「中心柱」の版間の差分
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'''中心柱'''(ちゅうしんちゅう)とは、[[維管束植物]]において、その[[茎]]の内部の[[維管束]]を含む部分を指す。植物体の基本的な構成要素と考える立場もあるが、単に維管束の配置の意味で使われる場合も多い。維管束植物の[[進化]]を考える上で重要と考えられる。 |
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| image1 = Plant stem (255 07) Cross-section of stem of Aristolochia.jpg |
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| caption1 = [[ウマノスズクサ属]] (ウマノスズクサ科) の茎の真正中心柱. |
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| image2 = Monocot Stem Zea (35754019861).jpg |
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| caption2 = [[トウモロコシ属]] ([[イネ科]]) の茎の不整中心柱. |
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| image3 = Herbaceous_Dicot_Root_Closed_Vascular_Bundle_in_Mature_Ranunculus_(35613584780).jpg |
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| caption3 = [[キンポウゲ属]] ([[キンポウゲ科]]) の根の放射中心柱. |
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'''中心柱'''(ちゅうしんちゅう、英:stele, [[複数形|''pl.'']] stelae; central cylinder)とは、[[維管束植物]] (広義の[[シダ植物]]と[[種子植物]]) の[[茎]]や[[根]]の中心付近、[[維管束]]組織を含む領域のことである<ref name="Shimizu2001中心柱">{{cite book|author=清水 建美|year=2001|chapter=中心柱|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=187–190}}</ref><ref name="Iwasa2013中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=913}}</ref>。[[内皮 (植物)|内皮]]よりも内側の部分を指すが、内皮が無い場合にはおおよそ相当する部分を境界とする。 |
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中心柱は、[[維管束植物]]を構成する[[組織]]の区分の1つとして、19世紀に[[フィリップ・エドゥアール・レオン・ヴァン・ティガン|ヴァン・ティガン]] (van Tieghem) によって提唱された。彼は、維管束植物の体 (頂端分裂組織由来の組織である一次組織からなる[[胞子体]]) は[[表皮]]・[[皮層]]・中心柱の3組織系からなるとした。根を構成する組織系の区分としては、現在でも用いられることがある。ただし現在では、維管束植物の体を構成する組織系としては[[表皮]]系・基本組織系・[[維管束]]系の3区分が用いられることが多い (この場合、中心柱は基本組織系の一部と維管束系からなる)。 |
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また[[茎]]や[[根]]において、[[維管束]]の配置様式のことも中心柱とよばれる。この意味での中心柱にはさまざまな型が知られており、維管束植物の進化を考える上で重要視されている。最も単純な型として、中心に[[木部]]が位置しその周囲を[[師部]]が取り囲んでいるものがあり、'''[[#原生中心柱|原生中心柱]]'''とよばれる。原生中心柱 (放射中心柱や板状中心柱を含む) は、全ての[[維管束植物]]の[[根]]と共に、[[ヒカゲノカズラ類]]などの[[茎]]にもみられる。木部が管状に配置している中心柱は'''[[#管状中心柱|管状中心柱]]'''とよばれ、[[シダ植物門|シダ植物 (狭義)]] の茎にみられる。[[種子植物]]の茎では、木部と師部がセットとなった維管束が輪状に配置 ('''[[#真正中心柱|真正中心柱]]''') または散在している ('''[[#不整中心柱|不整中心柱]]''')。このような中心柱の多様性に基づく維管束植物の系統論は、中心柱説とよばれる。 |
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== 概説 == |
== 概説 == |
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[[フィリップ・エドゥアール・レオン・ヴァン・ティガン|ヴァン・ティガン]]らは、維管束植物の胞子体を構成する一次組織 (頂端分裂組織に由来する組織) を、[[表皮]]・[[皮層]]・中心柱の3つの組織系に分けることを提唱した (van Tieghem & Duliot 1886)<ref name="Iwasa2013中心柱" /><ref name="Hara1994ファンティーガン">{{cite book|author=原 襄|year=1994|chapter=ファンティーガンの分類|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=94–95}}</ref>。表皮は植物体最外層を覆う組織であり、皮層と中心柱の境界は[[内皮 (植物)|内皮]]であるとした (内皮は皮層の最内部とされる)<ref name="Hara1994根中心柱">{{cite book|author=原 襄|year=1994|chapter=中心柱|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|page=51}}</ref>。 |
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維管束植物の内部には、水や栄養を輸送する管状の構造があり、それらはまとまって束状になっている。これを維管束と言う。それぞれの維管束には主として水を運ぶ[[道管]]からなる部分と栄養を運ぶ師管からなる部分に分かれ、前者を[[木部]]、後者を[[師部]]と呼ぶ。 |
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[[根]]にはふつう[[内皮 (植物)|内皮]]が存在するため皮層と中心柱の境界は明瞭であるが、茎では明瞭な内皮がみられないことが多い。内皮がない場合には、おおよそそれに相当する部分を境界とする<ref name="Hara1994ファンティーガン" />。ただし、この組織系区分は葉には適用されない<ref name="Hara1994ファンティーガン" />。[[根]]においては頂端分裂組織 ([[根端分裂組織]]) からの組織形成と表皮・皮層・中心柱の区分は比較的よく対応しているが、[[茎]]では頂端分裂組織 ([[シュート頂分裂組織]]) における組織形成とは対応しないことも多い<ref name="Tamura1999中心柱">{{cite book|author=田村 道夫|year=1999|chapter=中心柱|editor=|title=植物の系統|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921265|pages=60–63}}</ref>。維管束植物の体を構成する組織系としては、[[ユリウス・フォン・ザックス|ザックス]]による[[表皮]]系・[[基本組織系]]・[[維管束]]系の3区分 (Sachs 1875) が最も広く用いられているが、この区分では中心柱は基本組織系の一部と維管束系からなる<ref name="Iwasa2013中心柱" /><ref name="Hara1994ザックス">{{cite book|author=原 襄|year=1994|chapter=ザックスの分類|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|page=95}}</ref>。 |
