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日本以外でみられる爆買いの例として、[[韓国]]においても、中国人観光客らに対する化粧品の販売・輸出が好調である<ref name="asahi20151028">朝日新聞2015年10月28日朝刊第10面「K(韓国)ビューティー お肌の世界戦略 化粧品『爆買い』中国客戻る」</ref>。[[ソウル]]中心部の[[明洞]](ミョンドン)の通称「コスメ・ロード」では、[[中東呼吸器症候群]](MERS)問題が深刻化した2015年6月ごろ観光客が激減したが、同年10月には中国人観光客が戻ってきて、化粧品を「爆買い」していると報じられている<ref name="asahi20151028"/>。韓国化粧品業界のターゲットは、中国人爆買い観光客のみではない<ref name="asahi20151028"/>。中国市場での販売拡大に向け、ビジネスを強化している<ref name="asahi20151028"/>。同年4月にソウル市内の韓国最大級の美容展覧会が開かれ、中国の化粧品販売業者との間で保湿用の馬油クリーム2万個を販売するといったような「大型商談」をいくつもまとめた韓国企業もあったという<ref name="asahi20151028"/ |
日本以外でみられる爆買いの例として、[[韓国]]においても、中国人観光客らに対する化粧品の販売・輸出が好調である<ref name="asahi20151028">朝日新聞2015年10月28日朝刊第10面「K(韓国)ビューティー お肌の世界戦略 化粧品『爆買い』中国客戻る」</ref>。[[ソウル]]中心部の[[明洞]](ミョンドン)の通称「コスメ・ロード」では、[[中東呼吸器症候群]](MERS)問題が深刻化した2015年6月ごろ観光客が激減したが、同年10月には中国人観光客が戻ってきて、化粧品を「爆買い」していると報じられている<ref name="asahi20151028"/>。韓国化粧品業界のターゲットは、中国人爆買い観光客のみではない<ref name="asahi20151028"/>。中国市場での販売拡大に向け、ビジネスを強化している<ref name="asahi20151028"/>。同年4月にソウル市内の韓国最大級の美容展覧会が開かれ、中国の化粧品販売業者との間で保湿用の馬油クリーム2万個を販売するといったような「大型商談」をいくつもまとめた韓国企業もあったという<ref name="asahi20151028"/>。 |
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[[2009年]]11月11日中国ネット通販最大手の[[アリババ・グループ]]がネット上で割引をする商戦を始めたことをきっかけに、毎年11月11日は、中国のネット通販でもっとも「爆買い」の起こる日になった<ref name="asahi20151112-9">朝日新聞2015年11月12日「11・11ネットで爆買い 中国アリババ、夕方までに売り上げ1.4兆円」</ref>。2015年11月11日の同グループの売り上げは午後5時30分の時点で719億元(1.4兆円)になったと同社より発表された<ref name="asahi20151112-9"/>。業界2位の「京東」や3位の「蘇寧易購」も、売り上げが2014年の3から4倍に達した模様である<ref name="asahi20151112-9"/>。中国のネット消費の勢いを象徴する日となっている<ref name="asahi20151112-9"/>。さらなる爆買いへの期待も大きく、日本の[[経済産業省]]は、中国人らがネット通販で日本から買う額は、2018年には1兆3,000億円を超えると試算する<ref name="asahi20151112-9"/>。 |
