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「災害食」の版間の差分

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守茂昭 (会話 | 投稿記録)
日本災害食学会を誹謗することを目的に、災害食というwikipedia上のサイトを何者かがアップし続けております。日本災害食学会として正式に抗議を申し入れ、同時に「災害食」という概念の本来の由来をアップいたします。
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(1)「災害食」の由来
'''災害食'''(さいがいしょく)は、[[災害]]等の非常事態により通常の食糧の供給が困難になった時のための[[食品|食糧]]のこと<ref name=hdl2292>[http://hdl.handle.net/11035/2292 中沢孝、別府茂、「非常食から被災生活を支える災害食へ」] [[科学技術動向]] 科学技術動向. 2012, 128, p.20-34, {{hdl|11035/2292}}</ref>。'''災害'''対応'''食'''品の略で[[非常食]]よりも広い概念<ref name=hdl2292 />。
災害時に用いる食材を意味する用語として、20世紀以降「非常食」という普通名詞が用いられてきた。初期の頃の非常食とは、戦闘や登山といった非日常的な食生活を賄う食材を指していたと推察される。そういった中で、阪神・淡路大震災が発災し、しばし「非常食」が役に立たない、という指摘がされたが(詳細参考文献)、批判が起きるにつれ「非常食」という用語の定義が曖昧であったことから、そこで批判される非常食とは、そもそも何であり、本来どんな食材が備蓄されるべきであったのか、そういった再整理を必要とするに至った。
このとき初めて「災害食」という新しいくくりで食のジャンルを提唱したのが奥田和子である。奥田は、災害に備えてストックすべき食材のあり方について、従来「非常食」と呼ばれていた食品に限定させず、要配慮者対応、栄養バランス対応、衛星対応、美味しさを加味して、長い災害復旧生活に役立つ食、すなわち被災者に栄養面・精神面も含めて本当に支えとなる食のあり方として「災害食」を提唱した。
その後、新潟県中越地震での食に関する同様の被災体験を経て、この考え方は新潟大学フードサイエンスセンターの啓蒙活動でさらに展開を遂げ、東日本大震災の後、2013年9月1日に日本災害食学会の設立として結実している。


日本災害食学会では、災害発生の増大している現代日本に必要な食のあり方を検討し、2015年災害食を次の3つに定義している。
== 災害発生時に必要な食料 ==
①「いつものように食べることができない時の食のあり方」という意味で災害食を考え、避難所や自宅で被災生活をする高齢者や乳幼児、障害者や疾病患者など日常の社会においても特定の食事を必要とする人々、さらに救援活動に従事する人々など、被災地で生活、活動するすべての人々に必要な食をいう。
災害を想定していくつかの段階に分けて考える<ref name=dietitian>[https://www.dietitian.or.jp/data/manual/h23evacuation5.pdf 災害時の栄養・食生活支援マニュアル 平成23年4月] 日本栄養士会、国立健康・栄養研究所</ref>。水は全ての段階において必要で、飲料水として1リットル/人日<ref name=maff>[http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/gaido-kinkyu.html 緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド] 農林水産省 大臣官房政策課食料安全保障室</ref>、調理や飲用以外を含めると 3リットル/人日とされる<ref name=maff /><ref name=HNK>[https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20130721.html コラム 災害食の選び方 ~ポイントとコツ~] NHK そなえる 防災</ref>。また、食料を提供する側には、乳幼児、嚥下困難者、アレルギー、疾病制限食等への対応が求められる<ref name=dietitian />。
②日常食の延長線上にあり、室温で保存できる食品及び飲料はすべて災害食となりうる。
③加工食品(飲料を含む)及び災害時に限定された熱源、水により可能となる調理の工夫も含める
さらに日本災害食として、災害食に役立つこと、及び日常でも積極的に利用可能な加工食品について、日本災害食学会が示す日本災害食基準を満たしていることを学会が認めた食品とすることを日本災害食認証基準のなかで規定している。


