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「日本における自殺」の版間の差分

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また厚生労働省の自殺・うつ病対策プロジェクトチームは、精神科や心療内科で処方される[[向精神薬]]の[[多剤大量処方|多剤大量服用]]が自殺を引き起こす要因になっていることを挙げており<ref>{{Cite report|author=自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|title=過量服薬への取組 -薬物治療のみに頼らない診療体制の構築に向けて- |date=2010-09-09 |publisher=[[厚生労働省]] |url=http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/torimatome.html }}</ref>、国会でも取り上げられた<ref>{{Cite conference|title=衆議院厚生労働委員会 |conference=第175回国会|volume=1|date=2010-08-03|url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/175/0097/main.html }}</ref>{{Refnest|group="注"|なお[[抗うつ薬]]の服用開始直後には、年齢に関わりなく自殺企図の危険が増加する危険性があると[[アメリカ食品医薬品局]]から警告が発せられ、日本でもすべての[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]および[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]の抗うつ薬の添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された([[賦活症候群]])<ref>北村正樹「[http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/200604/500857.html 【使用上の注意改訂】SSRI・SNRIによる自殺企図のリスク]」(日経メディカルオンライン、2006.4.3)</ref>。}}。厚労省は多剤大量処方への診療報酬をカットする対策を講じている。
また厚生労働省の自殺・うつ病対策プロジェクトチームは、精神科や心療内科で処方される[[向精神薬]]の[[多剤大量処方|多剤大量服用]]が自殺を引き起こす要因になっていることを挙げており<ref>{{Cite report|author=自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|title=過量服薬への取組 -薬物治療のみに頼らない診療体制の構築に向けて- |date=2010-09-09 |publisher=[[厚生労働省]] |url=http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/torimatome.html }}</ref>、国会でも取り上げられた<ref>{{Cite conference|title=衆議院厚生労働委員会 |conference=第175回国会|volume=1|date=2010-08-03|url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/175/0097/main.html }}</ref>{{Refnest|group="注"|なお[[抗うつ薬]]の服用開始直後には、年齢に関わりなく自殺企図の危険が増加する危険性があると[[アメリカ食品医薬品局]]から警告が発せられ、日本でもすべての[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]および[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]の抗うつ薬の添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された([[賦活症候群]])<ref>北村正樹「[http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/200604/500857.html 【使用上の注意改訂】SSRI・SNRIによる自殺企図のリスク]」(日経メディカルオンライン、2006.4.3)</ref>。}}。厚労省は多剤大量処方への診療報酬をカットする対策を講じている。

日本で最初に認可された[[SSRI]]は[[フルボキサミン]](1999年4月)<ref>[http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/3/112130_1179039F1036_3_1F.pdf 医薬品インタビューフォーム - フルボキサミンマレイン酸塩錠] 2016年11月10日閲覧</ref>。次に[[パロキセチン]](2000年9月)<ref>[http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/2/340278_1179041F1025_1_018_1F.pdf 医薬品インタビューフォーム - パロキセチン塩酸塩錠] 2016年11月10日閲覧</ref>。日本の自殺者数が急増したのは1998年である<ref>[https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H27/H27_jisatunojoukyou_03.pdf 警察庁トップページ>統計>平成27年中における自殺の状況(参考図表)] 2016年11月10日閲覧</ref>。


===日本の社会構造・行政組織の連携不足による連鎖反応の放置 ===
===日本の社会構造・行政組織の連携不足による連鎖反応の放置 ===

2016年11月10日 (木) 02:11時点における版

日本における自殺は主要な死因の一つであり[1]、10万人あたりの自殺率は20.9人であり、OECD平均の12.4人と比べて未だに大きい値である(2014年)[2]。自殺率のピークは1990年代であったが、その後2000年から2011年の間に6.3%減少した[2]。しかし未だOECD平均に比べ数値が高いので明らかに要注意であるとOECDは勧告している[2]

WHOは2011年の時点では、日本の自殺率を世界10位(21.7%)と報告していた(国の自殺率順リスト)。OECDは日本の自殺率は1990年代末には急上昇したが、以降は以前の値に戻っていると述べている[3]

日本における死因は、全世代の統計としては悪性新生物(30.4%)、心疾患(16.0%)、脳血管疾患(11.8%)、肺炎(9.9%)、不慮の事故(3.5%)に次いで自殺であり、6番目の死因で2.8%であった(2006年度)[1]。なお、20代から30代にかけては自殺が死因のトップとなっており、2003年(平成15年)の場合、死亡者のうち15.8%(20代前半)、20.9%(20代後半)、22.8%(30代前半)、25.0%(30代後半)が自殺している[4]

OECDは、日本はうつ病関連自殺により25.4億ドルの経済的損失をまねいていると推定している[5][6]

WHOによる人口10万あたり自殺率(年齢標準化)[7]。赤は13以上、黄は6.5-13、青は6.5以下
OECD各国の人口10万人あたり標準化自殺率。ピンクがOECD平均、オレンジが日本[3]

