC, Ludevese-Pascual GL, Niu Y, Geaga MJ, De Schryver P, Bossier P. A probiotic Bacillus strain containing amorphous poly-beta-hydroxybutyrate (PHB) stimulates the innate immune response of Penaeus monodon postlarvae. Fish Shellfish Immunol. 2017 Sep;68:202-210. doi: 10.1016/j.fsi.2017.07.023. Epub 2017 Jul 11. PMID: 28709724.
  12. ^ Laranja JL, Ludevese-Pascual GL, Amar EC, Sorgeloos P, Bossier P, De Schryver P. Poly-β-hydroxybutyrate (PHB) accumulating Bacillus spp. improve the survival, growth and robustness of Penaeus monodon (Fabricius, 1798) postlarvae. Vet Microbiol. 2014 Oct 10;173(3-4):310-7. doi: 10.1016/j.vetmic.2014.08.011. Epub 2014 Aug 20. PMID: 25213234.
  13. ^ De Schryver P, Sinha AK, Kunwar PS, Baruah K, Verstraete W, Boon N, De Boeck G, Bossier P. Poly-beta-hydroxybutyrate (PHB) increases growth performance and intestinal bacterial range-weighted richness in juvenile European sea bass, Dicentrarchus labrax. Appl Microbiol Biotechnol. 2010 May;86(5):1535-41. doi: 10.1007/s00253-009-2414-9. Epub 2010 Jan 22. PMID: 20094715.
  14. ^ Situmorang ML, De Schryver P, Dierckens K, Bossier P. Effect of poly-β-hydroxybutyrate on growth and disease resistance of Nile tilapia Oreochromis niloticus juveniles. Vet Microbiol. 2016;182:44-9. doi: 10.1016/j.vetmic.2015.10.024. Epub 2015 Oct 31. PMID: 26711027.
  15. ^ 麻布大学・東京工科大学 3-ヒドロキシ酪酸を用いた糖質制限を伴わないケトン体治療は抗腫瘍効果を示す 2020年度獣医学会
  16. ^ 特願2018-567965 特許第6571298 血糖値スパイク抑制剤、食品及び血糖値スパイク抑制剤の製造方法
  17. ^ Wang X, Jiang XR, Wu F, Ma Y, Che X, Chen X, Liu P, Zhang W, Ma X, Chen GQ. Microbial Poly-3-Hydroxybutyrate (PHB) as a Feed Additive for Fishes and Piglets. Biotechnol J. 2019 Dec;14(12):e1900132. doi: 10.1002/biot.201900132. Epub 2019 Jun 27. PMID: 31119892.
  18. ^ Jacquel, N.; et al. (2007). “Solubility of polyhydroxyalkanoates by experiment and thermodynamic correlations”. AlChE J. 53 (10): 2704-2714. doi:10.1002/aic.11274. 
  19. ^ METABOLIX PURCHASES BIOPOL ASSETS FROM MONSANTO”. February 17, 2007閲覧。
  20. ^ Plastics You Could Eat”. November 17, 2005閲覧。

外部リンク