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「エアバスA330」の版間の差分

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{{ Infobox 航空機
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| 画像=File:Airbus A330-243, Etihad Airways AN1953614.jpg
| キャプション=カタール航空 エアバス A330-200
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| 運用者 more=<br />
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** [[中国国際航空]]
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** [[エティハド航空]]
:[[エティハド航空]]
** [[カタール航空]]
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| 初飛行年月日=[[1992年]][[11月2日]]{{sfn|浜田|2013b|p=94}}
:[[チャイナエアライン]]
| 生産数=1,112機<span style="font-size:95%;">(2014年8月現在の納入数)</span><ref>{{Cite web |url=http://www.airbus.com/company/market/orders-deliveries/?eID=dam_frontend_push&docID=40336 |title=Airbus Orders & deliveries spreadsheet |publisher=Airbus S.A.S |date=August 2014 |accessdate=2014-11-01}}</ref>
:[[中国国際航空]]
:[[中国東方航空]]
:[[デルタ航空]]
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:など
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| 生産数=1099機(2014年6月時点)
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| 運用開始年月日=[[1994年]]1月([[エールアンテール]]
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| ユニットコスト=<span style="font-size:95%;">2014年発表の平均価格を示す。エンジンや仕様の選択などによって実際の価格は変わる</span><ref>{{Cite press release |title=New Airbus aircraft list prices for 2014 |date=2014-01-13 |publisher=Airbus S.A.S |url=http://www.airbus.com/presscentre/pressreleases/press-release-detail/detail/new-airbus-aircraft-list-prices-for-2014/ |accessdate=2014-12-15}}</ref>
| ユニットコスト= US$139.6 - $145.5M(2003年)
** A330-200: 2億2,170万[[アメリカ合衆国ドル|USドル]]
** A330-300: 2億4,560万USドル
** A330-200F: 2億2,480万USドル
}}
}}
'''エアバスA330'''({{lang|en|'''Airbus A330'''}})は、[[エアバス]]社が製造する中・長距離商大型[[ジェット機|ジェット]][[旅客機]]である。[[エアバスA300]]の継機として開発された。[[エアバスA340|A340]]とほぼ同時期に開発が始められた双発[[ターボファンエンン|エンジン]]の[[ワイドボディ機]]で、エンジン数を除いては基本的な構造はA340とほぼ同じ。A340が洋上飛行の制約を受けない、[[航続距離]]13,000[[キロメートル|km]]以上の4発長距離機であるのに対し、A330は航続距離13,000km以下の中・長距離機となっている。
'''エアバスA330'''({{lang|en|'''Airbus A330'''}})は、[[ヨーロッパ]]の企連合であるエアバス・インダストリー([[エアバス]])が開発・製造している双発[[ジェット機]]である。


A330は中短距離路線向けの大型[[旅客機]]として開発された。[[エアバスA300]]の胴体を延長した[[ワイドボディ機]]で、低翼配置の主翼下に2発の[[ターボファンエンジン]]を装備する。[[尾翼]]は低翼配置、[[降着装置]]は前輪配置である。A330シリーズには旅客型のA330-200とA330-300、貨物型のA330-200Fに加えて、軍用の多目的[[空中給油機|空中給油]]・[[輸送機]]である[[エアバス A330 MRTT|A330 MRTT]]があるほか、エンジンを新型に置き換えたA330neoの開発も進められている。機体寸法や性能は各形式によるが、就航中のA330-200/-300/-200Fでは、[[巡航速度]]はマッハ0.82、全長は58.82から63.69[[メートル]]、全幅は60.30メートル、[[最大離陸重量]]は184[[トン]]から238トン、座席数は253席から440席程度である。A330では[[フライ・バイ・ワイヤ]]システムや[[グラスコックピット]]が導入され、操縦系統が共通化されたエアバス機との間で[[相互乗員資格]]が認められている。
== 開発 ==
[[1980年代]]前半、エアバスは自社のA300や[[エアバスA310|A310]]の後継となり、かつ[[DC-10 (航空機)|ダグラス DC-10]]や[[ロッキード L-1011 トライスター]]、[[ボーイング767]]などと競争できる長距離旅客機の開発をはじめた。基本コンセプトはA300と同一の胴体断面を持ち、エンジンが双発のもの(開発名称:TA9)と4発のもの(開発名称:TA11)の2種を同時に開発することにあった。


A330シリーズで最初に開発されたのはA330-300で、[[1987年]]に長距離4発機の[[エアバスA340]]と同時に正式開発が決定された。双発機のA330と4発機のA340の同時並行的な開発は航空技術史上において希少な取り組みとなり、両機はエンジン関係を除いて最大限共通化された。A330-300は[[1994年]]に[[エールアンテール]]によって初就航した。次に開発されたA330-200はA330の短胴・長距離型で、[[1995年]]に正式開発が決定され、[[1997年]]に{{仮リンク|カナダ3000|en|Canada 3000}}によって初就航した。A330-200FはA330-200をベースとした貨物専用型で、[[2007年]]に正式開発が決定され、[[2010年]]に[[エティハド航空]]の貨物部門に初引き渡しが行われた。エンジンを新型に置き換えるA330neoシリーズは、[[2014年]]に正式に開発計画が発表され、[[2017年]]後半の引き渡し開始を予定している。
1987年3月に[[エールアンテール]]などの航空会社から発注を得られたことで開発が本格化し、双発型はA330、4発型はA340と命名された。初飛行は1992年11月2日であり、1993年10月に型式証明を取得した。1994年1月より就航している。


2014年7月現在、1017機のA330が民間航空路線に就航している。運用者を地域別にみると、全体の約6割が[[アジア]]・[[中東]]・[[オセアニア]]地域の航空会社によって運用されており、中でも[[中華人民共和国|中国]]の航空会社による運用機数は約1割を占める。その次に[[ヨーロッパ|欧州]]・[[ロシア]]地域の航空会社による運用機数が多く、続いて[[北アメリカ|北米]]・[[南アメリカ|南米]]地域、[[アフリカ]]地域の順となっている。2014年10月現在、A330が関係した主な航空事故・事件は20件あり<ref name=ASN-index/>、その中には8件の機体損失事故と2件の[[ハイジャック]]が含まれ、合計で339人の乗員・乗客が死亡した<ref name=ASN-statistics/>。
2013年7月19日に、通算1000機目のA330が[[キャセイパシフィック航空]]へ引き渡された<ref>[http://response.jp/article/2013/07/21/202597.html エアバス、キャセイパシフィック航空に1000機目のA330を納入] 2013年7月21日(日) 13時00分 レスポンス</ref>。(A330-300、機体番号:B-LBB)


本項では以下、エアバス製旅客機および[[ボーイング]]製旅客機については社名を省略して英数字のみで表記する。例えば、「エアバスA300」であれば「A300」、「ボーイング747」であれば「747」とする。
2014年7月14日、ロールスロイス製の新しいエンジン「[[ロールス・ロイス トレント|トレント7000]]」を搭載する「A330neo」の開発が発表された<ref>{{Cite web|date=2014-7-14|url=http://www.airbus.com/newsevents/news-events-single/detail/airbus-launches-the-a330neo/|title=Airbus launches the A330neo|publisher=エアバス|accessdate=2014-7-22}}</ref>([[#A330neo|後述]])。


== 沿革 ==
== 操縦装置およびフライトデッキ ==
=== 開発の背景 ===
[[File:13-08-06-Cockpit-d-alpa-a330-200.jpg|thumb|A330-200のコックピット]]
[[File:Air France Airbus A300B2 1974 Fitzgerald.jpg|thumb|right|1974年のファーンボロー国際航空ショーで飛行する[[エアバスA300|A300]]。A300はエアバス・インダストリーが最初に開発した製品である。]]
A330の操縦装置は、基本的にA340と同じく[[エアバスA320|A320]]で確立された[[フライ・バイ・ワイヤ]] (FBW) 方式を採用し、エアバス社の[[相互乗員資格]] (CCQ) の対象となっている。これにより、操縦装置に互換性を持つ機種の[[操縦士|パイロット]]は数日程度の訓練期間でA330の操縦資格を得ることができる。
[[アメリカ合衆国|米国]]の航空機メーカーに対抗するため、[[ヨーロッパ|欧州]]の航空機メーカーは[[1970年]]12月に企業連合「エアバス・インダストリー」を設立した{{sfn|青木|2010|p=123}}。エアバスは最初の製品である双発[[ワイドボディ機]]、[[エアバスA300|A300]]の販売を軌道に乗せ、次期製品の検討を行った{{sfn|浜田|2013a|p=92}}。この時の製品候補の中に、A330の源流となる「A300B9」(以下、B9)と呼ばれた機体案があった{{sfn|浜田|2013a|p=92}}。B9案はA300の胴体を延長し、[[ダグラス・エアクラフト|ダグラス]][[DC-10]]や[[ロッキード]][[ロッキード L-1011 トライスター|L-1011]]の市場に食い込むことを狙った双発の中距離機であった{{sfn|浜田|2013a|p=92}}。B9案の他には、A300の胴体短縮型となるA300B10(以下、B10)案、そしてエンジンを4発とした長距離型のA300B11(以下、B11)案などの複数の機体案が検討されていた{{sfn|浜田|2013a|p=92}}。しかし、当時のエアバスには同時に複数の機種を開発できるだけの資金や人員がなく、市場調査の結果をふまえて次期製品はB10案に絞られた{{sfn|浜田|2013a|p=92}}{{sfn|青木|2010|p=71}}。[[1978年]]にエアバスはB10案をA310と命名して正式に開発を開始し、B9やB11案は無期限に延期した{{sfn|浜田|2013a|p=92}}{{sfn|青木|2010|p=71}}。


[[1980年]]になると、エアバスは「SA」 (Single Aisle) と名付けられた単通路機([[ナローボディ機]])の研究を行っていることを明らかにした{{sfn|青木|2010|p=52}}。同時に、ワイドボディ機の計画名には2通路を意味する「TA」(Twin Aisle) が付けられ、B9案はTA9、B11案はTA11と名前を変えた{{sfn|浜田|2013a|p=92}}。[[1982年]]の[[ファーンボロー国際航空ショー]]の場で、TA9、TA11、そして新たに追加されたTA12の開発構想が発表された{{sfn|浜田|2013a|p=93}}。TA9、TA11、TA12案は何度か変更が加えられたが、おおむね以下のようなものであった{{sfn|浜田|2013a|p=93}}{{sfn|青木|2010|p=36}}{{sfn|青木|2012a|p=16}}{{sfn|Hofton|1983|p=1008}}。
計器はギアブレーキ系統の油圧計を除いて[[ブラウン管|CRT]]モニターを用いた[[グラスコックピット]]で、後にモニタには[[液晶ディスプレイ]]が使われるようになった。[[機長]]席・[[副操縦士]]席正面に、[[姿勢指示器|水平儀]]や速度、高度を表示する[[旅客機のコックピット#PFD|PFD]]を外側に、航法情報を表示する[[旅客機のコックピット#ND|ND]]を内側に並列におき、両席中央にエンジンやシステム全体の状態を示すECAMを縦に二つ配置するなど、配置は基本的にA320と同一である。またFBWの導入と同時にエアバスの「顔」にもなったサイドスティックやスピードブレーキ、[[高揚力装置|フラップ]]、[[降着装置#前輪式と尾輪式|ノーズギア]]の操舵ハンドルなどの配置や細かなデザインも同様である。また機体制御のシステム全体も共通性を持たせる設計になっている。
* '''TA9''' - A300の胴体を延長して320席を超える座席数を持つ中距離双発機。
* '''TA11''' - TA9より短い胴体で座席数は230席程度、10,000[[キロメートル]]以上の航続力を持つ長距離4発機。
* '''TA12''' - TA11と同じ胴体長・座席数で、TA11より[[航続距離]]が短いが、エンジンを双発とした長距離機。
しかし、この頃、[[第2次石油危機]]と景気後退により民間航空機市場は縮小していた{{sfn|浜田|2013a|p=93}}。エアバスは、[[1984年]]3月にSA計画を[[エアバスA320|A320]]と名付けて正式開発を開始した一方で、TA計画の開発決定を先送りした{{sfn|青木|2014b|p=112}}{{sfn|浜田|2013a|p=93}}。双発機の開発案はTA9とTA12の2種類になっていたが、1980年代の中頃にはTA12案が取り下げられた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|pp=28-29}}。TA9案はTA11案とともに改良が加えられ、A320と共通の[[フライ・バイ・ワイヤ]]システムを導入し、A320同様にサイドスティック方式の操縦席を搭載する計画となった{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|pp=28-29}}。


エアバス内部では、双発機のTA9と4発機のTA11のどちらを先に開発するか議論が重ねられた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}。離陸重量などの条件が同等だと仮定した場合、双発機には4発機よりも強力なエンジンを装備する必要がある{{sfn|阿施|2010|p=50}}{{sfn|浜田|2013a|p=94}}{{refnest|group="注釈"|双発機ではエンジン数が半分になるので、単純に2倍の推力のエンジンを載せればよいというのでもない。旅客機は、離陸時にエンジンが1基停止しても残りのエンジンで安全に離陸できることが条件として求められる。したがって、双発機のエンジンには1基のみで離陸できるだけの推力が求められ、4発機の場合は3基のエンジンで離陸推力を発生できれば良い。離陸・上昇に必要な推力をTとすると、双発機、4発機のエンジン1基に求められる推力はそれぞれT、T/3となる。結果として、合計推力で比較すると、双発機 (2T) は4発機 (4T/3) の1.5倍となる{{sfn|阿施|2010|p=50}}{{sfn|浜田|2013a|p=94}}。}}。また、エンジンの信頼性が低かった時代に作られた規制により、双発機はエンジン1基が停止した場合に60分以内に着陸可能な飛行場があるルートしか飛行できず<ref name=yoneya/>、代替飛行場の少ない中長距離の洋上路線では3発機や4発機が用いられていた{{sfn|山崎文徳|2009|p=48}}。しかし、双発機には、4発機より機体のシステムが簡素で整備の手間が少なく、運用コストが低く済むというメリットがある{{sfn|阿施|2010|pp=50-51}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}。エンジンの信頼性や性能が向上が進んだことで、低コストの双発機を洋上路線で運航したいというニーズが高まっており、[[1985年]]には、[[ETOPS]]と呼ばれる双発機の長距離運航を認める要件が策定されていた<ref name=yoneya/>。ただし、当時のETOPSでは航路設定や運航の自由度がまだ限られていたほか、認証を得るために時間も要した<ref name=yoneya/>{{sfn|青木|2012a|p=16}}{{sfn|青木|2010|pp=37-38}}。[[北アメリカ|北米]]の航空会社はコスト面で有利な双発機を好んだ一方、長距離洋上路線を抱える[[アジア]]の航空会社は双発機のような制約の無い4発機を必要とし、欧州の航空会社の意見は両者に二分されていた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}{{sfn|山崎明夫|2009|p=72}}。
== 機体特徴 ==
[[ファイル:2010-06-30 A330 LH D-AIKK EDDF 02.jpg|right|250px|thumb|ルフトハンザドイツ航空 A330-300]]
[[ファイル:Airbus A330-200 Emirates A6-EAL.jpg|250px|thumb|エミレーツ航空 A330-200]]
=== 各型式 ===
A330には最初に開発された航続距離5,600[[海里]]の標準的な-300型と、胴体を短縮して座席数を減らす代わりに運航自重を削減して燃料搭載量を増し、航続距離を6,650海里とした-200型がある。


航空業界の意見が双発機と4発機に分かれていたなかで、エアバスはTA9とTA11を同時開発する方向へ舵を切った{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}{{sfn|山崎明夫|2009|p=72}}。総開発費を抑制するため、両機の構成要素は最大限共通化するよう設計が行われた(設計過程の詳細は後述){{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}{{sfn|山崎明夫|2009|p=72}}{{sfn||"Financing the A330"|2011|p=34}}。2機の同時開発の目処が立ち、[[1986年]]1月にエアバスはTA9とTA11をそれぞれA330、[[エアバスA340|A340]]と命名した{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}。A340は短胴型のA340-200と長胴型のA340-300の2モデル構成となった一方で、この時点ではA330は1モデルのみの開発とされた{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。なお、A330とA340の名称は元々は逆であった。エアバスはTA11を先に開発する予定であり、A320に続く新型機ということでTA11をA330、そしてTA9をA340としていた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}{{sfn|山崎明夫|2009|p=72}}。しかし、4発機がA3"3"0で双発機がA3"4"0では、顧客が両機を取り違えるという問題が指摘され、4発機がA340に変更された{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}{{sfn|山崎明夫|2009|p=72}}。
ちなみにA330-300の胴体長は同時開発されたA340-300と同じであるが、A330-200の胴体長はA340-200より主翼より前で2フレーム短縮されている。エアバス社が示す基本的な座席数は3クラス構成で、-200型が253席、-300型が295席。実際の受注数は後から開発された-200型の方が多くなっている。また近年は重量増加タイプも登場している<ref>{{Cite web|date=2012-12-3|url=http://www.aviationwire.jp/archives/12415|title=エアバス、A330に最大離陸重量242トンの新タイプ|publisher=Aviation Wire|accessdate=2014-7-22}}</ref>。


A330の最初の発注があったのは[[1987年]]3月で、[[フランス]]の[[エールアンテール]]からであった{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}。その年の6月までに合計10社の航空会社からA330に41機、A340に89機の注文が集まっていた{{sfn||"Financing the A330"|2011|p=34}}{{sfn|Hofton|1987|p=39}}。開発を進めるのに十分な受注の見込みが立ったことで、エアバスは[[パリ航空ショー]]を控えた1987年6月5日、A330とA340の正式開発を決定した{{sfn|青木|2010|p=36}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997|p=29}}。両機は姉妹機として同時に開発が決定されたが、市場調査の結果を踏まえ、A340の開発作業が先行された{{sfn|浜田|2013a|p=94}}{{sfn|青木|2010|pp=36}}。
=== エンジン ===
エンジンは、[[プラット・アンド・ホイットニー]]の[[プラット・アンド・ホイットニーPW4000|PW4000]]、[[GE・アビエーション|ゼネラル・エレクトリック]]の[[ゼネラル・エレクトリック CF6#CF6-80E1|CF6-80E1]]、[[ロールス・ロイス・ホールディングス|ロールスロイス]]社の[[ロールス・ロイス トレント#各種型|トレント700]]を選択することができる。


=== 設計の過程 ===
[[推力]]は68,000[[重量ポンド|ポンド]]から72,000ポンドである。ほぼ同じ設計のA340が4発機であるのに対し、A330は双発であるため、やや強力なエンジンを搭載している。
[[File:N816NW - Airbus A330-323E (A333) cn 827 taxiing 21July2013 pic-001-mod.jpg|thumb|正面から見た[[デルタ航空]]のA330-300。A330はA300と同じ胴体断面が採用された。]]
[[File:Singapore Airlines Airbus A330-300; 9V-STG@SIN;07.08.2011 617cg (6068863019).jpg|thumb|右側面から見た[[シンガポール航空]]のA330-300。]]
A330の胴体は断面・長さともにA340-300と同一とされた{{sfn|青木|2014b|p=36}}{{sfn|青木|2014b|p=104}}。胴体断面はA300由来のワイドボディ機の設計で、客室の座席配置や、LD-3航空貨物コンテナを左右に並べて搭載できる床下貨物室もA300から引き継がれた{{sfn|浜田|2013a|p=97}}。また、両機は尾部も共通化されたほか、主翼もエンジン取付部以外は構造的に同じで、システムや[[旅客機のコックピット|コックピット]]もエンジン関係を除いて共通化された{{sfn|青木|2010|p=44}}{{sfn|浜田|2013a|p=94}}。4発機と双発機の同時並行的な開発というのは航空技術史上において希少な取り組みとなった{{sfn|浜田|2013a|p=94}}。ここで時間を少し巻き戻して、A330の設計過程を詳しく見てみる。
{{see also|エアバスA340#設計の過程}}


A330の主翼は新規設計されたもので、A340の主翼と基本的構造が共通化された{{sfn|浜田|2013a|p=96}}。A330とA340で[[最大離陸重量]]が同一だと仮定すると、4発機のA340の方がエンジンの重量が分散されることで主翼の付け根にかかる負荷が小さく強度の余裕ができることから、長距離向けのA340にのみ胴体に燃料タンクと中央脚([[降着装置]])を装備し、両機で主翼に必要な強度がほぼ等しくなるよう調整された{{sfn|浜田|2013a|p=96}}{{sfn|Moxon et al.|1991|p=40}}。また、[[コンピュータ]]を用いた強度計算・空力設計と[[風洞]]実験を組み合わせることで[[翼型]]、翼厚比、取付角などが緻密に検討され、エンジン取付部を除いた主翼の共通化が実現した{{sfn|浜田|2013a|p=96}}{{sfn|Moxon et al.|1991|p=40}}。A330のエンジンの取り付け位置は、A340における第2、第3エンジン(主翼の付け根側のエンジン)にあたる場所とされた{{sfn|青木|2010|p=44}}。
=== 翼 ===
主翼はA340-200/300と同じものである。翼端には[[後方乱気流#翼端渦の概要|翼端渦]]を減らして[[抗力|空気抵抗]]を減らし、[[揚力]]を効率的に生み出すための[[ウィングレット]]が装着されている。


