コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

「政党制」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Qoji (会話 | 投稿記録)
編集の要約なし
(3人の利用者による、間の31版が非表示)
15行目: 15行目:
サルトーリの分割法は、うまく機能する民主主義として'''二大政党制'''と'''穏健な多党制'''を取り出した。二大政党制に入れられたのは、イギリス系の[[アングロサクソン]]諸国である。穏健な多党制に入れられたのは、ドイツの他、[[ベネルクス]]三国や[[スカンディナヴィア]]三国などがある。これらの政党制は、イデオロギーの差異が小さいことが共通の特徴である。
サルトーリの分割法は、うまく機能する民主主義として'''二大政党制'''と'''穏健な多党制'''を取り出した。二大政党制に入れられたのは、イギリス系の[[アングロサクソン]]諸国である。穏健な多党制に入れられたのは、ドイツの他、[[ベネルクス]]三国や[[スカンディナヴィア]]三国などがある。これらの政党制は、イデオロギーの差異が小さいことが共通の特徴である。


またサルトーリは、民主主義ではあるが、政治的には非効率なものとして'''一党優位制'''と'''分極的多党制'''を指摘した。典型的な一党優位制としては、[[55年体制]]の[[日本]]、([[ジャワハルラール・ネルー]]、[[インディラ・ガンディー]]下の)[[インド]]がある。分極的多党制に入れられたのは、サルトーリの母国[[イタリア]]の他には、[[ヴァイマル共和政]]、[[フランス第三共和政]]、[[フランス第四共和政]]などが上げられる。これらの政党制は、イデオロギーの差異が大きいことが共通の特徴である。
またサルトーリは、民主主義ではあるが、政治的には非効率なものとして'''一党優位政党制'''('''一党優位制''')と'''分極的多党制'''を指摘した。典型的な一党優位制としては、[[55年体制]]の[[日本]]、([[ジャワハルラール・ネルー]]、[[インディラ・ガンディー]]下の)[[インド]]がある。分極的多党制に入れられたのは、サルトーリの母国[[イタリア]]の他には、[[ヴァイマル共和政]]、[[フランス第三共和政]]、[[フランス第四共和政]]などが上げられる。これらの政党制は、イデオロギーの差異が大きいことが共通の特徴である。


サルトーリの念頭にあったのは、デュベルジェに対する批判ではなく、その拡張である。デュベルジェは二党制をもって、もっとも効率的な民主主義であるという結論を出していたが、サルトーリはそれに付け加えて、穏健な多党制も効率的な民主主義であると結論づけた。{{独自研究範囲|date=2012年8月|しかしながら、サルトーリも結論から先に入って理論を組み立てた観があり、1970年代の[[スウェーデン]]はどう見ても[[スウェーデン社会民主労働党|社会民主労働党]]による一党優位制であるべき<ref>1990年代以降は、社会民主労働党と保守政党連合とで何度か政権交代しているので穏健な多党制であると言える。</ref>だが、穏健な多党制に分類されているし、[[ベルギー]]も分極的多党制であるところを穏健な多党制としている。サルトーリがもっとも重視したのは、イデオロギーの差異だからである<ref>ベルギーではイデオロギーのほかに[[フランス語]]系の[[ワロン語]]圏・[[オランダ語]]系の[[フラマン語]]圏と居住する民族によっても政党が分かれており、例えば社会党も[[フラマン系社会党]]と[[ワロン系社会党]]に分かれている。</ref>。しかしながらイデオロギーを差異を計量化して提示したわけではなく、彼の主観で無理に「良い政治」を行っている国をイデオロギーの差異が小さいとしているのはほぼ間違い無いだろう。後に彼は分極的多党制でありながら、良い政治を行っている国として[[フィンランド]]を認めている。}}
サルトーリの念頭にあったのは、デュベルジェに対する批判ではなく、その拡張である。デュベルジェは二党制をもって、もっとも効率的な民主主義であるという結論を出していたが、サルトーリはそれに付け加えて、穏健な多党制も効率的な民主主義であると結論づけた。


