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「クープマンズの定理」の版間の差分

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'''クープマンズの定理'''(クープマンズのていり、{{lang-en-short|Koopmans' theorem}})は[[チャリング・クープマンス]]によって提出された分子の[[イオン化エネルギー|第一イオン化エネルギー]]と[[電子親和力]]を見積もる定理である<ref name="Koopmans1934">{{cite journal|last1=Koopmans|first1=T|title=Über die Zuordnung von Wellenfunktionen und Eigenwerten zu den Einzelnen Elektronen Eines Atoms|journal=Physica|volume=1|issue=1-6|year=1934|pages=104–113|issn=00318914|doi=10.1016/S0031-8914(34)90011-2}}</ref>
'''クープマンズの定理'''(クープマンズのていり、{{lang-en-short|Koopmans' theorem}})は[[チャリング・クープマンス]]によって1934年に発表された<ref>{{cite journal | last = Koopmans | first = Tjalling | title = Über die Zuordnung von Wellenfunktionen und Eigenwerten zu den einzelnen Elektronen eines Atoms | journal = Physica | year = 1934 | volume = 1 | issue = 1–6 | pages = 104–113 | doi = 10.1016/S0031-8914(34)90011-2 | bibcode=1934Phy.....1..104K}}</ref>分子の[[イオン化エネルギー|第一イオン化エネルギー]]と[[電子親和力]]を見積もる定理である。クープマンズの定理は、[[閉殻]][[ハートリー=フォック方程式|ハートリー=フォック法]](HF)において分子系の第一[[イオン化エネルギー]]は[[最高被占分子軌道]](HOMO)の軌道エネルギーの負数と等しい、と言明する<ref name="Jensen">{{Cite book|author=Frank Jensen|title=Introduction to Computational Chemistry|date=|year=2007|publisher=Jonh Wiley & Sons Ltd|ISBN=978-0-470-01187-4}}</ref>{{rp|92-93}}
<ref name="Jensen">{{Cite book|author=Frank Jensen|title=Introduction to Computational Chemistry|date=|year=2007|publisher=Jonh Wiley & Sons Ltd|ISBN=978-0-470-01187-4}}</ref>{{rp|92-93}}
<ref name="Szabo">{{Cite book|和書|author=A.ザボ, N.S.オストランド|title=新しい量子化学 上 電子構造の理論入門|date=|year=1991|publisher=東京大学出版会|ISBN=978-4-13-062111-3|translator=大野公男, 阪井健男, 望月祐志}}</ref>{{rp|133-139}}。
<ref name="Szabo">{{Cite book|和書|author=A.ザボ, N.S.オストランド|title=新しい量子化学 上 電子構造の理論入門|date=|year=1991|publisher=東京大学出版会|ISBN=978-4-13-062111-3|translator=大野公男, 阪井健男, 望月祐志}}</ref>{{rp|133-139}}。


クープマンズの定理は、イオンの軌道が中性分子の軌道と同一であると仮定するならば(固定軌道近似、frozen orbital approximation)、制限ハートリー=フォック法の文脈において正確である。このやり方で計算されたイオン化エネルギーは実験と定性的に一致する。小分子の第一イオン化エネルギーは誤差が2[[電子ボルト]]未満であることが多い<ref name="politzer">{{cite journal|last1=Politzer|first1=Peter|first2=Fakher |last2=Abu-Awwad|year=1998|title=A comparative analysis of Hartree–Fock and Kohn–Sham orbital energies|journal=Theoretical Chemistry Accounts: Theory, Computation, and Modeling (Theoretica Chimica Acta)|volume=99|issue=2|pages=83–87|doi=10.1007/s002140050307|s2cid=96583645}}</ref><ref name="hamel">{{cite journal|last1=Hamel|first1=Sebastien|first2=Patrick|last2= Duffy|first3=Mark E. |last3=Casida |first4= Dennis R. |last4=Salahub|year=2002|title=Kohn–Sham orbitals and orbital energies: fictitious constructs but good approximations all the same |journal=Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena|volume=123|issue=2–3|pages=345–363|doi=10.1016/S0368-2048(02)00032-4}}</ref><ref>{{Cite book|first1=A. |last1=Szabo |first2= N. S.|last2= Ostlund|title=Modern Quantum Chemistry|chapter=Chapter 3|isbn=978-0-02-949710-4|year=1982 }}</ref>。したがって、クープマンズの定理の信頼性は根底にあるハートリー=フォック波動関数の精度と密接に関係している{{Citation needed|reason=Correlating the wave function with the HOMO seems to need more explanation than simply therefore|date=April 2009}}。誤差の2つの主な原因は軌道緩和(系の電子数が変化した時の[[フォック演算子]]とハートリー=フォック軌道における変化を指す)と[[電子相関]](全多体波動関数をハートリー=フォック波動関数、すなわち対応する自己無撞着的なフォック演算子の固有関数である軌道から成る単一の[[スレイター行列式]]で表すことの信頼性)である。実験値と高精度[[ab initio]]計算の経験的比較は、全てではないにせよ多くの場合において緩和効果によるエネルギー補正が電子相関による補正をほとんど打ち消していることを示唆している<ref name=Michl>{{cite book|last1=Michl|first1=Josef|last2=Bonačić-Koutecký|first2=Vlasta|title=Electronic Aspects of Organic Photochemistry|publisher= Wiley|year= 1990|page=35|isbn=978-0-471-89626-5}}</ref><ref name=Hehre>{{cite book|last1=Hehre|first1=Warren J.|last2=Radom|first2=Leo|last3=Schleyer|first3=Paul v.R.|last4=Pople|first4=John A.|title=Ab initio molecular orbital theory|publisher= Wiley|year= 1986|page=24|isbn=978-0-471-81241-8}}</ref>。
[[ハートリー-フォック方程式|ハートリー–フォック近似]]において、''N'' 個の[[電子]]からなる系の[[基底状態]]における全[[エネルギー]]を''E<sub>N</sub>'' とし、その系から電子を1個取り出した場合、つまり''N'' -1 個の電子からなる系の全エネルギーを''E''<sub>''N'' -1</sub> とする。この時、電子は相互作用が無視できるような無限遠方まで取り去られるとする。そして取り出した電子の占有していた軌道を''i'' 、軌道のエネルギーを<math>\epsilon_i</math>とすると、


