「エリオット・カーター」の版間の差分
Ichiromiami (会話 | 投稿記録) |
m cewbot: 修正ウィキ文法 69: ISBNの構文違反 |
||
42行目: | 42行目: | ||
初期の作風はバレエ音楽『[[ポカホンタス]]』、『交響曲第一番』などに見られるように[[新古典主義]]的であったが、『[[ピアノソナタ]]』やバレエ音楽『[[ミノタウルス]]』を経て、『[[チェロソナタ]]』などでリズミック・モジュレーションを駆使し始めてからは、作品は調性を離れつつリズムが複雑になっていく<ref>『[[ラルース世界音楽事典]]』([[ベネッセコーポレーション|福武書店]]、1989年)、「カーター」の項目を参照。</ref>。リズミック・モジュレーションとは、拍子の法則外の非合理的な音価を用いてテンポを次第に変化させていく技法で、リズムを柔軟に扱える一方で楽譜は次第に複雑化する。弦楽四重奏のような古典的なメディアですら対位的な処理が煩雑化し、『[[ピアノ協奏曲]]』で複雑性が頂点に達した。「ラルース世界音楽事典」には「楽器奏者を俳優として扱う」と書かれているが、カーターの興味は身体性よりも純粋な音の構築性にあった。 |
初期の作風はバレエ音楽『[[ポカホンタス]]』、『交響曲第一番』などに見られるように[[新古典主義]]的であったが、『[[ピアノソナタ]]』やバレエ音楽『[[ミノタウルス]]』を経て、『[[チェロソナタ]]』などでリズミック・モジュレーションを駆使し始めてからは、作品は調性を離れつつリズムが複雑になっていく<ref>『[[ラルース世界音楽事典]]』([[ベネッセコーポレーション|福武書店]]、1989年)、「カーター」の項目を参照。</ref>。リズミック・モジュレーションとは、拍子の法則外の非合理的な音価を用いてテンポを次第に変化させていく技法で、リズムを柔軟に扱える一方で楽譜は次第に複雑化する。弦楽四重奏のような古典的なメディアですら対位的な処理が煩雑化し、『[[ピアノ協奏曲]]』で複雑性が頂点に達した。「ラルース世界音楽事典」には「楽器奏者を俳優として扱う」と書かれているが、カーターの興味は身体性よりも純粋な音の構築性にあった。 |
||
1960年代の作風になると、[[ピッチクラスセット理論]]を駆使してハーモニーの可能性を探っている。この点についてはフィッシャー社から刊行された「ハーモニーブック」に詳しい。ピッチクラスセット理論の集中的な使用は『ピアノ協奏曲』から始まる。また、素材音高音列を積極的に導入していた。楽譜の段数が増え始め、演奏の困難さを理由とした頃に[[新ロマン主義]]や前衛の終焉が叫ばれる。「カーターの弟子はみんなカーターみたいになる(cf.ローリー・シュピーゲル, soundpieces 2: interviews with american composers, ISBN |
1960年代の作風になると、[[ピッチクラスセット理論]]を駆使してハーモニーの可能性を探っている。この点についてはフィッシャー社から刊行された「ハーモニーブック」に詳しい。ピッチクラスセット理論の集中的な使用は『ピアノ協奏曲』から始まる。また、素材音高音列を積極的に導入していた。楽譜の段数が増え始め、演奏の困難さを理由とした頃に[[新ロマン主義]]や前衛の終焉が叫ばれる。「カーターの弟子はみんなカーターみたいになる(cf.ローリー・シュピーゲル, soundpieces 2: interviews with american composers, ISBN 978-0810827103)」という批判も目立つようになり、1980年代に入ると理論を手放さずに難易度が落ちて聞き易くなった。もっぱらアメリカで通用していたカーターがヨーロッパに紹介されたのは1970年代後半にブーレーズの支援によってだが、この易化で演奏家へのアピールには成功した。(《トリロジー》[http://www.boosey.com/cr/music/Elliott-Carter-Trilogy/4777 ]は、「オーボエの優位な部分、ハープの優位な部分、そしてデュオ」と解り易い構成をとり、《サウンディングス[http://www.boosey.com/cr/music/Elliott-Carter-Soundings/47493 ]》は指揮者兼ピアニストに書かれた為、「ピアノソロ、ピアノを弾くのを止めてオーケストラ、指揮をするのを止めてピアノソロ」といった三部形式を採用している。) |
||
1990年代頃に入ると、それまで難解で不可能とされた楽譜が[[アルディッティ弦楽四重奏団]]などにより高水準でクリアされるなど、その演奏はカーター本人を驚かせた。カーターも妥協することなく楽譜を書くことが出来るようになったのは1990年代に入ってからだが、彼自身に素材が打ち込まれる「間」を聴いてしまう耳が備わった。つまり、辛口のテクスチュアが展開されるかと思うとポーズで区切る、または楽器の肥大化を避けるためにTuttiの除去&細分化という癖が目立ってくる。2000年代以降この方向はさらに押し進められ、ポーズを多用するためか創作ペースは極めて速くなった。100歳を過ぎてからは、今までに書いたことの無かった編成への挑戦も見られる。 |
1990年代頃に入ると、それまで難解で不可能とされた楽譜が[[アルディッティ弦楽四重奏団]]などにより高水準でクリアされるなど、その演奏はカーター本人を驚かせた。カーターも妥協することなく楽譜を書くことが出来るようになったのは1990年代に入ってからだが、彼自身に素材が打ち込まれる「間」を聴いてしまう耳が備わった。つまり、辛口のテクスチュアが展開されるかと思うとポーズで区切る、または楽器の肥大化を避けるためにTuttiの除去&細分化という癖が目立ってくる。2000年代以降この方向はさらに押し進められ、ポーズを多用するためか創作ペースは極めて速くなった。100歳を過ぎてからは、今までに書いたことの無かった編成への挑戦も見られる。 |
2016年11月15日 (火) 13:51時点における版
Elliott Carter | |
