「New演算子」の版間の差分
Semi-Brace (会話 | 投稿記録) m Category:プログラミング言語の構文を除去; Category:プログラミング言語の演算子を追加 (HotCat使用) |
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== 概要 == |
== 概要 == |
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C++やC++の影響を受けた言語では、概ね次のような構文となっている。 |
C++やC++の影響を受けた言語では、概ね次のような構文となっている。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp">var = new T</syntaxhighlight> |
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<code>var</code>は、作成されたインスタンスへの参照を保持する[[ポインタ (プログラミング)|ポインタ]]型もしくは[[参照 (情報工学)|参照]]型の変数である。<code>T</code>は、作成されるインスタンスの[[データ型]]を指定する。<code>T</code>がクラス型の場合、<code>T</code>のインスタンスを生成するために[[デフォルトコンストラクタ]]が呼ばれる。クラス以外の型を指定可能かどうかは言語による。 |
<code>var</code>は、作成されたインスタンスへの参照を保持する[[ポインタ (プログラミング)|ポインタ]]型もしくは[[参照 (情報工学)|参照]]型の変数である。<code>T</code>は、作成されるインスタンスの[[データ型]]を指定する。<code>T</code>がクラス型の場合、<code>T</code>のインスタンスを生成するために[[デフォルトコンストラクタ]]が呼ばれる。クラス以外の型を指定可能かどうかは言語による。 |
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次のように、newでインスタンスを生成する際には、初期化子 (initializer) を指定できる。 |
次のように、newでインスタンスを生成する際には、初期化子 (initializer) を指定できる。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp">var = new T(init);</syntaxhighlight> |
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<code>init</code>は初期化に用いる値を表す。<code>T</code>がクラス型の場合、これを引数にしてコンストラクタが呼ばれる。 |
<code>init</code>は初期化に用いる値を表す。<code>T</code>がクラス型の場合、これを引数にしてコンストラクタが呼ばれる。 |
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また、[[配列]]を作成することも可能である。なお、C++では、これを'''new[]演算子'''として、new演算子と区別している。一方、[[Java]]や[[C Sharp|C#]]では、new演算子の構文の一種として扱っている。 |
また、[[配列]]を作成することも可能である。なお、C++では、これを'''new[]演算子'''として、new演算子と区別している。一方、[[Java]]や[[C Sharp|C#]]では、new演算子の構文の一種として扱っている。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp">var = new T[size];</syntaxhighlight> |
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<code>size</code>は、作成する要素数を指定する。なお、C++やC#では、次のようにnewした配列に初期化子を与えられる。 |
<code>size</code>は、作成する要素数を指定する。なお、C++やC#では、次のようにnewした配列に初期化子を与えられる。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp">var = new T[size] {init1, init2, init3};</syntaxhighlight> |
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* C++では、初期化子リストの要素数よりも<code>size</code>が大きい場合、残りの要素はゼロもしくはデフォルトコンストラクタで初期化される。 |
* C++では、初期化子リストの要素数よりも<code>size</code>が大きい場合、残りの要素はゼロもしくはデフォルトコンストラクタで初期化される。 |
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* C#では、初期化子リストの要素数と<code>size</code>は同じでなければならないが、初期化子を指定すれば<code>size</code>は省略可能である。 |
* C#では、初期化子リストの要素数と<code>size</code>は同じでなければならないが、初期化子を指定すれば<code>size</code>は省略可能である。 |
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* Javaでは、初期化子を指定する場合は<code>size</code>を指定できない。 |
* Javaでは、初期化子を指定する場合は<code>size</code>を指定できない。 |
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<syntaxhighlight lang="java">var = new T[] {init1, init2, init3};</syntaxhighlight> |
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また、JavaやC#の配列は、常にnew演算子でヒープに作られる存在であり、(2)のような配列変数の初期化は、(1)に対する[[糖衣構文]]となっている。 |
また、JavaやC#の配列は、常にnew演算子でヒープに作られる存在であり、(2)のような配列変数の初期化は、(1)に対する[[糖衣構文]]となっている。 |