電子数の変化による軌道緩和を考慮した手法としてはΔSCF法(中性分子とカチオンのエネルギー差を取る)が挙げられる<ref name="PhysChem">{{Cite book|和書|author=小谷正博, 幸田清一郎, 染田清彦|editor=近藤保|title=大学院講義物理化学|date=|year=1997|publisher=東京化学同人|ISBN=4-8079-0462-0}}</ref>{{rp|88-89}}。ただし、HF計算に基づくΔSCF法では軌道緩和の無視による誤差と電子相関の無視による誤差が打ち消し合わなくなり電子相関の無視による誤差だけが残るため、クープマンズの定理の方が実験値に近くなることもある<ref>{{cite journal|title=計算化学のすすめ 第7回 スペクトルの計算|author=リントゥルオト正美|url=https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/journal/docs/info09.pdf|journal=Wako Infomatic World |issue=No.9|year=2008|pages=2–3}}</ref>。
:<math> E_{N-1} - E_{N} =\, -\epsilon_i </math>


同様の定理は[[密度汎関数理論]](DFT)に存在し、正確な第一[[イオン化エネルギー|垂直イオン化エネルギー]]および電子親和力をコーン=シャム軌道の[[HOMO/LUMO|HOMOおよびLUMO]]と関連付けている。しかし、導出と正確な言明はどちらもクープマンズの定理のものと異なる。DFT(コーン=シャム)軌道エネルギーから計算されるイオン化エネルギーはクープマンズの定理のものより大抵良くなく、使われる交換-相関近似に依存して誤差は2電子ボルトよりもかなり大きい<ref name="politzer" /><ref name="hamel" />。典型的な近似を使うと。LUMOエネルギーは電子親和力とほとんど相関を示さない<ref>{{cite journal|last1=Zhang|first1=Gang|first2=Charles B. |last2=Musgrave|year=2007|title=Comparison of DFT Methods for Molecular Orbital Eigenvalue Calculations|journal=The Journal of Physical Chemistry A|volume=111|issue=8|pages=1554–1561|doi=10.1021/jp061633o|pmid=17279730|bibcode=2007JPCA..111.1554Z|s2cid=1516019|url=https://semanticscholar.org/paper/3676962a99dcde3cce49994e7421ce3abeacbe5d}}</ref>。
という関係が成り立つ。ここで、電子を無限遠方へ取り去ることに対し、一電子[[波動関数]]は不変であると仮定している。
これを固定軌道近似({{lang-en-short|frozen orbital approximation}})と呼ぶ。
左辺はイオン化エネルギーに対応しており、これが軌道エネルギーから見積もられることを意味している。


== 一般化 ==
特に、[[HOMO|最高占有軌道]](HOMO)から電子を取り去る場合、次式が成立する。
クープマンズの定理は元々は制限(閉殻)ハートリー=フォック波動関数からのイオン化エネルギーの計算について述べていたものの、この用語はそれ以後、系の電子数の変化によるエネルギー変化を計算するために軌道エネルギーを用いるやり方としてより一般化された意味を帯びるようになった。


