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「ヒカゲノカズラ科」の版間の差分

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{{出典の明記|date=2013年3月}}
{{生物分類表
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|名称 = ヒカゲノカズラ科 {{Sname||Lycopodiaceae}}
|名称 = ヒカゲノカズラ科
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|画像 = [[ファイル:Lycopodium complanatum nf.jpg|280px]]
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|画像キャプション = 日本のヒカゲノカズラ科<ref group="注釈">1. [[スギカズラ]] {{snamei||Spinulum annotinum}}(a: 胞子嚢穂 ; b: 匍匐茎)、2. [[マンネンスギ]] {{snamei||Dendrolycopodium dendroideum}}、3. [[タカネヒカゲノカズラ]] {{snamei||Diphasiastrum nikoense}}(a: 胞子嚢穂 ; b: 匍匐茎)、4. [[ヒカゲノカズラ]] {{snamei||Lycopodium clavatum}} {{lang|la|var.}} {{snamei|nipponicum}}(a, b: 根の均等な二又分枝;c, d: 根の不等二又分枝;e: 胞子嚢穂;f: 匍匐茎;g: シュートの均等な二又分枝;h: シュートの不等二又分枝)、5. [[トウゲシバ]] {{snamei||Huperzia serrata}}(a: 胞子嚢 ; b: 無性芽のついたシュートを上から見た図; c: 胞子嚢のついたシュートを横から見た図、均等な二又分枝を行う)、6. [[コスギラン]] {{snamei||Huperzia selago}}、7. [[ヒメスギラン]] {{snamei||Huperzia miyoshiana}}</ref>
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|目 = '''ヒカゲノカズラ目''' <br />{{Sname||Lycopodiales}} {{small|{{AU|DC.}} ex {{AU|Brecht.}} & {{AU|J.Presl}} ([[1820年|1820]])}}
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|学名 = {{sname||Lycopodiaceae}} {{small|{{AU|P.Beauv.}} in {{AU|Mirb.}} ([[1802年|1802]])}}
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|和名 = ヒカゲノカズラ科
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|下位分類 =
* [[コスギラン]] {{Snamei||Huperzia}}
* [[コスギラン亜科]] {{sname||Huperzioideae}}
* [[ヒカゲノカズ]] {{Snamei||Lycopodium}}
* [[ヤチスギン亜科]] {{sname||Lycopodielloideae}}
* [[ヒカゲノカズラ亜科]] {{sname||Lycopodioideae}}
}}
}}
'''ヒカゲノカズラ科'''({{sname|en|Lycopodiaceae}})は、[[小葉植物]]の1分類群で、現生のすべての同形胞子性の小葉類を含む科{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。異形胞子性をもつ[[イワヒバ科]]、[[ミズニラ科]]とともに[[ヒカゲノカズラ綱]]を構成する{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。[[PPG I]]分類体系では3亜科16属388種が属する{{Sfn|PPG I|2016|pp=563–603}}。'''ヒカゲノカズラ目''' ({{sname|en|Lycopodiales}}) に含まれ、同じ[[限界 (分類学)|範囲]]を指す{{Sfn|PPG I|2016|pp=563–603}}。
'''ヒカゲノカズラ科'''(ヒカゲノカズラか、[[学名]]:{{Sname||Lycopodiaceae}})は、[[シダ植物]]の[[ヒカゲノカズラ植物門]]に含まれる植物の分類群である。シダというより、むしろ巨大な[[コケ]]のような姿の植物である。


== 特徴 ==
== 生活型と生活環 ==
ヒカゲノカズラ科を含む全ての[[維管束植物]]は、その生活環に胞子をつくる[[胞子体]]と[[配偶子]](卵と精子)を形成する[[配偶体]]を持ち、それが世代交代を行う{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=24}}{{Sfn|長谷部|2020|p=26}}。
ヒカゲノカズラ科は熱帯を中心に世界中で200種ほどが知られる植物群である。日本では[[ヒカゲノカズラ]]や[[トウゲシバ]]が普通に見られる他、約20種が知られる。


ヒカゲノカズラ科の胞子体の生活型は地上生、着生または岩上性で、常緑多年生である{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|岩槻|1992|pp=42–43}}。匍匐する地上性種には安定した開けた場所に「妖精の輪」と呼ばれる群落をつくるものがある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。この輪の外周では盛んに匍匐茎が成長する一方、前年に成長した部分の群落が枯れる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。その輪は円形となり、時間経過に伴い[[指数関数]]的に直径が大きくなる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。[[1964年]]に直径11.25 m{{small|([[メートル]])}}と測定された輪は[[1839年]]に起源すると算定されている{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。
様々なものがあるが、基本的な特徴は以下の通り。
* 茎は細長くて硬く、周囲に葉を螺旋状につける。
* 葉は針状から楕円形の小葉で、葉脈は主脈のみ。
* 胞子のうは胞子葉の上面基部につく。
* 胞子葉は茎にまばらにつくか、先端にまとまってつく。


[[染色体]]基本数は x = 23, 31, 33?, 34, 35, 39{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。
これらの特徴は[[イワヒバ科]]とも共通する部分が多いが、イワヒバ科では茎が腹背に分かれて、葉が側面と背面で形を変えるものが多い。また、ヒカゲノカズラ科にはない担根体を持っているのもイワヒバ科の特徴である。


=== 生活環 ===
ヒカゲノカズラなどでは[[胞子葉]]は特に分化した茎の先端部に集合し、外見上でもはっきり区別がつくが、[[ミズスギ]]では普通の茎の先端にやや見分けのつく穂ができる程度、トウゲシバでは胞子葉は他の葉と区別できず、見かけ上は茎の一部に胞子のうが単についているだけである。
[[File:Lycopodiales life cycle ja.png|thumb|left|500px|ヒカゲノカズラ科の生活環。記事本文の解説は図中右上から時計回りに対応する。点線より右上側が配偶体世代、点線より下側が胞子体世代である。]]
[[胞子]]細胞は分裂を繰り返し、先端に[[分裂組織]]を形成して[[配偶体]]を形成する{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。この分裂細胞中には[[幹細胞]]は見つかっていない{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。配偶体表面には[[仮根]]が生えており、造卵器と造精器を形成する{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。造精器からできる[[精子]]の[[鞭毛]]は2本{{Sfn|田川|1959|pp=7–16}}。造卵器の中央細胞は腹溝細胞と卵細胞に分裂する{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。精子と卵細胞の[[受精]]後、[[受精卵]]が分裂して[[胞子体]]を形成する{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。若い胚は幹細胞を持たないが、葉が形成されるころになると複数の茎頂端幹細胞と根頂端幹細胞が形成される{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}{{refn|group="注釈"|同じ小葉植物の[[イワヒバ類]]や、[[大葉シダ植物]]などでは単一の頂端細胞が形成され、それが細胞を切り出して成長する{{Sfn|長谷部|2020|p=137}}。}}。配偶体にはほかに、[[胚柄]]と[[あし]]が形成され、配偶体における養分吸収に働くと考えられている{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。


胚が成長した胞子体には[[胞子嚢穂]]が形成される{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。胞子嚢穂は普通、立ち上がる直立シュートの先端にできる{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。[[ヒカゲノカズラ]]などでは胞子嚢穂は胞子葉間の茎が伸長せず、胞子葉が密生した構造をなす{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}。胞子葉の[[向軸側]]に胞子嚢が形成され、中で[[減数分裂]]によって胞子ができる{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵13}}{{refn|group="注釈"|同じ小葉植物の[[ミズニラ類]]でも同様に葉の向軸側に形成されるが、[[イワヒバ類]]では葉腋の茎よりの部分から胞子嚢が形成される{{Sfn|長谷部|2020|p=129}}。}}。ヒカゲノカズラ類の胞子嚢形成では、[[表皮]]細胞が'''胞子嚢始原細胞'''(胞子囊始原細胞、ほうしのうしげんしぼう、{{lang|en|sporangium initial cell}})となり、[[並層分裂]]を行って'''初発壁細胞'''(しょはつへきさいぼう、{{lang|en|primary wall cell}})と'''初発胞子形成細胞'''(しょはつほうしけいせいさいぼう、{{lang|en|primary sporogenous cell}})になる{{Sfn|長谷部|2020|pp=129–130}}。初発壁細胞は並層分裂して最内層が'''タペート細胞'''(タペートさいぼう)、それより外側の細胞層は'''胞子嚢壁'''(ほうしのうへき)となる{{Sfn|長谷部|2020|pp=129–130}}。初発胞子形成細胞は並層分裂して胞子母細胞となり、それが減数分裂して胞子ができる{{Sfn|長谷部|2020|pp=129–130}}{{refn|group="注釈"|イワヒバ類では初発胞子形成細胞の最外層の細胞がタペート細胞になるのに対し、初発胞子形成細胞よりも内側の葉身細胞由来の細胞が内側のタペート細胞として機能する{{Sfn|長谷部|2020|pp=129–130}}。}}
== 分類 ==
「BG Plants 和名−学名インデックス」<ref>[http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html 倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList、2013年3月11日)] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20120615233211/http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html |date=2012年6月15日 }}</ref>による。


