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「エアバス ベルーガ」の版間の差分

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{{ Infobox 航空機
{{ Infobox 航空機
| 名称=A300-600ST ベルーガ
| 名称=A300-600ST ベルーガ
| 画像=File:A300-600ST 1 New Colour.JPG
| 画像=File:AirExpo 2014 - Beluga 02 (cropped).jpg
| キャプション=2005年9月、[[ハンブルク国際港]]
| キャプション=ショーで展示飛行をするベルーガ(2014年)
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'''エアバス ベルーガ''' (Airbus A300-600ST Super Transporter, Beluga) は、[[エアバスA300]]をベーに開発した[[貨物機]]。'''ベルガ'''とは[[シロイルカ]]の意味。大きな航空機部品を輸る巨大な貨物室を持っているため、特徴的な外見を持っている。5機が生産され、全機が[[エアバス]]社の関連企業SATIC (Special Aircraft Transport International Company) により運航されている。
'''エアバス ベルーガ'''({{lang-en-short|Airbus Beluga}})は、エアバス・インダトリ(後の[[エアバス]])が自社で生産する航空機のコンポーネント輸するために開発・製造した[[貨物機]]である。


同社の双発ワイドボディ旅客機・[[エアバスA300-600R]]をベースに開発され、'''A300-600ST (Super Transporter)''' という型式名が付けられている。胴体上半分に巨大な貨物室を備え、コックピットが胴体下側に移設されている。[[シロイルカ]]に似た独特な外見であることから、シロイルカの別名である「ベルーガ」の愛称がつけられた{{r|CNN1}}。低翼配置の主翼下に2基の[[ターボファンエンジン]]を備える。[[尾翼]]は通常式だが左右の[[水平尾翼]]端に垂直安定板が追加されている。[[降着装置]]は前輪式である。
== 概要 ==
[[ファイル:BELUGALANDUNG.jpg|thumb|left|ドイツのハンブルク上空を飛行するベルーガ(2007年)]]
エアバス社は、ヨーロッパ各国の航空機メーカーのコンソーシアムであるという政治的な理由から、ヨーロッパ各地に部品工場を保有している。その結果、最終組み立てのための機体部品の輸送が課題であった。大型の機体部品の輸送は[[ボーイング]]社の輸送機[[C-97 (航空機)|C-97]]を改造した[[スーパーグッピー]]を用いていたが、機体の老朽化により維持費が増大したため、その更新とより大きな容積が求められ、開発が始まった。


ベルーガの開発・生産プロジェクトはエアバスの関連企業のSATIC (Super Airbus Transport International) {{refnest|group="注釈"|name="SATIC"|[[国際民間航空機関]] (ICAO) の登録コード一覧では、SATICは Special Aircraft Transport International Company とされている<ref>{{Cite web |title=Manufacturers Code |publisher=ICAO |url=http://www.icao.int/publications/DOC8643/Pages/Manufacturers.aspx |accessdate=2014-11-07}}</ref>が、本項では、ベルーガの紹介文献{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}{{sfn|石川|2014|pp=74–79}}{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=57–58}}における記述に従う。}}社によって行われ、1994年9月13日に1号機が初飛行した。計5機が生産され、エアバス関連企業のエアバス・トランスポート・インターナショナル社によって運航されている。欧州各地で分担して生産されるエアバス機のパーツを最終組み立て地へ輸送する任務についており、飛行機を作るための飛行機とも言われる{{r|aviationwire1}}。また、エアバス以外の顧客向けにチャーター輸送業務に用いられることもある。
非常に特殊な構造、また運用においても特別なノウハウが必要とされるため、ベルーガの開発とその後の運用のために[[アエロスパシアル]]社とDASA社(現[[EADS]])の合弁会社SATICが立ち上げられた。[[1991年]]よりエアバスA300-600Rを母体に開発がスタートし、[[1992年]]9月に製造が始まった。[[1994年]][[9月13日]]に初飛行を行い、335時間の試験飛行を経て[[1995年]]より就航した。


== 沿革 ==
エアバスA300の胴体床下貨物室より上を取り払い、より大きな直径の円筒形の貨物室を設けているのが最大の特徴。貨物室は与圧されていないが、直径7.26m長さ約37mの収容スペースが確保されている。上方に開く貨物扉が胴体前部の上部にあり、その前方下の操縦席を含む機首部分は貨物の出し入れの障害にならないように原型よりも低い位置に移されている。垂直安定性確保のために、垂直尾翼前方にフィンが追加されているほか、水平尾翼翼端に垂直安定板が増設されている。
=== 開発の背景 ===
[[File:Aero Spacelines 377SGT Super Guppy Turbine, Airbus Skylink AN0592517.jpg|thumb|エアバスのロゴが描かれた[[スーパーグッピー]]。]]
[[ジェット旅客機]]を開発・製造するエアバス・インダストリー(以下、エアバス社)は、1970年に欧州各国の航空機メーカーによるコンソーシアム(企業連合)として発足した{{sfn|青木|2010|pp=122–125}}{{r|CNN1}}。エアバス社はその成り立ちから、参加企業が一定の業務量を確保できるように、各社で分担して胴体や翼を生産する国際分業体制を採用した{{sfn|Moxon|1994|pp=32–33}}{{sfn|青木|2010|pp=122–125, 130–131}}。この枠組みにおいては、欧州各地に点在する工場で生産された機体各部(コンポーネント)を最終組み立て工場のある[[トゥールーズ]]に輸送する必要があった{{r|aviationwire1}}{{sfn|青木|2010|p=131}}。航空機のコンポーネントは、巨大で重量がありながら高品質で繊細、そして高価という特徴があり、相応の扱いが必要だった{{sfn|Moxon|1994|p=32}}。