A330とA340では尾翼も同一とされ、[[垂直尾翼]]はA310のものがほぼ流用されたが、[[水平尾翼]]は新たに設計された{{sfn|浜田|2013a|pp=94, 97}}{{sfn|青木|2010|p=39}}{{sfn|Thomas|1992|pp=6-7}}。A310と同様に水平安定板内には燃料タンクが設けられ、主翼や尾翼のタンク間で燃料を移動させて機体の重心位置を制御するシステムも搭載された{{sfn|浜田|2013a|p=97}}。
== 派生型 ==
標準型のA330-300は全長63.6 [[メートル|m]](208[[フィート]])、航続距離10,500 km(5,650海里)。短胴型のA330-200は全長59.0 m(193フィート)、航続距離 12,500 km(6,750海里)。


[[File:HB-JMA@ZRH;16.01.2010 561ev (4283105698).jpg|thumb|併走する[[スイスインターナショナルエアラインズ]]のA340-300(手前)とA330-300(奥)。]]
=== A330-300 ===
A330の操縦系統はA340と同一のシステムが用いられた{{sfn|Brière|Traverse|1993}}。このシステムはエアバスがA320で実用化したシステムの改良版であり{{sfn|浜田|2013b|p=93}}、全ての操縦翼面にフライ・バイ・ワイヤ方式が導入された{{sfn|Brière|Traverse|1993}}。コックピットもA320と基本的な設計は同じで、6面の[[ブラウン管]]ディスプレイに各種情報を表示するいわゆる[[グラスコックピット]]であり、従来の[[操縦桿]]の代わりにサイドスティックを用いるのもA320と同様である{{sfn|青木|2010|p=37}}。A330のコックピット配置は、エンジンのスロットルレバーの数を除いてA340のものと事実上共通化された{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。
[[ファイル:Air Berlin (LTU) Airbus A330-300 D-AERK DUS.jpg|thumb|right|250px|[[エア・ベルリン]](旧 LTU国際航空) A330-300]]
A300の代替を目的として開発された。胴体は[[エアバスA300-600R|A300-600R]]を基本に延長したものであり、主翼、安定装置が更新されているほか、A320で確立されたフライ・バイ・ワイヤのソフトウエアも更新されている。航続距離10,500 km (5,650マイル) 以上の3クラス制客室設計で、乗客295名を輸送する。2014年1月までに503機が引き渡されている。


エンジンの数とそれに伴う非常時の対処以外、A330とA340の操縦操作は基本的に同じであり、[[相互乗員資格]](Cross Crew Qualification, 以下CCQ)と呼ばれる資格制度が認められた{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。これは、いずれかの機種の操縦資格を持つ操縦士は、短期間の訓練でもう一方の操縦資格を得られるという制度で、特にA340からA330への転換訓練は1日とされた{{sfn|浜田|2013b|p=93}}{{sfn|青木|2010|p=46}}。また、コックピット配置が基本的に同じA320ファミリーとの間でもCCQが適用された{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。
[[ボーイング]]社製の同級の航空機である[[ボーイング777#777-200(772A)|777-200]]に比べると貨物室の搭載容量が大きく、一部の航空会社では夜間に乗客を乗せずに貨物専用便として運航している。


A330のエンジンには、[[GE・アビエーション|ゼネラル・エレクトリック]](以下、GE)社、[[プラット・アンド・ホイットニー]](以下、P&W)社、[[ロールス・ロイス・ホールディングス|ロールス・ロイス]](以下、{{nowrap|R-R}})社の製品からの選択制が採用された{{sfn|浜田|2013a|p=95}}。GE社のエンジンはA300から引き継がれた[[ゼネラル・エレクトリック_CF6|CF6-80]]シリーズ、P&W社からは[[プラット・アンド・ホイットニーPW4000|PW4000]]シリーズ、{{nowrap|R-R}}社からは[[ロールス・ロイス_トレント|トレント700]]シリーズの装備仕様が設定された{{sfn|浜田|2013a|p=95}}。
A330-300は[[キャセイパシフィック航空]]、[[香港ドラゴン航空]]、[[香港航空]]、[[マレーシア航空]]、[[シンガポール航空]]、[[エアアジア X]]、[[タイ国際航空]]、[[ガルーダ・インドネシア航空]]、[[大韓航空]]、[[アシアナ航空]]、[[フィリピン航空]]、[[チャイナエアライン]]、[[エバー航空]]、[[中国東方航空]]、[[カンタス航空]]、[[スカンジナビア航空]]、[[フィンランド航空]]、[[ブリュッセル航空]]、[[ルフトハンザドイツ航空]]、[[スイスインターナショナルエアラインズ]]、[[アエロフロート・ロシア航空]]、および[[デルタ航空]]([[ノースウエスト航空]])、[[USエアウェイズ]]、[[エア・カナダ]]などで運航されている。日本では、[[スカイマーク]]が2014年6月14日より運航を開始した。


=== 生産と試験 ===
一方で、マレーシア航空など初期に導入した機材は、2012年から順次退役も出始めている。
A330の生産はそれまでのエアバス機と同様に国際分業体制がとられ、参加各国でパーツを分担して製造し、最終組み立てはフランスの[[トゥールーズ]]で行われた{{sfn|青木|2010|p=133-134}}。生産においてもA330とA340の共通性は極めて高く、同一ライン上で両機の組み立てが行われた{{sfn|青木|2010|p=133-134}}。トゥールーズにはA330/A340を組み立てるための施設が新設され、最終組み立て工程の一部にはロボットが導入された{{sfn|Thomas|1992|pp=6-7}}。


試作機の製造や試験もA340が先行して行われた{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。[[1991年]]10月4日にA340の1号機の完成披露式典が行われたが、ちょうどその頃、A330の試作機の最終組み立てが開始されている{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。
=== A330-200 ===
[[ファイル:Etihad.airways.1.750pix.jpg|thumb|right|250px|エティハド航空 A330-200]]
[[ファイル:AF PAff.jpg|thumb|right|250px|エールフランス A330-200の[[ビジネスクラス]]]]
A300-600Rを代替するもので[[ボーイング767#767-300ER|767-300ER]]と競合する機種として開発された。この型は-300型の短胴型であり、胴体部分で5.3m短縮されている。短胴化に対応して、垂直安定板が1m延長され、[[方向舵]]面積も増積されるなど、安定性が改良された。1995年から開発を開始し、1997年8月13日に初飛行した。これまでに527機が引き渡されている。


A330の初号機は[[1992年]]10月14日に完成し、11月2日に初飛行を行った{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。当初のA330の飛行試験に用いられたのは3機で、いずれもCF6エンジン装備機だった{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。[[1993年]]10月21日、A330の最初の型式証明が、欧州の合同航空当局(Joint Aviation Authorities、以下JAA)と米国の[[連邦航空局]](Federal Aviation Administration、以下FAA)から同時に交付された{{sfn|浜田|2013b|p=94}}{{sfn|EASA|2014|p=5}}{{sfn|FAA|2014|p=12}}。1993年12月末にエールアンテールに対してA330の最初の引き渡しが行われた{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。
3クラス構成の旅客数253名で航続距離は12,500 km (6,750マイル)。エンジンは-300型と同一である。最初の顧客である[[インターナショナル・リース・ファイナンス|ILFC]]/Canada 3000([[w:Canada_3000|英語版]])へ引き渡されたのは1998年4月であった。ボーイング社製の同級の航空機は[[ボーイング787|787-8]]および[[ボーイング767#767-400ER|767-400ER]]になる。


その後、初号機はエンジンをトレント700に換装されて[[1994年]]1月31日に初飛行し、1994年12月22日に同エンジン装備型に対する型式証明を取得した{{sfn|青木|2010|p=47}}。PW4000エンジン仕様については、最初の機体が1993年10月14日に初飛行し、1994年6月2日に同エンジン装備型の型式証明を取得している{{sfn|青木|2010|p=47}}。PW4000を装備した最初の機体は、型式証明の取得から間もない6月30日に試験飛行時に墜落し、搭乗していた7名全員が死亡した{{sfn|青木|2010|p=47}}({{仮リンク|エアバス129便墜落事故|en|Airbus Industrie Flight 129}})。これは、A330で最初の墜落事故となった<ref name=ASN-losses/>。
A330-200は[[中国国際航空]]、中国東方航空、[[エバー航空]]、[[香港航空]]、[[エア・トランザット]]、[[エミレーツ航空]]、[[カタール航空]]、[[エティハド航空]]、[[ガルフ・エア]]、[[エールフランス]]、[[エア・ベルリン]]、[[TAM航空]]、[[ハワイアン航空]]、カンタス航空、[[ジェットスター航空]]などで運航されている。


=== A330-200Lite ===
=== 就航開始 ===
[[File:Air Inter Airbus A330-300; F-GMDC@ORY;06.08.1996 (5217459498).jpg|thumb|[[エールアンテール]]のA330-300。A330は[[フランス]]の国内線で路線就航を開始した。|alt=地上でのA330を右前方から見る。]]
ボーイング787-9と競合するよう企画された型である。機体重量を軽減し、より経済的なエンジンを搭載する。この計画は拡張され[[エアバスA350 XWB|A350]]へと発展した。シンガポール航空 (SIA) などはこの計画に興味を示していた。
1994年1月17日、エールアンテールは[[パリ]] - [[マルセイユ]]線にA330を就航させた{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。同社はフランス国内線専門の航空会社だったため、このときのA330の就航は陸上路線のみであった{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。1994年5月、[[アイルランド]]の[[エアリンガス]]によって、A330は最初の洋上路線となる[[ダブリン]] - [[ニューヨーク]]線に就航した{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。


エアバスは、長距離路線には4発のA340、中短距離はA330という売り分けを考えていたが、A330を洋上路線に就航させる需要もあったことから、A330のETOPS認証取得も進めた{{sfn|青木|2010|p=47}}。1994年4月29日、GE製CF6エンジン装備仕様に対して、代替飛行場からの飛行距離が120分までとなるETOPSが認められ、[[1995年]]2月6日には認可時間が180分に延びた{{sfn|EASA|2014|p=4}}。また、P&W製エンジンと{{nowrap|R-R}}製エンジン装備仕様についても、1995年から1996年にかけて120分と180分のETOPSが認められた{{sfn|EASA|2014|p=4}}。
=== A330-500 ===
A300やA310の代替需要を狙って、-200型の胴体をさらに短縮するという構想で企画された型。[[日本エアシステム]]にもA300の代替として提案されたが、航空会社の関心を得ることができず、計画のみで終了した。
{{-}}


1995年7月までに、A330の運航機数は29機となり、エールアンテールとエアリンガスに加えて[[LTU国際航空]]、[[キャセイパシフィック航空]]、[[マレーシア航空]]、[[タイ国際航空]]、[[香港ドラゴン航空]]で導入された<ref name=WAC1995/>。
=== A330-200F ===
[[ファイル:Hong Kong Airlines Cargo Airbus A330-243F Spijkers.jpg|thumb|right|250px|香港航空 A330-200F]]
-200型の貨物機型。[[MD-11#MD-11F(貨物型)|MD-11F]]や[[DC-10 (航空機)#基本型・派生型|DC-10F]]、[[エアバスA300-600R#派生型|A300-600F]]の代替を狙っている。実際にイントレピット・アビテーション・グループを初めとして、2007年までに68機の受注を得ている。しかしMD-11などはA330より重いものを輸送可能であるため、未だにMD-11FやDC-10Fなどの代替として発注されたことはない。貨物搭載量は60[[トン|t]]クラス。2007年開発開始、2009年11月5日に初飛行した<ref>[http://www.airbusjapan.com/press-release-details/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=308&tx_ttnews%5BbackPid%5D=136&cHash=c74acd5533 エアバスの新型貨物専用機A330-200Fが初飛行]</ref>。ノースギアに膨らみがあるのが特徴。


=== A330-200の開発 ===
ローンチカスタマーは[[エティハド航空]]で、2010年8月に受領。現在は、エティハド航空以外に[[香港航空]]・[[トルコ航空]]・[[マレーシア航空|MASkargo]](マレーシア航空の貨物専門会社)・MNGエアラインズ・[[アビアンカ航空|アビアンカ・カーゴ]]などへ引き渡されている。
[[File:Airbus A330-222, Airbus Industrie AN0067863.jpg|thumb|left|エアバスのレインボーカラー塗装のA330-200。]]
A330の販売は、1980年代後半にまとまった受注を集めた後は、下火になっていた{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=40}}。航空会社は長大な航続距離性能を持つ双発機を求めるようになっていた{{sfn|浜田|2013b|p=95}}。また、姉妹機となるA340は1993年3月に路線就航を開始していたが、その後、段階的に最大離陸重量が引き上げられて航続距離性能が強化されていた{{sfn|青木|2010|pp=40, 44}}。エアバスではA330とA340との中間の航続力を持つ機種として、A330の胴体を短縮して収容力を減らす代わりに燃料搭載量を増やすことで航続力を増強した派生型の検討を始めた{{sfn|青木|2010|p=44}}{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=40}}。この機体案はA330-200と名付けられ、1995年11月24日に正式開発が決定された{{sfn|青木|2010|p=44}}{{sfn|浜田|2013b|p=95}}。A330-200の開発に伴い、それまでのA330はA330-300と呼ばれることとなった{{sfn|青木|2010|p=44}}。A330-200が最初の発注を得たのは1996年前半で、リース会社の[[インターナショナル・リース・ファイナンス]]社(以下、ILFC)からであった{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=40}}。


A330-200の胴体は、A330-300のものから主翼の前後で合わせて10フレーム短縮された{{sfn|青木|2010|p=44}}。胴体の短縮により機体の重心位置から垂直尾翼までの距離が短くなることから、これを補うため、A330-200では垂直尾翼の高さ方向が拡大された{{sfn|青木|2010|p=44}}{{sfn|浜田|2013b|p=95}}。A330-200では、A340-300の重量増加型と同様に主翼が強化されて最大離陸重量が引き上げられ、胴体中央への燃料タンクが追加されたほか{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=40}}、エンジンが推力増加型に変更された{{sfn|青木|2010|p=45}}。これらの変更により、航続距離は11,853から12,223キロメートル(6,400から6,600海里)となった{{sfn|浜田|2013b|p=95}}。A330-200でもGE、{{nowrap|R-R}}、P&Wの3社のエンジンが選択可能とされた{{sfn|青木|2010|p=47}}。
また、2012年からは既存のA330-200/300を貨物機に改修するP2Fプログラムが、シンガポールのSTエアロスペース社によって開始されている。
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A330-200の初号機はGE社のCF6エンジンを装備した機体で、[[1997年]]8月13日に初飛行した{{sfn|青木|2010|p=47}}。また、同年12月4日にはP&W社のPW4000エンジンを装備した最初の機体が初飛行した{{sfn|青木|2010|p=47}}。[[1998年]]3月31日、CF6エンジン装備型に対してA330-200で最初となる型式証明がJAA、FAA、そしてカナダの航空当局から同時に交付された{{sfn|青木|2010|p=47}}{{sfn|浜田|2013b|p=95}}。その後、330-200の初号機はエンジンをCF6から{{nowrap|R-R}}社のトレント700に換装してトレント700装備型の型式証明取得のために試験飛行を行った{{sfn|青木|2010|p=47}}。
===A330リージョナル===
2013年9月に行われた第15回北京国際航空展覧会で発表された型。A330-300がベースとなるが、機体重量の軽減やエンジン推力の減少を行い、従来の長距離向け仕様機に比べて運航コストを最大15%削減するというコンセプトは、前出のA330-200Liteと一部共通。人口増加が進む[[中華人民共和国|中国]]や[[インド]]・[[中近東]]の国内線・地域路線に向けて提案された<ref>{{Cite web|date=2013-9-26|url=http://www.aviationwire.jp/archives/26376|title=エアバス、国内線向けにA330軽量化型 中国や中東ターゲット|publisher=Aviation Wire|accessdate=2014-7-22}}</ref>。


330-200の最初の引き渡しは1997年4月で、カナダのチャーター便専門会社である{{仮リンク|カナダ3000|en|Canada 3000}}に対して行われた(機体の保有はILFC){{sfn|浜田|2013b|p=95}}。この時の機体はGE製エンジン装備機であった{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=41}}。翌1998年にはP&W製エンジン仕様が[[オーストリア航空]]へ、[[1999年]]2月には{{nowrap|R-R}}製エンジン仕様がILFCからのリース機としてカナダの[[エア・トランザット]]に初納入された{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=41}}。
===A330neo===
neoは'''N'''ew '''E'''ngine '''O'''ptionの略で、同じく改良型の開発が進められている[[エアバスA320#A320neo|A320]]にならった名称である。


=== A330-200の就航開始 ===
主翼は[[エアバスA350XWB|A350]]と同じ複合材ウィングレットが装着され、主翼幅は60.3メートルから64メートルに延長。現行型より1席あたり燃費消費量を14%削減した。また航続距離を400海里延長し、旅客・貨物の搭載量を増加させる。現行型同様2種類設定され、標準座席数はA330-800neoが252席、A330-900neoが310席。現行型とは95%の互換性を持ち、運用面やメンテナンスコストは5%削減される。最新の機内エンターテイメントシステムや[[発光ダイオード|LED]]ムード照明も導入される。
[[File:Cyprus_airways_a330-200_5b-dbs_arp.jpg|thumb|[[キプロス航空]]のA330-200を下から見上げる。]]
1997年5月に、カナダ3000によってA330-200は初就航した{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=41}}。1999年11月の時点で、[[スイス航空]]を筆頭に、[[サベナ・ベルギー航空]]、[[エミレーツ航空]]、[[ガルフ・エア]]、[[大韓航空]]、[[TAM航空]]など14の航空会社で46機のA330-200が運用され、大西洋や太平洋を横断する路線にも投入された{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|pp=41-45}}。フライトあたりの平均飛行時間は、A330-300が1.7から3.5時間であったのに対し、A330-200では3.5から8時間であり、これはA340に近い数値であった{{sfn|Kingsley-Jones|Norris|1999|p=41}}。


A330-200の導入初期のトラブルとして、前脚の旋回角度の制限によって狭い滑走路などで機体の取り回しが困難になる場合があったほか、主脚の[[ショックアブソーバー]]からの油漏れなどが指摘され、エアバスでは角度範囲の見直しなどの対応を行った{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|pp=41-45}}{{sfn|Kingsley-Jones|Norris|1999|pp=41-42}}。また、大型化された垂直尾翼に対応するため、尾翼のロゴを照らす照明も再設計されている{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=42}}。
エアバス社が2014年6月に行った航空記者向け説明会では、エンジン換装に伴う手間に加え、単通路機よりも市場規模が小さいため、採算が取れないという理由でこのモデルの開発に否定的な見方を示していた<ref>[[青木謙知]]『“エミレーツの判断”が会場の話題をさらった「2014年エアバス社イノベーション・デイズ」』 - 『[[航空ファン_(雑誌)|航空ファン]]』(文林堂発行)2014年9月号78ページ。</ref>。しかし、同年7月14日の[[ファーンボロー国際航空ショー|ファンボロー・エアショー]]にてローンチを発表。翌7月15日に、[[エアアジア X]]からA330-900neoの発注コミットメントを獲得した<ref>{{Cite web|date=2014-7-15|url=http://www.airbus.com/newsevents/news-events-single/detail/airasia-x-to-order-50-a330neo/|title=AirAsia X to order 50 A330neo|publisher=エアバス|accessdate=2014-7-22}}</ref>。2017年第4四半期に初号機が航空会社に納入予定<ref>{{Cite web|date=2014-7-14|url=http://www.airbus.com/newsevents/news-events-single/detail/farnborough-airshow-2014/|title=A330neo: Powering into the next decade|publisher=エアバス|accessdate=2014-7-22}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://mainichi.jp/feature/news/20140715mog00m040035000c.html|title=<エアバス>新型機「A330neo」を発表|publisher=毎日新聞|date=2014-7-15|accessdate=2014-7-22}}</ref>。なお、[[エアバスA350XWB|A350]]からの発注をA330neoに切り替えた航空会社もある<ref>{{Cite web|url=http://flyteam.jp/news/article/38281|title=ハワイアン航空、A350をA330-800neoに発注切り替え|publisher=フライチーム|date=2014-7-23|accessdate=2014-12-17}}</ref>。


A330-200でもETOPSの認可取得が進められ、1998年4月27日にGE製のCF6エンジン装備機で180分のETOPSが認められたのを最初に、1999年前半までにP&W製と{{nowrap|R-R}}製のエンジン装備仕様でも180分のETOPSが認められた{{sfn|EASA|p=4}}。
現行型については、これもA320同様に'''A330ceo(Current Engine Option)'''と呼ばれるようになった<ref>{{Cite web|date=2014-7-17|url=http://www.airbus.com/presscentre/pressreleases/press-release-detail/detail/transaero-airlines-commits-to-20-a330s/|title=Transaero Airlines commits to 20 A330s|publisher=エアバス|accessdate=2014-7-22}}</ref>。


