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「テムノドントサウルス」の版間の差分

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*''T. trigonodon''
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*''T. acutirostris''
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*''T. azerguensis'' <small>Martin ''et al.'', 2012</small>
}}
}}
'''テムノドントサウルス'''([[学名]]:{{snamei|Temnodontosaurus}})は約2億年前から1億7500万年前にあたる[[前期ジュラ紀]][[ヘッタンギアン]]から[[トアルシアン]]にかけて生息した[[魚竜]]の絶滅した属。[[ヨーロッパ]]に分布しており、[[イングランド]]、[[フランス]]、[[ドイツ]]、[[ベルギー]]から化石が産出している。開けた海洋の深い海域に生息したとされていた<ref name="Motani R.(2000)">Motani R.(2000). “Rulers of the Jurassic seas”. Scientific American. 283 (6): 52-59</ref>が、ドイツでの標本個体は浅い海域に生息した可能性があるという研究結果が[[2018年]]に発表された<ref name=Judith/>。[[ブリストル大学]]の古生物学者ジェレミー・マーティンはテムノドントサウルスを「生態学的に最も異なる魚竜の属の1つ」として評価している<ref name="J.E. Martin et al.(2010)">J.E. Martin et al.(2010). ''A longirostrine Temnodontosaurus (Ichthyosauria) with comments on Early Jurassic ichthyosaur niche partitioning and disparity.'' Palaeontology 55 (5), 995–1005</ref>。


テムノドントサウルスは最大の魚竜の1つである。テムノドントサウルスの全長の最大推定は9メートル<ref name="McGowan, C. (1995)">McGowan, C. (1995). "Temnodontosaurus risor is a Juvenile of ''T. platyodon'' (Reptilia: Ichthyosauria)". Journal of Vertebrate Paleontology. 14 (4): 472–479</ref>から12メートル<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)">Maisch MW, Matzke AT. (2000). The Ichthyosauria. ''Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde Serie B (Geologie und Paläontologie)'' '''298''': 1-159</ref>の範囲に収まる。最大の推定値であれば、かつて最大の魚竜と考えられていた巨大な魚竜[[ショニサウルス|ショニサウルス・ポピュラリス]]に匹敵する。
'''テムノドントサウルス'''(''Temnodontosaurus'')は[[ジュラ紀]]前期に生息していた[[魚竜]]の一種。[[化石]]は[[イギリス]]や[[ドイツ]]など、[[ヨーロッパ]]の各地で見つかっている。[[学名]]の意味は「[[切歯]]を持つ[[爬虫類]]」。


テムノドントサウルスは非常に大きい眼で知られており、直径は20センチメートルと推定され、既知の動物で最大とされている<ref name="Sander,P.M.(2000)">Sander,P.M.(2000). "Ichthyosauria: their diversity, distribution, and phylogeny", Paläontologische Zeitschrift 74: 1–35</ref>。ジュラ紀の魚竜の特徴として尾が湾曲しているほか、顎にある連続した溝には円錐形の歯が並んでいた<ref name="McGowan, C. (1992)" />。
大型の魚竜で全長は7〜9mに達する。発達した鰭状の[[四肢]]、大きな半月型の尾、細長い嘴状の[[吻]]が特徴的。
また、ある標本に残された歯は断面が[[レモン]]型で側面に鋸歯状の微細な突起が並ぶという特異な形態をしていたことが判っている。こうした歯の特徴は大型[[肉食]][[恐竜]]のそれを髣髴とさせるものであり、そのためにテムノドントサウルスが現生の[[シャチ]]のように他の海生脊椎動物を襲って捕食する強肉食性の動物だったと推測する研究者もいる。


テムノドントサウルスの種の数は年によって変動があり、Christopher McGowan は[[1992年]]時点でテムノドントサウルスは13種存在するとしている<ref name="McGowan, C. (1992)" />。[[2000年]]には Michael Maisch がテムノドントサウルス・プラティオドン、テムノドントサウルス・トリゴノドン、テムノドントサウルス・アクティロストリス、テムノドントサウルス・ヌエルティンゲンシスをテムノドントサウルスの有効な種として列挙した<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)"/>。
<gallery>

ファイル:Temnoscale.png|ヒトとの大きさ比較
== 形態 ==
ファイル:Temnodontosaurus burgundiae.JPG|頭骨標本
ファイル:Temnodont burg22DB.jpg|ステノプテリギウス''[[w:Stenopterygius|Stenopterygius]]を襲うテムノドントサウルス
[[Image:Temnoscale.png|thumb|left|テムノドントサウルスとヒト]]
テムノドントサウルスの体型は[[マグロ]]に類似し、長く頑強で細身であった<ref name="McGowan, C. (1992)" />。尾は胴部と同等の長さかあるいはさらに長かった<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。[[椎骨]]の数はおよそ90を下回る<ref name="McGowan C. (1996)">McGowan C. (1996). "Giant ichthyosaurs of the Early Jurassic". Canadian Journal of Earth Sciences 33(7): 1011-1021</ref>。第1頚椎と第2頚椎は癒合し、遊泳中に安定性を得ていた<ref name="Emily A. Buchholtz (2000)"/>。腹肋骨は存在しなかった<ref name="Emily A. Buchholtz (2000)" />。
ファイル:Temnod euryceph1DB.jpg|''T. eurycephalus''.