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維管束は[[葉]]などでは細かく分かれてバラバラに広がっているが、茎では特徴的な配置をする。特に一次組織における維管束の配置のことを中心柱(central cylinder, stele)と呼んでいる。最もよく知られているのは、[[真正中心柱]]であろう。[[裸子植物]]と[[被子植物]]の大部分([[単子葉類]]を除く)の茎に見られるものである。若い茎の断面でその形が観察できる。ただしこれらの植物の[[根]]では[[放射中心柱]]となっている。また、単子葉植物では[[散在中心柱]]が見られる。それ以外の型の中心柱のほとんどは[[シダ植物]]に見られるものである。 |
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現在では、原義のように[[維管束植物]]の基本的な組織系の1つとして中心柱という用語を使うことは少ないが、根や茎において中心部を大まかに示すためにしばしば用いられる<ref name="Hara1994ファンティーガン" />。また以下のように、[[根]]や[[茎]]における[[維管束]]の配置様式を示すために中心柱という用語が用いられることが多い。 |
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なお、中心柱と維管束の形には強い関連がある。たとえば真正中心柱の場合は並立維管束であるが、原生中心柱や管状中心柱では包囲維管束である。 |
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== 中心柱の型 == |
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中心柱における維管束 (一次維管束) の配置には大きな多様性があり、以下のような型に類別される<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" />。 |
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中心柱の概念を提出したのは[[フィリップ・エドゥアール・レオン・ヴァン・ティガン|ヴァン・ティガン]](1886)である。彼は茎を[[表皮]]、[[細胞皮層|皮層]]、'''中心柱'''の三つに区分し、これらは茎頂部における原表皮、原皮層、原中心柱に対応するものとした。彼によれば、皮層と中心柱の間には[[内皮 (植物)|内皮]]があり、これによって両者は区別できる。 |
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[[ファイル:SteleOfVascularPlants.png|thumb|center|600px|'''1'''. さまざまな中心柱の型 (赤は[[木部]]、青は[[師部]]). '''a'''. 単純原生中心柱. '''b, c'''. 放射中心柱. '''d'''. 板状中心柱. '''e'''. 外師管状中心柱. '''f'''. 両師管状中心柱. '''g'''. 網状中心柱. '''h'''. 真正中心柱. '''i'''. 不整中心柱. ]] |
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=== 原生中心柱 === |
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しかし、内皮は根では恒常的に見られるものの、茎では不明の場合が多く、実際にはこの両者を明確に区別できない例も多い。また、分裂組織との対応も混乱が見られる。そのため、本来の意味ではこの語を使うことが少なくなっている。ファンティガン自身はこれを植物体を構成する基本的な[[組織系]]の一つと見て、植物体はこれと皮層、それに表皮の三つの組織系の組み合わせで説明しようとした。しかしこの考え方がそのまま認められることは現在ではほとんどなくなっている。 |
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[[根]]や[[茎]]など軸の中心に[[木部]]が位置し、その周囲に[[師部]]がある中心柱は'''原生中心柱''' (げんせいちゅうしんちゅう、protostele) とよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013原生中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=原生中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=424}}</ref><ref name="Gifford2002中心柱説" />。ふつう[[内皮 (植物)|内皮]]で囲まれる。原生中心柱は、その配列様式に応じて以下のような型に分けられる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013原生中心柱" />。 |
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*<span id="単純原生中心柱"></span>'''単純原生中心柱''' (原始中心柱、単中心柱、haplostele)<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013原生中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=維管束組織系|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=51–55}}</ref> |
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つまり、はっきり周りから区別できる実体としての中心柱は明らかではないことが多い。それでも、維管束の構造と配置をまとめる言葉としては中心柱は有効であると考えられ、今日ではこの意味で使われることが多い。維管束の配置は特にシダ植物では群による違いが大きく、これらは陸上植物の進化の早い段階での発達の経過を示唆するものと考えられる。 |
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*:中央に円柱状の[[木部]]が位置し、その周囲を[[師部]]が取り囲んでいる中心柱 ('''図1a''')。つまり1個の[[外師包囲維管束]]からなる。[[ウラボシ綱]]の茎でも一部の種 ([[ウラジロ]]、[[カニクサ]]、[[シシラン]]、[[スジヒトツバ]]など) に見られるが、これらの中には成長すると管状中心柱 (下記) になる例も知られている。また明らかに二次的な単純化によってこれと似た形になったと考えられるものが[[マツモ]] ([[マツモ科]]) や[[スギナモ]] ([[オオバコ科]])、[[フサモ]] ([[アリノトウグサ科]]) などの水生の[[被子植物]]の茎に見られ、'''退行中心柱''' (hysterostele) とよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /> ('''図2a''')。退行中心柱は内皮を欠く。 |
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*<span id="放射中心柱"></span>'''放射中心柱''' (ほうしゃちゅうしんちゅう、actinostele)<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013放射中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=放射中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|pages=1299-1300}}</ref> |
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*:中央の[[木部]]が数カ所突出 ("腕") して横断面で星状になり、その突出部の間に[[師部]]が位置している中心柱 ('''図1b, 2b''')。中心が髄 (柔組織など) になって木部の"腕"が独立している場合もあり、この場合木部と師部が交互に配列している ('''図1c, 2c''')。このような維管束は[[放射維管束]]とよばれる。ほとんどの[[維管束植物]]の[[根]]に見られ、また[[ヒカゲノカズラ類]]や[[マツバラン目|マツバラン類]] の[[茎]]にも存在する ('''図2d''')。 |
