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'''幻視芸術'''({{lang-en-short|Visionary Art}})は幻想芸術と並んで象徴派的あるいは幻想的な美術、さらには現代においてシュルレアリスムを引継いだ美術を指す用語である。幻視は日本語で幻覚を意味しているが、医学的な意味における幻覚とは無関係である。あるいはアウトサイダー・アートとも違うジャンルである。 |
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== 語源 == |
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2017年7月31日 (月) 18:33時点における版
幻視芸術(英: Visionary Art)は幻想芸術と並んで象徴派的あるいは幻想的な美術、さらには現代においてシュルレアリスムを引継いだ美術を指す用語である。幻視は日本語で幻覚を意味しているが、医学的な意味における幻覚とは無関係である。あるいはアウトサイダー・アートとも違うジャンルである。
幻視芸術はVisionary Artの和訳として考案されているが国内では今だ明確な定説を見ない。欧米におけるVisionary Artはサイケデリック・アートやシャーマニズムから生まれたアートも広く意味している[2]。対して、幻想芸術はFantastic Artの和訳であり、欧米においては幻想文学やサイエンス・フィクション(SF)との相互影響を含むニュアンスがある。
語源
フィリップ・ルビノブ・ジェーコブソンによれば、Visionary Art の言葉は1933年に心理学者のカール・グスタフ・ユングが造語したものであり、ユングは幻視芸術を啓示として説明しそれは非日常的な意識の状態に由来する[3]。そしてユングは1940年代に幻(ヴィジョン)についての講義を行っており、その取り組みには能動的想像法の実験や(その結果としてヴィジョンを描いた)『赤の書』がある[4]。ジェーコブソンによれば、幻視芸術とは、観想の眼によって現れた「見えている」ヴィジョンであるか、そうした経験に基づいている[3]。
幻視芸術家のローレンス・カルアナは、2010年に『幻視芸術の第一宣言』(未訳)を出版している[5]。その2001年の草稿でも、幻視芸術が何であるか説明されており、それは超現実主義者(シュルレアリスト)が、高い現実の夢幻状態へと昇ろうと試み、夢やトランスなど変性状態を介して意識の異なる状態に達し、視界の限界を超えたところの通常の知覚を超越した幻視の状態にて、視えないものを観て、そのヴィジョンを伝えるということである[6]。
1972年にアウトサイダー・アートという言葉を用いて、(主に障害者の作品を集めたデュビュッフェの提唱した)それまでのアール・ブリュットを定義しなおしたロジャー・カーディナルは、後に適語を探した時のことに言及しており、アウトサイダー・アート、フォーク・アート、ヴィジョナリー・アート(『パラレル・ヴィジョン』訳書では「幻視する美術」に読みとしてふられている)などこれまで用いられてきた用語を挙げている[7]。アメリカ合衆国メリーランド州のボルチモアに所在するアメリカン・ビジョナリーアート・ミュージアムにおける幻視芸術の定義は、以下のようになっている[2]。この定義においては、因習的な美術の外側であるアウトサイダー・アートの定義と同様である[2]。
正式な訓練を受けていない独学の個人によって生み出された芸術であり、創作活動の中でも最も喜ばしい、本質的に個人的なヴィジョンから生まれた作品である。
メスカリンを体験したイギリスの作家のオルダス・ハクスリーは、1953年に「幻視体験と幻視芸術」に関する一連の講義を行っている[8]。ギルバート・ウィリアムズ (Gilbert Williams) によるインターネット上でのインタビューでは[要出典]、1960年代後半のアメリカ西海岸におけるサイケデリックな芸術運動を指すために幻視芸術という言葉が使われたということである。
ポール・ラフォリーが1967年に参加したニューヨークの展覧会 The Visionaries がある。この展覧会の企画者であるチャールズ・ジュリアーノ (Charles Giuliano) が幻視芸術という言葉を主張した理由はポール・ラフォリーが薬物と無縁なアーティストであるためサイケデリック・アートという言葉は展覧会の方向性に相応しくなかったからである。
日本の世田谷美術館で1993年にアウトサイダー・アートの展覧会が開催され、アウトサイダー・アートの中のひとつとして幻視者の作品が紹介された。それにあわせてロサンゼルス・カウンティ美術館の展覧会の著作が翻訳されており、主に精神障害者による作品が提示されているが、アウトサイダー・アートの中のひとつとして幻視芸術が紹介され、精神障害者以外の幻視者、霊媒者、心霊術師の作品も少数ではあるが展示された[9]。そこで集められたのは「強迫的幻視者」たちの作品である[7]。
なお、ロサンゼルス・カウンティ美術館では1986年に、「芸術における霊的なもの:抽象絵画1980-1985」が開催されている[7]。芸術における神秘主義についての文献は膨大であり、95人の芸術家すべてについて125冊の本から「霊的な」伝記を裏付け、専門家に依頼した論文でも、認識の「別種の方法」への関心が見られた[7]。
欧州での神秘的で幻視的な絵画の伝統は、写実主義に比較して散発的なものであり、その初期の例は12世紀のヒルデガルト・フォン・ビンゲンに観られ、彼女は自らのヴィジョンにあらわれた象徴を説明するために文章と絵画を用いた[10]。幻視的な芸術家であるウィリアム・ブレイクは、『天国と地獄の結婚』において「知覚の扉が除かれるならば、人間にはすべてがありのままにみえる」という趣旨で述べている[10]。霊(スピリット)の表現のための静観の眼を開くには、瞑想は確実な方法のひとつである[10]。あるいは、シャーマンは霊の世界と交信するために、幻覚剤、性交、苦行などを試す[11]。
現代の動向
