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「元素の中国語名称」の版間の差分

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『博物新編』の後、1870年代までには、『金石識別』<ref name="jinshishibie">{{lang|zh|代那}}(撰)、{{lang|zh|瑪高温}}(口訳)、{{lang|zh|華&#34309;芳}}(筆述)『[http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ni11/ni11_00299/index.html 金石識別]』</ref>、『格物入門』<ref name="gewurumen">{{lang|zh|丁&#38873;良}}『[http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ni01/ni01_00254/index.html 格物入門]』</ref>、『化學初階』<ref name="huaxuechujie">{{lang|zh|嘉約翰}}(口訳)、{{lang|zh|何瞭然}}(筆述)『[http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ni04/ni04_00121/index.html 化學初階]』</ref>、『化学鑑原』<ref name="huaxuejianyuan">{{lang|zh|韋而司}}(撰){{lang|zh|傅蘭雅}}(口訳)、{{lang|zh|徐寿}}(筆述)『化学鑑原』([http://gallery.lb.nagasaki-u.ac.jp/dawnb/economy.html 長崎大学附属図書館近代化黎明期翻訳本全文画像データベース])</ref>などの書物が化学元素の名称の中国語訳を試みた<ref name="liuguangding1" /><ref name="zhanghao">{{Lang|zh-Hant|張&#28564;〈[http://proj3.sinica.edu.tw/~chem/servxx6/files/paper_1791_1231831930.pdf 在傳統與創新之間十九世紀的中文化學元素名詞]〉《化學》(2001年)}}</ref>。その訳語は、後出の対照表に示すように、著者によりまちまちである。
『博物新編』の後、1870年代までには、『金石識別』<ref name="jinshishibie">{{lang|zh|代那}}(撰)、{{lang|zh|瑪高温}}(口訳)、{{lang|zh|華&#34309;芳}}(筆述)『[http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ni11/ni11_00299/index.html 金石識別]』</ref>、『格物入門』<ref name="gewurumen">{{lang|zh|丁&#38873;良}}『[http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ni01/ni01_00254/index.html 格物入門]』</ref>、『化學初階』<ref name="huaxuechujie">{{lang|zh|嘉約翰}}(口訳)、{{lang|zh|何瞭然}}(筆述)『[http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ni04/ni04_00121/index.html 化學初階]』</ref>、『化学鑑原』<ref name="huaxuejianyuan">{{lang|zh|韋而司}}(撰){{lang|zh|傅蘭雅}}(口訳)、{{lang|zh|徐寿}}(筆述)『化学鑑原』([http://gallery.lb.nagasaki-u.ac.jp/dawnb/economy.html 長崎大学附属図書館近代化黎明期翻訳本全文画像データベース])</ref>などの書物が化学元素の名称の中国語訳を試みた<ref name="liuguangding1" /><ref name="zhanghao">{{Lang|zh-Hant|張&#28564;〈[http://proj3.sinica.edu.tw/~chem/servxx6/files/paper_1791_1231831930.pdf 在傳統與創新之間十九世紀的中文化學元素名詞]〉《化學》(2001年)}}</ref>。その訳語は、後出の対照表に示すように、著者によりまちまちである。


アメリカ人医師、宣教師のダニエル·ジェローム·マガウアン(Daniel Jerome Macgowan。漢名、{{lang|zh|瑪高温}})と{{lang|zh|[[華コウ芳|華&#34309;芳]]}}は、James Dwight Danaの『Manual of Mineralogy』という鉱物学書を翻訳し、『金石識別』と題した<ref name="jinshishibie" />。全12巻のうち巻十一の最後に「重率全表」という[[原子量]]の一覧表があり、意訳した元素名と音訳した元素名が登場する。音訳は、複数文字の漢字で、英単語の全音節を模しているように見える。例えば、「素地恩」([[ナトリウム]])は英語「sodium」の訳、「夕里西恩」([[珪素]])は、英語「silicium」(「silicon」の同義語)の訳と思われる。
アメリカ人医師、宣教師のダニエル·ジェローム·マガウアン(Daniel Jerome Macgowan。漢名、{{lang|zh|瑪高温}})と{{lang|zh|[[華芳]]}}は、James Dwight Danaの『Manual of Mineralogy』という鉱物学書を翻訳し、『金石識別』と題した<ref name="jinshishibie" />。全12巻のうち巻十一の最後に「重率全表」という[[原子量]]の一覧表があり、意訳した元素名と音訳した元素名が登場する。音訳は、複数文字の漢字で、英単語の全音節を模しているように見える。例えば、「素地恩」([[ナトリウム]])は英語「sodium」の訳、「夕里西恩」([[珪素]])は、英語「silicium」(「silicon」の同義語)の訳と思われる。


アメリカ人宣教師のWilliam Alexander Parsons Martin(漢名、{{lang|zh|丁&#38873;良}}、[[:en:William Alexander Parsons Martin|英語版記事]])は、『格物入門』を著した<ref name="gewurumen" />。全7巻のうち巻六が化学を扱っており、その中には「原行總目」という元素の一覧表がある。この一覧表所載の元素の一部について、中国語訳が付けられており、その訳語は、後出の表のとおりであり、大体意訳である。本書が砒素の訳に使っている「信石」とは、[[江西省]]の[[信州区|信州]]で産する石を意味し<ref>『[[大漢和辞典]]』縮写版1巻806ページ</ref>、これは[[三酸化二ヒ素]]を含有する。マンガンの訳に使っている「蒙石」は、音訳かもしれない。
アメリカ人宣教師のWilliam Alexander Parsons Martin(漢名、{{lang|zh|丁&#38873;良}}、[[:en:William Alexander Parsons Martin|英語版記事]])は、『格物入門』を著した<ref name="gewurumen" />。全7巻のうち巻六が化学を扱っており、その中には「原行總目」という元素の一覧表がある。この一覧表所載の元素の一部について、中国語訳が付けられており、その訳語は、後出の表のとおりであり、大体意訳である。本書が砒素の訳に使っている「信石」とは、[[江西省]]の[[信州区|信州]]で産する石を意味し<ref>『[[大漢和辞典]]』縮写版1巻806ページ</ref>、これは[[三酸化二ヒ素]]を含有する。マンガンの訳に使っている「蒙石」は、音訳かもしれない。