---|---|
生誕 | 1908年12月11日 |
出身地 | ニューヨーク |
死没 |
2012年11月5日(103歳没) ニューヨーク |
学歴 |
ハーヴァード大学 ロンギー音楽院 エコールノルマル音楽院 |
ジャンル | 現代音楽 |
職業 | 作曲家 |
活動期間 | 1933年-2012年 |
この記事には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
エリオット・カーター(Elliott Carter, 1908年12月11日 - 2012年11月5日)は、アメリカの現代音楽の作曲家。
略歴
チャールズ・アイヴズに推薦状を書いてもらい、大学に入学(cf.カイル・ガン)。ハーヴァード大学でウォルター・ピストンやグスタフ・ホルストに師事し、ケンブリッジのロンギー音楽院やパリのエコールノルマル音楽院でも学ぶ。パリではナディア・ブーランジェの指導を受けた。作風は新古典主義から12音技法へと推移し、「リズミックモジュレーション」や「ピッチクラス・セット理論」といった概念を打ち出して個性を確立する。『オーケストラのための変奏曲』、及び『弦楽四重奏曲第3番』でピューリッツァー賞を受賞。1970年代末にはピエール・ブーレーズが評価して、ヨーロッパ方面からの認知が進む。
1930年代から作曲家として活動しているにもかかわらず、50代で現代音楽の最前衛に立ち、ヨーロッパに紹介されたのは70代、100歳を超えてからも現役の作曲家として委嘱が入る生活をした。作曲の主旨「対位法の現代性」は初期から一貫しているが、音像は変わり続けた。
2012年11月5日、グリニッジ・ヴィレッジのアパートメントで死去。ピエール=ローラン・エマールのために制作され、同年8月13日に完成した「12 Short Epigrams」が遺作となった。 [1]103歳没。
作風
初期の作風はバレエ音楽『ポカホンタス』、『交響曲第一番』などに見られるように新古典主義的であったが、『ピアノソナタ』やバレエ音楽『ミノタウルス』を経て、『チェロソナタ』などでリズミック・モジュレーションを駆使し始めてからは、作品は調性を離れつつリズムが複雑になっていく[2]。リズミック・モジュレーションとは、拍子の法則外の非合理的な音価を用いてテンポを次第に変化させていく技法で、リズムを柔軟に扱える一方で楽譜は次第に複雑化する。弦楽四重奏のような古典的なメディアですら対位的な処理が煩雑化し、『ピアノ協奏曲』で複雑性が頂点に達した。「ラルース世界音楽事典」には「楽器奏者を俳優として扱う」と書かれているが、カーターの興味は身体性よりも純粋な音の構築性にあった。
1960年代の作風になると、ピッチクラスセット理論を駆使してハーモニーの可能性を探っている。この点についてはフィッシャー社から刊行された「ハーモニーブック」に詳しい。ピッチクラスセット理論の集中的な使用は『ピアノ協奏曲』から始まる。また、素材音高音列を積極的に導入していた。楽譜の段数が増え始め、演奏の困難さを理由とした頃に新ロマン主義や前衛の終焉が叫ばれる。「カーターの弟子はみんなカーターみたいになる(cf.ローリー・シュピーゲル, soundpieces 2: interviews with american composers, ISBN 978-0810827103)」という批判も目立つようになり、1980年代に入ると理論を手放さずに難易度が落ちて聞き易くなった。もっぱらアメリカで通用していたカーターがヨーロッパに紹介されたのは1970年代後半にブーレーズの支援によってだが、この易化で演奏家へのアピールには成功した。(《トリロジー》[1]は、「オーボエの優位な部分、ハープの優位な部分、そしてデュオ」と解り易い構成をとり、《サウンディングス[2]》は指揮者兼ピアニストに書かれた為、「ピアノソロ、ピアノを弾くのを止めてオーケストラ、指揮をするのを止めてピアノソロ」といった三部形式を採用している。)
1990年代頃に入ると、それまで難解で不可能とされた楽譜がアルディッティ弦楽四重奏団などにより高水準でクリアされるなど、その演奏はカーター本人を驚かせた。カーターも妥協することなく楽譜を書くことが出来るようになったのは1990年代に入ってからだが、彼自身に素材が打ち込まれる「間」を聴いてしまう耳が備わった。つまり、辛口のテクスチュアが展開されるかと思うとポーズで区切る、または楽器の肥大化を避けるためにTuttiの除去&細分化という癖が目立ってくる。2000年代以降この方向はさらに押し進められ、ポーズを多用するためか創作ペースは極めて速くなった。100歳を過ぎてからは、今までに書いたことの無かった編成への挑戦も見られる。
カイル・ガンは「アイブズから具象的な素材の完全除去、それがカーター(cf.American Music in the 20th century, ISBN 0-02-864655-X)」と断じた。しかし、最初期は「祝日序曲」などの標題音楽であり、最近作は「会話」と題される作品もあるなど、具象性の完全除去に成功したのは中期だけである。そのためか、中期作品は難しくほとんど演奏がなされず、今日ももっぱら演奏されるのは「ナイト・ファンタジー」以降の作品か、ヨーロッパから委嘱された「最近作」である。103歳を過ぎても、「what next?」と声が掛かった巨人である。
主要作品
歌劇
- 次はなんだ? (1幕) (1997)
バレエ
- ポカホンタス (1938–39)
- ミノタウルス (1947)
室内楽曲
- Canonic Suite for saxophone quartet (AAAA) (1939)
- Elegy for viola and piano (1943)
- ピアノソナタ (1945–46)
- チェロソナタ (1948)
- 木管五重奏曲 (1948)
- Eight Etudes and a Fantasy for wind quartet (1949)
- 弦楽四重奏曲第1番 (1951)
- Sonata for flute, oboe, cello, and harpsichord (1952)
