「破産者マップ事件」の版間の差分

削除された内容追加された内容

インライン

2019年3月19日 (火) 19:53時点における版

破産者マップ事件（はさんしゃマップじけん）は、2019年 3月にインターネット上で起きた事件。“破産者マップ”と称するサイトの運営者が、破産決定から免責に至った者を個別的・断続的に掲載している官報の破産者情報を包括的・網羅的に収集し、データベース化させ、Google マップに関連付け設定を施し、Googleマップ上に破産手続きした者の住所の上にピン（目印）を挿入するなど容易に可視化させるサイトを実験的に開設した。しかし、破産者を一元化させるこのサイトの設立に対し、プライバシー権への侵害や社会的評価を低下させることによる名誉を毀損させる行為であるなど、次第に物議を醸し、2019年 3月にはこれを問題視するメディアも出てくるなど報道過熱し、これを受けて被害対策弁護団が結成される事態にまで発展した^[1]^[2]。最終的には後述の理由からサイトは閉鎖した。

自己破産について

破産とは、一般的には財産をすべて失うことを言う^[3]が、自己破産とは、債務者が経済的に破綻することで、既に弁済期にある全ての債務が債権者に対して一般的・継続的に弁済することができない状態にあるとき^[4]に、本人などの申立て権者が裁判所に申立て^[5]、裁判所が選任する破産管財人に債務者の財産を包括的に管理^[6]・換価^[7]、また総債権者に公平に分配してもらうこと^[8]で、経済的破綻状況から離脱することをいう^[9]。日本では、破産法により、破産について非懲戒主義（公法上での資格制限を科すなどの建前上の不利益を否定すること）^[10]や免責主義（破産者の責任、特に債務について、原則としてその責任を免除すること）^[11]を採っている^[12]。

内閣府が発行する官報には、裁判所公示催告を担う媒体として、裁判所で行われた破産に関係した内容が記載されている^[13]。具体的には、当該破産事件の事件番号、破産者の住所・氏名、破産決定日、当該破産事件の裁判における主文、破産の理由要旨、判決した裁判所であり、多岐に渡る^[14]。破産者を特定する上での個人情報が個別的・具体的に公開されてしまうため、自己破産を予定している者を精神的に追い込んだり、実際に破産した人のプライバシー権侵害や社会的評価が低下し名誉を毀損させる効果は否定できない。一方、国民にとって自由な経済活動を行う上では、自己破産（や個人再生）を行った人物を知りうる状況にあるということは重要な意義を有するため、官報による公開を一概に否定できるものではなく、本件は官報による破産者リストの公開の在り方についても一石を投じる結果となった。

事件の経緯

2019年3月15日頃、破産者マップの情報がネット上で炎上する。サーバーがたびたび不安定になるほどアクセス数を伸ばし、翌16日には1時間当たり230万アクセスに達する程であった^[15]。19日になり、運営者がサイトを閉鎖。

サイト運営者の動機・主張

「破産マップの係長」と称する破産者マップの運営者は、公式Twitter^[16]上にて、1. 官報の情報は、図書館や大学・インターネット上で誰もが自由に知ることの出来る情報であり、2. 特にこのうち破産者情報については、広く国民が知ることで困っている破産者が社会で援助を受けることが可能になるとりわけ有益な情報であるにもかかわらず、3. 官報の記載は個別的・断続的に公開されることから、それらの情報を国民が知るには利便性に欠けるため、4. 表現方法を変える（破産者マップ上にてグーグルマップと関連付けさせて公開することで可視性を高める）ことで、破産者情報が固有として持つ本質的な価値（地域の一般市民が近隣の破産者を援助できる、という運営者が個人的に見出している価値のこと）を引き出せるのではないか、という動機から破産者マップを公開したことを説明している。「破産者の社会的評価を低下させ名誉を毀損させている」との意見に対しては、破産者情報が本来的に官報により公開される情報であることを理由に、専らサイト上での公開によって名誉が毀損されるものではないと反論しており、「プライバシー権への侵害となっている」との意見については沈黙を貫いている。他方で、当初の予定以上に反響が大きく、また、後述の第三者による詐欺事件に対して結果的に加担したことなどを踏まえ、「期待する使われ方と違う使われ方をされていると聞いて、とても悲しい気持ちでいっぱいです。もしあなたの隣人が困っていたら、ぜひ助けてあげてほしいと思います。」と主張しており、社会的混乱に対する当惑はみせたものの、本来の動機については改悛の情を伺わせることはなかった。その後、最終的には「関係者に辛い思いをさせた」としてサイト閉鎖を決断した。サイト閉鎖にあたり、模倣犯による類似サイトの設立防止を理由に、当面の間はドメインの保持を維持することを表明した^[17]。