2020年8月13日 (木) 22:10時点における版

元素の中国語名称(げんそのちゅうごくごめいしょう)は、中国語における化学元素の表記と発音のことであり、現在では、1元素につき漢字1文字、1音節である。古来の漢字のうちに化学元素を表すのに適切な文字がない場合は、形声の方法で新しい漢字が作られる。元素を表す漢字の部首は、金属元素、気体元素などの区別を反映している。中華人民共和国(大陸)と中華民国(台湾)では若干異なる字を用いる。

部首

現在では、化学元素を表す漢字は、必ず次の4種類の部首のいずれかに属する形声字である。過去にはこの法則に合わない漢字も使われていたが、そのような字はこの法則にあてはまる字に置き換えられた。

なりたち

2017年1月現在、化学元素は118種類が国際純正・応用化学連合(IUPAC)で命名されており、そのうち全種類(118字)について漢字が決まっている。118字のうち、古来物質の種類を表す字は、原子番号順に、「硼」(硼素。その化合物の硼砂漢方薬として知られていたが、単体の硼素は中国で知られていなかった)、「硫」(硫黄)、「鐵」()、「」、「」、「」、「」、「汞」(水銀)、「」のわずか9文字である。それ以外の109文字は、19世紀以降に元素を表すために転用または考案された字である。

109文字のうち、原子番号順に「」、「」、「」、「」、「」、「」、「」、「」の8文字は、意訳により元素を表すために転用または考案された。

  • 」:水素は当初「輕氣」と訳した。「輕」から音符「」を取り出し気体元素を示す「气」と組み合わせた。
  • 」:炭素は当初「炭」と訳した。これに固体の非金属元素を示す「石」を組み合わせた。
  • 」:窒素は当初「淡氣」と訳した。「淡」から音符「炎」を取り出し「气」と組み合わせた。
  • 」:酸素は当初「養氣」と訳した。「養」から音符「羊」を取り出し「气」と組み合わせた。
  • 」:リンは本来鬼火を表す「燐」の転用で表した。次に、これの「火」を「石」に取り替えて、「」の転用で表した。「」は本来「磷磷」で水の流れや玉石の輝きを形容する漢字であった。
  • 」:塩素は当初「緑氣」と訳した。「緑」から音符「」を取り出し「气」と組み合わせた。
  • 」:臭素は本来潤いを表す「」の転用で表した。
  • 」:白金は当初「白金」といった。これを1文字にまとめるために、本来金属箔を表す「」を転用した。

109文字のうち、残りの101文字は、音訳により元素を表すために転用または考案された。よって、漢字の旁(形声字の音符)の字義と元素の性質との間に全く関連がない。その代わり、旁の発音(形声字の発音)が、西洋の言語でその元素を意味する単語のうちの1音節を模している。第1音節を模する例が多い。

  • 第1音節を模する例
    • ヘリウムを表す「」は、音符「亥」に従い「hài/ㄏㄞˋ」と読む。
    • セレンを表す「」は、音符「西」に従い「xī/ㄒㄧˉ」と読む。
    • リチウムを表す「」は、音符「里」に従い「lǐ/ㄌㄧˇ」と読む。
  • 第2音節を模する例
    • ラドンを表す「」は、音符「冬」に従い「dōng/ㄉㄨㄥˉ」と読む。
    • 砒素(英語では「arsenic」)を表す「」は、音符「申」に従い「shēn/ㄕㄣˉ」と読む。
    • アルミニウムを表す「」は音符「呂」に従い「lǚ/ㄌㄩˇ」と読む。
  • 第3音節を模する例
    • 沃素(英語では「iodine」)を表す「」は、音符「典」に従い「diǎn/ㄉㄧㄢˇ」と読む。

ところで、109文字のうちには、本来元素とは無関係の意味であった既存の漢字であって元素の名称を表すのに転用されたものと、元素の名称を表すために新たに考案されたものとがある。前者の例は前出の「」「」「」であり、この場合、中国の古典にそれらの字が見えるからといって、中国でその時代に白金、リン、臭素が知られていたことの証拠とはならないことは勿論である。

また、紛らわしいことに、過去に別の元素を意味していた漢字を新発見の元素の命名に転用した例がある。

過去には、2種類の元素を同じ字で表したことがあった。

発音

元素を表す漢字は全て形声字であるので、大体、の発音に従って発音する。ただし、古来物質の種類を表す9文字を除いても例外がある。例えば、「」(酸素)の発音は、「羊」(yáng)と同じではなく「養」と同じ「yǎng」であり、「」(ナトリウム)の発音は「内」(nèi)と同じではなく「納」と同じ「」である。

大陸の普通話の発音では、声調も含めて全く同音に発音される元素の組がある。「」(セレン)と「」がそれであり、発音は「」である。台湾の国語では同音の元素の組が若干多い。具体的には次のとおり[2]

  • 」(ケイ素)、「」、「錫」が「」で同音。
  • 」(マグネシウム)と「」(アメリシウム)が「měi」で同音。
  • 「硫」(硫黄)と「」(ルテチウム)が「liú」で同音。
  • 」(セリウム)と「」(シーボーギウム)が「shì」で同音
  • 」(アスタチン)と「」(アインスタイニウム)が「ài」で同音。