自殺者数の推移

自殺者数および自殺率の動向(警察庁発表)
自殺者数 自殺率[注 1]
総数 男性 女性 総数 男性 女性
2003年(平成15年) 34,427 24,963 9,464 27.0 40.1 14.5
2004年(平成16年) 32,325 23,272 9,053 25.3 37.4 13.8
2005年(平成17年) 32,552 23,540 9,012 25.5 37.8 13.8
2006年(平成18年) 32,155 22,813 9,342 25.2 36.6 14.3
2007年(平成19年) 33,093 23,478 9,615 25.9 37.7 14.7
2008年(平成20年) 32,249 22,831 9,418 25.3 36.7 14.4
2009年(平成21年) 32,845 23,472 9,373 25.8 37.8 14.3
2010年(平成22年)[8] 31,690 22,283 9,407 24.9 35.9 14.4
2011年(平成23年)[9] 30,651 20,955 9,696 24.0 33.7 14.8
2012年(平成24年)[10] 27,858 19,273 8,585 21.8 31.1 13.1
2013年(平成25年)[11] 27,283 18,787 8,496 21.4 30.3 13.0
2014年(平成26年)[12] 25,427 17,386 8,041 20.0 28.1 12.3
2015年(平成27年)[13] 24,025 16,681 7,344 18.9 27.0 11.3

戦後

戦後は戦前に比べ自殺率の変動が激しく、男性の場合、高度経済成[14]

1953-1959年のピーク(同31.5人)、1983-1986年のピーク(同28.9人)、さらに年間自殺者数の3万人超えが継続した1998年〜2012年までのピーク(2003年は同38.0人)の計3回の大きなピークを迎えている(厚生労働省人口動態統計[14][15])。一方、女性の場合は男性と類似した曲線をたどるものの、1953-1959年のピークを除けばさほど大きな変化は見られず[14]、このことから男性の自殺率の増減が日本人全体の自殺率の増減の主な影響であることがわかる。また、1953〜1959年のピークは、青年層の復員兵の自殺が多かったとされる[14]が、それに対し、残り2つのピークでは、中高年の男性の自殺の増加が自殺率を押し上げている[14]

1990年代後半:戦後最大の自殺者数の急増

1998年(平成10年)には年間自殺者数が32863人(警察庁発表。人口動態統計では31755人)となり、統計のある1897年以降で初めて3万人を突破した。2003年(平成15年)には34427人(人口動態統計で32109人)に達し、現在までにおける過去最大数となっている。

1998年以降から近年まで続いたピークは戦後最大のものであった[14]。それまで約2-2.5万人程度であった年間の自殺者数が3万人以上で推移する状況にあったが、1998年は前年の24391人から8000人以上も急増(前年比約35%増[16])した[17]。うち25%は45歳以上の層のもので、中高年の自殺増が急増への寄与が大きい[16]。急増した原因として景気の悪化を指摘するものも多く[18]、各種統計や自殺者の遺書などから、今回のピークの原因は不況によるものと推測されている[14]。OECDは90年代後半の自殺増の理由としてアジア通貨危機を挙げている[3][2]。また読売新聞1999年8月7日付けの記事では自殺の急増、とりわけ男性の自殺者が増えたしたことを報じたが、そこでは「元気ない男性」として、男性が家事や育児に参加して男性の意識改革を図るべきとジェンダー論から自殺原因や対策を報じた。一方、船瀬俊介は著書「クスリは飲んではいけない!?」(徳間書店)にて1998年に自殺が急増したのは新抗うつ剤が出現した時と一致しているとの見解をしている。

不況の影響を受けやすい中高年男性でピーク後の自殺率が特に急増し、遺書から調べた自殺原因では、1998年以降、ピーク前と比べて「経済・生活問題」が急増している[14]。内閣府経済社会総合研究所の統計では、失業要因が安定して有意に男性自殺率を増加させ[18]、1998年以降の30歳代後半から60歳代前半の男性自殺率の急増の要因は、雇用・経済環境の悪化である可能性が高い事が年齢階層別データ分析、都道府県別年齢階層別データ分析の双方において確認できる[18]。女性の自殺率はピーク前とあまり変わらず、男性の自殺率の影響が顕著である[14]。男性は高年齢層で自殺しやすく、高齢化は男性の自殺率増加の原因を2割程度説明する[14]。年齢別で見ると、40〜60代の増加が顕著で、特に60代ではピーク前の3割増になっている[14]

以上の1998年以降の「定年に至っていない中高年男性の自殺率増加」の背景には、過去のものとは動向が異なり、「経済・社会的な要因」が大きく影響している可能性が指摘されている[19]。2003年(平成15年)には、年間自殺者数が3万4千人に達し、統計のある1897年以降で最大(自殺率も27.0と過去最大)となった。

2010年から

2009年(平成21年)までほぼ3万2千人台で推移、2010年(平成22年)より減少傾向となって3万人を超える水準は2011年(平成23年)まで続いた。 ただし、厚生労働省発表の人口動態統計のデータでは過去にも2001年(平成13年)と2002年(平成14年)、2006年(平成18年)に3万人を割っている[20][21]。 「年間3万人」とは一日あたり平均80人以上となり、日本で2012年までの14年間だけでも45万人が自殺で亡くなっており、日本で家族を自殺で亡くした遺族は300万人を超えると推計されている[22]。2012年に清水康之によって、日本で暮らす人の40人にひとりは自殺者の遺族であり、日本人にとっては非常に深刻な問題で、身近にある問題であり、また日本の自殺者数は世界で8番目で、米国の2倍、イギリスやイタリアの3倍となっており危機的な状況と指摘されていた[22]

2012年(平成24年)以降は減少し3万人を下回った。2012年(平成24年)の日本の自殺率[注 1](人口10万人あたりの自殺者数)は21.8人で総自殺者数は27858人である(警察庁発表[23])。これは同年の交通事故者数(4411人)の約6.32倍に上る[24]

