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ジョヴァンニ・スキアパレッリによる火星の地図　1877年

19世紀後半および20世紀前半の一時期、「火星の運河」(かせいのうんが、canals on Mars)が在ると、間違って、信じられていた。 これらは、天文学者によって写真の無い初期の低解像度の望遠鏡によって観測された、惑星火星の北緯60度から南緯60度までの赤道付近の地域の、網目状の長い直線であった。 それらは、1877年、衝のあいだにイタリアの天文学者ジョヴァンニ・スキアパレッリによって初めて記述され、そしてのちの観測者らによって確認された。 スキアパレッリはそれらを「溝」(canali)と呼び、これが"canals"（運河）と英訳された。 アイルランドの天文学者チャールズ E. バートン(Charles E. Burton)は、火星の直線の特徴の最も古い線画のいくつかを描いたが、ただし彼の線画は、スキアパレッリのと一致しなかった。 20世紀前半までに、進歩した天文観測は、「運河」("canals")が錯視であることを明らかにし、そして宇宙船による現代の高解像度の火星の表面の地図製作は、そういう特徴を示していない。

論争

6インチ（15センチメール）の装置の反射望遠鏡で見えた火星　スキアパレッリはこれを見たかもしれない

パーシヴァル・ローウェルは、運河は火星の知的文明によって灌漑のために建設されたという考えの強い支持者で、[1]スキアパレッリよりももっと先に行ったが、彼としてはローウェルの線画のうち多くは想像上のものと考えた。 幾人かの観測者は、いく百ではないまでも数十の運河が、それらすべての入念な命名とともに、示される、地図を描いた。 また幾人かの観測者は、彼らが「重複」("gemination")、あるいは二重化(doubling) - 2つの平行な運河、と呼ぶ現象が見えた。

また幾人かの観測者は、運河という観念に異議を唱えた。 観測者E. E. バーナード(E. E. Barnard)は、それらが見えなかった。 1903年、ジョセフ・エドワード・エヴァンス(Joseph Edward Evans)とエドワード・ウォルター・マウンダー(Edward Walter Maunder)は、どのようにして運河が錯視として生じ得るかを実証する、男子生徒ヴォランティアを利用して視覚的な実験を指導した。[2] これは、低品質の望遠鏡が多くの、点のような特徴（たとえば太陽の黒点、あるいはクレーター）を見るとき、それらは、線を作るようにみえるからである。[3] 1907年英国のナチュラリストアルフレッド・ラッセル・ウォレスは著『火星に住むことはできるのか？』(Is Mars Habitable?)を刊行し、ローウェルの主張を厳しく批判した。 ウォーレスの分析は、火星の表面はほとんど確実にローウェルが推定したよりもはるかに寒いこと、気圧は液体の水が表面に存在するにはあまりに低いということを、示した。 そして彼は、分光器分析で火星の大気内の水蒸気の証拠を見つけようとするいくつかの最近の試みが失敗したことを指摘した。 彼は、ローウェルによって主張される、惑星を取り巻く灌漑システムはいうまでもなく、複雑な生命はあり得ないと結論した。[4] 影響力のある観測者ウジェーヌ・アントニアディは、1909年の火星の衝で、ムードン天文台(Meudon Observatory)で、83センチメートル（32インチ）の装置の望遠鏡を使用し、そして運河は見えず、ピク・デュ・ミディ天文台の新しいバイヨー(Baillaud)ドームで撮られた火星の傑出した写真もまた1909年に火星運河説の名を礼儀正しく汚し、 そして運河という考えは、人気が落ち始めた。 このころ、分光器分析もまた、火星の大気に水が存在しないことを示し始めた。[3] しかしながら、1916年現在、ヴァルデマー・ケンプフェルト(Waldemar Kaempffert)（『Scientific American』、そして『Popular Science Monthly』の編集者）がそれでもなお、懐疑者らに対して火星運河説を元気よく擁護していた。[5]

火星の表面　マリナー4号による　1965年

1965年のNASAによる合衆国のマリナー4号の到着は、衝突クレーターと全般的に不毛な風景を明らかにする写真を撮ったが、火星に高等生物が棲息し得るという考えの棺の最後の釘であった。 表面大気圧4.1ないし7.0ミリバール（410ないし700パスカル）と昼間の温度摂氏マイナス100度が、推定された。 磁場は、[6][7] あるいは火星の放射線帯は、[8] 見つけられなかった。