色々な批判を受けながらも、この分類法は、21世紀初めの現在に至るまで、もっとも大きな影響力を持つものとして政治学者の間で広く受け入れられている。
色々な批判を受けながらも、この分類法は、21世紀初めの現在に至るまで、もっとも大きな影響力を持つものとして政治学者の間で広く受け入れられている。


*非競合的政党制
* [[無党制]]
**[[一党制]]
* [[一党独裁制]](非競合的政党制)
**[[ヘゲモニー政党制]]
** [[一党制]]
** [[ヘゲモニー政党制]]
*競合的政党制
* [[複数政党制]](競合的政党制
**[[一党優位政党制]]
** [[一党優位政党制]]
**[[大政党制]]
*** [[大政党制]]
**[[穏健な多党制]]
** [[二大ブロック制]]
**[[分極的多党制]]
*** [[二大政党制]]
** [[穏健な多党制]]
**[[原始化政党制]] - 有力な政党が存在せず、多数の政党が乱立している政党制。
*** [[三大政党制]]
*** [[北欧五党制]]
** [[分極的多党制]]
** [[原子化政党制]]


=== レイプハルトの民主主義類型 ===
=== レイプハルトの民主主義類型 ===
36行目: 41行目:
まずレイプハルトは、政党制を[[有効議会政党数]]を手がかりに、2党制、2.5党制、優位政党のある多党制、優位政党のない多党制の4つに分類した。その上で2党制と2.5党制とを'''[[多数決型民主主義]]'''([[ウェストミンスター]]型モデル)とし、優位政党のある多党制と優位政党のない多党制とを'''[[合意形成型民主主義]]'''(コンセンサス型モデル)とした。サルトーリの政党制との関連性は以下の通りである。
まずレイプハルトは、政党制を[[有効議会政党数]]を手がかりに、2党制、2.5党制、優位政党のある多党制、優位政党のない多党制の4つに分類した。その上で2党制と2.5党制とを'''[[多数決型民主主義]]'''([[ウェストミンスター]]型モデル)とし、優位政党のある多党制と優位政党のない多党制とを'''[[合意形成型民主主義]]'''(コンセンサス型モデル)とした。サルトーリの政党制との関連性は以下の通りである。


*多数決型民主主義
* 多数決型民主主義
**二大政党
** 二大ブロック
*合意形成型民主主義
* 合意形成型民主主義
**一党優位政党制
** 一党優位政党制
**穏健な多党制
** 穏健な多党制
**分極的多党制
** 分極的多党制
** 原子化政党制


そしてレイプハルトは、多くの面において合意形成型民主主義が優れているという結論を、36か国に及ぶ実証研究の中から「証明」した。レイプハルトによれば、合意形成型民主主義はイギリスに代表される多数決型民主主義よりも、マイノリティ(女性や人種的マイノリティ)の代表性の度合いが高いことから、より「優しい」民主主義である一方、成長率・失業率その他の経済的業績は両者に有意な差がないことを主張している。
そしてレイプハルトは、多くの面において合意形成型民主主義が優れているという結論を、36か国に及ぶ実証研究の中から「証明」した。レイプハルトによれば、合意形成型民主主義はイギリスに代表される多数決型民主主義よりも、マイノリティ(女性や人種的マイノリティ)の代表性の度合いが高いことから、より「優しい」民主主義である一方、成長率・失業率その他の経済的業績は両者に有意な差がないことを主張している。
51行目: 57行目:
デュベルジェは、その後の彼の論文の中で、[[フランス第五共和政]]の事例を取り上げることで、[[絶対多数制]]の選挙制度の下における多党制を推薦するかのような論調を採っている。またサルトーリも[[フランス第五共和政]]の[[二回投票制]]をもっとも優れた選挙制度であるという結論を留保つきながら著述している。
デュベルジェは、その後の彼の論文の中で、[[フランス第五共和政]]の事例を取り上げることで、[[絶対多数制]]の選挙制度の下における多党制を推薦するかのような論調を採っている。またサルトーリも[[フランス第五共和政]]の[[二回投票制]]をもっとも優れた選挙制度であるという結論を留保つきながら著述している。