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<syntaxhighlight lang="csharp"> |
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T[] var1 = new T[size] {init1, init2, init3}; // (1) new演算子を使用 |
T[] var1 = new T[size] {init1, init2, init3}; // (1) new演算子を使用 |
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T[] var2 = {init1, init2, init3}; // (2) 配列初期化の構文を使用、(1)と同じ意味 |
T[] var2 = {init1, init2, init3}; // (2) 配列初期化の構文を使用、(1)と同じ意味 |
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</syntaxhighlight> |
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=== エラー処理 === |
=== エラー処理 === |
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従来のC++標準ライブラリにはスマートポインタのクラステンプレートとして<code>std::auto_ptr</code>が定義されていたが、[[C++11]]では廃止予定となり、代わって<code>std::unique_ptr</code>や<code>std::shared_ptr</code>などが定義された。 |
従来のC++標準ライブラリにはスマートポインタのクラステンプレートとして<code>std::auto_ptr</code>が定義されていたが、[[C++11]]では廃止予定となり、代わって<code>std::unique_ptr</code>や<code>std::shared_ptr</code>などが定義された。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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#include <memory> |
#include <memory> |
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} // 有効範囲(スコープ)から外れるこの位置でbのデストラクタが実行される。unique_ptr<Bar>のデストラクタが、内包するBarオブジェクトのdeleteを行う。 |
} // 有効範囲(スコープ)から外れるこの位置でbのデストラクタが実行される。unique_ptr<Bar>のデストラクタが、内包するBarオブジェクトのdeleteを行う。 |
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</syntaxhighlight> |
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</source> |
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動的配列のRAIIとしては、<code>std::vector</code>クラステンプレートがよく利用される。 |
動的配列のRAIIとしては、<code>std::vector</code>クラステンプレートがよく利用される。 |
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クラス内に設置した場合、そのクラスと派生クラスをnew演算子で作成する際の記憶域の確保に使用される。なおクラス内に置いた場合、staticを指定しなくても、自動的に静的メンバ関数として扱われる (X3014 12.5)。 |
クラス内に設置した場合、そのクラスと派生クラスをnew演算子で作成する際の記憶域の確保に使用される。なおクラス内に置いた場合、staticを指定しなくても、自動的に静的メンバ関数として扱われる (X3014 12.5)。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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class hoge |
class hoge |
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{ |
{ |
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static void operator delete[](void*); |
static void operator delete[](void*); |
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}; |
}; |
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<code>new hoge</code>という式は次のように実行される。 |
<code>new hoge</code>という式は次のように実行される。 |
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#まず、new演算子関数の[[名前探索]]を行う(この例では、<code>hoge::operator new</code>が見つかる)。 |
#まず、new演算子関数の[[名前探索]]を行う(この例では、<code>hoge::operator new</code>が見つかる)。 |
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例えばヘッダ<new>には、通常のnew、new[]演算子関数のほか、次のようなnew、new[]演算子関数が定義されている (X3014 18.4)。 |
例えばヘッダ<new>には、通常のnew、new[]演算子関数のほか、次のようなnew、new[]演算子関数が定義されている (X3014 18.4)。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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void* operator new(std::size_t, void*) throw(); |
void* operator new(std::size_t, void*) throw(); |