=== 基底状態および励起状態イオン ===
:<math> E_{N-1} - E_{N} =\, -\epsilon_\mathrm{HOMO} </math>
クープマンズの定理は、あらゆる被占分子軌道から電子を取り除いて陽イオンが形成されることに当てはまる。異なる被占分子軌道からの電子の除去は異なる電子状態のイオンをもたらす。これらの状態のうち最低のものが基底状態であり、これは、常にではないが、HOMOからの電子の除去によって生じることが多い。その他の状態は励起電子状態である。


例えば、H<sub>2</sub>O分子の電子配置は (1a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (2a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (1b<sub>2</sub>)<sup>2</sup> (3a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (1b<sub>1</sub>)<sup>2</sup> である<ref name=Levine>{{cite book|last=Levine|first= I. N.|title=Quantum Chemistry|edition=4th |publisher= Prentice-Hall|year= 1991|page=475|isbn=978-0-7923-1421-9}}</ref>(記号a<sub>1</sub>、b<sub>2</sub>、およびb<sub>1</sub>は[[分子対称性]]に基づく軌道の分類)。クープマンズの定理から、1b<sub>1</sub> HOMOのエネルギーは基底状態 (1a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (2a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (1b<sub>2</sub>)<sup>2</sup> (3a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (1b<sub>1</sub>)<sup>1</sup> にあるH<sub>2</sub>O<sup>+</sup> イオンを形成するイオン化エネルギーに対応する。2番目の高いMO 3a<sub>1</sub>のエネルギーは励起状態 (1a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (2a<sub>1</sub>)<sup>2</sup> (1b<sub>2</sub>)<sup>2</sup> (3a<sub>1</sub>)<sup>1</sup> (1b<sub>1</sub>)<sup>2</sup> にあるイオンを指す。この場合、イオンの電子状態の順序は軌道エネルギーの順序に対応する。励起状態イオン化エネルギーは[[紫外光電子分光法|光電子分光法]]によって測定することができる。
同様にして、''N'' 電子系に電子1個を加えた''N'' +1 電子系の全エネルギーを''E''<sub>''N'' +1</sub> とすると以下の式が成り立つ。


H<sub>2</sub>Oでは、これらの軌道の(符号を変えた)近ハートリー=フォック軌道エネルギーは1a<sub>1</sub> 559.5、2a<sub>1</sub> 36.7、1b<sub>2</sub> 19.5、3a<sub>1</sub> 15.9、1b<sub>1</sub> 13.8 [[電子ボルト|eV]]である。対応するイオン化エネルギーは539.7、32.2、18.5、14.7、12.6 eVである<ref name=Levine />。上で説明したように、これらのずれは軌道緩和の効果や分子および様々なイオン化状態間の電子相関エネルギーの差によるものである。
:<math> E_{N} - E_{N+1} =\, -\epsilon_\mathrm{LUMO} </math>


N<sub>2</sub>では対照的に、軌道エネルギーの順序はイオン化エネルギーの順序と同一ではない。大きな[[基底関数系 (化学)|基底関数系]]を用いた近ハートリー=フォック計算は、1π<sub>u</sub> 結合性軌道がHOMOであることを示す。しかしながら、最低イオン化エネルギーは3σ<sub>g</sub>結合性軌道からの電子の除去に対応する。この場合、ずれの原因は主に2つの軌道間の相関エネルギーの差に帰せられる<ref>{{Cite journal|doi=10.1021/ed072p501|title=Non-Koopmans' Molecules|journal=Journal of Chemical Education|volume=72|issue=6|page=501|year=1995|last1=Duke|first1=Brian J.|last2=O'Leary|first2=Brian|bibcode = 1995JChEd..72..501D }}</ref>。
ここで<math>\epsilon_\mathrm{LUMO}</math>は[[LUMO|最低非占有軌道]](LUMO)の軌道エネルギーである。左辺は電子親和力に対応している<ref name="Jensen" />{{rp|92-93}}<ref name="Szabo" />{{rp|133-139}}。


=== 電子親和力 ===
電子数の変化による軌道緩和を考慮した手法としては、[[ΔSCF法]]が挙げられる<ref name="PhysChem">{{Cite book|和書|author=小谷正博, 幸田清一郎, 染田清彦|editor=近藤保|title=大学院講義物理化学|date=|year=1997|publisher=東京化学同人|ISBN=4-8079-0462-0}}</ref>{{rp|88-89}}。また、[[密度汎関数法]]においては[[ヤナックの定理]]が相当する<ref name="Jensen" />{{rp|157}}。
時折、クープマンズの定理は対応する系の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーとして[[電子親和力]]の計算も可能にする、と主張されることがある<ref>{{Cite book|first1=A. |last1=Szabo |first2= N. S.|last2= Ostlund|title=Modern Quantum Chemistry|page=127|isbn=978-0-02-949710-4|year=1982 }}</ref>。しかしながら、クープマンズの原論文は、[[HOMO]]に対応するものの他は[[フォック演算子]]の固有値の重要性に関して何も主張していない。にもかかわらず、[[電子親和力]]を計算するためにクープマンズの元の言明を一般化するのは容易である。