=== 配偶体 ===
* {{Snamei||Huperzia carinata}} (Desv. ex Poir.) Trevis. [[ボウカズラ]]
胞子がすぐに発芽する種も数年後になる種もある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。ヒカゲノカズラ類の配偶体は地中生で葉緑体を持たず[[菌糸]]を含み、塊状で地中に生じる配偶体を持つものと、地表生で葉緑体を持つ[[前葉体]]となるものもある{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|田川|1959|pp=7–16}}{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}。地中性の配偶体は寿命が長く、辺縁部の環状の[[分裂組織]]により大きくなる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。古い配偶体は長さや幅が2 cmにもなることがある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。地中性のものでは生殖器官は集合してはっきりとしたまとまりをつくるものが多いのに対し、配偶体が一年生で緑色の種では造卵器と造精器は一般に直立した部位の基部に混合して生じる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。
* {{Snamei||Huperzia cryptomerina}} (Maxim.) Dixit [[スギラン]]
* {{Snamei||Huperzia cunninghamioides}} (Hayata) Holub [[コウヨウザンカズラ]]
* {{Snamei||Huperzia fargesii}} (Herter) Holub [[ヒモスギラン]]
* {{Snamei||Huperzia fordii}} (Baker) Dixit [[ナンカクラン]]
* {{Snamei||Huperzia miyoshiana}} (Makino) Ching [[ヒメスギラン]]
* {{Snamei||Huperzia phlegmaria}} (L.) Rothm. [[ヨウラクヒバ]]
* {{Snamei||Huperzia quasipolytrichoides}} (Hayata) Ching [[スギゴケトウゲシバ]]
* {{Snamei||Huperzia salvinioides}} (Herter) Holub [[ヒメヨウラクヒバ]]
* {{Snamei||Huperzia selago}} (L.) Bernh. ex Schrank et C.F.P.Mart. [[コスギラン]]
* {{Snamei||Huperzia serrata}}(Thunb.) Trevis. [[トウゲシバ]]
* {{Snamei|Huperzia serrata}} (Thunb.) Trevis. f. {{Snamei|intermedia}} (Nakai) Ching ヒロハノトウゲシバ
* {{Snamei|Huperzia serrata}} (Thunb.) Trevis. var. {{Snamei|longipetiolata}} (Spring) H.M.Chang [[オニトウゲシバ]]
* {{Snamei|Huperzia serrata}} (Thunb.) Trevis. var. {{Snamei|serrata}} [[ホソバトウゲシバ]]
* {{Snamei||Huperzia sieboldii}} (Miq.) Holub [[ヒモラン]]
* {{Snamei|Huperzia sieboldii}} (Miq.) Holub var. {{Snamei|christenseniana}} (H.Christ et Herter) Nakaike [[リュウキュウヒモラン]]
* {{Snamei||Huperzia somae}} (Hayata) Ching [[コスギトウゲシバ]]
* {{Snamei||Huperzia squarrosa}} (G.Forst.) Trevis. [[ムカデカズラ]]
* {{Snamei||Huperzia x muramatsui}} K.Otsuka ex Sa.Kurata et Nakaike, nom, nud. [[サカバスギラン]]
* {{Snamei||Lycopodium alpinum}} L. [[ミヤマヒカゲノカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium annotinum}} L. [[スギカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium neopungens}} H.S.Kung et L.B.Zhang [[タカネスギカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium annotinum}} L. var. latifolium Takeda [[ヒロハノスギカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium carolinianum}} L. [[イヌヤチスギラン]]
* {{Snamei||Lycopodium casuarinoides}} Spring [[ヒモヅル]]
* {{Snamei||Lycopodium cernuum}} L. [[ミズスギ]]
* {{Snamei||Lycopodium clavatum}} L. [[ヒカゲノカズラ]]
* {{Snamei|Lycopodium clavatum}} L. var. {{Snamei|wallichianum}} Spring [[ナンゴクヒカゲノカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium complanatum}} L. [[アスヒカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium dendroideum}} Michx. [[マンネンスギ]]
* {{Snamei||Lycopodium inundatum}} L. [[ヤチスギラン]]
* {{Snamei||Lycopodium annotinum}} L. var. {{Snamei|acrifolium}} Fernald [[タカネスギカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium sitchense}} Rupr. var. {{Snamei|nikoense}} (Franch. et Sav.) Takeda [[タカネヒカゲノカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium taiwanense}} C.M.Kuo [[オオスギカズラ]]
* {{Snamei||Lycopodium veitchii}} H.Christ [[ニイタカヒカゲノカズラ]]


[[ミズスギ]]や[[ヤチスギラン]]の配偶体では、一般には地面の表面に見つかり、卵形から軸状で、[[背腹性]]があり、緑色の短い地上枝をもつ{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。配偶体全体でも3 mm程度である{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。無色の基部には[[仮根]]が生じる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。大部分の種に内生菌類が共生し、発生の初期に配偶体に侵入し配偶体の特定部分を占める{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。一般に生殖器官は地上部への突出部の基部に生じる。胞子発芽から生殖器官の出現までの時間は8ヶ月から1年の間と幅があるとされる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。
ヒカゲノカズラ属のものの形には大ざっぱに見て3つの形がある。それぞれ日本産の代表的なものを挙げる。


第二の型では、胞子が発芽して6–8細胞となってから、配偶体が1年以上の休止期間に入る{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。配偶体の適切な成長に不可欠な物質が菌類より供給されているためそれ以降の分化は菌類の侵入に依存しており、もし感染が起きないと成長は止まる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。更に成熟した生殖器官が存在する段階に分化するには10年以上を要する{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。発生は地表付近または腐植層で起こる。[[ヒカゲノカズラ]]などでは配偶体は円盤状で、縁は片巻き状で[[クルミ]]の実の中身に似ていると表現される{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。別の種では配偶体は円柱状で分枝し、小さな[[ニンジン]]に似ているとされる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。すべての地中性配偶体は無色または黄色から茶色で地表付近に露出した部分にのみ[[クロロフィル]]ができる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。培養瓶内で暗黒下で半年以上静置し発芽させた {{snamei||Diphasiastrum digitatum}} の配偶体は内生菌類を欠くが、自然状態のものと似た形態をしている{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。この配偶体は先細りの基部をもつニンジン状の形で帽子のような部分の下に狭い首がある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。内生菌類は存在しないが自然状態では内生菌類に占められている部位には、放射方向に細長い細胞の層が存在する{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。胞子発芽に不可欠な[[暗期]]のあとに光が当たると、配偶体は形はもとのまま緑色になる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=125–128}}。
* 茎は直立して短く、地上性 - [[トウゲシバ]]、[[コスギラン]]
{{-}}
* 茎はやや長く、ゆるやかに垂れ下がる。[[着生植物]] - [[ヨウラクヒバ]]、[[ヒモラン]]、[[スギラン]]、[[ナンカクラン]]
* 茎は長く伸びて枝分かれする。地表をはい回るか、[[つる植物]]となる(一部に茎が短くて直立するものがある) - [[ヒカゲノカズラ]]、[[スギカズラ]]、[[マンネンスギ]]、[[チシマヒカゲノカズラ]]、[[アスヒカズラ]]、[[ヤチスギラン]]、[[ヒモヅル]]、[[ミズスギ]]


== 形態 ==
なお、この類を細分する説もある。例えば属そのものを細分した上で、上の二群をコスギラン科に、後の群をヒカゲノカズラ科に分ける説などがある。元々ヒカゲノカズラ植物門に属する現生種はかなり少なく、ごくまとまった数少ない系統だけが現存しているので、現生の他の植物との違いが大きく、見かけでまとめるのが容易だったからと思われる。因みに、この類はかつて古生代に栄えた植物群とされており、化石種では[[リンボク (化石植物)|リンボク]]や[[フウインボク]]もヒカゲノカズラ植物門に分類されている。
[[胞子体]]は[[根]]・[[茎]]・[[葉]]に分化する{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}{{Sfn|田川|1959|pp=7–16}}。

=== 茎 ===
茎は長く伸び、直立するか匍匐するかによらずふつう[[二又分枝]]する{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。直立する胞子茎と匍匐する栄養茎に分化するものや、短く直立し細長い葉を叢生するものがある{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|田川|1959|pp=7–16}}。[[コスギラン亜科]]では二又分枝した枝は同等であるのに対し、[[ヤチスギラン亜科]]や[[ヒカゲノカズラ亜科]]では[[シュート (植物)|シュート]]が主軸と側軸に分かれ、[[単軸分枝]]様の成長(不等分枝)を行う[[共有派生形質]]を獲得した{{Sfn|長谷部|2020|p=133}}{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=116}}。つまり同一個体内で伸長の早い強勢な茎(主軸)は単軸状に、弱小な茎(側軸)は二又状の分枝を行う{{Sfn|熊沢|1979|p=121}}。不等分枝は主軸が根茎上に匍匐する種でよく発達する{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=113–181}}。なお、茎頂分裂組織の分裂([[不等二又分枝]])により分枝を行うため{{Sfn|Fujinami ''et al.''|2021|pp=460–468}}、真の単軸分枝ではない。

原生中心柱を持ち、木部が放射状や板状に配列するものが多い{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。[[二次肥大成長]]は行わない{{Sfn|田川|1959|pp=7–16}}{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}。

=== 根 ===
根はしばしば[[菌根]]性で、やや太い{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。[[二次肥大成長]]を行わない{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}。

匍匐する種では、根は茎の下部に[[内生発生]]する{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=119}}。直立する種では、根は茎頂付近で発生し、皮層を通って下方に成長し、植物体の基部に姿を現す{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=119}}。茎から出たのちに根は二又分枝を行う{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=119}}。

=== 葉 ===
葉は'''[[小葉植物#小葉|小葉]]'''で単条の[[維管束]]を1本のみ持つ単葉{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}。有限成長性の側枝では葉が二形になるものが多く、これを[[不等葉性]]という{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=116}}。[[小舌]]を欠く{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|田川|1959|pp=7–16}}。葉の長さは普通2–20 mm{{small|([[ミリメートル]])}}であるが、25–35 mmにまでなる種もある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=116}}。[[葉序]]は基本的に[[螺旋葉序]]で、[[対生]]や[[輪生]]状になることもあり、同じ個体でも部位により変化することもある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=116}}。葉の基部は茎に流れる(融合し下方に伸びる)種もある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=116}}。