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爆買いの一種とみなされていることとして、中国資本による日本の[[都市|都市部]]での[[不動産投資]]が挙げられている。大量ではないものの現金で支払われる大きな買い物であることからそう呼ばれた。円安により[[シンガポール]]や[[香港]]、[[ロンドン]]などの他の都市と比べて割安感が増したのと、圧倒的な新築物件の多さが魅力となっている。また、[[東京]]や[[大阪]]などへの購入者のためのツアーも組まれている<ref name="bloom150703">{{Cite news|url=http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NLT6TX6K50YC01.html|title=中国マネー爆買い、都心マンション高騰に一役-庶民には高根の花 (2)|newspaper=[[ブルームバーグ]]|date=2015-07-03|accessdate=2015-09-30}}</ref>。 |
爆買いの一種とみなされていることとして、中国資本による日本の[[都市|都市部]]での[[不動産投資]]が挙げられている。大量ではないものの現金で支払われる大きな買い物であることからそう呼ばれた。円安により[[シンガポール]]や[[香港]]、[[ロンドン]]などの他の都市と比べて割安感が増したのと、圧倒的な新築物件の多さが魅力となっている。また、[[東京]]や[[大阪]]などへの購入者のためのツアーも組まれている<ref name="bloom150703">{{Cite news|url=http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NLT6TX6K50YC01.html|title=中国マネー爆買い、都心マンション高騰に一役-庶民には高根の花 (2)|newspaper=[[ブルームバーグ]]|date=2015-07-03|accessdate=2015-09-30}}</ref>。 |
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2015年4月30日放送[[日本放送協会|NHK]]『[[所さん!大変ですよ]]』では、「文房具“爆買い”騒動の謎」と題し、品質が高く使い勝手のよい[[チョーク]]を製造していた[[羽衣文具]]の廃業が公表されたことが発端となり、2014年10月に日本各地でチョークの爆買い騒動が起きたと報じられた。国内で備品として確保しようとする[[教育機関]]・[[教員]]による[[買い占め]]が相次いだだけでなく、[[スタンフォード大学]]の{{仮リンク|ブライアン・コンラッド|en|Brian Conrad}}教授を中心とした[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[数学者]]約200人で |
2015年4月30日放送[[日本放送協会|NHK]]『[[所さん!大変ですよ]]』では、「文房具“爆買い”騒動の謎」と題し、品質が高く使い勝手のよい[[チョーク]]を製造していた[[羽衣文具]]の廃業が公表されたことが発端となり、2014年10月に日本各地でチョークの爆買い騒動が起きたと報じられた。国内で備品として確保しようとする[[教育機関]]・[[教員]]による[[買い占め]]が相次いだだけでなく、[[スタンフォード大学]]の{{仮リンク|ブライアン・コンラッド|en|Brian Conrad}}教授を中心とした[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[数学者]]約200人で1トンのチョークの在庫を共同購入した<ref name="data150430">{{Cite web|url=http://datazoo.jp/tv/%E6%89%80%E3%81%95%E3%82%93%EF%BC%81%E5%A4%A7%E5%A4%89%E3%81%A7%E3%81%99%E3%82%88/852477|title=所さん!大変ですよ - 2015/04/30(木)放送|publisher=TVでた蔵|accessdate=2015-10-02}}</ref><ref name="keio150504">{{Cite web|url=http://arx.appi.keio.ac.jp/2015/05/04/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%AF-%E3%80%8C%E7%88%86%E8%B2%B7%E3%81%84%E3%80%8D-%E9%A8%92%E5%8B%95%E3%81%AE%E8%AC%8E/|title=チョーク 「爆買い」 騒動の謎|author=足立修一|publisher=[[慶應義塾大学]]理工学部 物理情報工学科 足立研究室|date=2015-05-04|accessdate=2015-10-02}}</ref>。 |
