「キッチン・キャビネット」の版間の差分
編集の要約なし |
ProfessorPine (会話 | 投稿記録) とりあえず米国・英国・インドのみ全面加筆・改稿。英語版は oldid=974097152##Popular_use に挙がっていた米大統領名だけプチ参照し、他の記述は出典調査してオリジナル執筆。 タグ: サイズの大幅な増減 |
||
1行目: | 1行目: | ||
政治における'''キッチン・キャビネット'''({{lang-en-short|Kitchen Cabinet}})とは、[[大統領]]や[[首相]]といった政治リーダーに対して多大な影響力をおよぼす、非公式のアドバイザー集団を指す{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|p=107|loc=§ 第4章 (執筆者: 力久昌幸)}}。英語の {{lang|en|cabinet}} には家具の収納棚の意味以外に、[[議院内閣制]]における[[内閣]]{{R|TFD-Cabinet}}や[[大統領制]]における[[アメリカ合衆国大統領顧問団|大統領顧問団]](副大統領や[[閣僚]]、[[首席補佐官]]などで構成){{R|US-Cabinet}}の意味があり、これらは法的に公式な手続を経て任命される。これに対してキッチン・キャビネットは私的・非公式な存在であることから、しばしば批判的な意味合いで用いられる表現である{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|p=107|loc=§ 第4章 (執筆者: 力久昌幸)}}。用語の初出は、第7代[[アメリカ合衆国大統領]][[アンドリュー・ジャクソン]]政権期とされるが{{Sfn|Latner|1978|p=367}}、米国以外の国政においてもキッチン・キャビネットの表現が用いられることがある。 |
|||
'''キッチン・キャビネット'''(英:'''Kitchen Cabinet''')は、第7代[[アメリカ合衆国大統領]][[アンドリュー・ジャクソン|ジャクソン]]が非公式に組織した政策集団のことである。「Kitchen Cabinet」は「食器棚」とも訳せるが、この場合は「'''台所内閣'''」の意味である。彼らが[[ホワイトハウス|ホワイト・ハウス]]に出入りする際、人目を避けるために裏口(台所口)を使用したことからこの名が付いたとされる。 |
|||
== |
== アメリカ合衆国 == |
||
キッチン・キャビネットは[[アンドリュー・ジャクソン|ジャクソン]]政権初期の1829年から1831年にかけて暗躍したとされ、当時の[[アメリカ合衆国副大統領|副大統領]][[ジョン・カルフーン]]と[[アメリカ合衆国国務長官|国務長官]][[マーティン・ヴァン・ビューレン]]が主導権をめぐって不仲だったことが主因とされる{{R|BlairHouse}}{{Sfn|Remini|2013|p=326}}。これにより、大統領顧問団による会合が機能不全に陥ったことから{{R|BlairHouse}}、公式な大統領顧問団は「パーラー・キャビネット」({{lang|en|parlor cabinet}})と批判的に呼ばれるようになった{{Sfn|Remini|2013|pp=326–328}}。[[パーラー]]とは談話室や応接室の意味であり{{R|CambridgeParlour}}、ジャクソンと協議するには、人目を忍んでキッチンから裏階段を昇ってジャクソンの書斎を個別訪問する必要があるとの憶測から、この呼称が使われるようになった{{Sfn|Remini|2013|p=326}}。 |
|||
[[1829年]]の政権発足後しばらくの間、ジャクソンは公式閣議をほとんど開催せず、政策はジャクソンと親しい有識者らによる会合で形成された。構成員の中には、{{仮リンク|フランシス・プレストン・ブレア|en|Francis Preston Blair}}、{{仮リンク|ダフ・グリーン|en|Duff Green}}、[[エイモス・ケンドール]]といった、当代の著名な[[ジャーナリスト]]もおり、政府寄りの記事を書いて政権を側面から援護した。ケンドールは、『グローブ (''Globe'':ブレアが編集する政治雑誌) 』誌上でジャクソンの政策を盛んに擁護した。 |
|||
そしてジャクソンは公式の大統領顧問団会合を開催しなくなり、代わりに腹心とも言うべき知人やアドバイザーを私的に重用するようになったことから、この非公式集団を指して「キッチン・キャビネット」と反政府的なメディアから後に呼ばれるようになった{{R|BlairHouse}}。その中核的役割を果たしたのが、{{仮リンク|フランシス・プレストン・ブレア|en|Francis Preston Blair}}と[[エイモス・ケンドール]]である{{Efn2|ブレアが中心人物だったとする説と{{R|BlairHouse}}、ケンドールとする説{{R|TFD-KitchenCabinet}}がある。}}。ブレアは1830年にジャクソン政権を支持する党組織 ''The Washington Globe'' を創立し、機関紙 ''Congressional Globe'' を発行した政治ジャーナリストである{{R|BlairHouse|BritannicaBlair}}。また、ケンドールは同紙上でジャクソンの政策を強固に支持し、その有能さからキッチン・キャビネット内で最も影響力が強かったとも言われる{{R|TFD-KitchenCabinet}}。 |
|||
[[1831年]]の内閣改造で[[アメリカ合衆国副大統領|副大統領]][[ジョン・カルフーン|カルフーン]]を支持する閣僚が軒並み更迭されてからは、閣僚の意見がより重視されるようになり、キッチン・キャビネットは次第に重要性を失っていった。 |
|||