そこでエアバス社は、大型貨物用の輸送機として[[ボーイング377]]「ストラトクルーザー」のベースとなった[[C-97 (航空機)|C-97]]輸送機を改修した「[[スーパーグッピー]]」を採用した{{r|aviationwire1}}{{sfn|青木|2010|p=131}}{{r|CNN1}}。スーパーグッピーは、[[アメリカ航空宇宙局]] (NASA) の[[ロケット]]や[[宇宙機]]の巨大な部品を運ぶために開発された輸送機である<ref>{{Cite web |title=NASA's Guppy Heritage |url=https://spaceflight.nasa.gov/station/assembly/superguppy/heritage.html |accessdate=2019-02-14 |work=NASA Human Spaceflight |archiveurl=https://web.archive.org/web/20181221180309/https://spaceflight.nasa.gov/station/assembly/superguppy/heritage.html |archivedate=2018-12-21}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=ドリームリフター、スーパーグッピー…異形飛行機なぜ誕生 |work=乗りものニュース |url=https://news.line.me/detail/oa-trafficnews/19cac425689a |date=2017-09-10 |accessdate=2019-02-14}}</ref>。エアバス社はスーパーグッピーの運用を[[1971年]]から開始し、段階的に増備を重ねて[[1983年]]には4機体制となった{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。エアバス社が競合相手である[[ボーイング]]社の輸送機を使用したことで、「全てのエアバス機はボーイングの翼によって届けられる (Every Airbus is delivered on the wings of a Boeing)」、あるいは「全てのエアバス機はボーイングの翼で初飛行する (Every Airbus took its first flight on a Boeing)」といった冗談も生まれた<ref name = "on the wings">{{Cite web |last=Thompson |first=Paul |url=https://www.airlinereporter.com/2015/02/wings-giants-airbus-banks-beluga/ |title=On the Wings of Giants: Airbus Banks on the Beluga |work=Airline Reporter |date=2015-02-06 |accessdate=2019-02-06 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180303044713/http://www.airlinereporter.com/2015/02/wings-giants-airbus-banks-beluga/ |archivedate=2018-03-03}}</ref><ref name = "big ideas">{{Cite web |last=Platoni |first=Kara|url=http://www.airspacemag.com/flight-today/big-idea-485704/?no-ist |title=Big ideas: Megalifters prove you’re never too fat to fly |work=Air & Space Magazine |date=2008-09 |accessdate=2019-02-06 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20160603104012/https://www.airspacemag.com/flight-today/big-idea-485704/?no-ist |archivedate=2016-06-03}}</ref>。
SATICによる運用が開始されている。全部で5機が生産され、ヨーロッパ各地の工場で生産されたエアバス旅客機の胴体や主翼などの大物部品を、[[トゥールーズ]]や[[ハンブルク]]にある工場の最終組み立てラインへ輸送することを通常の任務としている。この通常運航のほか、エアバス外のアウトサイズ貨物の輸送にもチャーターされることがあり、[[1999年]]には[[ウジェーヌ・ドラクロワ|ドラクロワ]]の絵画「[[民衆を導く自由の女神]]」を輸送するため[[成田国際空港]]に飛来した実績もある。


ほどなくしてエアバス機の生産数が急増したことで輸送力強化が課題となったほか、エアバス社が採用した時点でスーパーグッピーは既に時代遅れであったため、新たな輸送手段が模索された{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=46}}{{sfn|青木|2010|pp=78–79, 131}}{{r|CNN1}}{{r|CNN2}}。自動車輸送、鉄道、海上輸送が検討されたが、信頼性や所要時間の点で空輸が適していた{{sfn|Moxon|1994|pp=32–33}}。最終組み立て工場がある[[トゥールーズ]]は、陸路や海路でのアクセスに不便な場所だった{{sfn|Moxon|1994|pp=32–33}}。そして何よりもトゥールーズには好条件の滑走路があり、エアバス機の生産拠点を移すという選択はありえなかった{{sfn|Moxon|1994|pp=32–33}}。
2006年5月には[[国際宇宙ステーション]]ヨーロッパ実験棟[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]の[[ブレーメン]] - [[ケネディ宇宙センター]]間の運搬にも利用された。


こうした経緯を経て、スーパーグッピーの後継機を選定するための徹底的な研究が始まった{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。この当時、主翼を大型化した[[エアバスA340]]の発展型が構想されており、これを含むエアバス機の主要コンポーネントを積載できるように、後継機には十分な大きさが求められた{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。一方で、老朽化が進むスーパーグッピーに残された時間は限られていた{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。遅くとも1995年には後継機を就航させる必要があった{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。少なくとも4機、予備を含めると5機を調達する必要があった{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。
== 要目 ==
[[ファイル:Columbus beluga.jpg|thumb|ブレーメン国際空港で[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]を搭載するベルーガ(2006年)]]
''出典:Airbus S.A.S.''<ref>{{Cite web|url=http://www.airbus.com/en/aircraftfamilies/beluga/specifications.html|title=Airbus Aircraft Families - Beluga - Specifications|publisher=Airbus S.A.S.|accessdate=2009-05-18}}</ref>
* 全長:56.16 m
* 全幅:44.84 m
* 全高:17.34 m
* エンジン:[[GE・アビエーション|GE]] [[ゼネラル・エレクトリック CF6|CF6-80C2A8]] [[ターボファンエンジン]](推力:26.7t)2基
* 最大離陸重量:155 t
* 最大積載量:45.5 t
* 貨物室床面積:約100 m&sup2;
* 貨物室容量:約14,000 m&sup3;


後継機の候補には、既存の航空機と新規開発の双方があげられた{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。既存の航空機では、[[ソビエト連邦]]からは[[An-124 (航空機)|アントノフAn-124]]や6発機の[[An-225 (航空機)|アントノフAn-225]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]からは[[C-5 (航空機)|ロッキードC-5「ギャラクシー」]]、[[C-17 (航空機)|マクドネル・ダグラスC-17「グローブマスターIII」]]、[[ボーイング747]]が候補となった{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。それに加えて[[Il-86 (航空機)|イリューシンIl-86]]、[[ボーイング767]]、そして[[エアバスA300]]からの改造が検討された{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。しかし、これら既存の貨物機は、貨物室の空間が不足していた{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。既存機に収容できるようパーツを細分化した場合には、分業体制が複雑化し、コストが大幅に上昇すると懸念された{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。積荷を機外に搭載する[[ピギーバック輸送|ピギーバック方式]]も検討されたが、現実的ではなかった{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。ボーイング社はボーイング767を改造する提案を行ったものの、それであれば、エアバスが自社の双発旅客機A300-600Rをベースに開発した方が都合が良かった{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。
== 出典 ==

<div class="references-small">
そこで[[1991年]]8月、新型輸送機の開発・製造・保守などを担うため、スーパー・エアバス・トランスポート・インターナショナル (Super Airbus Transport International; SATIC)<ref group="注釈" name="SATIC"/>社が設立された{{sfn|Moxon|1994|p=33}}{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=46}}。SATICは、エアバス参加企業である[[フランス]]の[[アエロスパシアル]]社と[[ドイツ]]の[[DASA]]社が50対50で出資した{{仮リンク|経済利益団体|en|Groupement d'intérêt économique}} (GIE) で、トゥールーズに拠点を置いた{{sfn|Moxon|1994|p=33}}{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=46}}。A300-600Rをベースとした新型機はA300-600ST (Super Transporter) と名付けられ正式に開発が始まった{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=46}}。
<references />

</div>
=== 設計と生産 ===
[[File:BELUGALANDUNG.jpg|thumb|left|[[ドイツ]]の[[ハンブルク]]上空を飛行するベルーガ(2007年)]]
A300-600STは、主翼やエンジン、胴体下半分がA300-600Rと共通で、上半分の胴体が新規設計された{{sfn|Moxon|1994|pp=33–38}}{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。新しい胴体部は極めて太い直径の円筒形であり、大型コンポーネントを搭載する貨物室にあたる{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。機体前方から貨物を積み下ろしできるように、貨物室最前部には上開きの扉が設置され、[[旅客機のコックピット|コックピット]]が胴体の下側に移された{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}{{r|CNN2}}。コックピットのレイアウトや装備品などは、A300-600Rのものが踏襲された{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。特異な形を持つことから、コンピュータ解析や模型を用いた[[風洞]]実験が繰り返され、[[空気力学|空力]]面のほか空港でのハンドリング面でも最適な形状となるよう検討された{{sfn|石川|2014|p=77}}。