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*<span id="板状中心柱"></span>'''板状中心柱''' (ばんじょうちゅうしんちゅう、背腹中心柱、plectostele)<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013板状中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=板状中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1121}}</ref> |
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*:中央の[[木部]]が平行にならんだ複数の板状の要素に分かれ、その間や周囲に[[師部]]が位置する中心柱 ('''図1d, 2e''')。このような維管束は[[平行帯状維管束]]とよばれる。[[ヒカゲノカズラ類]]の[[茎]]にしばしば見られる。 |
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| image1 = Aquatic Herbaceous Dicot Stem Myriophyllum (35811246111).jpg |
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| caption1 = '''2a'''. [[フサモ属]] ([[アリノトウグサ科]]) の退行中心柱 (茎の横断面). |
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| image2 = Ranunculus root 2.jpg |
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| caption2 = '''2b'''. [[キンポウゲ属]] ([[キンポウゲ科]]) の放射中心柱 (根の横断面). 中央に4方向に突出した木部があり、突出部の間に師部が存在する. |
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| image3 = Monocot_Root_Endodermis_in_Smilax_(35615771550).jpg |
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| caption3 = '''2c'''. [[シオデ属]] ([[サルトリイバラ科]]) の放射中心柱 (根の横断面). 多数の木部が輪状にならび、その間に小さな細胞が集合した師部が存在する. 根の中央は大きな髄となっている. |
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| image4 = Psil1001 Psilotum stem.jpg |
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| caption4 = '''2d'''. マツバラン属 (マツバラン綱) の放射中心柱 (茎の横断面). 中央に星状の木部があり、師部で囲まれている. |
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| image5 = Lycopodium stem 2 L.jpg |
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| caption5 = '''2e'''. [[ヒカゲノカズラ属]] ([[ヒカゲノカズラ綱]]) の板状中心柱 (茎の横断面). 不規則な板状の木部 (A) の間に師部 (B) が分布している. 中心柱は内皮 (C) で囲まれている. |
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=== 管状中心柱 === |
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[[木部]]が管状になりその外面または内外両面に[[師部]]が位置する中心柱は、'''管状中心柱''' (かんじょうちゅうしんちゅう、siphonostele, solenostele) とよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013管状中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=管状中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=264}}</ref>。維管束環より内側の部分は[[髄]] (pith) とよばれる。管状中心柱は、師部の配置に基づいて以下の2型に分けられる。 |
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*<span id="外師管状中心柱"></span>'''外師管状中心柱''' (がいし-、ectophloic siphonostele)<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013管状中心柱" /><ref name="Gifford2002シダ">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=シダ目 維管束の型|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=270–277}}</ref> |
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*:管状の[[木部]]の外側に[[師部]]が位置する中心柱 ('''図1e''')。ふつう外側が[[内皮 (植物)|内皮]]で囲まれている (外立内皮、ときに両立内皮)。[[ハナヤスリ科]] ([[マツバラン綱]]) や[[ゼンマイ]] ([[ウラボシ綱]]) などの茎に見られるが、例は多くない。[[トクサ属]] (トクサ綱) の中心柱も外師管状中心柱の一型とされることがある ([[#トクサ型外師管状中心柱|下記参照]])。 |
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*<span id="両師管状中心柱"></span>'''両師管状中心柱''' (りょうし-、amphiphloic siphonostele, solenostele [狭義])<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013管状中心柱" /> |
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*:管状の[[木部]]の内外両側に[[師部]]が位置する中心柱 ('''図1f''')。ふつう内外が[[内皮 (植物)|内皮]]で囲まれている (両立内皮)。[[ウラボシ綱]]の茎にふつうに見られる。 |
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<span id="網状中心柱"></span>管状中心柱 (特に両師管状中心柱) において、多数の[[葉隙]] ('''図3a'''; [[葉]]への[[維管束]]が分かれた上部にできる維管束の欠損部であり、[[柔組織]]で充填されている) ができて管が網状になった中心柱を、特に'''網状中心柱''' (もうじょうちゅうしんちゅう、dictyostele) という<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013網状中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=網状中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1393}}</ref>。横断面では、維管束 (ふつう[[外師包囲維管束]]) が輪状にならんでいる ('''図1g, 3b''')。このように分断された維管束の各要素は、分柱 (meristele) とよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013網状中心柱" />。[[ウラボシ綱]]の茎に多く見られる<ref name="Shimizu2001中心柱" />。また葉隙ではない維管束の欠損部が存在する場合があり、このような網状中心柱は分裂網状中心柱 (dessected dictyostele) ともよばれる<ref name="Gifford2002中心柱説" />。 |
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| image1 = Leaf gap and leaf trace.svg |