=== 胞子嚢 ===
{{multiple image
|width1=160
|image1=Strobili of Lycopodium clavatum.jpg
|caption1=[[ヒカゲノカズラ]] {{snamei|Lycopodium clavatum}} {{lang|la|var.}} {{snamei|nipponicum}} の胞子嚢穂
|width2=350
|image2=Huperzia selago (Teufelsklaue) IMG 8967.JPG
|caption2=[[コスギラン]] {{Snamei|en|Huperzia selago}} の胞子嚢をつけるシュート
}}
[[胞子嚢]]は葉の[[向軸側]]基部に1個つく{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。腎臓形から球形{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。胞子嚢をつけた葉が集合して明瞭な'''[[胞子嚢穂]]'''(胞子囊穂、ほうしのうすい、{{lang|en|strobilus}}, ''{{lang|en|[[複数|pl.]]}}'' {{lang|en|strobili}})を形成するものと、明瞭でないものがある{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=58}}。[[包膜]]を欠く{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。明瞭な胞子嚢穂を形成するものは不明瞭なものから進化してきたと考えられている{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=58}}。[[真嚢性]]で環帯を欠き、横方向に溝が開いて二つに裂開する{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。1胞子嚢あたりの胞子数は数百個{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。

同形胞子性である{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}。[[胞子]]は[[四面体]]形から球形で三溝粒{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}。

=== 無性芽 ===
'''無性芽'''(むせいが、{{lang|en|gemma}}、'''[[むかご]]''')と呼ばれる[[栄養生殖]]器官をつくる種もある{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=116}}。これは葉の位置に生じて、芽と未分化の根からできており、親植物から離れ新しい胞子体に成長する{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=116}}。無性芽は[[シュート (植物)|シュート]]であり、主軸の不等分枝により生じた特殊な枝であると解釈されている{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|pp=116–119}}。

== 進化 ==
最古の化石記録は[[古生代]]の[[デボン紀]]である{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。{{snamei||Lycopodites}} は中期デボン紀から[[石炭紀]]で見つかり、現生のヒカゲノカズラ科につながる系統の祖先型と考えられる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=134}}。小舌を印象化石や圧縮化石で確認することは難しいため、[[有舌類]]との区別は困難であるが、ヒカゲノカズラ類がデボン紀からほとんど形を変えずに現在に至ったことは間違いないと考えられている{{Sfn|西田|2017|p=145}}。

分子データからも、ヒカゲノカズラ科はデボン紀に分岐したと考えられている{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵3}}{{Sfn|Wikström|Kenrick|2001|pp=177–186}}。また、本項([[#下位分類|以下]])に示すヒカゲノカズラ科内部系統である各亜科、[[ヒカゲノカズラ亜科]](広義のヒカゲノカズラ属)、[[ヤチスギラン亜科]](広義のミズスギ属)、[[コスギラン亜科]](広義のコスギラン属)は何れも[[石炭紀]]に分岐したと考えられている{{Sfn|Wikström|Kenrick|2001|pp=177–186}}。ヒカゲノカズラ類の網状紋のある三溝粒胞子の形態属 {{snamei||Retitriletes}} は前期[[ジュラ紀]]から見つかっているが、[[分子時計]]によると、現生のその特徴を持つ胞子をつくるものは後期[[ジュラ紀]]に分岐したと考えられている{{Sfn|Wikström|Kenrick|2001|pp=177-186}}。


== 分布 ==
== 分布 ==
全世界に分布し、[[熱帯]]に多い{{Sfn|田川|1959|pp=7–16}}{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。[[温帯]]や[[北極地域]]に分布するものも存在する{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。全世界で約400種({{Harvtxt|PPG I|2016}} では388種とされる){{Sfn|PPG I|2016|pp=563–603}}{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。単型属であるフィログロッスム(フィログロッサム) {{snamei||Phylloglossum}} は[[オーストラリア]]周辺に限られる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}。
ヒカゲノカズラ科の植物は広域分布種が多く、日本産のもので日本固有種は皆無である。寒地のものはヨーロッパや北アメリカと共通のものが多く、南方のものは東南アジアと共通のものや、熱帯に広く分布するものが多い。

日本産のものは22種が認められる{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。

== 系統と分類 ==
=== 上位分類 ===
: ヒカゲノカズラ科を含む、より上位の関係に関しては「[[小葉植物]]」および「[[ヒカゲノカズラ綱]]」も参照。
現生ヒカゲノカズラ科は単独でヒカゲノカズラ目を形成し{{Sfn|PPG I|2016|pp=563–603}}、[[イワヒバ科]](イワヒバ目)、[[ミズニラ科]](ミズニラ目)とともに[[ヒカゲノカズラ綱]]を構成する{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。以下に現生の[[ヒカゲノカズラ綱]]の系統関係を示す。
{{clade
|label1=[[ヒカゲノカズラ綱]]
|sublabel1={{sname||Lycopodiopsida}}
|1={{clade
|label1='''ヒカゲノカズラ目'''
|sublabel1={{sname||Lycopodiales}}
|1='''ヒカゲノカズラ科''' {{sname||Lycopodiaceae}}
|label2=[[有舌類]]
|sublabel2={{sname||Isoëtopsida}}
|2={{clade
|label1=[[イワヒバ目]]
|sublabel1={{sname||Selaginellales}}
|1=[[イワヒバ科]] {{sname||Selaginellaceae}}
|label2=[[ミズニラ目]]
|sublabel2={{sname||Isoëtales}}
|2=[[ミズニラ科]] {{sname||Isoëtaceae}}
}}
}}
}}

=== 内部系統 ===
{{Harvtxt|Chen ''et al.''|2021}} による分子系統解析に基づくヒカゲノカズラ科現生種の内部系統関係を示す{{Sfn|Chen ''et al.''|2021|pp=25–51}} 。
{{clade
|label1='''ヒカゲノカズラ科'''
|sublabel1={{sname||Lycopodiaceae}}
|1={{clade
|label1=[[コスギラン亜科]]
|sublabel1={{sname||Huperzioideae}}
|1={{clade
|1={{clade
|1=[[フィログロッスム属]] {{snamei||Phylloglossum}}
|2=[[ヨウラクヒバ属]] {{snamei||Phlegmariurus}}
}}
|2=[[コスギラン属]] {{snamei||Huperzia}}
}}
|2={{clade
|label1=[[ヤチスギラン亜科]]
|sublabel1={{sname||Lycopodielloideae}}
|1={{clade
|1={{clade
|1=[[イヌヤチスギラン属]] {{snamei||Pseudolycopodiella}}
|2=[[ヤチスギラン属]] {{snamei||Lycopodiella}}
}}
|2={{clade
|1={{clade
|1=[[ミズスギ属]] {{snamei||Palhinhaea}}
|2={{snamei||Brownseya}}
}}
|2={{snamei||Lateristachys}}
}}
}}
|label2=[[ヒカゲノカズラ亜科]]
|sublabel2={{sname||Lycopodioideae}}
|2={{clade
|1={{clade
|1={{clade
|1=[[ヒモヅル属]] {{snamei||Lycopodiastrum}}
|2={{clade
|1={{snamei||Pseudolycopodium}}
|2={{clade
|1={{snamei||Pseudodiphasium}}
|2={{snamei||Austrolycopodium}}
}}
}}
}}
|2={{clade
|1=[[マンネンスギ属]] {{snamei||Dendrolycopodium}}
|2={{snamei||Diphasium}}
}}
}}
|2={{clade
|1=[[アスヒカズラ属]] {{snamei||Diphasiastrum}}
|2={{clade
|1=[[ヒカゲノカズラ属]] {{snamei||Lycopodium}}
|2=[[スギカズラ属]] {{snamei||Spinulum}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}

=== 下位分類 ===
[[File:Phylloglossum drummondii inat2.jpg|thumb|250px|[[フィログロッスム]] {{Snamei||Phylloglossum drummondii}}]]
{{Harvtxt|PPG I|2016}} および {{Harvtxt|Chen ''et al.''|2021}} に基づく下位分類は以下の通りで、現生のものは17属に分けられる{{Sfn|PPG I|2016|pp=563–603}}{{Sfn|Chen ''et al.''|2021|pp=25–51}}。現生属は旧来[[ヒカゲノカズラ属]] {{snamei||Lycopodium}} と [[フィログロッスム属]] {{snamei||Phylloglossum}} の2属に分けられていた{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=115}}{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}{{Sfn|高宮|1997|p=89}}。このうちヒカゲノカズラ属 {{snamei|Lycopodium}} ''{{lang|la|[[sensu|s.l.]]}}'' は初期には、はっきりとした胞子嚢穂を作らず均等な二又分枝を行う {{snamei||Urostachya}} と、明らかな胞子嚢穂を持ち、不等二又分枝を行う {{snamei|en|Rhopalostachya}} の2亜属が識別されるとする考え方があった{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=131}}。このうち {{snamei||Urostachya}} 属は {{sname||Urostachyaceae}}({{sname||Huperziaceae}}{{Sfn|Holub|1985|pp=67–80}})という別の科に置く考えもあった{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=131}}。分子系統解析の結果からヒカゲノカズラ属 {{snamei|Lycopodium}} ''{{lang|la|s.l.}}'' はヒカゲノカズラ属 {{snamei|Lycopodium}}、[[ヤチスギラン属]] {{snamei||Lycopodiella}}、[[コスギラン属]] {{snamei||Huperzia}} の3クレードからなることが確認された(なおこれは下記の亜科にそれぞれ対応している){{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。しかし、この分類では特異な形質を持つフィログロッスム属がコスギラン属に内包されてしまうという問題点があり、より細分化された分類体系を用いるのが主流である{{Sfn|PPG I|2016|pp=563–603}}{{Sfn|Field ''et al.''|2015|pp=635–657}}{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。