A300-600STは新造機として生産され、ベース機同様に国際分業体制がとられた{{sfn|石川|2014|p=77}}。A300から流用する部分はベース機と同じ分担とされ、A300-600ST専用のコンポーネントも各国で分担されて製造された{{sfn|石川|2014|p=77}}。参加各国の主な分担は以下の通りだった{{sfn|石川|2014|p=77}}。
* {{Flagicon|FRA}} フランス - 機首部分、[[コックピット]]、中央翼、エンジン[[パイロン]]
* {{Flagicon|GBR}} イギリス - 貨物扉、降着装置、主翼
* {{Flagicon|GER}} ドイツ - 貨物扉と機首部分のつなぎ目、貨物室後部、[[垂直尾翼]]、前後部胴体
* {{Flagicon|ESP}} スペイン - 貨物室前部、[[水平尾翼]]
* {{Flagicon|NED}} オランダ - 主翼[[動翼]]

[[File:BELUGA 3 (3445487754).jpg|thumb|左後方から見たベルーガ。]]
A300-600STの製造は1993年から始まり、各パーツはスーパーグッピーでトゥールーズに集められ、1994年から最終組み立てが開始された{{sfn|石川|2014|pp=77–78}}。A300-600STの1号機は[[1994年]]9月13日に初飛行し、335時間におよぶ飛行試験を経て[[1995年]]10月25日に型式証明を取得した{{sfn|石川|2014|p=78}}。同年にエアバス社へ引き渡しされ{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}、2号機から5号機についても、表のとおり型式証明の取得と納入が進められた。

[[File:Airbus A300-600ST Airbus Industries (AIB) "Join us" Beluga 3 F-GSTC - MSN 765 (9741143612).jpg|thumb|2013年5月[[トゥールーズ]]にて撮影されたベルーガ。]]
最終組み立てが始まった頃、A300-600STは非公式に「スーパーフリッパー」という愛称で呼ばれていた{{sfn|石川|2014|p=78}}。これは、[[テレビドラマ]]「[[わんぱくフリッパー]]」に登場する[[イルカ]]の名前に由来するという説がある{{sfn|石川|2014|p=78}}。その後、1994年6月23日、A300-600STの1号機の完成発表と同時に「ベルーガ」という愛称が発表された{{sfn|石川|2014|p=78}}。ベルーガはSATICによって付けられた名前で、エアバス社本体は当初はこの愛称を気に入っていなかったが、広く浸透したことから後に認めて使用するようになった{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。

{| class="wikitable" style="font-size:91%; text-align:right;"
|+ 表: A300-600STの初飛行日、証明交付日と納入日
|-
! 号機 !! 初飛行日 !! 証明交付日 !! 納入日
|-
| 1号機 (MSN 655 F-GSTA) || 1994年9月13日 || 1995年10月25日 || 1995年10月25日
|-
| 2号機 (MSN 751 F-GSTB) || 1996年3月26日 || 1996年4月22日 || 1996年4月22日
|-
| 3号機 (MSN 765 F-GSTC) || 1997年4月21日 || 1997年5月7日 || 1997年5月7日
|-
| 4号機 (MSN 776 F-GSTD) || 1998年6月9日 || 1998年7月30日 || 1998年12月18日
|-
| 5号機 (MSN 796 F-GSTF) || 2000年12月12日 || 2001年1月5日 || 2001年1月5日
|-
| colspan=4 style="text-align:left; font-size:90%;" |
* 出典:{{harvnb|EASA|2017|p=4}}、{{harvnb|青木|2010|pp=78–79}}、{{harvnb|石川|2014|p=78}}
|}
A300-600STの生産数は5機で、そのうちの1機は当初はオプションとされたが、最終的に5機全てが生産された{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}。

=== 運用開始後 ===
ベルーガの最初の実用飛行は、納入の翌年となる[[1996年]]1月15日に行われた{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}。ベルーガは、欧州各地で製造されるエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事し、全5機の導入によりスーパーグッピーは完全に退役した{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。

ベルーガの新しい大型貨物扉や貨物搭載システム([[#機体の特徴]]参照)により、スーパーグッピー時代と比べて、貨物の積み下ろしに要する人員が18人から2人に省力化され、所要時間が1時間半から45分に短縮された{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=47}}{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。

エアバス社はベルーガを用いたチャーター輸送事業へも進出することとし、1996年6月30日、ベルーガの運航を担当する専門会社の設立を発表した{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。この専門会社は「エアバス・トランスポート・インターナショナル」(Airbus Transport International、以下ATI)社と名付けられ、同年9月20日に登記された{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。ATIは1996年11月にフランスの航空当局から航空運送事業の認可を取得し、11月24日に最初の請負輸送業務を行った{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=46}}{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。全5機のベルーガはATI社が運航するようになり、1997年には全機で合わせて年間1,400回、2,500時間の飛行を行なった{{sfn|Kingsley-Jones|1998|pp=46–47}}。

ベルーガの運航開始以降も、エアバス機の生産数は拡大の一途をたどり、[[2011年]]にエアバスは社輸送量の増加に対応するため「フライ10000」と呼ばれる計画を開始した{{r|aviationwire1}}{{r|CNN3}}。この計画では、積み荷、積み降ろし方法を含めた物流インフラの最適化を目的とし、[[2017年]]までにエアバス社の輸送機の年間総飛行時間を1万時間に増やすことを目指したものだった{{r|aviationwire1}}{{r|CNN3}}。2014年の時点では欧州11カ所の工場間を結び、1日あたり2から4便、1週間に60回以上飛行した{{r|aviationwire1}}{{sfn|石川|2014|p=78}}。2017年には、1日あたり5便、週6日の飛行を行うようになり、飛行時間が8,000時間を超えたが、飛行スケジュールには遅れが目立つようになり、増便はほぼ限界に達した<ref name=latinaero>{{Cite web |title=Airbus’ new White Beluga XL giant performs maiden flight |date=2018-07-20 |work=Latinaero |url=http://www.latinaero.com/index.php/2018/07/20/airbus-new-white-beluga-xl-giant-performs-maiden-flight/ |accessdate=2019-02-25}}</ref>。

=== 後継機の開発 ===
以前からSATICは、ベルーガのコンセプトを他のエアバス機に適用することも検討しており、[[エアバスA330]]か[[エアバスA340|A340]]がベース機の候補として取りざたされていた{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}{{r|CNN4}}。2014年の前半には、A300-600STより飛行距離が長く、より重い貨物の輸送を可能にするベルーガ後継機の構想が報じられた{{r|CNN4}}。そして同年11月、エアバス社はA330をベースとした新型機「[[エアバス ベルーガ XL|ベルーガXL]]」の開発を発表した{{r|airbus-press}}{{r|aviationwire2}}。ベルーガXLの初号機は2015年12月22日に製造が開始され{{r|aviationwire3}}、2018年7月19日に初飛行に成功した{{r|aviationwire4}}。