フランス第五共和政は、定説となるような類型は名付けられてはいないが、'''二ブロック的多党制'''あるいは'''二ブロック制'''とも言うべき政党制になるであろう。二大政党制と穏健な多党制の中間的な政党制である。二つの政党群が政権を競い合い、選挙によって明確に勝者となる政党群が決まる。その政党群の中のリーダー格である政党の党首が首班指名を受けるということをデュベルジェとサルトーリは想定しているようである。
フランス第五共和政は、定説となるような類型は名付けられてはいないが、'''二ブロック制'''あるいは'''二ブロック的多党制'''とも言うべき政党制になるであろう。二大政党制と穏健な多党制の中間的な政党制である。二つの政党群が政権を競い合い、選挙によって明確に勝者となる政党群が決まる。その政党群の中のリーダー格である政党の党首が首班指名を受けるということをデュベルジェとサルトーリは想定しているようである。


しかし、近年のフランスでは第三勢力の[[国民戦線 (フランス)|国民戦線]]が台頭してきているほか、イギリスやカナダでも伝統的な[[トーリー]]・[[ホイッグ]]・[[レイバー]]が併存している状況となっているため、デュベルジェとサルトーリの想定外の事態になっているとも言えなくもない。[[1993年]]以降のイタリアの状況の方が、より想定に近いかも知れないが、サルトーリ自身は小選挙区制と比例代表制の混在している選挙制度は批判している。なお、サルトーリが母国のイタリアで分極的多党制を批判し、二大政党制への変革を求めて選挙制度の改革を推進したことは有名である。
しかし、近年のフランスでは第三勢力の[[国民戦線 (フランス)|国民戦線]]が台頭してきているほか、イギリスやカナダでも伝統的な[[トーリー]]・[[ホイッグ]]・[[レイバー]]が併存している状況となっているため、デュベルジェとサルトーリの想定外の事態になっているとも言えなくもない。[[1993年]]以降のイタリアの状況の方が、より想定に近いかも知れないが、サルトーリ自身は小選挙区制と比例代表制の混在している選挙制度は批判している。なお、サルトーリが母国のイタリアで分極的多党制を批判し、二大政党制への変革を求めて選挙制度の改革を推進したことは有名である。


日本の各政党や政治家も、政党制のあり方に対する支持・不支持を表明している。[[民主党 (日本 1998-2016)|民主党]]は二大政党制を強く推進する言動をしており、[[公明党]]・[[日本共産党]]以下の小政党は穏健な多党制を推奨している。[[自由民主党_(日本)|自由民主党]]は一党優位制を暗に望む政治家([[55年体制]]を知るベテランに多い)と、二大政党制を主張する政治家(若手に多い)が混在しているようである。しかし、当然のことながら、これらは、各党・政治家の利害に大きく影響された主張であるとえる。
日本の各政党や政治家も、政党制のあり方に対する支持・不支持を表明している。[[民主党 (日本 1998-2016)|民主党]]は二大政党制を強く推進する言動をしており、[[公明党]]・[[日本共産党]]以下の小政党は穏健な多党制を推奨している。[[自由民主党_(日本)|自由民主党]]は一党優位制を暗に望む政治家([[55年体制]]を知るベテランに多い)と、二大政党制を主張する政治家(若手に多い)が混在しているようである。しかし、当然のことながら、これらは、各党・政治家の利害に大きく影響された主張であるとえる。


