「嘔吐恐怖症」の版間の差分
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外出ができない場合は[[行動療法]]が有効だと言われる。たとえば一駅ずつ電車に乗る範囲を広げ、大丈夫だったという体験等を積み重ねることである。嘔吐感を軽減する投与薬として[[ドンペリドン]]が使われることがある。 |
外出ができない場合は[[行動療法]]が有効だと言われる。たとえば一駅ずつ電車に乗る範囲を広げ、大丈夫だったという体験等を積み重ねることである。嘔吐感を軽減する投与薬として[[ドンペリドン]]が使われることがある。 |
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行動療法の中でも嘔吐恐怖症に対する高い治療効果が実証されているのは、[[曝露反応妨害法]]を中心とした[[認知行動療法]]である<ref>Hunter, P. V., & Antony, M. M. (2009). Cognitive-Behavioral Treatment of Emetophobia: The Role of Interoceptive Exposure. ''Cognitive and Behavioral Practice'', ''16'', 84-91.</ref><ref>Riddle-Walker, L., Veale, D., Chapman, C., Ogle, F., Rosko, D., Najmi, S., Walker, L. M., Maceachern, P., & Hicks, T. (2016). Cognitive behaviour therapy for specific phobia of vomiting (Emetophobia): A pilot randomized controlled trial. ''Journal of Anxiety Disorders'', ''43'', 14-22.</ref>。嘔吐恐怖症に対する曝露反応妨害法では、治療者や支援者のサポートのもと、患者が嘔吐に対する不安や吐き気のために避けていた場所や状況に身を置いたり不安や吐き気を感じてもそのまま行動したりして(曝露)、その場所や状況からの回避行動や不安や吐き気による行動停止をしないことで(反応妨害:嘔吐に対する不安や吐き気を感じながらも食事を続けたり授業を受け続けたりすることなど)、「吐き気や嘔吐に対する不安があっても、実際には自分も他者も嘔吐をすることはないということ(現実・事実と、不安・吐き気との間のずれへの気づき)」・「はじめは嘔吐に対する不安や吐き気があっても、回避行動や行動停止をしないうちに(たとえば食事を続けたり授業を受け続けたりするうちに)嘔吐に対する不安や吐き気が収まってくるということ(セッション内馴化:Within-Session Habituation)」・「曝露と反応妨害のセットを繰り返し行っていくごとに、嘔吐に対する不安や吐き気が低減していくということ(セッション間馴化:Between-Session Habituation)」を体感し、嘔吐に対する不安感や吐き気の減少と行動範囲の拡大を実現していく<ref>金井喜宏 (2015).社交不安症の認知・行動療法―最近の研究動向からその本質を探る―.不安症研究,'''7''',40-51.</ref><ref name=":0">野口 恭子 (2014).吐き気恐怖に対する認知行動療法 東京家政大学附属臨床相談センター紀要,''14'',29-37.</ref><ref name=":1">坂野 雄二・丹野 義彦・杉浦 義典(編) (2006).不安障害の臨床心理学 東京大学出版会</ref>。また、曝露反応妨害法を行うにあたって、患者が実行しやすいよう、嘔吐に対する不安や吐き気が比較的弱い場所や状況から比較的強い場所や状況へと順に配列した不安階層表を作成し、段階的に曝露を行っていく場合が多い<ref name=":1" />。その際、患者の曝露に治療者や支援者が付き添ってサポートをすることで、より治療効果が高まる<ref>Gloster, A.T., Wittchen, H. U., Einsle, F., Lang, T., Helbig-Lang, S., Fydrich, T., Fehm, L., Hamm, A. O., Richter, J., Alpers, G. W., Gerlach, A. L., Ströhle, A., Kircher, T., Deckert, J., Zwanzger, P., Höfler, M. & Arolt, V. (2011). Psychological treatment for panic disorder with agoraphobia: a randomized controlled trial to examine the role of therapist-guided exposure in situ in CBT. ''Journal of Consulting and Clinical Psychology'', ''79'', 406-420.</ref>。 |
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なお、曝露反応妨害法と並行して実施される数多くの有効な治療技法の一つに、注意のシフトトレーニングがある。注意のシフトトレーニングとは、嘔吐に対する不安や吐き気に注意を集中させることなく、味覚やおしゃべりなど(会食時)、景色や音楽など(外出時)、仕事の内容・作業や授業を聞くこと・ノートをとることなど(勤務時や受講時)といったところにも意識を向けて注意を分散させていくという認知行動療法の技法の一種であり、注意のシフトトレーニングも嘔吐恐怖症の治療に有効であるとされる<ref name=":0" />。 |
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== 関連項目 == |
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2017年11月25日 (土) 05:27時点における版