ベルーガXLは、A330の貨物型であるA330-200Fをベースとして既存の機器やコンポーネントを再利用しつつ、コックピットや貨物室、尾部などが新規開発されている{{r|aviationwire4}}。エアバス社ではベルーガXLを5機製造し、現行のベルーガはベルーガXLと順次置き換えることで[[2025年]]に退役するとしている{{r|aviationwire4}}。

=== 「エアバス・ベルーガ・トランスポート」としての利用 ===
エアバスは現地時間2022年1月25日、自社の航空部品輸送から退役するベルーガを使用した特大貨物輸送サービス「エアバス・ベルーガ・トランスポート(ABT: Airbus Beluga Transport)」を発表した。ヘリコプターや航空機用エンジン、人工衛星、船外実験装置などの特大貨物を解体せずに輸送でき、目的地で再組立するコストやスタッフなどを省けるとしており、2024年には新会社の設立を予定している。ベルーガは他の貨物輸送機と比較して貨物室の高さと幅が大きいことから、航空、宇宙、軍事、石油・ガス開発などのエネルギー、海事、大型機械、人道支援などの特大貨物輸送を想定している<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=エアバス、大型輸送機「ベルーガ」で特大貨物輸送 24年に新会社 |url=https://www.aviationwire.jp/archives/243564 |website=Aviation Wire |access-date=2022-05-22 |language=ja-JP}}</ref>。

2021年12月にはABT初の業務として[[関西国際空港]]経由で[[神戸空港]]に警察庁のヘリコプター輸送を行っている。

== 機体の特徴 ==
[[File:Airbus A300-600ST Airbus Industries (AIB) Beluga 2 F-GSTB - MSN 751 (9738915761).jpg|thumb|左側面から見たベルーガ。]]
ベルーガは、主翼を低翼位置に配した単葉機であり、左右の主翼下にターボファンエンジンを1基ずつ備える。主翼やエンジンはA300-600Rのものと同一である{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。[[水平尾翼]]は低翼に配置され、[[降着装置]]は前輪配置である。ベルーガは、大型貨物を搭載できるように極めて太い胴体を持ち、2014年現在において世界最大の胴体幅を持つ飛行機であった{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}{{r|aviationwire1}}{{r|Beluga-freight}}。

[[File:Airbus A300-600ST Beluga F-GSTB 44675.jpg|thumb|正面から見たベルーガ。]]
[[File:Cargo bay A300-600ST Beluga.jpg|thumb|ベルーガの貨物室内。]]
ベルーガの胴体は2階建ての構造で、[[だるま|ダルマ]]を逆さにしたような断面を持つ{{sfn|石川|2014|p=76}}。A300-600Rの胴体下半分に、巨大な円筒状の貨物室を乗せたような形状で、上部胴体と下部胴体の間は直線的に結ばれている{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}{{sfn|Moxon|1994|p=33}}。貨物室の最大幅と最大高はともに7.10メートルで{{sfn|石川|2014|p=76}}、床面の最大幅は5.11メートルである{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。円筒の前方と後方は、もとの機体形状に合わせてすぼめられており、完全な円筒部となる部分の長さは21.34メートル、貨物室の全長は37.70メートルである{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。床下貨物室にも貨物を搭載可能である{{sfn|Kingsley-Jones et al.|1997}}。貨物室の総容量は1,400立方メートルで、積載量は47トンである{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}{{r|aviationwire1}}。

[[File:Airbus Beluga A300-600ST open.jpeg|thumb|前方貨物扉を開いたベルーガを正面から見る。見学者用の通路が設けられている。]]
貨物の積み下ろしを行うため、貨物室の最前部に上開き式の扉が設けられている{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。この扉は貨物室断面が完全に開口するまで上がるため、貨物室の寸法をフルに使用できる{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。扉はアルミニウム合金製で重量は2トンあり、閉じた際には機体荷重を分担する構成要素となる{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。扉の閉口部内側の全周にわたりラッチ構造が設けられ、閉じると[[ファスナー]]のように順次固定される{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。貨物扉を開いた時の最大の高さは、貨物を搭載しない状態で16.97メートルとなる{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。風速20[[ノット]](約10メートル毎秒)の横風まで開口動作が可能で、開ききると30ノット(約15メートル毎秒)の横風まで耐えられる{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。

前方から貨物を出し入れできるように、ベルーガのコックピットの位置は胴体下部に移されている{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。乗務員の乗降扉は胴体の床面下に配置され、梯子が内蔵されている{{sfn|青木|2014|pp=157–158}}。また、操縦室の後方にあたる胴体右側面に非常口が設けられている{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。下方に突き出すようなコックピットは、ベルーガ(シロイルカ)のような外観形状を生み出した{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。

このコックピット配置により、電気配線や油圧配管などを切り離すことなく前方貨物扉を開口できる{{sfn|Moxon|1994|p=38}}{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=47}}。油圧や電気系統を切断して機首部全体を開口する方式だったスーパーグッピーと比べ、作業時間が短縮されただけでなく、安全性の向上にもつながった{{sfn|Kingsley-Jones|1998|p=47}}。さらに、コックピットが貨物室より下側にあるため、万が一急制動をかけてもメインデッキの貨物がコックピットに干渉しないという点でも安全である{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。

貨物室内には前後にわたって2本のレールが引かれ、動力付きローラーを有する貨物搭載システムが備わっている{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。これにより外部のウインチなどを使わずに、貨物を移動させることが可能となり、所要時間の短縮に資している{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。ベルーガに貨物の積み下ろしを行うための専用車両も用意されており、この車両は全長32メートル、最大50トンの荷物をベルーガの床面の高さまで持ち上げられ、ベルーガの機首と干渉しないような構造となっている{{sfn|石川|2014|p=76}}。また、チャーター輸送時には通常の空港にある貨物取り扱い車両も使用できるような汎用性も持たされている{{sfn|石川|2014|p=76}}。

[[与圧]]されるのはコックピットと機体後部の小区画のみで、そこに与圧環境でのみ使用できる機器類が配置されている{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。貨物室は非与圧式であり{{sfn|藤田|2001|p=66}}、就航当時のSATICの代表は「エアバスが製造した最初の非与圧機」とも述べている{{sfn|Moxon|1994|p=32}}。

コックピットの設計やレイアウト、装備品はA300-600Rのものを踏襲している{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。ベルーガでは人工衛星や美術品といった温度管理が必要な貨物を輸送できるように、可搬式のヒーターモジュールも用意されており、コックピットからヒーターモジュールの制御が行えるようになっている{{r|Beluga-spec}}。