</gallery>
前肢と後肢はほぼ同じ長さで、かなり細長かった<ref name="Sander,P.M.(2000)" /><ref name="McGowan, C. (1992)" />。これは後肢の2倍以上の長さの前肢を持つ[[オフタルモサウルス科]]のような[[三畳紀]]以降の魚竜には珍しい形質である<ref name="J.E. Martin et al.(2010)" /><ref name="McGowan, C. (1992)" />。また[[腰帯]]が縮小しておらず、これも三畳紀以降の魚竜には珍しい<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。他の魚竜と同様、[[指骨]]は複雑化していたが<ref name="Sander,P.M.(2000)" />、[[イクチオサウルス]]が主要な指骨を6 - 7本持つ一方でテムノドントサウルスのものは3本に過ぎなかった<ref name="McGowan, C. (1992)" />。また、後軸方向に付属の指骨が存在した<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。ヒレの遠位の骨が相対的に丸い形状を構成するのに対し、近位の骨はモザイク状になっていた<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。ヒレの前側の縁には窪みが2つ存在した<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" /><ref name="Sander,P.M.(2000)" />。対になったヒレは[[櫂]]や推進装置の代わりに舵取りと安定化に用いられた<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。腰帯は3つの骨から構成される<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。三角形の背ビレが存在した。

[[File:Temnodontosaurus platydon (cast), Lyme Regis, England, Early Jurassic - Royal Ontario Museum - DSC09976.JPG|thumbnail|テムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨のキャスト]]
他の魚竜と同様にテムノドントサウルスの視力は高く<ref name="Motani R.(2005)" />、狩りの際には主要な感覚として視覚を用いていた。テムノドントサウルス・プラティオドンの眼の測定から、テムノドントサウルスの眼は魚竜、さらには計測された全ての動物の中で最大である<ref name="Motani R.(2005)" >Motani R.(2005). ''Evolution of fish-shaped reptiles (Reptilia : Ichthyopterygia) in their physical environments and constraints.'' Annual Review of Earth and Planetary Sciences. 33: 395-420</ref>。ただし眼球の大きさに関わらず、眼球が向く角度の関係で頭部の直上には死角が存在した。テムノドントサウルスには[[強膜輪]]があり、眼球に強度がもたらされていた<ref name="McGowan, C. (1992)" />。テムノドントサウルス・プラティオドンの強膜輪は最低で直径25センチメートルに達する<ref name="Motani R.(2005)" />。

[[File:Temnod euryceph1DB.jpg|thumb|left|テムノドントサウルス・ユーリケファルスの復元図]]
テムノドントサウルスの頭部には長く頑強な吻部および狭窄した眼窩が存在する<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。また[[上顎骨]]<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />・[[頬骨]]<ref name="Sander,P.M.(2000)" />・[[後眼窩骨]]<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />が長い。[[基蝶形骨]]上の頸動脈孔は[[副蝶形骨]]で分断されてペアをなしている<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。テムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨は約1 - 1.5メートルと計測されている<ref name="McGowan, C. (1995)"/>。

テムノドントサウルス・ユーリケファルスは他の種と比較して短い吻部と上下に高い頭部を持ち、餌の破砕に役立てていた可能性がある<ref name="McGowan, C. (1992)" />テムノドントサウルス・プラティオドンの吻部は細長く、背側に向かってわずかに湾曲していた<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。テムノドントサウルス・トリゴノドンの吻部も細長いが、こちらは腹側に向かってわずかに湾曲していた<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。テムノドントサウルス・アクティロストリスの吻部も細く、先端はさらに尖っていた<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。

テムノドントサウルスは尖った円錐形の歯を連続した溝の中に数多く持っており、この歯の生え方は aulacodonty として知られている<ref name="Sander,P.M.(2000)" /><ref name="McGowan, C. (1992)" />。典型的なテムノドントサウルスの歯には2 - 3本の隆起が存在する<ref name="Sander,P.M.(2000)" />が、テムノドントアウルス・ヌエルティンゲンシスには存在しない<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。テムノドントサウルス・ユーリケファルスは膨らんだ[[歯根]]を有する。

[[カーディフ国立博物館]]に所蔵されているテムノドントサウルスの頭骨標本にCTスキャンをかけ、内側と外側から筋肉の量と分布が解析された。この結果、顎の筋肉は4つのグループに大別され、5000立方センチメートルの体積があったことが判明した。また、顎は[[第3種てこ]]のように作用し、[[顎関節]]が支点として後方に存在して下顎が回転して開く。筋肉が力点として下顎を惹きつけ、獲物に打撃を与える作用点では莫大な運動が得られる。その代わり最大の咬合力は顎の後方で得られ、その力は[[ティラノサウルス]]には及ばないものの[[イリエワニ]]や[[ホホジロザメ]]を上回る30,000ニュートン(約3,000キログラム)以上であったと推測されている<ref>{{Cite web |author = |date = |url = http://www.bbc.co.uk/programmes/articles/3gBPbbRKVJQxRMwYkkPqPGM/big-jaws-big-bite |title = Big jaws, big bite? |work = |publisher = [[英国放送協会]]|accessdate = 2018-12-29}}</ref>。

テムノドントサウルスの尾は角度35°未満で弱く湾曲しており<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />、尾ビレは三日月状<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />または半月状<ref name="Sander,P.M.(2000)" />に描写される。尾ビレは2つの突出物から構成され、上部が骨に支えられていない一方で下部は骨に支えられている<ref name="McGowan, C. (1992)">McGowan, C. (1992). Dinosaurs, Spitfires and Sea Dragons. Harvard University Press</ref>。尾は運動のための主要な推進力に使われ、ヒレは推進に関与しなかった<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。