2013年3月14日警察庁は2012年の自殺者数を前年比9.1%減の27858人と発表した。

2014年1月の警察庁発表では、2013年の自殺者は27283人で、4年連続で減少した事が明らかとなった。特に経済・生活問題を動機とする自殺者が減っている。経済状況の好転の他、自治体単位での自殺を防ぐ活動による効果が出たと分析された[25]

2014年版自殺対策白書では、15歳から39歳の各年代の死因のトップが「自殺」であり、自殺対策白書は「15-34歳の若い世代で死因の1位が自殺となっているのは先進7カ国では日本のみ」としている[26]。ただし、これは死因に占める比率であるため、自殺以外の死因が少なければ自殺の占める比率が上がることに留意する必要がある。

2015年3月12日、警察庁は2014年の自殺者数を25374人で、11年前の2003年よりも約一万人減少と発表した[27]

自殺の理由

日本での自殺の理由について記述する。

まずは、省庁が発表する表面的・表層的なデータから見てゆく。

2010年の警察庁のデータでは、自殺者の74.4%が遺書などにより動機が特定でき、 残りの25.6%は動機不明[8]。遺書で特定できた場合では、動機原因は「健康問題(病気)」15802人、「経済生活問題(貧困)」7438人、「家庭問題」4497人、「勤務問題(仕事職場人間関係)」2590人の順とされた(遺書などから明らかに推定できる原因を各人3つまで計上)[8]。この順位は前年と変わらなかった[28]。 この統計によると、40歳代および50歳代の男性(いわゆる「働き盛りの男性」。日本を支える主力となっている層)の場合は「経済・生活問題」が1位であり、2位の「健康問題」を凌駕しており[8]事業不振倒産失業などが根本原因であることがうかがわれる。男性の残りの世代、および女性では「健康問題」(病気)が最たる理由である[8]

自殺者305名の遺族を対象にした調査を元にした危険複合度の分析によれば、主な最初の理由として「事業不振」、「職場環境の変化」、「過労」があり、それが「身体疾患」、「職場の人間関係」、「失業」、「負債」といった問題を引き起こし、そこから「家族の不和」、「生活苦」、「うつ病」を引き起こして自殺に至る[29][注 2]

自殺に至る経過は有職者・失業者で異なり、有職者は配置転換転職がきっかけになるのが多いのに対し[30]、失業者は「失業→生活苦→多重債務→うつ→自殺」という経路をたどることが多い[30]。なお、雇用保険受給中の失業者の場合、離職日からの日にちには特に傾向はない[30]

多くの実証研究が、不況と労働条件の悪化、自殺者数の増加との相関関係を立証している[31]。不況期になると自殺率が約30%増加するとされている[32]

詳しくは#職業性ストレスを参照。

精神疾患

WHOの自殺予防マニュアルによれば、自殺既遂者の90%が精神疾患を持ち、また60%がその際に抑うつ状態であったと推定している[33]。日本においては、高度救命救急センター搬送の自殺未遂者の80%以上について、DSM-4基準に基づく精神疾患が認められた[33]。またある調査では、日本の自殺者305名への遺族調査によれば、119名がうつ→自殺という経過をたどっていた[29]。ただし、同調査はうつ病は自殺の根本要因ではなく、他の根本要因がうつを引き起こしていることを明らかにしている。

また厚生労働省の自殺・うつ病対策プロジェクトチームは、精神科や心療内科で処方される向精神薬多剤大量服用が自殺を引き起こす要因になっていることを挙げており[34]、国会でも取り上げられた[35][注 3]。厚労省は多剤大量処方への診療報酬をカットする対策を講じている。

日本の社会構造・行政組織の連携不足による連鎖反応の放置

清水康之は「日本の社会には、人々が生きづらくなるような社会的な悪条件や困難が多い」と指摘しており、本人が死を積極的に選んでいるというわけではなく、死を選ばざるを得ない状況に追い込まれて亡くなっていると指摘している[22]

  • 要因は「将来についての不安や絶望」「家族からの虐待や周囲からのいじめ」「過重労働」「貧困」「介護疲れ」「孤独」などで、自殺に追い込まれるプロセスを分析すると、自殺した人はこれらのさまざまの要因を平均で4つ抱えていた[22]

また、日本の社会は、人に悪条件が複合的に(あるいは連鎖的に)のしかかってくるような構造が放置されており、失業者に対する生活支援策は少ない。その結果、多重債務を抱えることになり、失業や多重債務に陥った人々に対して精神的なケアをする組織が少なかったり、その連絡先の広報・周知徹底がなされておらず彼らがたどり着くことが少なく、 うつ病になり、うつ病に追い込まれたために再就職がなお一層難しくなり、自殺に追い込まれる、というような経路がある[22]

  • また日本では高等学校中退 → 不安定な職にしか就けない状況 → 経済的困窮・借金 → 家庭内の人間関係の悪化 → 自殺、というような複合的(連鎖的)なことも起き易い[22]
  • あるいは、子供のころ虐待される → 結婚して家族からの暴力をきっかけに精神疾患に → 離婚 → 経済的困窮 → 自殺、といった連鎖もある[22]

統計

日本の年齢別自殺者数と性別および理由(2010年)[28]
年齢 〜19歳 20〜29歳 30〜39歳 40〜49歳 50〜59歳 60〜69歳 70〜79歳 80歳〜 不詳 合計
 
