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「ボーイング757」の版間の差分

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** その他
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'''ボーイング757'''({{lang|en|'''Boeing 757'''}})は、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[ボーイング|ボーイング社]]が開発・製造した双発[[ジェット機|ジェット]][[旅客機]]である。
'''ボーイング757'''({{lang|en|'''Boeing 757'''}})は、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[ボーイング|ボーイング社]]が開発・製造した中型の双発[[ジェット機|ジェット]][[旅客機]]である。757はボーイング社で最大の[[ナローボディ機]]で、1981年から2004年まで生産された。2人乗務の[[グラスコックピット]]と[[ターボファンエンジン]]を備え、空力抵抗を抑制できる[[スーパークリティカル翼型]]の設計が採用された


757は[[ボーイング727]]の後継機として短・中距離路線向けに開発され、座席数は仕様によって200から289席、航続距離は3,150から4,100[[海里]](5,830から7,590[[キロメートル]])である。開発は[[ワイドボディ機|ワイドボディ]]双発機の[[ボーイング767]]と同時平行で行われ、757と767でシステムの共通化が図られ、パイロットの操縦資格も共通化された。
[[ボーイング727|727]]型機の代替として[[イースタン航空]]および[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]向けに設計・開発され<ref name="htj-50"/>、[[1983年]]に引き渡しが開始された<ref name="htj-60"/>。初期の販売実績は低調であった<ref name="htj-52"/>が、[[1980年代]]後半以降に徐々に上向きになり、アメリカ国内をはじめ[[ヨーロッパ]]や[[南アメリカ]]でも727の代替機として導入されるようになり、最終的に1000機以上が販売された<ref name="htj-66"/>。しかし、[[2000年代]]に入り、単通路機としては安価な自社製[[ボーイング737|737NGシリーズ]]の市場と競合<ref name="al295-130"/>、売り上げが伸びていなかったため、[[2004年]]に販売を中止し<ref name="al295-129"/>、[[2005年]]4月に[[上海航空]]向けの機材(通算1049機目)を最後に生産終了した。


757シリーズには胴体長が異なる2種類のモデルがある。最初のモデルとなる{{nowrap|757-200}}は1983年に引き渡しが開始され、同じ胴体長の貨物専用型{{nowrap|757-200PF}}と貨客混載型{{nowrap|757-200M}}は1980年代後半に登場した。1999年に初就航した発展型の{{nowrap|757-300}}は、史上最も長い胴体を持つナローボディ双発ジェット機となった。旅客型の{{nowrap|757-200}}からは貨物専用機への改造も行われたほか、米国の[[C-32 (航空機)|C-32]]のような要人輸送機や多目的機などの軍用の派生型、さらにはプライベート機や[[政府専用機]]なども作られ、輸送用途や研究用途に用いられた。757に搭載されたエンジンは[[ロールス・ロイス plc|ロールス・ロイス]] (RR) 製[[ロールス・ロイス RB211|RB211]]シリーズまたは[[プラット・アンド・ホイットニー]] (P&W) 製PW2000シリーズのいずれかであった。
日本の[[航空会社]]はボーイング社製旅客機を好んで使う傾向にあるが、ボーイング757は1機も購入・使用された実績がない<ref name="al294-71"/>。


757は[[イースタン航空]]と[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]によって1983年に就航した。757は旧式のナローボディ機の後継機として米国の短中距離国内線、シャトル便、大陸横断路線で一般的に使われる旅客機となった。1986年には[[ETOPS]]と呼ばれる双発機の長距離飛行に関する緩和要件が適用され、[[航空会社]]は757を大陸間路線にも就航させ始めた。757の主な運航者は米国の大手航空会社、[[ヨーロッパ|欧州]]の[[チャーター便]]航空会社、[[貨物航空会社]]である。2012年6月までに757の機体損失事故は8件発生しており、うち7件は死亡事故である。
== 沿革 ==
本節では以下、ボーイング製の旅客機については、「ボーイング」という表記を省略し、数字のみで表記する。例えば「ボーイング747」であれば、単に「747」とする。


757は54の顧客向けに総計1,050機が製造され、2004年10月28日に生産が終了した。757シリーズの中では{{nowrap|757-200}}が圧倒的に多く913機が製造された。旅客機需要の中心が、より小さい機体に移ったことで757の販売が縮小したことから、ボーイングは小型機の737シリーズに力を入れ、757の生産終了時に直接的な後継機は開発されなかった。757の最終機は2005年4月26日に[[上海航空]]に引き渡された{{sfn|青木|2014|p=51}}。2013年7月の時点で855機が就航しており、最大の運用者である[[デルタ航空]]は162機を運用している<ref name=WAC2013/>。なお、日本の航空会社はボーイング製旅客機を好んで使う傾向にあるが、ボーイング757は1機も購入・使用された実績がない<ref name="al294-71"/>。
=== 開発の経緯 ===
==== 727の後継機種構想 ====
[[File:Eastern Boeing 727-200 Silagi-1.jpg|thumb|1,832機もの製造が行なわれたボーイング727]]
ボーイングでは、[[1963年]]に[[ナローボディ機|ナローボディ]]の3発ジェット機として[[ボーイング727|727]]を初飛行させていた。727はジェット旅客機としては好調な売れ行きを記録し、胴体延長型の727-200も含めて最終的には1,832機もの販売実績を有する[[ベストセラー]]となるが、[[1974年]]頃には売れ行きは鈍化していた<ref name="htj-49"/>。ボーイングは727を改良することでさらに販売機数を伸ばせると考え、改良型として727-300型の開発に着手していた<ref name="htj-49"/>。この727-300型は、胴体を延長した上でエンジンを低[[騒音]]化し、[[降着装置]]も4輪式にするなどの改良が加えられる計画<ref name="htj-49"/>で、これにより、座席あたりの[[燃費]]を13%低減するとともに、年ごとに厳しくなる騒音規制をクリアすることが出来ると考えられた<ref name="htj-49"/>。


本項では以下、ボーイング製の旅客機については「ボーイング」という表記を省略して数字のみで表記する。また、エアバス製旅客機についても同様に社名を省略する。例えば「ボーイング747」であれば「747」、「エアバスA320」であれば「A320」とする。
ボーイングでは727-300型の開発に強い意欲を示し<ref name="htj-49"/>、金属製[[モックアップ]]の製作を進めていたが、[[1975年]]に入り、[[ユナイテッド航空]]などのアメリカ国内の[[航空会社]]は727-300型構想に対して、「その程度の燃費改善では、新機材導入のコストをカバーするには不十分であり、騒音規制への対応にも一時的にしか対応できず、長く使い続けることのできる機体ではない」という考えを示した<ref name="htj-49"/>。

== 沿革 ==
=== 開発の背景 ===
==== 727の後継機種構想 ====
[[File:Eastern Boeing 727-200 Silagi-1.jpg|thumb|757開発の出発点となった[[ボーイング727]]]]
ボーイングでは、[[1963年]]に短中距離向けの[[ナローボディ機|ナローボディ]]の3発ジェット機として[[ボーイング727|727]]を初飛行させていた{{sfn|青木|2014|p=84}}。727はジェット旅客機としては好調な売れ行きを記録し、胴体延長型の{{nowrap|727-200}}も含めて最終的には1,832機の販売実績を有する[[ベストセラー]]となるが、より小型だが運航乗務員が2人で済み、さらに双発エンジンのため[[燃費]]にも優れる[[ボーイング737|737]]-200や[[マクドネル・ダグラス]][[DC-9]]-40/50シリーズとの競合もあり[[1974年]]頃には売れ行きは鈍化していた<ref name="htj-49"/>。ボーイングは727を改良することでさらに販売機数を伸ばせると考え、改良型として{{nowrap|727-300}}の開発に着手した<ref name="htj-49"/>。この{{nowrap|727-300}}は、胴体を延長した上でエンジンを低[[騒音]]化し、[[降着装置]]も4輪式にするなどの改良が加えられる計画で、これにより、座席あたりの燃費を13%低減するとともに、年ごとに厳しくなる騒音規制をクリアすることができると考えられた<ref name="htj-49"/>。


これを受け、ボーイング727-300構想についての見直しを行った。727-300構想には、既に5000万ドルの資金を投入しており、原寸大の金属製モックアップまで作成していた<ref name="htj-49"/>が、航空会社が727-300を好まないのであれば、この計画を破棄した上で、全く新しい機体を開発する方が将来的にもメリットが大きいと考えた<ref name="htj-49"/>。このような事情から、727-300開発計画は1975年8月には正式に破棄されることになった<ref name="htj-49"/>。
ボーイングでは{{nowrap|727-300}}の開発に強い意欲を示し、原寸大の金属製[[モックアップ]]の製作を進めていたが、[[1975年]]に入り、[[ユナイテッド航空]]などのアメリカ国内の[[航空会社]]は{{nowrap|727-300}}構想に対し、「そ程度の燃費改善では、新機材導入のコストをカバーするには不十分であり、騒音規制への対応にも一時的にか対応できず、長く使い続けることのできる機体ではない」という考え示し<ref name="htj-49"/>ボーイングは、{{nowrap|727-300}}構想に既に5000万ドルの資金を投入しており、モックアップ作成していたが、航空会社が{{nowrap|727-300}}を好まないのであれば、この計画を破棄した上で、全く新しい機体を開発する方が将来的にもメリットが大きいと考えた<ref name="htj-49"/>。このような事情から、{{nowrap|727-300}}開発計画は1975年8月には正式に破棄されることになった<ref name="htj-49"/>。


==== 7N7構想 ====
==== 7N7構想 ====
[[File:Aeromexico B762 XA-JBC 20060608 STR 800x533.jpg|thumb|当時「7X7」として開発が進められていた767]]
[[File:Boeing 767-246, Japan Airlines - JAL AN1603037.jpg|thumb|当時「7X7」として開発が進められていた767]]
当時、ボーイングではワイドボディジェット旅客機として「7X7」(後の[[ボーイング767|767]])の開発構想を進めていたが、これと同時に、将来にわたって長く販売を続けることが可能な新型ナローボディ旅客機を並行開発するという発想が生まれることになった<ref name="htj-49"/>。この構想は「7N7」と呼ばれることになた<ref name="htj-49"/>。
一方で、当時、ボーイングではワイドボディジェット旅客機として、250席程度の座席数を持つ「7X7」(後の[[ボーイング767|767]])の開発構想を進めていたが、これと同時に、将来にわたって長く販売を続けることが可能で、7X7よりは座席数の少新型ナローボディ旅客機を並行開発するという発想が生まれた<ref name="htj-49"/>。この構想は「7N7」と呼ばれることになり、[[1976年]]1月から7N7計画の調査と研究が開始された<ref name="htj-49"/>。


[[コンチネンタル航空]]は、当初{{nowrap|727-300}}の設計にフィードバックを行っていたが、7N7の研究が始まると{{nowrap|727-300}}への興味を失ってしまった<ref name=norris144/>。{{nowrap|727-300}}案を提示された他の航空会社も、同案に大きな興味を示すことはなかった<ref name=norris143/>。一方で、7N7案に盛り込まれた高バイパス比の[[ターボファンエンジン]]、新しいコックピット、軽量化された機体、空力特性の向上、低運用コストという特徴に航空会社は関心をよせた<ref name=norris144/><ref name=norris20/>。これら7N7の新しい特徴は7X7との並行開発によって得られるものもあり<ref name=norris18>{{harvnb|Norris|Wagner|1999|pp=18–19.}}</ref>、7N7は7X7とともにボーイングの将来を担う重要なプロジェクトとして扱われることになった<ref name="htj-49"/>。
こうして、1976年1月から「7N7」計画の調査と研究が開始された。「7N7」は当時開発構想を進めていた「7X7」とともに、ボーイングの将来を担う重要なプロジェクトとして扱われることになった<ref name="htj-49"/>。