== 生態 ==
=== 摂食 ===
テムノドントサウルスはジュラ紀前期の海において[[頂点捕食者]]であった<ref name="J.E. Martin et al.(2010)" />。主に[[魚類]]・[[首長竜]]・他の[[魚竜]]といった脊椎動物を主な食糧としており、[[頭足類]]を捕食した可能性もある<ref name="McGowan, C. (1992)" />。なお、脊椎動物を常食としていたことが提案されたジュラ紀の魚竜はテムノドントサウルスのみである<ref name="J.E. Martin et al.(2010)" />。[[シュトゥットガルト自然史博物館]]に所蔵されているテムノドントサウルス・トリゴノドンの標本の腹部からは[[ステノプテリギウス]]の遺骸が確認できる<ref name="Thies, D. & Hauff, R.B. (2013)">Thies, D. & Hauff, R.B. (2013). ''A Speiballen from the Lower Jurassic Posidonia Shale of South Germany''. – N. Jb. Geol. Paläont. Abh., 267: 117–124; Stuttgart</ref>。また、頑丈な歯と深い顎により、テムノドントサウルス・ユーリケファルスは他の魚竜のような大型の獲物を捕食していたと推定されている。一方でテムノドントサウルス・プラティオドンのような種は鋭いが控えめな大きなの歯を有し、魚のような小型の獲物や体の柔らかい獲物を捕食していた可能性がある<ref name="McGowan C. (1996)" />。テムノドントサウルスは捕食の際、口を開けた状態で獲物に向かって前進して摂食していた可能性が高い<ref name="Scheyer, Torsten M. et al. (2014)">Scheyer, Torsten M. et al. (2014). ''Early Triassic Marine Biotic Recovery: The Predators’ Perspective.'' PLoS ONE 9.3 (2014): e88987</ref>。顎の動作は俊敏であり、捕食の際には咀嚼ではなく噛み付く手法を取っていたと考えられている<ref name="McGowan, C. (1992)" />。

=== 遊泳 ===
他の魚竜と同様にテムノドントサウルスの遊泳速度は高速で<ref name="McGowan, C. (1992)" />、テムノドントサウルスのようなジュラ紀の魚竜は柔軟な尾の先に存在する尾ビレを使って遊泳していた<ref name="Emily A. Buchholtz (2000)" />。テムノドントサウルス・トリゴノドンの体は長く薄い上に非常に柔軟性が高く、椎骨の総数が多く局部的な差も小さかった<ref name="Emily A. Buchholtz (2000)" />。巨大なヒレを櫂として用いていた<ref name="Emily A. Buchholtz (2000)" />。遊泳スタイルはマグロに類似し、[[ウナギ]]のように遊泳した基盤的な魚竜とは異なる<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。半月状の尾ビレや、尾よりも胴部が短いことなどが、テムノドントサウルスなど三畳紀以降の魚竜の特徴として挙げられる<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。

=== 外傷 ===
[[2018年]][[10月24日]]に発表された論文でテムノドントサウルスの標本41個の解析が行われ、最も多く観察された病変は同種間での競争に端を発する外傷であり、頭骨・肋骨・胸骨・前肢に集中し、回復に向かう兆候が見られた。肋骨の骨折は大抵の標本において頭部など他の部位の外傷の数と相関が確認され、頭部の外傷は絶滅したクジラ類や[[モササウルス類]]のものと類似する。ただし、他の大半の海生有羊膜類とは異なりテムノドントサウルスの脊柱には外傷が見られなかったことから、これらの頂点捕食者には機能的な差異が存在したと考えられている<ref name=Judith/>。

さらにドイツ南部から産出した標本には[[減圧症]]による阻血性壊死の痕跡が確認されず、この生物が浅海域に生息していた可能性がある。イギリスから産出したものには減圧症の症状が見られるため、両者には生息環境の違いがあったと考えられる<ref name=Judith>{{cite journal |author=Judith M. Pardo-Pérez ''et al.'' |year=2018 |title=Pathological survey on Temnodontosaurus from the Early Jurassic of southern Germany |journal=PLOS ONE |volume= |issue= |pages= |doi=10.1371/journal.pone.0204951 }}</ref>。

== 発見 ==
[[File:Anning 1st ichthyosaur skeleton.jpg|thumb|left|[[メアリー・アニング]]が[[1812年]]に発見したテムノドントサウルス・プラティオドンの骨格]]
最初に発見された魚竜の頭骨はテムノドントサウルス・プラティオドンのものであった。その標本 BMNH 2149 は[[1811年]]にジョセフ・アニングがライムレジスのリアス海岸にて発見した<ref name="Davis, Larry E. (2009)">Davis, Larry E. (2009). "Mary Anning of Lyme Regis: 19th Century Pioneer in British Palaeontology". Headwaters: The Faculty Journal of the College of Saint Benedict and Saint John’s University 26: 96-126</ref>。骨格の残りの部分は[[1812年]]に彼の妹[[メアリー・アニング]]が発見したが、長きにわたって紛失されていた<ref name="Davis, Larry E. (2009)" />。その後化石は[[エヴァラード・ホーム]]が記載し、これが魚竜についての初めての科学的な記載であった。テムノドントサウルス・プラティオドンはテムノドントサウルスの模式種であり、かつ最も一般的な種である<ref name="McGowan, C. (1992)" />。模式標本の頭骨は[[ロンドン自然史博物館]]に所蔵されている<ref name="Davis, Larry E. (2009)" />。標本はもともとイクチオサウルス・プラティオドンと命名されていたが、後にテムノドントサウルスに改名された<ref name="Pierce, P. (2006)">Pierce, P. (2006). ''Jurassic Mary: Mary Anning and the Primeval Monsters''. Sutton Publishing</ref>。