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2015年11月12日 (木) 15:37時点における版
爆買い(ばくがい)とは、一度に大量に買うことを表す俗語である[1][2][3]。主に中国人観光客が大量に商品を購買することに用いられ、2014年頃から定着した[1][4][5]。2015年2月の春節休暇に中国人観光客が日本を訪れ高額商品から日用品まで様々な商品を大量に買いあさる様子を「爆買い」と表現して、多くの日本メディアが取り上げた[6]。中国側のメディアによれば春節期間中、日本を訪れた中国人観光客は45万人にのぼり、消費額は66億元(1140億円)を記録し、日本企業にとってビジネスチャンスとなっている[6][7][8][9]。
言葉の歴史
新聞記事などでは2015年より「爆買い」という言葉が桁違いに使われるようになった[10]が、テレビではそれ以前より使われていた。そもそも中国人が大量に商品を購入する行動は2008年ごろより目立ってきており、2009年には『FNNスーパーニュース』(フジテレビ)9月9日放送「スーパー特報/旋風拡大ニッポン“爆買い”現場中国人団体ツアーを追え」で「爆買い」という言葉が登場している[11]。なお、個人ブログには「爆買い」という言葉がそれ以前からあったことが確認されている[11]。その後、2010年に『NNN Newsリアルタイム』(日本テレビ)1月12日放送で「密着! 中国人観光客現金飛び交う“爆買いツアー”」が、『スーパーJチャンネル』(テレビ朝日)7月5日放送で「「中国人が大挙来日! 美術品“爆買い”ツアーで現金飛び交う」が放映されており、以後も定期的な報道が見られる[11]。
爆買いの要因
日本では2013年12月に観光庁により「外国人旅行者向け消費税免税制度の改正」が発表され、地域への外国人観光客の誘客に向けた取り組みがはじまった[12]。平成26年度税制改正において訪日外国人旅行者向け消費税免税制度の改正が行われた[13]。従来、免税対象品目は家電機器、装飾品、衣類、靴、鞄等に限られていたが、免税販売の対象ではなかった消耗品(食品類、飲料類、薬品類、化粧品類その他の消耗品)について、一定の不正防止措置を講ずることを前提に免税対象とした[13]。2014年(平成26年)10月より施行された[13]。また、同年度の税制改正では、様式の弾力化及び手続の簡素化も行われ、「購入記録票」及び「購入者誓約書」は、特定の様式を定めず、記載すべき事項を記載していればよいこととなった[13]。訪日外国人旅行者の急増や上述のような消費税免税制度の改正により、2014年(平成26 年)に入り免税店の店舗数が急増し、4月1日時点では5777店であったが、2015年(平成27年)4月1日時点では約3倍の1万8779店(対前年比225.1パーセント増)となった[13]。
さらには、円安が追い風となり、「爆買い」と呼ばれる現象に拍車がかかった[14][15]。
日本経済への影響
観光庁の「訪日外国人消費動向調査」からみる「爆買い」
観光庁の「訪日外国人動向調査」は、日本全国の空港や港から帰国のために出国する約1万人の外国人に、聞き取り調査を行うものである[16]。調査は3カ月ごとに集計される[16]。