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void* operator new[](std::size_t, void*) throw(); |
void* operator new[](std::size_t, void*) throw(); |
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void* operator new(std::size_t, std::nothrow_t) throw(); |
void* operator new(std::size_t, std::nothrow_t) throw(); |
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void* operator new[](std::size_t, std::nothrow_t) throw(); |
void* operator new[](std::size_t, std::nothrow_t) throw(); |
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</syntaxhighlight> |
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上の2つは引数に与えられたポインタをそのままnew演算子関数の戻り値とするもので、当初の配置newの目論見どおり指定したメモリアドレスにオブジェクトを配置するために使用できる。 |
上の2つは引数に与えられたポインタをそのままnew演算子関数の戻り値とするもので、当初の配置newの目論見どおり指定したメモリアドレスにオブジェクトを配置するために使用できる。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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class Hoge {/* ... */}; |
class Hoge {/* ... */}; |
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obj->~Hoge(); |
obj->~Hoge(); |
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std::free(p); |
std::free(p); |
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下の2つは記憶域が確保できなかったときに、例外を投げない代わりに[[ヌルポインタ]]を返すnewである(なお、newハンドラは呼ばれる)。std::nothrow_t型のインスタンスとしてstd::nothrowが定義されており、次のように使用する。 |
下の2つは記憶域が確保できなかったときに、例外を投げない代わりに[[ヌルポインタ]]を返すnewである(なお、newハンドラは呼ばれる)。std::nothrow_t型のインスタンスとしてstd::nothrowが定義されており、次のように使用する。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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int* p = new(std::nothrow) int; |
int* p = new(std::nothrow) int; |
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delete p; |
delete p; |
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deleteおよびdelete[]演算子は、std::nothrow_tを引数に取るnewが返す記憶域も解放できると定められている。また、std::nothrow_tを引数に取るものも、そうでない(nothrow_tを引数に取らない配置newでないnew演算子関数)もの同様にプログラム内で定義可能とされている (X3014 18.4.1.1 6)。 |
deleteおよびdelete[]演算子は、std::nothrow_tを引数に取るnewが返す記憶域も解放できると定められている。また、std::nothrow_tを引数に取るものも、そうでない(nothrow_tを引数に取らない配置newでないnew演算子関数)もの同様にプログラム内で定義可能とされている (X3014 18.4.1.1 6)。 |
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newおよびnew[]演算子を使用した際、コンストラクタが例外を投げると、コンパイラは引数の対応するdeleteないしdelete[]演算子関数で記憶域を解放しようとする。そのため、newおよびnew[]演算子で独自の記憶域確保を行う場合、対応するdelete、delete[]演算子を用意すべきであるとされる<ref>Effective C++ 原著第3版 52項</ref>。 |
newおよびnew[]演算子を使用した際、コンストラクタが例外を投げると、コンパイラは引数の対応するdeleteないしdelete[]演算子関数で記憶域を解放しようとする。そのため、newおよびnew[]演算子で独自の記憶域確保を行う場合、対応するdelete、delete[]演算子を用意すべきであるとされる<ref>Effective C++ 原著第3版 52項</ref>。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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class MyAllocator; |
class MyAllocator; |
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static void operator delete[](void*, MyAllocator); |
static void operator delete[](void*, MyAllocator); |
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}; |
}; |
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==== エラー処理 ==== |
==== エラー処理 ==== |
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=== C++/CLI === |