== 分類 ==
[[File:AnningIchthyosaurSkull.jpg|thumbnail|メアリー・アニングとジョセフ・アニングにより発見されたテムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨の絵]]
[[File:HawkinsSeaDragonsPlate2.jpg|thumbnail|テムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨の絵。[[トマス・ホーキンス]]の[[1840年]]の著書"Sea Dragons"より]]
テムノドントサウルスはテムノドントサウルス科に属する唯一の属である<ref>[http://comenius.susqu.edu/biol/202/animals/deuterostomes/vertebrata/eodiapsida/default.htm HIERARCHICAL TAXONOMY OF THE CLASS EODIAPSIDA]. Retrieved January 16, 2009.</ref><ref name="McGowan, C. (1974)" >McGowan, C. (1974). "A revision of the longipinnate ichthyosaurs of the Lower Jurassic of England, with descriptions of two new species (Reptilia, Ichthyosauria)". Life Sciences Contributions, Royal Ontario Museum 97: 1–37</ref>。テムノドントサウルス科は C. McGowan により記載され<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />、Martin Sander が[[2000年]]に命名した単系統のグループ[[新魚竜類]]に属する。このグループにはテムノドントサウルス科のほかに[[レプトネクテス科]]と[[スエヴォレヴィアタン科]]が含まれる<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。テムノドントサウルスは三畳紀以降の魚竜の中では最も基盤的なものの1つである<ref name="Michael W. Maisch. (2010)">Michael W. Maisch. (2010). "Phylogeny, systematics, and origin of the Ichthyosauria – the state of the art". Palaeodiversity 3, 152-65</ref>。

下の[[クラドグラム]]は Maisch and Matzke (2000)<ref name=MaischandMatzke2000>{{cite journal |vauthors=Maisch MW, Matzke AT |year=2000 |title=The Ichthyosauria |url=http://www.naturkundemuseum-bw.de/stuttgart/pdf/b_pdf/B298.pdf |journal=Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde: Serie B |volume=298 |pages=159 }}{{Dead link|date=June 2018 |bot=InternetArchiveBot |fix-attempted=no }}</ref>および Maisch and Matzke (2003)<ref name=DM10>{{cite journal |vauthors = Maisch MW, Matzke AT |year=2003 |title=Observations on Triassic ichthyosaurs. Part XII. A new Lower Triassic ichthyosaur genus from Spitzbergen |journal=Neues Jahrbuch für Geologie und Paläontologie, Abhandlungen |volume=229 |issue= |pages=317–338 }}</ref>に基づき、分類群の名称は Maisch (2010)<ref name=Maisch2010>{{cite journal |vauthors = Maisch MW |year=2010 |title=Phylogeny, systematics, and origin of the Ichthyosauria – the state of the art |url=http://www.palaeodiversity.org/pdf/03/Palaeodiversity_Bd3_Maisch.pdf |journal=Palaeodiversity |volume=3 |issue= |pages=151–214 }}</ref>に従う。
{{Clade | style=font-size:85%;line-height:85%
|label1=[[メリアノサウルス類]]&nbsp;
|1={{Clade
|1=[[ペッソプテリクス]] (=メリアノサウルス)
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|1=[[ベサノサウルス]]
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|1='''テムノドントサウルス'''
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|1=[[レプトネクテス科|ユーリノサウルス類]]
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|1=[[イクチオサウルス]]
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|2=[[オフタルモサウルス科]] }} }} }} }} }} }} }} }} }} }} }} }} }} }}

=== 種 ===
[[File:Crytsal Palace Temnodontosaurus.jpg|thumb|[[クリスタル・パレス・パーク]]の古い模型]]
テムノドントサウルス・プラティオドンは[[1822年]]に William Conybeare によりライムレジスの BMNH 2003 から命名された<ref name="Davis, Larry E. (2009)" />。この標本はロンドン自然史博物館に所蔵されている<ref name="Davis, Larry E. (2009)" />。テムノドントサウルス・プラティオドンはヘッタンギアン後期からシネムーリアン前期にあたる層から産出し<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />、テムノドントサウルスの模式種である。テムノドントサウルス・プラティオドンの標本は[[イングランド]]のライムレジスと[[ドイツ]]の Herlikofen および[[ベルギー]]の[[アルロン]]から発見されている<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。完全な骨格は BMNH 2003 のみだが、保存状態の良い BMNH R1158 も発見されている<ref name="McGowan, C. (1995)" />。
[[File:Temnodontosaurus risor.JPG|thumb|left|テムノドントサウルス・リソルの頭骨]]
[[1995年]]、Christopher McGowan がかつてテムノドントサウルス・リソルに分類された標本が実際にはテムノドントサウルス・プラティオドンの幼体であることを、ライムレジスの東方に位置するブラック・ヴェンからデイヴィッド・ソールが[[1987年]]に回収した標本を用いて説明した。それまでテムノドントサウルス・リソルと考えられていた3つの頭骨標本は、巨大な眼窩と湾曲した吻部および小さな[[上顎骨]]を持っていた故にテムノドントサウルス・プラティオドンとして別種と扱われていたが、Mcgowan は頭骨に対する前肢の大きさから幼体として記載した。胴体部と比較して頭部が非常に長いことからも、やはり幼体と考えられる<ref name="McGowan, C. (1995)" />。

テムノドントサウルス・アクティロストリスは[[1840年]]に[[リチャード・オーウェン]]が記載した<ref name="Michael W. Maisch. (2010)" />。ホロタイプ BMNH 14553 はイングランド[[ヨークシャー]]の[[ウィットビー]]に存在するトアルシアンの Alum Shale 層から発見された。Michael Maisch は2000年にその標本をテムノドントサウルスとして記載した<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />が、[[2010年]]に Maisch は標本がテムノドントサウルスではなくおそらく[[イクチオサウルス]]に属すると主張した<ref name="Michael W. Maisch. (2010)" />。