=== A330-200 MRTT ===
=== 貨物型と軍用型の開発 ===
2000年頃になると、エアバスはDC-10、[[MD-11]]、L-1011といったワイドボディ機をベースに開発された貨物専用機の後継需要を狙い、新たな貨物型の研究を始めた{{sfn|青木|2010|p=48}}。[[2001年]]6月にA330の設計を活用する計画を公表し、機体仕様などを詰める作業を進めた{{sfn|青木|2010|p=48}}。[[インド]]の新興運送会社であるFlyington Freighters社のほか、航空機リース会社であるゲッゲンハイム・アビエーション・パートナーズ社とイントレピッド・アビエーション社から合わせて32機の受注が集まり{{sfn|Kingsley-Jones|2010}}、[[2007年]]1月17日にA330-200をベースとした貨物専用機となるA330-200Fの正式な開発を決定した{{sfn|青木|2010|p=48}}。
{{main|エアバス A330 MRTT}}
A330-200をベースに製造された多目的[[空中給油機]]および[[輸送機]] (Multi Role Tanker Transport) である。2004年1月には[[国防省 (イギリス)|イギリス国防省]]が当機を[[イギリス空軍]]向けの次期戦略空中給油機計画における空中給油機として採用することを発表した。


[[File:HongKong Airlines Airbus A330-200F; B-LNX@BKK;30.07.2011 613bs (6041805847).jpg|thumb|[[香港航空]]のA330-200F。]]
後に[[オーストラリア空軍]]がKC-30と命名し導入となった。2008年2月には[[アメリカ空軍]]が[[KC-135]]後継の次期空中給油機選定計画 ([[KC-X]]) で当機を選定、[[KC-45 (航空機)|KC-45]]と命名された。しかし、この選定作業はボーイングからの異議申し立ての後再審査となり、結局KC-45は不採用となった。
A330-200Fは、基本的にはA330-200と同じ機体フレームを用い、メインデッキ(機体上半分の客席を設ける部分)に貨物を搭載できるように大型の貨物扉の追加や床面の強化が行われたほか、旅客用設備が取り除かれた{{sfn|青木|2010|p=48}}{{sfn|青木|2014b|p=260}}。また、ベースとなったA330-200では主脚より前脚が短く地上ではやや機首が下がった姿勢となっているが、メインデッキに貨物を搭載するA330-200Fでは前脚の取り付け位置を下げることで地上姿勢を修正された{{sfn|青木|2014b|p=260}}。このことにより、前脚の格納時に車輪や脚柱がはみ出してしまうため、それを収めるため機首部下面に張り出しが追加された{{sfn|青木|2014b|pp=260-261}}{{sfn|浜田|2013b|p=96}}。エンジンは{{nowrap|R-R}}社のトレント700とP&W社のPW4000を装備する仕様がそれぞれ設定された{{sfn|青木|2010|p=48}}。A330-200Fの初号機はPW4000エンジンを装備する機体で、[[2009年]]11月5日に初飛行して試験飛行を開始した{{sfn|青木|2010|pp=48-49}}{{sfn|Kingsley-Jones|2010}}。A330-200Fの2号機はトレント700エンジンを装備し、[[2010年]]1月20日に初飛行して試験飛行に投入された{{sfn|青木|2010|pp=48-49}}{{sfn|Kingsley-Jones|2010}}。約200時間の試験飛行の大半は初号機によって行われ{{sfn|Kingsley-Jones|2010}}、2010年4月9日に[[欧州航空安全機関]](EASA)の型式証明を取得した{{sfn|青木|2014b|p=260-261}}。A330-200Fの引き渡しは、2009年後半に開始する予定だったが開発中にスケジュールが延び、その間に貨物市場の崩壊が発生していた{{sfn|Kingsley-Jones|2010}}。引き渡しの順番が入れ替わり、2010年8月9日、エティハド航空の航空貨物部門であるエティハド・クリスタル・カーゴ社に最初の納入が行われた{{sfn|青木|2014b|p=260-261}}{{sfn|Kingsley-Jones|2010}}{{refnest|type="注釈"|Flyington Freighters社からの注文は最終的にキャンセルされている<ref>{{Cite web |last=Kaminski-Morrow |first=David |title=India's Flyington cancels A330 freighter order |date=2011-02-03 |work=Flightglobal |url=http://www.flightglobal.com/news/articles/india39s-flyington-cancels-a330-freighter-order-352726/ |accessdate=2014-11-22}}</ref>。}}。


[[File:A39-003 YMAV 20130227 8724 (13185795523).jpg|thumb|[[オーストラリア空軍]]の[[エアバス A330 MRTT]]。同空軍ではKC-30Aと名付けられている。]]
== 仕様 ==
また、A330-200Fが開発された頃、A330-200をベースとした多目的[[空中給油機|空中給油]]・[[輸送機]]の開発も行われた{{sfn|浜田|2013b|p=97}}。2004年12月20日に[[オーストラリア空軍]]が5機の[[エアバス A330 MRTT|A330 MRTT]]を発注する契約を結び{{sfn|NATO's Nations and Partners for Peace|2007}}、初飛行は2007年6月15日に行われ{{sfn|Airbus Defence and Space|2007}}、2011年6月1日に正式運用が開始された{{sfn|Pandey|2014}}。2008年には、[[アメリカ空軍]]の時期空中給油機として[[KC-45 (航空機)|KC-45]]の名で採用が決まったが、ボーイングからの抗議を米国の会計検査院が認めたことで、選定作業は振り出しに戻った<ref name=FI-2011-03/>。2011年2月、米空軍は[[ボーイング767|767]]をベースとした[[KC-46 (航空機)|KC-46]]の採用を決定し、結局KC-45は不採用となっている<ref name=FI-2011-03/>。
{| class="wikitable" style="background: #fff; padding: 1em; text-align: center;"

|-
[[2012年]]2月には、エアバスとシンガポールの{{仮リンク|STエアロスペース|en|ST Aerospace}}社が共同でA330の旅客型から貨物機への改修事業を立ち上げることが発表された<ref name=WSJ/>。発表内容によると、この改修事業の拠点はドイツの[[ドレスデン]]に置くとされ、A330-200とA330-300の両型式を改修対象としている<ref name=WSJ/>。エアバスでは、この貨物型改修機をA330P2F(P2FはPassenger-to-freighter、旅客機から貨物機へという意味)と名付けている<ref name=Airbus-a330p2f>{{Cite web|url=http://www.airbus.com/aircraftfamilies/freighter/a330p2f-passenger-to-freighter/ |title=A330P2F passenger-to-freighter conversion &#124; Airbus, a leading aircraft manufacturer |publisher=Airbus.com |accessdate=2014-11-15}}</ref>。A330-300P2Fは貨物を60トン搭載した場合に航続距離が2,200海里(約4,100キロメートル)となる予定であり<ref name=Airbus-a330p2f/>、A330-300P2Fの就航は2016年を予定している<ref name=WSJ/>。A330P2Fについても、前脚の取り付け位置がA300-200Fと同様に変更される予定である{{sfn|浜田|2013b|p=97}}。
! style="background: #ddd;" |

! style="background-color:#dff;" |A330-200
=== 旅客型の派生型とA330neoの開発 ===
! style="background-color:#dff;" |A330-200F
[[File:Airbus A330-343E, Air China JP6887067.jpg|thumb|[[中国国際航空]]のA330-300を後ろから見る。]]
! style="background-color:#dff;" |A330-300
A330-200/-300の受注は好調に推移した{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}。2004年4月にボーイングが新型双発中型機となる[[ボーイング787|787]]の開発を決定した後もA330の受注は伸び続けたほか、2006年12月にエアバス自身が新型双発機の[[エアバスA350 XWB|A350 XWB]]の開発を発表しているが、A350 XWBの引き渡し開始までにもA330の受注機数は増え続けている{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}。A330とA350 XWBはどちらも双発のワイドボディ機であり、市場を奪い合うようにも見えたが、長距離向けにはA350 XWB、中短距離向けには機体価格が低いA330と棲み分けがなされた{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}。

A330に対するETOPSの認可範囲は段階的に広げられ、2009年にはEASAによって、A330の全タイプに対してETOPSの制限を240分とすることが認められた{{sfn|青木|2010|pp=47-48}}。A330は世界で初めて240分のETOPSを認可された機種となった{{sfn|青木|2010|p=48}}。エアバスは、A330-200/-300について、最大離陸重量を引き上げたモデルと軽量化したモデルの2つの派生型の開発を行っている{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}。最大離陸重量の強化型は、2012年11月29日に発表された<ref name=aviationwire-2012-12-03/>。A330-200/-300それぞれで最大離陸重量が242トンまで引き上げられ、空力性能やエンジンの細かい改善に加えて、A330-300では初となる中央翼燃料タンクもオプション設定される{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}。これにより、A330-300は最大離陸重量235トンの既存仕様より500海里(約930キロメートル)、A330-200では同238トンの既存機より350海里(648キロメートル)延長される予定である{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}。[[2015年]]5月に初引き渡しが行われる計画である{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}。2013年9月に発表された軽量化型は、人口増加で航空需要が増えている中国やインド、中東などでの国内線や地域路線といった中短距離路線向けで、A330リージョナルとも呼ばれる{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}<ref name=aviationwire-2013-09-26/>。軽量化型は、A330-300の内装の改良などにより最大離陸重量を200トンに抑え、座席数400席での航続距離を3,000海里(5556キロメートル)とし、運航コストを最大15%削減するとしている<ref name=aviationwire-2013-09-26/>。

その一方で、[[エアバスA320|A320]]ファミリーのような、新しいエンジンを採用した次世代化の可能性も取りざたされてきた{{sfn|青木|2014a|p=78}}。これに対し、エアバスが[[2014年]]6月に行った航空記者向け説明会では、エンジン換装に伴う手間に加え、単通路機よりも市場規模が小さいため、採算が取れないという理由でこのモデルの開発に否定的な見方を示していた{{sfn|青木|2014a|p=78}}。しかし、同年7月14日の[[ファーンボロー国際航空ショー]]にて、{{nowrap|R-R}}製の新型エンジン「トレント7000」を採用した発展型となるA330neo ('''n'''ew '''e'''ngine '''o'''ption) の開発が発表された<ref name=aviationwire-2014-07-14/><ref name=aviationwire-2014-07-18/><ref>{{Cite web |title=エアバス:新型機「A330neo」を発表 |publisher=毎日新聞 |date=2014-7-15 |url=http://mainichi.jp/feature/news/20140715mog00m040035000c.html |accessdate=2014-11-14 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20140719084711/http://mainichi.jp/feature/news/20140715mog00m040035000c.html |archivedate=2014-07-19}}</ref><ref name=airbus-a330neo>{{Cite web |title=A380-reveal-18 | Airbus Photo gallery |publisher=Airbus S.A.S |url=http://www.airbus.com/galleries/photo-gallery/dg/detail/transaero-airlines-commits-to-20-a330s/idp/39713-a330-900neo-rr-transaero/?return_id=3170%7C |accessdate=2014-07-21 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141221093003/http://www.airbus.com/galleries/photo-gallery/dg/detail/transaero-airlines-commits-to-20-a330s/idp/39713-a330-900neo-rr-transaero/?return_id=3170|archivedate=2014-07-21}}</ref>。A330neoの主翼にはA350 XWBと同様の[[ウィングレット]]を備えるほか、パイロンなども改良され空力性能が強化される<ref name=aviationwire-2014-07-14/>。また、コックピットシステムや機内のエンターテインメントシステムも新型に置き換わる<ref name=aviationwire-2014-07-14/>。A330neoは、A330-800neoとA330-900neoの2タイプで構成され、標準座席数と航続距離の計画値は、A330-800neoが246 - 252席で7,450海里(約13,800キロメートル)、A330-900neoは300 - 310席で6,200海里(11,500キロメートル)である<ref name=aviationwire-2014-07-18/><ref name=FG-20140714/>。ファーンボロー国際航空ショーの期間中に[[エアアジア X]]のほか、大手航空機リース会社である{{仮リンク|エア・リース・コーポレーション|en|Air Lease Corporation}}、{{仮リンク|アボロン|en|Avolon}}、[[CITグループ|CIT]]から計121機の覚書による受注を獲得した<ref name=aviationwire-2014-07-18/>。また、[[ハワイアン航空]]のように発注済みの[[エアバスA350XWB|A350 XWB]]をA330neoに置き換える航空会社も現れている<ref name=aviationwire-2014-07-24/><ref name=aviationwire-2014-12-23/>。A330neoの引き渡し開始は、A330-900neoが[[2017年]]10月-12月期(第4四半期)、A330-800neoは[[2018年]]前半を予定している<ref name=aviationwire-2014-07-18/><ref name=FG-20140714/>。A330neoの開発決定により、エアバスでは従来型のA330を「A330ceo」 ('''c'''urrent '''e'''ngine '''o'''ption)と呼ぶ場合がある<ref name=airbus-a330neo/>。

== 機体の特徴 ==
=== 形状・構造 ===
[[File:Airbus_A330-243,_Emirates_AN0928208.jpg|thumb|駐機中の[[エミレーツ航空]]のA330-200を見下ろす。2基のボーディングブリッジが胴体の左舷前方に接続されている。]]
A330は、客室内に通路を2本もつワイドボディ機で、主翼を低翼位置に配した[[単葉機]]であり、主翼下に[[ターボファンエンジン]]を2発備える。 [[水平尾翼]]は低翼に配置され、[[降着装置]]の配置は前輪式である{{sfn|浜田|2013a|p=95}}。A330の最初のモデルとなったA330-300は、姉妹機となったA340との共通性を最大化するように設計された{{sfn||"Financing the A330"|2011|p=34}}{{sfn|浜田|2013a|p=94}}。後に開発された長距離型のA330-200では、胴体の短縮、垂直尾翼の大型化、中央翼内へのタンク増設などが行われている{{sfn|青木|2010|pp=44-45}}{{sfn|青木|2014b|p=106}}。

{{see also|エアバスA340#形状・構造}}

A330の胴体断面には、A300で開発された直径5.64メートル(222インチ)の真円断面がそのまま用いられている{{sfn|飛田|2014|p=71}}。全長は、A330-200が58.82メートル、A330-300が63.69メートルである{{sfn|青木|2014b|pp=108}}。

A330の主翼は、[[テーパー]]がついた後退翼で翼端に[[ウィングレット]]を有する{{sfn|浜田|2013a|p=95}}。[[翼平面形]]の主なパラメータは表1の通りで、ボーイング747-200と比べると、[[翼幅]]はほぼ同じながら翼面積は3分の2程度であり、アスペクト比<ref group="注釈" name=aspect_ratio/>が大きい翼である{{sfn|浜田|2013a|p=96}}。主翼の[[翼型]]は、基本的に前半部が厚く後半部は薄いが、胴体側の付け根から翼端まで連続的に変化している{{sfn|浜田|2013a|p=96}}。特に外翼では、翼の後半でも揚力を発生させられるリア・ローディングと呼ばれる翼型の特徴を持っている{{sfn|浜田|2013a|p=96}}{{sfn|李家|2011|pp=122-123}}。主翼について最大翼厚を翼弦長で割った翼厚比を見ると、連続的に細かく変化しており平均値は12.8パーセントである{{sfn|浜田|2013a|p=96}}。
{{clearright}}
{| class="wikitable" style="font-size:91%; text-align:center; float:right; margin-left:1.5em;"
|+ 表1: 主翼平面形の主要諸元
|-
|-
! !!翼幅 (m)!!翼面積 (m<sup>2</sup>) !! 1/4翼弦での後退角 (度)
! 運航乗員
| colspan="3" | 2人
|-
|-
!A330-200/-300
! 基本座席数
| 60.30 || 361.6 || 30
| 253 (3-class) <br/> 293 (2-class) <br/> 380 (最大)
| n/a
| 295 (3-class) <br/> 335 (2-class) <br/> 440 (最大)
|-
|-
| colspan=5 style="text-align:left; font-size:90%;" |出典:{{harv|浜田|2013a|p=96}}
! 全長
|}
| colspan=2| 58.82 m

| 63.69 m
主翼の[[高揚力装置]]の配置は、前縁にスラットが7枚、後縁にフラップが2枚である{{sfn|Rudolph|1996|pp=74-75}}。スラットは翼端に向かってテーパーが付けられているほか、胴体側の1枚と残りの6枚とで駆動系が分けられている{{sfn|Rudolph|1996|pp=74-75}}。フラップは1枚式で比較的簡素なファウラー型フラップである{{sfn|Rudolph|1996|pp=74-75}}。後縁の翼端側に2分割された[[補助翼|エルロン]]が配置され、内舷側には高速用エルロンを持たない{{sfn|Rudolph|1996|pp=74-75}}。[[フライ・バイ・ワイヤ]]の導入によってエルロンは、本来の役割に加えて離着陸時にはフラップの役割、着陸後はグラウンド[[スポイラー (航空機)|スポイラー]]の役割も果たすように制御される{{sfn|Moxon et al.|1991|p=40}}。スポイラーは6枚はあり、[[空力ブレーキ|エアブレーキ]]とグラウンドスポイラーとしての役割を持つほか、外側の5枚は[[ローリング|ロール]]操縦にも用いられる{{sfn|青木|2010|p=38}}。

[[File:Usairways a330-300 n278ay arp.jpg|thumb|left|[[USエアウェイズ]]のA330-300。]]
A330の[[水平尾翼]]はA340第1世代(A340-200/-300)のものと同一で、A330/A340用に新規設計されたものである{{sfn|浜田|2013a|p=97}}。可動式の水平安定板と1枚の[[昇降舵]]で構成され、翼幅は19.4メートルである{{sfn|Moxon et al.|1991|pp=32-37}}<ref name=Airbus2014-2-2-0-p2-p9/>。水平安定板の内部には燃料タンクが設けられ、主翼タンクとの間で燃料を移動させ、機体の重心位置を制御するシステムが搭載されている{{sfn|浜田|2013a|p=97}}{{sfn|青木|2010|p=39}}。このシステムはA310で実用化されたものと同様のもので、機体姿勢を維持する際に発生するトリム抗力を抑制することができる{{sfn|青木|2010|p=39}}{{sfn|浜田|2013a|p=97}}。

[[垂直尾翼]]はA330-300ではA310の尾翼と基本的に同一のものが用いられ、若干の補強を加えられたが生産治具は同じものが使用された{{sfn|浜田|2013a|p=97}}。垂直安定板と1枚の[[方向舵]]で構成され{{sfn|Moxon et al.|1991|pp=32-37}}、高さは8.3メートルである<ref name=Airbus2014-2-2-0-p2-p9/>。A330-200では垂直安定板と方向舵が拡大されて高さが8.8メートルとなり、後に9.3メートルに変更されている{{sfn|青木|2010|p=45}}<ref name=Airbus2014-2-2-0-p2-p9/>。

降着装置については、機首部に前脚、左右主翼の付け根に主脚が配置されている<ref name=Airbus2014-2-2-0-p2-p9/>。A330シリーズ全体で共通して主脚は4輪式、前脚は2輪式である<ref name=Airbus2014-2-2-0-p2-p9/>。主脚はA330/A340用に新規設計されたものである{{sfn|青木|2010|pp=39-40}}。胴体長が長い機体では離陸時に後部胴体を地面に接触させないように、引き起こし角に制限があるが、引き起こし角は大きい方が離陸性能が向上する{{sfn|青木|2010|pp=39-40}}。そこで、エアバスではロッキング・ボギーと呼ぶ主脚を開発した{{sfn|青木|2010|pp=39-40}}。この主脚は、ボギー式の車輪とストラットの組み合わせにより前方の車輪だけを持ち上げ、可能な限り後方の車輪を滑走路に接地させるものであり、これにより機体の引き起こし角を大きくとれるようになった{{sfn|青木|2010|pp=39-40}}。A330/A340の前脚はA300/A310のものが流用されたが、これによって前脚と主脚の長さが異なりことになり、地上ではやや機首下がりの姿勢を取る{{sfn|青木|2010|p=44}}。貨物専用型のA330-200Fでは、地上姿勢を水平にするため、前脚の取り付け位置が変更されている(後述の「A330-200F」節を参照)。

A330の主翼構造は基本的に[[アルミニウム合金]]製で、胴体の縦通材や外板にもアルミニウム合金が用いられている{{sfn|浜田|2013a|p=96}}{{sfn|Beauclair|2002}}。また、A330で使用されている複合材料には、[[炭素繊維強化プラスチック]] (CFRP)、アラミド繊維強化プラスチック (AFRP)、ガラス繊維強化プラスチック (GFRP)があげられ、主な使用部位は以下のとおりである<ref name= Airbus2014-10-0-0-p8/>{{sfn|浜田|2013a|pp=96-97}}。
* CFRP: 翼胴フェアリング、主翼動翼、トラックレールの[[フェアリング]]、ウィングレット、エンジンの[[カウリング]]、[[方向舵]]、[[昇降舵]]、垂直安定板、水平安定板、降着装置の格納扉
* AFRP: 機首の[[レドーム]]
* GFRP: 垂直安定板の前縁と固定部後縁