これらの定義の背景には、自然災害多発時代の始まり、現代の生活と被災生活とのギャップの拡大、広域災害と長期被災生活の発生、災害時要配慮者の増大、備蓄食品の食品ロス問題、ライフラインの代替手段の拡大など社会的な環境変化がある。以下にその詳細を記す。
=== 災害発生から数日以内 ===
公的物資の配給開始までの'''最低でも3日分'''から1週間分が必要<ref name=maff />。調理器具、ライフラインが使用できない状態を想定し、備蓄食料が主体となる<ref name=maff />。
* 避難先や自宅
: カロリー摂取に主眼を置いた高カロリー、高栄養食。
# 非加熱でも食べられる。
# 調理に水分を必要としない。
# 包装を開けすぐ食べられる。


1)いつものように食べることができない時の食のあり方
=== 数日から1か月 ===
① 災害多発時代
加熱調理用の熱源が確保でき、簡易な調理器具は使用可能。備蓄食料と配給食料が主体となる<ref name=maff />。ライフラインは一部が復旧。
日本列島は4つのプレートに囲まれ、活断層は2000箇所もの存在が明らかとなり、地震の発生は頻繁である。2003年から2013年までに発生した震度6以上の地震回数は、世界で1,758回に対して、日本では326回と18.5%となり、国土面積0.25%に比較して極めて高率である。さらに、近年は活動が活発となり、首都直下地震、南海トラフ地震が発生すると甚大な被害が発生すると想定されている。また地震だけでなく、風水害、土砂災害、火山噴火などの災害発生も頻発している。このため、地域ごとに災害リスクの調査と被害想定が地域防災計画に発表し、備えの具体化に役立てようとしている。
* 避難先や自宅または仮設住宅
: 栄養バランスを考慮したもの、特にタンパク質不足に対応。


② いつものように食べることができない
=== 1か月以降 ===
地震災害では、建物被害によって居住できなくなるだけでなく、電気、ガス、水道が途絶して調理を始め、食材や食器の洗浄もできなくなる。また、停電により冷凍冷蔵庫の温度が上昇し、冷蔵冷凍食品の利用ができなくなるほか、物流が停止して購入することも、宅配を利用して届けることもできなくなる。さらにお弁当や惣菜の購入、外食を利用できなくなり、普段の生活で利用している食品は入手できなくなる。地震の発生は事前に予測することは難しく、日常生活を突然に襲うため、いつ発生しても対応できるだけの備えが必要となっている。また、被災生活の不便さは、災害の種類、地域の特性、発生季節、時刻などによって異なり、全国一律の対策、3日間のみの対策といった備えでは十分でない場合があることも判明した。このため、最低でも3日間、推奨期間としては7日間の備えが求められており、被災地の生活や活動を前提とした備え、避難生活の長期化に備えた栄養面の配慮などが必要となっている。
ライフラインは概ね復旧、調理器具は使用可能。
* 避難先や自宅または仮設住宅
: 配給食 + 自己調達
: 栄養バランスを考慮したもの、特にタンパク質、ビタミン、ミネラル不足に対応。