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| caption1 = '''3a'''. 葉を付けたの茎の横断面. 灰色は維管束を示す. 管状中心柱から葉跡 (Trace foliaire) が分離した上部に葉隙 (Lacune foliaire) が形成される. |
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| image2 = Pteridium pinetorum ssp. sibiricum.tif |
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| caption2 = '''3b'''. [[ワラビ属]] ([[ウラボシ綱]]) の2環網状中心柱 (根茎の横断面). 網状中心柱が内外2環に配置しており、その間には厚壁組織が存在する (赤く染色). [[維管束]]は木部の周囲を師部が取り囲んでいる (両師包囲維管束). |
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| image3 = Łodyga skrzypu.jpg |
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| caption3 = '''3c'''. [[トクサ属]] ([[トクサ綱]]) のトクサ型外師管状中心柱 (茎の横断面). 節間における維管束の配置は真正中心柱 (下記) に類似している. |
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<span id="多環中心柱"></span>管状中心柱や網状中心柱において、[[木部]]・[[師部]]からなる管が2重、3重に配置されたものがあり、'''多環中心柱''' (たかんちゅうしんちゅう、polycyclic stele) と総称される<ref name="Shimizu2001中心柱" />。具体的には、2環管状中心柱、3環管状中心柱、2環網状中心柱、3環網状中心柱などとよばれる。[[リュウビンタイ綱]]や[[ウラボシ綱]]の茎にしばしば見られ、たとえば[[ワラビ]]の茎は2環網状中心柱をもつ<ref name="Shimizu2001中心柱" /> ('''図3b''')。 |
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<span id="トクサ型外師管状中心柱"></span>[[トクサ類]] ([[トクサ綱]]) の[[茎]]の節間では、内側と両脇に[[木部]]を伴う[[師部]]からなる特異な[[維管束]]が環状に配列しており、下記の真正中心柱に似ている<ref name="Gifford2002トクサ" /> (真正中心柱とよばれることもある<ref name="Shimizu2001中心柱" />) ('''図3c''')。しかし節では木部が発達してつながった輪となり、外師管状中心柱の形を示す<ref name="Gifford2002トクサ" />。そのため[[種子植物]]の真正中心柱とは異なる起源をもつと考えられており<ref name="Iwasa2013真正中心柱" />、トクサ型外師管状中心柱 (穿孔外師管状中心柱) とよばれる<ref name="Gifford2002トクサ">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=トクサ門 成熟した茎の内部構造 維管束組織系|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=189–190}}</ref>。トクサ類の中心柱には、[[内皮 (植物)|内皮]] (外立内皮、両立内皮、または自立内皮) が存在する<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002トクサ" />。 |
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== 一般的な型 == |
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[[File:Typy Stele.jpg|thumb|いろいろな中心柱の模式図]] |
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=== 真正中心柱 === |
=== 真正中心柱 === |
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[[木部]]と[[師部]]のセットが単位となり (分柱とよばれ、ふつう[[並立維管束]]、ときに[[倒並立維管束]]または[[複並立維管束]])、これが1輪の環状に配置している中心柱は'''真正中心柱''' (しんせいちゅうしんちゅう、eustele) とよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013真正中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=真正中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=705}}</ref> ('''図1h, 4a, b''')。維管束環より内側は[[髄]] (pith) とよばれる。[[維管束植物]]のうち、[[種子植物]]の多く ([[単子葉類]]を除く) は[[茎]]に真正中心柱をもつ<ref name="Shimizu2001中心柱" />。 |
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[[真正中心柱]]では、楕円形の維管束が複数、茎の中心からほぼ等距離に円を描くように並んでいる。個々の維管束では内側に道管を含む木部、外側に師管を含む師部が位置する並立維管束である。維管束より内側は[[髄]]となる。 |
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真正中心柱において、各[[維管束]]は複雑に分岐・融合をしており、一部は葉に入る[[葉跡]]となる<ref name="Gifford2002原裸子植物" /><ref name="小倉1962葉跡">{{cite book|author=[[小倉謙 (植物学者)|小倉 謙]]|year=1962|chapter=葉跡|editor=|title=植物解剖および形態学|publisher=養賢堂|isbn=978-4-8425-0190-1|pages=77-80}}</ref> ('''図4c''')。 |
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なお、二次[[肥大成長]]が行われる場合、[[分裂組織]]は維管束の木部と師部の間に割って入り、この[[形成層]]からは内側に木部、外側には師部を形成する。それが続くと本来の真正中心柱の形態は内側に押し潰され、全体に木部と師部が充満した姿となる。普通の材木はこの木部の部分に当たる。 |
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真正中心柱では[[内皮 (植物)|内皮]]をもたないことが多いが、[[地下茎]]ではしばしば中心柱全体を取り囲む内皮 (外立内皮) が存在する<ref name="Shimizu2001中心柱" />。また[[バイカモ]] ([[キンポウゲ科]]) などではそれぞれの維管束 (分柱) が内皮 (自立内皮) で囲まれており、このような中心柱は特に分裂真正中心柱 (separated eustele) ともよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013真正中心柱" />。 |
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この型は単子葉植物以外の種子植物に見られ、他に[[ハナヤスリ類]]に見られる。また、[[トクサ植物]]のものはやや異なっているが、これの一つの型だと考えられている。 |