== 敗戦後日本の政党制 ==
== 敗戦後日本の政党制 ==
62行目: 68行目:
しかし、[[日本共産党]]を含めると、その[[イデオロギー]]の差異からみて、ずっと分極的多党制であり続けたという議論も成り立つ。日本共産党を有為な政党と見るかどうかで、日本の政党制をどのようにみるかが異なってしまう(カリフォルニア大学のバークレー校のロバート・A・スキャラピーノも同意見)。発言者の政治的思惑も絡んで、意見の一致は不可能であろう。定説は無いというのが正しいとする見方も根強い。
しかし、[[日本共産党]]を含めると、その[[イデオロギー]]の差異からみて、ずっと分極的多党制であり続けたという議論も成り立つ。日本共産党を有為な政党と見るかどうかで、日本の政党制をどのようにみるかが異なってしまう(カリフォルニア大学のバークレー校のロバート・A・スキャラピーノも同意見)。発言者の政治的思惑も絡んで、意見の一致は不可能であろう。定説は無いというのが正しいとする見方も根強い。


ただし、全体としては、日本の政党制は、1993年の選挙制度改革を契機に、自民党一党支配から、紆余曲折を経ながらも徐々に二大政党制へ移行しつつある、という見解が最も妥当なところであろう。とはいうものの、日本の場合のいわゆる二大政党制は選挙制度改革の所産という性格が強く、さらに選挙制度改革後も共産党に加えて、設立母体たる[[創価学会]]の価値観を色濃く反映し独自の政治姿勢を保持し続ける公明党勢力が厳然と存在していることから、米国や英国流の二大政党制と同列に論じることには批判がある。仮に日本で再び選挙制度が改正されると、極めて人為的に作られた民主党や結党当初より党内対立を抱える自民党の分裂も十分に予想され、その時は、再び理念・政策をもとに政党が結集する穏健な多党制へ戻る可能性も指摘されている。また日本独特の事情をもとに、'''三大政党制'''ともえる状態に近づく可能性もある。{{要出典|date=2016年12月}}
ただし、全体としては、日本の政党制は、1993年の選挙制度改革を契機に、自民党一党支配から、紆余曲折を経ながらも徐々に二大政党制へ移行しつつある、という見解が最も妥当なところであろう。とはいうものの、日本の場合のいわゆる二大政党制は選挙制度改革の所産という性格が強く、さらに選挙制度改革後も共産党に加えて、設立母体たる[[創価学会]]の価値観を色濃く反映し独自の政治姿勢を保持し続ける公明党勢力が厳然と存在していることから、米国や英国流の二大政党制と同列に論じることには批判がある。仮に日本で再び選挙制度が改正されると、極めて人為的に作られた民主党や結党当初より党内対立を抱える自民党の分裂も十分に予想され、その時は、再び理念・政策をもとに政党が結集する穏健な多党制へ戻る可能性も指摘されている。また[[自由民主党の派閥]]のような[[派閥]]を重んじる日本独特の歴史的背景をもとに、[[キリスト教社会同盟]]という[[地域政党]]も参加したかつての[[ドイツの政党]]における[[キリスト教民主同盟]]・[[ドイツ社会民主党|社会民主党]]・[[自由民主党 (ドイツ)|自由民主党]]のような'''三大政党制'''ともえる状態に近づく可能性もある<ref>[http://webronza.asahi.com/science/articles/2012120200001.html これからは3大政党+緑――環境政治の時代]</ref>


2012年の[[第46回衆議院議員総選挙|第46回総選挙]]では、自民党・[[公明党]]が勝利し政権復帰したが、与党第一党の民主党は比例区では[[日本維新の会 (2012-2014)|日本維新の会]]に及ばず、選挙区を含め辛くも比較第二党を確保した。また、[[2013年東京都議会議員選挙]]では民主党は公明党・共産党をも下回り第四党に転落した。さらに[[第23回参議院議員通常選挙|第23回参院選]]では民主党は比例区で公明党を下回る第三党となり、選挙区議席で比較第二党を確保した。これは55年体制期にも見られなかった現象であり、自民党の一党優位制に回帰した、あいは分極的多党制が強まったと見ることもできる。
2012年の[[第46回衆議院議員総選挙|第46回総選挙]]では、自民党・[[公明党]]が勝利し政権復帰したが、与党第一党の民主党は比例区では[[日本維新の会 (2012-2014)|日本維新の会]]に及ばず、選挙区を含め辛くも比較第二党を確保した。また、[[2013年東京都議会議員選挙]]では民主党は公明党・共産党をも下回り第四党に転落した。さらに[[第23回参議院議員通常選挙|第23回参院選]]では民主党は比例区で公明党を下回る第三党となり、選挙区議席で比較第二党を確保した。これは55年体制期にも見られなかった'''一大政党制'''の現象であり、自民党の一党優位制に回帰したとも言えだけでなく、分極的多党制に至ったとも言える。