テムノドントサウルス・トリゴノドンは[[1843年]]に命名された<ref name="McGowan C. (1996)" />。模式標本はトアルシアン前期にあたる<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />ドイツの Banz から産出したほぼ完全な骨格である<ref name="McGowan C. (1996)" />。標本の長さは約9.8メートルで頭骨長は1.8メートルである<ref name="McGowan C. (1996)" />。ドイツでは他の標本も発見されているほか、フランスの[[ヨンヌ県]] Saint Colombe に位置するトアルシアンの層からも産出している<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" />。

テムノドントサウルス・ロンギロストリスはトアルシアンにあたるイングランドヨークシャーのウィットビーから産出した不完全な骨格 BMNH 14566 に基づいて記載され<ref name="Benton, M.J. and Taylor, M.A. (1984)">、Benton, M.J. and Taylor, M.A. (1984). Marine reptiles from the Upper Lias (Lower Toarcian, Lower Jurassic) of the [[Yorkshire]] coast. Proceedings of the Yorkshire Geological Society. 44: 399-429</ref>、他の標本もその付近から産出している<ref name="Benton, M.J. and Taylor, M.A. (1984)" />。この種の有効性については論争が繰り広げられており、Michael Maisch はテムノドントサウルス・ロンギロストリスを有効な属と認めていない<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" /> 一方で M・J・ベントンと M・A・テイラーは有効な属とみなしている<ref name="Benton, M.J. and Taylor, M.A. (1984)" />。
[[File:Temnodontosaurus eurycephalus.JPG|thumb|left|テムノドントサウルス・ユーリケファルスの頭骨]]
テムノドントサウルス・ユーリケファルスはホロタイプ標本 R 1157 しか発見されておらず、[[1974年]]に McGowan により命名された<ref name="Maisch MW and Matzke AT. (2000)" /><ref name="McGowan, C. (1974)" />。イングランドの[[ドーセット州]]ライムレジスに位置するブロードレッジと呼ばれる[[石灰岩]]中で発見され、地質時代はシネムーリアンに該当する<ref name="McGowan, C. (1974)" />。この標本はロンドン自然史博物館に所蔵されている<ref name="J.E. Martin et al.(2010)" />。
[[File:Temnodontosaurus burgundiae.JPG|thumb|テムノドントサウルス・ブルグンディアエの頭骨]]
テムノドントサウルス・ブルグンディアエの有効性は議論されている。McGowan が1995年に本種をテムノドントサウルスに所属させるべきであると提案した<ref name="McGowan C. (1996)" />が、Michael Maisch はこれに反対しており、[[1998年]]には本種をテムノドントサウルス・トリゴノドンのジュニアシノニムとした<ref name="Emily A. Buchholtz (2000)">Emily A. Buchholtz (2000). Swimming styles in Jurassic Ichthyosaurs. Journal of Vertebrate Paleontology, 21, 63-71</ref>。マーティン・サンダーは2000年にドイツ[[ホルツマーデン]]とフランスから回収した標本をテムノドントサウルス・ブルグンディアエとして記載し、他の専門家は本種をこの標本を含むものとして解釈している<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。

テムノドントサウルス・アゼルグエンシスは[[2012年]]に[[ブリストル大学]]のジェレミー・マーティンにより記載され、トアルシアン中期の Bifrons ammonite zone から産出したほぼ完全な骨格であるホロタイプに基づいている。これは[[1984年]]にフランスの[[ローヌ県]] Belmont d’Azergues の Lafarge 採石場からデイジョブとローレントが発見したものである。発見された場所である採石場の付近にある河川と渓谷から種小名が名付けられた。

テムノドントサウルス・アゼルグエンシスは体格と胴体部の解剖学的特徴が他のテムノドントサウルスの種と似通っているが、頭骨の形態は異なる。吻部は長く薄く、[[方形骨]]が小さい。テムノドントサウルス・アゼルグエンシスの歯は極めて小さいかあるいは全く存在せず、固い外骨格や脊椎動物を捕食するのには非効率的であったと推定されており、他のテムノドントサウルスの種と比較してより小型でより柔らかい獲物を捕食していた可能性がある<ref name="J.E. Martin et al.(2010)" />。

== 古環境 ==
[[File:Temnodont burg22DB.jpg|thumb|[[ステノプテリギウス]]を襲うテムノドントサウルス・ブルグンディアエ]]
テムノドントサウルスの生息域は海岸線から離れた開けた海洋であり<ref name="Motani R.(2000)" />、海底には関与しなかった<ref name="Sander,P.M.(2000)" />。

テムノドントサウルスの化石はイングランド、ドイツ、フランスにある海洋環境に関連した岩から発見されており、特にイングランドのドーセット州ライムレジスのリアス層が顕著である。リアス層は[[石灰岩]]と[[泥岩]]の変成岩から構成され、[[アンモナイト]]が豊富に含まれている<ref name="Ambrose, K. (2001)">“The lithostratigraphy of the Blue Lias Formation (Late Rhaetian–Early Sinemurian) in the southern part of the English Midlands”. Proceedings of the Geologists' Association. 112(2): 97-110</ref>。

テムノドントサウルスの化石はドイツのホルツマーデンのポシドニア頁岩からも発見されている<ref name="Thies, D. & Hauff, R.B. (2013)" />。
ポシドニア頁岩は黒歴青頁岩と歴青石灰岩から構成されており、[[首長竜]]や[[ワニ]]、[[アンモナイト]]などの化石が豊富に発見されていることから、当時の環境は海洋であったと知られている<ref name="Bottjer, Etter, Hagadorn, Tang, editors (2001)">Bottjer, Etter, Hagadorn, Tang, editors (2001). “Exceptional Fossil Preservation”. Columbia University Press</ref>。