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[[茎]]にみられる中心柱のうち、真正中心柱をもつ植物だけが二次成長 ([[肥大成長]]) を行う<ref name="Iwasa2013真正中心柱" /> (真正中心柱をもつ植物でも二次成長を行わないものはいる)。二次成長を行うものでは、各維管束 (分柱) の木部と師部の間に維管束内形成層 (intrafascucular cambium) が生じ、これがそれぞれの維管束の間に形成される維管束間形成層 (interfascucular cambium) でつながって1輪の[[維管束形成層]] (vascular cambium) になる<ref name="Iwasa2013形成層" /><ref name="Shimizu2001側部分裂組織">{{cite book|author=清水 建美|year=2001|chapter=側部分裂組織|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=195–196}}</ref>。維管束形成層は内側に[[木部#二次木部|二次木部]] (材)、外側に[[師部#二次師部|二次師部]]を形成して肥大成長する ('''図4d''')。これが続くと本来の真正中心柱の形態は分断し押し潰され、茎の大部分は二次木部に占められた姿となる。 |
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=== 放射中心柱 === |
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[[放射中心柱]]は、木部と師部が別個にまとまり、それらが同一円周上に交互に並ぶものである。維管束の形として放射維管束と言うこともある。維管束植物では、根でこの形が見られる。なお、肥大成長する場合、形成層は師部の内側、木部の外側を蛇行するように配置し、内部へ木部を、外側へ師部を作るので、その断面は次第に幹のそれに似てくる。 |
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=== 不斉中心柱 === |
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単子葉植物の茎に見られるもので、維管束が茎の断面に不規則かつまばらに入っている状態のものを指す。個々の維管束に関しては真正中心柱のそれと同じく、木部が内側に位置する並立維管束であるのが普通である。 |
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| image1 = Анатомия побега Atragene sibirica.tif |
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| caption1 = '''4a'''. [[センニンソウ属]] ([[キンポウゲ科]]) の真正中心柱 (茎の横断面). [[並立維管束]]が環状にならんでいる. |
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| image2 = Plant stem (255 06) Cross-section of stem of Aristolochia.jpg |
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| caption2 = '''4b'''. [[ウマノスズクサ属]] ([[ウマノスズクサ科]]) の真正中心柱 (茎の横断面). 並立維管束が環状にならんでいる. |
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| image3 = Meyers b6 s1003 b1.png |
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| caption3 = '''4c'''. [[ニワトコ属]] ([[レンプクソウ科]]) の茎の真正中心柱における維管束の走行. h, s' は葉跡. |
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| image4 = Woody_Dicot_Stem_Ray_System_in_Sambucus_(36672132575).jpg |
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| caption4 = '''4d'''. ニワトコ属 (レンプクソウ科) の二次成長をしている真正中心柱 (茎の横断面). 内側 (写真右側) に突出している部分が一次木部、その左側が付加された二次木部. |
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=== 不整中心柱 === |
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この型の中心柱では、維管束と見えるものの多くは実際には葉へ向かう維管束、つまり[[葉跡]]である。単子葉植物では一枚の葉に入る維管束の数が多く、それらが茎の中を長く走るために多数の維管束があるような形になっている。 |
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[[木部]]と[[師部]]のセットが単位となり (ふつう[[並立維管束]]、ときに[[外木包囲維管束]])、これが不規則に散在している中心柱は'''不整中心柱''' (不斉中心柱、ふせいちゅうしんちゅう;散在中心柱、さんざいちゅうしんちゅう;atactostele) とよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Gifford2002中心柱説" /><ref name="Iwasa2013不整中心柱">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=不整中心柱|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1203}}</ref> ('''図1i, 5a, b, c''')。ふつう周縁部の維管束が小さく、密に配置する ('''図5a, b''')。不整中心柱において維管束は複雑な走行を示し、[[葉]]に入る[[維管束]] (葉跡) が[[茎]]の中を長く走行している<ref name="小倉1962葉跡" />。[[維管束植物]]のうち、[[単子葉類]]の茎にみられる。中心柱としては、真正中心柱の一型として扱われることもある<ref name="Gifford2002中心柱説" />。 |
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不整中心柱はふつう[[内皮 (植物)|内皮]]を欠くが<ref name="Shimizu2001中心柱" />、地下茎では内皮がみられることがある ('''図5c''')。 |
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=== 原生中心柱 === |
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[[原生中心柱]]は、[[ヒカゲノカズラ類]]などに見られ、それ以外のシダ類にも点々と見られる。茎の中心に一本だけ維管束があり、その中心を木部が、外側を師部が覆う包囲維管束であり、それら全体が内皮に包まれる。最も原始的な中心柱だと考えられる。一般的なシダ類の中にも[[スジヒトツバ]]のようにこの形になるものがあり、これらではむしろ[[退化]]的に出現したとの見方もある。 |
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=== 管状中心柱 === |
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木部が管状になったものを[[管状中心柱]]という。これは原生中心柱の中心が柔組織になったものと考えられ、その場合、師部は木部の内外側に層を成す。これを外師管状中心柱という。 |
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| image1 = Zea Mays stem.jpg |
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| caption1 = '''5a'''. [[トウモロコシ]] ([[イネ科]]) の不整中心柱 (茎の横断面). |
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| image2 = Monocot Stem Zea (34877702935).jpg |
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| caption2 = '''5b'''. トウモロコシ (イネ科) の不整中心柱 (茎の横断面). 並立維管束が散在している. |
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| image3 = Rhizome_(254_28)_Lily_of_the_Valley_(Convallaria_majalis).jpg |