* '''ヒカゲノカズラ目''' {{sname|en|Lycopodiales}} {{small|{{AU|DC.}} ex {{AU|Brecht.}} & {{AU|J.Presl}}}}
** '''ヒカゲノカズラ科''' {{Sname|en|Lycopodiaceae}} {{small|{{AU|P.Beauv.}} in {{AU|Mirb.}}}}:3亜科16属388種
*** [[ヒカゲノカズラ亜科]] {{sname|en|Lycopodioideae}} {{small|{{AU|W.H.Wagner}} & {{AU|Beitel}} ex {{AU|B.Øllg.}}}}:9属58種
**** {{snamei|en|Austrolycopodium}} {{small|{{AU|Holub}}}}:8種
**** [[マンネンスギ属]] {{snamei|en|Dendrolycopodium}} {{small|{{AU|A.Haines}}}}:[[マンネンスギ]] {{snamei|en|Dendrolycopodium obscurum}} など4種(ヒカゲノカズラ属に含め[[マンネンスギ節]] {{lang|la|sect.}} {{snamei|en|Obscura}} とすることもある{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}})
**** [[アスヒカズラ属]] {{snamei|en|Diphasiastrum}} {{small|{{AU|Holub}}}}:[[アスヒカズラ]] {{snamei|en|Diphasiastrum complanatum}} など20種(ヒカゲノカズラ属に含め[[アスヒカズラ節]] {{lang|la|sect.}} {{snamei|en|Complanata}} とすることもある{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}})
**** {{snamei|en|Diphasium}} {{small|{{AU|C.Presl}} ex {{AU|Rothm.}}}}:5種
**** [[ヒモヅル属]] {{snamei|en|Lycopodiastrum}} {{small|{{AU|Holub}} ex {{AU|R.D.Dixit}}}}:[[ヒモヅル]] {{snamei|en|Lycopodiastrum casuarinoides}} 1種([[単型]]、ヒカゲノカズラ属に含めた場合[[ヒモヅル節]] {{lang|la|sect.}} {{snamei|en|Lycopodiastrum}} となる{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}})
**** [[ヒカゲノカズラ属]] {{snamei|en|Lycopodium}} {{small|{{AU|L.}}}}:[[ヒカゲノカズラ]] {{snamei|en|Lycopodium clavata}}など15種
**** {{snamei|en|Pseudodiphasium}} {{small|{{AU|Holub}}}}:{{snamei|en|Pseudodiphasium volubile}} 1種(単型)
**** {{snamei|en|Pseudolycopodium}} {{small|{{AU|Holub}}}}:{{snamei|en|Pseudolycopodium densum}} 1種(単型)
**** [[スギカズラ属]] {{snamei|en|Spinulum}} {{small|{{AU|A.Haines}}}}:[[スギカズラ]] {{snamei|en|Spinulum annotinum}} など3種(ヒカゲノカズラ属に含め[[スギカズラ節]] {{lang|la|sect.}} {{snamei|en|Annotina}} とすることもある{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}})
*** [[ヤチスギラン亜科]] {{sname|en|Lycopodielloideae}} {{small|{{AU|W.H.Wagner}} & {{AU|Beitel}} ex {{AU|B.Øllg.}}}}:54種
**** {{snamei||Brownseya}} {{small|{{AUY|Chen ''et al.''|2021|bio=bot}}}}:{{Snamei||Brownseya serpentina}} 1種{{Sfn|Chen ''et al.''|2021|pp=25–51}} (単型)
**** {{snamei|en|Lateristachys}} {{small|{{AU|Holub}}}}:4種
**** [[ヤチスギラン属]] {{snamei|en|Lycopodiella}} {{small|{{AU|Holub}}}}:[[ヤチスギラン]] {{snamei|en|Lycopodiella inundata}} など15種
**** [[ミズスギ属]] {{snamei|en|Palhinhaea}} {{small|{{AU|Franco}} & {{AU|Vasc.}}}}:[[ミズスギ]] {{snamei|en|Palhinhaea cermua}} など25種
**** [[イヌヤチスギラン属]] {{snamei|en|Pseudolycopodiella}} {{small|{{AU|Holub}}}}:[[イヌヤチスギラン]] {{snamei|en|Pseudolycopodiella caroliniana}} など10種
*** [[コスギラン亜科]] {{sname|en|Huperzioideae}} {{small|{{AU|W.H.Wagner}} & {{AU|Beitel}} ex {{AU|B.Øllg.}}}}:3属276種
**** [[コスギラン属]](トウゲシバ属{{Sfn|長谷部|2020|p=口絵3}}) {{Snamei|en|Huperzia}} {{small|{{AU|Bernh.}}}}:[[トウゲシバ]] {{Snamei|en|Huperzia serrata}}、[[コスギラン]] {{Snamei|en|Huperzia selago}} など25種
**** [[ヨウラクヒバ属]] {{Snamei|en|Phlegmariurus}} {{small|{{AU|Holub}}}}:[[ヨウラクヒバ]] {{Snamei|en|Phlegmariurus phlegmaria}}、[[ヒモラン]] {{snamei|en|Phlegmariurus sieboldii}} など約250種
**** [[フィログロッスム属]] {{Snamei|en|Phylloglossum}} {{small|{{AU|Kunze}}}}:[[フィログロッスム・ドルムモンディイ]]{{Sfn|高宮|1997|p=92}} {{Snamei|en|Phylloglossum drummondii}} 1種(単型)

== 日本の種 ==
{{Harvtxt|海老原|2016}}に基づき、日本産の全種を示す{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。但し、学名(属名)は{{Harvtxt|PPG I|2016}}のものを採用した。いずれもヒカゲノカズラ属 {{snamei|Lycopodium}} とされた経緯があるため{{Sfn|岩槻|1992|p=42}}、属名を {{snamei|Lycopodium}} とするシノニムも知られる{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。なお、エゾヒカゲノカズラ以外の変種は{{Harvtxt|海老原|2016}} では採用されていない{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}。

また、[[コウヨウザンカズラ]]は[[鹿児島県]]の[[奄美大島]]で一度しか記録されずその後日本では絶滅したとされる{{Sfn|海老原|2016|pp=260–270}}<ref>{{Cite web|和書|author=野生生物調査協会・EnVision環境保全事務所 |url=http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=06010020014 |title=コウヨウザンカズラ|website=日本のレッドデータ検索システム|date=2021|accessdate=2023-06-16}}</ref><ref>{{Cite journal|author=芹沢俊介 |date=1972-02 |url=https://hdl.handle.net/2297/45739 |title=琉球のシダ植物雑記 (一) |journal=北陸の植物= The Journal of Geobotany |ISSN=0374-8081 |publisher=北陸の植物の会 / 植物地理・分類学会 = The Society for the Study of Phytogeography and Taxonomy |volume=20 |issue=1 |pages=5–9 |hdl=2297/45739 |naid=120005819644 |CRID=1050564285898830464}}</ref><ref>{{Cite journal|author=国立科学博物館|title=英語目次・表紙写真解説|journal=保全生態学研究|date=2021|volume=26|issue=2|page=Toc1|doi=10.18960/hozen.hozen.26.2_Toc1}}</ref>。