③ 備え方  
== 災害食の認証制度 ==
1950年代以降、都市に被害が及ぶ地震災害の発生は少なく、被災経験を通じて大量の被災者のための食の備えを見直す機会は少なかった。このため、食の備えは、被災時の役立ち度ではなく、備蓄のために賞味期間の長さを重要視してきた。この間、インフラは近代化し日常生活の利便性は大きく向上した。しかし、1995年に発生した阪神・淡路大震災が近代都市を襲い、約30万人を超える避難者が発生した。その後、2004年新潟中越地震では約10万人、2011年東日本大震災では最大47万人の被災者が避難生活を余儀なくされ、その教訓から被災者の健康を守り、復旧・復興に役立つ視点をもつ食の備えのあり方が議論されるようになった。
保存性のある食料品を製造する一部の業者等によって構成される[http://www.mmjp.or.jp/TELEPAC/d-food/ 日本災害食学会]を標榜する[[任意団体|団体]]は、「備蓄倉庫の食材は、消費者が消費を伴わないままにストックだけされる物量が多いため、消費者のクレームに晒される機会が少なく、商品欠陥が表面化しない問題が潜在的にあった」との主張によって市場の不安を扇動し、「加工食品として販売される災害食に関して、その性能が商品包装の説明表示の通りに担保され、災害時の食対応に十分な機能を発揮するかどうかを検証する」ことが目的であると称し、半ば[[マッチポンプ]]的に[[任意団体|団体]]独自の認証基準を設けて認証活動を行っている。<br />
これまでの災害時の食の対象は避難者と一括りとして、災害時要配慮者、災害対応従事者などと被災地での生活や活動を想定していたものではなかった。また、早期の救援物資の到着を前提に、非常食だけを何日も食べ続けることも想定していなかった
同認証制度は、団体への加盟の有無を問わず、審査の申請のあったメーカーの特定商品に対し、審査料として1品目につき5万円を支払い、認証基準を満たしたと確認され、さらに登録料として1品目につき5万円を支払うことにより、その旨を認証ロゴの発給を通じて証明する制度であるとしている<ref>[http://www.mmjp.or.jp/TELEPAC/d-food/certification.html 日本災害食認証制度][[日本災害食学会]] 2017年4月6日閲覧。</ref>。<br />
食の備えは、住民自らが行う自助としての備えが最も重要である。備蓄では、普段の生活で備えを無駄にしないことが大切であり、ローリングストックなどの方法で、常に備えが循環しながら災害時に役立つ工夫が大切である。また、食経験のないものは被災時であっても食べにくいため、普段から食べなれたものを備えることが必要である。また、定期的な試食訓練など通じて、災害時のために備えた食品を被災時を想定した条件で食べなれることは重要である。 
官公庁等の行政機関や自治体等の公共団体による災害用備蓄食料の調達は纏まった数量の取引が期待できるが、物品の調達は金額により随意契約や入札となる。競争入札においては応札業者間で納入額を競り合う性質上、購入品目には一定の基準を定めた仕様書なる規格を設ける場合がある。<br />
さらに揺れや火災、津波などで家屋と備えを失った住民のために、避難所の生活を支える公助としての市町村の備蓄、さらに共助としての近隣住民による炊き出しや救援物資に関わる対策も災害食としての食の備えである。
この官公庁や自治体等が災害備蓄用食料を調達する際に、入札公告の仕様書等に同団体の認証品であることを条件として書き加えることにより、応札品を取得業者の製品に限定できることから、同団体の加入業者のなかには、いわゆる入札の「縛り」として利用するために加入していると語る業者もある。<br />
同団体では発行する雑誌を[http://www.mmjp.or.jp/TELEPAC/d-food/profileronbunshinsakitei.html レフリー付き]であるとしつつも、実際には原著論文が事例報告程度の内容であったり、新規性や独自性が疑問視されるような内容も散見される。また、投稿時に執筆者が特定の[[査読]]者を指名できることから、いわゆる[[捕食出版|ハゲタカジャーナル]]や[[捕食学会|ハゲタカ学会]]なのではとの指摘もある。<br />
近年では、[[食品ロス|フードロス]]の観点からも備蓄食料の廃棄をなくす動きもあり、「消費者が消費を伴わないままにストックだけされる物量が多い」との主張は前時代的であるとの見方もある。<br />


④ 被災者のニーズは多様  
== 備蓄 ==
地震災害では、そのとき生活、滞在していた全ての人々が被災し、乳幼児、児童、妊産婦、疾病患者、高齢者、外国人、旅行者も含まれる。これらの人々は普段の食事で何でも食べることができるわけではない。乳幼児にはミルク、アレルギー疾患のある児童や慢性病患者にはアレルゲン物質を含まない食品、摂食嚥下障害をもつ高齢者の中には介護食と、それぞれにとって適切な食品が日常でも避難生活でも必要である。被災時に適切な食品がなければ、健康面の二次災害に至りやすく、災害時要配慮者対策として、これを防止するための備えと被災後の支援は不可欠となっている。
{{main|備蓄推奨品}}
さらに災害発生と同時に救出救急活動、消火や救命活動などの災害時初期対応を行う行政関係者、医療従事者なども被災地に入る。また、避難所の運営管理者、病院・高齢者施設の職員、行政職員を初め、災害時に事業継続計画を実行する企業の社員の業務は最優先であり、不眠不休の活動が続くことも多い。このような活動を支える食は、現地で入手できず、被災地に向かう途中で購入する余裕もないため、あらかじめ備えておく必要がある。適切な食品を携行して出動できれば、救助される被災者は増え、復旧が早まる可能性は高くなり、災害食には救援、復旧を促進させる役割も求められている。
{{main|非常食#ローリングストック法}}