01/合計 543 3,366 4,940 5,713 6,573 6,227 3,651 2,314 7 33,334
02/男性合計 329 2,356 3,377 4,279 5,024 4,377 2,251 1,171 7 23,171
03/女性合計 214 1,010 1,563 1,434 1,549 1,850 1,400 1,143 10,163
04/家庭問題 97 356 684 780 811 810 582 377 4,497
05/健康問題 140 1,293 2,101 2,202 2,595 3,268 2,512 1,688 3 15,802
06/経済・生活問題 19 514 958 1,663 2,256 1,641 341 46 7,438
07/勤務問題 29 471 610 671 581 196 29 2 1 2,590
08/男女問題 50 347 383 190 84 33 13 3 1,103
09/学校問題 160 207 4 371
10/その他 48 178 200 207 246 279 174 198 3 1,533

生活保護を受けている人の自殺率は、一般の人の2倍となっており、20代だと6倍となっている(2012年時点)[37]

年齢差

年齢別では中高年の自殺者数が多く、2010年の場合、「50歳代」(5959人、18.8%)、「60歳代」(5908人、18.6%)、「40歳代」(5165人、16.3%)、「30歳代」(4596人、14.5%)の順である[8]。年齢別に見ると、40代から60代前半にかけてが自殺率は最も高い[38]2003年度)。

経済学者飯田泰之は「多くの国では自殺が多いのは60歳以上であり、病苦が原因である。または10代である。働き盛りの男性に自殺が多いのは日本の大きな特徴である」と指摘している[39]

職業差

就業者の中では、男性の場合「農林漁業作業者」(10万人中54.2人)、「サービス職業従事者」(10万人中51.1人)で男性全体の自殺率(10万人中42.3人)を上回っている(平成12年の場合)[40]、産業別では、男女ともに「第1次産業」の自殺率が高い[40]。また、生活保護受給者の自殺率も全体の自殺率より高い[30]

自殺率でなく自殺者数で見た場合、職業別では2010年の場合、「無職者」(18673人、58.9%)、「被雇用者・勤め人」(8568人、27.0% )、「自営業・家族従事者」(2738人、8.6% )、「学生・生徒等」( 928人、2.9% ) の順であり[8]、この順位は前年に同じ[28]。ただし、無職者は主婦や年金生活者を含んだ数字で、内訳は「その他の無職者」(8151人)、「年金・雇用保険等生活者」(6068人)、「主婦」(2336人)、「失業者」(1990人)、「利子・配当・家賃等生活者」(67人)、「浮浪者」(61人)である[8]

自衛官の自殺

かつては一般人と同水準だったが、現在[いつ?]は1,5倍になっている。[41] 2008年頃から自衛隊員自衛官の自殺が社会問題化している。2010年には防衛省職員の自殺者が2004年から6年連続で100人を超え、他省庁比5割増という異常事態になっていることが防衛省の調査で判明している[42]。自衛官の自殺のうち特別の事情として「いじめ」の問題があるとされ、遺族が初めて国家賠償請求を起こした1999年平成11年)11月に当時21歳の三等海曹の自殺(「さわぎり (護衛艦)事件」)の原因も、上司の二等海曹による「ゲジ(スペードの2、役立たずの意味)」と呼ぶ、「海の上ではだれかいなくなってもわからない」その他の暴言の連続があったと遺族は裁判内で主張された。裁判では、事実は認定されたが、一審では暴言は自衛官教育の範囲内とされた。この事件を契機に自衛隊内でのメンタル・ヘルスが研究されるようになったとされるが、自殺者は自衛隊全体で事件後も減っていないうえ、2004年10月にはたちかぜ自衛官いじめ自殺事件をきっかけに、艦内パワーハラスメントが発覚(護衛艦たちかぜ暴行恐喝事件)するなど「いじめ」と自殺の因果関係がクローズアップされる[43]。いじめに関しては、(防衛省として現在統計資料の有る)2003(平成15)年度から2006(平成18)年度までに『私的制裁』として92人、『傷害又は暴行脅迫』として291人の者に対して懲戒処分を行っている。

その他、問題となる自殺に、陸上自衛隊の駐屯地内での武器の使用による自殺がある。これは、小銃(ライフル)を連射モードに切り替え、数発(1‐9発程度)を命中させて自殺する者が、実包を装填した銃器を携行して歩哨警備を行う火薬庫の警備時に多発している。2004年(平成16年)度以降、2008年8月まで5件の弾薬庫警備任務中の隊員による小銃を使用した自殺、自殺未遂事件が起きている。

なお、2004年から2006年度は3年連続で、25万人の陸海空自衛官の内自殺と断定された自衛官の数は、毎年100人程度に達している(防衛省調)。2006年度に死亡した隊員は陸海空あわせて224人(陸自156人、海自35人、空自33人)。このうち自殺と認定された者は、97人(陸66人、海20人、空11人)で死亡理由の4割を超える。

季節・日時における差

月別では3月が最も多い[30][44]。多年度を通して平均したグラフで見ると、2月が自殺者がかなり低いのに対して、3月が一気に高くなり、4月、5月、6月がそれに準ずる高さで徐々に低くなっている[44][45]。3〜6月が年間の自殺者数を引き上げている[30]。 近年では特に1998年と2003年にこの傾向が顕著であるが、前者は大手銀行や証券会社が破綻した時期であり、後者は失業率のピークであり、同時にヤミ金取立てによる自殺が増加した時期である[14]

曜日別で見た場合、男性は月曜が最も多く(10万人当たり80.7人)[46]、曜日が進むごとに減っていき、土日が最も少なくなる(それぞれ10万人当たり53.5人、55.3人)[46]これは欧米で一般に「ブルーマンデー症候群」と呼ばれる症状と関連があると見られている。月曜日というのは、仕事をしている人々にとっては、土日における解放が終わり、再び社会の厳しい現実と向かいあわなければならない日なのである[44]と言われる。(日本では類語でサザエさん症候群とも)。一方女性の場合、このような明確な差はない[46]

