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「溶連菌感染症」の版間の差分

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==参考文献==
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*『小児疾患診療のための病態生理1』p.876-879 小児内科第34巻(2002)増刊号 東京医学社 ISSN 0385-6305
*『小児疾患診療のための病態生理1』p.876-879 小児内科第34巻(2002)増刊号 東京医学社 ISSN 0385-6305
* 米国小児科学会編 岡部信彦監修『R-Book2000 日本版小児感染症の手引き』p.526-536 日本小児医事出版社(2002) ISBN4-88924-136-1
* 米国小児科学会編 岡部信彦監修『R-Book2000 日本版小児感染症の手引き』p.526-536 日本小児医事出版社(2002) ISBN 4-88924-136-1
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2016年11月15日 (火) 19:03時点における版

溶連菌感染症(ようれんきんかんせんしょう、: Streptococcal infection)は、広義にはグラム陽性球菌のうちレンサ球菌属(: : Streptococcus, 複数形は-cocci)によって惹き起こされる感染症すべてを指す。

しかしながら、レンサ球菌属のうち特に感染症を起こす頻度が高く、一般によく知られているのは化膿レンサ球菌: : Streptococcus pyogenes)であるため、通常単に「溶連菌」といえば化膿レンサ球菌の事を指し、「溶連菌感染症」といえば化膿レンサ球菌による感染症のことを指す。

化膿レンサ球菌には他に「A群レンサ球菌」(: : Group A streptococcus, GAS)という別名もある。

化膿レンサ球菌について

化膿レンサ球菌は、グラム陽性球菌であり、通性嫌気性菌である。感染経路は飛沫感染であり、家族内や学校および幼稚園・保育所、会社など、集団生活を行うヒトの間で広く保菌されている。

化膿レンサ球菌について、生物学的に詳しくは化膿レンサ球菌を参照。

臨床症状と治療

溶連菌感染によって起こる病気には、溶連菌がヒトの組織を直接破壊すること、あるいは生きた溶連菌に対する免疫反応によって 症状が発現する急性感染症と、溶連菌の産生する毒素によって惹き起こされる毒素性疾患がある。また、免疫異常によって起こると考えられている病気の中には、溶連菌感染が引き金になることが知られているものが少なくない。


このうち、いわゆる「溶連菌感染症」として扱われるものは急性感染症と、毒素性疾患のうち猩紅熱であるが、ここでは溶連菌によって起こされるほかの病気にも簡単に触れる。より詳しくは各項を参照のこと。