=== C++/CLI === |
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[[C++/CLI]]では、C++のnew演算子のほかに、マネージヒープから記憶域を確保する'''gcnew演算子'''が存在する。 |
[[C++/CLI]]では、C++のnew演算子のほかに、マネージヒープから記憶域を確保する'''gcnew演算子'''が存在する。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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System::Object^ o = gcnew System::Object; |
System::Object^ o = gcnew System::Object; |
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gcnewには、配置構文は存在しない。 |
gcnewには、配置構文は存在しない。 |
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また、gcnewにはnew[]演算子に相当する配列構文も存在しない。CLI配列(マネージ配列)の作成には、arrayキーワード (cli::array型) を用いる<ref>[https://msdn.microsoft.com/en-us/library/ts4c4dw6.aspx Arrays (C++ Component Extensions)]</ref><ref>[https://msdn.microsoft.com/en-us/library/d87eee3k.aspx Platform, default, and cli Namespaces (C++ Component Extensions)]</ref>。 |
また、gcnewにはnew[]演算子に相当する配列構文も存在しない。CLI配列(マネージ配列)の作成には、arrayキーワード (cli::array型) を用いる<ref>[https://msdn.microsoft.com/en-us/library/ts4c4dw6.aspx Arrays (C++ Component Extensions)]</ref><ref>[https://msdn.microsoft.com/en-us/library/d87eee3k.aspx Platform, default, and cli Namespaces (C++ Component Extensions)]</ref>。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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array<int>^ a1 = gcnew array<int>(10); //要素数10の1次元配列 |
array<int>^ a1 = gcnew array<int>(10); //要素数10の1次元配列 |
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array<int, 2>^ a2 = gcnew array<int, 2>(3, 4); //3×4の2次元配列 |
array<int, 2>^ a2 = gcnew array<int, 2>(3, 4); //3×4の2次元配列 |
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</syntaxhighlight> |
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</source> |
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ただし、gcnewには配列初期化の構文が存在する。 |
ただし、gcnewには配列初期化の構文が存在する。 |
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<syntaxhighlight lang="cpp"> |
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array<int>^ a1 = gcnew array<int>(4) {0, 1, 2, 3}; |
array<int>^ a1 = gcnew array<int>(4) {0, 1, 2, 3}; |
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array<int>^ a2 = gcnew array<int> {0, 1, 2, 3}; //上と同じ。初期化子から要素数が算出される。 |
array<int>^ a2 = gcnew array<int> {0, 1, 2, 3}; //上と同じ。初期化子から要素数が算出される。 |
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array<int, 2>^ a3 = gcnew array<int, 2> {{0, 1}, {2, 3}}; //多次元配列の例 |
array<int, 2>^ a3 = gcnew array<int, 2> {{0, 1}, {2, 3}}; //多次元配列の例 |
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</syntaxhighlight> |
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</source> |
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=== C# === |
=== C# === |
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下のコードの場合、少なくとも概念上は、一時的な<code>int</code>型のインスタンスが生成され、それが<code>x</code>へコピーされているという扱いである。 |
下のコードの場合、少なくとも概念上は、一時的な<code>int</code>型のインスタンスが生成され、それが<code>x</code>へコピーされているという扱いである。 |
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<syntaxhighlight lang="csharp"> |
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// intは値型なので、xはスタック上に存在する。 |