政権発足から2年後の1831年、{{仮リンク|ペティコート事件|en|Petticoat affair}}(別称: [[マーガレット・オニール・イートン#再婚とスキャンダル|イートン・スキャンダル]])を受けて国務長官ヴァン・ビューレンと[[アメリカ合衆国陸軍長官|陸軍長官]][[ジョン・ヘンリー・イートン]]が辞任に追い込まれたことに端を発し、ジャクソンが公式な大統領顧問団を全面的に入れ替えた結果、非公式なキッチン・キャビネットの影響力は徐々に減退した{{R|BlairHouse}}。なお、キッチン・キャビネットの概念が記録上で確認できるのは、ヴァン・ビューレンらが去った後の1831年12月が初であり(発言者はジャクソンの{{仮リンク|銀行戦|en|Bank War}}対応に苦悩していた[[第二合衆国銀行]]の{{仮リンク|ニコラス・ビドル (銀行家)|label=ニコラス・ビドル総裁|en|Nicholas Biddle (banker)}})、さらに紙面上で一般にこの表現が用いられたのは翌年1832年3月に入ってからである{{Sfn|Remini|2013|p=327}}。 |
|||
=== ジャクソン政権以外での用例 === |
|||
* [[セオドア・ルーズベルト]](第26代大統領)- ジャクソンのような深刻さはないものの、「テニス・キャビネット」との意見交換を行っていたことで知られる{{R|Thompson2010|LOC-TR}}。 |
|||
* [[ジョン・F・ケネディ]](第35代大統領)- キッチン・キャビネットのメンバーには、[[マクジョージ・バンディ]]、[[ロバート・マクナマラ]](後の[[世界銀行]]総裁)、[[マクスウェル・D・テイラー]]、[[セオドア・C・ソレンセン]]、実弟[[ロバート・ケネディ]]の名が挙げられる{{R|Goduti2009}}。キッチン・キャビネットを起用することで、第32代大統領[[フランクリン・ルーズベルト]]型のリーダーシップを志向したとされる{{R|NYT1961}}。 |
|||
* [[ジェラルド・R・フォード]](第38代大統領)- フォードは副大統領時代からの側近たちを大統領就任後も重用した{{R|Time1975}}。 |
|||
== イギリス == |
|||
米国から遅れること約1世紀半後、[[議院内閣制]]をとるイギリスでも第1次[[ハロルド・ウィルソン|ウィルソン内閣]](1964 - 1970年)でキッチン・キャビネットの表現が初めて使われるようになったほか、[[トニー・ブレア|ブレア内閣]](1997 - 2007年)でもキッチン・キャビネットの存在は批判された{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|p=107|loc=§ 第4章 (執筆者: 力久昌幸)}}。 |
|||
[[労働党 (イギリス)|労働党]]所属のハロルド・ウィルソンは政治経済の専門家志向が強いと言われ、政府による経済介入に積極的であった{{Efn2|ウィルソン政権では「イギリスの全面的な現代化」を掲げており、戦後イギリス政治が構築した諸改革の体制を基盤に、さらなる安定化を図った時代である{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|pp=84–85|loc=§ 第4章 (執筆者: 力久昌幸)}}。}}。ウィルソンのキッチン・キャビネットにはジャーナリストの{{仮リンク|ジョー・ヘインズ (ジャーナリスト)|label=ジョー・ヘインズ|en|Joe Haines (journalist)}}、[[ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス]]で教鞭を執っていた{{仮リンク|バーナード・ドノヒュー|en|Bernard Donoughue, Baron Donoughue}}、[[運輸省 (イギリス)|運輸省]]副大臣を務めた{{仮リンク|アルバート・マリー (政治家)|label=アルバート・マリー|en|Albert Murray, Baron Murray of Gravesend}}などがいた{{R|Telegraph2019}}。その中でも特に、ウィルソンの私設秘書を長年務めた{{仮リンク|マルシア・ウィリアムズ|en|Marcia Falkender, Baroness Falkender}}(ファルケンダー男爵夫人)は、ウィルソンと不倫関係を疑われてマスコミから好奇の目と批判に晒されただけでなく{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|p=107|loc=§ 第4章 (執筆者: 力久昌幸)}}{{R|Telegraph2019}}、他のキッチン・キャビネットのメンバーからも内部的に中傷されることさえあった{{R|Telegraph2019|Guardian1995}}。 |
|||
同じく労働党のトニー・ブレアは、議院内閣制のイギリスにあってアメリカ合衆国大統領型のリーダーシップスタイルをとったことで知られている{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|pp=214, 217, 218|loc=§ 第9章 (執筆者: 近藤康史)}}。2003年当時のブレア政権下では、米国が主体となって遂行した[[イラク戦争]]にイギリスも派兵しており、その意思決定において選挙の洗礼を受けていない特別顧問たちをブレアが重用する姿勢が批判された{{R|Guardian2003}}{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|p=107|loc=§ 第4章 (執筆者: 力久昌幸)}}。その批判の急先鋒の一人が{{仮リンク|クレア・ショート|en|Clare Short}}である{{R|Guardian2003}}。