=== 飛行システム ===
[[File:Airbus A330-203, Turkish Airlines AN2187054.jpg|thumb|[[ターキッシュ エアラインズ]]のA330-200のコックピット。座席正面には操縦桿がなく、左右の窓側に配置されたサイドスティックで操縦する。正副操縦席の操縦席の正面にそれぞれ2基、中央に縦に2基のディスプレイが配置されたグラスコックピットである。]]
A330の操縦系統は、A320のフライ・バイ・ワイヤ操縦システムを基本に改良を加えたものである{{sfn|浜田|2013b|p=93}}{{sfn|青木|2014b|p=100}}{{sfn|Brière|Traverse|1993}}。また、コックピットのレイアウトはA320のものを踏襲しており、姉妹機のA340とはエンジンのスロットルレバーを除いて実質的に同一である{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。
{{see also|エアバスA340#飛行システム}}

A330の操縦席には6面のカラーディスプレイが配置され、いわゆる[[グラスコックピット]]化されている{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。A330の登場時は、ディスプレイにはブラウン管が用いられたが、A340の第2世代となるA340-500/-600が開発された際に[[液晶ディスプレイ]] (LCD) が採用され、A330-200/-300でもオプションとしてLCDが装備できるようになった{{sfn|青木|2014b|p=107}}。

操縦席の正面には操縦桿が無く、各操縦席の窓側にあるサイドスティックによって操作を行う{{sfn|阿施|2014c|p=83}}。A330の操縦系統では、操縦士がスティックやラダーペダルを操作した情報は飛行制御コンピュータに入力される{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。飛行制御コンピュータが計算した指令値は電気信号によって各動翼へ伝えられ、油圧アクチュエータによって動翼が駆動される{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。パイロットによる操縦中であっても、コンピュータは機体にかかる荷重や速度が許容値を超えたり、失速したりしないよう計算した上で各動翼を制御する{{sfn|浜田|2013b|p=93}}{{sfn|Brière|Traverse|1993}}。

コックピットレイアウトやシステムが共通化されているエアバス機では相互乗員資格制度(CCQ)が設定されており、A330/A340の姉妹機をはじめ小型のA320から大型の[[エアバスA380|A380]]まで、いずれかの機種の操縦資格を持つ操縦士は、短期間の転換訓練で他機種の資格を取得できる{{sfn|青木|2014b|p=101}}{{sfn|浜田|2013b|p=93}}。CCQによる転換訓練の期間は、A340からA330では1日、A330からA340では3日間である{{sfn|青木|2010|p=46}}。A340からA330への訓練期間に対し、A330からA340への訓練期間が長いのは、双発機から4発機のシステムへの転換となり学習することが多くなるためとされている{{sfn|青木|2010|p=46}}。
{{clear}}

=== 客室・貨物室 ===
{{Multiple image|align=right|direction=vertical|footer_align=center|footer=A330の客室内装の例。
|image1=Airbus A330-243, Etihad Airways AN1619905.jpg
|caption1=[[エティハド航空]]のA330のビジネスクラス。2本の通路を挟んで2-2-2の配置で座席が並んでいる。各座席は互い違いに配置され、仕切り板で区切られている。
|alt1=ビジネスクラスの客室内を後方から見た写真。2本の通路を挟んで2-2-2の配置で座席が並んでいる。各座席は互い違いに配置され、仕切り板で区切られている。
|image2=Aer Lingus A330-200 Economy cabin EI-DAA.jpg
|caption2=[[エアリンガス]]のA330のエコノミークラス。2本の通路を挟んで2-4-2の配置で座席が並んでいる。
|alt2=エコノミークラスの客室内を後方から見た写真。2本の通路を挟んで2-4-2の配置で座席が並んでいる。
}}
A330はA300と同じ胴体断面を用いたため、座席の配列なども基本的にA300と同じであり、客室内には通路が2本配置される{{sfn|浜田|2013a|p=97}}{{sfn|阿施|2014b|p=81}}。標準的な座席配置はエコノミークラスで2-4-2の8アブレスト、ビジネスクラスで2-3-2の7アブレスト、ファーストクラスで2-2-2の6アブレストである{{sfn|浜田|2013a|p=97}}{{sfn|阿施|2014b|p=81}}。航空会社の要望に応じて座席やギャレーを柔軟に配置できるよう設計されており{{sfn|青木|2010|p=45}}、航空会社によっては、座席間隔を詰めて3-3-3の9アブレストとしたり、[[スカイマーク]]のように全席2-3-2の7アブレストとする事例もある{{sfn|浜田|2013a|p=97}}{{sfn|阿施|2014b|p=81}}。

A330の当初の内装には、バキューム式のトイレや身体障害者向けの設備など当時の最新設備が採用され、左右と中央の座席上には、A340の第1世代と同じオーバーヘッド・ビンが配置されている{{sfn|青木|2010|p=45}}。また、乗員同士のキャビン内会話データシステムがデジタル化されている{{sfn|青木|2010|pp=45-46}}。A330は20年以上生産が続いており、その間に内装の改良が行われ、新しい機体ではLED照明が採用されたり、容積を拡大しつつ圧迫感を抑えたオーバーヘッド・ビンが採用されたりしている{{sfn|阿施|2014b|p=81}}。

床下の貨物室は、主翼を挟んで前後2区画に分かれており、いずれもLD-3航空貨物コンテナを2個並列に搭載可能である{{sfn|青木|2010|p=40}}<ref name=Airbus2014-2-6-1-p3p4/>。また、最後部には、ばら積み貨物用の区画が設けられている<ref name=Airbus2014-2-6-1-p3p4/>。また、A340では床下貨物室に設置できる旅客用化粧室や乗員用休憩室などが用意されたが、A330でも必要があれば装備可能である{{sfn|青木|2010|p=46}}。

=== A340との関係 ===
[[File:A330 and A340 Seating Capacity vs Range.svg|thumb|300px|A330とA340の座席数と航続距離。縦軸が3クラス構成時の座席数、横軸が航続距離である。]]
「沿革」節で述べたとおり、A330-300とA340の第1世代(A340-200/-300)は姉妹機として同時に正式開発が決定され、両機の構成要素は最大限共通化された。両機の間では胴体断面は同一で、尾部も尾翼を含めて共通である{{sfn|青木|2010|p=44}}{{sfn|浜田|2013a|pp=94}}。主翼もエンジン取付部以外は構造的に同じで空力学的に全く同じである{{sfn|浜田|2013a|pp=94, 96}}{{sfn|Rudolph|1996|pp=74-75}}。A330のエンジンはA340での内翼側のエンジン(第2、第3エンジン)にあたる位置に取り付けられている{{sfn|青木|2010|p=44}}。エンジン取り付け部の主翼前縁にはスラットがなく固定の前縁となり、A340では片側2か所、A330では1か所が固定部となる{{sfn|青木|2010|p=44}}。また、降着装置もA340では胴体に中央脚が追加されているが、それ以外は同一である{{sfn|浜田|2013a|p=97}}{{sfn|青木|2010|p=44}}。操縦系統やコックピットも基本的に共通で、違いはエンジンに関する部分であり、A340ではエンジンのスロットル・レバーの数が4本、A330では2本である{{sfn|浜田|2013a|p=93}}{{sfn|青木|2012b|p=18}}。

A330とA340の各型式で比較をすると、A330-300とA340-300では胴体長まで同じであり、違いはエンジンの数に関連するものだけである{{sfn|青木|2010|p=44}}。A330-200とA340-200はともに短胴型として開発されたが、胴体の長さはA330-200の方が短く{{sfn|青木|2010|pp=44-45}}、全長はA330-200が58.82メートル、A340-200が59.40メートルである{{sfn|青木|2014b|pp=101, 108}}。また、A330-200では垂直尾翼の高さが拡大されている点も異なる{{sfn|青木|2010|p=45}}。A340の第2世代となるA340-500/-600では主翼や尾翼が拡大されて胴体長も延長しており{{sfn|青木|2014b|p=102}}、第1世代よりはA330との共通点は少なくなった。

エアバスは、4発機のA340を長距離路線向け、双発機のA330を中短距離路線向けと位置付けていた{{sfn|青木|2010|p=47}}。実際、A340-200とA340-300の最初の就航路線は、欧州と米国を結ぶ大西洋横断路線であり、A330が最初に就航したのはフランスの国内線であった{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。その後、航続距離延長型のA330-200が開発されたほか、ETOPSによるA330の運航可能範囲が段階的に拡大されており、A330も長距離路線に就航するようになっている{{sfn|青木|2010|pp=47-48}}。A330とA340はともに、引き渡し開始後も[[最大離陸重量]]を引き上げたオプションが開発されており段階的に航続力や収容力が向上しているが{{sfn|青木|2010|pp=40-41, 46}}、2004年時点の資料をもとに標準座席数と航続距離について比較すると、13,000キロメートル程度を境に短距離がA330、長距離がA340となっている{{sfn|阿施|2010|p=51}}{{sfn|Kingsley-Jones|2004b|pp=54-55}}。

== シリーズ構成 ==
A330シリーズには、旅客型のA330-200とA330-300、貨物型のA330-200Fがあるほか、多目的[[空中給油機|空中給油]]・[[輸送機]]の[[エアバス A330 MRTT|A330 MRTT]]も存在する。また、2012年には旅客型から貨物型への改造型となるA330P2Fが、2014年には新しい旅客型としてA330neoの正式開発が発表されているが、本節では運用開始済みの型式について取り扱う。

A330では、旅客型・貨物型の区別のほか、装備エンジンによって型式名が細分化されている(表2)。また、各エンジンの最大離陸推力に応じて最大離陸重量が異なる仕様が設定されている。例えば[[日本の空港|日本の国管理空港]]では最大離陸重量や騒音値に応じて[[着陸料]]が設定されており<ref>国土交通大臣が設置し、及び管理する空港の使用料に関する告示</ref>、航空会社がA330を運航する路線事情に合わせて最大離陸重量の仕様を選ぶことができる{{sfn|「エアバスA330研究 - A330のカスタマー」|2014}}。
{| class=wikitable style="text-align: center;"
|+ 表2: 型式名と装備エンジンの一覧
|-
|-
! 機種 !! エンジン !! 型式証明取得
! 全幅
| colspan="3" | 60.3 m
|-
|-
| A330-201 || [[ゼネラル・エレクトリック CF6|GE CF6-80E1A2]] || 2002年10月31日
! 主翼面積
| colspan="3" | 361.6 m<sup>2</sup>
|-
|-
| A330-202 || GE CF6-80E1A4 || 1998年3月31日
! アスペクト比
| colspan="4" | 10.06
|-
|-
| A330-203 || GE CF6-80E1A3 || 2001年11月20日
! 翼後退角
| colspan="4" | 30°
|-
|-
| A330-223 || [[プラット・アンド・ホイットニーPW4000|P&W PW4168A/4170]]
! 全高
|| 1998年7月13日
| 17.39 m
| 16.90 m
| 16.83 m
|-
|-
| A330-223F || P&W PW4170/PW4168A|| 2010年4月9日
! キャビン幅
| colspan="3" | 5.28 m
|-
|-
| A330-243 || R-R Trent 700|R-R Trent 772B-60/772C-60 || 1999年1月11日
! 胴体幅
| colspan="3" | 5.64 m
|-
|-
| A330-243F || R-R Trent 772B-60 || 2010年4月9日
! 貨物室容量
| 136.0m&sup3;
| 475.0m&sup3; <br /> 70 [[Tonne|t]] / 最大12 コンテナ<ref name= 'A330 200F specs'>{{Cite web|url=http://www.flightglobal.com/articles/2010/05/20/342231/airbuss-general-freight-hauler-a330-200f-technical.html|first=Max|last=Kingsley-Jones|title=Airbus's general freight hauler: A330-200F technical description|work=Flight International|date=20 May 2010|accessdate=12 February 2011}}</ref>
| 162.8m&sup3;
|-
|-
| A330-301 || GE CF6-80E1A2 || 1993月10月21日
! 基本運用自重
| {{convert|119600|kg|t|abbr=on}}
| {{convert|109000|kg|t|abbr=on}}
| {{convert|124500|kg|t|abbr=on}}
|-
|-
| A330-302 || GE CF6-80E1A4 || 2004年5月17日
! [[最大離陸重量]]<br />(最大離陸重量時)
| {{convert|233000|kg|t|abbr=on}} <br>to {{convert|238000|kg|t|abbr=on}}
| {{convert|227000|kg|t|abbr=on}} <br>to {{convert|233000|kg|t|abbr=on}}
| {{convert|230000|kg|t|abbr=on}} <br>to {{convert|235000|kg|t|abbr=on}}
|-
|-
| A330-303 || GE CF6-80E1A3 || 2004年5月17日
! [[最大着陸重量]]
| colspan="2" | 180,000&nbsp;kg (396,900&nbsp;lb)
| 185,000&nbsp;kg (407,925&nbsp;lb)
|-
|-
| A330-321 || P&W PW4164/PW4164-1D || 1994年6月2日
! 巡航速度
| colspan="3" | [[マッハ数|マッハ]] 0.82 (871 km/h) (巡航高度 11000 mの時)
|-
|-
| A330-322 || P&W PW4168/PW4168-1D || 1994年6月2日
! 最大運用速度
| colspan="3" | [[マッハ数|マッハ]] 0.86 (913 km/h) (巡航高度 11000 mの時)
|-
|-
| A330-323 || P&W PW4168A/PW4168A-1D/PW4170 || 1999年4月22日
! 航続距離(旅客満載時)
| 13,430&nbsp;km (7,250&nbsp;nmi)
| 7,400&nbsp;km (4,000&nbsp;nmi)
| 10,830&nbsp;km (5,850&nbsp;nmi)
|-
|-
| A330-341 || R-R Trent 768-60 || 1994年12月22日
! 離陸滑走距離<br />(最大離陸重量時)
| 2,220 m
| n/a
| 2,500 m
|-
|-
| A330-342 || R-R Trent 772-60 || 1994年12月22日
! 最大燃料容量
| 139,090 リットル
| colspan="2" | 97,530 リットル
|-
|-
| A330-343 || R-R Trent 772B-60/Trent 772C-60 || 1999年9月13日
! 実用上昇限度
| colspan="4" | 12,527&nbsp;m
|-
|-
| colspan=6 style="text-align:left; font-size:90%;" |
! 最大実用上昇限度
* 出典:{{harv|EASA|2014|pp=5, 16, 27}}
| colspan="4" | 13,000&nbsp;m
* GE: [[GE・アビエーション|ゼネラル・エレクトリック]]、P&W: [[プラット・アンド・ホイットニー]]、{{nowrap|R-R}}: [[ロールス・ロイス・ホールディングス|ロールス・ロイス]]
|}

=== A330-200 ===
[[File:Gulf Air Airbus A330-200 Lofting-1.jpg|thumb|[[ガルフ・エア]]のA330-200を斜め上から見下ろす。]]
A330-200はA330の長距離型で、1995年に正式開発が決定され、1997年にカナダ3000によって初就航した{{sfn|青木|2010|pp=44-45}}{{sfn|Doyle|Kingsley-Jones|Lewis|1999|p=41}}。A330-200では、A330-300の胴体を短縮することで機体重量を低減するとともに、燃料搭載量を増やして航続力が増強されている{{sfn|青木|2003|p=68}}{{sfn|青木|2014b|pp=106-107}}。胴体はA330-300のものから主翼前方で6フレーム、後方で4フレーム短縮されている{{sfn|青木|2014b|pp=106-107}}。胴体の短縮により機体の重心位置から垂直尾翼までの距離が短くなることから、これを補うために垂直安定板と方向舵の高さ方向が拡大されている{{sfn|青木|2003|p=68}}。中央翼に燃料タンクを増設することで燃料搭載量は130,090リットルとなり、A330-300と比べて40パーセント増加している{{sfn|青木|2014b|pp=106-107}}{{sfn|飛田|2014|p=73}}。エンジンは、GE社のCF6-80シリーズ、{{nowrap|R-R}}社のトレント700シリーズ、P&W社のPW4000シリーズから選択できる{{sfn|青木|2014b|pp=106-107}}。標準座席数は3クラスの場合で253席で、この場合の航続距離は7,250海里(約13,400キロメートル)である{{sfn|青木|2014b|pp=106-107}}。座席構成を2クラスとした場合には、標準で293席となる{{sfn|青木|2014b|pp=106-107}}。最大離陸重量は仕様により異なり192トンから238トンである{{sfn|EASA|2014|pp=20-21}}。また、エアバスでは、最大離陸重量を242トンまで引き上げたモデルの開発を進めている<ref name=aviationwire-2014-11-07/>。

=== A330-300 ===
[[File:Aeroflot Airbus A330-343X Prasertwit-1.jpg|thumb|[[アエロフロート・ロシア航空]]のA330-300が離陸するところ。]]
A330-300はA330シリーズで最初に開発されたモデルで、1987年に正式に開発が決定され、1994年にエールアンテールによって初就航した{{sfn|青木|2014b|p=105}}{{sfn|浜田|2013b|p=94}}。中・短距離路線向けに、収容力を大きくしたモデルとして開発された{{sfn|青木2014|p=105}}。A330-300と姉妹機のA340-300でコンポーネントが最大限共通化され、開発コストや生産コストの抑制が図られている{{sfn||"Financing the A330"|2011|p=34}}{{sfn|青木|2010|p=44}}{{sfn|青木2014|p=105}}。両機の間ではコックピット、胴体、主翼、尾翼を含む尾部、システム、降着装置が共通で、違いはエンジンの数に関するものだけである{{sfn||"Financing the A330"|2011|p=34}}{{sfn|青木|2010|p=44}}{{sfn|青木2014|p=105}}。エンジンはA330-200と同じく、GE社のCF6-80シリーズ、{{nowrap|R-R}}社のトレント700シリーズ、P&W社のPW4000シリーズから選択できる{{sfn|青木|2014b|pp=106-107}}。標準座席数は、3クラス構成で295席、2クラス構成で335席、モノクラス配置では398席である{{sfn|青木|2014b|p=105}}。さらに、モノクラスで3-3-3の9アブレストにした場合は440席まで設置可能である{{sfn|青木|2014b|p=105}}。最大離陸重量はA330-300でも複数の仕様があり、184トンから235トンである{{sfn|EASA|2014|pp=9-13}}。また、A330-300で初となる中央翼燃料タンクをオプションで用意し、最大離陸重量を242トンまで引き上げたモデルの開発も進められている<ref name=aviationwire-2014-11-07/>。さらに、航空需要が増えている中国やインド、中東などでの国内線や地域路線といった中短距離路線向けに、A330-300の軽量型の開発も進められている{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}<ref name=aviationwire-2013-09-26/>。このモデルはA330リージョナルとも呼ばれ{{sfn|青木|2014a|pp=77-78}}、座席やギャレーの改良などによって軽量化を行い、最大離陸重量を200トンに抑え、座席数400席での航続距離を3,000海里(5556キロメートル)とし、運航コストを最大15%削減するとしている<ref name=aviationwire-2013-09-26/>。

=== A330-200F ===
[[File:Airbus A330-200F Airbus Industries (AIB) "House colors" F-WWYE - MSN 1004 - Now in THY Turkish Airlines fleet as TC-JDO - Named Meriç (4208235581).jpg|thumb|A330-200Fの機首部。左舷胴体に大型の貨物扉が設けられている(AIRBUSのロゴの"A"から"U"かけて)ほか、前脚の付け根部分が張り出している。]]
A330-200をベースに開発・新規生産された純貨物型であり{{sfn|浜田|2013b|p=96}}{{sfn|青木|2010|p=48}}(旅客型からの改造機については次節参照)、[[エアバスA300-600|A300-600F]]の後継機と見なされている{{sfn|Kingsley-Jones|2010}}。メインデッキに貨物を搭載できるよう床を強化し、胴体前方の左側面に幅3.69メートルの貨物用ドアが設けられている{{sfn|浜田|2013b|p=96}}{{sfn|青木|2014b|p=260}}。メインデッキの床面には貨物やパレットを移動させるためのローラーが備わっている{{sfn|青木|2014b|p=260}}。ただし、エアバスではシステムの簡素化や機体価格を抑えるため、動力式の荷物移動システムを機内に装備しておらず、貨物の移動は人力で行う必要がある{{sfn|青木|2014b|p=260}}。貨物室と操縦室の間には荷主席が用意されているほか、操縦席・荷主席・貨物室間を行き来できるよう通路が設けられている{{sfn|青木|2014b|p=260}}。ただし、客室窓などの旅客用設備は取り除かれている{{sfn|青木|2014b|p=260}}。エンジンはトレント700シリーズとPW4000シリーズが設定されている{{sfn|EASA|2014|p=27}}。

メインデッキには、2.43×3.17メートル(96×125インチ)パレットであれば22枚まで収容でき、この場合のメインデッキの総貨物容積は336[[立方メートル]]となる{{sfn|青木|2014b|p=260}}。パレット貨物の最大高は2.24メートル(96インチ)である{{sfn|青木|2014b|p=260}}。床下貨物室についても、旅客型と同様に貨物を搭載可能である{{sfn|青木|2014b|p=260}}。A330-200Fは、標準仕様で64トンの貨物を搭載して航続距離は4,000海里(約7,400キロメートル)である{{sfn|青木|2014b|p=260}}。69トン搭載できる仕様では3,200海里(約5,900キロメートル)の航続距離となる{{sfn|青木|2014b|p=260}}。