ウィリアム・ケネス・ハートマン(William Kenneth Hartmann)は、1960年代から2000年代までの火星のイメージング科学者であるが、「運河」("canals")は、山岳およびクレーターの風下側の、風によって引き起こされた粉塵の筋痕(streaks of dust)であると説明している。[9]

運河の歴史

パーシヴァル・ローウェルによって描写された火星の水路

イタリア語canale（複数形 canali）は、"canal"（運河）, "channel"（水路）, "duct"（導管）あるいは "gully"（溝）を意味することがある。[10] 火星に関連させてcanaleという単語を最初に用いる人物は、1858年のアンジェロ・セッキであった。 たとえば、彼は、のちに「大シルチス台地」(Syrtis Major Planum)と呼ばれるようになるものに対して「"Canale Atlantico"」という名を用いた。

火星の運河という考えがそれほど多くの人々によって受け容れられたのは、かならずしも奇妙ではない。 19世紀後半のこの時点で、天文観測は写真なしでなされていた。 天文学者は、いく時間も望遠鏡ごしに星々を見つめ、像がはっきりしている静止した空気の瞬間を待ち、そしてそのとき見えた物の絵を描いた。 彼らは、より明るいあるいはより暗いアルベド地形（たとえば大シルチス）が見えて、そして自分は海洋および大陸が見えていると信じた。 彼らはまた、火星には比較的に実体的な大気(a relatively substantial atmosphere)があると信じた。 彼らは、火星の回転周期（その日の長さ）は地球のとほとんど同じであることを知っていたし、そして彼らは、火星の軸の傾きは地球のとほとんど同じであることを知っていたが、これは天文学的および気象学的な意味でそれには複数の季節があることを意味した。 彼らは、これらの変化する季節とともに、火星の極冠が収縮しそして成長しているのが見えた。 生命が彼らによって仮定されるのは、彼らが表面の特徴の変化を、植物の季節的な成長に因ると解釈したときだけである（実際には火星の砂塵嵐は、これのうちいくらかに因る）。 しかしながら、1920年代後半までに、火星はたいへん乾燥していて大気圧はたいへん低いということが知られた。

そのうえ、19世紀後半は、地球上で大運河が建設されつつある時期であった。 たとえば、スエズ運河は1869年に完成し、そしてパナマ運河を建設しようとするフランスの不成功な試みは1880年に始まった。 幾人かが同様な計画が火星で遂行されつつあると考えたのは、自然である。 1889年、天文学者チャールズ A. ヤング(Charles A. Young)は、スキアパレッリの1877年の運河の発見は1881年に確認されたと報告したが、ただし新しい運河が、以前に無かったところに現われていて、その起源に関する「たいへん重要かつ当惑させられる」("very important and perplexing")問題を生じさせた。[11]

1892年の有利な衝のあいだに、ウィリアム・ヘンリー・ピッカリングは、無数の小さい円形の黒い点が、「運河」("canals")のすべての交点あるいは出発点で生じているのを観測した。 これらのうち多くはスキアパレッリに大きな暗いパッチとして見えていたし、海(seas)あるいは湖(lakes)と呼ばれた。 しかしピッカリングの天文台は、標高約2400メートルの、ペルー、アレキパ(Arequipa)にあったし、そしてそういう大気の条件は、彼の意見では、望遠鏡装置の二重化に匹敵した。 それらはまもなく他の観測者らによって、とりわけローウェルによって、見つけられた。

1892年および1894年の衝のあいだに、季節的な色の変化が報告された。 極では、雪が溶けるにつれて隣接した海はあふれ、複数の回帰線まで広がるように見え、そしてしばしば明白にグリーン色を帯びているように見えた。 スキアパレッリの「canali」は本当は知的存在者によって作られた灌漑運河であるという考えが、ローウェルといくにんかの他者によって、まずほのめかされ、それから唯一の理解し得る説明として採用された。 火星の運河に関する新聞と雑誌の記事は、公衆の想像をとらえた。