性差

日本の自殺率は性別差が激しく、自殺者の70%以上が男性(例えば2010年は70.3%[8])である。つまり、統計的には男性は女性より2.5倍自殺しやすい。男性の方が自殺しやすい原因として、失業を含む勤務問題が挙げられる。遺書などから自殺原因を調べた場合、20代から60代では「勤務問題」・「経済・生活問題」を挙げる者の数が男女で実に10倍近くの開きがあり[8]、働く性としての男性に過度の負担がかかっていることがわかる。他の要因では男女の違いは2倍以内である[8]。1998年以降の不況で男性の自殺率が急増する一方で、女性の自殺率はさほど増えていない[14]

カトリーヌ・ヴィダルらは、失業時や離婚時に男性の方に負荷が集中しやすいことを指摘、失業や離婚をした場合、女性であれば家族や社会の状況に組み込まれて保護されるのに対し、男性は社会的に孤立を余儀なくされることを挙げている[47]

統計的に見ても配偶者と離別したもの同士の自殺率の男女比や失業者同士の自殺率の男女比の場合はそれぞれ6.04倍(2000年)[48]、11.4倍(2009年)[28]に跳ね上がるため、離別や失業が自殺に男女差がある大きな原因であることがうかがえ、上述の見解を裏付ける。これは未婚同士・既婚したもの同士・死別したもの同士のいずれの自殺率の男女比も大きな差はなく、それぞれ2.85倍、2.772倍、3.32倍(2000年)[48]であるのと対照的である。 ただし、未婚・離婚・死別の全てを含めても(この離別自殺に関してだけは)、男性自殺者の55.5%に過ぎない[49]、(女性の場合は60.1%[49])ことにも注意を払うべき[要出典]である。

他のほとんどの国でも男性の方が自殺しやすい[50]。男女比が特に極端な旧共産圏諸国[50]を除けば、日本における自殺の男女比は平均的なものである[50]

特に男性の場合、35歳から54歳の年齢階層では、配偶者と離別した無職男性の自殺率は有配偶・有職男性の自殺率の20倍にものぼる[30]。職業別で見た場合も、無職男性の自殺率は非常に高く、「35歳から54歳の年齢階層では有職者の約5倍になっている」[30]

地域差

人口10万あたり自殺者数
(都道府県別、2010年)[51]
 
01北海道 27.4
02青森 32
03岩手 33.3
04宮城 25.3
05秋田 33.7
06山形 27.9
07福島 26.7
08茨城 24.6
09栃木 26.9
10群馬 27.2
11埼玉 24.2
12千葉 23
13東京 22.6
14神奈川 21.2
15新潟 30.8
16富山 25.9
17石川 24.6
18福井 21.9
19山梨 28.4
20長野 24.7
21岐阜 23.4
22静岡 23.9
23愛知 21.9
24三重 18.5
25滋賀 23.4
26京都 23.4
27大阪 24.4
28兵庫 23.7
29奈良 20.1
30和歌山 27.9
31鳥取 27.4
32島根 28.6
33岡山 22
34広島 23.5
35山口 24.4
36徳島 21.3
37香川 23.4
38愛媛 23.6
39高知 28
40福岡 24.9
41佐賀 27.5
42長崎 27.3
43熊本 25.2
44大分 23.6
45宮崎 27.6
46鹿児島 27.4
47沖縄 25.4

特に男性では自殺率が地域ごとに1.6-1.7倍の差がつうある[14]。 警察の全管轄1387個(当時)に対して自殺率を調べた調査[52]によると、上位50の管轄の相当数が工場地域ないしそれに隣接する地域であった。このことから、下請け・孫請け・派遣会社における過酷かつ不安定な労働環境が自殺に地域差がある原因と考えられる[52]。都道府県別に見た場合、東北三県青森県岩手県秋田県が際立って自殺率が高く、それ以外では新潟県島根県高知県などが自殺率が高い[53]。一方で東京都千葉県神奈川県などの首都圏大阪府兵庫県京都府奈良県などの近畿圏愛知県静岡県などの中京圏の自殺率は平均以下となっている[53]。なお、自殺率でなく自殺人数を見た場合は、人口が多い東京都が自殺数最多である[52]

地域による自殺率は男女で差があり、男性では北東北南九州山陰で比較的高い傾向がある[14]のに対し、女性では秋田県を除くと男性ほど明確な地域差はない[14]。このことから男性への負担が地域差の原因であると考えられる。なお、北東北・南九州・山陰で男性の自殺率が高い傾向は、1960年代以降ほぼ固定化している[14]。なお、98年以降の増減は、自殺率の高い地域でより増加する特徴がみられる[14]。したがって、自殺率の地域差は1998年以降の自殺の急増と何らかの関係があることを示唆し[14]、不況が自殺の地域差を生んでいることがわかる。地域差がある他の原因として、地域産業が衰えたことによる「経済面」と、高齢化による「健康面」の2つが大きな理由に挙げられている[54]。また地域の保守性のため、規範からはずれた生き方を恥とする人が多いことも要因として考えうる。たとえば富山県は生活保護率が日本で最も低く[55]、新潟県は離婚率が日本で最も低い[56]。また、これらの地方では曇りが続くため、季節性情動障害との関係が取り沙汰される[57]が、統計的には日照時間と自殺率には相関が見られず[58]、例えば2010年の秋田県における自殺が最多の月は6月、富山県における自殺が最多の月は5月である[8]