前述([[#形状・構造|形状・構造]])のとおりA330の旅客型は主脚より前脚が短いため、地上ではやや機首が下がった姿勢となっている{{sfn|青木|2014b|p=260}}。これは旅客型では大きな問題とならないが、貨物型の場合、メインデッキに貨物を搭載する上でメインデッキの床が水平な方が望ましい{{sfn|青木|2014b|p=260}}。新たに降着装置を設計するのはコストや時間がかかることから、エアバスでは、A330-200Fの前脚の取り付け位置を下げることで地上姿勢を調整している{{sfn|青木|2014b|p=260}}。このことにより、前脚の格納時に車輪や脚柱がはみ出してしまうため、それを収めるため機首部下面に張り出しが設けられている{{sfn|青木|2014b|pp=260-261}}{{sfn|浜田|2013b|p=96}}。

A330-200Fの初号機は{{nowrap|R-R}}製エンジンを装備する機体で、2009年に初飛行し、2010年[[欧州航空安全機関]](EASA)の型式証明を取得、同年8月9日にエティハド・クリスタル・カーゴ社に最初の引き渡しが行われた{{sfn|青木|2014b|p=260-261}}。

=== A330 MRTT ===
[[File:Airbus A330-243(MRTT), United Kingdom - Royal Air Force (RAF) JP7167920.jpg|thumb|[[イギリス空軍]]のA330 MRTT。エンジンの[[逆推力装置]]を展開している。]]
{{main|エアバス A330 MRTT}}
[[エアバス A330 MRTT|A330 MRTT]] (Multi-Role Tanker Transport ) は、A330-200をベースに製造された多目的空中給油・輸送機である{{sfn|浜田|2013b|p=97}}。A330 MRTTが装備する[[空中給油]]システムとして3種類が提案されており{{sfn|NATO's Nations and Partners for Peace|2007}}、左右の主翼下と胴体尾部にプローブ・アンド・ドローグ方式の給油システムを装備できるほか、胴体にAirbus Military Aerial Refuelling Boom System (ARBS) と名付けられたフライング・ブーム方式の給油システムを装備可能である{{sfn|浜田|2013b|p=97}}<ref name=airforce-technology/>。ARBSを用いることで、A330 MRTT自身への給油も可能である<ref name=airforce-technology/>。A330 MRTTは空中給油のほか、人員輸送、貨物輸送、医療救助を実施可能な装備を備える{{sfn|Pandey|2014}}。A330 MRTTは、主翼内に111トンの燃料を搭載可能であることから胴体内に燃料タンクを増設する必要がなく、人員や貨物の収容力はベースとなったA330-200とほぼ同等である{{sfn|"Multi-Mission Capabilities"|2012}}{{sfn|Pandey|2014}}。

== 運用の状況・特徴 ==
[[File:Airbus A330-243 AIr China B-6115 (12701395374).jpg|left|thumb|離陸中の[[中国国際航空]]のA330-200。]]
2014年7月現在、1017機のA330が民間航空路線に就航しており、形式ごとの内訳はA330-200が480機、A330-300が514機、A330-200Fが35機である<ref name=WAC2014/>。運用機数が最も多い航空会社は、旅客型が[[中国国際航空]]でその数は45機、貨物機は[[香港航空]]と[[ターキッシュ エアラインズ]]で運用数はそれぞれ5機である<ref name=WAC2014/>。

A330の運用者を地域別にみると、全体の約6割となる606機がアジア・中東・オセアニア地域の航空会社によって運用されており、特に中国の航空会社による運用機数は100機を超える<ref name=WAC2014/>。次いで欧州・ロシアの航空会社で246機、北米・南米の航空会社で130機、アフリカの航空会社で35機が運用されている<ref name=WAC2014/>。

[[File:Skymark JA330B RJFF.jpg|thumb|[[スカイマーク]]のA330。同社は日本で最初にA330を導入した。]]
主な運用者(括弧内は運用機数)は、アジア・中東地域では[[中国国際航空]] (45)、キャセイパシフィック航空 (37)、[[中国東方航空]] (32)、[[エティハド航空]] (32)、[[カタール航空]] (32)である<ref name=WAC2014/>。欧州・ロシアでは[[ターキッシュ エアラインズ]] (35)が運用数の首位で、[[アエロフロート・ロシア航空]] (22)、ルフトハンザ航空 (19)、[[KLMオランダ航空]] (16)と続いている<ref name=WAC2014/>。北米では[[デルタ航空]]の32機、[[USエアウェイズ]](2013年12月に[[アメリカン航空]]と合併<ref>{{Cite web |title=新生アメリカン航空、ナスダックに上場 |date=2013-12-10 |publisher=日本経済新聞 |url=http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1000S_Q3A211C1EB2000/ |accessdate=2014-11-12 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141112051105/http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1000S_Q3A211C1EB2000/ |archivedate=2014-11-12}}</ref>)が24機を運用している<ref name=WAC2014/>。そのほかの地域をみると、[[オセアニア]]では[[カンタス航空]]が22機、南米では[[TAM航空]]が10機、[[アフリカ]]では[[エジプト航空]]が11機のA330を運用している<ref name=WAC2014/>。日本では、スカイマークが2機のA330-300を導入し、2014年から路線就航を開始している<ref name=WAC2014/>。

軍用型については2013年末の時点で、A330 MRTTが[[オーストラリア]]と英国で各5機、[[サウジアラビア]]と[[アラブ首長国連邦]]で各3機ずつ運用されている<ref name=WAF2014/>。また、ベルギーでは輸送機としてA330が1機運用されている<ref name=WAF2014/>。

=== 受注・納入数 ===
2013年現在、A330の受注数は累計1313機(キャンセル分をのぞいた数)で、1046機が生産・納入済みである。
{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:91%;"
|+ 表3: 年ごとの受注・納入数(キャンセル分は当初発注年度から減じている)<ref name=JADC-data1/>
|-
|-
! 年 !! 合計
! エンジン (×2)
! 2013 !! 2012 !! 2011
| [[ゼネラル・エレクトリック CF6|ゼネラル・エレクトリック CF6-80E1]] <br>[[プラット・アンド・ホイットニーPW4000]] <br>[[ロールス・ロイス トレント|ロールス・ロイス トレント700]]
! 2010 !! 2009 !! 2008 !! 2007 !! 2006 !! 2005 !! 2004 !! 2003 !! 2002 !! 2001
| プラット・アンド・ホイットニーPW4000 <br>ロールス・ロイス トレント700
| ゼネラル・エレクトリック CF6-80E1 <br>プラット・アンド・ホイットニーPW4000 <br>ロールス・ロイス トレント700
|-
|-
! 受注数
! 推力 (×2)
| '''1313''' || 77 || 80 || 99
| PW: 311&nbsp;kN <br/> RR: 316&nbsp;kN <br/> GE: 320&nbsp;kN
| 88 || 50 || 140 || 130 || 98 || 62 || 51 || 44 || 24 || 52
| PW: 311&nbsp;kN <br/> RR: 316&nbsp;kN
|-
| PW: 311&nbsp;kN <br/> RR: 316&nbsp;kN <br/> GE: 320&nbsp;kN
! 納入数
| '''1046'''|| 108 || 101 || 87
| 87 || 76 || 72 || 68 || 62 || 56 || 47 || 31 || 42 || 35
|-
| style="height: 1px;" colspan=14 |
|-
! !! 2000 !! 1999 !! 1998 !! 1997 !! 1996 !! 1995 !! 1994 !! 1993 !! 1992 !! 1991
! 1990 !! 1989 !! 1988
|-
! 受注数
| 95 || 22 || 23 || 60 || 44 || 9 || 0 || 1 || 1 || 4
| 19 || 37 || 3
|-
! 納入数
| 43 || 44 || 23 || 14 || 10 || 30 || 9 || 1 || 0 || 0
| 0 || 0 || 0
|}
|}
{{clear}}


=== エンジンの仕様 ===
== 主な事故・事件 ==
2014年10月現在、A330が関係した主な航空事故・事件は20件あり<ref name=ASN-index/>、その中には8件の機体損失事故と2件の[[ハイジャック]]が含まれ、合計で339人の乗員・乗客が死亡した<ref name=ASN-statistics/>。


A330の最初の死亡事故は1994年6月30日に[[トゥールーズ]]近郊で発生した{{sfn|浜田|2013b|p=94}}<ref name=ASN-index/>。エンジン1基停止時の飛行試験を行っていたエアバス所有のA330-300が離陸直後に墜落し、乗っていた7人全員が死亡した{{sfn|浜田|2013b|p=94}}{{sfn|青木|2010|p=47}}({{仮リンク|エアバス129便墜落事故|en|Airbus Industrie Flight 129}})。事故後、エアバスはA330の運航会社に対し、低速でエンジンが停止した場合には自動操縦を解除するよう勧告した<ref name=FI-1994-1630/>。
''ソース: EASA Type Certificate Data Sheet EASA.A.004''<ref name="multiple">{{cite web |url=http://easa.europa.eu/certification/type-certificates/docs/aircraft/EASA-TCDS-A.004_Airbus_330-33-14112012.pdf |title= Type Certificate Data Sheet for AIRBUS A330 |publisher=[[欧州航空安全機関|EASA]] |date= 14 November 2012 |accessdate=9 March 2013}}</ref>

{| class=wikitable style="text-align: center;"
[[File:Air Caraibes A330 F-OFDF.jpg|thumb|left|2008年、[[エア・カライベス]]によって、A330の[[ピトー管]]が凍結して機能不全に陥る問題が2件報告されていた<ref>{{Cite web |url=http://www.flightglobal.com/news/articles/air-caraibes-atlantique-memo-details-pitot-icing-incidents-327738/ |title=Air Caraibes Atlantique memo details pitot icing incidents |first=Kieran |last=Daly |work=Flightglobal |date=11 June 2009 |accessdate=19 February 2012}}</ref>。|alt=滑走路上のA330を右側面から見る。]]
A330の2番目の死亡事故で、商業運航中における初の死亡事故となったのは、2009年6月1日に発生した[[エールフランス447便墜落事故]]である<ref name=ASN-losses/>。[[リオデジャネイロ]]からパリへ向かって飛行中のA330-200が大西洋上に墜落し、乗客乗員全員228人全員が死亡した。フランス当局による最終報告書では、事故原因は、[[ピトー管]]の凍結により正しい速度表示が得られなくなったことと、その後の操縦士の対処が適切でなかったことにあるとされた<ref name=afpbb-af447>{{Cite news |title=仏機墜落事故、原因は「計器故障と操縦士の不手際」 最終報告 |date=2012-07-06 |agency=AFP |url=http://www.afpbb.com/articles/-/2888235 |accessdate=2014-11-02 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141102005059/http://www.afpbb.com/articles/-/2888235 |archivedate=2014-11-02}}</ref>。

2010年5月12日には、リビアの[[トリポリ国際空港]]で、南アフリカのヨハネスブルク発の[[アフリキヤ航空]]のA330-200が着陸直前に墜落した。乗客乗員104名のうち8歳の少年1人を除く103名が死亡した<ref>{{Cite news |title=リビア・トリポリ空港で旅客機墜落、103人死亡 少年1人生存 |date=2010-05-13 |agency=AFP |url=http://www.afpbb.com/articles/-/2725810 |accessdate=2014-11-01 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141101125538/http://www.afpbb.com/articles/-/2725810 |archivedate=2014-11-01}}</ref>。リビア当局の調査により、事故原因はパイロットの連携不足によるとされた<ref name=Afqiyah_fg>{{Citation |last=Kaminski-Morrow |first=David |title=Illusion and ambiguous control led to Afriqiyah A330 crash |work=Flightglobal |url=http://www.flightglobal.com/news/articles/illusion-and-ambiguous-control-led-to-afriqiyah-a330-382873/|website=flightglobal.com|publisher=Flight Globai|accessdate=2014-11-01}}</ref>([[アフリキヤ航空771便墜落事故]]を参照)。

A330では、死者はなかったものの飛行中に機体が機能不全に陥ったインシデントが3件発生している。2001年8月24日、エアトランサットのA330-200が[[カナダ]]の[[トロント]]から[[ポルトガル]]の[[リスボン]]へ向けて大西洋上を飛行中に燃料漏れが発生し、その後燃料切れのため全エンジンが停止して滑空状態になったが、[[アゾレス諸島]][[テルセイラ島]]のラジェス空軍基地に緊急着陸に成功した([[エアトランサット236便滑空事故]])。事故の前に行われたエンジン交換で誤った配管部品が用いられたことで燃料パイプに亀裂が発生し、燃料漏れにつながったとされる<ref>{{ASN accident|id=20010824-1 |title=ASN Aircraft accident Airbus A330-243 C-GITS Terceira-Lajes AFB, Azores (LFB) |accessdate=2014-11-02}}</ref><ref>{{Citation |和書 |last=坂井 |first=優基 |title=空から学んだ安全管理術 3. 部分情報問題 |journal=艦船と安全 |date=2010-08 |pages=2-5 |url=http://www.sakaiyuuki.com/text/anzenkanri3.pdf |accessdate=2014-11-02}}</ref>。2008年10月7日には、[[カンタス航空]]のA330-300が[[シンガポール]]から[[オーストラリア]]の[[パース (西オーストラリア州)|パース]]に向けて飛行していたところ、高度が突然変化したことで客室内に投げ出された乗客・乗員に重傷者が発生し、[[西オーストラリア州]]の{{仮リンク|エクスマウス|en|Exmouth, Western Australia}}に近い空軍基地に緊急着陸した({{仮リンク|カンタス航空72便乱高下事故|en|Qantas Flight 72}})<ref>{{Cite news |title=カンタス機の緊急着陸、乗客が恐怖の体験語る |date=2008-10-08 |agency=AFP |url=http://www.afpbb.com/articles/-/2525944 |accessdate=2014-11-02 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141102083143/http://www.afpbb.com/articles/-/2525944 |archivedate=2014-11-02}}</ref>。事故後の調査により、事故原因は{{仮リンク|エア・データ・イナーシャル・リファレンス・ユニット|en|Air data inertial reference unit}} (ADIRU) と呼ばれる装置に欠陥があり、それに起因する問題に飛行制御コンピュータが対応できなかったこととされた<ref>{{Cite report |title=Australian Transport Safety Bureau – final report and materials |publisher=Australian Transport Safety Bureau |url=http://www.atsb.gov.au/publications/investigation_reports/2008/aair/ao-2008-070.aspx |date=2011-12-19 |accessdate=2014-11-02}}</ref>。2010年4月13日には、[[インドネシア]]の[[スラバヤ]]から[[香港]]へ向かっていた[[キャセイパシフィック航空]]のA330-300が、左右のエンジン出力が制御できなくなり、通常の着陸速度よりも時速177キロメートル以上高速で着陸している<ref>{{Cite news |title=Pilots reveal death-defying ordeal as engines failed on approach to Chek Lap Kok |url=http://www.scmp.com/magazines/post-magazine/article/1491534/pilots-reveal-death-defying-ordeal-engines-failed-approach |accessdate=2014-11-02 |newspaper=South China Morning Post |date=2014-04-20}}</ref>。

A330は2件のハイジャックに巻き込まれている<ref name=ASN-statistics/>。2000年5月25日、[[フィリピン]]の[[ダバオ]]から[[マニラ]]に向かっていた[[フィリピン航空]]のA330が武装した男に乗っ取られた。男は機内で金品を奪った後、高度約1,800メートルから手製のパラシュートをつけて飛び降りたが、目撃証言によるとパラシュートが開かなかったとされ、犯人は翌日遺体で発見された<ref>{{Cite news |title=ハイジャック犯、パラシュートで逃亡 フィリピン上空 乗客乗員 全員無事 |newspaper=読売新聞 |date=2000-05-26 |edition=東京朝刊 |page=1}}</ref><ref>{{Cite news |title=フィリピン航空機乗っ取り、容疑者の遺体発見|newspaper=朝日新聞 |date=2000-05-26 |edition=東京夕刊 |page=27}}</ref>({{仮リンク|フィリピン航空812便ハイジャック事件|en|Philippine Airlines Flight 812}})<ref>{{Cite news|title=Philippines hijacker bails out |publisher=BBC News |date=25 May 2000 |url=http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/763341.stm |accessdate=2014-11-02 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20140303011302/http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/763341.stm |archivedate=2014-11-02}}</ref>。2000年10月13日、[[ベルギー]]の[[ブリュッセル]]から[[コートジボワール]]の[[アビジャン]]に向かっていた[[サベナ・ベルギー航空]]が男にハイジャックされ、[[スペイン]]の[[マラガ]]に着陸した後、スペイン警察によって犯人が制圧された<ref>{{ASN accident|id=20001013-0 |title=ASN Aircraft accident Airbus A330-223 registration unknown Malaga |accessdate=2014-11-02}}</ref>。

2009年12月25日には、[[ノースウエスト航空]]便として[[オランダ]]の[[アムステルダム]]から米国の[[デトロイト]]に向け飛行していたA330-300で爆破未遂事件が起きた。ナイジェリア人の男が下着に隠していた爆発物を着陸直前に爆破させようとしたが、乗客や乗員に取り押さえられ未遂に終わった([[デルタ航空機爆破テロ未遂事件]]<ref group="注釈">当時、ノースウエスト航空はデルタ航空の子会社であった</ref>)<ref>{{Cite news |title=米機爆破未遂、ナイジェリア人容疑者はアルカイダと関連=米当局 |date=2009-12-27 |url=http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-13120120091227 |agency=ロイター |accessdate=2014-11-02 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141102070853/http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-13120120091227 |archivedate=2014-11-02}}</ref><ref>{{Cite news |title=NW航空機爆破未遂事件、ナイジェリア人被告に終身刑 |date=2012-02-17 |agency=AFP |url=http://www.afpbb.com/articles/-/2858797 |accessdate=2014-11-02 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141102071028/http://www.afpbb.com/articles/-/2858797 |archivedate=2014-11-02}}</ref><ref>{{Citation |last1=長谷川 |first1=美沙 |last2=友次 |first2=晋介 |title=米デトロイト便爆破テロ未遂事件と航空セキュリティの見直し議論 |journal=平成21年度文部科学省 安全・安心科学技術プロジェクト 「テロ対策のための科学技術の最新動向および研究成果の実装化に関する調査研究」RISTEX CT Newsletter |issue=7 |publisher=社会技術研究開発センター |date=2010-01-25 |url=http://www.ristex.jp/aboutus/enterprize/trust/terrorism/pdf/NewsLetter07.pdf |accessdate=2014-11-02}}</ref>。

そのほか、2000年3月15日には、[[北京]]発[[クアラルンプール]]行きのマレーシア航空のA330-300に虚偽の申告によって腐食性薬品が積み込まれ、[[クアラルンプール国際空港]]への到着後に薬品の漏出が発覚した。薬品により胴体が深刻な損傷を受け、機体は廃棄された<ref>{{ASN accident|id=20000315-0 |title=ASN Aircraft accident Airbus A330-322 9M-MKB Kuala Lumpur International Airport (KUL) |accessdate=2014-11-01}}</ref>。

また、武装勢力の襲撃や戦闘に巻き込まれ、駐機中のA330が破壊される事件も起きている。2001年7月24日、[[スリランカ]]の[[バンダラナイケ国際空港]]が武装勢力[[タミル・イーラム解放のトラ]]による襲撃を受け、駐機中だった[[スリランカ航空]]の2機のA330-200と1機のA340-300が破壊された。また同じく駐機中だった1機のA340-300と2機のA320も損害を受けた<ref>{{ASN accident|id=20010724-1 |title=ASN Aircraft accident Airbus A330-243 4R-ALF Colombo-Bandaranayake International Airport (CMB) |accessdate=2014-11-01}}</ref><ref name=FI-2001-2726>{{Citation |last=Fullbrook |first=David |title=SriLankan turns to Emirates for help after raid |date=2001-07-31/08-06 |page=4 |format=PDF |language=English | |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/2001/2001%20-%202726.html |accessdate=2014-11-02}}</ref>([[バンダラナイケ国際空港襲撃事件]])。2014年7月には、[[リビア]]の[[トリポリ国際空港]]周辺で発生した武装勢力同士の戦闘により、同空港に駐機中の航空機が破壊され<ref>{{Cite news |title=リビア首都の空港で武装勢力が衝突、航空機の9割破損 |agency=CNN |url=http://www.cnn.co.jp/world/35051135.html |accessdate=2014-11-02 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20141102094432/http://www.cnn.co.jp/world/35051135.html |archivedate=2014-11-02}}</ref>、この中には[[リビア航空]]のA330が複数含まれると報告されている<ref>{{ASN accident|id=20140715-0 |title=ASN Aircraft accident Airbus A330-202 5A-LAS Tripoli International Airport (TIP) |accessdate=2014-11-01}}</ref><ref>{{ASN accident|id=20140720-0 |title=ASN Aircraft accident Airbus A330-202 5A-ONF Tripoli International Airport (TIP) |accessdate=2014-11-01}}</ref>。