このクープマンズの定理の言明を使った電子親和力の計算は、仮想(空)軌道が根拠の確かな物理的解釈を持たないこと、そしてそれらの軌道エネルギーは計算に使用される基底関数系の選択に非常に敏感であることを理由として批判されてきた<ref>{{cite book | last1 = Jensen | first1= Frank | title= Introduction to Computational Chemistry | url = https://archive.org/details/introductiontoco00jens_672 | url-access = limited | year = 1990 | publisher = Wiley | pages = [https://archive.org/details/introductiontoco00jens_672/page/n39 64]–65 | isbn = 978-0-471-98425-2}}</ref>。基底関数系がより完全になる程、興味のある分子上には実際にはない「分子」軌道がますます現われ、電子親和力を見積るためにこれらの軌道を使用しないことに注意されなければならない。
== 参考文献 ==

<references />
実験と高精度計算の比較は、このやり方で予測された電子親和力が一般的にかなり良くないことを示している。これは、電子親和力を見積る場合に軌道緩和による誤差と電子相関による誤差が同じ側に出て、HOMOの場合のように互いに打ち消さないためであり、実験値と推定値の符号すら合わないことも多い。

=== 開殻系 ===
クープマンズの定理は開殻系にも適用可能である。以前は、これは不対電子を取り除く場合にのみ当てはまると考えられていたが<ref>{{cite book | last1 = Fulde | first1 = Peter | title = Electron correlations in molecules and solids | url = https://archive.org/details/electroncorrelat00fuld | url-access = limited | year = 1995 | publisher = Springer | pages = [https://archive.org/details/electroncorrelat00fuld/page/n38 25]–26 | isbn = 978-3-540-59364-5}}</ref>、一般に[[制限開殻ハートリー=フォック法|ROHF]]に対するクープマンズの定理の信頼性は証明されている(ただし正確な軌道エネルギーが使われているならば)<ref>{{cite journal | doi = 10.1063/1.2393223 | title = Koopmans' theorem in the ROHF method: Canonical form for the Hartree-Fock Hamiltonian | year = 2006 | last1 = Plakhutin | first1 = B. N. | last2 = Gorelik | first2 = E. V. | last3 = Breslavskaya | first3 = N. N. | journal = The Journal of Chemical Physics | volume = 125 | page = 204110 | pmid = 17144693 | issue = 20 | bibcode=2006JChPh.125t4110P}}</ref><ref>{{cite journal | doi = 10.1063/1.3418615 | title = Koopmans's theorem in the restricted open-shell Hartree–Fock method. II. The second canonical set for orbitals and orbital energies | year = 2010 | last1 = Davidson | first1 = Ernest R. |author-link=Ernest R. Davidson | last2 = Plakhutin | first2 = Boris N. | journal = The Journal of Chemical Physics | volume = 132 | issue = 18 | page = 184110 | bibcode=2010JChPh.132r4110D| url = https://zenodo.org/record/898702 }}</ref><ref>{{cite journal | doi = 10.1021/jp9002593 | title = Koopmans' Theorem in the Restricted Open-Shell Hartree−Fock Method. 1. A Variational Approach† | year = 2009 | last1 = Plakhutin | first1 = Boris N. | last2 = Davidson | first2 = Ernest R. | journal = The Journal of Physical Chemistry A | volume = 113 | pages = 12386–12395 | pmid = 19459641 | issue = 45 | bibcode=2009JPCA..11312386P}}</ref><ref>{{cite journal | last1 = Glaesemann | first1 = Kurt R. | last2 = Schmidt | first2 = Michael W. | title = On the Ordering of Orbital Energies in High-Spin ROHF† | journal = The Journal of Physical Chemistry A | volume = 114 | issue =33 | pages = 8772–8777 | year = 2010 | pmid = 20443582 | doi = 10.1021/jp101758y| bibcode = 2010JPCA..114.8772G }}</ref>。上向きスピン(α)および下向きスピン(β)軌道エネルギーは必ずしも同じでなくてもよい(拘束条件付き非制限HF法; constrained UHF, CUHF)<ref>{{cite journal|last1=Tsuchimochi|first1=Takashi|last2=Scuseria|first2=Gustavo E.|title=Communication: ROHF theory made simple|journal=The Journal of Chemical Physics|volume=133|issue=14|page=141102|year=2010|pmid=20949979|doi=10.1063/1.3503173|bibcode = 2010JChPh.133n1102T |arxiv = 1008.1607|s2cid=31648260}}</ref>。