二次被害

破産者マップでは公式に、氏名や住所、身分証明書の写しや破産に至った事情（200文字以上）を破産者に提示させることと引き換えに、破産者マップから情報を削除する審査を受けることができる旨の制度を設け、運営者による独自の審査に通った場合にのみマップ情報の非開示に応じるとしていた。しかしこれらの制度を悪用し、悪意のある第三者が「削除申請は有料である」として、条件に加え更に金銭を要求することで利益を得ようとする詐欺事件が発生した^[18]。当該詐欺事件については、サイト運営者がツイッター上で一切の支払いをしないよう呼びかける旨のツイートを公表しており、サイト運営者としてもサイトが当初の期待していたものとは異なる使い方をされたことについては遺憾の意を表明した^[19]。

出典

^ 「破産者マップ」閉鎖を宣言　被害対策弁護団も発足、クラウドファンディング開始 <BuzzFeed Japan> 2019年3月19日、閲覧。
^ 「破産者マップをなくそう」法的対策の動き広がる…クラウドファンディングなど開始 <弁護士ドットコム> 2019年3月19日、閲覧。
^ デジタル大辞泉、当該項目参照。
^ 破産法 2条11項 <e-Gov> 2019年3月20日現在の法律。
^ 破産法第二章第一節 <e-Gov> 2019年3月20日現在の法律。
^ 破産法 79条 <e-Gov> 2019年3月20日現在の法律
^ 破産法 184条2項 <e-Gov> 2019年3月20日現在の法律
^ 債権者平等の原則。判例・通説。
^ 破産法 1条 <e-Gov> 2019年3月20日現在の法律。
^ 罪刑法定主義と破産法全文からの解釈。通説的見解。
^ 民事執行法 152条1項の例外規定としての破産法第十二章第一節 <e-Gov> 2019年3月20日現在の法律。
^ 判例最決昭和36年12月13日民集15巻11号2803頁
^ 官報について <独立行政法人国立印刷局公式サイト> 2019年3月20日、閲覧。
^ 「実際に掲載された記事が見られます」掲載のPDFデータ16ページ目 <独立行政法人国立印刷局公式サイト> 2019年3月20日、閲覧。
^ 「破産者マップ」閉鎖、「関係者につらい思いさせた」 <ITmedia NEWS> 2019年3月19日、閲覧。
^ “破産者マップ(@WMGjqEkelvEtglX)さん | Twitter”. twitter.com. 2019年3月19日閲覧。
^ 破産者マップ閉鎖、運営者謝罪「申し訳ございませんでした」 <弁護士ドットコム> 2019年3月19日、閲覧。
^ Google Map上の『破産者マップ』が波紋　サイトの存在を非難する声が殺到 <@niftyニュース> 2019年3月20日、閲覧。
^ 破産者マップ詐欺増加！？マップ悪用始まり「架空請求」の被害が発生！管理人が注意呼びかける <秒刊SUNDAY> 2019年3月20日、閲覧。