2010年現在、最も自殺率の高い都道府県は山梨県(10万人当たり41.6人)[8]で、全国平均の24.9人[8]を大きく上回っている。ただしこれは発見地別の統計の場合で[59]、住居地別の統計では自殺率は平均程度である[59]ため、自殺者が県外から青木ヶ原樹海といった自殺の名所に訪れることが原因であることがうかがえる。なお、発見地別統計と住居地別統計に極端な差があるのは山梨のみで、他県ではさほど差はない[59]

2006年の最も自殺率の高い都道府県は秋田県であり、10万人当たり43.5人であった[60]。これは、青木ヶ原樹海を擁する山梨県の42.7人をもしのぐ数字であった[60]2007年には、秋田県が長年にわたり自殺率全国一位の都道府県となっていることが世間の注目を集めた[61]。これを受けて秋田県では自殺予防のための様々な取組みが行われた結果[62]、2010年の同県の自殺率は、山梨県(41.6人)、岩手県(35.1人)に次ぐ全国三位の33.9人にまで押し下げることに成功した[8]

2014年において最も自殺率が低いのは大阪府であり、10万人当たりの自殺者は15.7人である[63]

手法

日本では自殺手段でみた場合、男性は縊死(66.4%)、ガス(13.3%)、飛び降り(7.1%)、薬物(3.3%)、溺死(2.3%)、飛び込み(2.1%)、その他(5.8%)の順で多く、女性は縊死(58.9%)、飛び降り(12.8%)、薬物(6.7%)、溺死(6.7%)、ガス(4.8%)、飛び込み(3.6%)、その他(6.5%)の順である(平成15年[64])。

場所

自殺の場所は「自宅」(男女合計17511人、54.3%)、「乗物」(3334人、10.3%)、「高層ビル」(1656人、5.1%)、「海(湖)・河川」(1649人、5.1%)、「山」(1387人、4.3%)、の順である[65]。男女別では男女とも「自宅」がトップであるが、2位以降は差があり、男性では「乗物」が2位だが女性では乗り物の順位は高くなく[65]、車を使う男性とそうでない女性の間で自殺方法に差があることがうかがえる。逆に女性では「高層ビル」が2位だが男性では高層ビルの順位は高くない[65]

未遂歴・相談歴

自殺実態白書による自殺者305名の遺族に調査した調査によれば、自殺者の30%に自殺未遂歴があり、60%にはなく、10%は不明である[29]。特に女性の場合は自殺者の45%に未遂歴がある[29]。 同調査によれば72%が自殺前になんらかの相談機関に相談に行っており[注 4][29]、相談機関の58%が精神科、25%がその他医療機関であった[29]。そして相談に行っていた202人中62%が自殺直前の1か月以内まで相談に行っていた[29]

リスクファクター

職業性ストレス

川人博高橋祥友は、中高年の自殺の増加の要因として「過労自殺」を焦点に、

  1. 業務型による肉体疲労
  2. 精神的ストレス
  3. 達成できないノルマのための落胆
  4. 職場での人権侵害

などの事例を挙げている[66]

医学博士精神科医の高橋祥友は、リストラ・解雇にともなう精神的なショックが自殺のきっかけを構成すると指摘している[66]。例えば、組織との絆の喪失、自尊心の低下、失職後の家庭での役割の低下、再就職の不安などが挙げられる[66]

実際、失業問題は自殺との関係が深い。有効求人倍率と自殺率には強い負相関が存在し[16]、従業員5人未満の零細企業の倒産件数は自殺率と強い正の相関がある[16]

バブル崩壊後の長期低迷により、中小企業の社長などが借金を返済できず、自殺に追い込まれるといった事件が頻発したが、これはリコース・ローン(遡及型融資)が要因である[67]。経済学者の竹中平蔵は「倒産・失業は本来自分の命を絶つようなことではない。日本で中小企業の経営者が自殺するケースが多いのは、経営者が銀行に対して個人保証をしていることに関係がある。倒産・失業が増えていることは問題であるが、それ以上に倒産したら何もかも失うという日本の社会システムは、重大な欠陥である」と指摘している[68]。竹中は「アメリカよりも日本の方がはるかに弱肉強食の面がある。アメリカには貧富の差はあるが、自殺は日本ほど多くない」と指摘している[69]

男性については所得の変動、負債、失業といった要因が自殺率に関係する[14]。一方女性の場合は失業と自殺の関係が見られない[14]

ただし、各国ごとのジニ係数と自殺率には相関がみられず[14]、これは所得格差は自殺率と相関が少ないことを意味する。ただし、ジニ係数は自殺未遂率とは有意な相関がある[14]

子どものいじめ

1986年、1994年 - 1996年、2006年および2012年-の時期は、子供の自殺についての報道が多かった。原因としては「学校におけるいじめ」が取りざたされた。また、これに関連して文部科学省が学校における「いじめの把握」が不十分であることが指摘された。

いじめ自殺が相次いだ1995年12月には、横浜市のいじめ110番に自殺をほのめかす電話が殺到し、当時の横浜市長高秀秀信が緊急会見を開くなど現場は一時騒然となった。そしてそのわずか2ヵ月後には日本各地の新聞社や放送局にいじめ自殺の予告やテストや運動会を取りやめないと死ぬといった自殺予告の手紙が多数送られ、実際に試験日を延期する学校が相次いだ。そして10年後の2006年11月には中高生が文部科学省に自殺予告を送り、マスコミでも大きく取り上げられた。

文部科学省によれば若年層の学生については、2004年度の場合、「厭世」、「等の叱責」、「精神障害」、「進路問題」、「学業問題」、「恋愛」の順となっている[70]