=== ヒカゲノカズラ亜科 ===
[[File:Lycopodiastrum casuarinoides inat1.jpg|thumb|350px|[[ヒモヅル]] {{snamei||Lycopodiastrum casuarinoides}}]]
* [[ヒカゲノカズラ属]] {{snamei|en|Lycopodium}} {{small|{{AU|L.}}}}
** ヒカゲノカズラ {{snamei|en|Lycopodium clavatum}} {{small|{{AU|L.}}}} {{lang|la|''s.l.''}}
*** [[ヒカゲノカズラ]](ナンゴクヒカゲノカズラ){{snamei|en|Lycopodium clavatum}} {{small|{{AU|L.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|nipponicum}} {{small|{{AU|Nakai}}}}{{refn|group="注釈"|2倍体のもので、小梗が長いもの{{Sfn|海老原|2016|p=261}}。ヨーロッパ産の基準[[変種]] {{lang|la|var.}} {{snamei|clavatum}} も2倍体であるが、4倍体のエゾヒカゲノカズラに近い特徴を示す{{Sfn|海老原|2016|p=261}}。学名は暫定的{{Sfn|海老原|2016|p=261}}。{{Harvtxt|Hassler|2021}} では中国の研究を基に {{snamei||Lycopodium japonicum}} {{AU|Thunb.}} としている。}}
*** [[エゾヒカゲノカズラ]] {{snamei|en|Lycopodium clavatum}} {{small|{{AU|L.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|asiaticum}} {{small|{{AU|Ching}}}}{{refn|group="注釈"|4倍体で、小梗がほぼないもの{{Sfn|海老原|2016|p=261}}。上記のヒカゲノカズラとの交雑により3倍体を生じると考えられている{{Sfn|海老原|2016|p=261}}。学名は暫定的{{Sfn|海老原|2016|p=261}}。}}
* [[スギカズラ属]] {{snamei|en|Spinulum}} {{small|{{AU|A.Haines}}}}
** [[スギカズラ]] {{snamei|en|Spinulum annotinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|A.Haines}}}}
*** [[シンノスギカズラ]] {{snamei|en|Spinulum annotinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|A.Haines}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|annotinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|A.Haines}}}}
*** [[ヒロハノスギカズラ]](ヒロハスギカズラ) {{snamei|en|Spinulum annotinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|A.Haines}}}} {{lang|la|f.}} {{snamei|latifolium}} {{small|({{AU|Takeda}}) {{AU|Tagawa}}}}
*** [[タカネスギカズラ]] {{snamei|en|Spinulum annotinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|A.Haines}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|acrifolium}} {{small|{{AU|Fernald}}}}
* [[マンネンスギ属]] {{snamei|en|Dendrolycopodium}} {{small|{{AU|A.Haines}}}}{{refn|group="注釈"|{{Harvtxt|海老原|2016}}では遺伝的解析が不十分であることから {{snamei||Lycopodium obscurum}} {{small|{{AU|L.}}}}({{lang|en|[[シノニム|syn.]]}} {{snamei||Dendrolycopodium obscurum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|A.Haines}}}})のみを用いているが{{Sfn|海老原|2016|p=262}}、ここでは{{Harvtxt|Hassler|2021}}に基づき、日本 (Japan) に分布がある2種の学名を以下に引用した{{Sfn|Hassler|2021}}。}}
** [[ウチワマンネンスギ]] {{snamei|en|Dendrolycopodium dendroideum}} {{small|({{AU|Michx.}}) {{AU|A.Haines}}}} {{refn|group="注釈"|{{Harvtxt|武田|1909}}では{{snamei||Lycopodum obscurum}} {{lang|la|f.}} {{snamei|flabellatum}} {{small|{{AU|Takeda}}}} とされる。{{Harvtxt|岩槻|1992}}では{{snamei||Dendrolycopodium obscurum}} {{lang|la|f.}} {{snamei|obscurum}} とされる{{Sfn|岩槻|1992|p=47}}。{{Harvtxt|海老原|2016}}では日本産のものは {{snamei||Lycopodium dendroideum}} {{small|{{AU|Michx.}}}} に形態が似ているとしながらも{{snamei||Lycopodium obscurum}} {{small|{{AU|L.}}}} を用いている。}}
** [[タチマンネンスギ]] {{snamei|en|Dendrolycopodium juniperoideum}} {{small| ({{AU|Sw.}}) {{AU|A.Haines}}}} {{refn|group="注釈"|{{Harvtxt|海老原|2016}}では{{snamei||Lycopodium obscurum}} {{small|{{AU|L.}}}} {{lang|la|f.}} {{snamei|strictum}} {{small|({{AU|Milde}}) {{AU|Nakai}} ex {{AU|H.Hara}}}}として引用される{{Sfn|海老原|2016|p=262}}。日本のものは{{Harvtxt|武田|1909}} により設立された {{snamei||Lycopodium obscurum}} {{lang|la|f.}} {{snamei|juniperoideum}} {{small||({{AU|Sw.}}) {{AU|Takeda}}}} を根拠としている{{Sfn|Hassler|2021}}。なお、{{snamei||Lycopodium obscurum}} {{small|{{AU|L.}}}} {{lang|la|f.}} {{snamei|strictum}} {{small|({{AU|Milde}}) {{AU|Nakai}} ex {{AU|H.Hara}}}} は{{Harvtxt|Hassler|2021}} では{{snamei|Dendrolycopodium verticale}} {{small|({{AU|Li-Bing Zhang}}) {{AU|Li-Bing Zhang}} & {{AU|X.M.Zhou}}}} という別種のシノニムとされる{{Sfn|Hassler|2021}}。}}
* [[アスヒカズラ属]] {{snamei|en|Diphasiastrum}} {{small|{{AU|Holub}}}}
** [[アスヒカズラ]] {{snamei|en|Diphasiastrum complanatum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Holub}}}}
** チシマヒカゲノカズラ {{snamei|en|Diphasiastrum alpinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Holub}}}}
*** [[チシマヒカゲノカズラ]] {{snamei|en|Diphasiastrum alpinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Holub}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|alpinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Holub}}}}
*** [[ミヤマヒカゲノカズラ]] {{snamei|en|Diphasiastrum alpinum}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Holub}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|planiramulosum}} {{small|({{AU|Takeda}}) {{AU|Satou}}}}
** [[タカネヒカゲノカズラ]] {{snamei|en|Diphasiastrum nikoense}} {{small|({{AU|Franch.}} et {{AU|Sav.}}) {{AU|Holub}}}}
* [[ヒモヅル属]] {{snamei|en|Lycopodiastrum}} {{small|{{AU|Holub}} ex {{AU|R.D.Dixit}}}}
** [[ヒモヅル]] {{snamei|en|Lycopodiastrum casuarinoides}} {{small|({{AU|Spring}}) {{AU|Holub}} ex {{AU|Dixit}}}}

=== ヤチスギラン亜科 ===
[[File:Lycopodium plant.jpg|thumb|250px|[[ミズスギ]] {{snamei||Palhinhaea cernua}}]]
* [[ヤチスギラン属]] {{snamei|en|Lycopodiella}} {{small|{{AU|Holub}}}}
** [[ヤチスギラン]] {{snamei|en|Lycopodiella inundata}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Holub}}}}
* [[ミズスギ属]] {{snamei|en|Palhinhaea}} {{small|{{AU|Franco}} & {{AU|Vasc.}}}}{{refn|group="注釈"|{{Harvtxt|海老原|2016}} のようにミズスギ属をヤチスギラン属に含める考えもある。その場合、ミズスギは {{snamei||Lycopodiella cermua}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Pic.Serm.}}}} となる{{Sfn|海老原|2016|p=263}}。}}
** [[ミズスギ]] {{snamei|en|Palhinhaea cermua}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Vasc.}} & {{AU|Franco}}}}
* [[イヌヤチスギラン属]] {{snamei|en|Pseudolycopodiella}} {{small|{{AU|Holub}}}}{{refn|group="注釈"|{{Harvtxt|海老原|2016}} のようにイヌヤチスギラン属をヤチスギラン属に含める考えもある。その場合、イヌヤチスギランは {{snamei||Lycopodiella caroliniana}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Pic.Serm.}}}} となる{{Sfn|海老原|2016|p=263}}。}}
** [[イヌヤチスギラン]] {{snamei|en|Pseudolycopodiella caroliniana}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Holub}}}}

=== コスギラン亜科 ===
[[File:Lycopodium phlegmaria 2zz.jpg|350px|thumb|[[ヨウラクヒバ]] {{Snamei||Phlegmariurus phlegmaria}}]]
* [[コスギラン属]] {{snamei|en|Huperzia}} {{small|{{AU|Bernh.}}}}
** [[コスギトウゲシバ]] {{snamei|en|Huperzia somae}} {{small|({{AU|Hayata}}) {{AU|Ching}}}}
** [[トウゲシバ]] {{snamei|en|Huperzia serrata}} {{small|({{AU|Thumb.}}) {{AU|Trevis.}}}}
*** [[ホソバトウゲシバ]] {{snamei|en|Huperzia serrata}} {{small|({{AU|Thumb.}}) {{AU|Trevis.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|serrata}} {{small|{{AU|Trevis.}}}}
*** [[ヒロハトウゲシバ]](ヒロハノトウゲシバ) {{snamei|en|Huperzia serrata}} {{small|({{AU|Thumb.}}) {{AU|Trevis.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|intermedia}} {{small|({{AU|Nakai}}) {{AU|Satou}}}}
*** [[オニトウゲシバ]] {{snamei|en|Huperzia serrata}} {{small|({{AU|Thumb.}}) {{AU|Trevis.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|longipetiolata}} {{small|({{AU|Spring}}) {{AU|H.M.Chang}}}}
*** [[チャボトウゲシバ]] {{snamei|en|Huperzia serrata}} {{small|({{AU|Thumb.}}) {{AU|Trevis.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|alpestris}} {{small|({{AU|H.Christ}})}} {{small|{{lang|la|comb.ined.}}}}{{refn|group="注釈"|{{Harvtxt|海老原|2016}} では{{snamei||Lycopodium serrata}} {{small|{{AU|Thumb.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|alpestre}} {{small|{{AU|H.Christ}}}} として引用されるように{{Sfn|海老原|2016|p=264}}、この学名の組合せはおそらく正式発表されていない。また、{{Harvtxt|Hassler|2021}}では{{snamei||Lycopodium serrata}} {{lang|la|var.}} {{snamei|alpestre}} は{{snamei||Huperzia sutchueniana}} {{small|({{AU|Herter}}) {{AU|Ching}}}} のシノニムとされるが、その分布は中国のみとされる{{Sfn|Hassler|2021}}。}}
** [[コスギラン]] {{snamei|en|Huperzia selago}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Bernh.}} ex {{AU|Schrank}} & {{AU|C.F.P.Mart}}}}{{refn|group="注釈"|日本を含むアジアのものは[[亜種]] {{lang|la|subsp.}} {{snamei|arctica}} {{small|({{AU|Grossh.}} ex {{AU|Tolm.}}) {{AU|Á.Löve}} & {{AU|D.Löve}}}} に置かれることもある{{Sfn|海老原|2016|p=264}}。これは {{lang|la|subsp.}} {{snamei|appressa}} {{small|({{AU|Bach.Pyl.}} ex {{AU|Desv.}}) {{AU|D.Löve}}}} とされることもある{{Sfn|Hassler|2021}}。}}
*** [[コスギラン]] {{snamei|en|Huperzia selago}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Bernh.}} ex {{AU|Schrank}} & {{AU|C.F.P.Mart}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|appressa}} {{small|({{AU|Desv.}}) {{AU|Ching}}}}
*** [[チシマスギラン]] {{snamei|en|Huperzia selago}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Bernh.}} ex {{AU|Schrank}} & {{AU|C.F.P.Mart}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|selago}} {{small|{{AU|L.}}}}
*** [[エゾノコスギラン]] {{snamei|en|Huperzia selago}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|Bernh.}} ex {{AU|Schrank}} & {{AU|C.F.P.Mart}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|patens}} {{small|({{AU|Beauv.}}) {{AU|Trevis.}}}}
** [[ヒメスギラン]] {{snamei|en|Huperzia miyoshiana}} {{small|({{AU|Makino}}) {{AU|Ching}}}}
*** [[サカバスギラン]] {{snamei|Lycopodium}} × {{snamei|muramastsui}} {{small|{{AU|K.Otsuka}}, {{lang|la|[[裸名|nom. nud.]]}}}}:コスギランとヒメスギランの雑種と考えられるもの{{Sfn|海老原|2016|p=265}}。
* [[ヨウラクヒバ属]] {{Snamei|en|Phlegmariurus}} {{small|{{AU|Holub}}}}
** [[ボウカズラ]] {{Snamei|en|Phlegmariurus carinatus}} {{small|({{AU|Desv.}} ex {{AU|Poir.}}) {{AU|Ching}}}}
** [[コウヨウザンカズラ]] {{snamei|en|Phlegmariurus cunninghamioides}} {{small|({{AU|Hayata}}) {{AU|Ching}}}}
** [[ヨウラクヒバ]] {{Snamei|en|Phlegmariurus phlegmaria}} {{small|({{AU|L.}}) {{AU|T.Sen}} & {{AU|U.Sen}}}}
** [[ヒメヨウラクヒバ]] {{Snamei|en|Phlegmariurus salvinioides}} {{small|({{AU|Herter}}) {{AU|Ching}}}}
** [[ナンカクラン]] {{snamei|en|Phlegmariurus hamiltonii}} {{small|({{AU|Spreng.}}) {{AU|Á.Löve}} & {{AU|D.Löve}}}}
** [[ヒモスギラン]](ホソヒモヨウラクヒバ){{snamei|en|Phlegmariurus fargesii}} {{small|({{AU|Herter}}) {{AU|Ching}}}}
** [[ヒモラン]](イワヒモ) {{snamei|en|Phlegmariurus sieboldii}} {{small|({{AU|Miq.}}) {{AU|Ching}}}}
*** [[リュウキュウヒモラン]] {{snamei|en|Phlegmariurus sieboldii}} {{small|({{AU|Miq.}}) {{AU|Ching}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|christensenianus}} {{small|({{AU|H.Christ}} & {{AU|Herter}}) {{lang|la|stat.ined.}}}} {{refn|group="注釈"|{{Harvtxt|海老原|2016}} では {{snamei||Lycopodium sieboldii}} {{small|{{AU|Miq.}}}} {{lang|la|var.}} {{snamei|christensenianum}} {{small|({{AU|H.Christ}} & {{AU|Herter}}) {{AU|Tagawa}}}} として引用され{{Sfn|海老原|2016|p=270}}、この学名の組合せはおそらく正式発表されていない。また、{{Harvtxt|Hassler|2021}}では {{snamei||Huperzia sieboldii}} {{lang|la|var.}} {{snamei|christenseniana}} {{small|({{AU|H.Christ}} & {{AU|Herter}}) {{AU|Nakaike}}}} および {{snamei||Phlegmariurus christensenianus}} {{small|({{AU|H.Christ}} & {{AU|Herter}}) {{AU|Satou}}}} は {{snamei||Phlegmariurus fargesii}} {{small|({{AU|Herter}}) {{AU|Ching}}}} (ヒモスギラン)のシノニムとされる{{Sfn|Hassler|2021}}。}}
** [[スギラン]] {{snamei|en|Phlegmariurus cryptomerinus}} {{small|({{AU|Maxim.}}) {{AU|Satou}}}}