@@ 5行目: / 5行目: @@
 破産とは、一般的には財産をすべて失うことを言う<ref>デジタル大辞泉、当該項目参照。</ref>が、[[自己破産]]とは、債務者が経済的に破綻することで、既に弁済期にある全ての債務が債権者に対して一般的・継続的に弁済することができない状態にあるとき<ref>[http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000075 破産法 2条11項 <e-Gov>] 2019年3月20日現在の法律。</ref>に、本人などの申立て権者が裁判所に申立て<ref>[http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000075 破産法 第二章第一節 <e-Gov>] 2019年3月20日現在の法律。</ref>、裁判所が選任する[[破産管財人]]に債務者の財産を包括的に管理<ref>[http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000075 破産法 79条 <e-Gov>] 2019年3月20日現在の法律</ref>・換価<ref>[http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000075 破産法 184条2項 <e-Gov>] 2019年3月20日現在の法律</ref>、また総債権者に公平に分配してもらうこと<ref>債権者平等の原則。判例・通説。</ref>で、経済的破綻状況から離脱することをいう<ref>[http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000075 破産法 1条 <e-Gov>] 2019年3月20日現在の法律。</ref>。日本では、破産法により、破産について非懲戒主義（公法上での資格制限を科すなどの建前上の不利益を否定すること）<ref>罪刑法定主義と破産法全文からの解釈。通説的見解。</ref>や免責主義（破産者の責任、特に債務について、原則としてその責任を免除すること）<ref>[http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=416AC0000000075 民事執行法 152条1項の例外規定としての破産法 第十二章第一節 <e-Gov>] 2019年3月20日現在の法律。</ref>を採っている<ref>判例 最決昭和36年12月13日民集15巻11号2803頁</ref>。
-内閣府が発行する[[官報]]には、裁判所公示催告を担う媒体として、裁判所で行われた破産に関係した内容が記載されている<ref>[https://www.npb.go.jp/ja/books/kanpo.html 官報について <独立行政法人国立印刷局 公式サイト>] 2019年3月20日、閲覧。</ref>。具体的には、当該破産事件の事件番号、破産者の住所・氏名、破産決定日、当該破産事件の裁判における[[主文]]、破産の理由要旨、判決した裁判所であり、多岐に渡る<ref>[https://www.npb.go.jp/ja/books/pdf/published-kanpo.pdf 「実際に掲載された記事が見られます」掲載のPDFデータ16ページ目 <独立行政法人国立印刷局 公式サイト>] 2019年3月20日、閲覧。</ref>。{{要出典範囲|破産者を特定する上での[[個人情報]]が個別的・具体的に公開されてしまうため、自己破産を予定している者を精神的に追い込んだり、実際に破産した人のプライバシー権侵害や社会的評価が低下し名誉を毀損させる効果は否定できない。一方、国民にとって自由な経済活動を行う上では、自己破産（や個人再生）を行った人物を知りうる状況にあるということは重要な意義を有するため、官報による公開を一概に否定できるものではなく、本件は官報による破産者リストの公開の在り方についても一石を投じる結果となった。|date=2019年3月19日 (火) 16:39 (UTC)}}
+内閣府が発行する[[官報]]には、裁判所公示催告を担う媒体として、裁判所で行われた破産に関係した内容が記載されている<ref>[https://www.npb.go.jp/ja/books/kanpo.html 官報について <独立行政法人国立印刷局 公式サイト>] 2019年3月20日、閲覧。</ref>。具体的には、当該破産事件の事件番号、破産者の住所・氏名、破産決定日、当該破産事件の裁判における[[主文]]、破産の理由要旨、判決した裁判所であり、多岐に渡る<ref>[https://www.npb.go.jp/ja/books/pdf/published-kanpo.pdf 「実際に掲載された記事が見られます」掲載のPDFデータ16ページ目 <独立行政法人国立印刷局 公式サイト>] 2019年3月20日、閲覧。</ref>。破産者を特定する上での[[個人情報]]が個別的・具体的に公開されてしまうため、自己破産を予定している者を精神的に追い込んだり、実際に破産した人のプライバシー権侵害や社会的評価が低下し名誉を毀損させる効果は否定できない。一方、国民にとって自由な経済活動を行う上では、自己破産（や個人再生）を行った人物を知りうる状況にあるということは重要な意義を有するため、官報による公開を一概に否定できるものではなく、本件は官報による破産者リストの公開の在り方についても一石を投じる結果となった。
