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{{Infobox play|name=フォースタス博士の悲劇|image=Faustus-tragedy.gif|image_size=150px|caption=『フォースタス博士』1620年の印刷のための[[扉絵]]。メフィストフィリスを召喚するフォースタスが描かれている。「Histoy」という綴りは[[誤植]]であるとされている。<ref>{{Cite web | url=https://www.dailykos.com/stories/2018/5/30/1767510/-CLASSIC-POETRY-For-Christopher-Marlowe-s-Deathday-The-Survival-of-Doctor-Faustus | title=CLASSIC POETRY for Christopher Marlowe's Deathday: The Survival of "Doctor Faustus"|accessdate=2020-10-08}}</ref>|writer=[[クリストファー・マーロウ]]|characters=ジョン・[[ファウスト (伝説)|フォースタス]]博士<br> |
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{{物語世界内の観点|date=2013年3月5日 (火) 23:08 (UTC)}} |
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口上役<br> |
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{{Portal|文学}} |
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ワグナー<br> |
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『'''フォースタス博士'''』（フォースタスはくし、''The Tragical History of Doctor Faustus''）は、[[クリストファー・マーロウ]]の[[戯曲]]。[[ゲオルク・ファウスト|ファウスト]]博士の[[ファウスト (伝説)|伝説]]を下敷きにした悲劇である。 |
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善天使<br> |
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悪天使<br> |
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ヴァルディーズ<br> |
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コーニーリアス<br> |
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三人の学者<br> |
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[[ルシファー|ルーシファー]]<br> |
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[[メフィストフェレス|メフィストフィリス]]<br> |
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ロビン<br> |
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[[ベルゼブブ|ベルゼバブ]]<br> |
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[[七つの大罪]]<br> |
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[[ハドリアヌス6世 (ローマ教皇)|ローマ教皇エードリアン ]]<br> |
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レーモンド、[[ハンガリー]]国王<br> |
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ブルーノー<br> |
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フランスの[[枢機卿]]<br> |
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[[ランス|リームズ]] の [[大司教]]<br> |
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パデュアの[[枢機卿]]<br> |
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[[修道士]]たち<br> |
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{{仮リンク|酒場の主人|en|Vintner}}<br> |
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マーティーノー<br> |
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フレデリック<br> |
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ベンヴォーリオ<br> |
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[[カール5世 (神聖ローマ皇帝)|チャールズ（カルロス）五世]]<br> |
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[[ゲオルク (ザクセン公)|サクソニー公爵]]<br> |
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兵士たち<br> |
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馬商人<br> |
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御者<br> |
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酒場のおかみ<br> |
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ヴァンホールト公爵とヴァンホールト公爵夫人<br> |
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従者たち<br> |
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老人|mute=[[ダレイオス3世|ペルシア国王ダリウス]]<br> |
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[[アレクサンドロス3世|アレキサンダー大王]]<br> |
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{{仮リンク|アレキサンダー大王の妃|en|Thaïs}}<br> |
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[[ヘレネー|ヘレン]]<br> |
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悪魔たち<br> |
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笛吹き|setting=16世紀ヨーロッパ|date of premiere=1592年頃|country of Origin=イングランド|original language=初期近代英語|genre=[[悲劇]]}} |
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{{Portal box|文学|舞台芸術}} |