そして2017年の[[第48回衆議院議員総選挙|第48回総選挙]]では、自民党・[[立憲民主党 (日本)|立憲民主党]]・[[希望の党]]と[[自公連立政権]]の一翼を担う公明党による三極対決が実現し、三大政党制に移行した。


== 冷戦後のグローバリゼーション・情報化と政党 ==
== 冷戦後のグローバリゼーション・情報化と政党 ==
冷戦の終了とグローバリゼーション・情報化の進展が政党のあり方にも影響を与えつつある。冷戦後、政党がイデオロギー政党としての性格からプラグマティック政党の性格に変化せざるを得ないという議論もある。いずれにしろ、多くの点で今後世界の政党制が変動する可能性が存在する。
冷戦の終了とグローバリゼーション・情報化の進展が政党のあり方にも影響を与えつつある。冷戦後、政党がイデオロギー政党としての性格からプラグマティック政党の性格に変化せざるを得ないという議論もある。いずれにしろ、多くの点で今後世界の政党制が変動する可能性がる。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
*ジョヴァンニ・サルトーリ 『現代政党学』(普及版)、岡沢憲芙・川野秀之訳、[[早稲田大学出版部]]、[[2000年]](原著:[[1976年]])。
* ジョヴァンニ・サルトーリ 『現代政党学』(普及版)、岡沢憲芙・川野秀之訳、[[早稲田大学出版部]]、[[2000年]](原著:[[1976年]])。


==注==
== ==
{{Reflist}}
<references />


==関連項目==
==関連項目==
*[[政党]]
* [[政党]]
*[[政党内閣]]
* [[包括政党]]
*[[民主主義]]
* [[政党内閣]]
*[[五・一五事件]]
* [[民主主義]]
* [[五・一五事件]]


{{DEFAULTSORT:せいとうせい}}
{{DEFAULTSORT:せいとうせい}}
[[Category:政党制|*]]
[[Category:政党制|*]]
[[Category:民主主義|せいとうせい]]
[[Category:間接民主主義|せいとうせい]]

2018年1月4日 (木) 18:57時点における版

政党制(せいとうせい)とは、ある政体政党間の勢力分布や交渉対立の様相を、一つのシステムとみて把握したものである。政党システム政党政治とも言う。

政党制の類型

デュヴェルジェの政党制類型

1970年代まで、政党制の類型と分析においてもっとも影響力があったのはモーリス・デュヴェルジェの研究であった。彼は政党制を一党制二党制多党制に三分し、その中で二党制を称揚した。デュヴェルジェは、政治対立は必ず二者の対立になるものであって、中間的な立場は不自然であるから、二党が対立することが良いと考えた。またデュヴェルジェは、小選挙区制が二党制を生み、比例代表制が多党制を生むという「デュヴェルジェの法則」を提唱した。

このような三分法にもとづく政党制理解では、一党制は独裁を、多党制は混乱をもたらすとみなされた。二党制のアメリカとイギリスがもっとも優れているとされた。

1970年代以後の研究は、二党制以外の政党制の汚点をぬぐい去り、デュヴェルジェの法則の規定力に疑問符を付けた。しかしそうした研究成果は広まらず、二党制の賞賛と小選挙区が二党制を生むという説は一般に広く信じられ、現実政治で影響力を持ち続けた。

サルトーリの政党制類型

1970年代にジョヴァンニ・サルトーリが政党の数とイデオロギー的距離の2つを基準にした政党制類型を提唱し、政治学者に広く受け入れられた。サルトーリはまず政党制を競合的なものと非競合的なものに分け、競合的な政党制は数とイデオロギー的距離によって分割した。