== 密度汎関数理論において相当する定理 ==
{{See also|ヤナックの定理}}

コーン=シャム(KS)[[密度汎関数理論]](KS-DFT)は、ハートリー=フォック理論のものと非常に似た考え方でDFT版のクープマンズの定理('''DFT-クープマンズの定理'''と呼ばれることがある)を認める。この定理は、<math> N</math>電子の系の第一(垂直)イオン化エネルギー<math> I </math>を対応するKS HOMOエネルギー<math>\epsilon_H </math> の負数と同一視する。より一般的には、この関係は、KS系が非整数個の電子<math> N - \delta N</math>(<math>N</math>は整数; <math>\delta N \to 0</math>)を持つゼロ度アンサンブルについて記述している時でさえも成り立つ。<math>N + \delta N</math>個の電子を考える時、無限小の余剰電荷は''N''電子系のKS LUMOに入るが、正確なKSポテンシャルは「微分不連続性(derivative discontinuity)」と呼ばれる定数によって急に変化する<ref name="perdew82">{{cite journal |last1=Perdew |first1=John P. |authorlink=ジョン・パデュー (物理学者)|first2=Robert G. |last2=Parr|first3=Mel |last3=Levy|first4=Jose L.|last4= Balduz, Jr. |year=1982 |title=Density-Functional Theory for Fractional Particle Number: Derivative Discontinuities of the Energy |journal=Physical Review Letters |volume=49 |issue=23 |pages=1691–1694 |doi=10.1103/PhysRevLett.49.1691 |bibcode=1982PhRvL..49.1691P}}</ref>。垂直電子親和力はLUMOエネルギーと微分不連続性の和の負数と厳密に等しい、と主張することができる<ref name="perdew82" /><ref>{{cite journal |last1=Perdew |first1=John P. |first2=Mel|last2= Levy |year=1997 |title=Comment on "Significance of the highest occupied Kohn–Sham eigenvalue" |journal=Physical Review B |volume=56 |issue=24 |pages=16021–16028 |doi=10.1103/PhysRevB.56.16021|bibcode = 1997PhRvB..5616021P }}</ref><ref>{{cite journal|doi=10.1103/PhysRevB.56.12042|title=Significance of the highest occupied Kohn-Sham eigenvalue|journal=Physical Review B|volume=56|issue=19|page=12042|year=1997|last1=Kleinman|first1=Leonard|bibcode=1997PhRvB..5612042K}}</ref><ref>{{cite journal|doi=10.1103/PhysRevB.56.16029|title=Reply to "Comment on 'Significance of the highest occupied Kohn-Sham eigenvalue' "|journal=Physical Review B|volume=56|issue=24|page=16029|year=1997|last1=Kleinman|first1=Leonard|bibcode=1997PhRvB..5616029K}}</ref>。

ハートリー=フォック理論におけるクープマンズの定理の(軌道緩和の無視による)近似的立場とは異なり、厳密なKSマッピングにおいてこの定理は厳密であり、軌道緩和の効果を含んでいる。この厳密な関係の大雑把な証明は3段階からなる。はじめに、全ての有限な系について、<math>I</math>は密度の<math>|\mathbf{r}| \to \infty</math>漸近形を決定する(<math display="inline"> n(\mathbf{r}) \to \exp \left (-2\sqrt{\frac{2 m_{\rm e}}{\hbar} I}|\mathbf{r}| \right ) </math>のように減衰する)<ref name="perdew82" /><ref name="almblad85">{{cite journal |last1=Almbladh|first1=C. -O.|first2=U. |last2=von Barth |year=1985 |title=Exact results for the charge and spin densities, exchange-correlation potentials, and density-functional eigenvalues |journal=Physical Review B |volume=31 |issue=6 |pages=3231–3244|doi=10.1103/PhysRevB.31.3231|pmid=9936207|bibcode = 1985PhRvB..31.3231A }}</ref>。次に、(物理的な相互作用のある系はKS系と同じ密度を持つため)当然の帰結として、どちらも同じイオン化エネルギーを持つ。最後に、KSポテンシャルは無限遠においてゼロであるため、KS系のイオン化エネルギーは、定義により、そのHOMOエネルギーの負数であり、したがって最終的に<math>\epsilon_H = -I </math>となる<ref>{{Cite journal|doi=10.1016/S0009-2614(98)00316-9|title=Relationship of Kohn–Sham eigenvalues to excitation energies|journal=Chemical Physics Letters|volume=288|issue=2–4|pages=391|year=1998|last1=Savin|first1=A|last2=Umrigar|first2=C.J|last3=Gonze|first3=Xavier|bibcode=1998CPL...288..391S}}</ref><ref>{{Cite journal|doi=10.1103/PhysRevA.30.2745|title=Exact differential equation for the density and ionization energy of a many-particle system|journal=Physical Review A|volume=30|issue=5|pages=2745|year=1984|last1=Levy|first1=Mel|last2=Perdew|first2=John P|last3=Sahni|first3=Viraht|bibcode=1984PhRvA..30.2745L}}</ref>。