広東省香港などで使う広東語では、次の4組が同音である。

大陸と台湾の差異

新発見の元素の漢字による命名は、中華人民共和国(大陸)と中華民国(台湾)のそれぞれで行われる。大陸では、政府の全国科学技術名詞審定委員会が命名する。台湾では、国立編訳館が命名する。

命名がそれぞれで行われる結果として、大陸では簡体字を用い台湾ではこれを用いないという点を除外しても、大陸の用字と台湾の用字との間には若干の差異が生じている。大陸の用字(繁体字)と台湾の用字とを比較対照し、両者の用字が異なる元素を探すと、次の表のように14種類が見つかる。表には、元素の発見年を付記している[3]

大陸と台湾で名称が異なる元素[4]
原子番号 元素記号 日本語名称 大陸繁体 台湾正体 元素の発見年 備考
14 Si 珪素 1824年
43 Tc テクネチウム 1937年
71 Lu ルテチウム 1906年
85 At アスタチン 1940年 発音は同じく「ài
87 Fr フランシウム 1939年
93 Np ネプツニウム 1940年
94 Pu プルトニウム 1940-41年 発音は同じく「
95 Am アメリシウム 1944年
97 Bk バークリウム 1949年
98 Cf カリホルニウム 1950年
99 Es アインスタイニウム 1952年
104 Rf ラザホージウム 鑪(旧称は⿰釒拉) 1968年 2013年8月に旧称の廃止が確定[5]
105 Db ドブニウム 𨧀 𨧀(旧称は⿰釒都) 1970年 同上
106 Sg シーボーギウム 𨭎 𨭎(旧称は) 1974年 同上

珪素とルテチウムを除くと、用字が大陸と台湾で異なる元素の発見年は、1937年から1974年までの約40年間に集中している。そして、1980年以降に発見された元素は、簡体字と繁体字の差はあるものの、大陸と台湾で同じ字で表す。新元素の発見から漢字による命名までのタイムラグを考慮すると、この結果は、大陸で中華人民共和国が成立した1949年以降1970年代が終わる頃まで、大陸と台湾との間の交流が活発でなかったことの反映と解釈できる。

珪素とルテチウムは、中華人民共和国の成立前に既に漢字で「」「」と命名されていた。その後、同国では、「」が「」(セレン)および「」と同音であり、「」が「硫」(硫黄)と同音であるのを嫌い、1955年にそれぞれ「硅」、「」に改名した[6]。その結果、この2種類の元素の用字は、大陸と台湾で異なることとなった。

新発見の元素の命名に当たり大陸が採用する原則は大体次のとおり[7]

  • できるだけ既存の漢字から選定し、新しい字の考案は避ける。
  • できるだけ、画数がほどほどで、形が美しく、構造が単純で、ほかの字と区別しやすい字を選定または考案し、奇怪な字は避ける。
  • 発音が国際純正・応用化学連合(IUPAC)の命名に近い形声字を選定または考案する。
  • 既存の元素と同音になる字や読み方が複数ある字は避ける。
  • 既存の漢字から選定する場合は、生活常用字をできるだけ避ける。
  • 大陸と台湾、中国語文化圏の科学技術用語の統一のために、繁体字と簡体字で差がない字が最も好ましい。

なお、UnicodeCJK統合漢字には旧称の釒拉、釒都は収録されていない。また現時点では収録予定もない。[8][9]

固有名詞の表記との比較

元素には、地名、科学者の名前など、固有名詞にちなんで命名されたものが多くある。そこで、中国語における元素の名称と、元素の名称の語源となった固有名詞の中国語表記とを比較したのが次の表である。次の表では、(英語「copper」など、キプロスにちなむ名称を使う言語がある)と水銀(英語「mercury」など、メルクリウスにちなむ名称を使う言語がある)は割愛している。