ショートはブレア政権下で{{仮リンク|国際開発大臣|en|Secretary of State for International Development}}を約6年務めるも、ブレアとの意見不一致を理由に2003年に辞任した{{R|Telegraph2003}}。そして辞任表明の翌月にはブレアのキッチン・キャビネットとして、元外交官で{{仮リンク|首席補佐官 (イギリス)|label=首席補佐官|en|Downing Street Chief of Staff}}の{{仮リンク|ジョナサン・パウエル (労働党顧問)|label=ジョナサン・パウエル|en|Jonathan Powell (Labour adviser)}}、ジャーナリスト出身で{{仮リンク|首席報道官 (イギリス)|label=首席報道官|en|Downing Street Press Secretary}}を務める{{仮リンク|アラステア・キャンベル|en|Alastair Campbell}}、政策秘書のモーガン女史、および[[在アメリカ合衆国イギリス大使|駐米大使]]の{{仮リンク|デヴィッド・マニング|en|David Manning}}をショートは名指しして痛烈に批判した{{R|Guardian2003}}。またこの4名以外にも、ブレアの幼少期からの友人アンジー・ハンター、政策担当ジェフ・ムルガンおよびデヴィッド・ミリバンドなどがキッチン・キャビネット・メンバーとみなされている{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|pp=217–218|loc=§ 第9章 (執筆者: 近藤康史)}}。 |
|||
ブレアが閣僚よりも私的アドバイザー陣であるキッチン・キャビネットを重視する姿勢は、「ソファ政治」や「デノクラシー」(''{{Lang|en|denocracy}}'')とも形容された。これはブレアの鎮座するソファの周り、あるいは隠れ家({{Lang|en|den}})的な部屋にキッチン・キャビネットが集まって意思決定を行ったことに由来する{{Sfn|梅川・阪野・力久|2016|p=218|loc=§ 第9章 (執筆者: 近藤康史)}}。 |
|||
== インド == |
|||
第9代インド共和国首相[[ラジーヴ・ガンディー]](首相在任: 1984 - 1989年)の妻であり、自らも1998年から2017年にかけて有力政党の[[インド国民会議]]で総裁を務めた[[ソニア・ガンディー]]は{{R|BBC-Sonia}}、他者に仕えるキッチン・キャビネットの一員としての顔と、キッチン・キャビネットを率いるリーダーとしての顔を併せ持つ{{R|TOI2003|IT2017|NYT2011|News18-2011}}。 |
|||
ソニアは自ら首相の座に就くことはなく、代わりに2004年に[[マンモハン・シン]]を首相に指名{{R|NYT2011}}。シン首相は{{仮リンク|国家諮問評議会|en|National Advisory Council}}(NAC)を設立して、ソニアを議長に据えた。NAC議長の政治判断は、シン首相の実質的な権力を超えており、ソニアは「超首相」の権力を掌握し、このNACがキッチン・キャビネットに準ずるといわれている{{R|IT2017}}。ソニアは[[フォーブス]]誌が選ぶ2010年の世界有力者リストで、世界各国の首脳と肩を並べて第9位にランクインしたほか{{R|News18-2011|ForbesMPP2010}}{{Efn2|ソニア・ガンディーがランクインしたフォーブスの有力者リスト({{Lang|en|The World's Most Powerful People 2010}})は2011年に発表され、集計対象は2010年である。トップ10は上位から順に、[[胡錦濤]]国家主席(中国)、[[バラク・オバマ|オバマ]]大統領(米国)、[[アブドゥッラー・ビン・アブドゥルアズィーズ|アブドラ]]国王(サウジアラビア)、[[ウラジーミル・プーチン|プーチン]]大統領(ロシア)、[[ベネディクト16世 (ローマ教皇)|ベネディクト16世]]([[ローマ教皇]])、[[アンゲラ・メルケル|メルケル]]首相(ドイツ)、[[デーヴィッド・キャメロン|キャメロン]]首相(イギリス)、[[ベン・バーナンキ|バーナンキ]][[連邦準備制度|FRB]]議長(米国)、ソニア・ガンディー(インド)、[[ビル・ゲイツ]]([[マイクロソフト]]創業者)となっている。}}、2011年には[[ニューヨークタイムズ]]紙が「インドで最も権威ある政治家」と評した{{R|NYT2011}}。ソニアのキッチン・キャビネットには、首都[[デリー]]で[[インドの州首相一覧|州首相]]<!-- [[:en: Chief minister (India)]] の日本語ページがないので州首相一覧を代わりに内部リンク挿入-->を務めた{{仮リンク|シェイラ・ディクシット|en|Sheila Dikshit}}などの名が挙げられる{{R|TOI2003}}。 |
|||
== 注釈 == |
|||
{{notelist2}} |
|||
== 出典 == |
|||
{{脚注ヘルプ}} |
|||
{{Reflist|2|refs= |
|||