サルトーリの分割法は、うまく機能する民主主義として二大政党制穏健な多党制を取り出した。二大政党制に入れられたのは、イギリス系のアングロサクソン諸国である。穏健な多党制に入れられたのは、ドイツの他、ベネルクス三国やスカンディナヴィア三国などがある。これらの政党制は、イデオロギーの差異が小さいことが共通の特徴である。

またサルトーリは、民主主義ではあるが、政治的には非効率なものとして一党優位政党制一党優位制)と分極的多党制を指摘した。典型的な一党優位制としては、55年体制日本、(ジャワハルラール・ネルーインディラ・ガンディー下の)インドがある。分極的多党制に入れられたのは、サルトーリの母国イタリアの他には、ヴァイマル共和政フランス第三共和政フランス第四共和政などが上げられる。これらの政党制は、イデオロギーの差異が大きいことが共通の特徴である。

サルトーリの念頭にあったのは、デュベルジェに対する批判ではなく、その拡張である。デュベルジェは二党制をもって、もっとも効率的な民主主義であるという結論を出していたが、サルトーリはそれに付け加えて、穏健な多党制も効率的な民主主義であると結論づけた。

色々な批判を受けながらも、この分類法は、21世紀初めの現在に至るまで、もっとも大きな影響力を持つものとして政治学者の間で広く受け入れられている。

レイプハルトの民主主義類型

デュベルジェ、サルトーリらにより、二大政党制が称揚されていた状況に対して、ある側面から批判したのが、アーレンド・レイプハルトである。彼の理論は、政党制を越えて広汎な政治システム全般を取り扱ったものだが、政党制が理論の核とも言える重要性を持ち、またそれが二大政党制の神話を批判する側面があるので、ここに簡単に記す。

まずレイプハルトは、政党制を有効議会政党数を手がかりに、2党制、2.5党制、優位政党のある多党制、優位政党のない多党制の4つに分類した。その上で2党制と2.5党制とを多数決型民主主義ウェストミンスター型モデル)とし、優位政党のある多党制と優位政党のない多党制とを合意形成型民主主義(コンセンサス型モデル)とした。サルトーリの政党制との関連性は以下の通りである。

  • 多数決型民主主義
    • 二大ブロック制
  • 合意形成型民主主義
    • 一党優位政党制
    • 穏健な多党制
    • 分極的多党制
    • 原子化政党制

そしてレイプハルトは、多くの面において合意形成型民主主義が優れているという結論を、36か国に及ぶ実証研究の中から「証明」した。レイプハルトによれば、合意形成型民主主義はイギリスに代表される多数決型民主主義よりも、マイノリティ(女性や人種的マイノリティ)の代表性の度合いが高いことから、より「優しい」民主主義である一方、成長率・失業率その他の経済的業績は両者に有意な差がないことを主張している。

サルトーリは、このレイプハルトの合意形成型民主主義を「全くついていけない」と再反論している。

どの政党制が優れているか

デュベルジェは、その後の彼の論文の中で、フランス第五共和政の事例を取り上げることで、絶対多数制の選挙制度の下における多党制を推薦するかのような論調を採っている。またサルトーリもフランス第五共和政二回投票制をもっとも優れた選挙制度であるという結論を留保つきながら著述している。

フランス第五共和政は、定説となるような類型は名付けられてはいないが、二大ブロック制あるいは二ブロック的多党制とも言うべき政党制になるであろう。二大政党制と穏健な多党制の中間的な政党制である。二つの政党群が政権を競い合い、選挙によって明確に勝者となる政党群が決まる。その政党群の中のリーダー格である政党の党首が首班指名を受けるということをデュベルジェとサルトーリは想定しているようである。

しかし、近年のフランスでは第三勢力の国民戦線が台頭してきているほか、イギリスやカナダでも伝統的なトーリーホイッグレイバーが併存している状況となっているため、デュベルジェとサルトーリの想定外の事態になっているとも言えなくもない。1993年以降のイタリアの状況の方が、より想定に近いかも知れないが、サルトーリ自身は小選挙区制と比例代表制の混在している選挙制度は批判している。なお、サルトーリが母国のイタリアで分極的多党制を批判し、二大政党制への変革を求めて選挙制度の改革を推進したことは有名である。