2)日常食の延長線上にあり、室温で保存できる食品及び飲料はすべて災害食
=== 特定の食を必要とする者への配慮 ===
 これまでの災害時の食は、大災害専用食品として位置づけ、普段の生活での利用度は低かった。また、賞味期間内に災害が発生して活用することも頻繁でないため、備蓄専用となり、賞味期間が長いことに価値があると考えられた。しかし、ひとたび被災すると、食経験のない食品は食べにくいと指摘された。さらに、災害時要配慮者向けの食品は賞味期間が1年程度のため長期の備蓄向きではないとされてきたが、被災地でも必要とされる食品であることが判明した。これらのことから、災害食は賞味期間の長さよりも要配慮者や被災時の状況でも役立つことを優先することが大切である。また、停電により冷凍冷蔵庫の温度が上昇して冷蔵冷凍食品の利用ができなくなるため、常温製品が必要となり、缶詰、レトルト食品、乾燥食品などの役割は大きい。
{{main|災害弱者}}

== 出典・脚注 ==
{{Reflist}}

== 関連項目 ==
* [[非常食]]
* [[防災用品一覧]]
* [[備蓄品]]


3) 加工食品(飲料を含む)及び災害時に限定された熱源、水により可能となる調理の工夫
電気、ガス、水道などのライフラインが途絶すると、調理ができなくなる。このため、災害時には開封するだけで食べることができる食品が役立つと思われてきた。しかし、飲料水なしで食事としての量を食べることができる食品はなく、食べるためにも健康を守るためにも飲料水は不可欠である。次に、水だけを加えて食べことができるようになる食品が役立つと考えられてきたが、日常生活で水だけを加えて食べている食品は少なく、さらに食経験がないと食べにくく、さらに冬季は冷たくて食べにくい。一方、お湯を加えて食べることができる食品は多く湯煎も含めると、お湯を必要とする食品の種類は大きく広がる。
 現代生活では、ライフラインの途絶があっても代替となる手段を日常生活で利用しており、被災時に限定された熱源、水ではあるものの、食品の選択範囲を広げ、温かさで食事の質を高めることができる。代替手段には、熱源としては薪や炭のほかにカセットコンロやプロパンガスがある。断水対策にはペットボトルの飲料が常温で保存でき、開封するだけで安全な飲料水となる。さらに、自然エネルギーや電気自動車の蓄電池があれば、限定的ながら照明や湯沸しへの利用も可能となり、さらに今後もライフラインの代替システムの開発が期待される。
さらに調理法の工夫の事例としてパッククッキングがある。高密度ポリエチレンの袋に食材を入れて行う湯煎調理法は、カセットコンロとペットボトルを利用して被災時にも温かで通常の料理を食べることができる工夫となっている。このようなライフライン代替を備えるかどうかで被災生活の質は大きく変えることができる。これまでは、災害発生への防災意識が不足していたため、備えも少なく被災生活で我慢を重ねたが、防災意識と備えの工夫により災害時の食のあり方を代えることができるようになっている。
《参考文献》
1. 奥田和子. 震災下の「食」~神戸からの提言~. NHK出版. 1996.
2. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. これからの非常食・災害食に求められるもの~災害からの教訓に学ぶ~. 光琳. 2006.
3. 奥田和子. 働く人の災害食~神戸からの伝言~. 編集工房ノア.2008.
4. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. これからの非常食・災害食に求められるもの~災害時に必要な食の確保~. 光琳. 2008.
5. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. 災害時における食と福祉~非常食・災害食に求められるもの~. 光琳. 2011.
6. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. 災害時における食とその備蓄~東日本大震災を振り返って、首都直下型地震に備える~. 建帛社. 2011.
== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/gaido-kinkyu.html 緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド] 農林水産省 大臣官房政策課食料安全保障室
* [http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/gaido-kinkyu.html 緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド] 農林水産省 大臣官房政策課食料安全保障室
* [https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20130721.html コラム 災害食の選び方 ~ポイントとコツ~] NHK そなえる 防災
* [https://www.nhk.or.jp/sonae/column/20130721.html コラム 災害食の選び方 ~ポイントとコツ~] NHK そなえる 防災
* [https://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20150910/213384/ 知っておけば大違い!「非常食」準備のコツと盲点~災害に備えて] 日経ウーマンオンライン
* [https://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20150910/213384/ 知っておけば大違い!「非常食」準備のコツと盲点~災害に備えて] 日経ウーマンオンライン
* [http://www.mmjp.or.jp/TELEPAC/d-food/ 日本災害食学会
* 吉田裕実子、大澤脩司、藤生慎 ほか、[https://doi.org/10.2208/jscejseee.73.I_422 大規模災害を想定した食料シミュレーション-南海トラフ巨大地震を対象として-] 土木学会論文集A1(構造・地震工学) 2017年 73巻 4号 p.I_422-I_430, {{doi|10.2208/jscejseee.73.I_422}}