<ref name=TFD-Cabinet>{{Cite web |url=https://www.thefreedictionary.com/cabinet |title=cabinet |website=The Free Dictionary |work=American Heritage Dictionary of the English Language, Fifth Edition |publisher=Houghton Mifflin Harcourt Publishing Company |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=US-Cabinet>{{Cite web |url=https://www.whitehouse.gov/the-trump-administration/the-cabinet/ |title=The Cabinet |publisher=アメリカ合衆国[[ホワイトハウス]] |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=BlairHouse>{{Cite web |url=http://www.blairhouse.org/history/historical-events/jackson-and-the-kitchen-cabinet |title=President Andrew Jackson and the “Kitchen Cabinet” (1829–1831) |publisher=[[ブレアハウス]] |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=BritannicaBlair>{{Cite web |url=https://www.britannica.com/biography/Francis-P-Blair |title=Francis P. Blair {{!}} American politician and journalist |publisher=[[ブリタニカ百科事典]] |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=TFD-KitchenCabinet>{{Cite web |url=https://encyclopedia2.thefreedictionary.com/Kitchen+Cabinet |title=Kitchen Cabinet |website=The Free Dictionary |work=The Columbia Electronic Encyclopedia |publisher=Columbia University Press |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=CambridgeParlour>{{Cite web |url=https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/parlour |title=parlour |publisher=Cambridge University Press |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=Thompson2010>{{Cite book |first=J. Lee |last=Thompson |title=Theodore Roosevelt Abroad: Nature, Empire, and the Journey of an American President |url=https://books.google.com/books?id=1fjIAAAAQBAJ&pg=PA1 |date=2010-05-14 |publisher=Palgrave Macmillan US |isbn=978-0-230-10647-5 |page=1 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=LOC-TR>{{Cite web |url=https://www.loc.gov/item/2013650863/ |title=President Roosevelt and his Tennis Cabinet |publisher=[[アメリカ合衆国議会図書館]] |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=Goduti2009>{{Cite book|first=Philip A. Jr. |last=Goduti |title=Kennedy's Kitchen Cabinet and the Pursuit of Peace: The Shaping of American Foreign Policy, 1961-1963 |url=https://books.google.com/books?id=z2YsYi-8DskC&pg=PA1 |date=2009-10-21 |publisher=McFarland |isbn=978-0-7864-5455-6 |page=1 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=NYT1961>{{Cite web |url=https://www.nytimes.com/1961/03/05/archives/inside-the-kennedy-kitchen-cabinet-a-student-of-the-presidency.html |title=Inside the Kennedy 'Kitchen Cabinet'; A student of the Presidency reflects on the special advisers who serve as Mr. Kennedy's extra hands, and on what they reveal about the new Administration. |first=Sidney |last=Hyman |date=1961-03-05 |publisher=[[New York Times]] |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=Time1975>{{Cite web |url=http://content.time.com/time/magazine/article/0,9171,917908,00.html |title=The Nation: Scenario of the Shake-Up |date=1975-11-17 |publisher=[[Time]] |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=Telegraph2019>{{Cite web |url=https://www.telegraph.co.uk/obituaries/2019/02/15/lady-falkender-harold-wilsons-controversial-secretary-powerful/ |title=Lady Falkender, Harold Wilson’s controversial secretary and powerful member of his inner circle or ‘kitchen cabinet’ – obituary |publisher=[[テレグラフ]] |date=2019-02-15 |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=Guardian1995>{{Cite web |url=https://www.theguardian.com/politics/1995/may/25/obituaries |title=Harold Wilson obituary |publisher=[[The Guardian]] |date=1995-05-25 |first=Geoffrey |last=Goodman |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=Guardian2003>{{Cite web |url=https://www.theguardian.com/politics/2003/jun/18/labour.whitehall |title=Under the influence |publisher=[[The Guardian]] |date=2003-06-18 |first=Tom |last=Happold |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=Telegraph2003>{{Cite web |url=https://www.telegraph.co.uk/news/1429856/Clare-Short-quits-Cabinet.html |title=Clare Short quits Cabinet |publisher=[[テレグラフ]] |date=2003-05-12 |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=TOI2003>{{Cite web |url=https://timesofindia.indiatimes.com/Kitchen-cabinet/articleshow/49783.cms |title=Kitchen cabinet |publisher=[[The Times of India]] |date=2003-07-06 |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=NYT2011>{{Cite web |url=https://www.nytimes.com/2011/08/05/world/asia/05GANDHI.html |title=Sonia Gandhi in the U.S. for Operation |first=Lydia |last=Polgreen |publisher=[[The New York Times]] |date=2011-08-04 |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=BBC-Sonia>{{Cite web |url=https://www.bbc.com/news/world-asia-india-42364151 |title=Sonia Gandhi retires as India Congress party president |publisher=[[BBC]] |date=2017-12-15 |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=News18-2011>{{Cite web |url=https://www.news18.com/news/politics/the-silent-power-of-sonia-gandhi-423440.html |title=The silent power of Sonia Gandhi |first=Rani |last=Singh |publisher=[[News18]] |date=2011-11-29 |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=ForbesMPP2010>{{Cite web |url=https://www.forbes.com/lists/2011/20/powerful-people_2010.html |title=The World's Most Powerful People 2010 |publisher=[[Forbes]] |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
<ref name=IT2017>{{Cite web |url=https://www.indiatoday.in/india/story/nac-files-upa-government-sonia-gandhi-congress-manmohan-singh-953876-2017-01-09 |title=NAC files made public: Was Sonia Gandhi the super PM in the UPA regime? |first1=Brijesh |last1=Pandey |