ベルーガでは、機体重量の増加に合わせてベース機よりも[[尾翼]]の構造が強化された{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。原型機の2倍の高さとなった胴体が垂直尾翼を覆い隠すことによる空力学的影響は風洞実験で検証された{{sfn|Moxon|1994|p=38}}。その結果、安定性を向上させるため、そして横風への耐性を維持するため、垂直尾翼の付け根を前方に延ばすように垂直安定板の面積が拡大されたほか、水平安定板の両翼端にも垂直安定板が追加されている{{sfn|Moxon|1994|p=38}}{{sfn|Kingsley-Jones|1999|pp=57–58}}{{sfn|青木|2014|p=158}}。

エンジンは[[ターボファンエンジン]]で、[[GE・アビエーション|ゼネラル・エレクトリック]]製のCF6-80C2を2基装備する{{r|aviationwire1}}。

巡航速度は時速780キロメートル、実用上昇限度は35,000[[フィート]](約10,700メートル)で、航続距離は貨物を26トン搭載した場合で4,632キロメートル、40トン搭載時は2,779キロメートルである{{sfn|石川|2014|p=77}}。

== 運用 ==
[[File:F-GSTB - 2 Airbus A300B4-608ST Beluga Airbus (8634655670).jpg|thumb|ハンブルクにて胴体前方セクションを降ろしている様子(2013年)]]
[[File:Columbus beluga.jpg|thumb|[[ブレーメン空港]]で[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]を搭載するベルーガ(2006年)]]
[[File:Airbus Beluga CBR 2003 Pryde.jpg|thumb|[[キャンベラ国際空港]]で[[NH90_(航空機)|NH90_]]ヘリコプターを収容中のベルーガ(2003年)]]
全5機のベルーガはATI社によって運航され、欧州各地で製造される[[エアバスA320]]や[[エアバスA330]]、[[エアバスA350 XWB]]といったエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事している{{r|Beluga}}。パーツの生産地であるフランスの[[ナント]]や[[サンナゼール]]、ドイツの[[ブレーメン]]、[[スペイン]]の[[マドリード]]や[[セビリヤ]]、[[ヘタフェ]]、イギリスの[[リヴァプール]]や{{仮リンク|ブロートン|en|Broughton, Flintshire}}、[[イタリア]]の[[ナポリ]]などから、最終組み立て地の[[トゥールーズ]]やドイツの[[ハンブルク]]を結んでいる{{sfn|石川|2014|pp=78–79}}{{r|aviationwire1}}。総2階建ての超大型機である[[エアバスA380]]については、ベルーガの貨物室にも収まらないため、専用の船と車両を用いた輸送がメインとなっている{{sfn|青木|2010|pp=135–137}}。

ATI社ではこの通常運航のほか、エアバス以外の顧客向けに大型貨物のチャーター輸送業務を請け負っている{{sfn|青木|2010|pp=78–79}}。ベルーガの広い貨物室を活かし、それほど重くはないがかさばる荷物の輸送として、[[人工衛星]]や[[ヘリコプター]]のほか[[美術品]]の輸送にチャーターされることもある{{r|CNN2}}。日本への飛来は[[1999年]]に[[ウジェーヌ・ドラクロワ|ドラクロワ]]の絵画「[[民衆を導く自由の女神]]」を輸送するため日本の[[成田国際空港]]に飛来している{{r|aviationwire1}}。また、[[2006年]]5月には[[国際宇宙ステーション]]のヨーロッパ実験棟[[コロンバス (ISS)|コロンバス]]をドイツのブレーメンから[[アメリカ合衆国|米国]]の[[ケネディ宇宙センター]]へ運搬するためにも利用された{{r|NASA}}。

運航開始から2022年4月現在まで、A300-600STに関して機体損失事故や死亡事故は発生していない<ref>{{Cite web |title=Aviation Safety Network > ASN Aviation Safety Database > Type index > ASN Aviation Safety Database results |work=Aviation Safety Network |url=https://aviation-safety.net/database/types/Airbus-A300/database |accessdate=2019-02-25}}</ref>。

== 主要諸元 ==
出典:特に記載のないものは Airbus S.A.S.{{r|Beluga-spec}} による
* 運航乗務員数:2名{{sfn|EASA|2017|p=8}}
* 全長:56.15&nbsp;[[メートル|m]]
* 全幅:44.84&nbsp;m
* 全高:17.24&nbsp;m
* 胴体直径:7.31&nbsp;m
* 貨物室全長:37.7&nbsp;m
* エンジン:[[GE・アビエーション|GE]] [[ゼネラル・エレクトリック CF6|CF6-80C2A8]] [[ターボファンエンジン]] 2基{{sfn|EASA|2017|p=7}}
* エンジン推力(1基あたり):257,4&nbsp;[[キロニュートン|kN]]{{sfn|EASA|2017|p=7}}
* 最大離陸重量:155&nbsp;[[トン|t]]{{efn|1号機 (MSN 655) のみ153&nbsp;t}}{{sfn|EASA|2017|p=6}}
* 最大積載量:47&nbsp;t{{r|aviationwire1}}
* 貨物室容量:約1,400&nbsp;[[立方メートル|m{{sup|3}}]]{{r|aviationwire1}}
* 最大巡航速度:[[マッハ数|マッハ]]0.70{{sfn|EASA|2017|p=6}}
* 航続距離:積載量40トンで2,779&nbsp;[[キロメートル|km]]、26トンで4,630&nbsp;km<ref>{{Cite web |title=Airbus A300-600ST Beluga - Aerospace Technology |url=https://www.aerospace-technology.com/projects/stbeluga/ |work=Aerospace Technology |accessdate=2019-02-25 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20180619213946/https://www.aerospace-technology.com/projects/stbeluga/ |archivedate=2018-06-19}}</ref>

== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}

=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
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|title=エアバスの巨大輸送機ベルーガ、初飛行20周年 主翼や胴体運ぶ
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<ref name=aviationwire2>{{Cite web|和書
|title=エアバス、ベルーガ新型機開発へ 既存機は25年までに退役
|last=KOHASE |first=Yusuke
|publisher=Aviation Wire
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|title=エアバス、ベルーガXLの製造開始 A350増産に対応
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|title=ベルーガXL、初飛行成功 19年就航へ
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== 参考文献 ==
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|author=European Aviation Safety Agency (EASA)
|title=EASA Restricted Type-Certificate Data Sheet EASA.A.014
|date=2017-09-21
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|language=English
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[スーパーグッピー]]
* [[ボーイング747-400#改修型|ボーイング747LCF]]
{{Commons|Airbus Beluga}}
{{Commons|Airbus Beluga}}
* [[ボーイング747LCF ドリームリフター|ボーイング747LCF]] - ボーイング747を改造した大型貨物機。愛称「ドリームリフター」。ボーイング機のコンポーネントを輸送するために用いられている。
* [[エアバス ベルーガ XL]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
[http://www.airbus.com/en/services/airtransport/ Airbus Transport International]<!-- 追加時 15 Feb 2007 UTC -->{{En icon}}
* [http://www.airbus.com/aircraftfamilies/freighter/beluga/ Beluga A300-600ST : the most voluminous cargo for oversized cargo transport]{{En icon}}