急性咽頭炎・急性扁桃炎
年長小児から成人に発症する、一般的な溶連菌急性感染症であり、発熱咽頭痛が主症状である。その他、頭痛・腹痛・嘔気・鼻閉などを伴うことも少なくないが、咳や鼻汁などの気道症状には乏しい。咽頭は著しく発赤し、口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)は腫脹して黄白色の滲出物が付着することが多く、所属リンパ節である前頚部リンパ節が圧痛を伴って腫脹することが多い。
治療の第一選択はペニシリン系抗菌薬の投与であり、通常は内服治療が可能。咽頭痛などのために内服が困難な場合、抗菌薬の筋注または静注を行う。ペニシリンアレルギーのある患者にのみ、マクロライド系の適応がある。
乳幼児では典型的な咽頭扁桃炎の症状とならずに、発熱が軽度で持続したり、全身のリンパ節の腫脹が見られたり、鼻汁を伴う場合も見られる。
伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)
一般的に「とびひ」として知られる。伝染性膿痂疹の起炎菌はそのほとんどが黄色ブドウ球菌: : Staphylococcus aureus)である。
まれに溶連菌によるものが報告される。しかし、複数回培養により菌を確認した報告は少なく、ほとんどが単回培養による報告である。このため単に皮膚付着菌をみているだけの報告も一部混ざっていると考えられる。
黄色ブドウ球菌によるものは周囲に紅暈(こううん、皮膚が部分的に充血して赤く見えること)を伴う「黄色い膿」(膿痂)が皮膚にでき、そこを掻破した爪によって皮膚の他部位に細菌が播種され、播種された先にまた膿痂を形成する。しかし、黄色ブドウ球菌によるものでも紅暈を伴わなかったり、膿が「黄色」でないものもあり、このことで鑑別してはならない。発熱は伴わないことが多く、一般的には全身的症状はない。ただし、アトピー性皮膚炎の患児や水痘の経過中に発症した場合などには重症化する場合があり、注意が必要である。
治療は、やはりペニシリン系抗菌薬の投与が有効。
壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)
溶連菌急性感染症の最も重症な病型であり、後述する毒素性ショック症候群とともに「劇症型溶連菌感染症」と呼ばれる。きわめて急速に進行する軟部組織の感染症であり、典型的な例では指先や足先など四肢の末端部から、1時間に数cmもの速さで壊死が進行する。高熱、全身状態の不良、局所の腫脹・疼痛が主症状。死亡率は30%以上と高く、一般に人食いバクテリア感染症と呼ばれることのある疾患の1つである。外傷や熱傷、水痘などで皮膚が障害されている場合に、発症の危険性が高いともいわれる。
治療には、壊死組織の外科的除去(デブリードマン)が必要不可欠である。敗血症の状態にあり、DIC多臓器不全を来たす場合が多いため、これらの合併症に対する対症療法も必要である。抗菌薬は、ペニシリンの大量静注に加えてクリンダマイシンの静注を行う。
その他
溶連菌はその他、化膿性リンパ節炎、蜂窩織炎、化膿性関節炎骨髄炎結膜炎などさまざまな感染症を来たしうる。ペニシリン系に対する感受性は常に良好であり、どの部位の感染症に対してもペニシリン系抗菌薬の投与が第一選択となる。感染症の部位により、切開排膿や掻爬などの治療をあわせて行う必要がある。
猩紅熱(しょうこうねつ)
猩紅熱(: Scarlet fever)は、乳幼児に多い、溶連菌の産生する毒素及び菌体に対する一種の免疫アレルギー疾患である。
猩紅熱の症状は発熱のほか、体幹に始まり末梢に広がる発疹(サンドペーパー様皮疹)、舌が舌苔を失い、赤く発赤して味蕾による小さな隆起が目立つ苺舌が特徴的である。
治療は、ペニシリン系抗菌薬の内服が第一選択。
毒素性ショック症候群
: Toxic Shock Syndrome, TSS。TSSの原因としてはTSS toxin-1(TSST-1)産生性の黄色ブドウ球菌がよく知られるが、溶連菌によるものもある。血流中に放出された毒素に対する免疫アレルギー反応により、急性のショック状態を発症し、多臓器不全に至る。既に毒素は血中に流れているため、抗菌薬では治療できず、ガンマグロブリン投与や血液浄化法(血漿交換持続的血液濾過透析など)が必要となる。
リウマチ熱
: rheumatic fever, RF
心炎、多関節炎、発疹(輪状紅斑)、皮下結節、不随意運動が主症状である。溶連菌感染症から数週間経過後に発症する。膠原病関節リウマチとはまったく異なる疾患である。
血管性紫斑病
: Henoch-Schonlein purpura, HSP
アレルギー性紫斑病、アナフィラクトイド紫斑病、ヘノッホ=シェーンライン紫斑病とも呼ばれる。溶連菌感染症などの上気道感染の1~3週間後に発症することがある。先行感染は必須ではない。
特に四肢に多い皮下出血(紫斑)が主症状で、その他限局性の浮腫、腹痛・嘔吐、関節痛、腎炎などがみられる。
急性糸球体腎炎
: Acute glomerulonephritis
溶連菌による呼吸器感染からは1 - 2週間後、皮膚感染からは3 - 6週間後に発症することがある。菌体成分または菌が産生する抗原と患者が産生する抗体とが結合した免疫複合体が、糸球体に沈着することが原因とされる。
3大症状(trias)は、血尿、浮腫、高血圧である。治療としては水分および塩分制限、安静を行い、高血圧が著しいときにはカルシウム受容体拮抗薬などの降圧薬を用いる。慢性化することはまれで予後は良好。
掌蹠膿疱症
これらの皮膚疾患は細菌アレルギーが関与して生じているという報告があり抗ストレプトリジンO(ASO)の上昇がみられる[1]

検査

咽頭扁桃炎、伝染性膿痂疹など、病巣を直接綿棒などで擦過できる部位の感染症では、擦過物を血液寒天培地で培養することにより溶連菌が発育することをもって、溶連菌感染(あるいは保菌)を診断できる。化膿性関節炎、リンパ節炎などで膿が採取できる場合には膿の培養が有用であり、敗血症を伴う感染(侵襲性感染症)では血液培養が陽性となることも多い。

培養の結果を得るには1~2日かかるが、抗原抗体反応を利用した迅速抗原キットもあり、こちらは15分ほどで結果を得ることができる。ただし感度が低く、見逃しの可能性は常にあることに注意が必要である。

リンパ節炎があるが化膿していない場合や、蜂窩織炎など直接検体を採取できない場合、または急性糸球体腎炎やアナフィラクトイド紫斑病など、急性感染症以外の合併症の場合にGAS感染を証明するには、血清診断が有用である。抗ストレプトリシン抗体価(ASLO)、抗ストレプトキナーゼ抗体価(ASK)がこの目的で使用される。

予防

感染経路は飛沫感染である。ワクチンはなく、手洗いやうがいなど以外に有効と考えられる感染予防法はない。患者と接触した者に抗菌薬を投与して感染症の発症を予防すること(予防的投与)は理論上は可能だが、無症状の保菌者が少なからずあることから、通常行われない。

ただし、溶連菌の中でもリウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こしやすい株があることが知られているため、リウマチ熱患者や急性糸球体腎炎の患者と接触した家族などには、溶連菌保菌の検査を行ったうえで、保菌者に対しては除菌のための抗菌薬投与を行うことがある。

また、家族内で長期にわたって保菌が続いているために、繰り返し溶連菌感染症の患者が発生することがある。このような場合には無症状であっても家族全員を同時に治療する必要が生じることもある。

溶連菌感染症は学校保健安全法によって定められた伝染病であり、溶連菌感染症に罹患した学童は、適切な治療が開始されてから24時間は登校することができない。

関連項目

参考文献

  • 『小児疾患診療のための病態生理1』p.876-879 小児内科第34巻(2002)増刊号 東京医学社 ISSN 0385-6305
  • 米国小児科学会編 岡部信彦監修『R-Book2000 日本版小児感染症の手引き』p.526-536 日本小児医事出版社(2002) ISBN 4-88924-136-1
  1. ^ 皮膚疾患診療実践ガイド 文光堂