== 出典 ==
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2024年7月23日 (火) 02:18時点における最新版

テムノドントサウルス
Temnodontosaurus
生息年代: 前期ジュラ紀, Hettangian–トアルシアン
テムテントサウルス
テムノドントサウルス
地質時代
前期ジュラ紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
: 魚竜目 Ichthyosauria
: テムノドントサウルス科 Temnodontosauridae
: テムノドントサウルス Temnodontosaurus
学名
Temnodontosaurus
Lydekker , 1889
  • T. platyodon 模式種
  • T. eurycephalus
  • T. nuertingensis
  • T. trigonodon
  • T. acutirostris
  • T. azerguensis Martin et al., 2012

テムノドントサウルス学名:Temnodontosaurus)は約2億年前から1億7500万年前にあたる前期ジュラ紀ヘッタンギアンからトアルシアンにかけて生息した魚竜の絶滅した属。ヨーロッパに分布しており、イングランドフランスドイツベルギーから化石が産出している。開けた海洋の深い海域に生息したとされていた[1]が、ドイツでの標本個体は浅い海域に生息した可能性があるという研究結果が2018年に発表された[2]ブリストル大学の古生物学者ジェレミー・マーティンはテムノドントサウルスを「生態学的に最も異なる魚竜の属の1つ」として評価している[3]

テムノドントサウルスは最大の魚竜の1つである。テムノドントサウルスの全長の最大推定は9メートル[4]から12メートル[5]の範囲に収まる。最大の推定値であれば、かつて最大の魚竜と考えられていた巨大な魚竜ショニサウルス・ポピュラリスに匹敵する。

テムノドントサウルスは非常に大きい眼で知られており、直径は20センチメートルと推定され、既知の動物で最大とされている[6]。ジュラ紀の魚竜の特徴として尾が湾曲しているほか、顎にある連続した溝には円錐形の歯が並んでいた[7]

テムノドントサウルスの種の数は年によって変動があり、Christopher McGowan は1992年時点でテムノドントサウルスは13種存在するとしている[7]2000年には Michael Maisch がテムノドントサウルス・プラティオドン、テムノドントサウルス・トリゴノドン、テムノドントサウルス・アクティロストリス、テムノドントサウルス・ヌエルティンゲンシスをテムノドントサウルスの有効な種として列挙した[5]

形態

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テムノドントサウルスとヒト

テムノドントサウルスの体型はマグロに類似し、長く頑強で細身であった[7]。尾は胴部と同等の長さかあるいはさらに長かった[5]椎骨の数はおよそ90を下回る[8]。第1頚椎と第2頚椎は癒合し、遊泳中に安定性を得ていた[9]。腹肋骨は存在しなかった[9]

前肢と後肢はほぼ同じ長さで、かなり細長かった[6][7]。これは後肢の2倍以上の長さの前肢を持つオフタルモサウルス科のような三畳紀以降の魚竜には珍しい形質である[3][7]。また腰帯が縮小しておらず、これも三畳紀以降の魚竜には珍しい[6]。他の魚竜と同様、指骨は複雑化していたが[6]イクチオサウルスが主要な指骨を6 - 7本持つ一方でテムノドントサウルスのものは3本に過ぎなかった[7]。また、後軸方向に付属の指骨が存在した[5]。ヒレの遠位の骨が相対的に丸い形状を構成するのに対し、近位の骨はモザイク状になっていた[5]。ヒレの前側の縁には窪みが2つ存在した[5][6]。対になったヒレはや推進装置の代わりに舵取りと安定化に用いられた[6]。腰帯は3つの骨から構成される[6]。三角形の背ビレが存在した。

テムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨のキャスト

他の魚竜と同様にテムノドントサウルスの視力は高く[10]、狩りの際には主要な感覚として視覚を用いていた。テムノドントサウルス・プラティオドンの眼の測定から、テムノドントサウルスの眼は魚竜、さらには計測された全ての動物の中で最大である[10]。ただし眼球の大きさに関わらず、眼球が向く角度の関係で頭部の直上には死角が存在した。テムノドントサウルスには強膜輪があり、眼球に強度がもたらされていた[7]。テムノドントサウルス・プラティオドンの強膜輪は最低で直径25センチメートルに達する[10]

テムノドントサウルス・ユーリケファルスの復元図

テムノドントサウルスの頭部には長く頑強な吻部および狭窄した眼窩が存在する[6]。また上顎骨[5]頬骨[6]後眼窩骨[5]が長い。基蝶形骨上の頸動脈孔は副蝶形骨で分断されてペアをなしている[5]。テムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨は約1 - 1.5メートルと計測されている[4]

テムノドントサウルス・ユーリケファルスは他の種と比較して短い吻部と上下に高い頭部を持ち、餌の破砕に役立てていた可能性がある[7]テムノドントサウルス・プラティオドンの吻部は細長く、背側に向かってわずかに湾曲していた[5]。テムノドントサウルス・トリゴノドンの吻部も細長いが、こちらは腹側に向かってわずかに湾曲していた[5]。テムノドントサウルス・アクティロストリスの吻部も細く、先端はさらに尖っていた[5]

テムノドントサウルスは尖った円錐形の歯を連続した溝の中に数多く持っており、この歯の生え方は aulacodonty として知られている[6][7]。典型的なテムノドントサウルスの歯には2 - 3本の隆起が存在する[6]が、テムノドントアウルス・ヌエルティンゲンシスには存在しない[5]。テムノドントサウルス・ユーリケファルスは膨らんだ歯根を有する。