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[[Category:食事]]
[[Category:防災用品]]
[[Category:保存食]]

2019年5月26日 (日) 07:32時点における版

(1)「災害食」の由来 災害時に用いる食材を意味する用語として、20世紀以降「非常食」という普通名詞が用いられてきた。初期の頃の非常食とは、戦闘や登山といった非日常的な食生活を賄う食材を指していたと推察される。そういった中で、阪神・淡路大震災が発災し、しばし「非常食」が役に立たない、という指摘がされたが(詳細参考文献)、批判が起きるにつれ「非常食」という用語の定義が曖昧であったことから、そこで批判される非常食とは、そもそも何であり、本来どんな食材が備蓄されるべきであったのか、そういった再整理を必要とするに至った。 このとき初めて「災害食」という新しいくくりで食のジャンルを提唱したのが奥田和子である。奥田は、災害に備えてストックすべき食材のあり方について、従来「非常食」と呼ばれていた食品に限定させず、要配慮者対応、栄養バランス対応、衛星対応、美味しさを加味して、長い災害復旧生活に役立つ食、すなわち被災者に栄養面・精神面も含めて本当に支えとなる食のあり方として「災害食」を提唱した。 その後、新潟県中越地震での食に関する同様の被災体験を経て、この考え方は新潟大学フードサイエンスセンターの啓蒙活動でさらに展開を遂げ、東日本大震災の後、2013年9月1日に日本災害食学会の設立として結実している。

日本災害食学会では、災害発生の増大している現代日本に必要な食のあり方を検討し、2015年災害食を次の3つに定義している。 ①「いつものように食べることができない時の食のあり方」という意味で災害食を考え、避難所や自宅で被災生活をする高齢者や乳幼児、障害者や疾病患者など日常の社会においても特定の食事を必要とする人々、さらに救援活動に従事する人々など、被災地で生活、活動するすべての人々に必要な食をいう。 ②日常食の延長線上にあり、室温で保存できる食品及び飲料はすべて災害食となりうる。 ③加工食品(飲料を含む)及び災害時に限定された熱源、水により可能となる調理の工夫も含める さらに日本災害食として、災害食に役立つこと、及び日常でも積極的に利用可能な加工食品について、日本災害食学会が示す日本災害食基準を満たしていることを学会が認めた食品とすることを日本災害食認証基準のなかで規定している。

これらの定義の背景には、自然災害多発時代の始まり、現代の生活と被災生活とのギャップの拡大、広域災害と長期被災生活の発生、災害時要配慮者の増大、備蓄食品の食品ロス問題、ライフラインの代替手段の拡大など社会的な環境変化がある。以下にその詳細を記す。