== 利用 ==
== 利用 ==
[[File:Lycopodium clavatum 001.JPG|thumb|250px|瓶に入れられたヒカゲノカズラの胞子。]]
ヒカゲノカズラは長い茎を蔓として利用したり、緑の柔らかなふさふさした感触を装飾用としたりすることがある。また、金魚の産卵巣に使う例もある。
[[ヒカゲノカズラ]]は、植物体全体が[[神事]]に用いられる{{Sfn|海老原|2016|p=261}}{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。[[天岩戸]]の逸話において、[[太陽]]の復活を願い[[アメノウズメ]]の胸にたすき掛けされた{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。これは常緑で刈り取った後にも長期間枯れずに緑色を保つことや、長く伸びた異様な姿に古代から日本人が生気あるものとして霊力を感じ取っていたからであるともされる{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。[[伏見稲荷大社]]の[[大山祭]]では参拝者に[[神酒]]とともにヒカゲノカズラが授与されるほか、[[率川神社]]の[[三枝祭]]では舞姫がヒカゲノカズラを頭に挿して五節の舞を奉じる{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。


ヒカゲノカズラは古くから文学作品に登場し、『[[万葉集]]』にも[[大友家持]]が[[新嘗祭]]で詠んだ「あしひきの山下日蔭蘰ける上にやさらに梅を賞はむ」が掲載されている{{Sfn|高宮|1997|p=90}}ほか、第14巻にも「あしひきの山葛蘿ましばにも得がたき蘿を置きや枯らさむ」などと詠まれている{{Sfn|高宮|1997|p=89}}。『[[源氏物語]]』や『[[枕草子]]』、『[[新古今和歌集]]』などにも登場する{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。
着生植物になるものは、観賞用に栽培されることがある。そのため、日本産のものは、そのほとんどが稀少である。

ヒカゲノカズラの胞子は油脂50%と糖分3%を含み、湿気を吸収しない性質を利用し「[[石松子]]」として[[丸薬]]の衣に用いられた{{Sfn|海老原|2016|p=261}}{{Sfn|刈米|北村|1975|p=21}}{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。ほかにも、皮膚のただれや[[湿疹]]に薬品を混ぜて撒布したりされた{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。"{{lang|en|[[:en:Lycopodium powder|Lycopodium powder]]}}" として売られ、花火の製造に使われる{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=125}}{{Sfn|高宮|1997|p=90}}ほか、研磨剤{{Sfn|高宮|1997|p=90}}や[[リンゴ]]の[[人工授粉]]の際の花粉の稀釈にも用いられる{{Sfn|高宮|1997|p=90}}{{Sfn|刈米|北村|1975|p=21}}。[[外科]]用[[手袋]]や丸薬のまぶし粉としての使用も行われたが、ヒカゲノカズラの胞子は手術などの傷に対して[[炎症]]を引き起こすため、使用は減少してきている{{Sfn|ギフォード|フォスター|2002|p=125}}。

また、[[マンネンスギ]]は地上部全体を「立桂」として料理の飾りに用いる{{Sfn|海老原|2016|p=262}}。中央卸売市場に隣接するマーケットで売られ、寿司屋のネタやケースに飾られる{{Sfn|高宮|1997|p=90}}。マンネンスギは生け花の根締めや観賞用にも用いられる{{Sfn|高宮|1997|p=91}}。

ヨウラクヒバ属の[[ムカデカズラ]] {{snamei||Phlegmariurus squarrosum}} は園芸植物として栽培される<ref>{{Cite book|author=渡辺顕一|title=シダを楽しむ―人気の日本種・海外種200余種といろいろな育て方・楽しみ方|series=別冊趣味の山野草|date=2005-02-01|publisher=栃の葉書房|isbn=978-4886161550|page=140}}</ref>。[[スギラン]]や[[ナンカクラン]]、[[ヨウラクヒバ]]などの樹上性の種はいずれも、[[森林伐採]]や園芸用採取により絶滅の危機にある{{Sfn|高宮|1997|p=92}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|25em}}

== 参考文献 ==
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=== ウェブサイト ===
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== 関連項目 ==
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* [[小葉植物]] - [[ヒカゲノカズラ綱]] - [[ドレパノフィクス目]]・'''ヒカゲノカズラ目'''・[[イワヒバ目]]・[[リンボク目]]・[[プレウロメイア目]]・[[ミズニラ目]]


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2023年11月6日 (月) 10:58時点における最新版

ヒカゲノカズラ科
日本のヒカゲノカズラ科[注釈 1]
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 陸上植物 Embryophyta
: 維管束植物Tracheophyta
亜門 : 小葉植物亜門 Lycophytina
: ヒカゲノカズラ綱 Lycopodiopsida
: ヒカゲノカズラ目
Lycopodiales DC. ex Brecht. & J.Presl (1820)
: ヒカゲノカズラ科 Lycopodiaceae
学名
Lycopodiaceae P.Beauv. in Mirb. (1802)
タイプ属
Lycopodium L. (1753)
亜科

ヒカゲノカズラ科Lycopodiaceae)は、小葉植物の1分類群で、現生のすべての同形胞子性の小葉類を含む科[1]。異形胞子性をもつイワヒバ科ミズニラ科とともにヒカゲノカズラ綱を構成する[1]PPG I分類体系では3亜科16属388種が属する[2]ヒカゲノカズラ目 (Lycopodiales) に含まれ、同じ範囲を指す[2]

生活型と生活環

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ヒカゲノカズラ科を含む全ての維管束植物は、その生活環に胞子をつくる胞子体配偶子(卵と精子)を形成する配偶体を持ち、それが世代交代を行う[3][4]

ヒカゲノカズラ科の胞子体の生活型は地上生、着生または岩上性で、常緑多年生である[1][5]。匍匐する地上性種には安定した開けた場所に「妖精の輪」と呼ばれる群落をつくるものがある[6]。この輪の外周では盛んに匍匐茎が成長する一方、前年に成長した部分の群落が枯れる[6]。その輪は円形となり、時間経過に伴い指数関数的に直径が大きくなる[6]1964年に直径11.25 mメートルと測定された輪は1839年に起源すると算定されている[6]

染色体基本数は x = 23, 31, 33?, 34, 35, 39[1]

生活環

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ヒカゲノカズラ科の生活環。記事本文の解説は図中右上から時計回りに対応する。点線より右上側が配偶体世代、点線より下側が胞子体世代である。

胞子細胞は分裂を繰り返し、先端に分裂組織を形成して配偶体を形成する[7]。この分裂細胞中には幹細胞は見つかっていない[7]。配偶体表面には仮根が生えており、造卵器と造精器を形成する[7]。造精器からできる精子鞭毛は2本[8]。造卵器の中央細胞は腹溝細胞と卵細胞に分裂する[7]。精子と卵細胞の受精後、受精卵が分裂して胞子体を形成する[7]。若い胚は幹細胞を持たないが、葉が形成されるころになると複数の茎頂端幹細胞と根頂端幹細胞が形成される[7][注釈 2]。配偶体にはほかに、胚柄あしが形成され、配偶体における養分吸収に働くと考えられている[7]