== 主要諸元 ==
{| class="wikitable" style="font-size:91%; text-align:center;"
|+ 表4: 各モデルの主要諸元
|-
!
! A330-200
! A330-200F
! A330-300
|-
|-
! 運航乗務員数
! 機種 !! 認定日 !! エンジン
| colspan="3" | 2名
|-
|-
! {{nowrap|標準座席数}} {{nowrap|(3クラス)}}
| A330-201 || 2002年10月31日 || General Electric CF6-80E1A2
| 253
| N/A
| 295
|-
|-
! {{nowrap|標準座席数}} {{nowrap|(2クラス)}}
| A330-202|| 1998年3月31日 || General Electric CF6-80E1A4
| 293
| N/A
| 335
|-
|-
! {{nowrap|最大座席数}} {{nowrap|(1クラス)}}
| A330-203 || 2001年11月20日 || General Electric CF6|General Electric CF6-80E1A3
| 375席{{sup|†1}}(406席{{sup|†2}}){{sfn|EASA|2014|p=25}}
| N/A
| 375席{{sup|†1}}(440席{{sup|†2}}){{sfn|EASA|2014|p=14}}
|-
|-
! 貨物室容積<sup>†3</sup>
| A330-223 || 1998年7月13日 || Pratt & Whitney PW4000|Pratt & Whitney PW4168A/4170
| 132.4&nbsp;[[立方メートル|m{{sup|3}}]]<ref name=Airbus2014-2-1-1-p6/>
| 469.2&nbsp;m{{sup|3}}<ref name=Airbus2014-2-1-1-p3/>
| 158.4&nbsp;m{{sup|3}}<ref name=Airbus2014-2-1-1-p9/>
|-
|-
! 全長
| A330-223F || 2010年4月9日 || Pratt & Whitney PW4170 (Freighter)
| 58.82&nbsp;[[メートル|m]]
| 58.82&nbsp;m<ref name=Airbus2014-2-2-0-p8/>
| 63.69&nbsp;m
|-
|-
! 全幅
| A330-243 || 1999年1月11日 || Rolls-Royce Trent 700|Rolls-Royce Trent 772B-60/772C-60
| colspan="3" | 60.30&nbsp;m
|-
|-
! 全高
| A330-243F || 2010年4月9日 || Rolls-Royce Trent 772B-60 (Freighter)
| 17.39&nbsp;m
| 16.88&nbsp;m<ref name=A330-200F-spec/>
| 16.83&nbsp;m
|-
|-
! 主翼面積
| A330-301 || 1993月10月21日 || General Electric CF6-80E1A2
| colspan="3" | 361.6&nbsp;[[平方メートル|m<sup>2</sup>]]
|-
|-
! 胴体直径
| A330-302 || 2004年5月17日 || General Electric CF6-80E1A4
| colspan=3 | 5.64&nbsp;m{{sfn|青木|2010|p=49}}
|-
|-
! キャビン幅
| A330-303 || 2004年5月17日 || General Electric CF6-80E1A3
| colspan="3" | 5.28&nbsp;m{{sfn|青木|2010|p=49}}
|-
|-
! キャビン長
| A330-321 || 1994年6月2日 || Pratt & Whitney PW4164
| 45.0&nbsp;m{{sfn|青木|2010|p=49}}
| 50.35&nbsp;m{{sfn|青木|2010|p=49}}
| 40.8&nbsp;m{{sfn|青木|2010|p=49}}
|-
|-
! 最大無燃料重量 (MZFW)
| A330-322 || 1994年6月2日 || Pratt & Whitney PW4168
| 168,000 - 170,000&nbsp;[[キログラム|kg]]{{sfn|EASA|2014|pp=20-24}}
| 173,000 - 178,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2014|pp=31-32}}
| 164,000 - 175,000{{sfn|EASA|2014|pp=9-13}}
|-
|-
! [[最大離陸重量]] (MTOW)
| A330-323 || 1999年4月22日 || Pratt & Whitney PW4168A/4170
| 192,000 - 238,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2014|pp=20-24}}
| 227,000 - 233,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2014|pp=31-32}}
| 184,000 - 235,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2014|pp=9-13}}
|-
|-
! [[最大着陸重量]]
| A330-341 || 1994年12月22日 || Rolls-Royce Trent 768-60
| 180,000 - 182,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2014|pp=20-24}}
| 182,000 - 187,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2014|pp=31-32}}
| 174,000 - 187,000&nbsp;kg{{sfn|EASA|2014|pp=9-13}}
|-
|-
! 離陸滑走距離{{sup|†4}}
| A330-342 ||1994年12月22日 || Rolls-Royce Trent 772-60
| 2,220&nbsp;m{{sfn|Kingsley-Jones|2004|p=54}}
| -
| 2,500&nbsp;m{{sfn|Kingsley-Jones|2004|p=54}}
|-
|-
! 巡航速度
| A330-343 || 1999年9月13日 || Rolls-Royce Trent 772B-60/772C-60
| colspan="3" | [[マッハ数|マッハ]]0.82{{sfn|Kingsley-Jones|2004|p=54}}
|-
! 最大運用速度
| colspan="3" | マッハ0.86{{sfn|青木|2010|p=49}}
|-
! 航続距離{{sup|†5}}
| 13,400&nbsp;km<ref name=A330-200-spec/>
| 7,400&nbsp;km<ref name=A330-200F-spec/>
| 11,300&nbsp;km<ref name=A330-300-spec/>
|-
! エンジン (×2)
| [[ゼネラル・エレクトリック CF6|GE CF6-80E1]] <br>[[プラット・アンド・ホイットニーPW4000|P&W PW4000]] <br>{{nowrap|[[ロールス・ロイス トレント|R-R トレント700]]}}{{sfn|青木|2010|p=49}}
| P&W PW4000 <br>{{nowrap|R-R トレント700}}{{sfn|青木|2010|p=49}}
| GE CF6-80E1 <br>P&W PW4000 <br>{{nowrap|R-R トレント700}}{{sfn|青木|2010|p=49}}
|-
! 推力 (×2)
| 303 - 316&nbsp;[[ニュートン|kN]]<ref name=A330-200-spec/>
| 302 - 320&nbsp;kN<ref name=A330-200F-spec/>
| 303 - 320&nbsp;kN<ref name=A330-300-spec/>
|-
| colspan=5 style="text-align:left; font-size:90%;" |
* 出典:特に記載のないものは、{{harv|青木|2014b|pp=108, 261}}による。
* †1 タイプA非常口を3箇所、タイプ1非常口を1箇所配置する場合。
* †2 タイプA非常口を4箇所装備する場合。
* †3 前方、後方貨物室にLD-3貨物コンテナを搭載し、ばら積み貨物室へのコンテナ追加オプションを採用しない場合の有効容積。A330-200Fは、メインデッキに96インチ×125インチの貨物パレットを搭載した場合の有効容積を加えた値。
* †4 標準海面高度、[[国際標準大気]]における値。
* †5 A330-200Fは最大値、A330-200/-300はエアバスによる典型的な搭乗数での値。
|}
|}


== 事故概略 ==
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
[[File:A330-200 Air Transat C-GGTS.jpg|thumb|right|250px|エア・トランザットのA330-200]]
{{Reflist|group="注釈"|refs=
(2010年5月12日現在)
{{refnest|group="注釈"|name=aspect_ratio|アスペクト比とは翼幅の2乗を面積で割った値で翼の細長比を示す値である<ref name=encyclopedia-314/>。}}
* 機体損失事故:3回、総計338人死亡。
}}
* 他の原因:1回、総計0人死亡。
=== 出典 ===
* [[ハイジャック]]:2回、総計1人死亡。
{{Reflist|2|refs=
<ref name=Airbus2014-2-1-1-p3>{{harvnb|Airbus|2014}}, 2-1-1 p. 3</ref>
<ref name=Airbus2014-2-1-1-p6>{{harvnb|Airbus|2014}}, 2-1-1 p. 6</ref>
<ref name=Airbus2014-2-1-1-p9>{{harvnb|Airbus|2014}}, 2-1-0 p. 9</ref>
<ref name=Airbus2014-2-2-0-p2-p9>{{harvnb|Airbus|2014}}, 2-2-0 pp. 2-9</ref>
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== 関連項目 ==
* [[ボーイングとエアバス]]
* [[旅客機の構造]]
* [[旅客機のコックピット]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* エアバス社の公式サイト
** [http://www.airbusjapan.com/aircraft-families-jp/passengeraircraftjp/a330jp/ A330ファミリー]{{Ja icon}}
** [http://www.airbus.com/aircraftfamilies/passengeraircraft/a330family/ A330 FAMILY]{{En icon}}


* [http://www.airbus.com/aircraftfamilies/passengeraircraft/a330family/ Airbus - A330 families(英語版)]
* [http://www.airbusjapan.com/ エアバス・ジャパン株式会社]
** [http://www.airbusjapan.com/aircraft-families-jp/passengeraircraftjp/a330jp/ A330ファミリー(日本語版)]
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2014年12月24日 (水) 09:49時点における版

エアバスA330

エティハド航空のエアバスA330-200

エティハド航空のエアバスA330-200

エアバスA330Airbus A330)は、ヨーロッパの企業連合であるエアバス・インダストリー(後にエアバス)が開発・製造している双発ジェット機である。

A330は中短距離路線向けの大型旅客機として開発された。エアバスA300の胴体を延長したワイドボディ機で、低翼配置の主翼下に2発のターボファンエンジンを装備する。尾翼は低翼配置、降着装置は前輪配置である。A330シリーズには旅客型のA330-200とA330-300、貨物型のA330-200Fに加えて、軍用の多目的空中給油輸送機であるA330 MRTTがあるほか、エンジンを新型に置き換えたA330neoの開発も進められている。機体寸法や性能は各形式によるが、就航中のA330-200/-300/-200Fでは、巡航速度はマッハ0.82、全長は58.82から63.69メートル、全幅は60.30メートル、最大離陸重量は184トンから238トン、座席数は253席から440席程度である。A330ではフライ・バイ・ワイヤシステムやグラスコックピットが導入され、操縦系統が共通化されたエアバス機との間で相互乗員資格が認められている。

A330シリーズで最初に開発されたのはA330-300で、1987年に長距離4発機のエアバスA340と同時に正式開発が決定された。双発機のA330と4発機のA340の同時並行的な開発は航空技術史上において希少な取り組みとなり、両機はエンジン関係を除いて最大限共通化された。A330-300は1994年エールアンテールによって初就航した。次に開発されたA330-200はA330の短胴・長距離型で、1995年に正式開発が決定され、1997年カナダ3000英語版によって初就航した。A330-200FはA330-200をベースとした貨物専用型で、2007年に正式開発が決定され、2010年エティハド航空の貨物部門に初引き渡しが行われた。エンジンを新型に置き換えるA330neoシリーズは、2014年に正式に開発計画が発表され、2017年後半の引き渡し開始を予定している。

2014年7月現在、1017機のA330が民間航空路線に就航している。運用者を地域別にみると、全体の約6割がアジア中東オセアニア地域の航空会社によって運用されており、中でも中国の航空会社による運用機数は約1割を占める。その次に欧州ロシア地域の航空会社による運用機数が多く、続いて北米南米地域、アフリカ地域の順となっている。2014年10月現在、A330が関係した主な航空事故・事件は20件あり[5]、その中には8件の機体損失事故と2件のハイジャックが含まれ、合計で339人の乗員・乗客が死亡した[6]

本項では以下、エアバス製旅客機およびボーイング製旅客機については社名を省略して英数字のみで表記する。例えば、「エアバスA300」であれば「A300」、「ボーイング747」であれば「747」とする。

沿革

開発の背景

1974年のファーンボロー国際航空ショーで飛行するA300。A300はエアバス・インダストリーが最初に開発した製品である。

米国の航空機メーカーに対抗するため、欧州の航空機メーカーは1970年12月に企業連合「エアバス・インダストリー」を設立した[7]。エアバスは最初の製品である双発ワイドボディ機A300の販売を軌道に乗せ、次期製品の検討を行った[8]。この時の製品候補の中に、A330の源流となる「A300B9」(以下、B9)と呼ばれた機体案があった[8]。B9案はA300の胴体を延長し、ダグラスDC-10ロッキードL-1011の市場に食い込むことを狙った双発の中距離機であった[8]。B9案の他には、A300の胴体短縮型となるA300B10(以下、B10)案、そしてエンジンを4発とした長距離型のA300B11(以下、B11)案などの複数の機体案が検討されていた[8]。しかし、当時のエアバスには同時に複数の機種を開発できるだけの資金や人員がなく、市場調査の結果をふまえて次期製品はB10案に絞られた[8][9]1978年にエアバスはB10案をA310と命名して正式に開発を開始し、B9やB11案は無期限に延期した[8][9]

1980年になると、エアバスは「SA」 (Single Aisle) と名付けられた単通路機(ナローボディ機)の研究を行っていることを明らかにした[10]。同時に、ワイドボディ機の計画名には2通路を意味する「TA」(Twin Aisle) が付けられ、B9案はTA9、B11案はTA11と名前を変えた[8]1982年ファーンボロー国際航空ショーの場で、TA9、TA11、そして新たに追加されたTA12の開発構想が発表された[11]。TA9、TA11、TA12案は何度か変更が加えられたが、おおむね以下のようなものであった[11][12][13][14]

  • TA9 - A300の胴体を延長して320席を超える座席数を持つ中距離双発機。
  • TA11 - TA9より短い胴体で座席数は230席程度、10,000キロメートル以上の航続力を持つ長距離4発機。
  • TA12 - TA11と同じ胴体長・座席数で、TA11より航続距離が短いが、エンジンを双発とした長距離機。

しかし、この頃、第2次石油危機と景気後退により民間航空機市場は縮小していた[11]。エアバスは、1984年3月にSA計画をA320と名付けて正式開発を開始した一方で、TA計画の開発決定を先送りした[15][11]。双発機の開発案はTA9とTA12の2種類になっていたが、1980年代の中頃にはTA12案が取り下げられた[16]。TA9案はTA11案とともに改良が加えられ、A320と共通のフライ・バイ・ワイヤシステムを導入し、A320同様にサイドスティック方式の操縦席を搭載する計画となった[16]

エアバス内部では、双発機のTA9と4発機のTA11のどちらを先に開発するか議論が重ねられた[17]。離陸重量などの条件が同等だと仮定した場合、双発機には4発機よりも強力なエンジンを装備する必要がある[18][19][注釈 1]。また、エンジンの信頼性が低かった時代に作られた規制により、双発機はエンジン1基が停止した場合に60分以内に着陸可能な飛行場があるルートしか飛行できず[20]、代替飛行場の少ない中長距離の洋上路線では3発機や4発機が用いられていた[21]。しかし、双発機には、4発機より機体のシステムが簡素で整備の手間が少なく、運用コストが低く済むというメリットがある[22][17]。エンジンの信頼性や性能が向上が進んだことで、低コストの双発機を洋上路線で運航したいというニーズが高まっており、1985年には、ETOPSと呼ばれる双発機の長距離運航を認める要件が策定されていた[20]。ただし、当時のETOPSでは航路設定や運航の自由度がまだ限られていたほか、認証を得るために時間も要した[20][13][23]北米の航空会社はコスト面で有利な双発機を好んだ一方、長距離洋上路線を抱えるアジアの航空会社は双発機のような制約の無い4発機を必要とし、欧州の航空会社の意見は両者に二分されていた[17][24]

航空業界の意見が双発機と4発機に分かれていたなかで、エアバスはTA9とTA11を同時開発する方向へ舵を切った[17][24]。総開発費を抑制するため、両機の構成要素は最大限共通化するよう設計が行われた(設計過程の詳細は後述)[17][24][25]。2機の同時開発の目処が立ち、1986年1月にエアバスはTA9とTA11をそれぞれA330、A340と命名した[17]。A340は短胴型のA340-200と長胴型のA340-300の2モデル構成となった一方で、この時点ではA330は1モデルのみの開発とされた[2]。なお、A330とA340の名称は元々は逆であった。エアバスはTA11を先に開発する予定であり、A320に続く新型機ということでTA11をA330、そしてTA9をA340としていた[17][24]。しかし、4発機がA3"3"0で双発機がA3"4"0では、顧客が両機を取り違えるという問題が指摘され、4発機がA340に変更された[17][24]

A330の最初の発注があったのは1987年3月で、フランスエールアンテールからであった[17]。その年の6月までに合計10社の航空会社からA330に41機、A340に89機の注文が集まっていた[25][26]。開発を進めるのに十分な受注の見込みが立ったことで、エアバスはパリ航空ショーを控えた1987年6月5日、A330とA340の正式開発を決定した[12][17]。両機は姉妹機として同時に開発が決定されたが、市場調査の結果を踏まえ、A340の開発作業が先行された[19][12]

設計の過程

正面から見たデルタ航空のA330-300。A330はA300と同じ胴体断面が採用された。
右側面から見たシンガポール航空のA330-300。

A330の胴体は断面・長さともにA340-300と同一とされた[27][28]。胴体断面はA300由来のワイドボディ機の設計で、客室の座席配置や、LD-3航空貨物コンテナを左右に並べて搭載できる床下貨物室もA300から引き継がれた[29]。また、両機は尾部も共通化されたほか、主翼もエンジン取付部以外は構造的に同じで、システムやコックピットもエンジン関係を除いて共通化された[30][19]。4発機と双発機の同時並行的な開発というのは航空技術史上において希少な取り組みとなった[19]。ここで時間を少し巻き戻して、A330の設計過程を詳しく見てみる。

A330の主翼は新規設計されたもので、A340の主翼と基本的構造が共通化された[31]。A330とA340で最大離陸重量が同一だと仮定すると、4発機のA340の方がエンジンの重量が分散されることで主翼の付け根にかかる負荷が小さく強度の余裕ができることから、長距離向けのA340にのみ胴体に燃料タンクと中央脚(降着装置)を装備し、両機で主翼に必要な強度がほぼ等しくなるよう調整された[31][32]。また、コンピュータを用いた強度計算・空力設計と風洞実験を組み合わせることで翼型、翼厚比、取付角などが緻密に検討され、エンジン取付部を除いた主翼の共通化が実現した[31][32]。A330のエンジンの取り付け位置は、A340における第2、第3エンジン(主翼の付け根側のエンジン)にあたる場所とされた[30]

A330とA340では尾翼も同一とされ、垂直尾翼はA310のものがほぼ流用されたが、水平尾翼は新たに設計された[33][34][35]。A310と同様に水平安定板内には燃料タンクが設けられ、主翼や尾翼のタンク間で燃料を移動させて機体の重心位置を制御するシステムも搭載された[29]

併走するスイスインターナショナルエアラインズのA340-300(手前)とA330-300(奥)。

A330の操縦系統はA340と同一のシステムが用いられた[36]。このシステムはエアバスがA320で実用化したシステムの改良版であり[37]、全ての操縦翼面にフライ・バイ・ワイヤ方式が導入された[36]。コックピットもA320と基本的な設計は同じで、6面のブラウン管ディスプレイに各種情報を表示するいわゆるグラスコックピットであり、従来の操縦桿の代わりにサイドスティックを用いるのもA320と同様である[38]。A330のコックピット配置は、エンジンのスロットルレバーの数を除いてA340のものと事実上共通化された[37]

エンジンの数とそれに伴う非常時の対処以外、A330とA340の操縦操作は基本的に同じであり、相互乗員資格(Cross Crew Qualification, 以下CCQ)と呼ばれる資格制度が認められた[37]。これは、いずれかの機種の操縦資格を持つ操縦士は、短期間の訓練でもう一方の操縦資格を得られるという制度で、特にA340からA330への転換訓練は1日とされた[37][39]。また、コックピット配置が基本的に同じA320ファミリーとの間でもCCQが適用された[37]

A330のエンジンには、ゼネラル・エレクトリック(以下、GE)社、プラット・アンド・ホイットニー(以下、P&W)社、ロールス・ロイス(以下、R-R)社の製品からの選択制が採用された[40]。GE社のエンジンはA300から引き継がれたCF6-80シリーズ、P&W社からはPW4000シリーズ、R-R社からはトレント700シリーズの装備仕様が設定された[40]

生産と試験

A330の生産はそれまでのエアバス機と同様に国際分業体制がとられ、参加各国でパーツを分担して製造し、最終組み立てはフランスのトゥールーズで行われた[41]。生産においてもA330とA340の共通性は極めて高く、同一ライン上で両機の組み立てが行われた[41]。トゥールーズにはA330/A340を組み立てるための施設が新設され、最終組み立て工程の一部にはロボットが導入された[35]

試作機の製造や試験もA340が先行して行われた[37]1991年10月4日にA340の1号機の完成披露式典が行われたが、ちょうどその頃、A330の試作機の最終組み立てが開始されている[37]

A330の初号機は1992年10月14日に完成し、11月2日に初飛行を行った[2]。当初のA330の飛行試験に用いられたのは3機で、いずれもCF6エンジン装備機だった[2]1993年10月21日、A330の最初の型式証明が、欧州の合同航空当局(Joint Aviation Authorities、以下JAA)と米国の連邦航空局(Federal Aviation Administration、以下FAA)から同時に交付された[2][42][43]。1993年12月末にエールアンテールに対してA330の最初の引き渡しが行われた[2]

その後、初号機はエンジンをトレント700に換装されて1994年1月31日に初飛行し、1994年12月22日に同エンジン装備型に対する型式証明を取得した[44]。PW4000エンジン仕様については、最初の機体が1993年10月14日に初飛行し、1994年6月2日に同エンジン装備型の型式証明を取得している[44]。PW4000を装備した最初の機体は、型式証明の取得から間もない6月30日に試験飛行時に墜落し、搭乗していた7名全員が死亡した[44]エアバス129便墜落事故英語版)。これは、A330で最初の墜落事故となった[45]

