「四声八病説」の版間の差分
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'''四声八病説'''(しせいはっぺいせつ)は、[[中国]][[南北朝時代 (中国)|南北朝時代]]の文学者、[[沈約]]が[[斉 (南朝)|南斉]]の[[武帝 (南朝斉)|武帝]]の[[永明]]年間([[483年]] - [[493年]])に唱えたとされる詩歌の韻律論。沈約は『四声譜』を著して中国語の声調を4種類に分類し([[四声]])、さらに『[[宋書]]』「[[謝霊運]]伝」に付した論において、文学作品の韻律美を自覚的に追求することを提唱した。沈約の主張に[[謝朓]]・[[王融]]らが共鳴し、彼らが確立した詩風は「[[永明体]]」と呼ばれ、当時大いに流行した。「八病説」は、四声論にもとづき、当時の主要な詩型であった五言詩において、具体的に回避すべき禁忌として提示された8種の規則を指し、「平頭・上尾・蜂腰・鶴膝・大韻・小韻・傍紐・正紐」の名称がある。 |
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== 八病説の内容 == |
== 八病説の内容 == |
2020年8月15日 (土) 04:25時点における版
四声八病説(しせいはっぺいせつ)は、中国南北朝時代の文学者、沈約が南斉の武帝の永明年間(483年 - 493年)に唱えたとされる詩歌の韻律論。沈約は『四声譜』を著して中国語の声調を4種類に分類し(四声)、さらに『宋書』「謝霊運伝」に付した論において、文学作品の韻律美を自覚的に追求することを提唱した。沈約の主張に謝朓・王融らが共鳴し、彼らが確立した詩風は「永明体」と呼ばれ、当時大いに流行した。「八病説」は、四声論にもとづき、当時の主要な詩型であった五言詩において、具体的に回避すべき禁忌として提示された8種の規則を指し、「平頭・上尾・蜂腰・鶴膝・大韻・小韻・傍紐・正紐」の名称がある。
八病説の内容
八病説に関する最もまとまった記述は、日本の平安時代の僧侶、空海が編集した詩論書『文鏡秘府論』西巻「文二十四種病」にある。ただし沈約本人による記述ではなく、後世の隋の劉善経『四声指帰』や唐の上官儀『筆札華梁』・無名氏『文筆式』・元兢『詩髄脳』などの諸書から引用されたものであり、それぞれに異同がある。ここでは唐代おける標準的な八病説と見られる『筆札華梁』および『文筆式』の内容を紹介する。
平頭
上下2句1聯の第1・2字同士が同じ声調であること。
- 芳時淑氣清 芳時 淑気 清く
- 提壺臺上傾 壷を提げて 台上に傾く
- 上下2句第1字の「芳」「提」(ともに平声)、第2字の「時」「壷」(ともに平声)が同じ声調。
上尾
上下2句1聯の末字(第5字)同士が同じ声調であること。
- 西北有高樓 西北に高楼有り
- 上與浮雲齊 上は浮雲と斉(ひと)し
- 上下2句の第5字「楼」「斉」が同じ声調(ともに平声)。
蜂腰
各句において、第2・5字が同じ声調であること
- 聞君愛我甘 君の我の甘きを愛するを聞き
- 竊獨自雕飾 竊(ひそか)に独り 自ら彫飾す
- 上句第2・5字の「君」「甘」(いずれも平声)と下句の「独」「飾」(いずれも入声)が同じ声調。
鶴膝
4句2聯の第1・3句において、末字(第5字)同士が同じ声調であること。
- 撥棹金陵渚 棹を撥す 金陵の渚
- 遵流背城闕 流れに遵ふ 背城の闕
- 浪蹙飛船影 浪は蹙(ちぢ)む 飛船の影
- 山挂垂輪月 山は挂く 垂輪の月
- 第1・3句の第5字「渚」「影」が同じ声調(いずれも上声)。
大韻
上下2句1聯において、韻字と同韻の字を用いること。
- 紫翮拂花樹 紫翮 花樹を払ひ
- 黄鸝閑綠枝 黄鸝 緑枝に閑たり
- 下句第2字の「鸝」が韻字である「枝」と同韻(いずれも平声支韻に属する)。
小韻
上下2句1聯において、韻字以外の9字の中で同韻の字を複用すること。
- 搴簾出戸望 簾を搴りて戸を出でて望めば
- 霜花朝瀁日 霜花 朝に日に瀁(ただよ)ふ
- 上句第5字「望」と下句第4字「瀁」が同韻字(いずれも去声漾韻に属する)。
傍紐
各句において、双声以外で同声母の字を複用すること。
- 魚游見風月 魚は游ぐ 風月を見る
- 獸走畏傷蹄 獣は走りて 傷蹄を畏る
- 上句第1・5字の「魚」「月」、下句第1・4字の「獣」「傷」がそれぞれ同声母。
正紐
各句または上下2句において、声調の異なる同音字(声母・韻母を同じくする)を複用すること。
- 我本漢家子 我は本 漢家の子
- 來嫁單于庭 来りて単于の庭に嫁ぐ
- 上句第4字「家」(平声)と下句第2字「嫁」(去声)が同じ紐。