7N7では胴体については727踏襲する<ref name="htj-59"/>ものの、新設計の主翼と高バイパス比のエンジンを採用することになった<ref name="htj-59"/>。まず最初にまとめられたデザイン案は、164席の客席を有する「モデル761-161」と呼ばれるもので、これは「工具まで同じものが使用可能」という在来機種との共通性を重視した<ref name="htj-50"/>結果、胴体は[[ボーイング707|707]]・727・[[ボーイング737|737]]と同じ構造とされた<ref name="htj-50"/>。ただし、エンジンは双発とすることになり、胴体尾部に3発のエンジンを装備する727と比較するとスマートなデザインとなった<ref name="htj-50"/>。また、エンジンと主翼以外にも、垂直尾翼や降着装置などに新技術が採用されていた<ref name="htj-50"/>。1978年1月に、ボーイングは[[イースタン航空]]と[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]に対して、この「モデル761-161」の構想を説明した。この2社は、かねてから727の発展型となる機体に関心を示していたのである<ref name="htj-50"/>。
7N7では727の胴体設計継承するものの、新設計の主翼と高バイパス比のエンジンを採用することになった<ref name="htj-59"/>。まず最初にまとめられたデザイン案は、164席の客席を有する「モデル761-161」と呼ばれるもので、これは「工具まで同じものが使用可能」という在来機種との共通性を重視した結果、胴体は[[ボーイング707|707]]・727・[[ボーイング737|737]]と同じ構造とされた<ref name="htj-50"/>。ただし、エンジンは双発とされ、胴体尾部に3発のエンジンを装備する727と比較するとスマートなデザインとなった<ref name="htj-50"/>。また、エンジンと主翼以外にも、垂直尾翼や降着装置などに新技術が採用されていた<ref name="htj-50"/>。[[1978年]]1月に、ボーイングは[[イースタン航空]]と[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]に対して、この「モデル761-161」の構想を説明した。この2社は、かねてから727の発展型となる機体に関心を示していたのである<ref name="htj-50"/>。


ところが、この2社の要求はそれぞれ異なる内容であった。具体的には、イースタン航空が2クラスで165席クラスの機体を求めていた<ref name="htj-50"/>のに対し、ブリティッシュ・エアウェイズは単一クラスで190席クラスの機体を希望した<ref name="htj-50"/>のである。ブリティッシュ・エアウェイズは政府との結びつきが強い航空会社であり、かつヨーロッパの航空会社であることからエアバスの旅客機を購入することが求められていた<ref name="htj-50"/>。ボーイングもその事情を把握していたため、ブリティッシュ・エアウェイズの要望には特別な配慮を行なっていた<ref name="htj-50"/>。ボーイングでは、できるだけこの2社の要求に応えるべく、デザインの見直しを行い、2クラスで165席から175席、単一クラスで190席設置することが出来るようなサイズに改めたのである<ref name="htj-50"/>。さらにこの頃のアメリカの大手航空会社は、航空旅客数の増加に確信を持っており、アメリカ航空業界では「機体は大きければ大きいほどいい」という考え方が一般化していた<ref name="htj-51"/>。
ところが、この2社の要求はそれぞれ異なる内容であった。具体的には、イースタン航空が2クラスで165席クラスの機体を求めていたのに対し、ブリティッシュ・エアウェイズは単一クラスで190席クラスの機体を希望したのである<ref name="htj-50"/>。ブリティッシュ・エアウェイズは政府との結びつきが強い航空会社であり、かつヨーロッパの航空会社であることからエアバスの旅客機を購入することが求められていた<ref name="htj-50"/>。ボーイングもその事情を把握していたため、ブリティッシュ・エアウェイズの要望には特別な配慮を行なっていた<ref name="htj-50"/>。ボーイングでは、できるだけこの2社の要求に応えるべく、デザインの見直しを行い、2クラスで165席から175席、単一クラスで190席設置できるようなサイズに改めたのである<ref name="htj-50"/>。さらにこの頃のアメリカの大手航空会社は、航空旅客数の増加に確信を持っており、アメリカ航空業界では「機体は大きければ大きいほどいい」という考え方が一般化していた<ref name="htj-51"/>。


そこで、ボーイングはさらに胴体を延長した上で、180席を標準座席数とするデザイン案「モデル761-177」をまとめた<ref name="htj-51"/>。最終的にはこのデザイン案が開発のベースとなることになる<ref name="htj-51"/>が、提案当時は水平尾翼を垂直尾翼の上部に配置する「T字尾翼」となっていた<ref name="htj-50"/>。これは、727の尾翼部分の設計を一部流用することを考えていたためである<ref name="htj-51"/>。この段階では、短胴型の757-100型と長胴型の757-200型を開発することになっていた<ref name="htj-51"/>。
そこで、ボーイングはさらに胴体を延長した上で、180席を標準座席数とするデザイン案「モデル761-177」をまとめた<ref name="htj-51"/>。最終的にはこのデザイン案が開発のベースとなることになる<ref name="htj-51"/>が、提案当時は水平尾翼を垂直尾翼の上部に配置する「T字尾翼」となっていた<ref name="htj-50"/>。これは、727の尾翼部分の設計を一部流用することを考えていたためである<ref name="htj-51"/>。


1978年には、機体サイズが160席の短胴型{{nowrap|7N7-100}}と180席以上の長胴型{{nowrap|7N7-200}}の2種類に絞りこまれた<ref name=norris20/>。同年8月31日に、イースタン航空から確定21機(オプション24機)、ブリティッシュ・エアウェイズからは確定19機(オプション12機)の{{nowrap|7N7-200}}を受注したことが発表された<ref name="htj-60"/><ref name=norris20/><ref name=eden98/> 。これらの注文は[[1979年]]3月23日に調印が行われ、ボーイングは7N7を「757」と命名することを公表して正式に開発を開始した<ref name="htj-5152"/><ref name=norris20/> 。発注を受けてから開発開始までの期間が長かったのは、767の開発を並行して進めるため、開発作業のタイミングをずらす意図があったとされている<ref name="htj-60"/>。また、計画当初は{{nowrap|757-100}}を最初に開発する予定だったが、航空会社からの受注が得られず開発が中止された<ref name="htj-59"/>。
=== ローンチ ===
[[File:British Airways Boeing 757-200 Lofting-1.jpg|thumb|250px|ローンチカスタマー・ブリティッシュ・エアウェイズのボーイング757-200]]
1978年2月には、この案が正式に「ボーイング757」として受注活動が開始されることになった。同年8月31日には、イースタン航空から確定発注21機(オプション発注24機)、ブリティッシュ・エアウェイズからは確定発注19機(オプション発注12機)を獲得した<ref name="htj-60"/>。なお、一時は開発を「7X7」に一本化することも考えられていたが、1機種だけではボーイングの理想とする民間航空機市場を維持しきれないという判断されたこと<ref name="htj-45"/>、単通路機の開発に対して、単通路機の乗り入れしか認められていなかったニューヨークの[[ラガーディア空港]]発の[[シャトル便]]を多数運航していたイースタン航空とブリティッシュ・エアウェイズから強い要請があった<ref name="al295-129"/>ことから、これを取り下げている。このような経緯から、この2社は、セミワイドボディ機である767と757は市場での競合がないことをボーイングと確認した上で発注に踏み切っている<ref name="htj-51"/>。


=== 設計への取組み ===
その後もデザイン案の変更が行なわれ、「モデル761-280」というデザイン案が固まった<ref name="htj-51"/>。このデザイン案では、尾翼の面積を拡大する必要があると認識された<ref name="htj-60"/>ことから、「T字尾翼」を採用せずに、胴体尾部に水平尾翼を装備するデザインとされた<ref name="htj-60"/>。1979年3月23日、正式に757-200型のローンチが発表され、開発が開始された<ref name="htj-5152"/>。発注を受けてから開発開始までの期間が長かったのは、767の開発を並行して進めるため、開発作業のタイミングをずらす意図があったとされている<ref name="htj-60"/>。
757は在来機の727よりも高い収容能力と優れた経済性を持つ機体を目指して設計された<ref name=b12/>。[[1973年]]の[[第四次中東戦争]]をきっかけに燃料価格が高騰し、運用コストの上昇を懸念していた航空会社は燃費性能の向上を求めた<ref name=norris20/><ref name=norris145/>。設計目標の中には燃料消費量の削減が掲げられ、削減方法と目標値(従来機比)は新エンジンの採用により20パーセント、航空力学面での改善により10パーセントとされた<ref name=norris145/>。より軽い材料と新しい主翼の採用も燃費性能を向上させると期待された<ref name=norris20/>。[[最大離陸重量]] (MTOW) は727よりも4,540[[キログラム]]大きい<ref name=727tech/>99,800キログラムに設定された<ref name=b16/>。高い気温と高度のために離陸性能が低下する高温・高地環境のために、[[ペイロード|ペイロード]]容量を向上させた重量型がオプション設定された<ref name=b16/>。


[[File:Transavia Airlines Boeing 757-2K2 Wedelstaedt.jpg|thumb|left|正面から見た[[トランサヴィア]]の{{nowrap|757-200}}。胴体の輪郭、翼の上反角、[[ロールス・ロイス RB211|RB211]]エンジンが見える。|alt=正面から見た[[トランサヴィア]]の{{nowrap|757-200}}。胴体の輪郭、翼の上反角、2発のエンジンが見える。]]
しかし、ローンチはしたものの、その後1年以上が経過し、初号機のロールアウトが近づいた頃になっても、発注はローンチカスタマーの2社以外になかった<ref name="htj-52"/>。ボーイングではデルタ航空からの発注を確実視していたものの、デルタ航空ではアメリカ製のエンジンを希望していた<ref name="htj-52"/>こと、また非常口や座席の配置についてイースタン航空とは異なる要求があった<ref name="htj-52"/>ため、発注を見送っていたのである。これにはボーイング側も、757に適したエンジンをアメリカのエンジン製造会社が開発してくれるのを待つ以外に方法はなかった<ref name="htj-52"/>。結局、デルタ航空が発注したのは、プラット・アンド・ホイットニーのPW2000型エンジンが実用化された後の1980年11月であった<ref name="htj-52"/>。その後、発注が757-200型に集中したため、短胴型の757-100型については開発されないことになった<ref name="htj-59"/>。