2015年4月から6月期の集計によると、客1人が使った金額は平均で約18万円だった[16]。ただし、観光客の出身の国や地域により使い道が大きく異なる[16]。観光目的で来た人だけをみると、中国人の支出額は、28万160円で、最も多い[16]。内訳は、宿泊費が18パーセント(平均宿泊日数5.6泊)、飲食費が13パーセント、買い物が61パーセント;約17万円を使う[16]。オーストラリア人の支出額が、27万3069円で中国人に迫る[16]。内訳は、滞在日数が長いだけに(平均12.2泊)宿泊費が40パーセントを占め、買い物は15パーセント;額にして約4万円だけだった[16]。台湾人や韓国人も客数は多いが、中国ほどの買い物志向は見られない[16]。台湾人は、客1人あたり支出額が14万7003円で、買い物の支出割合は44パーセントであった[16]。同じく韓国人は7万445円であった。「爆買い」は中国人ならではの行動と言える[16]。
この傾向は、上述「訪日外国人消費動向調査」のうち、訪日する国・地域別の訪日動機の調査からも明らかである[17]。以下は、2015年版の『観光白書』掲載の2014年度のデータである[17]。国・地域ごとに訪日の動機を聞き、その種類の割合をみて、ショッピングの割合が多かった順に並べると以下の順になった[17]。ショッピングを動機に挙げた人が一番多かったタイからの訪日客であり、その74.1パーセントが、ショッピングを訪日の動機として挙げた[17]。これに続くのが香港からの訪日客であり、69.6パーセントであった[17]。中国からの訪日客は、68.0パーセントの訪日客がショッピングを訪日の動機として挙げている[17]。ちなみに、ショッピングを訪日の動機に挙げる割合が多い順に、台湾;66.9パーセント、シンガポール;59.1パーセント、ベトナム;58.2パーセント、マレーシア;57.5パーセント、フィリピン;51.9パーセント、インドネシア;50.0パーセントとなり、アジアからの訪日客はショッピングを動機として挙げることが多い[17]。
旅行者が使ったお金の合計は、1人当たりの平均支出額に人数をかけて算出する[16]。2014年に日本に来た外国人は日本政府観光局の調べによると約1341万人であった[16]。免税で買える商品の種類が増え、外国人からみれば円安で割安に旅行できることもあり、前年より3割増加している[16]。消費額の合計も、2013年の1.4倍となり、支出額の合計は約2兆円となり、過去最高を記録した[16]。2015年には、中国人の入国ビザが緩和され、中国人訪日客が前年の2倍以上のペースで増加し、全体でも1.5倍に増加した[16]。それにつれ消費額も増加し、このままのペースで行けば、年間の消費額は3兆円規模になると予想される[16]。この金額は、日本の国内総生産(GDP)の総額の約5000兆円のうち0.6パーセントを占めることになる[16]。「日本経済にとって無視できない水準であり、外国人の消費が(日本経済の)下支えになっている」と永井知美(東レ経営研究所)は話した[16]。
2015年10月21日観光庁は、同年7月から9月期の「訪日外国人消費動向調査」を発表した[18]。この四半期の消費額は前年同期比82パーセント増の1兆9000億円となり、四半期としてはじめて1兆円の大台にのった[18]。訪日客も534万人と最高を記録し、1人当たり支出額も前年同期比18パーセント増加した[18]。中国人客は7月から9月の四半期調査では、前年同期比19パーセント増の28万円を支出し、このうち14万円を買い物代にあてた。観光・レジャー目的の中国人の日本での宿泊日数は平均6.1泊となり、前年同期の5.7泊から拡大した[18]。旅行期間の長期化が1人あたりの消費の増加につながったとみられる[18]。
訪日外国人客による消費が個人消費にもたらす効果(近畿圏・2014年秋)
日本銀行大阪支店は、2014年10月に「訪日外国人客による消費が近畿の個人消費にもたらす効果について」というレポートを発表した。それによると、近畿圏(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)においては、来日する外国人数、外国人宿泊者数が関東・全国平均より高いペースで増加しており、インバウンド需要の効果を強く受けている[19]。この背景には、訪日ビザの発給条件の緩和・免税措置の拡大や円安の要素がある。近畿圏固有の要素としては、関西国際空港が、日本最大のLCC(格安航空会社)乗り入れ空港であることが挙げられる[19]。近畿圏を訪れる訪日外国人の特徴をみると、大阪を中心に「買い物」を好む「東アジア」・「東南アジア」方面からの観光客が目立つ[19]。消費増税の影響が残る中で、百貨店や家電量販店などの売り上げの下支え効果があるとしている[19]。今後も、LCC発着便数の増加や訪日ビザの緩和が見込まれているほか、免税品目の拡大に伴う効果の持続も期待されており、訪日外国人客による関連需要は持続すると、日銀同支店はみている[19]。