|||
|first2=Kumar Vikrant |last2=Singh |publisher=[[India Today]] |date=2017-01-09 |accessdate=2020-03-28 |language=en}}</ref> |
|||
}} |
|||
; 引用文献 |
|||
* {{Cite book |和書 |title=イギリス現代政治史 |edition=第2版 |editor=[[梅川正美]], [[阪野智一]], [[力久昌幸]] |date=2016-04-30 |publisher=[[ミネルヴァ書房]] |url=https://www.minervashobo.co.jp/book/b217884.html |isbn=9784623076246 |ref={{SfnRef|梅川・阪野・力久|2016}}}} |
|||
* {{Cite journal |url=https://academic.oup.com/jah/article-abstract/65/2/367/684253 |title=The Kitchen Cabinet and Andrew Jackson's Advisory System |trans-title=キッチン・キャビネットとアンドリュー・ジャクソンの顧問体制 |last=Latner |first=Richard B. |journal=The Journal of American History |volume=65 |issue=2 |date=1978-09 |pages=367–388 |publisher=[[Oxford University Press]] |language=en |ref={{SfnRef|Latner|1978}}}} |
|||
* {{Cite book|first=Robert V. |last=Remini |title=Andrew Jackson: The Course of American Freedom, 1822-1832 |url=https://books.google.com/books?id=kbM-AAAAQBAJ&pg=PA327 |date=2013-07-24 |publisher=JHU Press |isbn=978-1-4214-1329-7 |language=en |ref={{SfnRef|Remini|2013}}}} |
|||
== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
||
*[[ブレーントラスト]] |
* [[ブレーントラスト]] |
||
* [[猟官制]](スポイルズ・システム) |
|||
== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
2020年9月13日 (日) 02:46時点における版
政治におけるキッチン・キャビネット(英: Kitchen Cabinet)とは、大統領や首相といった政治リーダーに対して多大な影響力をおよぼす、非公式のアドバイザー集団を指す[1]。英語の cabinet には家具の収納棚の意味以外に、議院内閣制における内閣[2]や大統領制における大統領顧問団(副大統領や閣僚、首席補佐官などで構成)[3]の意味があり、これらは法的に公式な手続を経て任命される。これに対してキッチン・キャビネットは私的・非公式な存在であることから、しばしば批判的な意味合いで用いられる表現である[1]。用語の初出は、第7代アメリカ合衆国大統領アンドリュー・ジャクソン政権期とされるが[4]、米国以外の国政においてもキッチン・キャビネットの表現が用いられることがある。
アメリカ合衆国
キッチン・キャビネットはジャクソン政権初期の1829年から1831年にかけて暗躍したとされ、当時の副大統領ジョン・カルフーンと国務長官マーティン・ヴァン・ビューレンが主導権をめぐって不仲だったことが主因とされる[5][6]。これにより、大統領顧問団による会合が機能不全に陥ったことから[5]、公式な大統領顧問団は「パーラー・キャビネット」(parlor cabinet)と批判的に呼ばれるようになった[7]。パーラーとは談話室や応接室の意味であり[8]、ジャクソンと協議するには、人目を忍んでキッチンから裏階段を昇ってジャクソンの書斎を個別訪問する必要があるとの憶測から、この呼称が使われるようになった[6]。
そしてジャクソンは公式の大統領顧問団会合を開催しなくなり、代わりに腹心とも言うべき知人やアドバイザーを私的に重用するようになったことから、この非公式集団を指して「キッチン・キャビネット」と反政府的なメディアから後に呼ばれるようになった[5]。その中核的役割を果たしたのが、フランシス・プレストン・ブレアとエイモス・ケンドールである[注 1]。ブレアは1830年にジャクソン政権を支持する党組織 The Washington Globe を創立し、機関紙 Congressional Globe を発行した政治ジャーナリストである[5][10]。また、ケンドールは同紙上でジャクソンの政策を強固に支持し、その有能さからキッチン・キャビネット内で最も影響力が強かったとも言われる[9]。
政権発足から2年後の1831年、ペティコート事件(別称: イートン・スキャンダル)を受けて国務長官ヴァン・ビューレンと陸軍長官ジョン・ヘンリー・イートンが辞任に追い込まれたことに端を発し、ジャクソンが公式な大統領顧問団を全面的に入れ替えた結果、非公式なキッチン・キャビネットの影響力は徐々に減退した[5]。なお、キッチン・キャビネットの概念が記録上で確認できるのは、ヴァン・ビューレンらが去った後の1831年12月が初であり(発言者はジャクソンの銀行戦対応に苦悩していた第二合衆国銀行のニコラス・ビドル総裁)、さらに紙面上で一般にこの表現が用いられたのは翌年1832年3月に入ってからである[11]。