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『'''フォースタス博士'''』（フォースタスはかせ、''The Tragical History of Doctor Faustus''）は、[[クリストファー・マーロウ]]の[[戯曲]]。[[ゲオルク・ファウスト|ファウスト]]博士の[[ファウスト (伝説)|伝説]]を下敷きにした悲劇である。[[1592年]]頃に初演され、[[1604年]]に出版された。『フォースタス博士』は1589年から1592年の間のいつ頃かに執筆され、おそらく1592年から、1593年のマーロウの死までの間に上演された。2つの異なるバージョンの戯曲が数年後、[[ジャコビアン時代]]に刊行された<ref name="SmithLogan">{{cite book|title=The Predecessors of Shakespeare: A Survey and Bibliography of Recent Studies in English Renaissance Drama|date=1973|publisher=University of Nebraska Press|location=Lincoln, NE|page=14|editor=Logan, Terence P.|editor2=Denzell S. Smith|quote="No Elizabethan play outside the Shakespeare canon has raised more controversy than ''Doctor Faustus''. There is no agreement concerning the nature of the text and the date of composition... and the centrality of the ''Faust'' legend in the history of Western world precludes any definitive agreement on the interpretation of the play..."}}</ref>。 |
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『フォースタス博士』の初期の上演の強烈な上演効果は、「上演の最中に本物の悪魔達が舞台に現れて俳優と観客が非常に仰天したことがあり、その光景のせいで一部の観客が正気を失ったと言われている」という伝説が周囲でただちに発生したことが示唆している<ref name="c423">Chambers, Vol. 3, pp. 423–4.</ref>。 |
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[[1592年]]頃に初演され、[[1604年]]に出版された。 |
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== あらすじ == |
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== プロット == |
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学問に行き詰まったフォースタスは魔術を学ぶことにし、[[メフィストフェレス]]と、魂を引き渡す代わりに24年間メフィストがフォースタスの命に従うという契約を交わす。フォースタスを救おうとする善天使と、魔術に引き入れようとする悪天使との葛藤があった後、メフィストはフォースタスに見せ物として[[七つの大罪|七大罪]]に対面させる。 |
学問に行き詰まったフォースタスは魔術を学ぶことにし、[[メフィストフェレス]]と、魂を引き渡す代わりに24年間メフィストがフォースタスの命に従うという契約を交わす。フォースタスを救おうとする善天使と、魔術に引き入れようとする悪天使との葛藤があった後、メフィストはフォースタスに見せ物として[[七つの大罪|七大罪]]に対面させる。 |
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期限が切れると、契約を守り神に許しを乞うことなく、地獄に落ちてゆく。学者たちは、学生たちとともにフォースタスを手厚く葬ることにする。 |
期限が切れると、契約を守り神に許しを乞うことなく、地獄に落ちてゆく。学者たちは、学生たちとともにフォースタスを手厚く葬ることにする。 |
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{{Theat-stub}} |
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== 初演 == |
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{{仮リンク|海軍大臣一座|en|Admiral's Men}}は『フォースタス博士』を1594年10月から1597年10月までの3年間に24回上演した。1602年11月22日、{{仮リンク|フィリップ・ヘンズロウ|en|Philip Henslowe}}の日記には、戯曲への加筆のため{{仮リンク|サミュエル・ローリー|en|Samuel Rowley}}とウィリアム・バードに4ポンドを支払ったことが記録されており、この日からすぐ後の再演を示唆している<ref name="c423" />。 |
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{{デフォルトソート:ふおすたすはくし}} |
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『フォースタス博士』の初期の上演の強烈な上演効果は、ある伝説が周囲でただちに発生したことが示唆している。[[ウィリアム・プリン]]は1632に執筆した演劇批判『{{仮リンク|ヒストリオマスティクス|en|Histriomastix|label=}}』の中で、「俳優と観客が非常に仰天したことには」本物の悪魔達が『フォースタス博士』の上演中に舞台に現れたことがあるという話を記録している。一部の人々は「その恐ろしい光景に取り乱し」正気を失ったと伝えられている。[[ジョン・オーブリー]]は、海軍大臣一座の主演俳優{{仮リンク|エドワード・アレン|en|Edward Alleyn}}はこの事件の責任を直接的に果たすため、晩年、[[ダリッジ・カレッジ]]の設立といった慈善活動に専念したという、関連した伝説を記録している<ref name="c423" />。 |
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== テクスト == |
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関連する記録の混乱により、戯曲に対する権利をめぐる衝突が示唆されているものの、『フォースタス博士』はおそらく1592年の12月18日に[[書籍出版業組合記録]]に登録された。後の1601年1月7日付けの書籍出版組合記録の記載は『フォースタス博士』1604年の最初のバージョンの出版者である書店主、トーマス・ブッシュネルにこの劇の権利を帰している。1610年7月13日、ブッシュネルは劇に関する権利をジョン・ライトに移譲した<ref>Chambers, Vol. 3, p. 422.</ref>。 |
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=== 2つのバージョン === |
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『フォースタス博士』には2つのバージョンが存在する: |
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# トーマス・ロウのために{{仮リンク|ヴァレンティン・シムズ|en|Valentine Simmes}}によって印刷された1604年の[[判型|四つ折り版]]; 一般的にAテクストと呼ばれるものである。表題紙は作者名を「Ch. Marl.」としている。このバージョンの第2版（A2）は1609年、ジョン・ライトのために{{仮リンク|ジョージ・エルド|en|George Eld}}が印刷した。 |
