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2016年11月15日 (火) 17:24時点における版
ブルドッグアリ属 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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ブルドッグアリの一種
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Myrmecia Fabricius, 1804 | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ブルドッグアリ キバハリアリ | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Bulldog Ant Bull Ant | ||||||||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
本文参照 | ||||||||||||||||||||||||||||||
2015年5月現在「Atlas of Living Australia」にて報告されているブルドッグアリの生息地域
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ブルドッグアリ属とは、昆虫網ハチ目アリ科キバハリアリ亜科に属するアリのグループ「キバハリアリ(牙針蟻)属」の別名である。一般には英名Bulldog antsを直訳した「ブルドッグアリ」の名がよく普及している。
本属1属のみでキバハリアリ亜科が構成される。
概要
キバハリアリ亜科は、有袋類等と同様、オーストラリア大陸の隔離された環境で遺留し生き残った原始的な動物のグループである。ハリアリの祖先から非常に古く分化したもので、ナガフシアリ亜科に近縁と推測されている。
およそ90種が知られる。
1770年にオーストラリア大陸に達したジェームス・クックの調査隊の採集品の中に、史上初記録となるキバハリアリ亜科の1種が含まれており、1775年、デンマークの動物学者ヨハン・クリスチャン・ファブリキウスによって記載された。当時既知の全てのアリと同属と見なされFormica gulosaと記されたこの種は、シドニー付近で採集されたと推測されており、今日知られるキバハリアリの基準種Myrmecia gulosaのことである。
ファブリキウスは1804年に新属Myrmecia(キバハリアリ属)を創設するが、この時は姿の似るアギトアリも同属に含められていた。また以後も、腹柄が2節あることからフタフシアリ亜科、ハリアリ亜科などに所属が二転三転したが、21世紀現在では独自の亜科=キバハリアリ亜科に落ち着いている。
形態
キバハリアリ(牙針蟻)という和名の通り、頭部と同寸か、それよりも長い大顎と、腹端にある毒針が発達する。
体長は働きアリの場合、最小の種で4mm、大型種では37mmに達し、アリとしては非常に大型の種を含む。働きアリの体長が25mm以上の種は、25mm=1インチに因んで「インチ・アンツ」と呼ばれる。キバハリアリ亜科基準種であるM.Gulosaもインチ・アンツである。
女王アリ以外の雌が職蟻としての多型を示さない種が多いが、例外もみられる。
一方、女王自体が多型的な様相を呈する場合がある。通常誕生する有翅型女王の他、短翅型女王、働きアリのように働く職蟻型女王が出現する種が存在する。このような飛翔能力を持たない女王は歩行により比較的近距離の巣別れを行うもので、他のハリアリ類にも同様の例がみられる。
雌の大顎が極めて長大に発達するのが、本亜科の外部形態上の大きな特徴である。その内縁には多くの場合、鋸状の内歯がみられる。しかし、雄にはそのような特徴は全く無く、体格的にも雌と同種とは思えぬほど非常に貧弱な印象を受けるものばかりである。
本亜科のアリの原始的な特徴として、攻撃対象を刺すことのできる有剣類のハチの共有派生形質である毒針を維持していることが挙げられる。
彼らの多くの種は脚が長く発達し高速で歩行できるが、これは乾燥地帯に棲み、獲物となる動物が少ないことから、標的を確実に捕らえられるよう発達適応したといわれる。視覚が発達し複眼が他のアリに比べ大きい他、明瞭な単眼を3つ備える。
触角は先端が棍棒状に膨らまない糸状で、これは原始的なアリの特徴である。
生態
分布
本属は全種がタスマニアを含むオーストラリアの乾燥地帯を中心に生息する。大陸中央の砂漠地帯にはみられず、沿岸部に生息が集中する。ニュージーランドに生息する1種の個体群は人為移入と考えられている。また、ニューカレドニアにも固有種が1種確認されている。
オーストラリア大陸において本亜科のアリの分布域は非常に広大で、彼らは同国民にもよく知られる昆虫である。しかし、その生息密度は薄い。
生息環境
キバハリアリの仲間は日照の豊かな乾燥地帯を好む。このような環境は他の多くのアリが好まないものでもあり、原始的なアリであるキバハリアリが温存された理由の一つと考えられている。