エンジン数は3発または4発の場合と比べて燃費性能面で有利だという理由から双発とされた<ref name=intro12/>。ローンチカスタマーのイースタン航空とブリティッシュ・エアウェイズは推力166[[ニュートン|キロニュートン]]の[[ロールス・ロイス plc|ロールス・ロイス]] (RR) 製[[ロールス・ロイス RB211|RB211-535C]] ターボファンエンジンを選択した<ref name=intro19/>。ボーイングの旅客機ではこれまで米国製以外のエンジンを採用したローンチが無く、今回のロールス・ロイス製エンジン搭載仕様の受注によるローンチが初めてのケースとなり<ref name="htj-60"/>、その後も[[ボーイング787|787]]のローンチまで例がなかった<ref group="注釈">ボーイング787のローンチカスタマーである[[全日本空輸]]はロールス・ロイスのエンジンを選択した。{{Cite web| url = https://www.ana.co.jp/pr/04-1012/04-127.html| title = 次世代中型機「7E7シリーズ」のエンジンを「Trent 1000」に決定(全日本空輸公式サイト内プレスリリース)| accessdate = 2009-12-16}}</ref>。後に、米国のエンジン製造企業である[[プラット・アンド・ホイットニー]](以下P&W)は170キロニュートンの推力を持つPW2000型を実用化し、デルタ航空が[[1980年]]11月に発注した60機に搭載された<ref name=norris20/><ref name=davies102/><ref name="htj-52"/>。開発プログラムの初期には[[GE・アビエーション|ゼネラル・エレクトリック]]社製の[[ゼネラル・エレクトリック CF6|CF6-32]]の搭載も検討されたが需要が無く実現しなかった<ref name=eden98-9>{{harvnb|Eden|2008|pp=98–99.}}</ref>。
=== 共通化とハイテク化 ===
[[File:Boeing 757-200 flight deck view.JPG|thumb|250px|ボーイング757のコックピット]]
757と[[ボーイング767|767]]は同時期に開発する旅客機であることから、開発費を節約するためにも、両機種に多くの共通点を持たせることが考慮されていた<ref name="htj-51"/>。それは補助動力装置(APU)や[[アビオニクス]]、さらには操縦資格まで共通化することを目指していた<ref name="htj-51"/>。通常、旅客機の操縦資格は機種ごとに取得することになるが、1つの操縦資格で2機種に乗務できることになれば、航空会社側でも操縦士の勤務割り当てに自由度が増すことになり、メリットは大きく<ref name="htj-70"/>、販売上も有利になると考えられたからである。この共通資格認定は1983年7月22日に認められ、地上講習(座学)により757と767の相違について学習することで、双方の機種への乗務が認められることになったのである<ref name="htj-70"/>。


757は727の後継機と考えられており、当初は727との共通性が重視されたが、いずれ退役することが見込まれる727よりも、同時進行で開発中の767との共通性を高めた方が良いと考えられるようになった{{sfn|青木|2014|p=50}}。ボーイングはリスクを低減するため、そして開発費を節約するために両機の設計作業を統合し<ref name=norris143/><ref name=intro12/>、結果として両機種は搭載機器や取扱上の特性などが共通化された<ref name=norris23/><ref name="htj-51"/>。767で採用されたコンピュータを用いた設計手法 ([[CAD]]) が757の設計でも取り入れられ、全体の3分の1を超える設計図がCADで作成された<ref name=intro15/>。1979年の前半には757と767のコックピットが共通化され、両機で同じ計器類や[[アビオニクス]]、飛行管理システムが採用された<ref name=norris23/>。従来の機械式計器類の代わりに合計6個のカラーCRTを配置して操縦士が把握しやすい情報提示を行うとともに、コンピュータによる自動化を進めることで、操縦士の作業負荷の低減や[[ヒューマンエラー]]の防止が図られた<ref name="htj-150"/>。まだ[[グラスコックピット]]という言葉もない時代であったが<ref name="htj-51"/>、この新しいコックピットシステムは、それまで操縦士2人と航空機関士の計3人で乗務する必要があったものを、操縦士2人のみで運航できるように設計された<ref name="htj-70"/>。757と767のコックピットの共通化はパイロットの操縦資格まで共通化することを視野に入れていた<ref name="htj-51"/>。通常、旅客機の操縦資格は機種ごとに取得することになるが、1つの操縦資格で2機種に乗務できることになれば、ボーイングの顧客となる航空会社側でも操縦士の勤務割り当ての自由度が増すことになり、メリットは大きくなる<ref name="htj-70"/>。この共通資格認定は[[1983年]]7月22日に認められ、地上での数時間の教習によって757と767の相違について学習することにより、双方の機種への乗務が認められることになった<ref name="htj-70"/>。
また、757と767ではコクピットの共通化を図るだけでなく、合計6個のCRTを設置することで航空機の機器状況などの把握を容易にした上で、さらに自動化を進めることで直接運航コストが低減されることを目指した<ref name="htj-147"/>。これにより、これまで操縦士2人と航空機関士の3人で乗務する必要があったものを、操縦士2人のみで安全な運航が可能になることを目標としていた<ref name="htj-70"/>。この当時、まだ[[グラスコックピット]]という言葉自体がなく<ref name="htj-51"/>、むしろ757と767の登場によって初めて使用されるようになった言葉であった。


[[File:Boeing 757-236 G-BNSF Air Europe Newcastle Airport.jpg|thumb|757と727の並び。727はエア・アトランティスの{{nowrap|727-200}}、757はエア・ヨーロッパの{{nowrap|757-200}}。|alt=空港のエプロンに並んで駐機している757と727を横から見た写真。両機ともタラップが接続され扉が開いている。]]
=== 生産終了まで ===
[[File:Delta B757-300(N588NW) (4628958681).jpg|thumb|250px|[[デルタ航空]]のボーイング757-300]]
[[1980年代]]に入り[[エアバスA320]]の開発が始まろうとしていた時期に、対抗する商品として短胴型として757-50型を提案していた<ref name="htj-65"/>が、737の胴体延長型に関心が集まったため、実現することはなかった。757の場合、胴体短縮型は737と競合する可能性があり、胴体延長型では767と競合する可能性があるため、派生型を開発する余地が少なかったのである<ref name="htj-65"/>。このため、757はしばらく長胴型の757-200型の生産のみを行なっていた。


757の主翼はスーパークリティカル翼を元に開発され、翼の上面のほぼ全域で揚力を発生できる新しい翼型が採用された<ref name=norris20/>{{sfn|山崎|2009|p=229}}。この主翼には767の主翼と共通の設計技術が用いられ、従来機より抗力が低減されたほか、燃料タンク容量を増やすことができた<ref name=norris20/>。また、727よりも大きくなった翼幅によって誘導抗力の発生が少なくなり、主翼の付け根部分が大きくなって主脚の格納スペースが拡大したことで後に胴体延長型を開発する際に役立った<ref name=intro15/>。
その後、ボーイングは[[1990年代]]の半ばには、757-200型をベースとして、航続距離延長型と胴体延長型という2タイプの発展型を提案した<ref name="htj-65"/>。この胴体延長型は[[1996年]][[9月2日]]にローンチが発表され、757-200型のローンチ後18年ぶりの発展型として、757-300型が開発されることになった<ref name="htj-65"/>。757-300型は1998年8月2日に初飛行した。


1979年の中頃になると727の面影を残す特徴であったT字尾翼を取り止めて胴体尾部に水平尾翼を装備するデザインに変更された<ref name=norris20/>。この変更は、[[失速|ディープストール]]と呼ばれる空力学的状態に陥るリスクを避けるとともに、胴体後部の絞り込みを小さくして客室容量を増やす目的で行われた<ref name=norris151/>。{{nowrap|757-200}}の全長は47.32メートル{{sfn|青木2014|p=51}}で{{nowrap|727-200}}から64センチメートル長くなったが{{sfn|青木2014|p=84}}、尾部のエンジンがなくなったことで客室に割り当てられるスペースはずっと大きくなり<ref name="htj-59"/>座席数は727から50席増えて239席となった<ref name=727tech/><ref name=757plan_4/>。これで、727から757に引き継がれた主要な特徴は胴体断面だけとなった<ref name=b15/>。一時は開発をワイドボディの7X7計画に一本化することも考えられたが、結局ワイドボディ機とナローボディ機の両方を開発することになった{{sfn|青木|2014|pp=41}}。757をナローボディとしたのは主には抗力を減らすためで<ref name=norris145/>、イースタン航空とブリティッシュ・エアウェイズがナローボディ機の方が経済的だと主張したほか{{sfn|青木|2014|pp=50}}、イースタン航空が[[シャトル便]]を多数運航していたニューヨークの[[ラガーディア空港]]は単通路機の乗り入れしか認められていなかったこともあり<ref name="al295-129"/>、ボーイングが予測した民間航空機市場においてナローボディ機の需要があると判断したことによる<ref name="htj-45"/>{{sfn|青木|2014|p=50}}。
ボーイングでは、この757-300型については「757-200型のリプレイスを行なう機材ではなく、757-200型と767-300型の隙間を埋める、全く新しい機体」としていた<ref name="htj-7"/>。しかし、この思惑に反して757-300型の受注数は[[2003年]]の時点で61機にとどまっており<ref name="al295-130"/>、期待はずれの数字であった<ref name="al295-130"/>。


=== 製造と試験 ===
さらに、ボーイングの他の機種での派生型や、新機種との関係も微妙なものになった。737は既に胴体延長を行なった派生型として、737-900型を発売していたが、737-900型の42.11mという全長は、757-200型と5.21mしか違わない。2002年には、737-900型に非常口を増設して最大座席数を200席程度とした737-900X型(後の737-900ER型)の計画を発表したが、これは航続距離も座席数も757-200型に近いものであった。737シリーズの販路拡大のためにも、ボーイングにとっては737-900X型のローンチが必要であったが、これは757-200型と競合するものでもあった<ref name="al295-130"/>。
ボーイングは757の最終組み立てラインを707、727、737が生産されているワシントンのレントン工場に設けた<ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=32.}}</ref><ref name=intro13/>。開発プログラムの初期にボーイングとブリティッシュ・エアウェイズ、ロールス・ロイスの3社は英国の航空機メーカーにも757の主翼の生産に参加するよう働きかけたが、話はまとまらなかった<ref name=eden98/><ref>{{Cite web |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1978/1978%20-%200723.html|title=Europe's Jet v. Boeing's 757|last=Ramsden|first=J.M.|date=April 29, 1978 |work= Flight International |accessdate=June 20, 2012}}</ref>。結局、主翼、機首部、尾翼を含む機体の約半分がボーイングの自社設備で生産され、残りの部分は主に米国を拠点とする下請け企業によって生産された<ref name=intro20>{{harvnb|Velupillai|1982|p=20.}}</ref>。[[フェアチャイルド (航空機メーカー)|フェアチャイルド]]社は前縁スラット、[[グラマン]]社はフラップ、[[ロックウェル・インターナショナル]]社は主胴体を生産・供給した<ref name=intro20/>。この新しいナローボディ機の生産立ち上げは、在来機種である727の生産縮小と歩調を合わせて行われ<ref name=intro20/>、[[1981年]]の1月に初号機の組み立てが完了した<ref name=intro19/>。


[[File:British Airways Boeing 757-200 Marmet.jpg|thumb|left|[[ブリティッシュ・エアウェイズ]]はRB211エンジンを搭載した757の最初の顧客となった.|alt=降着装置を下ろして飛行中の757を右側から見た写真。背後には草原の丘を望む。]]
また、ボーイングでは7E7(後の[[ボーイング787|787]])の計画を進めていたが、7E7の短距離仕様の収容力は757-300型とほぼ同等である。7E7が短距離仕様まで含めてローンチされると、757-300型の販路はさらに狭くなる<ref name="al295-130"/>。


757のプロトタイプは[[1982年]]1月13日にレントン工場にてロールアウトした<ref name=eden99/>。この機体はRB211-535Cエンジンを搭載し<ref name=eden99/>、計画よりも1週間前倒しされ1982年2月19日に初飛行が行われた<ref>{{harvnb|Birtles|2001|pp=22–23.}}</ref>。この初飛行では油圧低下の表示に続いてエンジンストールが発生した<ref name=norris161/>。ボーイングのテストパイロットはシステムによる診断内容を確認してからエンジンの再始動に成功し、以降は正常に飛行した<ref name=norris161/>。その後、この初号機は週7日のスケジュールで試験飛行を行った<ref name=testing>{{Cite web |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1982/1982%20-%200710.html |title=Boeing tests the twins |last=Sweetman |first=Bill|date=March 20, 1982 |work= Flight International |accessdate=July 15, 2011|pages=676, 685–86}}</ref>。この時までに、[[エア・フロリダ]]、[[アメリカン航空]]、ブリティッシュ・エアウェイズ、デルタ航空、イースタン航空、[[モナークエアライン]]、[[トランス・ブラジル航空]]の7社から計136機の受注を獲得していた<ref name=intro19/>。
さらに、姉妹商品であるはずの767も、767-400ER型では777と同様のグラスコックピットを採用したため、これまで通り757と767で共通という操縦資格を維持するためには、グラスコックピットでありながら在来型の計器表示での様式が必要になる<ref name="al295-130"/>。合理的な手段としては、767-400ER型以外の767についてもグラスコックピットの様式を揃えることが考えられ<ref name="al295-130"/>、実際に2003年からは767-200ER型・767-300ER型でも、コックピットを767-400型と同様式とすることになった<ref name="al280-46"/>。