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# 加筆修正を加え、ジョン・ライトによって出版された1616年の四つ折り版; 一般的にBテクストと呼ばれる。この二つ目のテキストは1619年、1620年、1624年、1631年、そして後年の1663年に増刷された。加筆と修正はマイナーな劇作家であり作家の{{仮リンク|サミュエル・ローリー|en|Samuel Rowley}}と、ウィリアム・ボーン（あるいはバード）によって行われ、マーロウ自身が加わった可能性もある<ref>Bevington and Rasmussen 72-73.</ref>。 |
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1604年のバージョンは単純により古いという理由で、マーロウの生前に最初に上演された劇により近いと考えられていたこともあった。1940年代、レオ・キルシュバウム<ref>{{cite journal|last1=Kirschbaum|first1=Leo|date=1943|title=Marlowe's Faustus: A Reconsideration|url=|journal=[[The Review of English Studies]]|volume=19|issue=75|pages=225–41|jstor=509485|via=}}</ref>と{{仮リンク|W・W・グレッグ|en|W. W. Greg}}<ref>{{cite book|title=Marlowe's ''Doctor Faustus'' 1604-1616: Parallel Texts|last1=Greg|first1=W. W.|publisher=Clarendon Press|year=1950|isbn=978-0198124023|location=Oxford|pages=|authorlink=W. W. Greg}}</ref> による重要な研究の後、1604年のバージョンは省略版であり、1616年のバージョンはマーロウのより完全なオリジナルに近いものとみなされるようになった。キルシュバウムとグレッグはAテクストを「{{仮リンク|バッド・クォート|en|Bad quarto}}<ref>{{Cite web|title=bad quarto|url=https://www.oxfordreference.com/view/10.1093/oi/authority.20110803095440524|website=Oxford Reference|accessdate=2020-11-05|doi=10.1093/oi/authority.20110803095440524|language=en|publisher=}}</ref>」（主にシェイクスピア作品の無許可版出版物を指す語）のようなものとみなし、Bテクストはマーロウ自身に関連づけられると考えていた。その後、学界の潮流は変化し、大多数の学者は現在、{{仮リンク|チャールズ・ニコル|en|Charles Nicholl}}によれば「短縮と改悪」がされているものであっても、Aテクストはより権威あるバージョンだと考えている<ref name="nicholl2">{{cite news|last1=Nicholl|first1=Charles|newspaper=[[London Review of Books]]|title='Faustus' and the Politics of Magic|accessdate=11 May 2015|date=8 March 1990|url=http://www.lrb.co.uk/v12/n05/charles-nicholl/faustus-and-the-politics-of-magic|pages=18–19}}</ref>。 |
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AテクストとBテクストの間の相違点の一つはフォースタスによって召喚される悪魔の名前である。Aテクストではたいてい「Mephistopheles」と書かれている<ref>{{cite book|last1=Kendell|first1=Monica|title=Doctor Faustus the A text|date=2003|publisher=Longman|location=United Kingdom|isbn=978-0-582-81780-7|page=1|edition=A text}}</ref>のに対し、Bテクストのバージョンでは普通「Mephostophilis」と書かれている<ref>Bevington and Rasmussen xi.</ref> 。それぞれの場合においてこの悪魔の名前は、1588年頃に英語訳が出版された資料である『{{仮リンク|ファウストブーフ|en|Historia von D. Johann Fausten (chapbook)}}』の[[メフィストフェレス]]を出典としている<ref name="PC1952">{{cite book|title=The History and Practice of Magic|last=Christian|first=Paul|publisher=Forge Press|others=[[Ross Nichols|Nichols, Ross]] (trans)|year=1952|isbn=|volume=1|location=London|page=428|oclc=560512683|quote=The name has many forms: Marlowe writes Mephistophilis...|authorlink=Jean Baptiste Pitois}}</ref><ref>{{cite book|title=The English Faust Book, a critical edition|last=Jones|first=John Henry|publisher=[[Cambridge University Press]]|year=1994|isbn=978-0-521-42087-7|location=Cambridge, UK|pages=1}}</ref>。 |
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テクスト同士の関係は定かではなく、多くの現代の版では両方を印刷している。エリザベス朝時代の劇作家の常として、マーロウは刊行に関与しておらず劇の上演に対する管理権限も持たなかったため、場面の削除や短縮、新しい場面の追加は起こりうることだった。そのため、成立した印刷物は元の原稿を修正したバージョンである可能性も存在する<ref>{{cite book|last1=Bellinger|first1=Martha Fletcher|title=A Short History of the Theatre|date=1927|publisher=Holt|location=New York|pages=207–13|url=http://www.theatrehistory.com/british/bellinger001.html|accessdate=14 January 2017}}</ref>。 |
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=== 喜劇的な場面 === |
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過去には、『フォースタス博士』の喜劇的な場面は他の作家による加筆だと推量されてきた。しかし、今日ほとんどの研究者は、作者が誰であるかにかかわらず喜劇的な場面はこの劇に必須の部分であると考えているため、この部分はなお出版時に残されている。<ref>{{cite book|last=Tromly|first=Frederic|title=Playing with desire: Christopher Marlowe and the art of tantalization|year=1998|publisher=University of Toronto Press|isbn=978-0-8020-4355-9|page=135|chapter=Damnation as tantalization}}</ref><ref>{{cite book|last=Cantor|first=Paul A|authorlink=Paul Cantor|editor=Heffernan, William C.|editor2=Kleinig, John|title=Private and public corruption|year=2004|publisher=Rowman & Littlefield|location=Lanham, MD|page=98|chapter=The contract from hell|isbn=978-0-7425-3492-6}}</ref>。 |