元素の名称と語源の固有名詞の表記との比較
Z 記号 元素(日) 元素(日)のソートキー 語源(日) 語源(日)のソートキー 元素(中) 語源(中)
2 He ヘリウム ヘリウム ヘーリオス ヘエリオス 赫利奧斯
12 Mg マグネシウム マクネシウム マグニシア マクニシア 馬格尼西亞
21 Sc スカンジウム スカンシウム スカンディナヴィア スカンテイナウイア 斯堪地納維亞
22 Ti チタン チタン ティーターン テイイタアン 提坦、泰坦
23 V バナジウム ハナシウム ヴァナディース ウアナテイイス 凡那迪斯
25 Mn マンガン マンカン マグニシア マクニシア 馬格尼西亞
31 Ga ガリウム カリウム ガリア カリア 高盧
32 Ge ゲルマニウム ケルマニウム ゲルマニア ケルマニア 日耳曼尼亞
34 Se セレン セレン セレーネー セレエネエ 塞勒涅
38 Sr ストロンチウム ストロンチウム ストロンチアン英語版 ストロンチアン 斯蒂朗蒂安
39 Y イットリウム イツトリウム イッテルビー イツテルヒイ 伊特比
41 Nb ニオブ ニオフ ニオベー ニオヘエ 尼俄伯
44 Ru ルテニウム ルテニウム ルテニア ルテニア 羅塞尼亞
46 Pd パラジウム ハラシウム パラス ハラス 帕拉斯
48 Cd カドミウム カトミウム カドモス カトモス 卡徳摩斯
52 Te テルル テルル テルス テルス 得力士
58 Ce セリウム セリウム ケレース ケレエス 刻瑞斯
61 Pm プロメチウム フロメチウム プロメーテウス フロメエテウス 普羅米修斯
62 Sm サマリウム サマリウム サマルスキー サマルスキイ 薩馬爾斯基
63 Eu ユウロピウム ユウロヒウム ヨーロッパ ヨオロツハ 歐羅巴
64 Gd ガドリニウム カトリニウム ガトリン カトリン 蓋多林
65 Tb テルビウム テルヒウム イッテルビー イツテルヒイ 伊特比
67 Ho ホルミウム ホルミウム ホルミア ホルミア 斯徳哥爾摩
68 Er エルビウム エルヒウム イッテルビー イツテルヒイ 伊特比
69 Tm ツリウム ツリウム トゥーレ トウウレ 圖勒
70 Yb イッテルビウム イツテルヒウム イッテルビー イツテルヒイ 伊特比
71 Lu ルテチウム ルテチウム ルテティア ルテテイア 鑥、鎦 盧泰西亞
72 Hf ハフニウム ハフニウム ハフニア ハフニア 哈夫尼亞
73 Ta タンタル タンタル タンタロス タンタロス 坦塔洛斯
75 Re レニウム レニウム レヌス レヌス 来努斯
84 Po ポロニウム ホロニウム ポーランド ホオラント 波蘭
87 Fr フランシウム フランシウム フランス フランス 鈁、鍅 法蘭西
90 Th トリウム トリウム トール トオル 索爾
92 U ウラン ウラン ウーラノス ウウラノス 烏拉諾斯
93 Np ネプツニウム ネフツニウム ネプトゥーヌス ネフトウウヌス 鎿、錼 尼普頓
94 Pu プルトニウム フルトニウム プルートー フルウトオ 鈈、鈽 普路托
95 Am アメリシウム アメリシウム アメリカ アメリカ 鎇、鋂 亞美利加
96 Cm キュリウム キユリウム キュリー キユリイ 居里
97 Bk バークリウム ハアクリウム バークレー ハアクレエ 錇、鉳 伯克利
98 Cf カリホルニウム カリホルニウム カリフォルニア カリフオルニア 鐦、鉲 加利福尼亞
99 Es アインスタイニウム アインスタイニウム アインシュタイン アインシユタイン 鎄、鑀 愛因斯坦
100 Fm フェルミウム フエルミウム フェルミ フエルミ 費米
101 Md メンデレビウム メンテレヒウム メンデレーエフ メンテレエエフ 門捷列夫、門得列夫
102 No ノーベリウム ノオヘリウム ノーベル ノオヘル 諾貝爾
103 Lr ローレンシウム ロオレンシウム ローレンス ロオレンス 勞倫斯
104 Rf ラザホージウム ラサホオシウム ラザフォード ラサフオオト 鑪、釒拉 盧瑟福、拉塞福
105 Db ドブニウム トフニウム ドゥブナ トウフナ 𨧀、釒都 杜布納
106 Sg シーボーギウム シイホオキウム シーボーグ シイホオク 𨭎 西博格
107 Bh ボーリウム ホオリウム ボーア ホオア 𨨏 玻爾、波耳
108 Hs ハッシウム ハツシウム ハッシア ハツシア 𨭆 黑森
109 Mt マイトネリウム マイトネリウム マイトナー マイトナア 邁特納
110 Ds ダームスタチウム タアムスタチウム ダルムシュタット タルムシユタツト 達姆施塔特
111 Rg レントゲニウム レントケニウム レントゲン レントケン 倫琴
112 Cn コペルニシウム コヘルニシウム コペルニクス コヘルニクス 哥白尼
113 Nh ニホニウム ニホニウム 日本 ニホン 日本
114 Fl フレロビウム フレロヒウム フリョロフ フリヨロフ 弗廖羅夫
115 Mc モスコビウム モスコヒウム モスクワ モスクワ 莫斯科
116 Lv リバモリウム リハモリウム リバモア リハモア 利福摩爾
117 Ts テネシン テネシン テネシー テネシイ 田納西
118 Og オガネソン オカネソン オガネシアン オカネシアン 奧加涅相