これらはDFTの形式化において厳密な言明であるのに対して、近似交換-相関ポテンシャルの使用により計算されるエネルギーは近似的となり、しばしば軌道エネルギーは対応するイオン化エネルギーと全く異なる(数eVの差さえ生じる)<ref name="spring">{{cite journal | title = Koopmans' springs to life | journal = The Journal of Chemical Physics | volume = 131 | issue = 23
| year = 2009 | pages = 231101–4 | doi = 10.1063/1.3269030 | first1 = U. |last1 = Salzner | first2 = R. |last2 = Baer | pmid = 20025305 |bibcode = 2009JChPh.131w1101S | hdl = 11693/11792 | url = http://repository.bilkent.edu.tr/bitstream/11693/11792/1/10.1063-1.3269030.pdf }}</ref>。

調整手順によってDFT近似にクープマンズの定理を「課す」ことができ、それによって実際の応用においてその関連予測の多くが改善される<ref name="spring" /><ref>{{cite journal | title="Tuned" Range-separated hybrids in density functional theory | journal = Annual Review of Physical Chemistry | volume = 61 | year = 2010 | pages = 85–109 | doi = 10.1146/annurev.physchem.012809.103321 | first1 = R. |last1 = Baer | first2 = E. |last2 = Livshits | first3 = U. |last3 = Salzner | pmid = 20055678 | hdl = 11693/22326 | hdl-access = free }}{{cite journal | title = Fundamental gaps of finite systems from the eigenvalues of a generalized Kohn-Sham method | journal = Physical Review Letters | volume = 105 | year = 2010 | page = 266802 | doi = 10.1103/PhysRevLett.105.266802 | first1 = T. |last1 = Stein | first2 = H. |last2 = Eisenberg | first3 = L. |last3 = Kronik | first4 = R. |last4 = Baer | issue = 26 | pmid = 21231698 |arxiv = 1006.5420 |bibcode = 2010PhRvL.105z6802S | s2cid = 42592180 }} {{cite journal |last1=Kornik |first1=L. |first2=T. |last2=Stein|first3=S. |last3=Refaely-Abramson|first4=R.|last4= Baer |year=2012 |title=Excitation Gaps of Finite-Sized Systems from Optimally Tuned Range-Separated Hybrid Functionals |journal=Journal of Chemical Theory and Computation |volume=8 |issue=5 |pages=1515–31 |doi=10.1021/ct2009363|pmid=26593646 |doi-access=free }}</ref>。近似DFTにおいて、エネルギー曲率の概念を使ってクープマンズの定理からのずれを高精度に見積ることができる<ref>{{Cite journal|doi=10.1021/jz3015937 |pmid=26291104|arxiv=1208.1496|title=Curvature and frontier orbital energies in density functional theory|year=2012|journal=The Journal of Physical Chemistry Letters |volume=3|issue=24|pages=3740–4|last1=Stein|first1=Tamar|last2=Autschbach|first2=Jochen|last3=Govind|first3=Niranjan|last4=Kronik|first4=Leeor|last5=Baer|first5=Roi|s2cid=22495102}}</ref><ref>{{Cite journal|doi=10.1016/S0009-2614(98)01075-6|title=Excitation energies in density functional theory: Comparison of several methods for the H<sub>2</sub>O, N<sub>2</sub>, CO and C<sub>2</sub>H<sub>4</sub> molecules|journal=Chemical Physics Letters|volume=296|issue=5–6|pages=489|year=1998|last1=Andrejkovics|first1=I|last2=Nagy|first2=Á|bibcode=1998CPL...296..489A}}</ref> <ref>{{Cite journal|doi=10.1103/PhysRevB.18.7165|title=Proof that <math display="inline">\frac{\partial E}{\partial n_i} = \varepsilon</math> in density-functional theory|journal=Physical Review B|volume=18|issue=12|pages=7165–7168|year=1978|last1=Janak|first1=J. F|bibcode=1978PhRvB..18.7165J}}</ref><ref>{{Cite journal|doi=10.1103/PhysRevLett.51.1884|title=Physical Content of the Exact Kohn-Sham Orbital Energies: Band Gaps and Derivative Discontinuities|journal=Physical Review Letters|volume=51|issue=20|pages=1884|year=1983|last1=Perdew|first1=John P|last2=Levy|first2=Mel|bibcode=1983PhRvL..51.1884P}}</ref><ref name="Jensen" />{{rp|157}}。