ジャクソン政権以外での用例
- セオドア・ルーズベルト(第26代大統領)- ジャクソンのような深刻さはないものの、「テニス・キャビネット」との意見交換を行っていたことで知られる[12][13]。
- ジョン・F・ケネディ(第35代大統領)- キッチン・キャビネットのメンバーには、マクジョージ・バンディ、ロバート・マクナマラ(後の世界銀行総裁)、マクスウェル・D・テイラー、セオドア・C・ソレンセン、実弟ロバート・ケネディの名が挙げられる[14]。キッチン・キャビネットを起用することで、第32代大統領フランクリン・ルーズベルト型のリーダーシップを志向したとされる[15]。
- ジェラルド・R・フォード(第38代大統領)- フォードは副大統領時代からの側近たちを大統領就任後も重用した[16]。
イギリス
米国から遅れること約1世紀半後、議院内閣制をとるイギリスでも第1次ウィルソン内閣(1964 - 1970年)でキッチン・キャビネットの表現が初めて使われるようになったほか、ブレア内閣(1997 - 2007年)でもキッチン・キャビネットの存在は批判された[1]。
労働党所属のハロルド・ウィルソンは政治経済の専門家志向が強いと言われ、政府による経済介入に積極的であった[注 2]。ウィルソンのキッチン・キャビネットにはジャーナリストのジョー・ヘインズ、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教鞭を執っていたバーナード・ドノヒュー、運輸省副大臣を務めたアルバート・マリーなどがいた[18]。その中でも特に、ウィルソンの私設秘書を長年務めたマルシア・ウィリアムズ(ファルケンダー男爵夫人)は、ウィルソンと不倫関係を疑われてマスコミから好奇の目と批判に晒されただけでなく[1][18]、他のキッチン・キャビネットのメンバーからも内部的に中傷されることさえあった[18][19]。
同じく労働党のトニー・ブレアは、議院内閣制のイギリスにあってアメリカ合衆国大統領型のリーダーシップスタイルをとったことで知られている[20]。2003年当時のブレア政権下では、米国が主体となって遂行したイラク戦争にイギリスも派兵しており、その意思決定において選挙の洗礼を受けていない特別顧問たちをブレアが重用する姿勢が批判された[21][1]。その批判の急先鋒の一人がクレア・ショートである[21]。ショートはブレア政権下で国際開発大臣を約6年務めるも、ブレアとの意見不一致を理由に2003年に辞任した[22]。そして辞任表明の翌月にはブレアのキッチン・キャビネットとして、元外交官で首席補佐官のジョナサン・パウエル、ジャーナリスト出身で首席報道官を務めるアラステア・キャンベル、政策秘書のモーガン女史、および駐米大使のデヴィッド・マニングをショートは名指しして痛烈に批判した[21]。またこの4名以外にも、ブレアの幼少期からの友人アンジー・ハンター、政策担当ジェフ・ムルガンおよびデヴィッド・ミリバンドなどがキッチン・キャビネット・メンバーとみなされている[23]。
ブレアが閣僚よりも私的アドバイザー陣であるキッチン・キャビネットを重視する姿勢は、「ソファ政治」や「デノクラシー」(denocracy)とも形容された。これはブレアの鎮座するソファの周り、あるいは隠れ家(den)的な部屋にキッチン・キャビネットが集まって意思決定を行ったことに由来する[24]。
インド
第9代インド共和国首相ラジーヴ・ガンディー(首相在任: 1984 - 1989年)の妻であり、自らも1998年から2017年にかけて有力政党のインド国民会議で総裁を務めたソニア・ガンディーは[25]、他者に仕えるキッチン・キャビネットの一員としての顔と、キッチン・キャビネットを率いるリーダーとしての顔を併せ持つ[26][27][28][29]。
ソニアは自ら首相の座に就くことはなく、代わりに2004年にマンモハン・シンを首相に指名[28]。シン首相は国家諮問評議会(NAC)を設立して、ソニアを議長に据えた。NAC議長の政治判断は、シン首相の実質的な権力を超えており、ソニアは「超首相」の権力を掌握し、このNACがキッチン・キャビネットに準ずるといわれている[27]。ソニアはフォーブス誌が選ぶ2010年の世界有力者リストで、世界各国の首脳と肩を並べて第9位にランクインしたほか[29][30][注 3]、2011年にはニューヨークタイムズ紙が「インドで最も権威ある政治家」と評した[28]。ソニアのキッチン・キャビネットには、首都デリーで州首相を務めたシェイラ・ディクシットなどの名が挙げられる[26]。
注釈
- ^ ブレアが中心人物だったとする説と[5]、ケンドールとする説[9]がある。
- ^ ウィルソン政権では「イギリスの全面的な現代化」を掲げており、戦後イギリス政治が構築した諸改革の体制を基盤に、さらなる安定化を図った時代である[17]。
- ^ ソニア・ガンディーがランクインしたフォーブスの有力者リスト(The World's Most Powerful People 2010)は2011年に発表され、集計対象は2010年である。トップ10は上位から順に、胡錦濤国家主席(中国)、オバマ大統領(米国)、アブドラ国王(サウジアラビア)、プーチン大統領(ロシア)、ベネディクト16世(ローマ教皇)、メルケル首相(ドイツ)、キャメロン首相(イギリス)、バーナンキFRB議長(米国)、ソニア・ガンディー(インド)、ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)となっている。
出典
- ^ a b c d e 梅川・阪野・力久 2016, p. 107, § 第4章 (執筆者: 力久昌幸).