1)いつものように食べることができない時の食のあり方 ① 災害多発時代 日本列島は4つのプレートに囲まれ、活断層は2000箇所もの存在が明らかとなり、地震の発生は頻繁である。2003年から2013年までに発生した震度6以上の地震回数は、世界で1,758回に対して、日本では326回と18.5%となり、国土面積0.25%に比較して極めて高率である。さらに、近年は活動が活発となり、首都直下地震、南海トラフ地震が発生すると甚大な被害が発生すると想定されている。また地震だけでなく、風水害、土砂災害、火山噴火などの災害発生も頻発している。このため、地域ごとに災害リスクの調査と被害想定が地域防災計画に発表し、備えの具体化に役立てようとしている。

② いつものように食べることができない 地震災害では、建物被害によって居住できなくなるだけでなく、電気、ガス、水道が途絶して調理を始め、食材や食器の洗浄もできなくなる。また、停電により冷凍冷蔵庫の温度が上昇し、冷蔵冷凍食品の利用ができなくなるほか、物流が停止して購入することも、宅配を利用して届けることもできなくなる。さらにお弁当や惣菜の購入、外食を利用できなくなり、普段の生活で利用している食品は入手できなくなる。地震の発生は事前に予測することは難しく、日常生活を突然に襲うため、いつ発生しても対応できるだけの備えが必要となっている。また、被災生活の不便さは、災害の種類、地域の特性、発生季節、時刻などによって異なり、全国一律の対策、3日間のみの対策といった備えでは十分でない場合があることも判明した。このため、最低でも3日間、推奨期間としては7日間の備えが求められており、被災地の生活や活動を前提とした備え、避難生活の長期化に備えた栄養面の配慮などが必要となっている。

③ 備え方   1950年代以降、都市に被害が及ぶ地震災害の発生は少なく、被災経験を通じて大量の被災者のための食の備えを見直す機会は少なかった。このため、食の備えは、被災時の役立ち度ではなく、備蓄のために賞味期間の長さを重要視してきた。この間、インフラは近代化し日常生活の利便性は大きく向上した。しかし、1995年に発生した阪神・淡路大震災が近代都市を襲い、約30万人を超える避難者が発生した。その後、2004年新潟中越地震では約10万人、2011年東日本大震災では最大47万人の被災者が避難生活を余儀なくされ、その教訓から被災者の健康を守り、復旧・復興に役立つ視点をもつ食の備えのあり方が議論されるようになった。 これまでの災害時の食の対象は避難者と一括りとして、災害時要配慮者、災害対応従事者などと被災地での生活や活動を想定していたものではなかった。また、早期の救援物資の到着を前提に、非常食だけを何日も食べ続けることも想定していなかった 食の備えは、住民自らが行う自助としての備えが最も重要である。備蓄では、普段の生活で備えを無駄にしないことが大切であり、ローリングストックなどの方法で、常に備えが循環しながら災害時に役立つ工夫が大切である。また、食経験のないものは被災時であっても食べにくいため、普段から食べなれたものを備えることが必要である。また、定期的な試食訓練など通じて、災害時のために備えた食品を被災時を想定した条件で食べなれることは重要である。  さらに揺れや火災、津波などで家屋と備えを失った住民のために、避難所の生活を支える公助としての市町村の備蓄、さらに共助としての近隣住民による炊き出しや救援物資に関わる対策も災害食としての食の備えである。

④ 被災者のニーズは多様   地震災害では、そのとき生活、滞在していた全ての人々が被災し、乳幼児、児童、妊産婦、疾病患者、高齢者、外国人、旅行者も含まれる。これらの人々は普段の食事で何でも食べることができるわけではない。乳幼児にはミルク、アレルギー疾患のある児童や慢性病患者にはアレルゲン物質を含まない食品、摂食嚥下障害をもつ高齢者の中には介護食と、それぞれにとって適切な食品が日常でも避難生活でも必要である。被災時に適切な食品がなければ、健康面の二次災害に至りやすく、災害時要配慮者対策として、これを防止するための備えと被災後の支援は不可欠となっている。 さらに災害発生と同時に救出救急活動、消火や救命活動などの災害時初期対応を行う行政関係者、医療従事者なども被災地に入る。また、避難所の運営管理者、病院・高齢者施設の職員、行政職員を初め、災害時に事業継続計画を実行する企業の社員の業務は最優先であり、不眠不休の活動が続くことも多い。このような活動を支える食は、現地で入手できず、被災地に向かう途中で購入する余裕もないため、あらかじめ備えておく必要がある。適切な食品を携行して出動できれば、救助される被災者は増え、復旧が早まる可能性は高くなり、災害食には救援、復旧を促進させる役割も求められている。