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== 材源 == |
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『フォースタス博士』はより以前の物語に基づいており、[[ファウスト (伝説)|ファウスト伝説]]の最初の演劇化だと考えられている。<ref name="PC1952" /> 。一部の学者は、マーロウは一般に''The English Faust Book''と呼ばれる、広く普及した1592年の翻訳から物語を発展させたと考えている<ref>[[Leo Ruickbie]], ''Faustus: The Life and Times of a Renaissance Magician'' (The History Press, 2009), p. 15</ref><ref>''The History of the damnable life, and deserved death of Doctor Iohn Faustus'' by P.F., Gent,</ref>。これより前に''Historia von D. Johann Fausten''という、1587年に刊行されたが失われた[[ドイツ語]]の版があったと考えられており、これじたいが同様にまともな形で残っていないより以前の[[ラテン語]]のパンフレットから影響を受けている可能性がある<ref>{{cite book|url=https://books.google.com/?id=lc00CwAAQBAJ&pg=PA3&dq=lost+german+edition+faust+1587#v=onepage&q=lost%20german%20edition%20faust%201587&f=false|title=Marlowe: Doctor Faustus|last1=Lohelin|first1=James N.|publisher=Palgrave|year=2016|isbn=9781137426352|series=The Shakespeare Handbooks: Shakespeare's Contemporaries|location=London|page=3}}</ref>。 |
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15世紀末の数人の[[占い師]]や魔術師は、「恵まれた」「幸運な」というラテン語に基づく''Faustus''という名前を用いた。典型的な例は、[[占星術師]]・[[手相占い]]師と自称し、その営業によって[[インゴルシュタット]]から追放された[[ヨハン・ファウスト|ゲオルギウス・ファウストゥス・ヘルムステテンシス]]である。後の注釈者はこの人物を伝説上のファウストの原型であるとみなしている<ref>{{cite book|title=The Tragical History of Doctor Faustus: A Critical Edition of the 1604 Version|last=Marlowe|first=Christopher|publisher=Broadview Press|year=2007|isbn=9781551115146|editor-last=Keefer|editor-first=Michael|location=Peterborough, Ontario|pages=67–8|lccn=2008378689|date=}}</ref>。 |
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== 構成 == |
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『フォースタス博士』は13場（1604年版）もしくは12場（1616年版）の戯曲で、[[ブランクヴァース]]と[[散文]]で書かれている。研究者達はこの戯曲の構成を、その歴史と文体に沿って論評・分析してきた。レオナード・H・フレイは、主に開幕と終幕でのフォースタスの独白に焦点を当てた論考を執筆した。フレイは「[[モノローグ|独白]]は、あるいは他のどんな演劇的仕掛けよりも、舞台上の出来事への想像的関心に観客を没頭させる」と述べ、『フォースタス博士』の中の[[独白]]の重要性を強調している<ref name=":0">{{Cite journal|last=Frey|first=Leonard H.|date=December 1963|title=Antithetical Balance in the Opening and Close of Doctor Faustus|journal=Modern Language Quarterly|volume=24|issue=4|pages=350–353|language=en|doi=10.1215/00267929-24-4-350|issn=0026-7929}}</ref>。 |
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また、冒頭と終幕の独白はコンセプト上で対比されている。冒頭の独白で、フォースタスは彼の人生の運命と、どのようなキャリアを望むかについて熟考し始める。彼は自分の魂を[[悪魔]]に与えるという解決を決断して独白を終える。同様に終幕の独白でも、フォースタスは熟考を始め、最終的に自ら定めた運命を受け入れる。フレイはまた、「終幕の独白の全体的なパターンは開幕の独白の残酷なパロディーとなっており、そこでは決定が概観の前ではなく後で下される」と説明している<ref name=":0" />。 |
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== 批評 == |
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『フォースタス博士』は魔界との怪しげな交流を描いたことによって多くの論争を生み出した<ref>{{Cite journal|last=Hamlin|first=William M.|date=2001|title=Casting Doubt in Marlowe's 'Doctor Faustus'|journal=[[Studies in English Literature|SEL: Studies in English Literature 1500–1900]]|volume=41|issue=2|pages=257–75|doi=10.2307/1556188|jstor=1556188}}</ref> 。マーロウ以前はこうした試みは少なかったが、『フォースタス博士』以後、他の作家達も超自然的な世界へと目を向け始めた<ref>Hamlin 258.</ref>。 |
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フォースタスは[[法学]]、[[論理学]]、[[科学]]、[[神学]]のいずれにも満足できず、[[魔術]]に「魅了」 (1.1.112)されて邪悪な術に没頭する。{{仮リンク|チャールズ・ニコル|en|Charles Nicholl}}によれば、このことは『フォースタス博士』を魔術の問題（「解放か破滅か」）が議論の対象となっていたエリザベス朝時代、さらに{{仮リンク|ルネサンス・オカルティズム|en|Renaissance magic}}が科学上の進歩を目的としていた時代のものとしてはっきりと位置付けている。「学問の職人」(1.1.56)であるフォースタスから[[パラケルスス]]によって推進された「実地経験」を連想するニコルは、彼にパラケルススの追随者である「技術者たる魔術師」を見ている<ref name="nicholl">{{cite news|last1=Nicholl|first1=Charles|authorlink=Charles Nicholl|newspaper=[[London Review of Books]]|title='Faustus' and the Politics of Magic|accessdate=11 May 2015|date=8 March 1990|url=http://www.lrb.co.uk/v12/n05/charles-nicholl/faustus-and-the-politics-of-magic|pages=18–19}}</ref>。 |