胚が成長した胞子体には胞子嚢穂が形成される[7]。胞子嚢穂は普通、立ち上がる直立シュートの先端にできる[7]ヒカゲノカズラなどでは胞子嚢穂は胞子葉間の茎が伸長せず、胞子葉が密生した構造をなす[7]。胞子葉の向軸側に胞子嚢が形成され、中で減数分裂によって胞子ができる[7][注釈 3]。ヒカゲノカズラ類の胞子嚢形成では、表皮細胞が胞子嚢始原細胞(胞子囊始原細胞、ほうしのうしげんしぼう、sporangium initial cell)となり、並層分裂を行って初発壁細胞(しょはつへきさいぼう、primary wall cell)と初発胞子形成細胞(しょはつほうしけいせいさいぼう、primary sporogenous cell)になる[11]。初発壁細胞は並層分裂して最内層がタペート細胞(タペートさいぼう)、それより外側の細胞層は胞子嚢壁(ほうしのうへき)となる[11]。初発胞子形成細胞は並層分裂して胞子母細胞となり、それが減数分裂して胞子ができる[11][注釈 4]

配偶体

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胞子がすぐに発芽する種も数年後になる種もある[12]。ヒカゲノカズラ類の配偶体は地中生で葉緑体を持たず菌糸を含み、塊状で地中に生じる配偶体を持つものと、地表生で葉緑体を持つ前葉体となるものもある[1][8][13]。地中性の配偶体は寿命が長く、辺縁部の環状の分裂組織により大きくなる[12]。古い配偶体は長さや幅が2 cmにもなることがある[12]。地中性のものでは生殖器官は集合してはっきりとしたまとまりをつくるものが多いのに対し、配偶体が一年生で緑色の種では造卵器と造精器は一般に直立した部位の基部に混合して生じる[12]

ミズスギヤチスギランの配偶体では、一般には地面の表面に見つかり、卵形から軸状で、背腹性があり、緑色の短い地上枝をもつ[12]。配偶体全体でも3 mm程度である[12]。無色の基部には仮根が生じる[12]。大部分の種に内生菌類が共生し、発生の初期に配偶体に侵入し配偶体の特定部分を占める[12]。一般に生殖器官は地上部への突出部の基部に生じる。胞子発芽から生殖器官の出現までの時間は8ヶ月から1年の間と幅があるとされる[12]

第二の型では、胞子が発芽して6–8細胞となってから、配偶体が1年以上の休止期間に入る[12]。配偶体の適切な成長に不可欠な物質が菌類より供給されているためそれ以降の分化は菌類の侵入に依存しており、もし感染が起きないと成長は止まる[12]。更に成熟した生殖器官が存在する段階に分化するには10年以上を要する[12]。発生は地表付近または腐植層で起こる。ヒカゲノカズラなどでは配偶体は円盤状で、縁は片巻き状でクルミの実の中身に似ていると表現される[12]。別の種では配偶体は円柱状で分枝し、小さなニンジンに似ているとされる[12]。すべての地中性配偶体は無色または黄色から茶色で地表付近に露出した部分にのみクロロフィルができる[12]。培養瓶内で暗黒下で半年以上静置し発芽させた Diphasiastrum digitatum の配偶体は内生菌類を欠くが、自然状態のものと似た形態をしている[12]。この配偶体は先細りの基部をもつニンジン状の形で帽子のような部分の下に狭い首がある[12]。内生菌類は存在しないが自然状態では内生菌類に占められている部位には、放射方向に細長い細胞の層が存在する[12]。胞子発芽に不可欠な暗期のあとに光が当たると、配偶体は形はもとのまま緑色になる[12]

形態

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胞子体に分化する[13][8]

[編集]

茎は長く伸び、直立するか匍匐するかによらずふつう二又分枝する[1]。直立する胞子茎と匍匐する栄養茎に分化するものや、短く直立し細長い葉を叢生するものがある[1][8]コスギラン亜科では二又分枝した枝は同等であるのに対し、ヤチスギラン亜科ヒカゲノカズラ亜科ではシュートが主軸と側軸に分かれ、単軸分枝様の成長(不等分枝)を行う共有派生形質を獲得した[14][15]。つまり同一個体内で伸長の早い強勢な茎(主軸)は単軸状に、弱小な茎(側軸)は二又状の分枝を行う[16]。不等分枝は主軸が根茎上に匍匐する種でよく発達する[17]。なお、茎頂分裂組織の分裂(不等二又分枝)により分枝を行うため[18]、真の単軸分枝ではない。

原生中心柱を持ち、木部が放射状や板状に配列するものが多い[1]二次肥大成長は行わない[8][13]

[編集]

根はしばしば菌根性で、やや太い[1]二次肥大成長を行わない[13]

匍匐する種では、根は茎の下部に内生発生する[19]。直立する種では、根は茎頂付近で発生し、皮層を通って下方に成長し、植物体の基部に姿を現す[19]。茎から出たのちに根は二又分枝を行う[19]

[編集]

葉は小葉で単条の維管束を1本のみ持つ単葉[1][13]。有限成長性の側枝では葉が二形になるものが多く、これを不等葉性という[1][15]小舌を欠く[1][8]。葉の長さは普通2–20 mmミリメートルであるが、25–35 mmにまでなる種もある[15]葉序は基本的に螺旋葉序で、対生輪生状になることもあり、同じ個体でも部位により変化することもある[15]。葉の基部は茎に流れる(融合し下方に伸びる)種もある[15]

胞子嚢

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ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum var. nipponicum の胞子嚢穂
コスギラン Huperzia selago の胞子嚢をつけるシュート

胞子嚢は葉の向軸側基部に1個つく[1]。腎臓形から球形[1]。胞子嚢をつけた葉が集合して明瞭な胞子嚢穂(胞子囊穂、ほうしのうすい、strobilus, pl. strobili)を形成するものと、明瞭でないものがある[1][20]包膜を欠く[1]。明瞭な胞子嚢穂を形成するものは不明瞭なものから進化してきたと考えられている[20]真嚢性で環帯を欠き、横方向に溝が開いて二つに裂開する[1]。1胞子嚢あたりの胞子数は数百個[1]

同形胞子性である[13]胞子四面体形から球形で三溝粒[1][13]

無性芽

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無性芽(むせいが、gemmaむかご)と呼ばれる栄養生殖器官をつくる種もある[15]。これは葉の位置に生じて、芽と未分化の根からできており、親植物から離れ新しい胞子体に成長する[15]。無性芽はシュートであり、主軸の不等分枝により生じた特殊な枝であると解釈されている[21]

進化

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最古の化石記録は古生代デボン紀である[1]Lycopodites は中期デボン紀から石炭紀で見つかり、現生のヒカゲノカズラ科につながる系統の祖先型と考えられる[22]。小舌を印象化石や圧縮化石で確認することは難しいため、有舌類との区別は困難であるが、ヒカゲノカズラ類がデボン紀からほとんど形を変えずに現在に至ったことは間違いないと考えられている[23]

分子データからも、ヒカゲノカズラ科はデボン紀に分岐したと考えられている[24][25]。また、本項(以下)に示すヒカゲノカズラ科内部系統である各亜科、ヒカゲノカズラ亜科(広義のヒカゲノカズラ属)、ヤチスギラン亜科(広義のミズスギ属)、コスギラン亜科(広義のコスギラン属)は何れも石炭紀に分岐したと考えられている[25]。ヒカゲノカズラ類の網状紋のある三溝粒胞子の形態属 Retitriletes は前期ジュラ紀から見つかっているが、分子時計によると、現生のその特徴を持つ胞子をつくるものは後期ジュラ紀に分岐したと考えられている[25]

分布

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全世界に分布し、熱帯に多い[8][6]温帯北極地域に分布するものも存在する[6]。全世界で約400種(PPG I (2016) では388種とされる)[2][1][6]。単型属であるフィログロッスム(フィログロッサム) Phylloglossumオーストラリア周辺に限られる[6]

日本産のものは22種が認められる[1]

系統と分類

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上位分類

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ヒカゲノカズラ科を含む、より上位の関係に関しては「小葉植物」および「ヒカゲノカズラ綱」も参照。

現生ヒカゲノカズラ科は単独でヒカゲノカズラ目を形成し[2]イワヒバ科(イワヒバ目)、ミズニラ科(ミズニラ目)とともにヒカゲノカズラ綱を構成する[1]。以下に現生のヒカゲノカズラ綱の系統関係を示す。

ヒカゲノカズラ綱
ヒカゲノカズラ目

ヒカゲノカズラ科 Lycopodiaceae

Lycopodiales
有舌類
イワヒバ目

イワヒバ科 Selaginellaceae

Selaginellales
ミズニラ目

ミズニラ科 Isoëtaceae

Isoëtales
Isoëtopsida
Lycopodiopsida

内部系統

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Chen et al. (2021) による分子系統解析に基づくヒカゲノカズラ科現生種の内部系統関係を示す[26]

ヒカゲノカズラ科
コスギラン亜科

フィログロッスム属 Phylloglossum

ヨウラクヒバ属 Phlegmariurus

コスギラン属 Huperzia

Huperzioideae
ヤチスギラン亜科

イヌヤチスギラン属 Pseudolycopodiella

ヤチスギラン属 Lycopodiella

ミズスギ属 Palhinhaea

Brownseya

Lateristachys

Lycopodielloideae
ヒカゲノカズラ亜科

ヒモヅル属 Lycopodiastrum

Pseudolycopodium

Pseudodiphasium

Austrolycopodium

マンネンスギ属 Dendrolycopodium

Diphasium

アスヒカズラ属 Diphasiastrum

ヒカゲノカズラ属 Lycopodium

スギカズラ属 Spinulum

Lycopodioideae
Lycopodiaceae

下位分類

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フィログロッスム Phylloglossum drummondii

PPG I (2016) および Chen et al. (2021) に基づく下位分類は以下の通りで、現生のものは17属に分けられる[2][26]。現生属は旧来ヒカゲノカズラ属 Lycopodiumフィログロッスム属 Phylloglossum の2属に分けられていた[6][1][13][27]。このうちヒカゲノカズラ属 Lycopodium s.l. は初期には、はっきりとした胞子嚢穂を作らず均等な二又分枝を行う Urostachya と、明らかな胞子嚢穂を持ち、不等二又分枝を行う Rhopalostachya の2亜属が識別されるとする考え方があった[28]。このうち Urostachya 属は UrostachyaceaeHuperziaceae[29])という別の科に置く考えもあった[28]。分子系統解析の結果からヒカゲノカズラ属 Lycopodium s.l. はヒカゲノカズラ属 Lycopodiumヤチスギラン属 Lycopodiellaコスギラン属 Huperzia の3クレードからなることが確認された(なおこれは下記の亜科にそれぞれ対応している)[1]。しかし、この分類では特異な形質を持つフィログロッスム属がコスギラン属に内包されてしまうという問題点があり、より細分化された分類体系を用いるのが主流である[2][30][1]