// intは値型なので、xはスタック上に存在する。 |
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int x = new int(); |
int x = new int(); |
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上記は以下と等価である。 |
上記は以下と等価である。 |
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<syntaxhighlight lang="csharp"> |
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int x = 0; |
int x = 0; |
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</source> |
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=== Java === |
=== Java === |
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[[Java]]のnew演算子もC#と同じくオブジェクトの生成と初期化に利用される。ただしC#と違ってプリミティブ型の初期化にnew演算子は使えない。 |
[[Java]]のnew演算子もC#と同じくオブジェクトの生成と初期化に利用される。ただしC#と違ってプリミティブ型の初期化にnew演算子は使えない。 |
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<syntaxhighlight lang="java"> |
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class Point { int x, y; } |
class Point { int x, y; } |
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Point pt = new Point(); |
Point pt = new Point(); |
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//int x = new int(); // コンパイル不可。 |
//int x = new int(); // コンパイル不可。 |
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</syntaxhighlight> |
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</source> |
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=== Visual Basic === |
=== Visual Basic === |
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[[Microsoft Visual Basic|Visual Basic]]には、キーワードNewが存在し、COMのクラスのインスタンス作成に用いる。 |
[[Microsoft Visual Basic|Visual Basic]]には、キーワードNewが存在し、COMのクラスのインスタンス作成に用いる。 |
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<syntaxhighlight lang="vb"> |
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'MSXML2が参照設定されてあるものとする。 |
'MSXML2が参照設定されてあるものとする。 |
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Dim xd As MSXML2.DOMDocument |
Dim xd As MSXML2.DOMDocument |
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Set xd = New MSXML2.DOMDocument |
Set xd = New MSXML2.DOMDocument |
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</syntaxhighlight> |
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</source> |
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また、次のように変数の宣言と同時にインスタンスを作成し変数を初期化させることも可能である。 |
また、次のように変数の宣言と同時にインスタンスを作成し変数を初期化させることも可能である。 |
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<syntaxhighlight lang="vb">Dim xd As New MSXML2.DOMDocument</syntaxhighlight> |
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ただし、この2つのコード例は必ずしも同じ意味を持つとは限らない。 |
ただし、この2つのコード例は必ずしも同じ意味を持つとは限らない。 |
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=== Visual Basic .NET === |
=== Visual Basic .NET === |
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[[Microsoft Visual Basic .NET|Visual Basic .NET]]のNewは、概ねVisual Basicの構文を踏襲している。しかし、CLIクラスを対象にする点が異なる。 |
[[Microsoft Visual Basic .NET|Visual Basic .NET]]のNewは、概ねVisual Basicの構文を踏襲している。しかし、CLIクラスを対象にする点が異なる。 |
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<syntaxhighlight lang="vbnet"> |