- 弦楽四重奏曲第2番 (1959)
- Canon for 3 (1971)
- 弦楽四重奏曲第3番 (1971)
- Brass Quintet (1974)
- Duo for violin and piano (1974)
- Birthday Fanfare for three trumpets, vibraphone, and glockenspiel (1978)
- Triple Duo (1983)
- Esprit rude/esprit doux for flute and clarinet (1984)
- Canon for 4 (1984)
- 弦楽四重奏曲第4番 (1986)
- Enchanted Prelude for flute and cello (1988)
- Con leggerezza pensosa for clarinet, violin, and cello (1990)
- Quintet for piano and winds (1991)
- Trilogy for oboe and harp (1992)
- Bariolage for harp
- Inner Song for oboe
- Immer Neu for oboe and harp
- Esprit rude/esprit doux II for flute, clarinet, and marimba (1994)
- Fragment I for string quartet (1994)
- 弦楽四重奏曲第5番 (1995)
- Luimen for ensemble (1997)
- Quintet for piano and string quartet (1997)
- Fragment II for string quartet (1999)
- Oboe Quartet, for oboe, violin, viola, and cello (2001)
- Hiyoku for two clarinets (2001)
- Au Quai for bassoon and viola (2002)
- Call for two trumpets and horn (2003)
- Clarinet Quintet (2007)
- Tinntinabulation for percussion sextet (2008)
- Tre Duetti for violin and cello (2008, 2009)
- Duettone
- Adagio
- Duettino
- Trije glasbeniki for flute, bass clarinet, and harp (2011)
合唱曲
- Tarantella for men's chorus and two pianos (1937)
- Let's Be Gay for women's chorus and two pianos (1937)
- Harvest Home for a capella choir (1937)
- To Music for a capella choir (1937)
- Heart Not So Heavy for a capella choir (1939)
- The Defense of Corinth for speaker, men's chorus and two pianos (1941)
- The Harmony of Morning for women's chorus and chamber orchestra (1944)
- Musicians Wrestle Everywhere for a capella choir (1945)
- Emblems for men's chorus and piano (1947)
協奏的作品
- Double Concerto for piano, harpsichord and 2 chamber orchestras (1959–61)
- ピアノ協奏曲 (1964)
- 管弦楽のための協奏曲 (1969)
- オーボエ協奏曲 (1986–1987)
- ヴァイオリン協奏曲 (1989)
- クラリネット協奏曲 (1996)
- チェロ協奏曲 (2001)
- ボストン協奏曲 (2002)
- Dialogues for piano and chamber orchestra (2003)
- Mosaic for harp and ensemble (2004)
- ホルン協奏曲 (2007)
- フルート協奏曲 (2008)
- Concertino for bass clarinet and chamber orchestra (2009)
- Conversations for piano, percussion, and chamber/full orchestra (2010)
大アンサンブル作品
- Penthode for ensemble (1985)
- ASKO Concerto for sixteen players (2000)
- Réflexions for ensemble (2004)
- Wind Rose for wind ensemble (2008)
管弦楽曲
- 交響曲第1番 (1942, revised 1954)
- ホリデイ序曲 (1944, revised 1961)
- 管弦楽のための変奏曲 (1954–1955)
- 3つのオーケストラのための交響曲 (1976)
- Three Occasions for orchestra (1986–89)
- A Celebration of Some 150x100 Notes
- Remembrance
- Anniversary
- Symphonia: Sum fluxae pretium spei (1993–96)
- Partita
- Adagio Tenebroso