{{Airbus aircraft}}
{{Airbus aircraft}}


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[[Category:貨物機]]
[[Category:貨物機]]
[[Category:エアバスの航空機]]
[[Category:エアバスの航空機]]
[[Category:双発ジェット機]]

[[de:Airbus A300#A300B4-600ST]]

2024年11月4日 (月) 18:44時点における最新版

A300-600ST ベルーガ

航空ショーで展示飛行をするベルーガ(2014年)

航空ショーで展示飛行をするベルーガ(2014年)

  • 用途貨物機
  • 製造者:SATIC
  • 運用者:エアバス・トランスポート・インターナショナル社
  • 初飛行1994年9月13日
  • 生産数:5機
  • 運用状況:運用中

エアバス ベルーガ: Airbus Beluga)は、エアバス・インダストリー(後のエアバス)が自社で生産する航空機のコンポーネントを空輸するために開発・製造した貨物機である。

同社の双発ワイドボディ旅客機・エアバスA300-600Rをベースに開発され、A300-600ST (Super Transporter) という型式名が付けられている。胴体上半分に巨大な貨物室を備え、コックピットが胴体下側に移設されている。シロイルカに似た独特な外見であることから、シロイルカの別名である「ベルーガ」の愛称がつけられた[1]。低翼配置の主翼下に2基のターボファンエンジンを備える。尾翼は通常式だが左右の水平尾翼端に垂直安定板が追加されている。降着装置は前輪式である。

ベルーガの開発・生産プロジェクトはエアバスの関連企業のSATIC (Super Airbus Transport International) [注釈 1]社によって行われ、1994年9月13日に1号機が初飛行した。計5機が生産され、エアバス関連企業のエアバス・トランスポート・インターナショナル社によって運航されている。欧州各地で分担して生産されるエアバス機のパーツを最終組み立て地へ輸送する任務についており、飛行機を作るための飛行機とも言われる[6]。また、エアバス以外の顧客向けにチャーター輸送業務に用いられることもある。

沿革

[編集]

開発の背景

[編集]
エアバスのロゴが描かれたスーパーグッピー

ジェット旅客機を開発・製造するエアバス・インダストリー(以下、エアバス社)は、1970年に欧州各国の航空機メーカーによるコンソーシアム(企業連合)として発足した[7][1]。エアバス社はその成り立ちから、参加企業が一定の業務量を確保できるように、各社で分担して胴体や翼を生産する国際分業体制を採用した[8][9]。この枠組みにおいては、欧州各地に点在する工場で生産された機体各部(コンポーネント)を最終組み立て工場のあるトゥールーズに輸送する必要があった[6][10]。航空機のコンポーネントは、巨大で重量がありながら高品質で繊細、そして高価という特徴があり、相応の扱いが必要だった[11]

そこでエアバス社は、大型貨物用の輸送機としてボーイング377「ストラトクルーザー」のベースとなったC-97輸送機を改修した「スーパーグッピー」を採用した[6][10][1]。スーパーグッピーは、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のロケット宇宙機の巨大な部品を運ぶために開発された輸送機である[12][13]。エアバス社はスーパーグッピーの運用を1971年から開始し、段階的に増備を重ねて1983年には4機体制となった[14]。エアバス社が競合相手であるボーイング社の輸送機を使用したことで、「全てのエアバス機はボーイングの翼によって届けられる (Every Airbus is delivered on the wings of a Boeing)」、あるいは「全てのエアバス機はボーイングの翼で初飛行する (Every Airbus took its first flight on a Boeing)」といった冗談も生まれた[15][16]

ほどなくしてエアバス機の生産数が急増したことで輸送力強化が課題となったほか、エアバス社が採用した時点でスーパーグッピーは既に時代遅れであったため、新たな輸送手段が模索された[17][18][1][19]。自動車輸送、鉄道、海上輸送が検討されたが、信頼性や所要時間の点で空輸が適していた[8]。最終組み立て工場があるトゥールーズは、陸路や海路でのアクセスに不便な場所だった[8]。そして何よりもトゥールーズには好条件の滑走路があり、エアバス機の生産拠点を移すという選択はありえなかった[8]

こうした経緯を経て、スーパーグッピーの後継機を選定するための徹底的な研究が始まった[14]。この当時、主翼を大型化したエアバスA340の発展型が構想されており、これを含むエアバス機の主要コンポーネントを積載できるように、後継機には十分な大きさが求められた[14]。一方で、老朽化が進むスーパーグッピーに残された時間は限られていた[14]。遅くとも1995年には後継機を就航させる必要があった[14]。少なくとも4機、予備を含めると5機を調達する必要があった[14]

後継機の候補には、既存の航空機と新規開発の双方があげられた[14]。既存の航空機では、ソビエト連邦からはアントノフAn-124や6発機のアントノフAn-225アメリカからはロッキードC-5「ギャラクシー」マクドネル・ダグラスC-17「グローブマスターIII」ボーイング747が候補となった[14]。それに加えてイリューシンIl-86ボーイング767、そしてエアバスA300からの改造が検討された[14]。しかし、これら既存の貨物機は、貨物室の空間が不足していた[14]。既存機に収容できるようパーツを細分化した場合には、分業体制が複雑化し、コストが大幅に上昇すると懸念された[14]。積荷を機外に搭載するピギーバック方式も検討されたが、現実的ではなかった[14]。ボーイング社はボーイング767を改造する提案を行ったものの、それであれば、エアバスが自社の双発旅客機A300-600Rをベースに開発した方が都合が良かった[14]

そこで1991年8月、新型輸送機の開発・製造・保守などを担うため、スーパー・エアバス・トランスポート・インターナショナル (Super Airbus Transport International; SATIC)[注釈 1]社が設立された[14][17]。SATICは、エアバス参加企業であるフランスアエロスパシアル社とドイツDASA社が50対50で出資した経済利益団体英語版 (GIE) で、トゥールーズに拠点を置いた[14][17]。A300-600Rをベースとした新型機はA300-600ST (Super Transporter) と名付けられ正式に開発が始まった[17]

設計と生産

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ドイツハンブルク上空を飛行するベルーガ(2007年)

A300-600STは、主翼やエンジン、胴体下半分がA300-600Rと共通で、上半分の胴体が新規設計された[20][3]。新しい胴体部は極めて太い直径の円筒形であり、大型コンポーネントを搭載する貨物室にあたる[3]。機体前方から貨物を積み下ろしできるように、貨物室最前部には上開きの扉が設置され、コックピットが胴体の下側に移された[3][21][19]。コックピットのレイアウトや装備品などは、A300-600Rのものが踏襲された[3]。特異な形を持つことから、コンピュータ解析や模型を用いた風洞実験が繰り返され、空力面のほか空港でのハンドリング面でも最適な形状となるよう検討された[22]