就航開始

地上でのA330を右前方から見る。
エールアンテールのA330-300。A330はフランスの国内線で路線就航を開始した。

1994年1月17日、エールアンテールはパリ - マルセイユ線にA330を就航させた[2]。同社はフランス国内線専門の航空会社だったため、このときのA330の就航は陸上路線のみであった[2]。1994年5月、アイルランドエアリンガスによって、A330は最初の洋上路線となるダブリン - ニューヨーク線に就航した[2]

エアバスは、長距離路線には4発のA340、中短距離はA330という売り分けを考えていたが、A330を洋上路線に就航させる需要もあったことから、A330のETOPS認証取得も進めた[44]。1994年4月29日、GE製CF6エンジン装備仕様に対して、代替飛行場からの飛行距離が120分までとなるETOPSが認められ、1995年2月6日には認可時間が180分に延びた[46]。また、P&W製エンジンとR-R製エンジン装備仕様についても、1995年から1996年にかけて120分と180分のETOPSが認められた[46]

1995年7月までに、A330の運航機数は29機となり、エールアンテールとエアリンガスに加えてLTU国際航空キャセイパシフィック航空マレーシア航空タイ国際航空香港ドラゴン航空で導入された[47]

A330-200の開発

エアバスのレインボーカラー塗装のA330-200。

A330の販売は、1980年代後半にまとまった受注を集めた後は、下火になっていた[48]。航空会社は長大な航続距離性能を持つ双発機を求めるようになっていた[49]。また、姉妹機となるA340は1993年3月に路線就航を開始していたが、その後、段階的に最大離陸重量が引き上げられて航続距離性能が強化されていた[50]。エアバスではA330とA340との中間の航続力を持つ機種として、A330の胴体を短縮して収容力を減らす代わりに燃料搭載量を増やすことで航続力を増強した派生型の検討を始めた[30][48]。この機体案はA330-200と名付けられ、1995年11月24日に正式開発が決定された[30][49]。A330-200の開発に伴い、それまでのA330はA330-300と呼ばれることとなった[30]。A330-200が最初の発注を得たのは1996年前半で、リース会社のインターナショナル・リース・ファイナンス社(以下、ILFC)からであった[48]

A330-200の胴体は、A330-300のものから主翼の前後で合わせて10フレーム短縮された[30]。胴体の短縮により機体の重心位置から垂直尾翼までの距離が短くなることから、これを補うため、A330-200では垂直尾翼の高さ方向が拡大された[30][49]。A330-200では、A340-300の重量増加型と同様に主翼が強化されて最大離陸重量が引き上げられ、胴体中央への燃料タンクが追加されたほか[48]、エンジンが推力増加型に変更された[51]。これらの変更により、航続距離は11,853から12,223キロメートル(6,400から6,600海里)となった[49]。A330-200でもGE、R-R、P&Wの3社のエンジンが選択可能とされた[44]

A330-200の初号機はGE社のCF6エンジンを装備した機体で、1997年8月13日に初飛行した[44]。また、同年12月4日にはP&W社のPW4000エンジンを装備した最初の機体が初飛行した[44]1998年3月31日、CF6エンジン装備型に対してA330-200で最初となる型式証明がJAA、FAA、そしてカナダの航空当局から同時に交付された[44][49]。その後、330-200の初号機はエンジンをCF6からR-R社のトレント700に換装してトレント700装備型の型式証明取得のために試験飛行を行った[44]

330-200の最初の引き渡しは1997年4月で、カナダのチャーター便専門会社であるカナダ3000英語版に対して行われた(機体の保有はILFC)[49]。この時の機体はGE製エンジン装備機であった[52]。翌1998年にはP&W製エンジン仕様がオーストリア航空へ、1999年2月にはR-R製エンジン仕様がILFCからのリース機としてカナダのエア・トランザットに初納入された[52]

A330-200の就航開始

キプロス航空のA330-200を下から見上げる。

1997年5月に、カナダ3000によってA330-200は初就航した[52]。1999年11月の時点で、スイス航空を筆頭に、サベナ・ベルギー航空エミレーツ航空ガルフ・エア大韓航空TAM航空など14の航空会社で46機のA330-200が運用され、大西洋や太平洋を横断する路線にも投入された[53]。フライトあたりの平均飛行時間は、A330-300が1.7から3.5時間であったのに対し、A330-200では3.5から8時間であり、これはA340に近い数値であった[54]

A330-200の導入初期のトラブルとして、前脚の旋回角度の制限によって狭い滑走路などで機体の取り回しが困難になる場合があったほか、主脚のショックアブソーバーからの油漏れなどが指摘され、エアバスでは角度範囲の見直しなどの対応を行った[53][55]。また、大型化された垂直尾翼に対応するため、尾翼のロゴを照らす照明も再設計されている[56]

A330-200でもETOPSの認可取得が進められ、1998年4月27日にGE製のCF6エンジン装備機で180分のETOPSが認められたのを最初に、1999年前半までにP&W製とR-R製のエンジン装備仕様でも180分のETOPSが認められた[57]

貨物型と軍用型の開発

2000年頃になると、エアバスはDC-10、MD-11、L-1011といったワイドボディ機をベースに開発された貨物専用機の後継需要を狙い、新たな貨物型の研究を始めた[58]2001年6月にA330の設計を活用する計画を公表し、機体仕様などを詰める作業を進めた[58]インドの新興運送会社であるFlyington Freighters社のほか、航空機リース会社であるゲッゲンハイム・アビエーション・パートナーズ社とイントレピッド・アビエーション社から合わせて32機の受注が集まり[59]2007年1月17日にA330-200をベースとした貨物専用機となるA330-200Fの正式な開発を決定した[58]

香港航空のA330-200F。

A330-200Fは、基本的にはA330-200と同じ機体フレームを用い、メインデッキ(機体上半分の客席を設ける部分)に貨物を搭載できるように大型の貨物扉の追加や床面の強化が行われたほか、旅客用設備が取り除かれた[58][60]。また、ベースとなったA330-200では主脚より前脚が短く地上ではやや機首が下がった姿勢となっているが、メインデッキに貨物を搭載するA330-200Fでは前脚の取り付け位置を下げることで地上姿勢を修正された[60]。このことにより、前脚の格納時に車輪や脚柱がはみ出してしまうため、それを収めるため機首部下面に張り出しが追加された[61][62]。エンジンはR-R社のトレント700とP&W社のPW4000を装備する仕様がそれぞれ設定された[58]。A330-200Fの初号機はPW4000エンジンを装備する機体で、2009年11月5日に初飛行して試験飛行を開始した[63][59]。A330-200Fの2号機はトレント700エンジンを装備し、2010年1月20日に初飛行して試験飛行に投入された[63][59]。約200時間の試験飛行の大半は初号機によって行われ[59]、2010年4月9日に欧州航空安全機関(EASA)の型式証明を取得した[64]。A330-200Fの引き渡しは、2009年後半に開始する予定だったが開発中にスケジュールが延び、その間に貨物市場の崩壊が発生していた[59]。引き渡しの順番が入れ替わり、2010年8月9日、エティハド航空の航空貨物部門であるエティハド・クリスタル・カーゴ社に最初の納入が行われた[64][59][66]

オーストラリア空軍エアバス A330 MRTT。同空軍ではKC-30Aと名付けられている。

また、A330-200Fが開発された頃、A330-200をベースとした多目的空中給油輸送機の開発も行われた[67]。2004年12月20日にオーストラリア空軍が5機のA330 MRTTを発注する契約を結び[68]、初飛行は2007年6月15日に行われ[69]、2011年6月1日に正式運用が開始された[70]。2008年には、アメリカ空軍の時期空中給油機としてKC-45の名で採用が決まったが、ボーイングからの抗議を米国の会計検査院が認めたことで、選定作業は振り出しに戻った[71]。2011年2月、米空軍は767をベースとしたKC-46の採用を決定し、結局KC-45は不採用となっている[71]

2012年2月には、エアバスとシンガポールのSTエアロスペース英語版社が共同でA330の旅客型から貨物機への改修事業を立ち上げることが発表された[72]。発表内容によると、この改修事業の拠点はドイツのドレスデンに置くとされ、A330-200とA330-300の両型式を改修対象としている[72]。エアバスでは、この貨物型改修機をA330P2F(P2FはPassenger-to-freighter、旅客機から貨物機へという意味)と名付けている[73]。A330-300P2Fは貨物を60トン搭載した場合に航続距離が2,200海里(約4,100キロメートル)となる予定であり[73]、A330-300P2Fの就航は2016年を予定している[72]。A330P2Fについても、前脚の取り付け位置がA300-200Fと同様に変更される予定である[67]

旅客型の派生型とA330neoの開発

中国国際航空のA330-300を後ろから見る。

A330-200/-300の受注は好調に推移した[74]。2004年4月にボーイングが新型双発中型機となる787の開発を決定した後もA330の受注は伸び続けたほか、2006年12月にエアバス自身が新型双発機のA350 XWBの開発を発表しているが、A350 XWBの引き渡し開始までにもA330の受注機数は増え続けている[74]。A330とA350 XWBはどちらも双発のワイドボディ機であり、市場を奪い合うようにも見えたが、長距離向けにはA350 XWB、中短距離向けには機体価格が低いA330と棲み分けがなされた[74]

A330に対するETOPSの認可範囲は段階的に広げられ、2009年にはEASAによって、A330の全タイプに対してETOPSの制限を240分とすることが認められた[75]。A330は世界で初めて240分のETOPSを認可された機種となった[58]。エアバスは、A330-200/-300について、最大離陸重量を引き上げたモデルと軽量化したモデルの2つの派生型の開発を行っている[74]。最大離陸重量の強化型は、2012年11月29日に発表された[76]。A330-200/-300それぞれで最大離陸重量が242トンまで引き上げられ、空力性能やエンジンの細かい改善に加えて、A330-300では初となる中央翼燃料タンクもオプション設定される[74]。これにより、A330-300は最大離陸重量235トンの既存仕様より500海里(約930キロメートル)、A330-200では同238トンの既存機より350海里(648キロメートル)延長される予定である[74]2015年5月に初引き渡しが行われる計画である[74]。2013年9月に発表された軽量化型は、人口増加で航空需要が増えている中国やインド、中東などでの国内線や地域路線といった中短距離路線向けで、A330リージョナルとも呼ばれる[74][77]。軽量化型は、A330-300の内装の改良などにより最大離陸重量を200トンに抑え、座席数400席での航続距離を3,000海里(5556キロメートル)とし、運航コストを最大15%削減するとしている[77]

その一方で、A320ファミリーのような、新しいエンジンを採用した次世代化の可能性も取りざたされてきた[78]。これに対し、エアバスが2014年6月に行った航空記者向け説明会では、エンジン換装に伴う手間に加え、単通路機よりも市場規模が小さいため、採算が取れないという理由でこのモデルの開発に否定的な見方を示していた[78]。しかし、同年7月14日のファーンボロー国際航空ショーにて、R-R製の新型エンジン「トレント7000」を採用した発展型となるA330neo (new engine option) の開発が発表された[79][80][81][82]。A330neoの主翼にはA350 XWBと同様のウィングレットを備えるほか、パイロンなども改良され空力性能が強化される[79]。また、コックピットシステムや機内のエンターテインメントシステムも新型に置き換わる[79]。A330neoは、A330-800neoとA330-900neoの2タイプで構成され、標準座席数と航続距離の計画値は、A330-800neoが246 - 252席で7,450海里(約13,800キロメートル)、A330-900neoは300 - 310席で6,200海里(11,500キロメートル)である[80][83]。ファーンボロー国際航空ショーの期間中にエアアジア Xのほか、大手航空機リース会社であるエア・リース・コーポレーション英語版アボロン英語版CITから計121機の覚書による受注を獲得した[80]。また、ハワイアン航空のように発注済みのA350 XWBをA330neoに置き換える航空会社も現れている[84][85]。A330neoの引き渡し開始は、A330-900neoが2017年10月-12月期(第4四半期)、A330-800neoは2018年前半を予定している[80][83]。A330neoの開発決定により、エアバスでは従来型のA330を「A330ceo」 (current engine option)と呼ぶ場合がある[82]

機体の特徴

形状・構造

駐機中のエミレーツ航空のA330-200を見下ろす。2基のボーディングブリッジが胴体の左舷前方に接続されている。

A330は、客室内に通路を2本もつワイドボディ機で、主翼を低翼位置に配した単葉機であり、主翼下にターボファンエンジンを2発備える。 水平尾翼は低翼に配置され、降着装置の配置は前輪式である[40]。A330の最初のモデルとなったA330-300は、姉妹機となったA340との共通性を最大化するように設計された[25][19]。後に開発された長距離型のA330-200では、胴体の短縮、垂直尾翼の大型化、中央翼内へのタンク増設などが行われている[86][87]

A330の胴体断面には、A300で開発された直径5.64メートル(222インチ)の真円断面がそのまま用いられている[88]。全長は、A330-200が58.82メートル、A330-300が63.69メートルである[89]

A330の主翼は、テーパーがついた後退翼で翼端にウィングレットを有する[40]翼平面形の主なパラメータは表1の通りで、ボーイング747-200と比べると、翼幅はほぼ同じながら翼面積は3分の2程度であり、アスペクト比[注釈 2]が大きい翼である[31]。主翼の翼型は、基本的に前半部が厚く後半部は薄いが、胴体側の付け根から翼端まで連続的に変化している[31]。特に外翼では、翼の後半でも揚力を発生させられるリア・ローディングと呼ばれる翼型の特徴を持っている[31][90]。主翼について最大翼厚を翼弦長で割った翼厚比を見ると、連続的に細かく変化しており平均値は12.8パーセントである[31]

表1: 主翼平面形の主要諸元
翼幅 (m) 翼面積 (m2) 1/4翼弦での後退角 (度)
A330-200/-300 60.30 361.6 30
出典:(浜田 2013a, p. 96)

主翼の高揚力装置の配置は、前縁にスラットが7枚、後縁にフラップが2枚である[91]。スラットは翼端に向かってテーパーが付けられているほか、胴体側の1枚と残りの6枚とで駆動系が分けられている[91]。フラップは1枚式で比較的簡素なファウラー型フラップである[91]。後縁の翼端側に2分割されたエルロンが配置され、内舷側には高速用エルロンを持たない[91]フライ・バイ・ワイヤの導入によってエルロンは、本来の役割に加えて離着陸時にはフラップの役割、着陸後はグラウンドスポイラーの役割も果たすように制御される[32]。スポイラーは6枚はあり、エアブレーキとグラウンドスポイラーとしての役割を持つほか、外側の5枚はロール操縦にも用いられる[92]

USエアウェイズのA330-300。

A330の水平尾翼はA340第1世代(A340-200/-300)のものと同一で、A330/A340用に新規設計されたものである[29]。可動式の水平安定板と1枚の昇降舵で構成され、翼幅は19.4メートルである[93][94]。水平安定板の内部には燃料タンクが設けられ、主翼タンクとの間で燃料を移動させ、機体の重心位置を制御するシステムが搭載されている[29][34]。このシステムはA310で実用化されたものと同様のもので、機体姿勢を維持する際に発生するトリム抗力を抑制することができる[34][29]

垂直尾翼はA330-300ではA310の尾翼と基本的に同一のものが用いられ、若干の補強を加えられたが生産治具は同じものが使用された[29]。垂直安定板と1枚の方向舵で構成され[93]、高さは8.3メートルである[94]。A330-200では垂直安定板と方向舵が拡大されて高さが8.8メートルとなり、後に9.3メートルに変更されている[51][94]

降着装置については、機首部に前脚、左右主翼の付け根に主脚が配置されている[94]。A330シリーズ全体で共通して主脚は4輪式、前脚は2輪式である[94]。主脚はA330/A340用に新規設計されたものである[95]。胴体長が長い機体では離陸時に後部胴体を地面に接触させないように、引き起こし角に制限があるが、引き起こし角は大きい方が離陸性能が向上する[95]。そこで、エアバスではロッキング・ボギーと呼ぶ主脚を開発した[95]。この主脚は、ボギー式の車輪とストラットの組み合わせにより前方の車輪だけを持ち上げ、可能な限り後方の車輪を滑走路に接地させるものであり、これにより機体の引き起こし角を大きくとれるようになった[95]。A330/A340の前脚はA300/A310のものが流用されたが、これによって前脚と主脚の長さが異なりことになり、地上ではやや機首下がりの姿勢を取る[30]。貨物専用型のA330-200Fでは、地上姿勢を水平にするため、前脚の取り付け位置が変更されている(後述の「A330-200F」節を参照)。

A330の主翼構造は基本的にアルミニウム合金製で、胴体の縦通材や外板にもアルミニウム合金が用いられている[31][96]。また、A330で使用されている複合材料には、炭素繊維強化プラスチック (CFRP)、アラミド繊維強化プラスチック (AFRP)、ガラス繊維強化プラスチック (GFRP)があげられ、主な使用部位は以下のとおりである[97][98]

飛行システム

ターキッシュ エアラインズのA330-200のコックピット。座席正面には操縦桿がなく、左右の窓側に配置されたサイドスティックで操縦する。正副操縦席の操縦席の正面にそれぞれ2基、中央に縦に2基のディスプレイが配置されたグラスコックピットである。

A330の操縦系統は、A320のフライ・バイ・ワイヤ操縦システムを基本に改良を加えたものである[37][99][36]。また、コックピットのレイアウトはA320のものを踏襲しており、姉妹機のA340とはエンジンのスロットルレバーを除いて実質的に同一である[37]

A330の操縦席には6面のカラーディスプレイが配置され、いわゆるグラスコックピット化されている[37]。A330の登場時は、ディスプレイにはブラウン管が用いられたが、A340の第2世代となるA340-500/-600が開発された際に液晶ディスプレイ (LCD) が採用され、A330-200/-300でもオプションとしてLCDが装備できるようになった[100]

操縦席の正面には操縦桿が無く、各操縦席の窓側にあるサイドスティックによって操作を行う[101]。A330の操縦系統では、操縦士がスティックやラダーペダルを操作した情報は飛行制御コンピュータに入力される[37]。飛行制御コンピュータが計算した指令値は電気信号によって各動翼へ伝えられ、油圧アクチュエータによって動翼が駆動される[37]。パイロットによる操縦中であっても、コンピュータは機体にかかる荷重や速度が許容値を超えたり、失速したりしないよう計算した上で各動翼を制御する[37][36]

コックピットレイアウトやシステムが共通化されているエアバス機では相互乗員資格制度(CCQ)が設定されており、A330/A340の姉妹機をはじめ小型のA320から大型のA380まで、いずれかの機種の操縦資格を持つ操縦士は、短期間の転換訓練で他機種の資格を取得できる[102][37]。CCQによる転換訓練の期間は、A340からA330では1日、A330からA340では3日間である[39]。A340からA330への訓練期間に対し、A330からA340への訓練期間が長いのは、双発機から4発機のシステムへの転換となり学習することが多くなるためとされている[39]

客室・貨物室

ビジネスクラスの客室内を後方から見た写真。2本の通路を挟んで2-2-2の配置で座席が並んでいる。各座席は互い違いに配置され、仕切り板で区切られている。
エティハド航空のA330のビジネスクラス。2本の通路を挟んで2-2-2の配置で座席が並んでいる。各座席は互い違いに配置され、仕切り板で区切られている。
エコノミークラスの客室内を後方から見た写真。2本の通路を挟んで2-4-2の配置で座席が並んでいる。
エアリンガスのA330のエコノミークラス。2本の通路を挟んで2-4-2の配置で座席が並んでいる。
A330の客室内装の例。

A330はA300と同じ胴体断面を用いたため、座席の配列なども基本的にA300と同じであり、客室内には通路が2本配置される[29][103]。標準的な座席配置はエコノミークラスで2-4-2の8アブレスト、ビジネスクラスで2-3-2の7アブレスト、ファーストクラスで2-2-2の6アブレストである[29][103]。航空会社の要望に応じて座席やギャレーを柔軟に配置できるよう設計されており[51]、航空会社によっては、座席間隔を詰めて3-3-3の9アブレストとしたり、スカイマークのように全席2-3-2の7アブレストとする事例もある[29][103]

A330の当初の内装には、バキューム式のトイレや身体障害者向けの設備など当時の最新設備が採用され、左右と中央の座席上には、A340の第1世代と同じオーバーヘッド・ビンが配置されている[51]。また、乗員同士のキャビン内会話データシステムがデジタル化されている[104]。A330は20年以上生産が続いており、その間に内装の改良が行われ、新しい機体ではLED照明が採用されたり、容積を拡大しつつ圧迫感を抑えたオーバーヘッド・ビンが採用されたりしている[103]

床下の貨物室は、主翼を挟んで前後2区画に分かれており、いずれもLD-3航空貨物コンテナを2個並列に搭載可能である[105][106]。また、最後部には、ばら積み貨物用の区画が設けられている[106]。また、A340では床下貨物室に設置できる旅客用化粧室や乗員用休憩室などが用意されたが、A330でも必要があれば装備可能である[39]