カーディフ国立博物館に所蔵されているテムノドントサウルスの頭骨標本にCTスキャンをかけ、内側と外側から筋肉の量と分布が解析された。この結果、顎の筋肉は4つのグループに大別され、5000立方センチメートルの体積があったことが判明した。また、顎は第3種てこのように作用し、顎関節が支点として後方に存在して下顎が回転して開く。筋肉が力点として下顎を惹きつけ、獲物に打撃を与える作用点では莫大な運動が得られる。その代わり最大の咬合力は顎の後方で得られ、その力はティラノサウルスには及ばないもののイリエワニホホジロザメを上回る30,000ニュートン(約3,000キログラム)以上であったと推測されている[11]

テムノドントサウルスの尾は角度35°未満で弱く湾曲しており[5]、尾ビレは三日月状[5]または半月状[6]に描写される。尾ビレは2つの突出物から構成され、上部が骨に支えられていない一方で下部は骨に支えられている[7]。尾は運動のための主要な推進力に使われ、ヒレは推進に関与しなかった[5]

生態

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摂食

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テムノドントサウルスはジュラ紀前期の海において頂点捕食者であった[3]。主に魚類首長竜・他の魚竜といった脊椎動物を主な食糧としており、頭足類を捕食した可能性もある[7]。なお、脊椎動物を常食としていたことが提案されたジュラ紀の魚竜はテムノドントサウルスのみである[3]シュトゥットガルト自然史博物館に所蔵されているテムノドントサウルス・トリゴノドンの標本の腹部からはステノプテリギウスの遺骸が確認できる[12]。また、頑丈な歯と深い顎により、テムノドントサウルス・ユーリケファルスは他の魚竜のような大型の獲物を捕食していたと推定されている。一方でテムノドントサウルス・プラティオドンのような種は鋭いが控えめな大きなの歯を有し、魚のような小型の獲物や体の柔らかい獲物を捕食していた可能性がある[8]。テムノドントサウルスは捕食の際、口を開けた状態で獲物に向かって前進して摂食していた可能性が高い[13]。顎の動作は俊敏であり、捕食の際には咀嚼ではなく噛み付く手法を取っていたと考えられている[7]

遊泳

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他の魚竜と同様にテムノドントサウルスの遊泳速度は高速で[7]、テムノドントサウルスのようなジュラ紀の魚竜は柔軟な尾の先に存在する尾ビレを使って遊泳していた[9]。テムノドントサウルス・トリゴノドンの体は長く薄い上に非常に柔軟性が高く、椎骨の総数が多く局部的な差も小さかった[9]。巨大なヒレを櫂として用いていた[9]。遊泳スタイルはマグロに類似し、ウナギのように遊泳した基盤的な魚竜とは異なる[6]。半月状の尾ビレや、尾よりも胴部が短いことなどが、テムノドントサウルスなど三畳紀以降の魚竜の特徴として挙げられる[6]

外傷

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2018年10月24日に発表された論文でテムノドントサウルスの標本41個の解析が行われ、最も多く観察された病変は同種間での競争に端を発する外傷であり、頭骨・肋骨・胸骨・前肢に集中し、回復に向かう兆候が見られた。肋骨の骨折は大抵の標本において頭部など他の部位の外傷の数と相関が確認され、頭部の外傷は絶滅したクジラ類やモササウルス類のものと類似する。ただし、他の大半の海生有羊膜類とは異なりテムノドントサウルスの脊柱には外傷が見られなかったことから、これらの頂点捕食者には機能的な差異が存在したと考えられている[2]

さらにドイツ南部から産出した標本には減圧症による阻血性壊死の痕跡が確認されず、この生物が浅海域に生息していた可能性がある。イギリスから産出したものには減圧症の症状が見られるため、両者には生息環境の違いがあったと考えられる[2]

発見

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メアリー・アニング1812年に発見したテムノドントサウルス・プラティオドンの骨格

最初に発見された魚竜の頭骨はテムノドントサウルス・プラティオドンのものであった。その標本 BMNH 2149 は1811年にジョセフ・アニングがライムレジスのリアス海岸にて発見した[14]。骨格の残りの部分は1812年に彼の妹メアリー・アニングが発見したが、長きにわたって紛失されていた[14]。その後化石はエヴァラード・ホームが記載し、これが魚竜についての初めての科学的な記載であった。テムノドントサウルス・プラティオドンはテムノドントサウルスの模式種であり、かつ最も一般的な種である[7]。模式標本の頭骨はロンドン自然史博物館に所蔵されている[14]。標本はもともとイクチオサウルス・プラティオドンと命名されていたが、後にテムノドントサウルスに改名された[15]

分類

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メアリー・アニングとジョセフ・アニングにより発見されたテムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨の絵
テムノドントサウルス・プラティオドンの頭骨の絵。トマス・ホーキンス1840年の著書"Sea Dragons"より

テムノドントサウルスはテムノドントサウルス科に属する唯一の属である[16][17]。テムノドントサウルス科は C. McGowan により記載され[5]、Martin Sander が2000年に命名した単系統のグループ新魚竜類に属する。このグループにはテムノドントサウルス科のほかにレプトネクテス科スエヴォレヴィアタン科が含まれる[5]。テムノドントサウルスは三畳紀以降の魚竜の中では最も基盤的なものの1つである[18]

下のクラドグラムは Maisch and Matzke (2000)[19]および Maisch and Matzke (2003)[20]に基づき、分類群の名称は Maisch (2010)[21]に従う。

メリアノサウルス類 

ペッソプテリクス (=メリアノサウルス)