現代の幻視芸術の動向そのものは、インターネットという新しいメディアを手段の一つとして国際的な広がりと輪郭を形成しつつある。そしてどのような芸術家が影響力があるのかも次第に明らかになってきている。抽象表現主義、ミニマリズム、コンセプチュアル・アート、ポップアートといった欧米における戦後の現代美術が上流階級による経済支援と公的な美術館によって大規模に喧伝されてきたのに対して、幻視芸術の動向の多くは一般庶民によって支援されてきている。アーティスト達は公的な美術館や出版の領域に対して新たな参入の余地を見いだすために活動を続けている。
現代の芸術家は、ヨーロッパの古典芸術や象徴主義、超現実主義あるいはサイケデリック・アートなどを自らの先駆とみなし、幻視芸術の美術史的な意義を主張している。
現代の幻視芸術家にとって影響力のある過去の巨匠はヒエロニムス・ボス、ウィリアム・ブレイク、ギュスターヴ・モローといった画家達であり、また神話や民族芸術、あるいはアーティスト自身の霊的体験などが幻視芸術を創造するための源泉になっている。
19世紀の詩人ウィリアム・ブレイクは、強烈な神秘的なヴィジョンを定期的に経験し、幻視芸術を描いた[2]。モネやシャガールなど想像の域での幻視という認識は、近代でも共有されてきたが、1930年代のシュルレアリスム(超現実主義)の時代になると、絵画は幻想の産物であると捉えられた[12]。ウィーン幻想派はエルンスト・フックスや[3]、エーリッヒ・ブラウアー、ルドルフ・ハウズナーらによって構成されていた。現在活躍しているニューヨークの幻視芸術家の大半は、1964年から1974年にかけてフックスから技術を学んでいる[3]。アブドゥル・マチ・クラーライン、ロバート・ヴェノーサ、ローレンス・カルアナ、アンドリュー・ゴンザレス (A. Andrew Gonzalez) 、フィリップ・ルビノブ・ジェーコブソン (Philip Rubinov-Jacobson) らは、北アメリカにおいて、入れ替わり立ち代り、ウィーンでの研鑽をもとに後進を教えている。
1960年代初頭にブリジッド・マーリンによって設立された幻想芸術のための組織、The Society for the Art of Imagination(AOI)は幻視芸術に関わるための重要な入り口を提供している。さらに最近ではLilaといったウェブマガジンや、Beinartが代表するオンラインギャラリーがインターネットや自主出版を手段として幻視芸術家をサポートしている。
西洋文学ではオルダス・ハクスリー、アンリ・ミショー、ウィリアム・バロウズなどが幻覚性の植物を試したが、西洋美術ではそうした関心はしばらく沸き起こっていなかった[12]。ロバート・ヴェノーサは1990年代以降、定期的にアマゾン熱帯雨林を訪れ、アヤワスカを試し、神々しく神秘的なアヤワスカによって見ることのできる美しい世界を描き、今日では幻視芸術と呼ばれている[13]。
出典
- ^ 聖なる鏡.
- ^ a b c d Sylvia Thtssen (2003-05). “Examining "Visionary Art" (Boundaries in Question)”. Erowid Extracts 4: 18-19 .
- ^ a b c d Philip Rubinov Jacobson. “A Little Known Brief History of Visionary Art”. 2017年4月12日閲覧。
- ^ C. G. Jung (2015). On Psychological and Visionary Art: Notes from C. G. Jung's Lecture on Gerard de Nerval's "Aurelia". Princeton University Press. p. 1-2. ISBN 0691162476
- ^ L. Caruana (2010). The First Manifesto of Visionary Art. Recluse. ISBN 978-0-97826373-7
- ^ L. Caruana (2001). The First Draft of Manifesto of Visionary Art. Recluse 2017年4月12日閲覧。
- ^ a b c d パラレル・ヴィジョン 1993, §序文(モーリス・タックマン).
- ^ Stuart, R (2004). “Modern Psychedelic Art's Origins as a Product of Clinical Experimentation”. The Entheogen Review 13 (1): 12-22 .
- ^ パラレル・ヴィジョン 1993.
- ^ a b c 聖なる鏡, §芸術家の眼に見えるもの:芸術と永遠の哲学(ケン・ウィルバー).
- ^ 聖なる鏡, §闇から光へ(カルロ・マコーミック).
- ^ a b 今福, 竜太「アートの民族植物学的起源 - パブロ・アマリンゴと幻覚のヴィジョン」『Collage』第2号、1999年4月、8-11頁、NAID 40005217912。
- ^ Martina Hoffmann, Robert Venosa (2012). “Robert Venosa and the Visionary Art World” (pdf). MAPS Bulletin 22 (1): 22-23 .
参考文献
- モーリス・タックマン、キャロル・S.エリエル『パラレル・ヴィジョン―20世紀美術とアウトサイダー・アート』淡交社、1993年10月。ISBN 978-4-473-01301-9。 Parallel Visions : Modern Artists and Outsider Art, 1992.
- アレックス・グレイ、ケン・ウィルバー、カルロ・マコーミック 著、秋津一夫 訳『聖なる鏡―アレックス・グレイの幻視的芸術』ナチュラルスピリット、2010年。ISBN 978-4-903821-70-2。</ref> Sacred Mirrors : The Visionary Art of Alex Gray, 1990.
関連項目
外部リンク
- visionary art vauls (エロウィド)
- CHIMERIA