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スーザン・スナイダーによれば、メフィストフィリスはフォースタスが自らの計画を遂行した場合に耐えねばならない苦痛を予告している<ref>{{Cite journal|last=Snyder|first=Susan|date=July 1966|title=Marlowe's 'Doctor Fausus' as an Inverted Saint's Life|journal=Studies in Philology|volume=63|issue=4|pages=565–577|jstor=4173538}}</ref>。 |
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== 翻案 == |
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『フォースタス博士』の最初のテレビ番組としての翻案は1947年にBBCによって放送された。フォースタスを演じたのは{{仮リンク|デイヴィッド・キング・ウッド|en|David King-Wood}}、メフィストフェレス役は[[ヒュー・グリフィス]]だった。1958年に放映された別のBBCのテレビ版は{{仮リンク|ロナルド・エア|en|Ronald Eyre}}による学校教材用の翻案で、{{仮リンク|ウィリアム・スクワイア|en|William Squire}}がフォースタスを演じた。1961年、BBCは2エピソードから成るテレビ番組として『フォースタス博士』を翻案し、{{仮リンク|アラン・ドビー|en|Alan Dobie}}がフォースタスを演じた。この作品も学校教材用を想定されていた<ref>{{Cite book|url=https://books.google.com/books?id=Zm8SBwAAQBAJ&lpg=PR3&dq=Alan%20Dobie%20as%20Faustus&pg=PR4#v=onepage&q=Alan%20Dobie%20as%20Faustus&f=false|title=Doctor Faustus: A Critical Guide|publisher=Bloomsbury|year=2012|isbn=9781441188571|editor-last=Deats|editor-first=Sara Munson|location=London|pages=69}}</ref>。 |
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『フォースタス博士』は1967年に[[リチャード・バートン]]と{{仮リンク|ネヴィル・コグヒル|en|Nevill Coghill}}によって映画として翻案された（『{{仮リンク|ファウスト悪のたのしみ|en|Doctor Faustus (1967 film)}}』）。この映画は、[[エリザベス・テイラー]]演じる[[トロイ]]の[[ヘレネー|ヘレン]]の相手役としてバートンがフォースタスを演じた[[オックスフォード大学|オックスフォード大学演劇協会]]の公演に基づいていた<ref>{{Cite web|title=ファウスト悪のたのしみ : 作品情報|url=https://eiga.com/movie/48548/|website=映画.com|accessdate=2020-10-08|language=ja}}</ref><ref>{{Citation|title=Doctor Faustus|url=https://www.imdb.com/title/tt0062898/|publisher=Nassau Films, Oxford University Screen Productions, Venfilms|date=1967-10-19|accessdate=2020-10-08|first=Richard|last=Burton|first2=Nevill|last2=Coghill|others=Elizabeth Taylor, Richard Burton, Andreas Teuber, Ram Chopra}}</ref>。 |
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== 日本語訳 == |
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* 松尾相訳『フォースタス博士』（[[岩波文庫]]、1929）<ref>{{Cite web|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000782896-00|title=フォースタス博士|accessdate=2020-12-15|publisher=[[国立国会図書館]]}}</ref> |
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* 細川泉二郎訳『フォースタス博士の悲話』（愛育社、1948）<ref>{{Cite web|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I076047442-00|title=フォースタス博士の悲話|accessdate=2020-12-15|publisher=[[国立国会図書館]]}}</ref> |
|||
* [[平井正穂]]訳『フォースタス博士の悲劇』、『世界文学大系14』収録（[[筑摩書房]]、1961）<ref>{{Cite web|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005616828-00|title=世界文学大系14|accessdate=2020-12-15|publisher=[[国立国会図書館]]}}</ref> |
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** その後、『筑摩世界文学大系18』など複数の作品集に再録<ref>{{Cite web|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I027785388-00|title=筑摩＊世界文学大系 １８|accessdate=2020-12-15|publisher=[[国立国会図書館]]}}</ref> |
|||
* 千葉孝夫訳『マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士』（中央書院、1985）<ref>{{Cite web|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001757779-00|title=マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士|accessdate=2020-12-15|publisher=[[国立国会図書館]]}}</ref> |
|||
* [[小田島雄志]]訳『マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士』（[[白水社]]、1995）<ref>{{Cite web|url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001757779-00|title=マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士|accessdate=2020-12-15|publisher=[[国立国会図書館]]}}</ref> |
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== 脚注 == |
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{{Reflist|2}} |
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== 関連文献 == |
|||
* [[Edmund Kerchever Chambers|Chambers, E. K.]] ''The Elizabethan Stage.'' 4 Volumes, Oxford, Clarendon Press, 1923. |