A340との関係

A330とA340の座席数と航続距離。縦軸が3クラス構成時の座席数、横軸が航続距離である。

「沿革」節で述べたとおり、A330-300とA340の第1世代(A340-200/-300)は姉妹機として同時に正式開発が決定され、両機の構成要素は最大限共通化された。両機の間では胴体断面は同一で、尾部も尾翼を含めて共通である[30][19]。主翼もエンジン取付部以外は構造的に同じで空力学的に全く同じである[107][91]。A330のエンジンはA340での内翼側のエンジン(第2、第3エンジン)にあたる位置に取り付けられている[30]。エンジン取り付け部の主翼前縁にはスラットがなく固定の前縁となり、A340では片側2か所、A330では1か所が固定部となる[30]。また、降着装置もA340では胴体に中央脚が追加されているが、それ以外は同一である[29][30]。操縦系統やコックピットも基本的に共通で、違いはエンジンに関する部分であり、A340ではエンジンのスロットル・レバーの数が4本、A330では2本である[11][108]

A330とA340の各型式で比較をすると、A330-300とA340-300では胴体長まで同じであり、違いはエンジンの数に関連するものだけである[30]。A330-200とA340-200はともに短胴型として開発されたが、胴体の長さはA330-200の方が短く[86]、全長はA330-200が58.82メートル、A340-200が59.40メートルである[109]。また、A330-200では垂直尾翼の高さが拡大されている点も異なる[51]。A340の第2世代となるA340-500/-600では主翼や尾翼が拡大されて胴体長も延長しており[110]、第1世代よりはA330との共通点は少なくなった。

エアバスは、4発機のA340を長距離路線向け、双発機のA330を中短距離路線向けと位置付けていた[44]。実際、A340-200とA340-300の最初の就航路線は、欧州と米国を結ぶ大西洋横断路線であり、A330が最初に就航したのはフランスの国内線であった[2]。その後、航続距離延長型のA330-200が開発されたほか、ETOPSによるA330の運航可能範囲が段階的に拡大されており、A330も長距離路線に就航するようになっている[75]。A330とA340はともに、引き渡し開始後も最大離陸重量を引き上げたオプションが開発されており段階的に航続力や収容力が向上しているが[111]、2004年時点の資料をもとに標準座席数と航続距離について比較すると、13,000キロメートル程度を境に短距離がA330、長距離がA340となっている[112][113]

シリーズ構成

A330シリーズには、旅客型のA330-200とA330-300、貨物型のA330-200Fがあるほか、多目的空中給油輸送機A330 MRTTも存在する。また、2012年には旅客型から貨物型への改造型となるA330P2Fが、2014年には新しい旅客型としてA330neoの正式開発が発表されているが、本節では運用開始済みの型式について取り扱う。

A330では、旅客型・貨物型の区別のほか、装備エンジンによって型式名が細分化されている(表2)。また、各エンジンの最大離陸推力に応じて最大離陸重量が異なる仕様が設定されている。例えば日本の国管理空港では最大離陸重量や騒音値に応じて着陸料が設定されており[114]、航空会社がA330を運航する路線事情に合わせて最大離陸重量の仕様を選ぶことができる[115]

表2: 型式名と装備エンジンの一覧
機種 エンジン 型式証明取得
A330-201 GE CF6-80E1A2 2002年10月31日
A330-202 GE CF6-80E1A4 1998年3月31日
A330-203 GE CF6-80E1A3 2001年11月20日
A330-223 P&W PW4168A/4170 1998年7月13日
A330-223F P&W PW4170/PW4168A 2010年4月9日
A330-243 R-R Trent 772B-60/772C-60 1999年1月11日
A330-243F R-R Trent 772B-60 2010年4月9日
A330-301 GE CF6-80E1A2 1993月10月21日
A330-302 GE CF6-80E1A4 2004年5月17日
A330-303 GE CF6-80E1A3 2004年5月17日
A330-321 P&W PW4164/PW4164-1D 1994年6月2日
A330-322 P&W PW4168/PW4168-1D 1994年6月2日
A330-323 P&W PW4168A/PW4168A-1D/PW4170 1999年4月22日
A330-341 R-R Trent 768-60 1994年12月22日
A330-342 R-R Trent 772-60 1994年12月22日
A330-343 R-R Trent 772B-60/Trent 772C-60 1999年9月13日

A330-200

ガルフ・エアのA330-200を斜め上から見下ろす。

A330-200はA330の長距離型で、1995年に正式開発が決定され、1997年にカナダ3000によって初就航した[86][52]。A330-200では、A330-300の胴体を短縮することで機体重量を低減するとともに、燃料搭載量を増やして航続力が増強されている[116][117]。胴体はA330-300のものから主翼前方で6フレーム、後方で4フレーム短縮されている[117]。胴体の短縮により機体の重心位置から垂直尾翼までの距離が短くなることから、これを補うために垂直安定板と方向舵の高さ方向が拡大されている[116]。中央翼に燃料タンクを増設することで燃料搭載量は130,090リットルとなり、A330-300と比べて40パーセント増加している[117][118]。エンジンは、GE社のCF6-80シリーズ、R-R社のトレント700シリーズ、P&W社のPW4000シリーズから選択できる[117]。標準座席数は3クラスの場合で253席で、この場合の航続距離は7,250海里(約13,400キロメートル)である[117]。座席構成を2クラスとした場合には、標準で293席となる[117]。最大離陸重量は仕様により異なり192トンから238トンである[119]。また、エアバスでは、最大離陸重量を242トンまで引き上げたモデルの開発を進めている[120]

A330-300

アエロフロート・ロシア航空のA330-300が離陸するところ。

A330-300はA330シリーズで最初に開発されたモデルで、1987年に正式に開発が決定され、1994年にエールアンテールによって初就航した[121][2]。中・短距離路線向けに、収容力を大きくしたモデルとして開発された[122]。A330-300と姉妹機のA340-300でコンポーネントが最大限共通化され、開発コストや生産コストの抑制が図られている[25][30][122]。両機の間ではコックピット、胴体、主翼、尾翼を含む尾部、システム、降着装置が共通で、違いはエンジンの数に関するものだけである[25][30][122]。エンジンはA330-200と同じく、GE社のCF6-80シリーズ、R-R社のトレント700シリーズ、P&W社のPW4000シリーズから選択できる[117]。標準座席数は、3クラス構成で295席、2クラス構成で335席、モノクラス配置では398席である[121]。さらに、モノクラスで3-3-3の9アブレストにした場合は440席まで設置可能である[121]。最大離陸重量はA330-300でも複数の仕様があり、184トンから235トンである[123]。また、A330-300で初となる中央翼燃料タンクをオプションで用意し、最大離陸重量を242トンまで引き上げたモデルの開発も進められている[120]。さらに、航空需要が増えている中国やインド、中東などでの国内線や地域路線といった中短距離路線向けに、A330-300の軽量型の開発も進められている[74][77]。このモデルはA330リージョナルとも呼ばれ[74]、座席やギャレーの改良などによって軽量化を行い、最大離陸重量を200トンに抑え、座席数400席での航続距離を3,000海里(5556キロメートル)とし、運航コストを最大15%削減するとしている[77]

A330-200F

A330-200Fの機首部。左舷胴体に大型の貨物扉が設けられている(AIRBUSのロゴの"A"から"U"かけて)ほか、前脚の付け根部分が張り出している。

A330-200をベースに開発・新規生産された純貨物型であり[62][58](旅客型からの改造機については次節参照)、A300-600Fの後継機と見なされている[59]。メインデッキに貨物を搭載できるよう床を強化し、胴体前方の左側面に幅3.69メートルの貨物用ドアが設けられている[62][60]。メインデッキの床面には貨物やパレットを移動させるためのローラーが備わっている[60]。ただし、エアバスではシステムの簡素化や機体価格を抑えるため、動力式の荷物移動システムを機内に装備しておらず、貨物の移動は人力で行う必要がある[60]。貨物室と操縦室の間には荷主席が用意されているほか、操縦席・荷主席・貨物室間を行き来できるよう通路が設けられている[60]。ただし、客室窓などの旅客用設備は取り除かれている[60]。エンジンはトレント700シリーズとPW4000シリーズが設定されている[124]

メインデッキには、2.43×3.17メートル(96×125インチ)パレットであれば22枚まで収容でき、この場合のメインデッキの総貨物容積は336立方メートルとなる[60]。パレット貨物の最大高は2.24メートル(96インチ)である[60]。床下貨物室についても、旅客型と同様に貨物を搭載可能である[60]。A330-200Fは、標準仕様で64トンの貨物を搭載して航続距離は4,000海里(約7,400キロメートル)である[60]。69トン搭載できる仕様では3,200海里(約5,900キロメートル)の航続距離となる[60]

前述(形状・構造)のとおりA330の旅客型は主脚より前脚が短いため、地上ではやや機首が下がった姿勢となっている[60]。これは旅客型では大きな問題とならないが、貨物型の場合、メインデッキに貨物を搭載する上でメインデッキの床が水平な方が望ましい[60]。新たに降着装置を設計するのはコストや時間がかかることから、エアバスでは、A330-200Fの前脚の取り付け位置を下げることで地上姿勢を調整している[60]。このことにより、前脚の格納時に車輪や脚柱がはみ出してしまうため、それを収めるため機首部下面に張り出しが設けられている[61][62]

A330-200Fの初号機はR-R製エンジンを装備する機体で、2009年に初飛行し、2010年欧州航空安全機関(EASA)の型式証明を取得、同年8月9日にエティハド・クリスタル・カーゴ社に最初の引き渡しが行われた[64]

A330 MRTT

イギリス空軍のA330 MRTT。エンジンの逆推力装置を展開している。

A330 MRTT (Multi-Role Tanker Transport ) は、A330-200をベースに製造された多目的空中給油・輸送機である[67]。A330 MRTTが装備する空中給油システムとして3種類が提案されており[68]、左右の主翼下と胴体尾部にプローブ・アンド・ドローグ方式の給油システムを装備できるほか、胴体にAirbus Military Aerial Refuelling Boom System (ARBS) と名付けられたフライング・ブーム方式の給油システムを装備可能である[67][125]。ARBSを用いることで、A330 MRTT自身への給油も可能である[125]。A330 MRTTは空中給油のほか、人員輸送、貨物輸送、医療救助を実施可能な装備を備える[70]。A330 MRTTは、主翼内に111トンの燃料を搭載可能であることから胴体内に燃料タンクを増設する必要がなく、人員や貨物の収容力はベースとなったA330-200とほぼ同等である[126][70]

運用の状況・特徴

離陸中の中国国際航空のA330-200。

2014年7月現在、1017機のA330が民間航空路線に就航しており、形式ごとの内訳はA330-200が480機、A330-300が514機、A330-200Fが35機である[1]。運用機数が最も多い航空会社は、旅客型が中国国際航空でその数は45機、貨物機は香港航空ターキッシュ エアラインズで運用数はそれぞれ5機である[1]

A330の運用者を地域別にみると、全体の約6割となる606機がアジア・中東・オセアニア地域の航空会社によって運用されており、特に中国の航空会社による運用機数は100機を超える[1]。次いで欧州・ロシアの航空会社で246機、北米・南米の航空会社で130機、アフリカの航空会社で35機が運用されている[1]

スカイマークのA330。同社は日本で最初にA330を導入した。

主な運用者(括弧内は運用機数)は、アジア・中東地域では中国国際航空 (45)、キャセイパシフィック航空 (37)、中国東方航空 (32)、エティハド航空 (32)、カタール航空 (32)である[1]。欧州・ロシアではターキッシュ エアラインズ (35)が運用数の首位で、アエロフロート・ロシア航空 (22)、ルフトハンザ航空 (19)、KLMオランダ航空 (16)と続いている[1]。北米ではデルタ航空の32機、USエアウェイズ(2013年12月にアメリカン航空と合併[127])が24機を運用している[1]。そのほかの地域をみると、オセアニアではカンタス航空が22機、南米ではTAM航空が10機、アフリカではエジプト航空が11機のA330を運用している[1]。日本では、スカイマークが2機のA330-300を導入し、2014年から路線就航を開始している[1]

軍用型については2013年末の時点で、A330 MRTTがオーストラリアと英国で各5機、サウジアラビアアラブ首長国連邦で各3機ずつ運用されている[128]。また、ベルギーでは輸送機としてA330が1機運用されている[128]

受注・納入数

2013年現在、A330の受注数は累計1313機(キャンセル分をのぞいた数)で、1046機が生産・納入済みである。

表3: 年ごとの受注・納入数(キャンセル分は当初発注年度から減じている)[129]
合計 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001
受注数 1313 77 80 99 88 50 140 130 98 62 51 44 24 52
納入数 1046 108 101 87 87 76 72 68 62 56 47 31 42 35
2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988
受注数 95 22 23 60 44 9 0 1 1 4 19 37 3
納入数 43 44 23 14 10 30 9 1 0 0 0 0 0

主な事故・事件

2014年10月現在、A330が関係した主な航空事故・事件は20件あり[5]、その中には8件の機体損失事故と2件のハイジャックが含まれ、合計で339人の乗員・乗客が死亡した[6]

A330の最初の死亡事故は1994年6月30日にトゥールーズ近郊で発生した[2][5]。エンジン1基停止時の飛行試験を行っていたエアバス所有のA330-300が離陸直後に墜落し、乗っていた7人全員が死亡した[2][44]エアバス129便墜落事故英語版)。事故後、エアバスはA330の運航会社に対し、低速でエンジンが停止した場合には自動操縦を解除するよう勧告した[130]

滑走路上のA330を右側面から見る。
2008年、エア・カライベスによって、A330のピトー管が凍結して機能不全に陥る問題が2件報告されていた[131]

A330の2番目の死亡事故で、商業運航中における初の死亡事故となったのは、2009年6月1日に発生したエールフランス447便墜落事故である[45]リオデジャネイロからパリへ向かって飛行中のA330-200が大西洋上に墜落し、乗客乗員全員228人全員が死亡した。フランス当局による最終報告書では、事故原因は、ピトー管の凍結により正しい速度表示が得られなくなったことと、その後の操縦士の対処が適切でなかったことにあるとされた[132]

2010年5月12日には、リビアのトリポリ国際空港で、南アフリカのヨハネスブルク発のアフリキヤ航空のA330-200が着陸直前に墜落した。乗客乗員104名のうち8歳の少年1人を除く103名が死亡した[133]。リビア当局の調査により、事故原因はパイロットの連携不足によるとされた[134]アフリキヤ航空771便墜落事故を参照)。

A330では、死者はなかったものの飛行中に機体が機能不全に陥ったインシデントが3件発生している。2001年8月24日、エアトランサットのA330-200がカナダトロントからポルトガルリスボンへ向けて大西洋上を飛行中に燃料漏れが発生し、その後燃料切れのため全エンジンが停止して滑空状態になったが、アゾレス諸島テルセイラ島のラジェス空軍基地に緊急着陸に成功した(エアトランサット236便滑空事故)。事故の前に行われたエンジン交換で誤った配管部品が用いられたことで燃料パイプに亀裂が発生し、燃料漏れにつながったとされる[135][136]。2008年10月7日には、カンタス航空のA330-300がシンガポールからオーストラリアパースに向けて飛行していたところ、高度が突然変化したことで客室内に投げ出された乗客・乗員に重傷者が発生し、西オーストラリア州エクスマウス英語版に近い空軍基地に緊急着陸した(カンタス航空72便乱高下事故英語版[137]。事故後の調査により、事故原因はエア・データ・イナーシャル・リファレンス・ユニット英語版 (ADIRU) と呼ばれる装置に欠陥があり、それに起因する問題に飛行制御コンピュータが対応できなかったこととされた[138]。2010年4月13日には、インドネシアスラバヤから香港へ向かっていたキャセイパシフィック航空のA330-300が、左右のエンジン出力が制御できなくなり、通常の着陸速度よりも時速177キロメートル以上高速で着陸している[139]

A330は2件のハイジャックに巻き込まれている[6]。2000年5月25日、フィリピンダバオからマニラに向かっていたフィリピン航空のA330が武装した男に乗っ取られた。男は機内で金品を奪った後、高度約1,800メートルから手製のパラシュートをつけて飛び降りたが、目撃証言によるとパラシュートが開かなかったとされ、犯人は翌日遺体で発見された[140][141]フィリピン航空812便ハイジャック事件[142]。2000年10月13日、ベルギーブリュッセルからコートジボワールアビジャンに向かっていたサベナ・ベルギー航空が男にハイジャックされ、スペインマラガに着陸した後、スペイン警察によって犯人が制圧された[143]

2009年12月25日には、ノースウエスト航空便としてオランダアムステルダムから米国のデトロイトに向け飛行していたA330-300で爆破未遂事件が起きた。ナイジェリア人の男が下着に隠していた爆発物を着陸直前に爆破させようとしたが、乗客や乗員に取り押さえられ未遂に終わった(デルタ航空機爆破テロ未遂事件[注釈 3][144][145][146]

そのほか、2000年3月15日には、北京クアラルンプール行きのマレーシア航空のA330-300に虚偽の申告によって腐食性薬品が積み込まれ、クアラルンプール国際空港への到着後に薬品の漏出が発覚した。薬品により胴体が深刻な損傷を受け、機体は廃棄された[147]

また、武装勢力の襲撃や戦闘に巻き込まれ、駐機中のA330が破壊される事件も起きている。2001年7月24日、スリランカバンダラナイケ国際空港が武装勢力タミル・イーラム解放のトラによる襲撃を受け、駐機中だったスリランカ航空の2機のA330-200と1機のA340-300が破壊された。また同じく駐機中だった1機のA340-300と2機のA320も損害を受けた[148][149]バンダラナイケ国際空港襲撃事件)。2014年7月には、リビアトリポリ国際空港周辺で発生した武装勢力同士の戦闘により、同空港に駐機中の航空機が破壊され[150]、この中にはリビア航空のA330が複数含まれると報告されている[151][152]

主要諸元

表4: 各モデルの主要諸元
A330-200 A330-200F A330-300
運航乗務員数 2名
標準座席数 (3クラス) 253 N/A 295
標準座席数 (2クラス) 293 N/A 335
最大座席数 (1クラス) 375席†1(406席†2[153] N/A 375席†1(440席†2[154]
貨物室容積†3 132.4 m3[155] 469.2 m3[156] 158.4 m3[157]
全長 58.82 m 58.82 m[158] 63.69 m
全幅 60.30 m
全高 17.39 m 16.88 m[159] 16.83 m
主翼面積 361.6 m2
胴体直径 5.64 m[160]
キャビン幅 5.28 m[160]
キャビン長 45.0 m[160] 50.35 m[160] 40.8 m[160]
最大無燃料重量 (MZFW) 168,000 - 170,000 kg[161] 173,000 - 178,000 kg[162] 164,000 - 175,000[123]
最大離陸重量 (MTOW) 192,000 - 238,000 kg[161] 227,000 - 233,000 kg[162] 184,000 - 235,000 kg[123]
最大着陸重量 180,000 - 182,000 kg[161] 182,000 - 187,000 kg[162] 174,000 - 187,000 kg[123]
離陸滑走距離†4 2,220 m[163] - 2,500 m[163]
巡航速度 マッハ0.82[163]
最大運用速度 マッハ0.86[160]
航続距離†5 13,400 km[164] 7,400 km[159] 11,300 km[165]
エンジン (×2) GE CF6-80E1
P&W PW4000
R-R トレント700[160]
P&W PW4000
R-R トレント700[160]
GE CF6-80E1
P&W PW4000
R-R トレント700[160]
推力 (×2) 303 - 316 kN[164] 302 - 320 kN[159] 303 - 320 kN[165]
  • 出典:特に記載のないものは、(青木 2014b, pp. 108, 261)による。
  • †1 タイプA非常口を3箇所、タイプ1非常口を1箇所配置する場合。
  • †2 タイプA非常口を4箇所装備する場合。
  • †3 前方、後方貨物室にLD-3貨物コンテナを搭載し、ばら積み貨物室へのコンテナ追加オプションを採用しない場合の有効容積。A330-200Fは、メインデッキに96インチ×125インチの貨物パレットを搭載した場合の有効容積を加えた値。
  • †4 標準海面高度、国際標準大気における値。
  • †5 A330-200Fは最大値、A330-200/-300はエアバスによる典型的な搭乗数での値。

脚注

注釈

  1. ^ 双発機ではエンジン数が半分になるので、単純に2倍の推力のエンジンを載せればよいというのでもない。旅客機は、離陸時にエンジンが1基停止しても残りのエンジンで安全に離陸できることが条件として求められる。したがって、双発機のエンジンには1基のみで離陸できるだけの推力が求められ、4発機の場合は3基のエンジンで離陸推力を発生できれば良い。離陸・上昇に必要な推力をTとすると、双発機、4発機のエンジン1基に求められる推力はそれぞれT、T/3となる。結果として、合計推力で比較すると、双発機 (2T) は4発機 (4T/3) の1.5倍となる[18][19]
  2. ^ アスペクト比とは翼幅の2乗を面積で割った値で翼の細長比を示す値である[166]
  3. ^ 当時、ノースウエスト航空はデルタ航空の子会社であった

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参考文献

書籍・雑誌記事・論文等

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オンライン資料

関連項目

外部リンク

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