 == 事件の経緯 ==
@@ 11行目: / 11行目: @@
 == サイト運営者の動機・主張 ==
-「破産マップの係長」と称する破産者マップの運営者は、公式Twitter<ref>{{Cite web|title=破産者マップ(@WMGjqEkelvEtglX)さん {{!}} Twitter|url=https://twitter.com/WMGjqEkelvEtglX|website=twitter.com|accessdate=2019-03-19|language=ja}}</ref>上にて、{{要出典範囲|1. 官報の情報は、図書館や大学・インターネット上で誰もが自由に知ることの出来る情報であり、2. 特にこのうち破産者情報については、広く国民が知ることで困っている破産者が社会で援助を受けることが可能になるとりわけ有益な情報であるにもかかわらず、3. 官報の記載は個別的・断続的に公開されることから、それらの情報を国民が知るには利便性に欠けるため、4. 表現方法を変える（破産者マップ上にてグーグルマップと関連付けさせて公開することで可視性を高める）ことで、破産者情報が固有として持つ本質的な価値（地域の一般市民が近隣の破産者を援助できる、という運営者が個人的に見出している価値のこと）を引き出せるのではないか、という動機から破産者マップを公開したことを説明している。
+「破産マップの係長」と称する破産者マップの運営者は、公式Twitter<ref>{{Cite web|title=破産者マップ(@WMGjqEkelvEtglX)さん {{!}} Twitter|url=https://twitter.com/WMGjqEkelvEtglX|website=twitter.com|accessdate=2019-03-19|language=ja}}</ref>上にて、1. 官報の情報は、図書館や大学・インターネット上で誰もが自由に知ることの出来る情報であり、2. 特にこのうち破産者情報については、広く国民が知ることで困っている破産者が社会で援助を受けることが可能になるとりわけ有益な情報であるにもかかわらず、3. 官報の記載は個別的・断続的に公開されることから、それらの情報を国民が知るには利便性に欠けるため、4. 表現方法を変える（破産者マップ上にてグーグルマップと関連付けさせて公開することで可視性を高める）ことで、破産者情報が固有として持つ本質的な価値（地域の一般市民が近隣の破産者を援助できる、という運営者が個人的に見出している価値のこと）を引き出せるのではないか、という動機から破産者マップを公開したことを説明している。
 「破産者の社会的評価を低下させ名誉を毀損させている」との意見に対しては、破産者情報が本来的に官報により公開される情報であることを理由に、専らサイト上での公開によって名誉が毀損されるものではないと反論しており、「プライバシー権への侵害となっている」との意見については沈黙を貫いている。
-他方で、当初の予定以上に反響が大きく、また、後述の第三者による詐欺事件に対して結果的に加担したことなどを踏まえ、「期待する使われ方と違う使われ方をされていると聞いて、とても悲しい気持ちでいっぱいです。もしあなたの隣人が困っていたら、ぜひ助けてあげてほしいと思います。」と主張しており、社会的混乱に対する当惑はみせたものの、本来の動機については改悛の情を伺わせることはなかった。|date=2019年3月19日 (火) 16:42 (UTC)}}
+他方で、当初の予定以上に反響が大きく、また、後述の第三者による詐欺事件に対して結果的に加担したことなどを踏まえ、「期待する使われ方と違う使われ方をされていると聞いて、とても悲しい気持ちでいっぱいです。もしあなたの隣人が困っていたら、ぜひ助けてあげてほしいと思います。」と主張しており、社会的混乱に対する当惑はみせたものの、本来の動機については改悛の情を伺わせることはなかった。
 その後、最終的には「関係者に辛い思いをさせた」としてサイト閉鎖を決断した。サイト閉鎖にあたり、模倣犯による類似サイトの設立防止を理由に、当面の間は[[ドメイン]]の保持を維持することを表明した<ref>[https://www.bengo4.com/c_23/n_9385/ 破産者マップ閉鎖、運営者謝罪「申し訳ございませんでした」 <弁護士ドットコム>] 2019年3月19日、閲覧。</ref>。

2019年3月19日 (火) 19:53時点における版

自己破産について

事件の経緯

サイト運営者の動機・主張

二次被害

出典

関連項目