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Dim o1 As System.Object |
Dim o1 As System.Object |
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o1 = New System.Object() |
o1 = New System.Object() |
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Dim o2 As New System.Object() |
Dim o2 As New System.Object() |
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</syntaxhighlight> |
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</source> |
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また、配列の初期化も可能となった。 |
また、配列の初期化も可能となった。 |
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<syntaxhighlight lang="vbnet"> |
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Dim a As Integer() |
Dim a As Integer() |
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a = New Integer() {0, 1, 2} |
a = New Integer() {0, 1, 2} |
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</syntaxhighlight> |
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</source> |
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== 他の手法 == |
== 他の手法 == |
2020年7月5日 (日) 22:54時点における版
newまたはNewは、C++を始めとしたオブジェクト指向プログラミング言語において、インスタンスを作成する演算子である。多くの場合、ヒープ領域からの動的メモリ確保(動的記憶域確保)を伴う。
new演算子によるインスタンスの作成は、大きく分けて、記憶域を確保することと初期化を行うことに分けられる。記憶域を確保する処理は、多くの場合言語の処理系が用意するが、後述するC++のようにプログラム内で独自に定義できるものもある。初期化は、コンストラクタを呼ぶことで行われ、プログラム内で自由に定義できることが一般的である。
概要
C++やC++の影響を受けた言語では、概ね次のような構文となっている。
var = new T
var
は、作成されたインスタンスへの参照を保持するポインタ型もしくは参照型の変数である。T
は、作成されるインスタンスのデータ型を指定する。T
がクラス型の場合、T
のインスタンスを生成するためにデフォルトコンストラクタが呼ばれる。クラス以外の型を指定可能かどうかは言語による。
次のように、newでインスタンスを生成する際には、初期化子 (initializer) を指定できる。
var = new T(init);
init
は初期化に用いる値を表す。T
がクラス型の場合、これを引数にしてコンストラクタが呼ばれる。
また、配列を作成することも可能である。なお、C++では、これをnew[]演算子として、new演算子と区別している。一方、JavaやC#では、new演算子の構文の一種として扱っている。
var = new T[size];
size
は、作成する要素数を指定する。なお、C++やC#では、次のようにnewした配列に初期化子を与えられる。
var = new T[size] {init1, init2, init3};
- C++では、初期化子リストの要素数よりも
size
が大きい場合、残りの要素はゼロもしくはデフォルトコンストラクタで初期化される。 - C#では、初期化子リストの要素数と
size
は同じでなければならないが、初期化子を指定すればsize
は省略可能である。 - Javaでは、初期化子を指定する場合は
size
を指定できない。
var = new T[] {init1, init2, init3};
また、JavaやC#の配列は、常にnew演算子でヒープに作られる存在であり、(2)のような配列変数の初期化は、(1)に対する糖衣構文となっている。
T[] var1 = new T[size] {init1, init2, init3}; // (1) new演算子を使用
T[] var2 = {init1, init2, init3}; // (2) 配列初期化の構文を使用、(1)と同じ意味
エラー処理
C++の場合、new演算子で記憶域確保に失敗すると、多くの場合、例外が投げられる。そのため、C言語関数のmallocなどと違い、newの結果は常に正当なオブジェクトを指し示しているものとして扱うことが可能である。ただし、古いコンパイラでは確保失敗時にNULLを返すものがあるので注意が必要である。また、組み込み用途など、コンパイラの設定で例外の使用を不可能にした場合も、確保に失敗したときはNULLが返却される。
C#およびJavaの場合、new演算子がnullを返すことはなく、必ず例外がスローされる。
言語ごとの詳細
C++
C++のnew演算子とnew[]演算子は、まず、同名の演算子関数(後述)で記憶域を確保し、次にコンストラクタを呼んでインスタンスの初期化を行う。C++のnew演算子という名称は、Simulaの同名の演算子に由来する。
deleteとdelete[]演算子
C++では、newあるいはnew[]で記憶域を動的に確保して生成したインスタンスは、不要になったときにそれぞれdeleteあるいはdelete[]演算子で破棄されなければならない。これはC言語においてmalloc関数で確保した領域をfree関数で解放することに相当するが、deleteあるいはdelete[]演算子の場合はメモリ解放の前にデストラクタが呼ばれる点が異なる。ヒープ領域に動的に確保されたメモリは自動的に破棄されることはなく、破棄し忘れたままプログラムを続行するとメモリリークとなる。多くの場合、明示的な破棄を毎回記述することはプログラマの負担となるため、破棄をデストラクタに任せるRAIIパターンが利用される。デストラクタを利用することで例外が発生しても確実に破棄することが可能となる(例外安全)。