日本の各政党や政治家も、政党制のあり方に対する支持・不支持を表明している。民主党は二大政党制を強く推進する言動をしており、公明党日本共産党以下の小政党は穏健な多党制を推奨している。自由民主党は一党優位制を暗に望む政治家(55年体制を知るベテランに多い)と、二大政党制を主張する政治家(若手に多い)が混在しているようである。しかし、当然のことながら、これらは、各党・政治家の利害に大きく影響された主張であると言える。

敗戦後日本の政党制

55年体制下における日本の政党制は長らく自民党が与党であり続けた特徴がある。サルトーリらの分析では、55年体制は典型的な一党優位制の状況であった。自民党の一党支配が終焉した1993年以降は日本共産党を除けば、全政党が政権に参加したことがあるという経緯からみて、穏健な多党制とも言える。また、民主党自由党が合併した2003年以降は、条件からみて二大政党制とも言える(2007年には衆議院では自民党が第一党、参議院では民主党が第一党という状態となり翌々年2009年まで続いた。2012年から再びこの状態になり、2013年まで続いた)。

しかし、日本共産党を含めると、そのイデオロギーの差異からみて、ずっと分極的多党制であり続けたという議論も成り立つ。日本共産党を有為な政党と見るかどうかで、日本の政党制をどのようにみるかが異なってしまう(カリフォルニア大学のバークレー校のロバート・A・スキャラピーノも同意見)。発言者の政治的思惑も絡んで、意見の一致は不可能であろう。定説は無いというのが正しいとする見方も根強い。

ただし、全体としては、日本の政党制は、1993年の選挙制度改革を契機に、自民党一党支配から、紆余曲折を経ながらも徐々に二大政党制へ移行しつつある、という見解が最も妥当なところであろう。とはいうものの、日本の場合のいわゆる二大政党制は選挙制度改革の所産という性格が強く、さらに選挙制度改革後も共産党に加えて、設立母体たる創価学会の価値観を色濃く反映し独自の政治姿勢を保持し続ける公明党勢力が厳然と存在していることから、米国や英国流の二大政党制と同列に論じることには批判がある。仮に日本で再び選挙制度が改正されると、極めて人為的に作られた民主党や結党当初より党内対立を抱える自民党の分裂も十分に予想され、その時は、再び理念・政策をもとに政党が結集する穏健な多党制へ戻る可能性も指摘されている。また自由民主党の派閥のような派閥を重んじる日本独特の歴史的背景をもとに、キリスト教社会同盟という地域政党も参加したかつてのドイツの政党におけるキリスト教民主同盟社会民主党自由民主党のような三大政党制とも言える状態に近づく可能性もある[1]

2012年の第46回総選挙では、自民党・公明党が勝利し政権復帰したが、与党第一党の民主党は比例区では日本維新の会に及ばず、選挙区を含め辛くも比較第二党を確保した。また、2013年東京都議会議員選挙では民主党は公明党・共産党をも下回り第四党に転落した。さらに第23回参院選では民主党は比例区で公明党を下回る第三党となり、選挙区議席で比較第二党を確保した。これは55年体制期にも見られなかった一大政党制の現象であり、自民党の一党優位制に回帰したとも言えるだけでなく、分極的多党制に至ったとも言える。

そして2017年の第48回総選挙では、自民党・立憲民主党希望の党自公連立政権の一翼を担う公明党による三極対決が実現し、三大政党制に移行した。

冷戦後のグローバリゼーション・情報化と政党

冷戦の終了とグローバリゼーション・情報化の進展が政党のあり方にも影響を与えつつある。冷戦後、政党がイデオロギー政党としての性格からプラグマティック政党の性格に変化せざるを得ないという議論もある。いずれにしろ、多くの点で今後世界の政党制が変動する可能性がある。

参考文献

脚注

関連項目