== 出典 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[化学]]
* [[光電分光法]]
* [[ヤナックの定理]]
*[[ハートリー-フォック方程式|ハートリー–フォック近似]]
*[[ΔSCF法]]
*[[ヤナックの定理]]


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2023年7月10日 (月) 21:36時点における最新版

クープマンズの定理(クープマンズのていり、: Koopmans' theorem)はチャリング・クープマンスによって1934年に発表された[1]分子の第一イオン化エネルギー電子親和力を見積もる定理である。クープマンズの定理は、閉殻ハートリー=フォック法(HF)において分子系の第一イオン化エネルギー最高被占分子軌道(HOMO)の軌道エネルギーの負数と等しい、と言明する[2]:92-93 [3]:133-139

クープマンズの定理は、イオンの軌道が中性分子の軌道と同一であると仮定するならば(固定軌道近似、frozen orbital approximation)、制限ハートリー=フォック法の文脈において正確である。このやり方で計算されたイオン化エネルギーは実験と定性的に一致する。小分子の第一イオン化エネルギーは誤差が2電子ボルト未満であることが多い[4][5][6]。したがって、クープマンズの定理の信頼性は根底にあるハートリー=フォック波動関数の精度と密接に関係している[要出典]。誤差の2つの主な原因は軌道緩和(系の電子数が変化した時のフォック演算子とハートリー=フォック軌道における変化を指す)と電子相関(全多体波動関数をハートリー=フォック波動関数、すなわち対応する自己無撞着的なフォック演算子の固有関数である軌道から成る単一のスレイター行列式で表すことの信頼性)である。実験値と高精度ab initio計算の経験的比較は、全てではないにせよ多くの場合において緩和効果によるエネルギー補正が電子相関による補正をほとんど打ち消していることを示唆している[7][8]

電子数の変化による軌道緩和を考慮した手法としてはΔSCF法(中性分子とカチオンのエネルギー差を取る)が挙げられる[9]:88-89。ただし、HF計算に基づくΔSCF法では軌道緩和の無視による誤差と電子相関の無視による誤差が打ち消し合わなくなり電子相関の無視による誤差だけが残るため、クープマンズの定理の方が実験値に近くなることもある[10]

同様の定理は密度汎関数理論(DFT)に存在し、正確な第一垂直イオン化エネルギーおよび電子親和力をコーン=シャム軌道のHOMOおよびLUMOと関連付けている。しかし、導出と正確な言明はどちらもクープマンズの定理のものと異なる。DFT(コーン=シャム)軌道エネルギーから計算されるイオン化エネルギーはクープマンズの定理のものより大抵良くなく、使われる交換-相関近似に依存して誤差は2電子ボルトよりもかなり大きい[4][5]。典型的な近似を使うと。LUMOエネルギーは電子親和力とほとんど相関を示さない[11]

一般化

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クープマンズの定理は元々は制限(閉殻)ハートリー=フォック波動関数からのイオン化エネルギーの計算について述べていたものの、この用語はそれ以後、系の電子数の変化によるエネルギー変化を計算するために軌道エネルギーを用いるやり方としてより一般化された意味を帯びるようになった。

基底状態および励起状態イオン

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クープマンズの定理は、あらゆる被占分子軌道から電子を取り除いて陽イオンが形成されることに当てはまる。異なる被占分子軌道からの電子の除去は異なる電子状態のイオンをもたらす。これらの状態のうち最低のものが基底状態であり、これは、常にではないが、HOMOからの電子の除去によって生じることが多い。その他の状態は励起電子状態である。

例えば、H2O分子の電子配置は (1a1)2 (2a1)2 (1b2)2 (3a1)2 (1b1)2 である[12](記号a1、b2、およびb1分子対称性に基づく軌道の分類)。クープマンズの定理から、1b1 HOMOのエネルギーは基底状態 (1a1)2 (2a1)2 (1b2)2 (3a1)2 (1b1)1 にあるH2O+ イオンを形成するイオン化エネルギーに対応する。2番目の高いMO 3a1のエネルギーは励起状態 (1a1)2 (2a1)2 (1b2)2 (3a1)1 (1b1)2 にあるイオンを指す。この場合、イオンの電子状態の順序は軌道エネルギーの順序に対応する。励起状態イオン化エネルギーは光電子分光法によって測定することができる。