- ^ “cabinet” (英語). The Free Dictionary. American Heritage Dictionary of the English Language, Fifth Edition. Houghton Mifflin Harcourt Publishing Company. 2020年3月28日閲覧。
- ^ “The Cabinet” (英語). アメリカ合衆国ホワイトハウス. 2020年3月28日閲覧。
- ^ Latner 1978, p. 367.
- ^ a b c d e f “President Andrew Jackson and the “Kitchen Cabinet” (1829–1831)” (英語). ブレアハウス. 2020年3月28日閲覧。
- ^ a b Remini 2013, p. 326.
- ^ Remini 2013, pp. 326–328.
- ^ “parlour” (英語). Cambridge University Press. 2020年3月28日閲覧。
- ^ a b “Kitchen Cabinet” (英語). The Free Dictionary. The Columbia Electronic Encyclopedia. Columbia University Press. 2020年3月28日閲覧。
- ^ “Francis P. Blair | American politician and journalist” (英語). ブリタニカ百科事典. 2020年3月28日閲覧。
- ^ Remini 2013, p. 327.
- ^ Thompson, J. Lee (2010-05-14) (英語). Theodore Roosevelt Abroad: Nature, Empire, and the Journey of an American President. Palgrave Macmillan US. p. 1. ISBN 978-0-230-10647-5
- ^ “President Roosevelt and his Tennis Cabinet” (英語). アメリカ合衆国議会図書館. 2020年3月28日閲覧。
- ^ Goduti, Philip A. Jr. (2009-10-21) (英語). Kennedy's Kitchen Cabinet and the Pursuit of Peace: The Shaping of American Foreign Policy, 1961-1963. McFarland. p. 1. ISBN 978-0-7864-5455-6
- ^ Hyman, Sidney (1961年3月5日). “Inside the Kennedy 'Kitchen Cabinet'; A student of the Presidency reflects on the special advisers who serve as Mr. Kennedy's extra hands, and on what they reveal about the new Administration.” (英語). New York Times. 2020年3月28日閲覧。
- ^ “The Nation: Scenario of the Shake-Up” (英語). Time (1975年11月17日). 2020年3月28日閲覧。
- ^ 梅川・阪野・力久 2016, pp. 84–85, § 第4章 (執筆者: 力久昌幸).
- ^ a b c “Lady Falkender, Harold Wilson’s controversial secretary and powerful member of his inner circle or ‘kitchen cabinet’ – obituary” (英語). テレグラフ (2019年2月15日). 2020年3月28日閲覧。
- ^ Goodman, Geoffrey (1995年5月25日). “Harold Wilson obituary” (英語). The Guardian. 2020年3月28日閲覧。
- ^ 梅川・阪野・力久 2016, pp. 214, 217, 218, § 第9章 (執筆者: 近藤康史).
- ^ a b c Happold, Tom (2003年6月18日). “Under the influence” (英語). The Guardian. 2020年3月28日閲覧。
- ^ “Clare Short quits Cabinet” (英語). テレグラフ (2003年5月12日). 2020年3月28日閲覧。
- ^ 梅川・阪野・力久 2016, pp. 217–218, § 第9章 (執筆者: 近藤康史).
- ^ 梅川・阪野・力久 2016, p. 218, § 第9章 (執筆者: 近藤康史).
- ^ “Sonia Gandhi retires as India Congress party president” (英語). BBC (2017年12月15日). 2020年3月28日閲覧。
- ^ a b “Kitchen cabinet” (英語). The Times of India (2003年7月6日). 2020年3月28日閲覧。
- ^ a b “NAC files made public: Was Sonia Gandhi the super PM in the UPA regime?” (英語). India Today (2017年1月9日). 2020年3月28日閲覧。
- ^ a b c Polgreen, Lydia (2011年8月4日). “Sonia Gandhi in the U.S. for Operation” (英語). The New York Times. 2020年3月28日閲覧。
- ^ a b Singh, Rani (2011年11月29日). “The silent power of Sonia Gandhi” (英語). News18. 2020年3月28日閲覧。
- ^ “The World's Most Powerful People 2010” (英語). Forbes. 2020年3月28日閲覧。
- 引用文献
- Latner, Richard B. (1978-09). “The Kitchen Cabinet and Andrew Jackson's Advisory System [キッチン・キャビネットとアンドリュー・ジャクソンの顧問体制]” (英語). The Journal of American History (Oxford University Press) 65 (2): 367–388 .
- Remini, Robert V. (2013-07-24) (英語). Andrew Jackson: The Course of American Freedom, 1822-1832. JHU Press. ISBN 978-1-4214-1329-7