A300-600STは新造機として生産され、ベース機同様に国際分業体制がとられた[22]。A300から流用する部分はベース機と同じ分担とされ、A300-600ST専用のコンポーネントも各国で分担されて製造された[22]。参加各国の主な分担は以下の通りだった[22]

  • フランスの旗 フランス - 機首部分、コックピット、中央翼、エンジンパイロン
  • イギリスの旗 イギリス - 貨物扉、降着装置、主翼
  • ドイツの旗 ドイツ - 貨物扉と機首部分のつなぎ目、貨物室後部、垂直尾翼、前後部胴体
  • スペインの旗 スペイン - 貨物室前部、水平尾翼
  • オランダの旗 オランダ - 主翼動翼
左後方から見たベルーガ。

A300-600STの製造は1993年から始まり、各パーツはスーパーグッピーでトゥールーズに集められ、1994年から最終組み立てが開始された[23]。A300-600STの1号機は1994年9月13日に初飛行し、335時間におよぶ飛行試験を経て1995年10月25日に型式証明を取得した[24]。同年にエアバス社へ引き渡しされ[21]、2号機から5号機についても、表のとおり型式証明の取得と納入が進められた。

2013年5月トゥールーズにて撮影されたベルーガ。

最終組み立てが始まった頃、A300-600STは非公式に「スーパーフリッパー」という愛称で呼ばれていた[24]。これは、テレビドラマわんぱくフリッパー」に登場するイルカの名前に由来するという説がある[24]。その後、1994年6月23日、A300-600STの1号機の完成発表と同時に「ベルーガ」という愛称が発表された[24]。ベルーガはSATICによって付けられた名前で、エアバス社本体は当初はこの愛称を気に入っていなかったが、広く浸透したことから後に認めて使用するようになった[3]

表: A300-600STの初飛行日、証明交付日と納入日
号機 初飛行日 証明交付日 納入日
1号機 (MSN 655 F-GSTA) 1994年9月13日 1995年10月25日 1995年10月25日
2号機 (MSN 751 F-GSTB) 1996年3月26日 1996年4月22日 1996年4月22日
3号機 (MSN 765 F-GSTC) 1997年4月21日 1997年5月7日 1997年5月7日
4号機 (MSN 776 F-GSTD) 1998年6月9日 1998年7月30日 1998年12月18日
5号機 (MSN 796 F-GSTF) 2000年12月12日 2001年1月5日 2001年1月5日

A300-600STの生産数は5機で、そのうちの1機は当初はオプションとされたが、最終的に5機全てが生産された[3][21]

運用開始後

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ベルーガの最初の実用飛行は、納入の翌年となる1996年1月15日に行われた[3][21]。ベルーガは、欧州各地で製造されるエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事し、全5機の導入によりスーパーグッピーは完全に退役した[3]

ベルーガの新しい大型貨物扉や貨物搭載システム(#機体の特徴参照)により、スーパーグッピー時代と比べて、貨物の積み下ろしに要する人員が18人から2人に省力化され、所要時間が1時間半から45分に短縮された[25][26]

エアバス社はベルーガを用いたチャーター輸送事業へも進出することとし、1996年6月30日、ベルーガの運航を担当する専門会社の設立を発表した[3]。この専門会社は「エアバス・トランスポート・インターナショナル」(Airbus Transport International、以下ATI)社と名付けられ、同年9月20日に登記された[3]。ATIは1996年11月にフランスの航空当局から航空運送事業の認可を取得し、11月24日に最初の請負輸送業務を行った[17][3]。全5機のベルーガはATI社が運航するようになり、1997年には全機で合わせて年間1,400回、2,500時間の飛行を行なった[27]

ベルーガの運航開始以降も、エアバス機の生産数は拡大の一途をたどり、2011年にエアバスは社輸送量の増加に対応するため「フライ10000」と呼ばれる計画を開始した[6][28]。この計画では、積み荷、積み降ろし方法を含めた物流インフラの最適化を目的とし、2017年までにエアバス社の輸送機の年間総飛行時間を1万時間に増やすことを目指したものだった[6][28]。2014年の時点では欧州11カ所の工場間を結び、1日あたり2から4便、1週間に60回以上飛行した[6][24]。2017年には、1日あたり5便、週6日の飛行を行うようになり、飛行時間が8,000時間を超えたが、飛行スケジュールには遅れが目立つようになり、増便はほぼ限界に達した[29]

後継機の開発

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以前からSATICは、ベルーガのコンセプトを他のエアバス機に適用することも検討しており、エアバスA330A340がベース機の候補として取りざたされていた[21][30]。2014年の前半には、A300-600STより飛行距離が長く、より重い貨物の輸送を可能にするベルーガ後継機の構想が報じられた[30]。そして同年11月、エアバス社はA330をベースとした新型機「ベルーガXL」の開発を発表した[31][32]。ベルーガXLの初号機は2015年12月22日に製造が開始され[33]、2018年7月19日に初飛行に成功した[34]

ベルーガXLは、A330の貨物型であるA330-200Fをベースとして既存の機器やコンポーネントを再利用しつつ、コックピットや貨物室、尾部などが新規開発されている[34]。エアバス社ではベルーガXLを5機製造し、現行のベルーガはベルーガXLと順次置き換えることで2025年に退役するとしている[34]

「エアバス・ベルーガ・トランスポート」としての利用

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エアバスは現地時間2022年1月25日、自社の航空部品輸送から退役するベルーガを使用した特大貨物輸送サービス「エアバス・ベルーガ・トランスポート(ABT: Airbus Beluga Transport)」を発表した。ヘリコプターや航空機用エンジン、人工衛星、船外実験装置などの特大貨物を解体せずに輸送でき、目的地で再組立するコストやスタッフなどを省けるとしており、2024年には新会社の設立を予定している。ベルーガは他の貨物輸送機と比較して貨物室の高さと幅が大きいことから、航空、宇宙、軍事、石油・ガス開発などのエネルギー、海事、大型機械、人道支援などの特大貨物輸送を想定している[35]

2021年12月にはABT初の業務として関西国際空港経由で神戸空港に警察庁のヘリコプター輸送を行っている。

機体の特徴

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左側面から見たベルーガ。

ベルーガは、主翼を低翼位置に配した単葉機であり、左右の主翼下にターボファンエンジンを1基ずつ備える。主翼やエンジンはA300-600Rのものと同一である[3]水平尾翼は低翼に配置され、降着装置は前輪配置である。ベルーガは、大型貨物を搭載できるように極めて太い胴体を持ち、2014年現在において世界最大の胴体幅を持つ飛行機であった[3][6][36]

正面から見たベルーガ。
ベルーガの貨物室内。

ベルーガの胴体は2階建ての構造で、ダルマを逆さにしたような断面を持つ[37]。A300-600Rの胴体下半分に、巨大な円筒状の貨物室を乗せたような形状で、上部胴体と下部胴体の間は直線的に結ばれている[3][14]。貨物室の最大幅と最大高はともに7.10メートルで[37]、床面の最大幅は5.11メートルである[3]。円筒の前方と後方は、もとの機体形状に合わせてすぼめられており、完全な円筒部となる部分の長さは21.34メートル、貨物室の全長は37.70メートルである[3]。床下貨物室にも貨物を搭載可能である[21]。貨物室の総容量は1,400立方メートルで、積載量は47トンである[3][6]