- Allegro Scorrevole
- Three Illusions for orchestra (2002–04)
- Micomicón
- Fons Juventatis
- More's Utopia
- Soundings for piano and orchestra (2005)
- Interventions for piano and orchestra (2007)
- Sound Fields for string orchestra (2007)
独奏作品
- ピアノソナタ (1945–46)
- 4台のティンパニのための8つの小品(1949/66)
- Night Fantasies for piano (1980)
- Changes for guitar (1983)
- フルートのための《風に書く》(1991)
- クラリネットのための《グラ》 (1994)
- 90+ for piano (1994)
- Figment for cello (1994)
- A 6-letter Letter for English horn (1996)
- Shard for guitar (1997)
- Two Diversions for piano (1999)
- Four Lauds for solo violin (1999, 1984, 2000, 1999)
- #I. Statement – Remembering Aaron
- #II. Riconoscenza per Goffredo Petrassi
- #III. Rhapsodic Musings
- #IV. Fantasy – Remembering Roger
- Retrouvailles for piano (2000)
- Figment II for cello (2001)
- Steep Steps for bass clarinet (2001)
- Retracing for bassoon (2002)
- Intermittences for piano (2005)
- Catenaires for piano (2006)
- HBHH for oboe (2007)
- Figment III for contrabass (2007)
- Figment IV for viola (2007)
- Matribute for piano (2007)
- Figment V for marimba (2009)
- Retracing II for horn (2009)
- Retracing III for trumpet (2009)
声楽曲
- My Love Is in a Light Attire for voice and piano (1928)
- Tell Me Where Is Fancy Bred for voice and guitar (1938)
- 考える鏡 for soprano and ensemble (1975)
- Syringa for mezzo-soprano, bass-baritone, guitar, and ensemble (1978)
- Three Poems of Robert Frost for baritone and ensemble (1942, orchestrated 1980)
- In Sleep, in Thunder for tenor and ensemble (1981)
- Of Challenge and of Love for soprano and piano (1994)
- Tempo e Tempi for soprano, oboe, clarinet, violin, and cello (1998–99)
- Of Rewaking for mezzo-soprano and orchestra (2002)
- In the Distances of Sleep for mezzo-soprano and chamber orchestra (2006)
- Mad Regales for six solo voices (2007)
- La Musique for solo voice (2007)
- Poems of Louis Zukofsky (2008) for mezzo-soprano and clarinet
- On Conversing with Paradise (2008) for baritone and chamber orchestra
- What Are Years (2009) for soprano and chamber orchestra
- A Sunbeam's Architecture (2010) for tenor and chamber orchestra
- Three Explorations (2011) for bass-baritone, winds, and brass
出典
- ^ Elliott Carter, Composer of the Avant-Garde, Dies at 103 New York Times 2012年11月5日閲覧
- ^ 『ラルース世界音楽事典』(福武書店、1989年)、「カーター」の項目を参照。
参考文献
- Collected Essays and Lectures, 1937-1995 , University of Rochester Press, 1996. ISBN 978-1580460255.
- Harmony Book ,Carl Fischer, 2001. ISBN 978-0825846908.
- soundpieces 2: interviews with american composers, ISBN 978-0810827103.
- American Music in the 20th century, ISBN 0-02-864655-X.