7か月におよぶ757の試験飛行には初号機から5号機までの5機が投入された<ref name=b14/>。試験内容には飛行システム・推進システムの試験、高温・低温気象下での試験、路線実証飛行 (route-proving flights)が含まれた<ref name=b22/>。767の開発課程で得られたデータも757の開発に役立てられた<ref name=testing/>。設計上の問題点が洗い出された後、757の非常口ドアには取り扱いを簡単にするために2重ばね構造が採用されたほか、バードストライクに備えて胴体が強化された<ref name=making/>。実際に製造された機体は当初の仕様より1,630キログラム軽くなったほか、予想よりも燃料消費率が3パーセント向上した<ref name=b22/>。このことにより、航続距離が200海里(370キロメートル)延びて、ボーイングは躍起になって757の経済性を宣伝した<ref name=b22/>。1,380時間の試験飛行の後<ref name=752b/>、1982年12月21日にRB211エンジン搭載仕様の757に対して米国の[[連邦航空局]](Federal Aviation Administration、以下FAA)の型式証明が交付され、続く1983年1月14日には[[英国]]の民間航空局(Civil Aviation Authority、以下CAA)からも型式証明が下りた<ref name=norris161/><ref name=b14/>。最初の引き渡しはローンチカスタマーのイースタン航空に対して1982年12月22日に行われた<ref name=norris161/><ref name=757_O_D_summ/>。これは767の初引き渡しの約6か月後のことであった<ref name=norris161/><ref name=757_O_D_summ/>。PW2037エンジンを搭載した最初の757は約1年後にロールアウトし、[[1984年]]11月5日にデルタ航空に対して引き渡された<ref name=norris161/>。
このような状況下で、757はボーイングの旅客機の中で、取り残され孤立した状態にあるとみられた<ref name="al295-130"/>。このため、ボーイングでは2003年10月16日、757については2004年末の製造を停止する計画を発表し<ref name="al295-129"/>、計画が始まってから25年で製造を中止することになったのである。


=== 就航開始・運用の変遷 ===
== 機体 ==
[[File:Eastern Air Lines Boeing 757-200 Wallner.jpg|thumb|[[イースタン航空]]は1983年1月に757の運航を開始した。後に757を大陸横断路線へも就航させた。|alt=側面から見た銀色に光る757。尾翼には「757」のロゴが描かれている。]]
=== 特徴 ===

イースタン航空は757の初の営業飛行を1983年1月1日に[[アトランタ]]-[[タンパ]]線で行った<ref name=norris161/>。1983年2月9日にはブリティッシュ・エアウェイズが[[ロンドン]]-[[ベルファスト]]間のシャトル便に757を就航させ、3発旅客機である[[ホーカー・シドレー トライデント]]を置き換えた<ref name=b49>{{harvnb|Birtles|2001|p=49.}}</ref>。チャーター便を運航しているモナークエアラインと{{仮リンク|エア・ヨーロッパ (イギリス)|label=エア・ヨーロッパ|en|Air Europe}}もこの年の後半に757の運用を開始した<ref name=757entry/>。早くから757を就航させた航空会社では、従来のジェット旅客機と比べて757は信頼性と静粛性能が向上していると評した<ref name=757entry/>。従来機種からの転換訓練によって、パイロットがCRTを用いた新しいコックピットに対応するのを助け、大きな技術的問題が起きることもなかった<ref name=757entry/>。イースタン航空は、757は従来機よりもペイロード容量が大きく、消費燃料が少なく、また、運航乗務員が2人で済むことから運用コストが低減されることを認めた<ref name=757entry/>。757の座席当たりの消費燃料は、特に典型的な中距離フライトでは、707よりも40パーセント、727よりも40パーセント少なくて済んだ<ref name=norris147/>。

757のデビューは成功したものの、米国の航空自由化{{refnest|group=注釈|米国では1978年に航空規制緩和法が成立し、路線参入と運賃に関する規制が撤廃された{{sfn|山崎|2010|p=73}}}}により需要が小型機に移ったことに加え、燃料価格が下落した結果、1980年代の大半で販売が伸び悩んだ<ref name=norris161/>。直接的な競合機種は存在しなかったが<ref name=intro12/>、マクドネル・ダグラス[[MD-80]]などの150席級のナローボディ機は機体価格が低く、757の座席配置によってはほぼ同じ乗客数を乗せることができた<ref name=b16/><ref name=norris161/>。全く売れない期間が3年間続いたが、1983年11月に[[ノースウエスト航空]]から20機の受注があったことで、生産ペースを下げずに済んだ<ref name=b50/>。[[1985年]]12月には貨物型の{{nowrap|757-200PF}}が発表されUPS航空から20機の受注を得た<ref name=norris161/>ほか、[[1986年]]2月には貨客混載型の{{nowrap|757-200M}}がローンチされロイヤル・ネパール航空から1機受注した<ref name=b28/>。貨物型はメインデッキ(旅客型で客席が設けられる部分)を貨物室としたタイプであり、[[1987年]]の9月にUPS航空によって就航した<ref name=eden100/>。貨客混載型はメインデッキに乗客と貨物を収容できるモデルで、[[1988年]]9月にロイヤル・ネパール航空によって就航した<ref name=b28/>。

[[File:Monarch Airlines Boeing 757-2T7 Innsbruck Wedelstaedt.jpg|left|thumb|[[モナークエアライン]]は757によるチャーター便の運航を1983年に開始した。|alt=斜め後ろから見た757の離陸の様子。背景には雪に覆われた山々が写っている。]]

1980年代後半になると、[[ハブ空港]]への路線集中が進み、米国で空港の騒音規制が始まったこともあり757の販売が好転した<ref name=norris161/>。1988年から[[1989年]]の間に合計322機の受注を獲得し、そのうちの合わせて160機はアメリカン航空とユナイテッド航空からの受注であった<ref name=norris161/><ref name=aaua>{{Cite web |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1988/1988%20-%201456.html |title=American and United buy 757s |last=Dormer |first=Ian |date=June 4, 1988 |work=Flight International |accessdate=July 15, 2011}}</ref>。このときまでに、米国の短距離国内路線と大陸横断路線では757が当たり前のように見られるようになり<ref name=eden100/>、老朽化した707や727、ダグラス[[DC-8]]、マクドネル・ダグラス[[DC-9]]を置き換えた<ref name=b53/>。{{nowrap|757-200}}の最大航続距離は3,900海里 (7,220 km){{sfn|青木|2014|p=51}}と727の1.5倍を超える長さとなり<ref name=727tech/>、航空会社は無着陸でより長い距離の路線に就航させることができた<ref name=b26-52>{{harvnb|Birtles|2001|pp=26, 52.}}</ref>。さらに、757は厳しい騒音規制が課せられた空港([[カリフォルニア州]]の[[ジョン・ウェイン空港]]など)<ref>{{harvnb|Birtles|2001|pp=48–49.}}</ref>や、機体サイズに制限があった空港([[ワシントンD.C.]]のビジネス街に近い[[ワシントン・ナショナル空港]](当時)など)<ref name=davies103/>からも飛び立つことが出来た。最終的に、デルタ航空とアメリカン航空ははそれぞれ100機以上の757を就航させ、米国で最大の757運用者となった<ref name=eden100/>。

欧州では、ブリティッシュ・エアウェイズ、イベリア航空、[[アイスランド航空]]が757の主要なユーザーとなった一方で、[[ルフトハンザドイツ航空]]など他の航空会社はナローボディ機のニーズに比べて757は大きすぎると考えた<ref name=making/>。また、1980年代の後半に欧州の多くのチャーター便航空会社({{仮リンク|エア2000|en|Air 2000}}、{{仮リンク|エア・ホラント|en|Air Holland}}、[[LTU国際航空]]など<ref name=757_O_D_summ/>)が757を採用してパッケージ旅行向けなどの便に使用した<ref name=eden100/><ref name=b53/>。アジアでは旅客数の多さから757より大きな機体が好まれたたため、受注数は少なかった<ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=6.}}</ref> 。1982年における757の販売実績は、潜在的顧客である[[日本航空]]に発注を促すほどのものではなかった<ref name=757_O_D_summ/><ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=25.}}</ref>。シンガポール航空はアジア初の757ユーザとなり、インドネシアとマレーシアの路線に757を就航させたが、ちょうど5年後の1989年には、保有機種を240席のワイドボディ機である[[エアバスA310]]に統一するために4機の757を売却してしまった<ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=50.}}</ref>。757は[[中華人民共和国]]では比較的受け入れられ、1987年に[[中国民用航空局]]が最初の発注を行った<ref name=eden100/>。中国での受注数は59機まで増えてアジアで最大の市場となった<ref name=757_O_D_summ/>。[[中国南方航空]]、[[中国西南航空]]、[[上海航空]]、[[厦門航空]]、[[中国新疆航空]]ら中国の航空会社は757を中距離国内線で使用した<ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=54.}}</ref>。

1986年にFAAはRB211エンジン仕様の757に対して、[[ETOPS]]と呼ばれる長距離飛行に関する規制緩和要件を認可し、北大西洋横断航路へ就航させられるようになった<ref name=eden98/><ref name=752b>{{Cite web |url=http://www.boeing.com/commercial/757family/pf/pf_200back.html |title=Boeing 757-200 Background |publisher=Boeing |accessdate=August 11, 2011}}</ref>。ETOPSは着陸可能な飛行場が近くに無い海上などを飛行する双発機に関してまとめられた安全規格であり、この要件のもとで航空会社は757を中距離国際線に就航させた<ref name=eden98/>。この認可は767が先行事例となった<ref name=no159/>。当初、757は大洋を横断する路線への就航は想定されていなかったものの、北米の大陸横断路線で蓄積された信頼性性能に基づいて規制当局の認可が下された<ref name=no159/><ref name=b26/>。PW2000シリーズエンジンを搭載した757に対するETOPS認証は[[1992年]]に認められた<ref name=b28/>。