災害

震災により、家族や財産を失ったことが原因による自殺。2011年3月に発生した東日本大震災関連では、同年6月だけで震災関連の自殺が16人に上ると報道された[71]

遺族

日本には自殺者の遺族に関する統計が無いものの、300万人前後と見積もられる[72]。 遺族305人を対象にした調査では、遺族達の4人に1人が自分も死にたいと考えており[72]、一家の大黒柱を失ったことによる経済的困窮に悩まされる[72]など、その厳しい実態がうかがえる。自殺が起こったことを48%の遺族が自分のせいだと考えており[72]、10年近く経過しても抑うつ感が消えない遺族も多い[72]。また自殺者が事前に何らかのサインを出していたかという問いには46.2%があったと答えているが、自殺以前にそれに気づいたのは20%にとどまった[72]。56.4%が周囲からの偏見にさらされた経験があり[72]、「あなたのせいで死んだ」などの心ない非難を受けている[72]

自殺未遂

日本では、自殺者の10倍以上の自殺未遂者がいると推計されている[73]。平成19年の場合、自損行為で救急自動車の出場した件数は71866件であり、搬送人数は5万2,871人であった[59]。自殺者のうち、以前に自殺未遂経験があるものが男性では13.5%、女性では28.6%である[59]。特にこの割合は20代、30代の女性で多い(それぞれ46.4%、44.5%)[59]

法令

日本でも他人を自殺させること、自殺を助けることは自殺関与罪刑法第202条)とされ、法律で禁止されている。また、もともと自殺する意思がない人に自殺を決意させて自殺させることは自殺幇助罪として、法律で禁止されている。また、一人で自殺しようとしそれが未遂で終わった場合、その行為自体では処罰の対象とはならない。だが自殺を複数人数で行おうとし未遂に終わった場合は、互いに対する犯罪として処罰される(自殺関与・同意殺人罪)。また、現在の日本の刑法では、自殺しようとした行為で同時で他者に危険を及ぼした場合(ガス自殺を図った場合のガス漏出罪失火罪など)は、具体的な被害がなくても処罰される可能性がある。また、第三者に被害が発生した場合(たとえば飛び降り自殺、飛び込み自殺など)には、刑事手続上は重過失致死罪などの罪により自殺した者は、被疑者死亡で送検される可能性があり、民事上は被害者から、自殺した者の遺族に対して損害賠償責任が発生する可能性がある(厳密には、「自殺した本人に賠償請求をして、それを遺族が相続する」という形となる。ここで言う「遺族」とは、相続権を保持する人のことである。自殺者が残した遺産の総額と損害賠償額を比較して、損になるような場合には相続放棄をすればよい)。

その他、日本での自殺に関する法律として、2006年(平成18年)の自殺対策基本法や、銃砲刀剣類所持等取締法第5条での「自殺をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者については銃砲刀剣類の所持を許可してはならない」といったものがある。

また保険法(第51条第1号)には「保険者は、被保険者が自殺をしたときには、保険給付を行う責任を負わない」とある。貸金業法12条の7でも「保険契約において、自殺による死亡を保険事故としてはならない」とある。ただし、精神障害によって自殺行為の結果に対する認識能力のない精神疾患者による未遂の場合は、例外的に保険給付される[74]

自殺対策

いのちの電話

自殺対策のひとつとして、ボランティアらによって営まれているいのちの電話日本いのちの電話連盟)が、深い悩み・つらさを抱えて誰にも相談出来ずに自殺を考えるほどになっている人の話を聞くための電話を設けて、24時間受け付けている[3] [75]。「いのちの電話」が設置されている地域では、そうでない地域と比べ、男性・女性とも自殺率が有意に下がっている[14]

また統計分析は「近所づきあいの頻度が高い地域で自殺率が低い傾向にあったことを不完全ながらも示して」[18]おり、「人的ネットワークを土台とするセーフティーネットの構築が自殺予防に有効である可能性が高い」[18]

日本国政府

日本国政府系では、国立精神・神経医療研究センター自殺予防総合対策センターの公式ウェブサイトが、自殺を考えるほどに悩んでいる人、あるいは自殺しそうな家族を持つ人からの相談を受け付ける、各都道府県・都市の相談窓口・相談のための「電話番号リスト」を公開している[4]

自殺防止対策として、相談室の設置、カウンセラーの増強などの対策が取られている地域がある。例えば静岡県では富士市をモデルにうつ病の観点から自殺防止に取り組み、大きな成果を挙げた[76]

2005年(平成17年)7月、参議院厚生労働委員会で「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」がなされ、同年9月には第1回「自殺対策関係省庁連絡会議」が開催された。2006年(平成18年)10月28日には、自殺対策基本法が施行された。しかし、殆どはNPOによる自主活動またはボランティア任せで、日本国政府・行政側がバックアップサポートを採っておらず、多くの自殺相談室が、人材・予算不足で苦境に立たされた[77]。また、中日新聞は『政治家の自殺に対する認識が薄い』との指摘もある[注 5]

また自殺者の46.2%が、事前に何らかのサインを出していた(と遺族は考えている)が、自殺以前に遺族がそのサインに気づいたのは20%にとどまった[72]。ただし、あと知恵バイアスを考慮に入れるべきである。自殺者遺族の4人に1人が、自分も死にたいと考えており[72]、自殺予防のためには、遺族への対策を取ることが考えられる。自殺者72%が、自殺前に精神科など、何らかの相談機関に相談に行っていた[29]