|||
* Logan, Terence P., and Denzell S. Smith, eds. ''The Predecessors of Shakespeare: A Survey and Bibliography of Recent Studies in English Renaissance Drama.'' Lincoln, NE, University of Nebraska Press, 1973. |
|||
* {{cite book|last1=Marlowe|first1=Christopher|editor1-first=David|editor1-last=Bevington|editor2-first=Eric|editor2-last=Rasmussen|title=Doctor Faustus, A- and B-texts (1604, 1616)|date=1962|publisher=U of Manchester P|location=Manchester|pages=72–73|url=https://books.google.com/books?id=DBpNoth4q0UC&pg=PA72|isbn=9780719016431}} |
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== 外部リンク == |
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{{Sister project links |
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| display = ''Doctor Faustus'' |
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| b = no |
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| commons = Category:Doctor Faustus (play) |
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| m = no |
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| q = Doctor Faustus |
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| voy = no |
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| wikt = no |
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| d = Q50919 |
|||
}} |
|||
* {{librivox book|title=The Tragical History of Doctor Faustus|author=Christopher MARLOWE}} |
|||
* [http://onlinebooks.library.upenn.edu/webbin/gutbook/lookup?num=811 1616 quarto online] |
|||
{{Gutenberg|name=The Tragical History of Doctor Faustus From the Quarto of 1604 by Christopher Marlowe|no=779}} |
|||
* {{Gutenberg|name=The Tragical History of Doctor Faustus From the Quarto of 1616 by Christopher Marlowe|no=811}} |
|||
* Louis Ule, ''[https://books.google.it/books?id=KiCfi958XpgC A Concordance to the Works of Christopher Marlowe]'', Georg Olms Verlag, Hildesheim-New York, 1979, pp. 101–184. |
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2020年12月15日 (火) 14:23時点における版
| フォースタス博士の悲劇 | |
|---|---|
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| 脚本 | クリストファー・マーロウ |
| 登場人物 | ジョン・フォースタス博士 口上役 |
| 無言 | ペルシア国王ダリウス アレキサンダー大王 |
| 初演日 | 1592年頃 |
| オリジナル言語 | 初期近代英語 |
| ジャンル | 悲劇 |
| 舞台設定 | 16世紀ヨーロッパ |
『フォースタス博士』（フォースタスはかせ、The Tragical History of Doctor Faustus）は、クリストファー・マーロウの戯曲。ファウスト博士の伝説を下敷きにした悲劇である。1592年頃に初演され、1604年に出版された。『フォースタス博士』は1589年から1592年の間のいつ頃かに執筆され、おそらく1592年から、1593年のマーロウの死までの間に上演された。2つの異なるバージョンの戯曲が数年後、ジャコビアン時代に刊行された[2]。
『フォースタス博士』の初期の上演の強烈な上演効果は、「上演の最中に本物の悪魔達が舞台に現れて俳優と観客が非常に仰天したことがあり、その光景のせいで一部の観客が正気を失ったと言われている」という伝説が周囲でただちに発生したことが示唆している[3]。
あらすじ
学問に行き詰まったフォースタスは魔術を学ぶことにし、メフィストフェレスと、魂を引き渡す代わりに24年間メフィストがフォースタスの命に従うという契約を交わす。フォースタスを救おうとする善天使と、魔術に引き入れようとする悪天使との葛藤があった後、メフィストはフォースタスに見せ物として七大罪に対面させる。
まずローマ教皇庁に潜り込み、枢機卿に化けて一騒動を起こし、次に姿を消して教皇の食べ物や飲み物を奪い取り、はては教皇を殴打する。次に神聖ローマ皇帝にアレクサンドロス3世（大王）とその妃の姿を見せて、寵を得る。それを妬むものから不意打ちをかけられるが難なきを得、かえって彼らの頭に角を生えさせて復讐する。最後にトロイ戦争のきっかけとなったヘレンを愛人にする。
期限が切れると、契約を守り神に許しを乞うことなく、地獄に落ちてゆく。学者たちは、学生たちとともにフォースタスを手厚く葬ることにする。
初演
海軍大臣一座は『フォースタス博士』を1594年10月から1597年10月までの3年間に24回上演した。1602年11月22日、フィリップ・ヘンズロウの日記には、戯曲への加筆のためサミュエル・ローリーとウィリアム・バードに4ポンドを支払ったことが記録されており、この日からすぐ後の再演を示唆している[3]。
『フォースタス博士』の初期の上演の強烈な上演効果は、ある伝説が周囲でただちに発生したことが示唆している。ウィリアム・プリンは1632に執筆した演劇批判『ヒストリオマスティクス』の中で、「俳優と観客が非常に仰天したことには」本物の悪魔達が『フォースタス博士』の上演中に舞台に現れたことがあるという話を記録している。一部の人々は「その恐ろしい光景に取り乱し」正気を失ったと伝えられている。ジョン・オーブリーは、海軍大臣一座の主演俳優エドワード・アレンはこの事件の責任を直接的に果たすため、晩年、ダリッジ・カレッジの設立といった慈善活動に専念したという、関連した伝説を記録している[3]。
テクスト
関連する記録の混乱により、戯曲に対する権利をめぐる衝突が示唆されているものの、『フォースタス博士』はおそらく1592年の12月18日に書籍出版業組合記録に登録された。後の1601年1月7日付けの書籍出版組合記録の記載は『フォースタス博士』1604年の最初のバージョンの出版者である書店主、トーマス・ブッシュネルにこの劇の権利を帰している。1610年7月13日、ブッシュネルは劇に関する権利をジョン・ライトに移譲した[4]。
2つのバージョン
『フォースタス博士』には2つのバージョンが存在する:
- トーマス・ロウのためにヴァレンティン・シムズによって印刷された1604年の四つ折り版; 一般的にAテクストと呼ばれるものである。表題紙は作者名を「Ch. Marl.」としている。このバージョンの第2版（A2）は1609年、ジョン・ライトのためにジョージ・エルドが印刷した。