このとき（1894年）、火星に海が少しでもあるかどうかが疑われ始めた。 最高の条件下で、これらの「海」('seas')と思われるものは、全く一様性を失っているように見えたし、その外見は、大きな高みから見られる、尾根、裂け目、そして峡谷に壊された、山の多い地方のそれであった。 これらの疑いは、まもなく確実さになったし、そして火星には、表面水の永久的塊は無いということがあまねく合意されている。

大衆文化において

英語版

「Mars in fiction」を参照

運河のコンセプトは、1877年のスキアパレッリのそれらに関する記述以来、入手可能であったけれども、火星の初期のフィクションの記述はそれらの特徴を欠いている。 たとえば、ハーバート・ジョージ・ウェルズの『宇宙戦争』（1897年）には言及は無く、これは、ゆっくりと乾きつつある、地球の資源をみやみに欲しがる、火星を描き、しかし小さくなりつつあるそのような海洋のあるそれはスキアパレッリの地図に描かれている。 ローウェルの著作によって影響された、後期の諸作品は、常に乾いた火星を描き、そして運河はより顕著な特徴となり、ただしそれの説明は著者によってさまざまに異なる。

火星の運河一覧

詳細は「火星の運河一覧」を参照

運河は、スキアパレッリその他によって、地球上のあるいは神話上の下界の各地の、実在するあるいは伝説上の、河川にちなんで、命名された。

脚注

  1. ^ Dunlap, David W. (2015年10月1日). “Life on Mars? You Read It Here First.”. New York Times. https://www.nytimes.com/2015/09/30/insider/life-on-mars-you-read-it-here-first.html 2015年10月1日閲覧。 
  2. ^ Evans, J. E. and Maunder, E. W. (1903) "Experiments as to the Actuality of the 'Canals' observed on Mars", MNRAS, 63 (1903) 488
  3. ^ a b Chambers P. (1999). Life on Mars; The Complete Story. London: Blandford. ISBN 0-7137-2747-0 
  4. ^ Wallace, Alfred. “Is Mars Habitable (S730: 1907)”. The Alfred Russel Wallace Page hosted by Western Kentucky University. 2007年5月13日閲覧。
  5. ^ Hickey, Walt (2017年3月21日). “A Mistranslated Word Led To Some Of The Best Fake News Of The 20th Century” (英語). FiveThirtyEight. https://fivethirtyeight.com/features/a-mistranslated-word-led-to-some-of-the-best-fake-news-of-the-20th-century/ 2017年3月23日閲覧。 
  6. ^ O'Gallagher, J.J.; Simpson, J.A. (1965-09-10). “Search for Trapped Electrons and a Magnetic Moment at Mars by Mariner IV”. Science, New Series 149 (3689): 1233–1239. Bibcode: 1965Sci...149.1233O. doi:10.1126/science.149.3689.1233. PMID 17747452. 
  7. ^ Smith, Edward J.; Davis Jr.; Leverett; Coleman Jr.; Paul J.; Jones, Douglas E. (1965-09-10). “Magnetic Field Measurements Near Mars”. Science, New Series 149 (3689): 1241–1242. Bibcode: 1965Sci...149.1241S. doi:10.1126/science.149.3689.1241. PMID 17747454. 
  8. ^ Van Allen, J.A.; Frank, L.A.; Krimigis, S.M.; Hills, H.K. (1965-09-10). “Absence of Martian Radiation Belts and Implications Thereof”. Science, New Series 149 (3689): 1228–1233. Bibcode: 1965Sci...149.1228V. doi:10.1126/science.149.3689.1228. PMID 17747451. 
  9. ^ Robots On Mars Search And Catalog Red Planet. Audio recording, supporting statement is approx. 34:00 after start.
  10. ^ WordReference.com
  11. ^ Young, Charles A. "A Textbook of General Astronomy. 1889. Ginn and Co. Boston.
  • Wallace, A. R. (1907) Is Mars habitable? A critical examination of Professor Percival Lowell's book "Mars and its canals", with an alternative explanation, by Alfred Russel Wallace, F.R.S., etc. London, Macmillan and co.
  • Antoniadi, E. M. (1910) "Sur la nature des »canaux« de Mars", AN 183 (1910) 221/222 （フランス語）

外部リンク

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