一覧表

  • 「Z」欄は、原子番号
  • 「記号」欄は、元素記号
  • 「大陸簡体」欄は、中華人民共和国の簡体字
  • 「大陸繁体」欄は、この簡体字に対応する繁体字
  • 「大陸発音」欄は、普通話の発音(漢語拼音)。
  • 「台湾正体」欄は、中華民国(台湾)の漢字。
  • 「台湾発音」欄は、中華民国の国語の発音(漢語拼音)。
元素の中国語名称
Z 記号 日本語名称 日本語名称のソートキー 大陸簡体 大陸簡体のソートキー 大陸繁体 大陸繁体のソートキー 大陸発音 大陸発音のソートキー 台湾正体 台湾正体のソートキー 台湾発音 台湾発音のソートキー
1 H 水素 スイソ 气+05 气+07 qīng qing1 气+07 qīng qing1
2 He ヘリウム ヘリウム 气+06 气+06 hài hai4 气+06 hài hai4
3 Li リチウム リチウム 金+07 金+07 li3 金+07 li3
4 Be ベリリウム ヘリリウム 金+05 金+05 pi2 金+05 pi1
5 B 硼素 ホウソ 石+08 石+08 péng peng2 石+08 péng peng2
6 C 炭素 タンソ 石+09 石+09 tàn tan4 石+09 tàn tan4
7 N 窒素 チツソ 气+08 气+08 dàn dan4 气+08 dàn dan4
8 O 酸素 サンソ 气+06 气+06 yǎng yang3 气+06 yǎng yang3
9 F 弗素 フツソ 气+05 气+05 fu2 气+05 fu2
10 Ne ネオン ネオン 气+02 气+02 nǎi nai3 气+02 nǎi nai3
11 Na ナトリウム ナトリウム 金+04 金+04 na4 金+04 na4
12 Mg マグネシウム マクネシウム 金+09 金+09 měi mei3 金+09 měi mei3
13 Al アルミニウム アルミニウム 金+06 金+07 lv3 金+07 lv3
14 Si 珪素 ケイソ 石+06 石+06 guī gui1 石+03 xi1
15 P リン 石+12 石+12 lín lin2 石+12 lín lin2
16 S 硫黄 イオウ 石+07 石+07 liú liu2 石+07 liú liu2
17 Cl 塩素 エンソ 气+08 气+08 lv4 气+08 lv4
18 Ar アルゴン アルコン 气+06 气+08 ya4 气+08 ya4
19 K カリウム カリウム 金+05 金+05 jiǎ jia3 金+05 jiǎ jia3
20 Ca カルシウム カルシウム 金+04 金+04 gài gai4 金+04 gài gai4
21 Sc スカンジウム スカンシウム 金+04 金+04 kàng kang4 金+04 kàng kang4
22 Ti チタン チタン 金+04 金+04 tài tai4 金+04 tài tai4
23 V バナジウム ハナシウム 金+03 金+03 fán fan2 金+03 fán fan2
24 Cr クロム クロム 金+06 金+06 ge4 金+06 ge4
25 Mn マンガン マンカン 金+08 金+08 měng meng3 金+08 měng meng3
26 Fe テツ 金+05 金+13 tiě tie3 金+13 tiě tie3
27 Co コバルト コハルト 金+05 金+05 gu3 金+05 gu3
28 Ni ニッケル ニツケル 金+10 金+10 niè nie4 金+10 niè nie4
29 Cu トウ 金+06 金+06 tóng tong2 金+06 tóng tong2
30 Zn 亜鉛 アエン 金+07 金+07 xīn xin1 金+07 xīn xin1
31 Ga ガリウム カリウム2 金+10 金+10 jiā jia1 金+10 jiā jia1
32 Ge ゲルマニウム ケルマニウム 金+08 金+09 zhě zhe3 金+09 zhě zhe3
33 As 砒素 ヒソ 石+05 石+05 shēn shen1 石+05 shēn shen1
34 Se セレン セレン 石+06 石+06 xi1 石+06 xi1
35 Br 臭素 シユウソ 水+10 水+10 xiù xiu4 水+10 xiù xiu4
36 Kr クリプトン クリフトン 气+07 气+07 ke4 气+07 ke4
37 Rb ルビジウム ルヒシウム 金+06 金+06 ru2 金+06 ru2
38 Sr ストロンチウム ストロンチウム 金+09 金+09 si1 金+09 si1
39 Y イットリウム イツトリウム 金+01 金+01 yi3 金+01 yi3
40 Zr ジルコニウム シルコニウム 金+07 金+07 gào gao4 金+07 gào gao4
41 Nb ニオブ ニオフ 金+05 金+05 ni2 金+05 ni2
42 Mo モリブデン モリフテン 金+05 金+05 mu4 金+05 mu4
43 Tc テクネチウム テクネチウム 金+08 金+08 de2 金+10 da1
44 Ru ルテニウム ルテニウム 金+02 金+02 liǎo liao3 金+02 liǎo liao3
45 Rh ロジウム ロシウム 金+06 金+06 lǎo lao3 金+06 lǎo lao3
46 Pd パラジウム ハラシウム 金+04 金+04 ba3 金+04 ba3
47 Ag キン2 金+06 金+06 yín yin2 金+06 yín yin2
48 Cd カドミウム カトミウム 金+10 金+10 ge2 金+10 ge2
49 In インジウム インシウム 金+06 金+06 yīn yin1 金+06 yīn yin1
50 Sn スス 金+08 金+08 xi1 金+08 xi1
51 Sb アンチモン アンチモン 金+07 金+07 ti1 金+07 ti1
52 Te テルル テルル 石+09 石+09 di4 石+09 di4
53 I 沃素 ヨウソ 石+08 石+08 diǎn dian3 石+08 diǎn dian3
54 Xe キセノン キセノン 气+03 气+03 xiān xian1 气+03 xiān xian1
55 Cs セシウム セシウム 金+06 金+06 se4 金+06 se4
56 Ba バリウム ハリウム 金+04 金+07 bèi bei4 金+07 bèi bei4
57 La ランタン ランタン 金+12 金+17 lán lan2 金+17 lán lan2
58 Ce セリウム セリウム 金+05 金+05 shì shi4 金+05 shì shi4
59 Pr プラセオジム フラセオシウム 金+12 金+12 pu3 金+12 pu3
60 Nd ネオジム ネオシム 金+03 金+03 nv3 金+03 nv3
61 Pm プロメチウム フロメチウム 金+05 金+05 po3 金+05 po3
62 Sm サマリウム サマリウム 金+03 金+03 shān shan1 金+03 shān shan1
63 Eu ユウロピウム ユウロヒウム 金+06 金+06 yǒu you3 金+06 yǒu you3
64 Gd ガドリニウム カトリニウム 金+01 金+01 ga2 金+01 ga2
65 Tb テルビウム テルヒウム 金+07 金+07 te4 金+07 te4
66 Dy ジスプロシウム シスフロシウム 金+11 金+11 di1 金+11 di1
67 Ho ホルミウム ホルミウム 金+04 金+04 huǒ huo3 金+04 huǒ huo3
68 Er エルビウム エルヒウム 金+06 金+06 ěr er3 金+06 ěr er3
69 Tm ツリウム ツリウム 金+06 金+06 diū diu1 金+06 diū diu1
70 Yb イッテルビウム イツテルヒウム 金+13 金+13 yi4 金+13 yi4
71 Lu ルテチウム ルテチウム 金+12 金+15 lu3 金+10 liú liu2
72 Hf ハフニウム ハフニウム 金+06 金+06 ha1 金+06 ha1
73 Ta タンタル タンタル 金+05 金+05 tǎn tan3 金+05 tǎn tan3
74 W タングステン タンクステン 金+04 金+10 wu1 金+10 wu1
75 Re レニウム レニウム 金+07 金+08 lái lai2 金+08 lái lai2
76 Os オスミウム オスミウム 金+07 金+07 é e2 金+07 é e2
77 Ir イリジウム イリシウム 金+06 金+06 yi1 金+06 yi1
78 Pt 白金 ハツキン 金+05 金+05 bo2 金+05 bo2
79 Au キン 金+00 金+00 jīn jin1 金+00 jīn jin1
80 Hg 水銀 スイキン 水+03 水+03 gǒng gong3 水+03 gǒng gong3
81 Tl タリウム タリウム 金+05 金+05 ta1 金+05 ta1
82 Pb ナマリ 金+05 金+05 qiān qian1 金+05 qiān qian1
83 Bi ビスマス ヒスマス 金+05 金+05 bi4 金+05 bi4
84 Po ポロニウム ホロニウム 金+02 金+02 po1 金+02 po1
85 At アスタチン アスタチン 石+05 石+05 ài ai4 石+04 ài ai4
86 Rn ラドン ラトン 气+05 气+05 dōng dong1 气+05 dōng dong1
87 Fr フランシウム フランシウム 金+04 金+04 fāng fang1 金+08 fa3
88 Ra ラジウム ラシウム 金+13 金+13 léi lei2 金+13 léi lei2
89 Ac アクチニウム アクチニウム 金+07 金+08 ā a1 金+08 ā a1
90 Th トリウム トリウム 金+03 金+03 tu3 金+03 tu3
91 Pa プロトアクチニウム フロトアクチニウム 金+12 金+12 pu2 金+12 pu2
92 U ウラン ウラン 金+05 金+05 yóu you2 金+05 yóu you2
93 Np ネプツニウム ネフツニウム 金+10 金+10 na2 金+08 nài nai4
94 Pu プルトニウム フルトニウム 金+04 金+04 bu4 金+05 bu4
95 Am アメリシウム アメリシウム 金+09 金+09 méi mei2 金+07 měi mei3
96 Cm キュリウム キユリウム 金+07 金+07 ju2 金+07 ju1
97 Bk バークリウム ハアクリウム 金+08 金+08 péi pei2 金+05 běi bei3
98 Cf カリホルニウム カリホルニウム 金+07 金+12 kāi kai1 金+05 ka3
99 Es アインスタイニウム アインスタイニウム 金+09 金+09 āi ai1 金+13 ài ai4
100 Fm フェルミウム フエルミウム 金+09 金+12 fèi fei4 金+12 fèi fei4
101 Md メンデレビウム メンテレヒウム 金+03 金+08 mén men2 金+08 mén men2
102 No ノーベリウム ノオヘリウム 金+08 金+09 nuò nuo4 金+09 nuò nuo4
103 Lr ローレンシウム ロオレンシウム 金+07 金+12 láo lao2 金+12 láo lao2
104 Rf ラザホージウム ラサホオシウム 𬬻 金+05 金+16 lv2 金+16 lu4
105 Db ドブニウム トフニウム 𬭊 金+07 𨧀 金+07 du4 𨧀 金+07 du4
106 Sg シーボーギウム シイホオキウム 𬭳 金+12 𨭎 金+12 xi3 𨭎 金+12 xi3
107 Bh ボーリウム ホオリウム 𬭛 金+08 𨨏 {{{FK}}} bo1 𨨏 金+08 bo1
108 Hs ハッシウム ハツシウム 𬭶 金+12 𨭆 {{{FK}}} hēi hei1 𨭆 金+12 hēi hei1
109 Mt マイトネリウム マイトネリウム 金+07 金+11 mài mai4 金+09 mài mai4
110 Ds ダームスタチウム タアムスタチウム 𫟼 金+06 金+13 da2 金+13 da2
111 Rg レントゲニウム レントケニウム 𬬭 金+04 金+08 lún lun2 金+08 lún lun2
112 Cn コペルニシウム コヘルニシウム 金+10 金+10 ge1 金+10 ge1
114 Fl フレロビウム フレロヒウム 𫓧 金+04 金+04 fu1 金+04 fu1
116 Lv リバモリウム リハモリウム 𫟷 金+05 金+05 li4 金+05 li4