ベサノサウルス

シャスタサウルス

ショニサウルス

ミカドケファルス

カリフォルノサウルス

カッラワイア

 パルヴィペルヴィア類 

マグゴワニア

フドソネルピディア

 新魚竜類 

テムノドントサウルス

ユーリノサウルス類

スエヴォレヴィアタン

 トゥンノサウルス類 

イクチオサウルス

ステノプテリギウス

オフタルモサウルス科

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クリスタル・パレス・パークの古い模型

テムノドントサウルス・プラティオドンは1822年に William Conybeare によりライムレジスの BMNH 2003 から命名された[14]。この標本はロンドン自然史博物館に所蔵されている[14]。テムノドントサウルス・プラティオドンはヘッタンギアン後期からシネムーリアン前期にあたる層から産出し[5]、テムノドントサウルスの模式種である。テムノドントサウルス・プラティオドンの標本はイングランドのライムレジスとドイツの Herlikofen およびベルギーアルロンから発見されている[5]。完全な骨格は BMNH 2003 のみだが、保存状態の良い BMNH R1158 も発見されている[4]

テムノドントサウルス・リソルの頭骨

1995年、Christopher McGowan がかつてテムノドントサウルス・リソルに分類された標本が実際にはテムノドントサウルス・プラティオドンの幼体であることを、ライムレジスの東方に位置するブラック・ヴェンからデイヴィッド・ソールが1987年に回収した標本を用いて説明した。それまでテムノドントサウルス・リソルと考えられていた3つの頭骨標本は、巨大な眼窩と湾曲した吻部および小さな上顎骨を持っていた故にテムノドントサウルス・プラティオドンとして別種と扱われていたが、Mcgowan は頭骨に対する前肢の大きさから幼体として記載した。胴体部と比較して頭部が非常に長いことからも、やはり幼体と考えられる[4]

テムノドントサウルス・アクティロストリスは1840年リチャード・オーウェンが記載した[18]。ホロタイプ BMNH 14553 はイングランドヨークシャーウィットビーに存在するトアルシアンの Alum Shale 層から発見された。Michael Maisch は2000年にその標本をテムノドントサウルスとして記載した[5]が、2010年に Maisch は標本がテムノドントサウルスではなくおそらくイクチオサウルスに属すると主張した[18]

テムノドントサウルス・トリゴノドンは1843年に命名された[8]。模式標本はトアルシアン前期にあたる[5]ドイツの Banz から産出したほぼ完全な骨格である[8]。標本の長さは約9.8メートルで頭骨長は1.8メートルである[8]。ドイツでは他の標本も発見されているほか、フランスのヨンヌ県 Saint Colombe に位置するトアルシアンの層からも産出している[5]

テムノドントサウルス・ロンギロストリスはトアルシアンにあたるイングランドヨークシャーのウィットビーから産出した不完全な骨格 BMNH 14566 に基づいて記載され[22]、他の標本もその付近から産出している[22]。この種の有効性については論争が繰り広げられており、Michael Maisch はテムノドントサウルス・ロンギロストリスを有効な属と認めていない[5] 一方で M・J・ベントンと M・A・テイラーは有効な属とみなしている[22]

テムノドントサウルス・ユーリケファルスの頭骨

テムノドントサウルス・ユーリケファルスはホロタイプ標本 R 1157 しか発見されておらず、1974年に McGowan により命名された[5][17]。イングランドのドーセット州ライムレジスに位置するブロードレッジと呼ばれる石灰岩中で発見され、地質時代はシネムーリアンに該当する[17]。この標本はロンドン自然史博物館に所蔵されている[3]

テムノドントサウルス・ブルグンディアエの頭骨

テムノドントサウルス・ブルグンディアエの有効性は議論されている。McGowan が1995年に本種をテムノドントサウルスに所属させるべきであると提案した[8]が、Michael Maisch はこれに反対しており、1998年には本種をテムノドントサウルス・トリゴノドンのジュニアシノニムとした[9]。マーティン・サンダーは2000年にドイツホルツマーデンとフランスから回収した標本をテムノドントサウルス・ブルグンディアエとして記載し、他の専門家は本種をこの標本を含むものとして解釈している[6]

テムノドントサウルス・アゼルグエンシスは2012年ブリストル大学のジェレミー・マーティンにより記載され、トアルシアン中期の Bifrons ammonite zone から産出したほぼ完全な骨格であるホロタイプに基づいている。これは1984年にフランスのローヌ県 Belmont d’Azergues の Lafarge 採石場からデイジョブとローレントが発見したものである。発見された場所である採石場の付近にある河川と渓谷から種小名が名付けられた。

テムノドントサウルス・アゼルグエンシスは体格と胴体部の解剖学的特徴が他のテムノドントサウルスの種と似通っているが、頭骨の形態は異なる。吻部は長く薄く、方形骨が小さい。テムノドントサウルス・アゼルグエンシスの歯は極めて小さいかあるいは全く存在せず、固い外骨格や脊椎動物を捕食するのには非効率的であったと推定されており、他のテムノドントサウルスの種と比較してより小型でより柔らかい獲物を捕食していた可能性がある[3]

古環境

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ステノプテリギウスを襲うテムノドントサウルス・ブルグンディアエ

テムノドントサウルスの生息域は海岸線から離れた開けた海洋であり[1]、海底には関与しなかった[6]

テムノドントサウルスの化石はイングランド、ドイツ、フランスにある海洋環境に関連した岩から発見されており、特にイングランドのドーセット州ライムレジスのリアス層が顕著である。リアス層は石灰岩泥岩の変成岩から構成され、アンモナイトが豊富に含まれている[23]

テムノドントサウルスの化石はドイツのホルツマーデンのポシドニア頁岩からも発見されている[12]。 ポシドニア頁岩は黒歴青頁岩と歴青石灰岩から構成されており、首長竜ワニアンモナイトなどの化石が豊富に発見されていることから、当時の環境は海洋であったと知られている[24]

出典

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