百貨店の免税品売上増加(全国・2015年中間決算)
主要百貨店4社の2015年度中間決算(3月から8月)では、訪日中国人らの「爆買い」により高級品がよく売れ、3社が前年同期より売り上げを伸ばしている[20]。
Jフロントリテイリングの大丸松坂屋は、外国人の多い東京や大阪・心斎橋の店舗が好調で前年同期比1.4パーセント増えた[20]。免税品の売上高は、一部地方店を除き前年同期比の4.5倍の181億円で、年間250億円の目標を350億円に引き上げた。中国の景気減速で訪日客の減少も懸念されているが、山本良一同社社長は「流れは急に変わらないだろう」と話した[20]。
高島屋は、国内の売り上げ高が0.3パーセント増え、大阪店では免税品が4倍以上売れた[20]。免税品の売上高は上半期で144億円に達し、前年通期(2014年3月から2015年2月)140億円を既に上回った[20]。
松屋は売上高が23.7パーセント増え、特に主力の銀座店では売上高全体に占める免税品のシェアが、前年は8パーセントに過ぎなかったのが、今年度は25パーセントに達した。銀座は訪日客のほか、富裕層も多く客単価は2割上がった[20]。
そごう・西武の売り上げは、地方店の不振が響き全体としては3パーセントの減だったが、池袋本店や渋谷店など都市部の店は数字を伸ばしている[20]。
品目別に爆買いの効果を見てみると、銀座松屋は化粧品の売り上げが対前年同期(2014年3月から8月、以下同じ)60パーセント増、宝飾品・時計が前年同期比50パーセント増、高島屋新宿店では、宝飾品・時計が前年同期比23パーセント増、高級ブランド品が前年同期比15パーセント増、西武池袋店では化粧品が前年同期比30パーセント増、大丸松坂屋では全店で時計が前年同期比25パーセント増だった[20]。
東京証券取引所第1部上場企業2015年9月期中間決算
東京証券取引所第1部に上場する企業の2015年9月中間決算は、円安と訪日外国人客の消費に支えられ、経常利益と純利益の合計はともに中間期として過去最高になる見通しである[21]。SMBC日興証券が11月5日までに発表を終えた東証第1部上場の3月期決算企業のうち金融を除く751社について集計したところ、4~9月期の売上高は前年に比べ4.3パーセント増の176兆9,000億円、経常利益は15.1増の15兆6,000億円、純利益は16.7パーセント増の10兆2,000億円だった[21]。経常利益と純利益は9月中間期としては過去最高を更新する見込みである[21]。好業績の主因は円安と「爆買い」に象徴される外国人客の旺盛な消費である[21]。特に2014年は消費税増税の反動減で苦しんだ小売業は経常利益47.7パーセント増を記録した[21]。
訪日外国人客による消費と経済統計
政府が国内総生産(GDP)を計算する際には、訪日外国人客が日本でモノを買ったりサービスを利用したりすることを「外需」と位置付け、個人消費ではなく輸出の一部として計上している[18]。2010年代の日本の輸出額は70兆円から80兆円程度で推移している[18]。2015年度の訪日外国人客消費が3兆円規模になると予想されるので、訪日外国人客の消費たる「爆買い」が輸出の4パーセント余りを占めることになり、輸出不振の一部を補う構図になるとも予想される[18]。 財務省が2015年11月10日発表した2015年上半期(4月から9月)の国際収支(速報)によると、貿易や投資による日本と海外のお金の出入りを示す「経常収支」は、8兆6,938億円だった[22]。円安や原油高で黒字幅は2014年度上半期の4.3倍に膨らみ、東日本大震災以降、半期としては最大となった[22]。経常収支のうち、輸出額から輸入額を差し引いた「貿易収支」は4,197億円の赤字だった[22]。