2)日常食の延長線上にあり、室温で保存できる食品及び飲料はすべて災害食  これまでの災害時の食は、大災害専用食品として位置づけ、普段の生活での利用度は低かった。また、賞味期間内に災害が発生して活用することも頻繁でないため、備蓄専用となり、賞味期間が長いことに価値があると考えられた。しかし、ひとたび被災すると、食経験のない食品は食べにくいと指摘された。さらに、災害時要配慮者向けの食品は賞味期間が1年程度のため長期の備蓄向きではないとされてきたが、被災地でも必要とされる食品であることが判明した。これらのことから、災害食は賞味期間の長さよりも要配慮者や被災時の状況でも役立つことを優先することが大切である。また、停電により冷凍冷蔵庫の温度が上昇して冷蔵冷凍食品の利用ができなくなるため、常温製品が必要となり、缶詰、レトルト食品、乾燥食品などの役割は大きい。

3) 加工食品(飲料を含む)及び災害時に限定された熱源、水により可能となる調理の工夫 電気、ガス、水道などのライフラインが途絶すると、調理ができなくなる。このため、災害時には開封するだけで食べることができる食品が役立つと思われてきた。しかし、飲料水なしで食事としての量を食べることができる食品はなく、食べるためにも健康を守るためにも飲料水は不可欠である。次に、水だけを加えて食べことができるようになる食品が役立つと考えられてきたが、日常生活で水だけを加えて食べている食品は少なく、さらに食経験がないと食べにくく、さらに冬季は冷たくて食べにくい。一方、お湯を加えて食べることができる食品は多く湯煎も含めると、お湯を必要とする食品の種類は大きく広がる。  現代生活では、ライフラインの途絶があっても代替となる手段を日常生活で利用しており、被災時に限定された熱源、水ではあるものの、食品の選択範囲を広げ、温かさで食事の質を高めることができる。代替手段には、熱源としては薪や炭のほかにカセットコンロやプロパンガスがある。断水対策にはペットボトルの飲料が常温で保存でき、開封するだけで安全な飲料水となる。さらに、自然エネルギーや電気自動車の蓄電池があれば、限定的ながら照明や湯沸しへの利用も可能となり、さらに今後もライフラインの代替システムの開発が期待される。 さらに調理法の工夫の事例としてパッククッキングがある。高密度ポリエチレンの袋に食材を入れて行う湯煎調理法は、カセットコンロとペットボトルを利用して被災時にも温かで通常の料理を食べることができる工夫となっている。このようなライフライン代替を備えるかどうかで被災生活の質は大きく変えることができる。これまでは、災害発生への防災意識が不足していたため、備えも少なく被災生活で我慢を重ねたが、防災意識と備えの工夫により災害時の食のあり方を代えることができるようになっている。 《参考文献》 1. 奥田和子. 震災下の「食」~神戸からの提言~. NHK出版. 1996. 2. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. これからの非常食・災害食に求められるもの~災害からの教訓に学ぶ~. 光琳. 2006. 3. 奥田和子. 働く人の災害食~神戸からの伝言~. 編集工房ノア.2008. 4. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. これからの非常食・災害食に求められるもの~災害時に必要な食の確保~. 光琳. 2008. 5. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. 災害時における食と福祉~非常食・災害食に求められるもの~. 光琳. 2011. 6. 新潟大学地域連携フードサイエンスセンター. 災害時における食とその備蓄~東日本大震災を振り返って、首都直下型地震に備える~. 建帛社. 2011.

外部リンク