周期表配列

各マスは上から元素記号、「大陸簡体」、「台湾正体」の順に表記する。色分け等の凡例は周期表の項目を参照。

1 18
H

2 13 14 15 16 17 He

Li

Be

B

C

N

O

F

Ne

Na

Mg

3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Al

Si

P

S

Cl

Ar

K

Ca

Sc

Ti

V

Cr

Mn

Fe

Co

Ni

Cu

Zn

Ga

Ge

As

Se

Br

Kr

Rb

Sr

Y

Zr

Nb

Mo

Tc

Ru

Rh

Pd

Ag

Cd

In

Sn

Sb

Te

I

Xe

Cs

Ba

*1 Hf

Ta

W

Re

Os

Ir

Pt

Au

Hg

Tl

Pb

Bi

Po

At

Rn

Fr

Ra

*2 Rf
𬬻
Db
𬭊
𨧀
Sg
𬭳
𨭎
Bh
𬭛
𨨏
Hs
𬭶
𨭆
Mt

Ds
𫟼
Rg
𬬭
Cn

Nh
[10]
Fl
𫓧
Mc
[10]
Lv
𫟷
Ts
[10]
Og
[10]
*1 ランタノイド 57
La

58
Ce

59
Pr

60
Nd

61
Pm

62
Sm

63
Eu

64
Gd

65
Tb

66
Dy

67
Ho

68
Er

69
Tm

70
Yb

71
Lu

*2 アクチノイド 89
Ac

90
Th

91
Pa

92
U

93
Np

94
Pu

95
Am

96
Cm

97
Bk

98
Cf

99
Es

100
Fm

101
Md

102
No

103
Lr

歴史

清代の1855年、イギリス人医師、宣教師のベンジャミン・ホブソン(漢名、合信)は、上海の墨海書館から『博物新編』[11]という科学書を出した[12]。この本では、元素を「元質」と訳し、水素、窒素、酸素などの気体の性質と製法を紹介している[12]。元素名の翻訳は一貫しておらず、水素は「輕氣」または「水母氣」、酸素は「養氣」または「生氣」と訳している[12]。窒素は「淡氣」である[12]。「水母氣」は英語「hydrogen」の語源に基づく意訳と思われ、それ以外は対応する英単語の語源とは関係のない意訳と思われる。