ユーカリによるまばらな林や貧弱な草原は特にキバハリアリ亜科の生息に好適で、多くの種類が棲む。逆に、森林や湿気の多い環境は好まれず、元々明るく乾燥していた生息地に樹木があまり生い茂ってくると、キバハリアリたちは姿を消してしまう。
これらの土地で彼らは、他のアリと同じく地下に巣を構えて社会生活を営む。
食性・営巣
彼らは捕食性であり、おもに他の節足動物を捕らえて女王や幼虫の餌にする。働きアリ自身はおもに液状の餌を摂取して活動エネルギー源としており、ユーカリの樹液や、樹上でカイガラムシの分泌する甘露なども対象となる模様である。
彼らは昼間、その発達した視覚も活用して獲物を探すが、夜間も活動している。巣の外では行列を作るなどして大集団の行動をとることはなく、1〜数頭単位で出かけ、餌を探す。餌は主に昆虫類であるが、比較的小型の両生類や爬虫類なども狩りの対象からは外れない。
狩りにおいて働きアリたちはその長大な大顎を、標的の殺傷、切断よりもむしろ捕縛、固定に用いており、然る後腹部の針から注入する強力な毒でとどめを刺す。
獲物は多くの場合巣へ運搬ののち解体され幼虫と女王に提供されるが、キバハリアリたちはそれらの餌をあまり器用に細かく裁断したり団子状に加工したりはできず、より進化の進んだアリに比べると食べ滓が多く残る傾向にある。巣内には等脚類、甲虫等多様な好蟻性生物が寄生しており彼らの分解活動の果たす役割が大きいと想像されているが、確認はされていない。充分餌を摂り成熟した幼虫は繭を作って蛹化するが、自らの吐く糸だけでは繭を形成できず、働きアリが繭形成を補助する基質(砂など)のある部屋に連れてゆき、それらを幼虫の体になすりつける。何らかの理由で巣内の繭形成の基質が不足していると、幼虫は繭を作らぬまま前蛹となり、働きアリに殺され餌にされてしまう。あるいはまた、幼虫の段階で殺され食べられたり、巣外やゴミ捨て場に運ばれ捨てられたりする、といった現象も起きる。これらの採餌、給餌、育児プロセス上の一連の特徴は、同じく原始的なアリで姿の似たアギトアリやクワガタアリ等の多くとも共通する。
幼虫から給餌要求を示された時に手持ちの餌が無い場合、働きアリはすぐさま自ら産卵し、その卵を幼虫に給餌する。この卵は栄養卵と呼ばれ、女王が生む卵よりも柔らかい。栄養卵は餌として使用されることが多いが、餌にされずに約1ヶ月経つと正常に孵化し、個体が育つ。ただし、働きアリは未交尾であることが多いため、誕生するのは多くの場合染色体が1本しかない個体=雄である。
通常、アリの女王は季節環境変化や何らかのイレギュラーに見舞われぬ限り、一旦産卵を開始するとほぼ一定間隔、等速で卵を産み続ける。しかし、キバハリアリ亜科の女王は、特定の短期間に、一度にまとめて産卵する。このため、キバハリアリの巣内にいる幼虫はサイズや齢が均等なばらつきを示さず、それらの揃った個体が一定数集まって育てられている傾向にある。
闘争行動
非常に好戦的で獰猛な性質のアリとして知られ、巣に近付くものがあれば、働きアリたちはそれが自分の体格よりもはるかに大型の生き物であっても躊躇なく攻撃する。特にインチ・アンツに属する大型種は、巣に近づいただけでも威嚇行動をとり、さらに、逃げても5〜10m程度なら後を追ってくる。
コロニーの異なる同種間、異種間同士でも激しく争いあい、Myrmecia pilosulaという種は、体長の数倍以上の高さを跳ね上がって攻撃してくるので「Jumping ant」とも呼ばれる。他属のアリ同様に繁殖期には結婚飛行を行う。
またユーカリなどの樹木の近くにも巣を構えているが、そこではユーカリの出す甘い蜜や汁を目当てにしており、ユーカリはアリにそれを提供する代わりに、自身を食べようとする生き物を撃退させる番犬の役割を担わせている。その為ユーカリを食べようとする生き物が来れば、アリはその生き物を一斉に攻撃する。
毒性
インチ・アンツに刺された場合、その痛みは1週間程度は続き、最大3ヶ月残る場合もあるという。
小型種は「ジャンパー」と総称され、行動生態上の分類では「前方跳躍蟻」と呼ばれる。「後方跳躍蟻」であるアギトアリが後方に飛び退くのに対し、彼らは獲物や敵に向かって、前方へ跳躍する。「ジャンパー」に刺された場合の痛みは2〜3時間程度の継続で済むが、以後むずがゆさは5日程度残るという。
集団で襲いかかって注入する猛毒に刺された場合、「人間でも30箇所以上刺されると死ぬ」とまで云われ、現地でも「殺人アリ」と呼ばれて恐れられている。多くの箇所を刺されなくても、アナフィラキシーショックの危険があるため油断すべきではない。
種類と系統
ブルドッグアリ属はどの種も、長い大顎と脚、そして猛毒を持つ針を備えている。
Species groups of the genus Myrmecia |
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おもな種
オオキバハリアリ亜属(M. gulosa species group)
- グローサキバハリアリ[1](Myrmecia gulosa)