内閣府の意識調査では、自殺したいと思ったことがある人は19.1%で、ない人は70.6%であった[78]。自殺したいと思ったことがあるのは男性(16.3%)よりも女性(21.9%)の方が多く[78]、実際の自殺者では、男性の方が2.5倍も多いのと対照的である。年齢別では30代(27.8%)、20代(24.6%)が「ある」と答えた割合が高く、後は年を追うごとに少なくなっている[78]

自殺を考えた際、60.4%は誰にも相談せず、残りは友人(17.6%)や家族(13.9%)などに相談している[78]。自殺の是非については「生死の判断は最終的に本人にまかせるべき」という問いに、「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた人は35.3%で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は41.7%であった(残りは分からない(11.9%)もしくは無回答(11.1%))[78]

また「自殺せずに生きていれば良いことがある」という問いに、「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた人は79.4%で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は6.1%であった[78]

自殺対策白書

日本国政府は、鬱病患者や多重債務者への自殺予防策を進めており、2012年(平成24年)の自殺者数は2万7858人で、15年ぶりに3万人を下回った。ただし、20歳代の自殺死亡率は高まる傾向にあり、日本国政府が閣議決定した『自殺対策白書』では、若年層への効果的対策を急ぐ必要性を指摘している[79]

課題

清水康之は、日本国政府や地方公共団体の対策は、複合的・連鎖的な悪条件の連鎖に対応したものになっておらず、連携不足で、「点的」になっており、自殺要因の連鎖を食い止めるような形になっていないと批判している[22]

実際に関係機関が連携して支援策を打ち、自殺に追い込まれる人を減らせた地域がある。例えば東京都足立区は、2009年(平成21年)頃から自殺総合対策に取り組み、2011年(平成23年)には、自殺者を前年比で40人、20%も減少させることが出来た[22]

清水の提言は、以下の通りである[22]

  1. 自殺の地域ごとのありさまはさまざまに変化するものであり、自殺の実態に関する情報や統計がない状態では、的確な対策を打つことができないので、各自治体はまず、その自治体域内の人々の自殺の統計をとり、細かい統計を迅速に発表するとよい[22]
  2. 例えば毎月ベースで統計をとり、1ヶ月後には発表するとよい。日本の行政がやるべき連携的な活動とは、例えば、誰かが失業したら、その人は複合的に 「失業・経済的困窮(生活苦)・多重債務・うつ病」という問題を抱える傾向があることは、事前に統計的にわかっているのであるから、本来ならば、行政というのは、ハローワーク・福祉事務所・弁護士・保健師などが連携・情報交換して、そのひとりの人に対して「総合的な相談会」などを共同で実施して支援にあたる、ということなのである[22]
  3. 「死にたい」と思い詰めている人の多くは、実は同時に「生きたい」とも思っており、必要な支援が得られて困難が解消すれば、多くの人は生きる道を選ぶ[22]
  4. 日本では、人が生きることを選択できるように、社会環境・社会制度を改善すれば、自殺率を減らすことができる[22]
  5. 自殺対策とは、「生きることの阻害要因」をできるだけ取り除いて、「生きることの促進要因」をできるだけ増やすという、包括的な「生きる支援」であり、そうした包括的な支援を、当事者の事情にあわせて関係機関が連携して行えば、その地域では「生きる道」を選択できる人が増え、結果的に自殺が減るのである[22]

脚注

注釈

  1. ^ a b 自殺率は、人口10万人当たりの自殺者数を示す(自殺者数÷人口×100,000人)。人口は、総務省統計局の推計人口(毎年10月1日現在)の総人口に基づく。
  2. ^ 日本に関する研究ではなく、一般論としての書籍ではあるが、『脳と性と能力』では、ヴィダルやドロテ・ブノワ=ブロウエズは、このような精神的危機の背景には、激しい競争社会や低い自己評価に起因するさまざまな否定的感情、家庭・職場での生活が困難、など複数の要因がある、とし、膨大な数の統計学的・疫学的研究は、文化(宗教・教育)と生活様式(「都会暮らし」か「田舎暮らし」か)と家族の状態(独身か既婚か)、社会的状況(失業者や囚人など)が自殺行為に重要な意味を持つ、としている(出典:カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ『脳と性と能力』(集英社新書)[要ページ番号])。
  3. ^ なお抗うつ薬の服用開始直後には、年齢に関わりなく自殺企図の危険が増加する危険性があるとアメリカ食品医薬品局から警告が発せられ、日本でもすべての選択的セロトニン再取り込み阻害薬およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の抗うつ薬の添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された(賦活症候群[36]
  4. ^ 305人中、相談の有無が不明だった23人を除いたうちの72%。
  5. ^ 自殺者が年間3万人を超えた際、時の首相・小泉純一郎は「悲観することはない。頑張ってほしい」とコメントしたのみであった(2004年7月23日)、また、ある政治家は自殺問題よりも高速道路料金引下げの方が有権者に喜ばれる政策だとも発言した。さらに内閣府と厚生労働省のある幹部は、男性の自殺対策より、男性の育児休暇の取得に全力で取り組むべきだと発言した(中日新聞2010年5月16日の記事)。

出典

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  5. ^ OECD 2014, p. 45.
  6. ^ OECDは「日本の精神保健はOECD諸国の中で、精神病床の多さと自殺率の高さなど悪い意味で突出している」と報告した。
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  19. ^ 詳細は「平成10年(1998年)以降の自殺死亡急増の概要」(国立保健医療科学院)を参照。
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参考文献

国際機関

政府資料

その他

関連項目

団体など

外部リンク

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