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| caption3 = '''5c'''. [[スズラン属]] ([[キジカクシ科]]) の不整中心柱 (根茎の横断面). 並立維管束 (一部は外木包囲維管束) が散在しており、内皮が存在する. |
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[[単子葉類]]の不整中心柱において[[維管束]]の[[木部]]と[[師部]]の間に生じた[[形成層]]は発達せず、ふつう典型的な二次成長 ([[肥大成長]]) を行うことはない<ref name="Shimizu2001側部分裂組織" /><ref name="Iwasa2013不整中心柱" />。ただし、維管束外に特殊な形成層が生じて二次成長を行うものがいる ([[リュウケツジュ]]など)<ref name="Iwasa2013不整中心柱" />。 |
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不整中心柱は[[単子葉類]]以外にも[[コショウ科]]にみられることもあるが、この場合は維管束内に発達した形成層がつくられることがある<ref name="Shimizu2001中心柱" />。 |
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== 中心柱の進化 == |
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さらに、内側にも師部があるものを両師管状中心柱という。この形では、葉に向かう維管束が出るところは葉跡として管の一部が切り欠かれた状態となる。このような葉跡が多数生じると、管が穴だらけの網で作られたような状態となり、これを網状中心柱と言う。たとえば[[イノモトソウ科]]はこのどちらかの形を取る。 |
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[[ファイル:Rhynia_stem.jpg|250px|thumb|[[リニア属]]の"茎"の横断面. 原生中心柱 (単純原生中心柱) をもつ.]] |
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中心柱の様式は、伝統的に[[維管束植物]]の進化、系統を考察する際に重視されている。上記のような中心柱の型に基づく系統論は'''中心柱説''' (stelar theory) とよばれる<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013中心柱" /><ref name="Tamura1999中心柱" /><ref name="Hara1994中心柱">{{cite book|author=原 襄|year=1994|chapter=中心柱の比較|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|page=58}}</ref>。 |
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[[リニア属]]など初期[[維管束植物]]の絶滅群には単純原生中心柱が見られ ('''右図''')、これが最も祖先的な中心柱であると考えられている<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013原生中心柱" /><ref name="Hara1994中心柱" />。原生中心柱は、全ての[[維管束植物]]の[[根]]にみられ、また[[ヒカゲノカズラ類]]の茎にも存在する<ref name="Hara1994中心柱" />。種子植物の根における原生中心柱 (放射中心柱) では、[[木部]]と[[師部]]の間に[[維管束形成層]]が生じて二次成長 ([[肥大成長]]) を行う<ref name="Iwasa2013形成層">{{cite book|author=巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編)|year=2013|chapter=形成層|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=389}}</ref>。また化石種の中には、茎の原生中心柱 (または管状中心柱) でも二次成長を行うものが知られている ([[リンボク]]、[[ロボク]]など)<ref name="Gifford2002リンボク目">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=リンボク目|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=154–162}}</ref><ref name="Gifford2002化石トクサ">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=化石トクサ類|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=205–209}}</ref>。ただしこのような植物において形成される二次維管束はわずかであり、またほとんどの場合二次師部は形成されない。 |
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さらに、管が複数、同心円状に配置したものを多環中心柱という。たとえば[[ワラビ]]は網状中心柱が二重になった二環中心柱である。 |
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原生中心柱の中心に髄ができることで、管状中心柱が形成される<ref name="Iwasa2013中心柱" /><ref name="Iwasa2013原生中心柱" /><ref name="Hara1994中心柱" />。管状中心柱は、[[シダ植物門|狭義のシダ植物]]の茎に多くみられる<ref name="Hara1994中心柱" />。原生中心柱の中には中央に髄が形成されているものがあり (有髄原生中心柱 medullated protostele)、外師管状中心柱との中間型と考えられている<ref name="Iwasa2013原生中心柱" />。また葉隙が多く形成されることで網状中心柱が形成される<ref name="Hara1994中心柱" />。古くは、このような網状中心柱が進化的に種子植物の真正中心柱につながったと考えられたこともあるが、現在では真正中心柱は原生中心柱から直接生じたものと考えられている<ref name="Gifford2002原裸子植物">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=原裸子植物の系統的な重要性|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=343–349}}</ref> (下記)。 |
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== その進化 == |
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これらのうちで最も原始的なのが原生中心柱と見られる。上記のように管状中心柱はこれの中心に髄が発達したものに由来すると考えられる。 |
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[[種子植物]]の祖先において、原生中心柱が放射方向に分断化することによって真正中心柱が成立したと考えられている<ref name="Iwasa2013中心柱" /><ref name="Hara1994中心柱" />。[[種子]]を獲得する以前の種子植物の祖先群である[[原裸子植物]]では、原生中心柱の分断化、真正中心柱の成立を示す化石記録が残されている<ref name="Gifford2002原裸子植物" />。また真正中心柱は成立時から二次成長 ([[肥大成長]]) と関連しており、原裸子植物は基本的に全て木本性である。また現生維管束植物の中で明らかな二次成長を行う種は茎に真正中心柱をもつ<ref name="Iwasa2013真正中心柱" />。種子植物の中で、[[単子葉植物]]では維管束が輪状に配列されず散在することで不整中心柱が形成される<ref name="Iwasa2013中心柱" /><ref name="Iwasa2013不整中心柱" /><ref name="Hara1994中心柱" />。このことは、単子葉植物が[[維管束形成層]]による二次成長能を欠いていること (輪状の維管束形成層を形成する必要がない) や葉跡 ([[葉]]に入る維管束) を多く生じることと関係していると考えられている<ref name="Iwasa2013不整中心柱" /><ref name="Hara1994中心柱" />。また水生の[[被子植物]]の中には、真正中心柱が二次的に退化して原生中心柱的な形になったものがある (退行中心柱)<ref name="Shimizu2001中心柱" /><ref name="Iwasa2013原生中心柱" />。 |