1990年代の前半になると、FAAや[[アメリカ航空宇宙局]] (NASA) や[[国家運輸安全委員会]] (NTSB) などの米国の政府機関は757の[[後方乱気流]]特性について調査を始めた<ref name=wake>{{Cite web |url=http://oea.larc.nasa.gov/PAIS/Concept2Reality/wake_vortex.html |title=Concept to Reality – Wake-Vortex Hazard |publisher=National Aeronautics and Space Administration|archivedate=July 31, 2009|accessdate=July 29, 2011|archiveurl=http://web.archive.org/web/20090731181404/http://oea.larc.nasa.gov/PAIS/Concept2Reality/wake_vortex.html}}</ref>。757のすぐ後ろを飛行していた小型のプライベート機が操縦不能に陥り墜落した例など死亡事故2件を含む事故が続いたほか、小型機が757の背後を飛行中に予期しない[[ローリング]]運動を起こすという報告を受けた調査であった<ref name=wake/><ref name="htj-80"/>。調査団は757の主翼形状に着目して調査を行ったところ、離陸中や着陸中のある特定の状況において、757より大型の767や747よりも翼端の渦流が強くなる可能性があった<ref name=vortex>{{Cite web |url= http://www.airspacemag.com/need-to-know/Need_To_Know_757_hazard.html |title=Is the Boeing 757 a threat to other airliners?|work=Air & Space|first= Rebecca |last=Maksel|date=May 27, 2008|accessdate=March 25, 2012}}</ref>。これは試験飛行の時点では見過ごされていた<ref name="htj-80"/>。また、他の試験結果からは確定的な結論を出せず、各政府機関の間で論争を引き起こした<ref name=wake/>。結局、FAAは[[1994年]]と[[1996年]]に[[航空交通管制]]の規制を改訂し、757の直後を飛行する場合は大型機に分類される他のジェット機よりも間隔を大きくとることになった<ref name=wake/><ref>{{Cite web |url=http://www.faa.gov/air_traffic/nas_redesign/regional_guidance/eastern_reg/nynjphl_redesign/documentation/dei_statement/vol_2/media/fig_1_04_AircraftSeparation.pdf |title=New York/New Jersey/Philadelphia Metropolitan Airspace Redesign Project – FAA's Wake Turbulence Separation Standards |accessdate=July 29, 2011 |publisher=Federal Aviation Administration|page=1}}</ref> 。このため、FAAの分類規定において、757は136,000 kg(300,000[[ポンド]])に満たない航空機で唯一「heavy」ジェットに分類されることになった<ref name=vortex/>。

=== 胴体延長型の開発 ===
1990年代の前半には757の生産が年間100機となりピークを迎え<ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=37.}}</ref>、この間に発展型の検討も始められた<ref name=norris95/>。757はボーイング社の単通路ジェット機のなかで、10年以上にわたって発展型が存在しない唯一のモデルであり、航続距離延長型の{{nowrap|757-200X}}や胴体延長型{{nowrap|757-300X}}の噂がたびたび流れたが、公式な発表は行われていなかった<ref name=norris95/>。[[1980年代]]、[[エアバスA320]]の開発が始まろうとしていた時期には、対抗する商品として短胴型として757-50を検討していたが実現しなかった<ref name="htj-65"/>。一方、欧州のチャーター便航空会社のは座席定員を増やした胴体延長型に特に興味を示し、そのような機体ができれば757の特徴である長い航続距離をもっと活かすことができると考えていた<ref name=eden100/>。胴体延長モデルが実現すれば、チャーター便航空会社のニーズに応えられるほか、{{nowrap|767-200}}より低い運用コストで同等の乗客数を乗せられる機種がボーイングのラインナップ加わることになり<ref name=no96-8>{{harvnb|Norris|Wagner|1999|pp=96–98.}}</ref>、座席数185席の[[エアバスA321]]{{refnest|group=注釈|エアバス社のナローボディ旅客機A320の胴体延長モデルとして開発され、1993年に初飛行した{{sfn|青木|2014|p=116}}}}{{sfn|青木|2014|p=116}}の航続距離延長型にも対抗できる可能性があった<ref>{{harvnb|Eden|2008|p=25.}}</ref><ref name=ac>{{Cite web |url=http://www.aircraft-commerce.com/sample_articles/sample_articles/fleet_planning_2_sample.pdf |title=Analysing the options for 757 replacement |work=Aircraft Commerce |accessdate=December 19, 2011 |date=August 2005|pages=28, 30–31}}</ref>。

[[File:Condor Boeing 757-300 Pinter.jpg|thumb|1999年3月にコンドル航空は胴体延長モデル{{nowrap|757-300}}の最初の運航会社となった。|alt=飛行中の757を横から見たところ。降着装置も見える。]]

1996年の9月2日、チャーター便航空会社の{{仮リンク|コンドル航空|en|Condor Flugdienst}}から12機の発注を獲得し、ボーイングは[[ファーンボロー国際航空ショー]]において胴体延長型の{{nowrap|757-300}}の開発を発表した<ref name=norris95/><ref name="htj-65"/>。{{nowrap|757-200}}のローンチ後18年ぶりの発展型の開発となった<ref name="htj-65"/>。この新型機は{{nowrap|757-200}}よりも胴体が7.11メートル長くなり、座席数を約20パーセント、貨物室容積を約50パーセント増やすことができる機内空間が生み出された{{sfn|青木|2014|p=52}}。ボーイングは{{nowrap|757-300}}の設計期間を同社史上最短すべく開発に取り組み、ローンチから型式証明までに要した時間は27か月であった<ref name=norris95/>。開発上・コスト上の問題から大規模な改良は行われず、737ネクストジェネレーション(以下、737NG)シリーズで採用された新コックピットの採用も見送られた<ref name=norris101b/>。この胴体延長モデルは、改良されたエンジンと強化されたアビオニクスを搭載し、内装も再設計された<ref name=b28/><ref name=norris101b/>。{{nowrap|757-300}}の初号機は[[1998年]]5月31日にロールアウトし、同年8月2日に初飛行した<ref name=eden100/>。1999年1月に型式証明を受領し、[[1999年]]3月19日にコンドル航空が初就航させた<ref name=eden100/>。

{{nowrap|757-300}}は[[ATA航空|アメリカン・トランス航空]]、{{仮リンク|アルキア・イスラエル航空|en|Arkia Israel Airlines}}、[[コンチネンタル航空]]からも受注した<ref name=757_O_D_summ/>。ボーイングでは、この{{nowrap|757-300}}については「{{nowrap|757-200}}のリプレイスを行なう機材ではなく、{{nowrap|757-200}}と{{nowrap|767-300}}の隙間を埋める、全く新しい機体」としていた<ref name="htj-7"/>。しかし、{{nowrap|757-300}}の販売は低調で、最終的に合計55機が製造されるにとどまった<ref name=eden100/>。ボーイングは{{nowrap|767-200}}の2大顧客であったアメリカン航空とユナイテッド航空に後継機として{{nowrap|757-300}}を売り込もうとしたが、両社とも新型機の話に乗れるような財務状態では無かった<ref>{{Cite web |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/2002/2002%20-%202535.html |title=Fix sought as 757 backlog nosedives|last=Norris|first=Guy|date=August 27, 2002 |work= Flight International |accessdate=December 19, 2011}}</ref> 。他のチャーター便航空会社へも売り込みをかけたが、新たな受注につながらなかった<ref name=end/>。{{nowrap|757-300}}を市場投入したにもかかわらず、1999年11月までに販売が先細りし、受注残が減少したことを受けてボーイングは757の生産率を減らすことを検討し始めた<ref name=slow/>。

=== その後の展開 ===
757計画は財務上は成功をおさめたが、2000年代の初めには受注が伸び悩んで生産の継続が危うくなってきた<ref name=slow/><ref name=wichita>{{Cite web |url=http://www.kansas.com/mld/kansas/9361132.htm|archiveurl= http://web.archive.org/web/20050427170157/http://www.kansas.com/mld/kansas/9361132.htm |title=Wichita's final 757 to take a bow |first=Molly |last=McMillin|work=Wichita Eagle|date=August 10, 2004|accessdate=April 10, 2012|archivedate=April 27, 2005}}</ref>。航空会社は財務リスクが低下したことによって、再び737やA320といった、757より小さい機体を求めるようになっていた<ref>{{Cite web|url= http://www.flightglobal.com/articles/2003/11/04/173310/omens-good-for-old-757s-despite-production-axe.html |title=Omens good for old 757s despite production axe |work=Flight International |last=Kingsley-Jones |first=Max |date=April 11, 2003 |accessdate=July 27, 2011 }}</ref>。航空業界の景気が後退していたことに加え、機体年齢が比較的若い757が多く就航していたことも買い換え需要を少なくした<ref name=wichita/>。[[2000年]]にはエア2000とコンチネンタル航空が興味を示したことを受けて、ボーイングは長距離型の{{nowrap|757-200X}}を開発するかどうか再検討した<ref name=b31/>。提案された派生モデルは、補助燃料タンクを追加するとともに{{nowrap|757-300}}から主翼と降着装置を改良することで最大離陸重量を増やし、航続距離を5,000海里 (9,260 km)以上に延ばすというものであった<ref name=b31/>。しかし、この提案は受注を得られることは無かった<ref name=757_O_D_summ/><ref name=end/>。[[2001年]]3月には、ボーイングは中古の{{nowrap|757-200}}を貨物用の{{nowrap|757-200SF}}に改造してDHL航空に初めて引き渡した<ref name=dhl/>。この{{nowrap|757-200SF}}は、ボーイングが旅客機から[[貨物機]]への改造事業に初めて進出した事例となった<ref name=very/>。

[[File:Shanghai Airlines Boeing 757-26D B-2876 Gu.jpg|thumb|left|2005年に[[上海航空]]は757の最終号機 (B-2876) を受領した。|alt=前方斜め下から見上げた757の離陸の様子。降着装置も見える。]]

757に対する航空会社の興味は失われる一方で、[[2003年]]には販売キャンペーンがリニューアルされ、新規受注が5機しかなかった{{nowrap|757-300}}と{{nowrap|757-200PF}}に販売の軸足が移された<ref name=end/>。さらに、姉妹商品であるはずの767も、{{nowrap|767-400ER}}では[[ボーイング777|777]]と同様のグラスコックピットを採用したため、これまで通り757と767で共通という操縦資格を維持するためには、グラスコックピットでありながら在来型の計器表示での様式が必要となった<ref name="al295-130"/>。合理的な手段としては、{{nowrap|767-400ER}}以外の767についてもグラスコックピットの様式を揃えることが考えられ<ref name="al295-130"/>、実際に2003年からは{{nowrap|767-200ER}}・{{nowrap|767-300ER}}でも、コックピットを{{nowrap|767-400}}と同様式とすることになった<ref name="al280-46"/>。このような状況下で、757はボーイングの旅客機の中で、取り残され孤立した状態にあるとみられた<ref name="al295-130"/>。

その後、コンチネンタル航空が発注済みの{{nowrap|757-300}}のうち未受領分を{{nowrap|737-800}}に切り替える決定をしたことを受けて、2003年10月16日、ボーイングは2004年末で757の生産を終了することを発表した<ref name=end/><ref name="al295-129"/>。1,050番目となる最終機は上海航空向けの{{nowrap|757-200}}で、[[2004年]]10月28日にレントン工場での生産工程を完了し<ref name=last757built/>、[[2005年]]4月26日に納入された{{sfn|青木|2014|p=51}}<ref>{{Cite web |title= Last 757 Leaves Final Assembly|first= Sebastian |last=Steinke |work=Flug Revue |date=May 2005 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20080216203913/http://www.flug-revue.rotor.com/FRHeft/FRHeft05/FRH0501/FR0501a.htm |url=http://www.flug-revue.rotor.com/FRHeft/FRHeft05/FRH0501/FR0501a.htm|archivedate=February 16, 2008|accessdate=2014-04-20}}</ref>。ボーイングは757の生産プログラムが終了したのに合わせて、レントン工場の737型機の組み立てラインを整理・統合し、生産設備を40パーセント縮小して人員を他施設に移した<ref>{{Cite web |url= http://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-consolidates-at-renton-as-757-line-ends-177951/ |title=Boeing consolidates at Renton as 757 line ends |first= Guy|last=Norris |work=Flight International|date=February 24, 2004 |accessdate=December 19, 2011}}</ref>。