『博物新編』の後、1870年代までには、『金石識別』[13]、『格物入門』[14]、『化學初階』[15]、『化学鑑原』[16]などの書物が化学元素の名称の中国語訳を試みた[12][17]。その訳語は、後出の対照表に示すように、著者によりまちまちである。

アメリカ人医師、宣教師のダニエル·ジェローム·マガウアン(Daniel Jerome Macgowan。漢名、瑪高温)と華蘅芳は、James Dwight Danaの『Manual of Mineralogy』という鉱物学書を翻訳し、『金石識別』と題した[13]。全12巻のうち巻十一の最後に「重率全表」という原子量の一覧表があり、意訳した元素名と音訳した元素名が登場する。音訳は、複数文字の漢字で、英単語の全音節を模しているように見える。例えば、「素地恩」(ナトリウム)は英語「sodium」の訳、「夕里西恩」(珪素)は、英語「silicium」(「silicon」の同義語)の訳と思われる。

アメリカ人宣教師のWilliam Alexander Parsons Martin(漢名、丁韙良英語版記事)は、『格物入門』を著した[14]。全7巻のうち巻六が化学を扱っており、その中には「原行總目」という元素の一覧表がある。この一覧表所載の元素の一部について、中国語訳が付けられており、その訳語は、後出の表のとおりであり、大体意訳である。本書が砒素の訳に使っている「信石」とは、江西省信州で産する石を意味し[18]、これは三酸化二ヒ素を含有する。マンガンの訳に使っている「蒙石」は、音訳かもしれない。

John Glasgow Kerr(漢名、嘉約翰)と何瞭然は、George Fownesの『Manual of Chemistry』とDavid Ames Wellsの『Well's Principles and Applications of Chemistry』の両書を種本として、『化學初階』を著した[15]。後出の表のとおり、元素名は意訳したものと音訳したものとがあり、意訳も音訳も、漢字1文字としたものが多い。「」は「礬」と同音の「凡」に金偏を付けて、アルミニウムの意味を表した意訳であろう。「」は、英語「zinc」の発音を「星」の発音で模し、亜鉛の意味を表した音訳であろう。

John Fryer(漢名、傅蘭雅中国語版記事)と徐寿は、『Well's Principles and Applications of Chemistry』を訳して『化学鑑原』を出した[16]。本書巻一の「第二十九節 華字命名」では、本書で採用した命名の理由が説明されている。すなわち、元素の名称を簡潔に意訳するのは難しく、西洋の発音の全部を音訳したのでは冗長だという[19]。そこで、西洋の発音の最初の音を1文字の漢字で音訳し、それが不都合な場合は次の音を1文字の漢字で音訳し、この漢字に偏(石偏、金偏)を加えて元素の種類を表す[20]。また、元素の名称が漢字1文字でないと化合物の命名に不便であるから、従来「白鉛」や「倭鉛」と呼んでいた亜鉛は、西洋の発音(英語の「zinc」)を採り「」で表し[21]、「白金」は「」に改める[22]

『化學鑑原』が元素の名称が漢字1文字でないと化合物の命名に不便であるというのは、本書では、組成式や分子式の元素記号を漢字に置き換え、アラビア数字を漢数字に置き換えることで化合物を命名しているためと思われる。例えば、本書では、三酸化硫黄(SO3)は「硫養」で[23]二酸化炭素は「炭養」で表している(「養」は「養氣」すなわち酸素。実際は縦書き)。

4冊に見られる訳語のうち、原子番号35までの主な元素の訳語を対照したのが次の表である[12]。「淡氣」が『格物入門』では水素を指し『化學初階』と『化學鑑原』では窒素を指し、「釩」が『化學初階』ではアルミニウムを指し『化學鑑原』ではバナジウムを指すという混乱ぶりが見て取れる。また、『金石識別』は複数文字で音訳、『格物入門』は意訳、『化學初階』は1文字で意訳(そのために造字をためらわない)、『化學鑑原』は1文字で音訳という傾向が読み取れる。さらに、現在中国で使われている訳は、『化學鑑原』の訳に近いことが分かる。

元素名の初期の中国語訳
Z 記号 日本語名称 金石識別 格物入門 化學初階 化學鑑原 現代の中国語名称
1 H 水素 輕氣 淡氣 輕氣 輕氣
3 Li リチウム 劣非地恩
5 B 硼素 布而倫 硼精 𥑢
6 C 炭素 炭精 炭精
7 N 窒素 硝氣 硝氣 淡氣 淡氣
8 O 酸素 養氣 養氣 養氣 養氣
9 F 弗素 夫羅而林 弗氣 弗氣
11 Na ナトリウム 素地恩 鹻精
12 Mg マグネシウム 美合尼西恩
13 Al アルミニウム 哀盧彌尼恩 礬精
14 Si 珪素 夕里西恩 玻精 硅、矽
15 P 光藥
16 S 硫黄 硫磺 硫磺 硫磺
17 Cl 塩素 緑氣 緑氣 緑氣 緑氣
19 K カリウム 卜對斯恩 灰精 金偏に灰
20 Ca カルシウム 丐而西恩 石精
23 V バナジウム 凡奈地恩
24 Cr クロム 客羅彌恩
25 Mn マンガン 孟葛尼斯 蒙石
26 Fe
27 Co コバルト 苦抱爾
28 Ni ニッケル 臬客爾
29 Cu
30 Zn 亜鉛 白鉛 白鉛
33 As 砒素 信石 信の下に金
34 Se セレン 西里尼恩
35 Br 臭素 孛羅名