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真正中心柱は、やはり原生中心柱から、むしろ放射状の方向へ分断が生じたものに由来すると考えられる。また、 不斉中心柱は上記のように真正中心柱に由来すると考えられている。 |
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==ギャラリー== |
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*田村道夫『植物の系統』,(1999),文一総合出版 |
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ファイル:Monocot Root Stele in Lilium (36045154705).jpg|[[ユリ]] ([[ユリ科]]) の根の放射中心柱. |
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*[[小倉謙 (植物学者)|小倉謙]]『植物解剖および形態学』,(1980),養賢堂 |
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ファイル:Lycopodium rhizome.jpg|[[ヒカゲノカズラ類]] (ヒカゲノカズラ綱) の茎の板状中心柱. |
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ファイル:Pter1040 Pteridium rhizome.jpg|[[ワラビ]] ([[ウラボシ綱]]) の根茎の2環網状中心柱. |
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ファイル:Aristo-mac prim DM002k5x.jpg|[[ウマノスズクサ属]] ([[ウマノスズクサ科]]) の茎の真正中心柱. |
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ファイル:Helianthus stem.jpg|[[ヒマワリ]] ([[キク科]]) の茎の真正中心柱. |
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ファイル:Cyperus alternifolius, stalk, Etzold green 11.jpg|[[シュロガヤ]] ([[カヤツリグサ科]]) の茎の不整中心柱. |
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== 出典 == |
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2020年10月3日 (土) 13:07時点における版
中心柱(ちゅうしんちゅう、英:stele, pl. stelae; central cylinder)とは、維管束植物 (広義のシダ植物と種子植物) の茎や根の中心付近、維管束組織を含む領域のことである[1][2]。内皮よりも内側の部分を指すが、内皮が無い場合にはおおよそ相当する部分を境界とする。
中心柱は、維管束植物を構成する組織の区分の1つとして、19世紀にヴァン・ティガン (van Tieghem) によって提唱された。彼は、維管束植物の体 (頂端分裂組織由来の組織である一次組織からなる胞子体) は表皮・皮層・中心柱の3組織系からなるとした。根を構成する組織系の区分としては、現在でも用いられることがある。ただし現在では、維管束植物の体を構成する組織系としては表皮系・基本組織系・維管束系の3区分が用いられることが多い (この場合、中心柱は基本組織系の一部と維管束系からなる)。
また茎や根において、維管束の配置様式のことも中心柱とよばれる。この意味での中心柱にはさまざまな型が知られており、維管束植物の進化を考える上で重要視されている。最も単純な型として、中心に木部が位置しその周囲を師部が取り囲んでいるものがあり、原生中心柱とよばれる。原生中心柱 (放射中心柱や板状中心柱を含む) は、全ての維管束植物の根と共に、ヒカゲノカズラ類などの茎にもみられる。木部が管状に配置している中心柱は管状中心柱とよばれ、シダ植物 (狭義) の茎にみられる。種子植物の茎では、木部と師部がセットとなった維管束が輪状に配置 (真正中心柱) または散在している (不整中心柱)。このような中心柱の多様性に基づく維管束植物の系統論は、中心柱説とよばれる。
概説
ヴァン・ティガンらは、維管束植物の胞子体を構成する一次組織 (頂端分裂組織に由来する組織) を、表皮・皮層・中心柱の3つの組織系に分けることを提唱した (van Tieghem & Duliot 1886)[2][3]。表皮は植物体最外層を覆う組織であり、皮層と中心柱の境界は内皮であるとした (内皮は皮層の最内部とされる)[4]。
根にはふつう内皮が存在するため皮層と中心柱の境界は明瞭であるが、茎では明瞭な内皮がみられないことが多い。内皮がない場合には、おおよそそれに相当する部分を境界とする[3]。ただし、この組織系区分は葉には適用されない[3]。根においては頂端分裂組織 (根端分裂組織) からの組織形成と表皮・皮層・中心柱の区分は比較的よく対応しているが、茎では頂端分裂組織 (シュート頂分裂組織) における組織形成とは対応しないことも多い[5]。維管束植物の体を構成する組織系としては、ザックスによる表皮系・基本組織系・維管束系の3区分 (Sachs 1875) が最も広く用いられているが、この区分では中心柱は基本組織系の一部と維管束系からなる[2][6]。
現在では、原義のように維管束植物の基本的な組織系の1つとして中心柱という用語を使うことは少ないが、根や茎において中心部を大まかに示すためにしばしば用いられる[3]。また以下のように、根や茎における維管束の配置様式を示すために中心柱という用語が用いられることが多い。
中心柱の型
中心柱における維管束 (一次維管束) の配置には大きな多様性があり、以下のような型に類別される[1][2][7]。
原生中心柱
根や茎など軸の中心に木部が位置し、その周囲に師部がある中心柱は原生中心柱 (げんせいちゅうしんちゅう、protostele) とよばれる[1][8][7]。ふつう内皮で囲まれる。原生中心柱は、その配列様式に応じて以下のような型に分けられる[1][8]。
- 単純原生中心柱 (原始中心柱、単中心柱、haplostele)[1][8][7]
- 放射中心柱 (ほうしゃちゅうしんちゅう、actinostele)[1][7][9]
- 板状中心柱 (ばんじょうちゅうしんちゅう、背腹中心柱、plectostele)[1][7][10]
管状中心柱
木部が管状になりその外面または内外両面に師部が位置する中心柱は、管状中心柱 (かんじょうちゅうしんちゅう、siphonostele, solenostele) とよばれる[1][7][11]。維管束環より内側の部分は髄 (pith) とよばれる。管状中心柱は、師部の配置に基づいて以下の2型に分けられる。
- 外師管状中心柱 (がいし-、ectophloic siphonostele)[1][7][11][12]
- 両師管状中心柱 (りょうし-、amphiphloic siphonostele, solenostele [狭義])[1][7][11]
管状中心柱 (特に両師管状中心柱) において、多数の葉隙 (図3a; 葉への維管束が分かれた上部にできる維管束の欠損部であり、柔組織で充填されている) ができて管が網状になった中心柱を、特に網状中心柱 (もうじょうちゅうしんちゅう、dictyostele) という[1][7][13]。横断面では、維管束 (ふつう外師包囲維管束) が輪状にならんでいる (図1g, 3b)。このように分断された維管束の各要素は、分柱 (meristele) とよばれる[1][13]。ウラボシ綱の茎に多く見られる[1]。また葉隙ではない維管束の欠損部が存在する場合があり、このような網状中心柱は分裂網状中心柱 (dessected dictyostele) ともよばれる[7]。
管状中心柱や網状中心柱において、木部・師部からなる管が2重、3重に配置されたものがあり、多環中心柱 (たかんちゅうしんちゅう、polycyclic stele) と総称される[1]。具体的には、2環管状中心柱、3環管状中心柱、2環網状中心柱、3環網状中心柱などとよばれる。リュウビンタイ綱やウラボシ綱の茎にしばしば見られ、たとえばワラビの茎は2環網状中心柱をもつ[1] (図3b)。