- 加筆修正を加え、ジョン・ライトによって出版された1616年の四つ折り版; 一般的にBテクストと呼ばれる。この二つ目のテキストは1619年、1620年、1624年、1631年、そして後年の1663年に増刷された。加筆と修正はマイナーな劇作家であり作家のサミュエル・ローリーと、ウィリアム・ボーン（あるいはバード）によって行われ、マーロウ自身が加わった可能性もある[5]。
1604年のバージョンは単純により古いという理由で、マーロウの生前に最初に上演された劇により近いと考えられていたこともあった。1940年代、レオ・キルシュバウム[6]とW・W・グレッグ[7] による重要な研究の後、1604年のバージョンは省略版であり、1616年のバージョンはマーロウのより完全なオリジナルに近いものとみなされるようになった。キルシュバウムとグレッグはAテクストを「バッド・クォート[8]」（主にシェイクスピア作品の無許可版出版物を指す語）のようなものとみなし、Bテクストはマーロウ自身に関連づけられると考えていた。その後、学界の潮流は変化し、大多数の学者は現在、チャールズ・ニコルによれば「短縮と改悪」がされているものであっても、Aテクストはより権威あるバージョンだと考えている[9]。
AテクストとBテクストの間の相違点の一つはフォースタスによって召喚される悪魔の名前である。Aテクストではたいてい「Mephistopheles」と書かれている[10]のに対し、Bテクストのバージョンでは普通「Mephostophilis」と書かれている[11] 。それぞれの場合においてこの悪魔の名前は、1588年頃に英語訳が出版された資料である『ファウストブーフ』のメフィストフェレスを出典としている[12][13]。
テクスト同士の関係は定かではなく、多くの現代の版では両方を印刷している。エリザベス朝時代の劇作家の常として、マーロウは刊行に関与しておらず劇の上演に対する管理権限も持たなかったため、場面の削除や短縮、新しい場面の追加は起こりうることだった。そのため、成立した印刷物は元の原稿を修正したバージョンである可能性も存在する[14]。
喜劇的な場面
過去には、『フォースタス博士』の喜劇的な場面は他の作家による加筆だと推量されてきた。しかし、今日ほとんどの研究者は、作者が誰であるかにかかわらず喜劇的な場面はこの劇に必須の部分であると考えているため、この部分はなお出版時に残されている。[15][16]。
材源
『フォースタス博士』はより以前の物語に基づいており、ファウスト伝説の最初の演劇化だと考えられている。[12] 。一部の学者は、マーロウは一般にThe English Faust Bookと呼ばれる、広く普及した1592年の翻訳から物語を発展させたと考えている[17][18]。これより前にHistoria von D. Johann Faustenという、1587年に刊行されたが失われたドイツ語の版があったと考えられており、これじたいが同様にまともな形で残っていないより以前のラテン語のパンフレットから影響を受けている可能性がある[19]。
15世紀末の数人の占い師や魔術師は、「恵まれた」「幸運な」というラテン語に基づくFaustusという名前を用いた。典型的な例は、占星術師・手相占い師と自称し、その営業によってインゴルシュタットから追放されたゲオルギウス・ファウストゥス・ヘルムステテンシスである。後の注釈者はこの人物を伝説上のファウストの原型であるとみなしている[20]。
構成
『フォースタス博士』は13場（1604年版）もしくは12場（1616年版）の戯曲で、ブランクヴァースと散文で書かれている。研究者達はこの戯曲の構成を、その歴史と文体に沿って論評・分析してきた。レオナード・H・フレイは、主に開幕と終幕でのフォースタスの独白に焦点を当てた論考を執筆した。フレイは「独白は、あるいは他のどんな演劇的仕掛けよりも、舞台上の出来事への想像的関心に観客を没頭させる」と述べ、『フォースタス博士』の中の独白の重要性を強調している[21]。
また、冒頭と終幕の独白はコンセプト上で対比されている。冒頭の独白で、フォースタスは彼の人生の運命と、どのようなキャリアを望むかについて熟考し始める。彼は自分の魂を悪魔に与えるという解決を決断して独白を終える。同様に終幕の独白でも、フォースタスは熟考を始め、最終的に自ら定めた運命を受け入れる。フレイはまた、「終幕の独白の全体的なパターンは開幕の独白の残酷なパロディーとなっており、そこでは決定が概観の前ではなく後で下される」と説明している[21]。
批評
『フォースタス博士』は魔界との怪しげな交流を描いたことによって多くの論争を生み出した[22] 。マーロウ以前はこうした試みは少なかったが、『フォースタス博士』以後、他の作家達も超自然的な世界へと目を向け始めた[23]。
フォースタスは法学、論理学、科学、神学のいずれにも満足できず、魔術に「魅了」 (1.1.112)されて邪悪な術に没頭する。チャールズ・ニコルによれば、このことは『フォースタス博士』を魔術の問題（「解放か破滅か」）が議論の対象となっていたエリザベス朝時代、さらにルネサンス・オカルティズムが科学上の進歩を目的としていた時代のものとしてはっきりと位置付けている。「学問の職人」(1.1.56)であるフォースタスからパラケルススによって推進された「実地経験」を連想するニコルは、彼にパラケルススの追随者である「技術者たる魔術師」を見ている[24]。
スーザン・スナイダーによれば、メフィストフィリスはフォースタスが自らの計画を遂行した場合に耐えねばならない苦痛を予告している[25]。
翻案
『フォースタス博士』の最初のテレビ番組としての翻案は1947年にBBCによって放送された。フォースタスを演じたのはデイヴィッド・キング・ウッド、メフィストフェレス役はヒュー・グリフィスだった。1958年に放映された別のBBCのテレビ版はロナルド・エアによる学校教材用の翻案で、ウィリアム・スクワイアがフォースタスを演じた。1961年、BBCは2エピソードから成るテレビ番組として『フォースタス博士』を翻案し、アラン・ドビーがフォースタスを演じた。この作品も学校教材用を想定されていた[26]。
『フォースタス博士』は1967年にリチャード・バートンとネヴィル・コグヒルによって映画として翻案された（『ファウスト悪のたのしみ』）。この映画は、エリザベス・テイラー演じるトロイのヘレンの相手役としてバートンがフォースタスを演じたオックスフォード大学演劇協会の公演に基づいていた[27][28]。
日本語訳
- 松尾相訳『フォースタス博士』（岩波文庫、1929）[29]
- 細川泉二郎訳『フォースタス博士の悲話』（愛育社、1948）[30]
- 平井正穂訳『フォースタス博士の悲劇』、『世界文学大系14』収録（筑摩書房、1961）[31]
- その後、『筑摩世界文学大系18』など複数の作品集に再録[32]
- 千葉孝夫訳『マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士』（中央書院、1985）[33]
- 小田島雄志訳『マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士』（白水社、1995）[34]
脚注
- ^ “CLASSIC POETRY for Christopher Marlowe's Deathday: The Survival of "Doctor Faustus"”. 2020年10月8日閲覧。
- ^ Logan, Terence P.; Denzell S. Smith, eds (1973). The Predecessors of Shakespeare: A Survey and Bibliography of Recent Studies in English Renaissance Drama. Lincoln, NE: University of Nebraska Press. p. 14. ""No Elizabethan play outside the Shakespeare canon has raised more controversy than Doctor Faustus. There is no agreement concerning the nature of the text and the date of composition... and the centrality of the Faust legend in the history of Western world precludes any definitive agreement on the interpretation of the play...""