H2Oでは、これらの軌道の(符号を変えた)近ハートリー=フォック軌道エネルギーは1a1 559.5、2a1 36.7、1b2 19.5、3a1 15.9、1b1 13.8 eVである。対応するイオン化エネルギーは539.7、32.2、18.5、14.7、12.6 eVである[12]。上で説明したように、これらのずれは軌道緩和の効果や分子および様々なイオン化状態間の電子相関エネルギーの差によるものである。

N2では対照的に、軌道エネルギーの順序はイオン化エネルギーの順序と同一ではない。大きな基底関数系を用いた近ハートリー=フォック計算は、1πu 結合性軌道がHOMOであることを示す。しかしながら、最低イオン化エネルギーは3σg結合性軌道からの電子の除去に対応する。この場合、ずれの原因は主に2つの軌道間の相関エネルギーの差に帰せられる[13]

電子親和力

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時折、クープマンズの定理は対応する系の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーとして電子親和力の計算も可能にする、と主張されることがある[14]。しかしながら、クープマンズの原論文は、HOMOに対応するものの他はフォック演算子の固有値の重要性に関して何も主張していない。にもかかわらず、電子親和力を計算するためにクープマンズの元の言明を一般化するのは容易である。

このクープマンズの定理の言明を使った電子親和力の計算は、仮想(空)軌道が根拠の確かな物理的解釈を持たないこと、そしてそれらの軌道エネルギーは計算に使用される基底関数系の選択に非常に敏感であることを理由として批判されてきた[15]。基底関数系がより完全になる程、興味のある分子上には実際にはない「分子」軌道がますます現われ、電子親和力を見積るためにこれらの軌道を使用しないことに注意されなければならない。

実験と高精度計算の比較は、このやり方で予測された電子親和力が一般的にかなり良くないことを示している。これは、電子親和力を見積る場合に軌道緩和による誤差と電子相関による誤差が同じ側に出て、HOMOの場合のように互いに打ち消さないためであり、実験値と推定値の符号すら合わないことも多い。

開殻系

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クープマンズの定理は開殻系にも適用可能である。以前は、これは不対電子を取り除く場合にのみ当てはまると考えられていたが[16]、一般にROHFに対するクープマンズの定理の信頼性は証明されている(ただし正確な軌道エネルギーが使われているならば)[17][18][19][20]。上向きスピン(α)および下向きスピン(β)軌道エネルギーは必ずしも同じでなくてもよい(拘束条件付き非制限HF法; constrained UHF, CUHF)[21]

密度汎関数理論において相当する定理

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コーン=シャム(KS)密度汎関数理論(KS-DFT)は、ハートリー=フォック理論のものと非常に似た考え方でDFT版のクープマンズの定理(DFT-クープマンズの定理と呼ばれることがある)を認める。この定理は、電子の系の第一(垂直)イオン化エネルギーを対応するKS HOMOエネルギー の負数と同一視する。より一般的には、この関係は、KS系が非整数個の電子は整数; )を持つゼロ度アンサンブルについて記述している時でさえも成り立つ。個の電子を考える時、無限小の余剰電荷はN電子系のKS LUMOに入るが、正確なKSポテンシャルは「微分不連続性(derivative discontinuity)」と呼ばれる定数によって急に変化する[22]。垂直電子親和力はLUMOエネルギーと微分不連続性の和の負数と厳密に等しい、と主張することができる[22][23][24][25]

ハートリー=フォック理論におけるクープマンズの定理の(軌道緩和の無視による)近似的立場とは異なり、厳密なKSマッピングにおいてこの定理は厳密であり、軌道緩和の効果を含んでいる。この厳密な関係の大雑把な証明は3段階からなる。はじめに、全ての有限な系について、は密度の漸近形を決定する(のように減衰する)[22][26]。次に、(物理的な相互作用のある系はKS系と同じ密度を持つため)当然の帰結として、どちらも同じイオン化エネルギーを持つ。最後に、KSポテンシャルは無限遠においてゼロであるため、KS系のイオン化エネルギーは、定義により、そのHOMOエネルギーの負数であり、したがって最終的にとなる[27][28]

これらはDFTの形式化において厳密な言明であるのに対して、近似交換-相関ポテンシャルの使用により計算されるエネルギーは近似的となり、しばしば軌道エネルギーは対応するイオン化エネルギーと全く異なる(数eVの差さえ生じる)[29]

調整手順によってDFT近似にクープマンズの定理を「課す」ことができ、それによって実際の応用においてその関連予測の多くが改善される[29][30]。近似DFTにおいて、エネルギー曲率の概念を使ってクープマンズの定理からのずれを高精度に見積ることができる[31][32] [33][34][2]:157

出典

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関連項目

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