气部(きがまえ)の元素名は、石偏、金偏の元素名より遅れて登場した。気体元素を气部の漢字で表すことを発明したのは、杜亜泉中国語版であるという[24]。杜は1894年発見の元素アルゴンのために「」という漢字を考案した[24]。その後、中華民国教育部が公布した『化學命名原則』では、従来「輕」「淡」「養」「緑」で表していた水素、窒素、酸素、塩素のために「」「」「」「」という漢字が採用された[24]。「气」の左下に「輕」「養」「緑」をそのまま書いた画数の多い字も、一時期使われたことがあるようである[25]

水素の同位体

水素の同位体のうち、質量数が1から3のものは、元素と同様に、漢字1文字で表現できる。「气」の左下の部分の画数が質量数に対応する。

  • 」(piē):軽水素(プロチウム、水素1、1H)
  • 」(dāo):重水素(デューテリウム、水素2、2H、D)
  • 」(chuān):三重水素(トリチウム、水素3、3H、T)

化合物の命名

二元化合物は、元素の名称を使って、中国で「某化某式」と呼ばれる方式で命名される。例えば、塩化ナトリウムは、「」(塩素)と「」(ナトリウム)の化合物であるので「氯化鈉」という。二酸化炭素は「二氧化碳」である。「某化某式」命名法は日本語の命名法から中国語に採り入れられた[25]アンモニアは「」(ān)の1文字で表す。

元素の命名には气部(きがまえ)、水部(みず、さんずい)、石部(いしへん)、金部(かね、かねへん)の漢字を使ったが、有機化合物の命名には、火部(ひへん)、艸部(くさかんむり)、酉部(ひよみのとり)、肉部(にくづき)、口部(くちへん)の漢字を使う。脂肪族炭化水素は、火部の漢字を使って「甲烷」(メタン)、「乙烯」(エチレン)、「丙烯」(プロピレン)、「丁二烯」(ブタジエン)、「乙炔」(アセチレン)などと命名する(十干由来の「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」を用い、この順で1-10の炭素数を表す。11個以降は漢数字表記)。艸部の漢字は芳香族化合物を表し、「」はベンゼン、「」はナフタレンである。スチレンも、「フェニルエチレン」か「エテニルベンゼン」か、「苯乙烯」となる。

酉部は含酸素化合物で、「甲醇」はメタノール、「丙酮」はアセトンである。肉部は含窒素化合物で、「乙胺」でエチルアミン、「乙腈」でアセトニトリルを表す。アクリロニトリルは「丙烯腈」となる。口部は複素環式化合物を表し、「呋喃」がフラン、「吡啶」がピリジンを意味する。有機化合物の命名にも、近代になって考案された漢字を多数使用する。

参考文献

  1. ^ a b 諸橋轍次 (1989年5月20日). 大漢和辞典 修訂版11巻. 大修館書店. pp. 617. ISBN 4-469-03087-2 
  2. ^ 成明珍 「中国の化学元素名に用いられる漢字について」『ソシオサイエンス』Vol.18、早稲田大学社会科学研究科 (2012年)
  3. ^ 発見年は英語版の元素発見年表によった。
  4. ^ 注釈1の文献、p.152, 【表4】を参照。
  5. ^ 化學名詞-化學元素一覽表, 國家教育研究院雙語詞彙、學術名詞暨辭書資訊網, 閲覧日:2017.04.22
  6. ^ 王宝瑄〈中国化学物质命名中的汉字探讨〉《中国科技术语》(2010年)
  7. ^ 全国科学技术名词审定委员会〈第111号元素中文定名的说明及元素中文定名的原则〉《科技术语研究》(2006年)
  8. ^ CJK統合漢字拡張Fの登録申請書
  9. ^ 「Babelstone Han PUA」というフォントのページより。外字としてこれらの字を含んでいるが、出典がウィキメディア・コモンズとなっている。
  10. ^ a b c d 全国科技名词委联合国家语言文字工作委员会召开113号、115号、117号、118号元素中文定名会”. 2017年2月16日閲覧。
  11. ^ 合信『博物新編
  12. ^ a b c d e f 劉廣定〈中文化學名詞的演變(上)〉《科學月刊》(1985年10月)
  13. ^ a b 代那(撰)、瑪高温(口訳)、華蘅芳(筆述)『金石識別
  14. ^ a b 丁韙良格物入門
  15. ^ a b 嘉約翰(口訳)、何瞭然(筆述)『化學初階
  16. ^ a b 韋而司(撰)傅蘭雅(口訳)、徐寿(筆述)『化学鑑原』(長崎大学附属図書館近代化黎明期翻訳本全文画像データベース
  17. ^ 張澔〈在傳統與創新之間十九世紀的中文化學元素名詞〉《化學》(2001年)
  18. ^ 大漢和辞典』縮写版1巻806ページ
  19. ^ 「譯其意義殊難簡括全譯其音苦於繁冗」
  20. ^ 「今取羅馬文之首音譯一華字首音不合則用次音並加偏旁以別其類而讀仍本音」
  21. ^ 「惟白鉛一物亦名倭鉛乃古無今有名從雙字不宜用於雜質故譯西音作鋅」
  22. ^ 「白金亦昔人所譯今改作鉑」
  23. ^ 「硫強水之無水者為硫養
  24. ^ a b c 劉廣定〈中文化學名詞的演變(下)〉《科學月刊》(1985年11月)
  25. ^ a b 何涓〈益智书会与杜亚泉的中文无机物命名方案〉《自然科学史研究》(2007年)

関連項目

外部リンク