9半期連続の貿易赤字だが、原油輸入額の減少などで赤字幅は最小だった[22]。貿易赤字を補ったのが日本企業の海外での稼ぎや、訪日外国人による消費の急増である[22]。訪日外国人旅行者の急増によって、旅行者による国内外の収支を示す「旅行収支」も、半期としては過去最大の6,085億円の黒字となった[22]。すなわち、以下の構造が見て取れる[23]。「経常収支」の黒字は、円安で膨らむ企業の海外でのもうけがその主因であり、震災前には日本からの輸出でも黒字を稼ぎだしていたときとは様変わりした[23]。2010年度下半期は経常黒字の約4割を貿易収支の黒字が占めていたのに対し、2015年上半期は4,197億円の赤字である。貿易収支に変わって経常黒字を支えるのは、海外子会社や海外投資からの配当や利子など企業の海外での稼ぎを示す「第1次所得収支」の黒字である[23]。同年度の上半期は10兆8,342億円で、この5年間で約6割伸びた[23]。その一方で、日本からの輸出は伸び悩む[23]。SMBC日興証券の宮前耕也氏は「先進国の企業が海外進出し、輸出が減る構造変化は今後も進む。訪日外国人の増加で将来的にはサービス収支がもう一つの柱になる」とみる[23]。
2015年11月10日に内閣府が発表した、10月の景気ウォッチャー調査によれば、景気の現状を示す指数が48.2であり、9月から比べて0.7ポイント上昇した[24]。上昇は3カ月ぶりであり、外国人観光客による消費の増加などが改善につながったとされる[24]。景気ウォッチャー調査とは、商店主やタクシー運転手などに景気の実感を尋ねる調査である[24]。
爆買いの嗜好
爆買いの定番商品であり、中国人観光客に「四宝」と呼ばれているのは「炊飯器」「魔法瓶」「温水洗浄便座」「セラミック包丁」である[25]。その他に、医薬品や化粧品も人気となっている[25]。
日本人の顔立ちをもとに開発されてきた国内向けの化粧品は、繊細な色づかいや目元を大きく見せる点などで優れており、顔立ちの似ている他のアジアの国でも「カワイイ」と人気が高まっている。化粧品が免税の対象に加わったことは外国人観光客による大量買いにつながった[26]。化粧品以外にもドラッグストアで売られている物の多くが人気を集めている。日本に滞在中の中国人留学生などが本国へ情報発信しながら、「代理爆買い」と呼ばれる買い物を請け負うサービスを始め、注文のあった商品をまとめ買いする姿が夜の新宿を中心に目立つようになった[27]。
日本以外でみられる「爆買い」の例
日本以外でみられる爆買いの例として、韓国においても、中国人観光客らに対する化粧品の販売・輸出が好調である[28]。ソウル中心部の明洞(ミョンドン)の通称「コスメ・ロード」では、中東呼吸器症候群(MERS)問題が深刻化した2015年6月ごろ観光客が激減したが、同年10月には中国人観光客が戻ってきて、化粧品を「爆買い」していると報じられている[28]。韓国化粧品業界のターゲットは、中国人爆買い観光客のみではない[28]。中国市場での販売拡大に向け、ビジネスを強化している[28]。同年4月にソウル市内の韓国最大級の美容展覧会が開かれ、中国の化粧品販売業者との間で保湿用の馬油クリーム2万個を販売するといったような「大型商談」をいくつもまとめた韓国企業もあったという[28]。
2009年11月11日中国ネット通販最大手のアリババ・グループがネット上で割引をする商戦を始めたことをきっかけに、毎年11月11日は、中国のネット通販でもっとも「爆買い」の起こる日になった[29]。2015年11月11日の同グループの売り上げは午後5時30分の時点で719億元(1.4兆円)になったと同社より発表された[29]。業界2位の「京東」や3位の「蘇寧易購」も、売り上げが2014年の3から4倍に達した模様である[29]。中国のネット消費の勢いを象徴する日となっている[29]。さらなる爆買いへの期待も大きく、日本の経済産業省は、中国人らがネット通販で日本から買う額は、2018年には1兆3,000億円を超えると試算する[29]。
諸問題