- ^ a b c Chambers, Vol. 3, pp. 423–4.
- ^ Chambers, Vol. 3, p. 422.
- ^ Bevington and Rasmussen 72-73.
- ^ Kirschbaum, Leo (1943). “Marlowe's Faustus: A Reconsideration”. The Review of English Studies 19 (75): 225–41. JSTOR 509485.
- ^ Greg, W. W. (1950). Marlowe's Doctor Faustus 1604-1616: Parallel Texts. Oxford: Clarendon Press. ISBN 978-0198124023
- ^ “bad quarto” (英語). Oxford Reference. doi:10.1093/oi/authority.20110803095440524. 2020年11月5日閲覧。
- ^ Nicholl, Charles (8 March 1990). “'Faustus' and the Politics of Magic”. London Review of Books: pp. 18–19 11 May 2015閲覧。
- ^ Kendell, Monica (2003). Doctor Faustus the A text (A text ed.). United Kingdom: Longman. p. 1. ISBN 978-0-582-81780-7
- ^ Bevington and Rasmussen xi.
- ^ a b Christian, Paul (1952). The History and Practice of Magic. 1. Nichols, Ross (trans). London: Forge Press. p. 428. OCLC 560512683. "The name has many forms: Marlowe writes Mephistophilis..."
- ^ Jones, John Henry (1994). The English Faust Book, a critical edition. Cambridge, UK: Cambridge University Press. pp. 1. ISBN 978-0-521-42087-7
- ^ Bellinger, Martha Fletcher (1927). A Short History of the Theatre. New York: Holt. pp. 207–13 14 January 2017閲覧。
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- ^ The History of the damnable life, and deserved death of Doctor Iohn Faustus by P.F., Gent,
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- ^ Marlowe, Christopher (2007). Keefer, Michael. ed. The Tragical History of Doctor Faustus: A Critical Edition of the 1604 Version. Peterborough, Ontario: Broadview Press. pp. 67–8. ISBN 9781551115146. LCCN 2008-378689
- ^ a b Frey, Leonard H. (December 1963). “Antithetical Balance in the Opening and Close of Doctor Faustus” (英語). Modern Language Quarterly 24 (4): 350–353. doi:10.1215/00267929-24-4-350. ISSN 0026-7929.
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- ^ Hamlin 258.
- ^ Nicholl, Charles (8 March 1990). “'Faustus' and the Politics of Magic”. London Review of Books: pp. 18–19 11 May 2015閲覧。
- ^ Snyder, Susan (July 1966). “Marlowe's 'Doctor Fausus' as an Inverted Saint's Life”. Studies in Philology 63 (4): 565–577. JSTOR 4173538.
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- ^ “ファウスト悪のたのしみ : 作品情報”. 映画.com. 2020年10月8日閲覧。
- ^ Burton, Richard; Coghill, Nevill (1967-10-19), Doctor Faustus, Elizabeth Taylor, Richard Burton, Andreas Teuber, Ram Chopra, Nassau Films, Oxford University Screen Productions, Venfilms 2020年10月8日閲覧。
- ^ “フォースタス博士”. 国立国会図書館. 2020年12月15日閲覧。
- ^ “フォースタス博士の悲話”. 国立国会図書館. 2020年12月15日閲覧。
- ^ “世界文学大系14”. 国立国会図書館. 2020年12月15日閲覧。
- ^ “筑摩＊世界文学大系 １８”. 国立国会図書館. 2020年12月15日閲覧。
- ^ “マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士”. 国立国会図書館. 2020年12月15日閲覧。
- ^ “マルタ島のユダヤ人・フォースタス博士”. 国立国会図書館. 2020年12月15日閲覧。
関連文献
- Chambers, E. K. The Elizabethan Stage. 4 Volumes, Oxford, Clarendon Press, 1923.
- Logan, Terence P., and Denzell S. Smith, eds. The Predecessors of Shakespeare: A Survey and Bibliography of Recent Studies in English Renaissance Drama. Lincoln, NE, University of Nebraska Press, 1973.
- Marlowe, Christopher (1962). Bevington, David; Rasmussen, Eric. eds. Doctor Faustus, A- and B-texts (1604, 1616). Manchester: U of Manchester P. pp. 72–73. ISBN 9780719016431
外部リンク
The Tragical History of Doctor Faustus パブリックドメインオーディオブック - LibriVox- 1616 quarto online
- The Tragical History of Doctor Faustus From the Quarto of 1604 by Christopher Marlowe - プロジェクト・グーテンベルク
- The Tragical History of Doctor Faustus From the Quarto of 1616 by Christopher Marlowe - プロジェクト・グーテンベルク
- Louis Ule, A Concordance to the Works of Christopher Marlowe, Georg Olms Verlag, Hildesheim-New York, 1979, pp. 101–184.
- フォースタス博士 - インターネット・ブロードウェイ・データベース