前方貨物扉を開いたベルーガを正面から見る。見学者用の通路が設けられている。

貨物の積み下ろしを行うため、貨物室の最前部に上開き式の扉が設けられている[3]。この扉は貨物室断面が完全に開口するまで上がるため、貨物室の寸法をフルに使用できる[3]。扉はアルミニウム合金製で重量は2トンあり、閉じた際には機体荷重を分担する構成要素となる[26]。扉の閉口部内側の全周にわたりラッチ構造が設けられ、閉じるとファスナーのように順次固定される[26]。貨物扉を開いた時の最大の高さは、貨物を搭載しない状態で16.97メートルとなる[3]。風速20ノット(約10メートル毎秒)の横風まで開口動作が可能で、開ききると30ノット(約15メートル毎秒)の横風まで耐えられる[26]

前方から貨物を出し入れできるように、ベルーガのコックピットの位置は胴体下部に移されている[3]。乗務員の乗降扉は胴体の床面下に配置され、梯子が内蔵されている[38]。また、操縦室の後方にあたる胴体右側面に非常口が設けられている[3]。下方に突き出すようなコックピットは、ベルーガ(シロイルカ)のような外観形状を生み出した[26]

このコックピット配置により、電気配線や油圧配管などを切り離すことなく前方貨物扉を開口できる[26][25]。油圧や電気系統を切断して機首部全体を開口する方式だったスーパーグッピーと比べ、作業時間が短縮されただけでなく、安全性の向上にもつながった[25]。さらに、コックピットが貨物室より下側にあるため、万が一急制動をかけてもメインデッキの貨物がコックピットに干渉しないという点でも安全である[26]

貨物室内には前後にわたって2本のレールが引かれ、動力付きローラーを有する貨物搭載システムが備わっている[26]。これにより外部のウインチなどを使わずに、貨物を移動させることが可能となり、所要時間の短縮に資している[26]。ベルーガに貨物の積み下ろしを行うための専用車両も用意されており、この車両は全長32メートル、最大50トンの荷物をベルーガの床面の高さまで持ち上げられ、ベルーガの機首と干渉しないような構造となっている[37]。また、チャーター輸送時には通常の空港にある貨物取り扱い車両も使用できるような汎用性も持たされている[37]

与圧されるのはコックピットと機体後部の小区画のみで、そこに与圧環境でのみ使用できる機器類が配置されている[26]。貨物室は非与圧式であり[39]、就航当時のSATICの代表は「エアバスが製造した最初の非与圧機」とも述べている[11]

コックピットの設計やレイアウト、装備品はA300-600Rのものを踏襲している[3]。ベルーガでは人工衛星や美術品といった温度管理が必要な貨物を輸送できるように、可搬式のヒーターモジュールも用意されており、コックピットからヒーターモジュールの制御が行えるようになっている[40]

ベルーガでは、機体重量の増加に合わせてベース機よりも尾翼の構造が強化された[3]。原型機の2倍の高さとなった胴体が垂直尾翼を覆い隠すことによる空力学的影響は風洞実験で検証された[26]。その結果、安定性を向上させるため、そして横風への耐性を維持するため、垂直尾翼の付け根を前方に延ばすように垂直安定板の面積が拡大されたほか、水平安定板の両翼端にも垂直安定板が追加されている[26][5][41]

エンジンはターボファンエンジンで、ゼネラル・エレクトリック製のCF6-80C2を2基装備する[6]

巡航速度は時速780キロメートル、実用上昇限度は35,000フィート(約10,700メートル)で、航続距離は貨物を26トン搭載した場合で4,632キロメートル、40トン搭載時は2,779キロメートルである[22]

運用

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ハンブルクにて胴体前方セクションを降ろしている様子(2013年)
ブレーメン空港コロンバスを搭載するベルーガ(2006年)
キャンベラ国際空港NH90_ヘリコプターを収容中のベルーガ(2003年)

全5機のベルーガはATI社によって運航され、欧州各地で製造されるエアバスA320エアバスA330エアバスA350 XWBといったエアバス機のパーツやコンポーネントを最終組み立て工場へ輸送する任務に従事している[42]。パーツの生産地であるフランスのナントサンナゼール、ドイツのブレーメンスペインマドリードセビリヤヘタフェ、イギリスのリヴァプールブロートン英語版イタリアナポリなどから、最終組み立て地のトゥールーズやドイツのハンブルクを結んでいる[43][6]。総2階建ての超大型機であるエアバスA380については、ベルーガの貨物室にも収まらないため、専用の船と車両を用いた輸送がメインとなっている[44]

ATI社ではこの通常運航のほか、エアバス以外の顧客向けに大型貨物のチャーター輸送業務を請け負っている[3]。ベルーガの広い貨物室を活かし、それほど重くはないがかさばる荷物の輸送として、人工衛星ヘリコプターのほか美術品の輸送にチャーターされることもある[19]。日本への飛来は1999年ドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」を輸送するため日本の成田国際空港に飛来している[6]。また、2006年5月には国際宇宙ステーションのヨーロッパ実験棟コロンバスをドイツのブレーメンから米国ケネディ宇宙センターへ運搬するためにも利用された[45]

運航開始から2022年4月現在まで、A300-600STに関して機体損失事故や死亡事故は発生していない[46]

主要諸元

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出典:特に記載のないものは Airbus S.A.S.[40] による

脚注

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注釈

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  1. ^ a b 国際民間航空機関 (ICAO) の登録コード一覧では、SATICは Special Aircraft Transport International Company とされている[2]が、本項では、ベルーガの紹介文献[3][4][5]における記述に従う。
  2. ^ 1号機 (MSN 655) のみ153 t

出典

[編集]
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  4. ^ 石川 2014, pp. 74–79.
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  11. ^ a b Moxon 1994, p. 32.
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参考文献

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書籍・雑誌記事

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  • 青木謙知『AIRBUS JET STORY』イカロス出版、2010年3月25日。ISBN 978-4-86320-277-1 
  • 青木謙知『ジェット旅客機をつくる技術 : エアバス機とボーイング機のつくり方の違いは?長い主翼や胴体はどうつくって、なにで運ぶの?』(電子第1)SBクリエイティブ〈サイエンス・アイ新書〉、2014年2月28日。 
  • 石川潤一「エアバスの特殊輸送機ベルーガの20年」『航空ファン』、文林堂、74-79頁、2014年12月21日。ISSN 04506650 
  • 藤田勝啓「Airbus A300 & Airbus A310シリーズのすべて」『ヨーロピアン・ワイドボディ Airbus A300&A310』、イカロス出版、51-66頁、2001年7月31日。ISBN 4-87149-340-7 

オンライン資料

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関連項目

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外部リンク

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