トクサ類 (トクサ綱) の茎の節間では、内側と両脇に木部を伴う師部からなる特異な維管束が環状に配列しており、下記の真正中心柱に似ている[14] (真正中心柱とよばれることもある[1]) (図3c)。しかし節では木部が発達してつながった輪となり、外師管状中心柱の形を示す[14]。そのため種子植物の真正中心柱とは異なる起源をもつと考えられており[15]、トクサ型外師管状中心柱 (穿孔外師管状中心柱) とよばれる[14]。トクサ類の中心柱には、内皮 (外立内皮、両立内皮、または自立内皮) が存在する[1][14]。
真正中心柱
木部と師部のセットが単位となり (分柱とよばれ、ふつう並立維管束、ときに倒並立維管束または複並立維管束)、これが1輪の環状に配置している中心柱は真正中心柱 (しんせいちゅうしんちゅう、eustele) とよばれる[1][7][15] (図1h, 4a, b)。維管束環より内側は髄 (pith) とよばれる。維管束植物のうち、種子植物の多く (単子葉類を除く) は茎に真正中心柱をもつ[1]。
真正中心柱において、各維管束は複雑に分岐・融合をしており、一部は葉に入る葉跡となる[16][17] (図4c)。
真正中心柱では内皮をもたないことが多いが、地下茎ではしばしば中心柱全体を取り囲む内皮 (外立内皮) が存在する[1]。またバイカモ (キンポウゲ科) などではそれぞれの維管束 (分柱) が内皮 (自立内皮) で囲まれており、このような中心柱は特に分裂真正中心柱 (separated eustele) ともよばれる[1][15]。
茎にみられる中心柱のうち、真正中心柱をもつ植物だけが二次成長 (肥大成長) を行う[15] (真正中心柱をもつ植物でも二次成長を行わないものはいる)。二次成長を行うものでは、各維管束 (分柱) の木部と師部の間に維管束内形成層 (intrafascucular cambium) が生じ、これがそれぞれの維管束の間に形成される維管束間形成層 (interfascucular cambium) でつながって1輪の維管束形成層 (vascular cambium) になる[18][19]。維管束形成層は内側に二次木部 (材)、外側に二次師部を形成して肥大成長する (図4d)。これが続くと本来の真正中心柱の形態は分断し押し潰され、茎の大部分は二次木部に占められた姿となる。
不整中心柱
木部と師部のセットが単位となり (ふつう並立維管束、ときに外木包囲維管束)、これが不規則に散在している中心柱は不整中心柱 (不斉中心柱、ふせいちゅうしんちゅう;散在中心柱、さんざいちゅうしんちゅう;atactostele) とよばれる[1][7][20] (図1i, 5a, b, c)。ふつう周縁部の維管束が小さく、密に配置する (図5a, b)。不整中心柱において維管束は複雑な走行を示し、葉に入る維管束 (葉跡) が茎の中を長く走行している[17]。維管束植物のうち、単子葉類の茎にみられる。中心柱としては、真正中心柱の一型として扱われることもある[7]。
不整中心柱はふつう内皮を欠くが[1]、地下茎では内皮がみられることがある (図5c)。
単子葉類の不整中心柱において維管束の木部と師部の間に生じた形成層は発達せず、ふつう典型的な二次成長 (肥大成長) を行うことはない[19][20]。ただし、維管束外に特殊な形成層が生じて二次成長を行うものがいる (リュウケツジュなど)[20]。
不整中心柱は単子葉類以外にもコショウ科にみられることもあるが、この場合は維管束内に発達した形成層がつくられることがある[1]。
中心柱の進化
中心柱の様式は、伝統的に維管束植物の進化、系統を考察する際に重視されている。上記のような中心柱の型に基づく系統論は中心柱説 (stelar theory) とよばれる[1][2][5][21]。
リニア属など初期維管束植物の絶滅群には単純原生中心柱が見られ (右図)、これが最も祖先的な中心柱であると考えられている[1][8][21]。原生中心柱は、全ての維管束植物の根にみられ、またヒカゲノカズラ類の茎にも存在する[21]。種子植物の根における原生中心柱 (放射中心柱) では、木部と師部の間に維管束形成層が生じて二次成長 (肥大成長) を行う[18]。また化石種の中には、茎の原生中心柱 (または管状中心柱) でも二次成長を行うものが知られている (リンボク、ロボクなど)[22][23]。ただしこのような植物において形成される二次維管束はわずかであり、またほとんどの場合二次師部は形成されない。
原生中心柱の中心に髄ができることで、管状中心柱が形成される[2][8][21]。管状中心柱は、狭義のシダ植物の茎に多くみられる[21]。原生中心柱の中には中央に髄が形成されているものがあり (有髄原生中心柱 medullated protostele)、外師管状中心柱との中間型と考えられている[8]。また葉隙が多く形成されることで網状中心柱が形成される[21]。古くは、このような網状中心柱が進化的に種子植物の真正中心柱につながったと考えられたこともあるが、現在では真正中心柱は原生中心柱から直接生じたものと考えられている[16] (下記)。
種子植物の祖先において、原生中心柱が放射方向に分断化することによって真正中心柱が成立したと考えられている[2][21]。種子を獲得する以前の種子植物の祖先群である原裸子植物では、原生中心柱の分断化、真正中心柱の成立を示す化石記録が残されている[16]。また真正中心柱は成立時から二次成長 (肥大成長) と関連しており、原裸子植物は基本的に全て木本性である。また現生維管束植物の中で明らかな二次成長を行う種は茎に真正中心柱をもつ[15]。種子植物の中で、単子葉植物では維管束が輪状に配列されず散在することで不整中心柱が形成される[2][20][21]。このことは、単子葉植物が維管束形成層による二次成長能を欠いていること (輪状の維管束形成層を形成する必要がない) や葉跡 (葉に入る維管束) を多く生じることと関係していると考えられている[20][21]。また水生の被子植物の中には、真正中心柱が二次的に退化して原生中心柱的な形になったものがある (退行中心柱)[1][8]。
ギャラリー
-
ヒカゲノカズラ類 (ヒカゲノカズラ綱) の茎の板状中心柱.
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 清水 建美 (2001). “中心柱”. 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 187–190. ISBN 978-4896944792
- ^ a b c d e f g h 巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編) (2013). “中心柱”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 913. ISBN 978-4000803144
- ^ a b c d 原 襄 (1994). “ファンティーガンの分類”. 植物形態学. 朝倉書店. pp. 94–95. ISBN 978-4254170863
- ^ 原 襄 (1994). “中心柱”. 植物形態学. 朝倉書店. p. 51. ISBN 978-4254170863
- ^ a b 田村 道夫 (1999). “中心柱”. 植物の系統. 文一総合出版. pp. 60–63. ISBN 978-4829921265
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- ^ a b c d e f g h i j k l m アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部 光泰, 鈴木 武 & 植田 邦彦 (監訳) (2002). “維管束組織系”. 維管束植物の形態と進化. 文一総合出版. pp. 51–55. ISBN 978-4829921609
- ^ a b c d e f g 巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編) (2013). “原生中心柱”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 424. ISBN 978-4000803144
- ^ 巌佐 庸, 倉谷 滋, 斎藤 成也 & 塚谷 裕一 (編) (2013). “放射中心柱”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. pp. 1299-1300. ISBN 978-4000803144
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