757の生産終了後も、特に米国では、ほとんどの機体はそのまま営業運航に就いていた<ref name=eden100/><ref name=taipei>{{Cite web |url= http://www.taipeitimes.com/News/biz/archives/2004/10/31/2003209132 |title=Boeing's last 757 rolls off the assembly line |work=The Taipei Times |date=October 31, 2004|accessdate=July 27, 2011 }}</ref> 。しかし、2004年から2008年の間にかけて燃料価格が跳ね上がり、航空会社は保有機材の燃料効率を改善する必要性に迫られた<ref name=fuel>"$3.3&nbsp;Million a Day – That's How Much American Airlines is Losing in the Era of Insane Fuel Prices." ''Fortune'', May 12, 2008, p. 94.<!-- (American Airlines' 757-200, St. Louis to San Francisco fuel expense: US$4,153 in 2004; US$14,676 in 2008) --></ref>。そこで、ボーイングは737NGで採用された[[ウィングレット|ブレンデッド・ウィングレット]]と同様のものを757に追加装備できるようにした{{sfn|青木|2014|p=51}}。{{nowrap|757-200}}へのウィングレットの取り付け改修はアビエーション・ パートナーズ社によって行われることになり、2005年5月にFAAからの認可が下りた{{sfn|青木|2014|p=51}}。{{nowrap|757-200}}のウィングレットを発注したのはコンチネンタル航空であった <ref name=Continental_Winglets>{{Cite web |last=Norris |first=Guy |url=http://www.aviationweek.com/aw/generic/story_channel.jsp?channel=comm&id=news/WINGLET020409.xml&headline=Continental%20Receives%20First%20Wingletted%20757-300 |title=Continental Receives First Wingletted 757-300 |work=Aviation Week & Space Technology |date=February 4, 2009 |accessdate=July 27, 2011}}</ref>。このウィングレットによって誘導抗力が減少して燃料効率が5パーセント向上し、航続距離が200海里 (370 km) 延長した<ref name="blended_winglets">{{Cite web |url=http://www.boeing.com/commercial/aeromagazine/aero_17/winglet_story.html|title=Blended Winglets|last1=Faye|first1=Robert|year=2002 |coauthors=Laprete, Robert, and Winter, Michael |work=Aero Magazine |accessdate=July 27, 2011}}</ref><ref>{{Cite web |url= http://www.flightglobal.com/articles/2008/06/27/224961/as-fuel-costs-spiral-winglets-are-a-simple-way-for-airlines-to-cut-fuel-consumtion.html |title=As fuel costs spiral, winglets are a simple way for airlines to cut fuel consumption |work=Flight International |accessdate=July 27, 2011 |date=June 27, 2008}}</ref>。{{nowrap|757-300}}へのブレンデッド・ウィングレット追加改修についても2008年にFAAから認可され、改修作業はアビエーション・ パートナーズ社によって行われた{{sfn|青木|2014|p=53}}。{{nowrap|757-300}}のウィングレット改修第1号は{{nowrap|757-200}}と同じくコンチネンタル航空の機体で、2009年2月に就航を開始した<ref name=Continental_Winglets/>{{sfn|青木|2014|p=53}}。

[[File:Continental Airlines Boeing 757-300 Iwelumo.jpg|thumb|[[コンチネンタル航空]]のウィングレット装着機{{nowrap|757-300}}。ウィングレットにより誘導抗力が減り、燃料効率が改善される。|alt=左下からみた上昇中の757。]]

2010年代には、757は米国の全レガシーキャリア{{refnest|group=注釈|「[[格安航空会社]]に対し、機内食の無料提供など従来どおりの付帯サービスを完備する航空会社」。引用元:デジタル大辞泉<ref>{{Cite web |url=http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/262033/m0u/ |title=フルサービスこうくうがいしゃ【フルサービス航空会社】の意味 - 国語辞書 - goo辞書 |accessdate=2014-04-25}}</ref>}}(アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空、USエアウェイズ)がまとまった機数を運用している唯一のナローボディ機となった<ref name=WAC2013/><ref name=ac/>。757の持つ収容能力と航続距離性能に肩を並べられるほどのナローボディ機は依然として存在しなかった<ref name=FI757>{{Cite web |url= http://www.flightglobal.com/blogs/flightblogger/2010/09/icelandairs-757-replacement-di.html |title=Icelandair's 757 replacement dilemma|first=Jon |last=Ostrower |work=Flight International|date=September 5, 2010 |accessdate=December 19, 2011}}</ref>。航空会社が757を置き換える際には、座席数が少なく航続距離が短い機種({{nowrap|737-900ER}}、A321など)を選ぶか、大型で航続距離が長いワイドボディ機(787ドリームライナー、A330-200など)を選ぶかのいずれかを強いられた<ref name=ac/><ref name=push>{{Cite web|url=http://www.seattlepi.com/business/article/Push-is-on-for-a-midrange-Dreamliner-1265026.php |title= Push is on for a midrange Dreamliner |work=Seattle Post-Intelligencer |accessdate=June 7, 2011 |last= Wallace |first= James |date= February 20, 2008 }}</ref>。1989年に登場した[[Tu-204 (航空機)|ツポレフ Tu-204]]は757に近い設計のナローボディの双発ジェット旅客機で<ref>{{Cite web|url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1991/1991%20-%200430.html|title=Tupolev Takes on Boeing|date=February 26, 1991|work=Flight International|accessdate=May 2, 2012}}</ref>、座席数200席のバージョンが存在したが、主にロシアの航空会社向けと見られていた<ref>{{harvnb|Eden|2008|p=186.}}</ref><ref>{{Cite web |url= http://www.flightglobal.com/news/articles/tu-204sm-struggles-as-key-supporter-backs-away-355994/ |title=Tu-204SM struggles as key supporter backs away |first= Vladimir|last=Karnozov|date=April 27, 2011|work=Flight International|accessdate=May 3, 2012}}</ref>。ボーイング社内では、215席で航続距離3,200海里 (5,930 km) の{{nowrap|737-900ER}}が{{nowrap|757-200}}に最も近い機種と見なされた<ref name=900ER>{{Cite web|url=http://www.aviationweek.com/aw/generic/story_generic.jsp?channel=aviationdaily&id=news/739B07205.xml |title= Boeing's 737-900ER Seen As Direct Competitor To A321 |work=Aviation Week & Space Technology|accessdate=May 8, 2009 |last=Schofield |first=Adrian |date=July 20, 2005}}</ref>。

ボーイング関係者は2011年に757の後継機となる200席級の旅客機の開発に取り組む計画は無いと述べた<ref name=replace>{{Cite web |url= http://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-rules-out-757-sized-replacement-for-new-narrowbody-357157/ |title=Boeing rules out 757-sized replacement for new narrowbody |first=Jon |last=Ostrower |work=Flight International|accessdate=December 19, 2011|date=May 25, 2011}}</ref>。その代わり、{{nowrap|737-700}}と{{nowrap|737-800}}でカバーしていた座席数145から180席の市場向けにコードネーム「[[Y1|ボーイングY1]]」と呼ばれる新型旅客機が検討されていた[<ref name=replace/><ref name=Y1>{{Cite web |url= http://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-firms-up-737-replacement-studies-by-appointing-205223/ |title=Boeing firms up 737 replacement studies by appointing team |work=Flight International|date= March 3, 2006|accessdate=April 2, 2012}}</ref>。Y1の胴体延長モデル、または787の中距離バージョンが実現すれば757の後継機となる可能性があった<ref name=push/>。しかし、2012年にY1プロジェクトは棚上げされ、737に新エンジンを採用して再設計する「737MAX」を開発することが決まった<ref name=757replace/>。ボーイングは737MAXの最大モデルで757の代替市場の大部分をカバーできるだろうと考えた<ref name=757replace>{{Cite web |url= http://www.flightglobal.com/news/articles/boeing-confirms-long-haul-757-replacement-study-371163/ |title=Boeing confirms long-haul 757 replacement study |first=Stephen|last=Trimble|work=Flight International|date=April 26, 2012|accessdate=April 30, 2012}}</ref>。それと同時に、ボーイングは大西洋横断路線を想定した757の長距離型の後継機に関する研究を行っていることを明らかにした<ref name=757replace/>。

== 機体の特徴 ==
=== 概観 ===
[[File:Ethiopian Airlines Boeing 757-28A ET-AMK.jpg|thumb|left|上から見下ろした[[エチオピア航空]]の{{nowrap|757-200}}。[[ロンドン・ヒースロー空港]]にて。|alt=駐機場を移動中の双発ジェット機を上から見下ろした写真。]]

757は片持ち式の主翼を低翼に配置した[[単葉機]]であり、胴体尾部に水平尾翼と垂直尾翼を直接取り付けた通常の尾翼構造を持つ。主翼はスーパークリティカル翼断面で前縁スラットを5枚、6枚のスポイラー、そして、シングル・スロッテッド・フラップ、ダブル・スロッテッド・フラップ、外側エルロンを1枚ずつ備える<ref>{{harvnb|Velupillai|1982|pp=15–18.}}</ref>。主翼の翼型などは757シリーズで同一であり、25度の後退角を持ちマッハ0.8(時速858キロメートル)での巡航に最適化された<ref name=intro15/>{{sfn|青木2014|p=52}}。25度という後退角は浅いものであるが{{sfn|青木2014|p=52}}{{refnest|group=注釈|例えば、同時期に共通の技術によって開発された767の主翼は31度の後退角である{{sfn|山崎|2009|p=229}}。}}、これによって内側エルロンが不要となり、飛行経路のほとんどが上昇と下降で占められる短・中距離路線では抗力による悪影響をほとんど受けなかった<ref name=b18/>。機体には[[複合材料]]と強度を改善した[[アルミニウム合金]]が採用され、機体重量が約900キログラム軽減された<ref name=intro19/>。使用された複合材料には主に[[炭素繊維強化プラスチック]](CFRP)と[[ケブラー]](アラミド繊維)強化複合材料(KFRP)で、[[昇降舵]]、[[方向舵]]、[[エルロン]]、[[スポイラー (航空機)|スポイラー]]、[[カウル|エンジンカウル]]、エルロンカバー、脚格納室のドア、点検用パネルなどに使用された<ref name=intro19/><ref name=norris153/>。使用された炭素繊維は日本の東レから提供された{{sfn|山崎|2009|p=232}}。

[[File:United Airlines B757-200 on down the glideslope.jpg|thumb||着陸のためのファイナルアプローチに入った[[ユナイテッド航空]]の{{nowrap|757-200}}を真下から見上げる。降着装置を下し、フラップとスラットを展開している。|alt=飛行中の機体を真下から見上げた写真。左右の主翼にエンジンが1つずつ備わっている。胴体が丸い機首からまっすぐ伸び、尾部で徐々に細くなって2枚の水平尾翼が取り付けられている。]]

757の降着装置は引込式のものを前輪式<ref group="注釈">機首部に前輪、左右の主翼付近に主脚を配置する方式。</ref>に配置され、727では2輪式だった主脚が4輪式に変更された<ref name=b47/><ref name="htj-59"/>。胴体延長型の{{nowrap|757-300}}については、離着陸時に尾部が地面にあたるのを避けるため、従来のボーイング製ナローボディ機よりも降着装置の脚長を長くした<ref>{{harvnb|Norris|Wagner|1998|p=150.}}</ref>。1982年には{{nowrap|757-200}}は亜音速ジェット機として初めてカーボンブレーキ(ダンロップ製)がオプション設定された<ref>{{Cite web|url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1982/1982%20-%201872.html|title=Carbon brakes for 757|date=July 17, 1982|work=Flight International|accessdate=February 2, 2011}}</ref>。