嘔吐恐怖(おうときょうふ)とは、自分が吐くこと・他人が吐くことに対して、強迫的に恐怖を感じる状態を指す。パニック障害の一種と考えられている。不安神経症やうつを伴う例もみられる。
原因
幼少期などに、自分が嘔吐したことで苦しい思いをしたり、恥ずかしい思いをしたこと、または他人の嘔吐を目撃して激しい嫌悪を感じたことなどによる場合が多い。
症状
- 嘔吐の恐怖に直面した際に起こる、激しい動悸・めまい・震え等。
- 万が一体調不良によって吐き気に襲われても、恐怖心が勝って吐くことができない(無理やり我慢する)場合が多い。
- 恐怖心が昂じると、常に「自分自身に起こる吐き気」への恐怖に囚われ、「吐いてしまうのではないか」という強迫観念から外食やげっぷができなくなったり、家での食事や外出もままならなくなることがある。
- 恐怖を感じるのは、主に自分自身が吐き気を感じた時、家族・他人が吐いている現場を見た時、嘔吐物を見たり嗅いでしまった時など。また、文面など嘔吐を連想させるものや出来事にも極度に敏感な場合がある。
- 予期不安を感じて、吐き気が生じる場合もある。
- 恐怖のパターンは人によって様々で、中には「自分の嘔吐は平気だが他人の嘔吐が怖い」またはその逆、という人もいる。
- 他人の嘔吐(指を舌の奥に入れて刺激するなどの「嘔吐反射」を含む)を停止させようと強要する。
治療法
外出ができない場合は行動療法が有効だと言われる。たとえば一駅ずつ電車に乗る範囲を広げ、大丈夫だったという体験等を積み重ねることである。嘔吐感を軽減する投与薬としてドンペリドンが使われることがある。
行動療法の中でも嘔吐恐怖症に対する高い治療効果が実証されているのは、曝露反応妨害法を中心とした認知行動療法である[1][2]。嘔吐恐怖症に対する曝露反応妨害法では、治療者や支援者のサポートのもと、患者が嘔吐に対する不安や吐き気のために避けていた場所や状況に身を置いたり不安や吐き気を感じてもそのまま行動したりして(曝露)、その場所や状況からの回避行動や不安や吐き気による行動停止をしないことで(反応妨害:嘔吐に対する不安や吐き気を感じながらも食事を続けたり授業を受け続けたりすることなど)、「吐き気や嘔吐に対する不安があっても、実際には自分も他者も嘔吐をすることはないということ(現実・事実と、不安・吐き気との間のずれへの気づき)」・「はじめは嘔吐に対する不安や吐き気があっても、回避行動や行動停止をしないうちに(たとえば食事を続けたり授業を受け続けたりするうちに)嘔吐に対する不安や吐き気が収まってくるということ(セッション内馴化:Within-Session Habituation)」・「曝露と反応妨害のセットを繰り返し行っていくごとに、嘔吐に対する不安や吐き気が低減していくということ(セッション間馴化:Between-Session Habituation)」を体感し、嘔吐に対する不安感や吐き気の減少と行動範囲の拡大を実現していく[3][4][5]。また、曝露反応妨害法を行うにあたって、患者が実行しやすいよう、嘔吐に対する不安や吐き気が比較的弱い場所や状況から比較的強い場所や状況へと順に配列した不安階層表を作成し、段階的に曝露を行っていく場合が多い[5]。その際、患者の曝露に治療者や支援者が付き添ってサポートをすることで、より治療効果が高まる[6]。
なお、曝露反応妨害法と並行して実施される数多くの有効な治療技法の一つに、注意のシフトトレーニングがある。注意のシフトトレーニングとは、嘔吐に対する不安や吐き気に注意を集中させることなく、味覚やおしゃべりなど(会食時)、景色や音楽など(外出時)、仕事の内容・作業や授業を聞くこと・ノートをとることなど(勤務時や受講時)といったところにも意識を向けて注意を分散させていくという認知行動療法の技法の一種であり、注意のシフトトレーニングも嘔吐恐怖症の治療に有効であるとされる[4]。
出典
- ^ Hunter, P. V., & Antony, M. M. (2009). Cognitive-Behavioral Treatment of Emetophobia: The Role of Interoceptive Exposure. Cognitive and Behavioral Practice, 16, 84-91.
- ^ Riddle-Walker, L., Veale, D., Chapman, C., Ogle, F., Rosko, D., Najmi, S., Walker, L. M., Maceachern, P., & Hicks, T. (2016). Cognitive behaviour therapy for specific phobia of vomiting (Emetophobia): A pilot randomized controlled trial. Journal of Anxiety Disorders, 43, 14-22.
- ^ 金井喜宏 (2015).社交不安症の認知・行動療法―最近の研究動向からその本質を探る―.不安症研究,7,40-51.
- ^ a b 野口 恭子 (2014).吐き気恐怖に対する認知行動療法 東京家政大学附属臨床相談センター紀要,14,29-37.
- ^ a b 坂野 雄二・丹野 義彦・杉浦 義典(編) (2006).不安障害の臨床心理学 東京大学出版会
- ^ Gloster, A.T., Wittchen, H. U., Einsle, F., Lang, T., Helbig-Lang, S., Fydrich, T., Fehm, L., Hamm, A. O., Richter, J., Alpers, G. W., Gerlach, A. L., Ströhle, A., Kircher, T., Deckert, J., Zwanzger, P., Höfler, M. & Arolt, V. (2011). Psychological treatment for panic disorder with agoraphobia: a randomized controlled trial to examine the role of therapist-guided exposure in situ in CBT. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 79, 406-420.