従来のC++標準ライブラリにはスマートポインタのクラステンプレートとしてstd::auto_ptr
が定義されていたが、C++11では廃止予定となり、代わってstd::unique_ptr
やstd::shared_ptr
などが定義された。
#include <memory>
class Bar { /* ... */ };
void f()
{
auto b = std::make_unique<Bar>();
// make_unique<Bar>は、newとunique_ptrに関する補助的な関数テンプレートである。new Barを行い、結果のポインタをunique_ptr<Bar>に格納して返す。
// すなわち、上記はstd::unique_ptr<Bar> b(new Bar);に相当する。
//...
} // 有効範囲(スコープ)から外れるこの位置でbのデストラクタが実行される。unique_ptr<Bar>のデストラクタが、内包するBarオブジェクトのdeleteを行う。
動的配列のRAIIとしては、std::vector
クラステンプレートがよく利用される。
new演算子関数
new演算子とnew[]演算子での記憶域の確保を制御するために、これらの演算子は多重定義が可能である。そうして定義されたnewおよびnew[]演算子関数は、newおよびnew[]演算子での記憶域確保に使用される。そして、deleteおよびdelete[]演算子の記憶域の解放には、deleteおよびdelete[]演算子関数が使用される。
クラス内に設置した場合、そのクラスと派生クラスをnew演算子で作成する際の記憶域の確保に使用される。なおクラス内に置いた場合、staticを指定しなくても、自動的に静的メンバ関数として扱われる (X3014 12.5)。
class hoge
{
public:
static void* operator new(std::size_t);
static void* operator new[](std::size_t);
static void operator delete(void*);
static void operator delete[](void*);
};
new hoge
という式は次のように実行される。
- まず、new演算子関数の名前探索を行う(この例では、
hoge::operator new
が見つかる)。 - sizeof (hoge) の値を引数にしてnew演算子関数を呼び、記憶域確保を行う。
- new演算子関数が返したポインタの指す位置をthisポインタとして、コンストラクタを呼び、インスタンスを生成する。
new[]演算子関数がnew演算子関数と分かれている理由は、『C++の設計と進化』によれば、型Tの配列はTのオブジェクトではないという方針により、Tの配列を確保するためにTのnew演算子関数を使うわけには行かないと考えられたためである。そこで別途new[]演算子関数を設けることにしたのである (§10.3)。
なお、new T[n]としたとき、new[]演算子関数にはsizeof (T) * nよりも大きい値が引数に渡される可能性がある。これは、主にdelete[]で解放するときにデストラクタを呼ぶ回数(配列の要素数)を記録するためなどといった理由によるものである。
また、newとnew[]演算子関数は、クラスの外、名前空間内にも定義でき、new及びnew[]演算子関数が定義されていないクラスとその他の型では、名前探索を行って記憶域の確保に用いるnewないしnew[]演算子関数を決定する。このため、大域名前空間にはデフォルトのnewとnew[]演算子関数が定義されており、標準C++ライブラリの中で唯一の大域名前空間で定義された関数となっており、ヘッダ<new>に宣言が置かれている。一方で、この大域名前空間のnew、new[]演算子関数はプログラム内で定義を与えることも可能で、そうした場合、処理系の用意した定義に代わってプログラム内の定義が用いられる (X3014 17.4.3.4)。
::new Tのように、new、new[]に::を前置すると、大域名前空間のnew、new[]演算子関数で記憶域の確保することを強制できる (X3014 5.3.4 9)。この場合、解放には::delete、::delete[]を使用する必要がある。
ちなみに、初期のC++では記憶域の確保と初期化が分離しておらず、クラス型に対するnewで独自の記憶域の確保方法を用いるには、コンストラクタ内で、thisへ代入を行うという構文を用いていた (D&E 3.9)。
既定のnew演算子関数
大域名前空間のnew及びnew[]演算子関数がプログラムによって定義されなかった場合に用いられる既定の実装は、次のような動作を行う (X3014 18.4.1.1)。
- 次の内容のループを行う。
- 何らかの方法で記憶域確保を試みる。
- 成功すればそれを返すことで関数を抜ける。
- 失敗した場合、newハンドラが登録されているか確認する。
- 登録されていたら、そのnewハンドラを呼び出す。
- newハンドラが登録されていなければ、
std::bad_alloc
型のインスタンスが例外として投げられる。
- 何らかの方法で記憶域確保を試みる。
配置new
配置new (プレースメントnew, placement new) は、new演算子からnew演算子関数へ引数を与えられる機能である。当初、インスタンスを特定のメモリアドレスに「配置」するための機能ということで配置newと命名された。後に配置に限らず様々な使い道に応用できることが明らかとなったものの、今でも慣習的に配置newと呼ばれる。
例えばヘッダ<new>には、通常のnew、new[]演算子関数のほか、次のようなnew、new[]演算子関数が定義されている (X3014 18.4)。
void* operator new(std::size_t, void*) throw();
void* operator new[](std::size_t, void*) throw();
void* operator new(std::size_t, std::nothrow_t) throw();
void* operator new[](std::size_t, std::nothrow_t) throw();
上の2つは引数に与えられたポインタをそのままnew演算子関数の戻り値とするもので、当初の配置newの目論見どおり指定したメモリアドレスにオブジェクトを配置するために使用できる。
class Hoge {/* ... */};
void *p = std::malloc(sizeof (Hoge)); // new演算子を使わず、mallocでメモリ領域を確保する
Hoge *obj = new(p) Hoge;
//objを使う
obj->~Hoge();
std::free(p);
下の2つは記憶域が確保できなかったときに、例外を投げない代わりにヌルポインタを返すnewである(なお、newハンドラは呼ばれる)。std::nothrow_t型のインスタンスとしてstd::nothrowが定義されており、次のように使用する。