2012年頃からドラッグストアなどの紙おむつコーナーで、人気商品に対し一人あたりの購入数を制限する貼紙が見られるようになった。背景には「中国製は恐い。信用できる日本製がほしい」という本国での不安に便乗し、転売による収益を目当てにした中国人の存在があるとされている。これについては、短期滞在の旅行者としてではなく就労ビザで日本に滞在しながら、資格外活動を行ったとして出入国管理法違反で検挙された例もある[30]。また、買い取りを行っていた仲立人は「報酬を与えて不法就労活動を助長させた」として、同じく出入国管理法違反容疑で逮捕されている[31]。紙おむつに関する爆買いでは、一人あたりの購入数を制限する店が増えるに従い、店員とのトラブルや中国人同士による奪い合いも目立ち始め、日本各地で乱闘騒ぎにまで発展したケースが報じられている[32]
日本を訪れる外国人観光客が急激に増えているのに伴い、国家資格である通訳案内士が不足に陥っているのにつけこんで、怪しげな健康食品を大量購入させようとしたり、誤解に基づく日本の歴史や文化を紹介したりするような、無資格通訳案内士が横行していると報じられている。これに対し日本政府・国土交通省は、「旅行者の満足度を低下させるだけではなく、日本の信頼や印象形成にも悪い影響を及ぼす」として、中国当局と連携しながら実態の把握に向けた調査の準備に取り掛かった[33]。
中国国家外国為替管理局は2015年10月1日までに、「銀聯カード」による海外での外貨引き出し上限額を2016年1月1日より、1枚当たり1日1万元から1年間で最高10万元までに規制すると発表した。政府幹部らが汚職で得た人民元を海外で資金洗浄したり、人民元安の進行を見込んだ富裕層らが海外へ資金を流出させたりするのを防ぐ狙いがあるものの、中国人観光客による爆買いにも影響すると見られている[34]。
その他
爆買いの一種とみなされていることとして、中国資本による日本の都市部での不動産投資が挙げられている。大量ではないものの現金で支払われる大きな買い物であることからそう呼ばれた。円安によりシンガポールや香港、ロンドンなどの他の都市と比べて割安感が増したのと、圧倒的な新築物件の多さが魅力となっている。また、東京や大阪などへの購入者のためのツアーも組まれている[35]。
2015年4月30日放送NHK『所さん!大変ですよ』では、「文房具“爆買い”騒動の謎」と題し、品質が高く使い勝手のよいチョークを製造していた羽衣文具の廃業が公表されたことが発端となり、2014年10月に日本各地でチョークの爆買い騒動が起きたと報じられた。国内で備品として確保しようとする教育機関・教員による買い占めが相次いだだけでなく、スタンフォード大学のブライアン・コンラッド教授を中心としたアメリカの数学者約200人で1トンのチョークの在庫を共同購入した[36][37]。
脚注
- ^ a b “爆買い(ばくがい)とは”. コトバンク. 2015年10月11日閲覧。
- ^ “「爆買い」「大人買い」英語で言うと?”. 読売新聞. (2006年4月9日). オリジナルの2015年9月30日時点におけるアーカイブ。 2015年10月11日閲覧。
- ^ “日本政府観光局 「食」で外国人を地方へ”. NHK. (2015年9月30日). オリジナルの2015年9月30日時点におけるアーカイブ。 2015年10月12日閲覧。
- ^ “総額2200億円!中国人旅行者の”爆買い””. 東洋経済新報社. (2014年11月23日) 2015年9月29日閲覧。
- ^ “平均45万円! 中国人旅行者が「爆買い」するアイテム”. 日刊ゲンダイ. (2014年12月18日) 2015年9月29日閲覧。
- ^ a b 菊池(2015年)147ページ
- ^ “春節「爆買い」1140億円 商戦をデータでひもとく”. 日本経済新聞. (2015年3月2日) 2015年9月29日閲覧。
- ^ “便座まで爆買いする中国人の“日本製信仰”(上) ――ジャーナリスト・中島恵”. ダイヤモンド社. (2015年4月14日) 2015年9月29日閲覧。
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参考文献
- 一般社団法人中国研究所編『中国年間2015』(2015年)発行所一般社団法人中国研究所・発売毎日新聞出版(「動向 経済 概観」の章、執筆担当;菊池直樹)
- 観光庁編『観光白書(平成27年度)』