757と767でアビオニクスとコンピュータシステムが共通化されたほか、757の[[補助動力装置]] (APU)、電力システム、操縦室、油圧系の部品には767と同じ物が採用された<ref>{{harvnb|Velupillai|1982|pp=14–15.}}</ref>。757と767の間では飛行特性を揃える工夫がなされ、パイロットの操縦資格も共通化された{{sfn|青木|2014|p=50}}<ref name=norris23/><ref>{{harvnb|Wells|Clarence|2004|p=252.}}</ref>。757のパイロットは767にも乗務できる共通資格を取得できることで、両機種を運用する航空会社では操縦士の勤務割り当てを行う際の自由度が増すことなどから、コストが低減される<ref name="htj-70"/><ref name=intro12/><ref name=752b/>。

=== 飛行システム ===
[[File:Boeing 757-200 flight deck view.JPG|thumb|[[アメリカン航空]]の{{nowrap|757-200}}のコックピット。CRTディスプレイが配置され、パイロット2名での運航を可能にする設計がなされた。|alt=757のコックピットの様子。6枚のカラーディスプレイが配置されている。]]

操縦室には、6個のCRTで航空機の計器情報を表示するロックウェル・コリンズ製のコクピットシステムや電子飛行計器システム (electronic flight instrument system, EFIS)、エンジン計器・乗員警告システム (engine indication and crew alerting system, EICAS)が装備されている<ref name=norris23/>。これらのシステムにより、パイロットが航空機関士に頼らずにモニタリング作業を行うことが可能になった<ref name=norris23/>。757の飛行管理システムは初期の747で用いられたシステムに改良を重ねたものであり、航法をはじめ諸機能が自動化されたほか<ref name=norris23/>、自動着陸システムによって[[視程]]150メートルの視界不良状態においてもカテゴリーIIIb計器着陸が容易になった<ref>{{harvnb|Birtles|2001|pp=44, 50.}}</ref>。{{nowrap|757-200}}で搭載された[[慣性航法装置]]はレーザージャイロスコープを使用した最初の事例となった<ref name=eden99/>。{{nowrap|757-300}}では操縦室のアップグレードがはかられ、ハネウェル社のペガサス飛行管理コンピュータとEICASの改良版が搭載され、各種ソフトウェアシステムのアップデートも行われた<ref name=eden101/>。

操縦室を767と共通化するため、757の機首は従来のナローボディ機と比べて丸みを帯びた形状となった<ref name=b12/><ref>{{harvnb|Birtles|2001|pp=43–44.}}</ref>。このことによりスペースに余裕が生まれ、計器パネルの可視性が確保されたほか、オブザーバーシートのための場所もできた<ref name=no161>{{harvnb|Norris|Wagner|1998|p=161.}}</ref>。また、757と767とでパイロットの視界を揃えるために、757ではコックピット全体を下に2度傾けた上で客室より少し低く配置されたほか、コックピット正面の2枚の窓を767と同一にし、残りの窓についても胴体形状と辻褄をあわせつつ形状や配置が工夫された<ref name=making/><ref name="al295-129"/><ref name="al294-73"/><ref name=intro16/>。

757には独立した3系統の油圧システムが搭載され、2基のエンジンで油圧1系統をそれぞれ駆動し、最後の1系統は電動ポンプで駆動される<ref name=intro19/><ref name=b47/>。緊急事に操縦を行うために最低限必要となる電力を供給するため、[[ラムエア・タービン]]も装備されている<ref name=b47/>。従来の機械的なケーブル類に代わって電気的信号により操舵する[[フライ・バイ・ワイヤ]]の基本形がスポイラー操作系に採用された<ref name=intro20/>。このフライ・バイ・ワイヤシステムは767と共通のもので<ref name=intro20/>、このシステムにより機体重量が低減されたほか、個々のスポイラーを独立して操作可能になった<ref name=saver>{{Cite web |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1981/1981%20-%202612.html |title=Boeing 767: The new fuel saver |date=August 8, 1981 |last=Velupillai |first=David |work=Flight International |accessdate=July 30, 2011|page=440}}</ref>。また、757をETOPSに適合させる際には、信頼性向上のために油圧モーター発電機のバックアップと電子機器収納区画の冷却ファンの予備が追加された<ref name=752b/>。

=== 客室 ===
[[File:757-200 Pantallas Tactiles Delta.jpg|thumb|left|757-200[[デルタ航空]]機のアップグレード改装後のエコノミー席。中央の通路を挟んで座席が3席ずつ配置されている。各座席の背面にモニターが取り付けられている。]]

座席配置は、中央に通路を挟んで1列あたり6席まで配置可能である<ref name=eden99/>。757は当初、平均2時間程度のフライトが最適になるように設計された<ref name=intro12/>。客室には、空間をより広く感じられるような内装デザインや照明が取り入れられた<ref name=intro13/>。座席上の荷物棚(オーバーヘッド・ビン)は767と同様に、ガーメントバッグ<ref group="注釈">スーツなどの衣服をハンガーに掛けたまま持ち運べる折り畳み式かばん</ref>を収納できるものが採用され<ref name=reshaped/>、727と比べて2倍の大きさになった<ref name=intro13/>。エコノミークラスの最後尾には767と同様に[[ギャレー]]が標準装備された<ref name=reshaped>{{Cite web |url= http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9B02E3D61438F937A15756C0A967948260&sec=travel&pagewanted=all |title=How Airline Cabins are being Reshaped |work=The New York Times |date=May 24, 1981 |last=Pace |first=Eric |accessdate=February 1, 2011}}</ref> 。機体重量を低減するため、内装パネルや荷物棚にはハニカム・サンドイッチ構造材が使用された<ref name=intro13/>。着水したときに備えて、757の乗降口には747に見られるような脱出用スライドと救命いかだが一体になった緊急脱出装置が採用された<ref name=intro13/>。1980年代には、ボーイングは自社の他のナローボディ機についても757と同様の内装デザインに改めた<ref>{{Cite web|url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1982/1982%20-%200369.html|title=Boeing's Big, Quiet 737-300|work=Flight International|date=February 12, 1982|accessdate=July 27, 2011}}</ref>。

1998年に登場した{{nowrap|757-300}}では内装が再設計され、737NGシリーズや777に類似したデザインが採用された{{sfn|青木|2014|p=52}}。間接照明が採用されたほか、オーバーヘッド・ビンが従来より大型になり、ビンの下部には乗客が移動しやすいように手すりが取り付けられた<ref name=norris101/>。通路の天井にはセンターライン・ストレージ・コンテナが取り付けられ、予備の救命いかだなど非常用装備が追加された<ref>{{harvnb|Norris|Wagner|1999|p=112.}}</ref>。この{{nowrap|757-300}}の内装は、のちに{{nowrap|757-200}}の新造機でもオプションとして取り入れられた<ref>{{Cite web |url= http://www.boeing.com/news/releases/2000/news_release_000425b.html |title=Icelandair Takes First Boeing 757-200 with New Interior|publisher=Boeing|date=April 25, 2000|accessdate=April 1, 2012}}</ref>。その後、車輪付きのスーツケースが一般に広まったことをうけて、デルタ航空は2000年に保有している{{nowrap|757-200}}のオーバーヘッド・ビンの大型化改修を行い<ref>{{Cite web |url= http://www.odysseymediagroup.com/apn/Editorial-Airlines-And-Airports.asp?ReportID=11981 |title=Delta Air Lines Announces Installation Of Overhead Bin Extensions.|publisher=Delta Air Lines |date=May 15, 2000|accessdate=June 7, 2012}}</ref>、続いて2001年にアメリカン航空も同じ改修を行った<ref>{{Cite web |url= http://www.thefreelibrary.com/American%27s+First+Aircraft+Featuring+Bigger+Overhead+Bins+and+More...-a069256637 |title=American's First Aircraft Featuring Bigger Overhead Bins Takes to the Skies.|publisher=American Airlines|date=January 17, 2001|accessdate=August 18, 2011}}</ref>。この荷物棚の大型化改修は、天井パネルや照明の改良を含む[[アフターマーケット]]での内装アップグレードの一環として行われた<ref>{{Cite web |url= http://www.nwbmonline.com/content/newsm/news.asp?show=VIEW&a=1335 |title=Heath Tecna to unveil Project Amber for B737s and B757s |work=Northwest Business Monthly|year=2011|accessdate=August 18, 2011}}</ref>。757の化粧室には日本の[[横浜ゴム]]社製のユニット採用され同社から独占供給されたほか、内装リニューアルのための改良版ユニットも同社から発売された<ref>{{Cite web|author=横浜ゴム|title=ボーイング737、757用ラバトリーモジュールを供給|date=2002-05-01|url=http://www.yrc.co.jp/release/?id=152&lang=ja|accessdate=2014-04-20}}</ref><ref>{{Cite web|author=横浜ゴム|title= 化粧室ユニットをアメリカン航空に供給|date=2009-04-30|url=http://www.yrc.co.jp/release/?id=1073&lang=ja|accessdate=2014-04-20}}</ref>。
{{clear}}

== シリーズ構成 ==
[[File:N606AA-2008-09-13-YVR.jpg|thumb|right|[[アメリカン航空]]の{{nowrap|757-200}}]]
757は標準型の{{nowrap|757-200}}と胴体延長型の{{nowrap|757-300}}が生産された<ref name=b38/>。まず、基本モデルとなる旅客型の{{nowrap|757-200}}が登場し、後にその発展型として貨物型の{{nowrap|757-200PF}}と{{nowrap|757-200SF}}<ref name=very/>ならびに貨客混載型の{{nowrap|757-200M}}が登場した<ref name=b38/>。胴体延長型の{{nowrap|757-300}}は旅客型のみ存在する<ref name=753b>{{Cite web |url=http://www.boeing.com/commercial/757family/pf/pf_300back.html |title=Boeing 757-300 Background |publisher=Boeing |accessdate=April 8, 2012}}</ref>。

ボーイング社や航空会社では機種名 (757) と派生型の識別名(例:{{nowrap|-200}}や{{nowrap|-300}})をまとめた短縮表示(例:752や753<ref>{{Cite web |url= http://www.delta.com/planning_reservations/plan_flight/aircraft_types_layout/index.jsp |title=Airplane Types and seating maps|publisher=Delta Air Lines |accessdate=April 3, 2012}}</ref>)を使うことがある。[[国際民間航空機関]] (International Civil Aviation Organization, ICAO)では{{nowrap|757-200}}を基準として757シリーズを分類しており{{nowrap|757-200}}はB752、{{nowrap|757-300}}はB753というコード名が使われている<ref name=ICAOcode/>。

=== 757-200 ===
{{Vertical_images_list
{{Vertical_images_list
|幅= 200px
|幅= 200px
| 1=757-200 Pantallas Tactiles Delta.jpg
| 2=機内
| 3=Jet2-757-faro.jpg
| 3=Jet2-757-faro.jpg
| 4=標準のドア配置。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼後方にタイプIの非常口が1つ
| 4=標準のドア配置。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼後方にタイプIの非常口が1つ
92行目: 166行目:
| 6=改良型。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼上にタイプIIIの非常口が2つ
| 6=改良型。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼上にタイプIIIの非常口が2つ
}}
}}
757-200はシリーズで最初に開発され、1983年に初就航した<ref name=norris161/>。{{nowrap|757-200}}のローンチ当初の側面の扉配置は、最前部、主翼前方、最後部に乗降用ドア(またはサービス・ドア)を配し、扉下端が床面となる大きさの非常口を主翼後方に設けていた<ref name="htj-60"/><ref name=757plan_15/>。しかし、デルタ航空へ納入された機材では、主翼後方の非常口に代えて、主翼上に小型の非常口を2つ設置する仕様となった<ref name="htj-60"/><ref name=757plan_15/>。この仕様では座席を8席増加させられるため、以後はこの仕様が主流となった<ref name="htj-60"/>。最初に757-200に採用されたエンジンはRR社ののRB211-535Cであるが、1984年10月にRB211-535E4にアップグレード更新された<ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=41.}}</ref>。他に搭載されているエンジンは、RR社のRB211-535E4B、P&W社のPW2037とPW2040である<ref name=200f_tech/>。
低翼配置、双発[[ターボファンエンジン]]装備のナローボディー旅客機である。座席配置は、通路を挟み[[エコノミークラス]]標準で3-3となっている。