日本の種

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海老原 (2016)に基づき、日本産の全種を示す[1]。但し、学名(属名)はPPG I (2016)のものを採用した。いずれもヒカゲノカズラ属 Lycopodium とされた経緯があるため[13]、属名を Lycopodium とするシノニムも知られる[1]。なお、エゾヒカゲノカズラ以外の変種は海老原 (2016) では採用されていない[1]

また、コウヨウザンカズラ鹿児島県奄美大島で一度しか記録されずその後日本では絶滅したとされる[1][32][33][34]

ヒカゲノカズラ亜科

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ヒモヅル Lycopodiastrum casuarinoides

ヤチスギラン亜科

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ミズスギ Palhinhaea cernua

コスギラン亜科

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ヨウラクヒバ Phlegmariurus phlegmaria

利用

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瓶に入れられたヒカゲノカズラの胞子。

ヒカゲノカズラは、植物体全体が神事に用いられる[35][43]天岩戸の逸話において、太陽の復活を願いアメノウズメの胸にたすき掛けされた[43]。これは常緑で刈り取った後にも長期間枯れずに緑色を保つことや、長く伸びた異様な姿に古代から日本人が生気あるものとして霊力を感じ取っていたからであるともされる[43]伏見稲荷大社大山祭では参拝者に神酒とともにヒカゲノカズラが授与されるほか、率川神社三枝祭では舞姫がヒカゲノカズラを頭に挿して五節の舞を奉じる[43]

ヒカゲノカズラは古くから文学作品に登場し、『万葉集』にも大友家持新嘗祭で詠んだ「あしひきの山下日蔭蘰ける上にやさらに梅を賞はむ」が掲載されている[43]ほか、第14巻にも「あしひきの山葛蘿ましばにも得がたき蘿を置きや枯らさむ」などと詠まれている[27]。『源氏物語』や『枕草子』、『新古今和歌集』などにも登場する[43]

ヒカゲノカズラの胞子は油脂50%と糖分3%を含み、湿気を吸収しない性質を利用し「石松子」として丸薬の衣に用いられた[35][44][43]。ほかにも、皮膚のただれや湿疹に薬品を混ぜて撒布したりされた[43]。"Lycopodium powder" として売られ、花火の製造に使われる[45][43]ほか、研磨剤[43]リンゴ人工授粉の際の花粉の稀釈にも用いられる[43][44]外科手袋や丸薬のまぶし粉としての使用も行われたが、ヒカゲノカズラの胞子は手術などの傷に対して炎症を引き起こすため、使用は減少してきている[45]

また、マンネンスギは地上部全体を「立桂」として料理の飾りに用いる[36]。中央卸売市場に隣接するマーケットで売られ、寿司屋のネタやケースに飾られる[43]。マンネンスギは生け花の根締めや観賞用にも用いられる[46]

ヨウラクヒバ属のムカデカズラ Phlegmariurus squarrosum は園芸植物として栽培される[47]スギランナンカクランヨウラクヒバなどの樹上性の種はいずれも、森林伐採や園芸用採取により絶滅の危機にある[31]

脚注

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注釈

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  1. ^ 1. スギカズラ Spinulum annotinum(a: 胞子嚢穂 ; b: 匍匐茎)、2. マンネンスギ Dendrolycopodium dendroideum、3. タカネヒカゲノカズラ Diphasiastrum nikoense(a: 胞子嚢穂 ; b: 匍匐茎)、4. ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum var. nipponicum(a, b: 根の均等な二又分枝;c, d: 根の不等二又分枝;e: 胞子嚢穂;f: 匍匐茎;g: シュートの均等な二又分枝;h: シュートの不等二又分枝)、5. トウゲシバ Huperzia serrata(a: 胞子嚢 ; b: 無性芽のついたシュートを上から見た図; c: 胞子嚢のついたシュートを横から見た図、均等な二又分枝を行う)、6. コスギラン Huperzia selago、7. ヒメスギラン Huperzia miyoshiana
  2. ^ 同じ小葉植物のイワヒバ類や、大葉シダ植物などでは単一の頂端細胞が形成され、それが細胞を切り出して成長する[9]
  3. ^ 同じ小葉植物のミズニラ類でも同様に葉の向軸側に形成されるが、イワヒバ類では葉腋の茎よりの部分から胞子嚢が形成される[10]
  4. ^ イワヒバ類では初発胞子形成細胞の最外層の細胞がタペート細胞になるのに対し、初発胞子形成細胞よりも内側の葉身細胞由来の細胞が内側のタペート細胞として機能する[11]
  5. ^ 2倍体のもので、小梗が長いもの[35]。ヨーロッパ産の基準変種 var. clavatum も2倍体であるが、4倍体のエゾヒカゲノカズラに近い特徴を示す[35]。学名は暫定的[35]Hassler (2021) では中国の研究を基に Lycopodium japonicum Thunb. としている。
  6. ^ 4倍体で、小梗がほぼないもの[35]。上記のヒカゲノカズラとの交雑により3倍体を生じると考えられている[35]。学名は暫定的[35]
  7. ^ 海老原 (2016)では遺伝的解析が不十分であることから Lycopodium obscurum L.syn. Dendrolycopodium obscurum (L.) A.Haines)のみを用いているが[36]、ここではHassler (2021)に基づき、日本 (Japan) に分布がある2種の学名を以下に引用した[37]
  8. ^ 武田 (1909)ではLycopodum obscurum f. flabellatum Takeda とされる。岩槻 (1992)ではDendrolycopodium obscurum f. obscurum とされる[38]海老原 (2016)では日本産のものは Lycopodium dendroideum Michx. に形態が似ているとしながらもLycopodium obscurum L. を用いている。
  9. ^ 海老原 (2016)ではLycopodium obscurum L. f. strictum (Milde) Nakai ex H.Haraとして引用される[36]。日本のものは武田 (1909) により設立された Lycopodium obscurum f. juniperoideum を根拠としている[37]。なお、Lycopodium obscurum L. f. strictum (Milde) Nakai ex H.HaraHassler (2021) ではDendrolycopodium verticale (Li-Bing Zhang) Li-Bing Zhang & X.M.Zhou という別種のシノニムとされる[37]
  10. ^ 海老原 (2016) のようにミズスギ属をヤチスギラン属に含める考えもある。その場合、ミズスギは Lycopodiella cermua (L.) Pic.Serm. となる[39]
  11. ^ 海老原 (2016) のようにイヌヤチスギラン属をヤチスギラン属に含める考えもある。その場合、イヌヤチスギランは Lycopodiella caroliniana (L.) Pic.Serm. となる[39]
  12. ^ 海老原 (2016) ではLycopodium serrata Thumb. var. alpestre H.Christ として引用されるように[40]、この学名の組合せはおそらく正式発表されていない。また、Hassler (2021)ではLycopodium serrata var. alpestreHuperzia sutchueniana (Herter) Ching のシノニムとされるが、その分布は中国のみとされる[37]
  13. ^ 日本を含むアジアのものは亜種 subsp. arctica (Grossh. ex Tolm.) Á.Löve & D.Löve に置かれることもある[40]。これは subsp. appressa (Bach.Pyl. ex Desv.) D.Löve とされることもある[37]
  14. ^ 海老原 (2016) では Lycopodium sieboldii Miq. var. christensenianum (H.Christ & Herter) Tagawa として引用され[42]、この学名の組合せはおそらく正式発表されていない。また、Hassler (2021)では Huperzia sieboldii var. christenseniana (H.Christ & Herter) Nakaike および Phlegmariurus christensenianus (H.Christ & Herter) SatouPhlegmariurus fargesii (Herter) Ching (ヒモスギラン)のシノニムとされる[37]

出典

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  2. ^ a b c d e f PPG I 2016, pp. 563–603.
  3. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 24.
  4. ^ 長谷部 2020, p. 26.
  5. ^ 岩槻 1992, pp. 42–43.
  6. ^ a b c d e f g h i ギフォード & フォスター 2002, p. 115.
  7. ^ a b c d e f g h i j k 長谷部 2020, p. 口絵13.
  8. ^ a b c d e f g 田川 1959, pp. 7–16.
  9. ^ 長谷部 2020, p. 137.
  10. ^ 長谷部 2020, p. 129.
  11. ^ a b c d 長谷部 2020, pp. 129–130.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s ギフォード & フォスター 2002, pp. 125–128.
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  14. ^ 長谷部 2020, p. 133.
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  16. ^ 熊沢 1979, p. 121.
  17. ^ ギフォード & フォスター 2002, pp. 113–181.
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  22. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 134.
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  34. ^ 国立科学博物館 (2021). “英語目次・表紙写真解説”. 保全生態学研究 26 (2): Toc1. doi:10.18960/hozen.hozen.26.2_Toc1. 
  35. ^ a b c d e f g h 海老原 2016, p. 261.
  36. ^ a b c 海老原 2016, p. 262.
  37. ^ a b c d e f Hassler 2021.
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  43. ^ a b c d e f g h i j k l 高宮 1997, p. 90.
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  45. ^ a b ギフォード & フォスター 2002, p. 125.
  46. ^ 高宮 1997, p. 91.
  47. ^ 渡辺顕一 (2005-02-01). シダを楽しむ―人気の日本種・海外種200余種といろいろな育て方・楽しみ方. 別冊趣味の山野草. 栃の葉書房. p. 140. ISBN 978-4886161550 

参考文献

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ウェブサイト

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関連項目

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