- 英名にはGiant bulldog ant、Red bulldog antなどがある。働きアリの体長は15〜26mm。25mmを超えるインチ・アンツの一つ。キバハリアリ亜科全体の基準種であると同時に、オオキバハリアリ亜属の基準種に位置づけられる。
- 首都キャンベラやシドニーといった大都市周辺で最も普通にみられるキバハリアリである。また、多摩動物公園昆虫園で飼育展示されたり、ペットとして時折輸入されたりもするなど、日本国内で姿を見る機会の比較的多い種である。黒い腹端以外の体色は鮮やかな赤褐色。
- gulosaはtarsataに比べると攻撃性が低いと報告されている[2]。
- 広大な巣穴を掘り、出入り口には直径20〜50cmもの盛り土が生じる。出入り口の直径はいびつで大きく、5cm前後。巣穴のポータルが大きくいびつなのは、大顎が長いために掘削作業に器用さを欠くアリ共通の特徴である。
- 大コロニーの個体数は1000〜2000頭に達する。羽アリの出現は1〜2月。ただし、雄が膨大な数誕生するのに対し、女王は10〜20頭程度しか生じない。
- Myrmecia pavida
- 働きアリの体長は19〜22mm。女王は25mm。オーストラリア南部〜西部に分布。
- 形態、色彩共にgulosaによく似ており、また時折日本国内にペットとして輸入されるのも同様である。
- Myrmecia brevinoda
- 体長が働きアリでは体長37mm、女王では40mmに達する世界最大のキバハリアリ。体の大半は暗赤色で、腹部のみ黒く、その点で本種もgulosaに似る。
- クイーンズランド、ニューサウスウェールズ、ヴィクトリア、そして首都圏といった東オーストラリア州の特産種である。
- タルサータキバハリアリ[3](Myrmecia tarsata)
- 働きアリの体長は22〜24mm。体色は全身が極細かい点刻の密生する艶のない黒褐色。1988年、グローサキバハリアリよりも先行して多摩動物公園昆虫園でコロニーの飼育展示がされ、繁殖にも成功している。
- シミルマキバハリアリ[5](Myrmecia simillima)
- 働きアリの体長は19〜23mm。女王アリはやや大きく22〜24mmである。
- ニューサウスウェールズとヴィクトリアの沿岸部と内陸部で分布が旺盛である。
- 1995年から多摩動物公園昆虫園で飼育展示された。
- Myrmecia regularis
- 雌の体長は10〜20mm。西オーストラリア州固有種。本種の巣内には小型のカエル(Pseudophryne nichollis)が寄生し幼虫を補食しており、彼らは毒針で殺されないための何らかの防御手段を持っていると考えられている。
- Myrmecia mjobergi
- 働きアリの体長は17〜27mm。女王は30mmを超える。
- キバハリアリ亜科中唯一の樹上性種。大型シダ類の非常な高所にコロニーを構えるため、発見や観察が非常に困難である。人の目に触れるのは、コロニーが強風などで偶然地表に落下した場合が多い。
- クイーンズランド州に多産し、他州にもいくらか分布する。
Jumping jacks亜属(M. pilosula species group)
- ジャックジャンパーアント(Myrmecia pilosula)
- ジャックジャンパーアント亜属の基準種。タスマニア島〜オーストラリア最南端付近に分布する。
- 働きアリの体長は12〜14mm、女王は14〜16mm。体色は若干赤みがかりにぶい光沢のある黒褐色で、脚と触角はやや明るい赤褐色。キバハリアリとしてはやや小型であるが、敵や獲物に飛び跳ねて襲いかかるため、「ジャック・ジャンパー」の渾名で知られる。前方跳躍蟻、ジャンパーに類別されるキバハリアリの最も有名な種の一つ。 跳躍できる水平距離は普通5〜10cm。 垂直高度は普通2〜3cmだが、条件に恵まれると最大50cmに達する場合がある。跳躍する時は即正確に噛みつくことができるよう大顎を大きく開き、姿勢を整え速度と安定性を得るため脚を水泳選手のダイビングのように揃えている。
- 首都キャンベラ近郊の住宅造成地、農場にも生息するため、刺される被害が多い。本種の毒は人体にアレルギーを生じさせやすく、アナフィラキシーショックによって最悪死亡する例もある。
- 本種の働きアリは、高等動物の中で染色体数が最少であることでも知られている。
nigrocincta亜属(M. nigrocincta species group)
- Myrmecia nigrocincta
- nigrocincta亜属の基準種。本種もしばしば「ジャック・ジャンパー」と呼ばれることがある。頭部は黒色だが、胸部〜腹部は赤褐色と黒色の大まかな縞模様。大顎、触角、脛節はより明るい赤褐色である。この種も多摩動物公園昆虫園で飼育されたことがある。
脚注
参考文献
- 『大昆虫記』 海野和男 データハウス ISBN 4887182406
- 『世界昆虫記』 今森光彦 福音館書店 ISBN 4834001792
- 『世界珍虫図鑑』 川上洋一 上田恭一郎 柏書房 ISBN 476013168X