int* p = new(std::nothrow) int;
delete p;
deleteおよびdelete[]演算子は、std::nothrow_tを引数に取るnewが返す記憶域も解放できると定められている。また、std::nothrow_tを引数に取るものも、そうでない(nothrow_tを引数に取らない配置newでないnew演算子関数)もの同様にプログラム内で定義可能とされている (X3014 18.4.1.1 6)。
newおよびnew[]演算子を使用した際、コンストラクタが例外を投げると、コンパイラは引数の対応するdeleteないしdelete[]演算子関数で記憶域を解放しようとする。そのため、newおよびnew[]演算子で独自の記憶域確保を行う場合、対応するdelete、delete[]演算子を用意すべきであるとされる[1]。
class MyAllocator;
class Foo
{
static void* operator new(std::size_t, MyAllocator);
static void* operator new[](std::size_t, MyAllocator);
static void operator delete(void*, MyAllocator);
static void operator delete[](void*, MyAllocator);
};
エラー処理
newやnew[]が記憶域を確保できなかった場合、既定では例外クラス型std::bad_alloc
(またはその派生クラス)のインスタンスが投げられるが、カスタマイズすることも可能である。
newハンドラ
newハンドラは、既定のnewおよびnew[]演算子関数で記憶域確保に失敗した場合に呼ばれるコールバック関数であり、std::set_new_handler
関数で登録できる。当時まだ例外処理がなかったC++で、記憶域確保の失敗をまとめて取り扱うために導入された。
newハンドラでは、例外を投げたり、プログラムを終了させたりするなどのほか、何らかの方法で記憶域に空きを作ることで、newおよびnew[]演算子関数の記憶域確保を成功へ導かせることも可能である。
C++/CLI
C++/CLIでは、C++のnew演算子のほかに、マネージヒープから記憶域を確保するgcnew演算子が存在する。
System::Object^ o = gcnew System::Object;
gcnewには、配置構文は存在しない。
また、gcnewにはnew[]演算子に相当する配列構文も存在しない。CLI配列(マネージ配列)の作成には、arrayキーワード (cli::array型) を用いる[2][3]。
array<int>^ a1 = gcnew array<int>(10); //要素数10の1次元配列
array<int, 2>^ a2 = gcnew array<int, 2>(3, 4); //3×4の2次元配列
ただし、gcnewには配列初期化の構文が存在する。
array<int>^ a1 = gcnew array<int>(4) {0, 1, 2, 3};
array<int>^ a2 = gcnew array<int> {0, 1, 2, 3}; //上と同じ。初期化子から要素数が算出される。
array<int, 2>^ a3 = gcnew array<int, 2> {{0, 1}, {2, 3}}; //多次元配列の例
C#
C#のnew演算子は、インスタンスを生成・初期化するという意味を持っており、参照型を対象とする場合はヒープから記憶域を確保するが、値型(構造体や列挙型)を対象とする場合は単に一時的なインスタンス(これはヒープ上に生成されるのではない)を初期化するだけである。
下のコードの場合、少なくとも概念上は、一時的なint
型のインスタンスが生成され、それがx
へコピーされているという扱いである。
// intは値型なので、xはスタック上に存在する。
int x = new int();
上記は以下と等価である。
int x = 0;
Java
Javaのnew演算子もC#と同じくオブジェクトの生成と初期化に利用される。ただしC#と違ってプリミティブ型の初期化にnew演算子は使えない。
class Point { int x, y; }
Point pt = new Point();
//int x = new int(); // コンパイル不可。
Visual Basic
Visual Basicには、キーワードNewが存在し、COMのクラスのインスタンス作成に用いる。
'MSXML2が参照設定されてあるものとする。
Dim xd As MSXML2.DOMDocument
Set xd = New MSXML2.DOMDocument
また、次のように変数の宣言と同時にインスタンスを作成し変数を初期化させることも可能である。
Dim xd As New MSXML2.DOMDocument
ただし、この2つのコード例は必ずしも同じ意味を持つとは限らない。
Visual Basic .NET
Visual Basic .NETのNewは、概ねVisual Basicの構文を踏襲している。しかし、CLIクラスを対象にする点が異なる。
Dim o1 As System.Object
o1 = New System.Object()
Dim o2 As New System.Object()
また、配列の初期化も可能となった。
Dim a As Integer()
a = New Integer() {0, 1, 2}
他の手法
オブジェクト指向の言語では、何かしらの方法によりオブジェクトを生成できるようにする必要があるが、その手段が演算子である必然性はない。例えば、C++では、参照やポインタとしてでなく宣言されたオブジェクト型の変数は、暗黙のうちにオブジェクトを生成し、自動的に初期化される。また、Objective-CやRuby[4]のように、オブジェクトの生成をクラスメソッドにより行う言語もあるほか、オブジェクトの生成をファクトリメソッドに落としこんで、継承により上書き可能な形とすることも行われる。
参考文献
- JIS X3014:2003 『プログラム言語C++』
- (D&E) 『C++の設計と進化』(2005) ビャーネ・ストロヴストルップ著 επιστημη監修 岩谷宏訳 ソフトバンククリエイティブ ISBN 978-4-7973-2854-7
関連項目
脚注
- ^ Effective C++ 原著第3版 52項
- ^ Arrays (C++ Component Extensions)
- ^ Platform, default, and cli Namespaces (C++ Component Extensions)
- ^ instance method Class#new Ruby 1.9.2 リファレンスマニュアル、2013年11月22日閲覧。