757-200は短・中距離路線向けに設計されたが、実際に就航されると、高頻度のシャトル便から大西洋横断路線まで幅広い役割を担った<ref name=eden100/>。1982年にETOPS認証を取得した後、[[ATA航空]]は757-200を米国の[[ツーソン]]-[[ホノルル]]便に投入した<ref name=b28/>。21世紀入って、米国の大手航空会社は欧州と米国を結ぶ大西洋横断路線に757-200を就航させ、特に、ワイドボディ機を用いるほどの旅客需要がない小都市間の路線に用いられた<ref>{{cite news |url= http://www.nytimes.com/2007/07/29/travel/29pracsqueeze.html |title=The Flights Are Long. The Planes Are Cramped.|work=The New York Times|first=Michelle|last=Higgins|date=July 29, 2007 |accessdate=April 4, 2012}}</ref>。757-200は757シリーズ中で最多となる913機が製造された<ref name=757_O_D_summ/>。757シリーズで最後に生産された機体もこのタイプで、[[2005年]][[4月26日]]に顧客へ引き渡された{{sfn|青木|2014|p=51}}。
757と767は、同時期に姉妹的関係で開発が行われたことから、共通点が多い。[[主翼]]を始めとするいくつかの部品が共通であるほか、整備方式も似通ったものになっている。また、操縦資格も共通となっており、数日間の訓練で移行が可能となっている。このため、コクピット全体を下に2度傾けることで、進入時の角度を767とそろえたり<ref name="al295-129"/>、客室床面より少し低い位置にコックピットを配置する<ref name="al294-73"/>などの工夫を行なっている。


===757-200PF===
なお、757-200型のローンチ当初の側面の扉配置は、最前部・主翼前方と最後部にタイプAドア、主翼後方にタイプIの非常口を設けていた<ref name="htj-60"/>。しかし、デルタ航空へ納入された機材では、主翼後方のタイプI非常口に代えて、主翼上にタイプIIIの非常口を2つ設置する仕様となった<ref name="htj-60"/>。この仕様では座席を8席増加させられるため、以後はこの仕様が改良型として主流となった<ref name="htj-60"/>。757-300型では側面の扉配置は1種類だけで、最前部・主翼前方と最後部にタイプAドア、主翼上にタイプIIIの非常口を2つ設置した上で主翼後方にタイプIの非常口を設けている。
[[File:United Parcel Service 757-200PF.jpg|192|thumb|right|UPSの{{nowrap|757-200PF}}]]
{{nowrap|757-200}}の貨物専用型として製造され、1987年にUPS航空が初就航させた<ref name=b26>{{harvnb|Birtles|2001|p=26.}}</ref>。PFは「'''P'''ackage '''F'''reighter」の頭文字である<ref name="htj-63"/>。小口貨物の速達事業者向けに開発され<ref name=b26/>、メインデッキの貨物搭載容積は187立方メートルで、航空貨物コンテナまたはパレットを15個まで搭載可能である<ref name=757plan_11/>。また、胴体下部には52立方メートルの貨物スペースがあり、ばら積み貨物を搭載できる<ref name=757plan_11/>。コンテナ重量を含めた積載可能重量は最大で39,780キログラムである<ref name=200f_tech/>。757-200PFの最大離陸重量は115,668キログラムで、最大積載時の最大航続距離は3,150海里(5,834キロメートル)である<ref name=200f_tech/>。757-200PFは貨物専用機であり乗客がいないので、ETOPSの規制を受けることなく大西洋横断路線に就くことが可能である<ref name=b28/>。搭載されているエンジンは、RR社のRB211-535E4B、P&W社のPW2037、PW2040のいずれかである<ref name=200f_tech/>。


757-200PFにはメインデッキの貨物を搭載するため、上側に開く大型の貨物扉が胴体前方の左舷に設けられている<ref name=norris162>{{harvnb|Norris|Wagner|1998|p=162.}}</ref>。また、この機種には乗客用のドアや客室窓、乗客用設備が一切なく、乗務員用のドアが貨物扉の前方に設置されている<ref name=757plan_5/><ref name=bowers>{{harvnb|Bowers|1989|p=540.}}</ref>。メインデッキの貨物室の床面はガラス繊維を用いた複合材で強化されているほか、貨物がコックピットにぶつかるのを防ぐための防護壁が設けられている<ref>{{harvnb|Kane|2003|pp=551–52.}}</ref><ref name=bowers/>{{sfn|青木|2014|p=239}}。大西洋横断路線向けの追加装備として、UPS社が保有する757-200PFでは補助動力装置がアップグレードされたほか、貨物室に追加の消火装置が搭載され、オプションの燃料タンクが胴体尾部の下部に追加された<ref name=b28/>。757-200PFの総生産数は80機である<ref name=757_O_D_summ/>。
=== エンジン ===
搭載[[ジェットエンジン|エンジン]]については、初期は[[ロールス・ロイス plc|ロールス・ロイス]](RR)製[[ロールス・ロイス RB211|RB211-535C]] ターボファンエンジンであり、[[ゼネラル・エレクトリック CF6]]搭載も検討されたが需要が無く実現しなかった。後にRR RB211-535Eや[[プラット・アンド・ホイットニー]](P&W)製PW2037、PW2040、PW2043の搭載が可能となり、燃費向上・出力向上が行われた。


=== 757-200M ===
なお、ロールスロイス製エンジン搭載仕様の受注によるローンチはボーイングの旅客機では初めてのケース<ref name="htj-60"/>となり、その後も[[ボーイング787|787]]のローンチまで例がなかった<ref group="注釈">ボーイング787のローンチカスタマーである[[全日本空輸]]はロールス・ロイスのエンジンを選択した。{{Cite web| url = https://www.ana.co.jp/pr/04-1012/04-127.html| title = 次世代中型機「7E7シリーズ」のエンジンを「Trent 1000」に決定(全日本空輸公式サイト内プレスリリース)| accessdate = 2009-12-16}}</ref>。
[[File:ロイヤルネパールエアラインズ.jpg|thumb|right|[[ネパール航空]]の{{nowrap|757-200M}}。タラップの左側に貨物ドアが見える]]
757-200Mは、メインデッキに貨物と乗客を収容できる貨客混載型として開発され、1988年にロイヤル・ネパール航空(のちに「ネパール航空」に改名)が就航させた<ref name=757_O_D_summ/><ref>{{cite web |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1988/1988%20-%203644.html |title=World Airliner Census|work= Flight International |accessdate=April 8, 2012|page=58|date=December 17, 1988}}</ref>。このタイプは757-200M「コンビ」とも呼ばれ{{sfn|青木|2014|p=239}}、扉と窓の配置は標準型の{{nowrap|757-200}}を踏襲しているが、{{nowrap|757-200PF}}と同様の貨物扉が設置されている<ref name="b28"/>。貨物扉の設置位置は胴体左舷の最前部(No.1ドア)と主翼前方のドア(No.2ドア)との間にあたり、この貨物扉にも窓がある(右写真参照)。


ネパール航空は[[ヒマラヤ山脈]]の麓に位置する[[トリブバン国際空港]]からの旅客・貨物の運送需要を満たすため、757-200Mを発注した<ref>{{harvnb|Norris|Wagner|1998|p=146.}}</ref>。この派生モデルは737や747で作られたコンバーチブル型<ref group=注釈>メインデッキに貨物スペースを客席スペースを設定可能な派生型</ref>にならって開発され、2個から4個の貨物パレットをメインデッキに搭載でき、残りのスペースを客席にすることで123席から148席まで設けることが可能である<ref name=b28/>。{{nowrap|757-200M}}はネパール航空が発注した1機のみが製造され<ref name=757_O_D_summ/>、エンジンにはRR社のRB211-535E4を採用し、最大離陸重量は109,000キログラムである<ref name=b28/><ref name=b38/>。
しかし、このエンジンの出力向上により、着陸進入時の後方気流が大きいことが問題視されるようになった<ref name="htj-80"/>。これは試験飛行の時点では見過ごされていたが<ref name="htj-80"/>、小型機が757の後方気流に巻き込まれて破損や墜落に至る事故が実際に発生した<ref name="htj-80"/>。このため、アメリカの航空交通管制では、便名の後にワイドボディ旅客機並みに「heavy」(大型機を表す符丁)と付されることになった<ref name="htj-80"/>。


2010年10月に、ペムコ・ワールド・エア・サービス社とプレシジョン・コンバージョンズ社は、旅客型の757-200からコンビ仕様への改造事業にそれぞれ乗り出した<ref name=pemco>{{cite web|url=http://atwonline.com/aircraft-engines-components/news/pemco-launches-757-200-combi-conversation-program-1026 |accessdate=October 30, 2010 |title=Pemco launches 757-200 Combi conversation program |work=Aviation Week & Space Technology |date=October 30, 2010}}</ref><ref name=precision>{{cite web |url= http://www.flightglobal.com/news/articles/precision-follows-pemco-in-launching-757-combi-conversion-348774/ |title=Precision follows Pemco in launching 757 combi conversion|date=October 21, 2010|last=Sobie|first=Brendan|work=Flight International|accessdate=April 3, 2012}}</ref>。また、{{仮リンク|VTシステムズ|en|VT Systems}}社も類似した改造事業を2011年12月に開始した<ref name=vtcombi>{{cite web |url= http://www.staero.aero/www/mediacentre_newsarticle.asp?newsid=OTAwMDAwMDE5Nw&yname=MjAxMA&arc=bm8 |publisher=ST Aerospace|title=North American Airlines and VT Systems plan conversion of Boeing 757-200 to Combi configuration|date=December 17, 2010|accessdate=April 3, 2012}}</ref>。これら3社による改造事業は、機体の前方に貨物パレットを10個まで搭載できるよう改造し、残りのスペースに45席から58席程度の座席を配置するというものである<ref name=pemco/><ref name=precision/><ref name=vtcombi/>。757コンビ改造機の顧客は、{{仮リンク|エア・トランスポート・サービス・グループ|en|Air Transport Services Group}}、{{仮リンク|ナショナル航空 (N8)|en|National Airlines (N8)}}、[[ノースアメリカン航空]]である<ref name=vtcombi/>。
== 派生型 ==
2つの基本型が生産された。757-200型機は短胴型で757-300型機より航続距離が長いタイプである。100型は提案されたのみで受注を得られなかったため、生産はされなかった。


=== 757-100 ===
=== 757-200SF ===
[[File: B-757 Frachter, DHL.jpg|thumb|right|DHLの{{nowrap|757-200SF}}]]
短胴型。727-200の代替にするために150席の標準型として最初に設計されたが、航空会社からの受注が得られず開発が中止された<ref name="htj-59"/>。
757-200SFは、旅客型の757-200を貨物用に改造したもので、2001年にDHL航空が就航させた<ref name=dhl>{{cite web|url= http://www.flightglobal.com/articles/2001/03/20/127574/converted-boeing-757-200-freighter-enters-service-with-dhl.html|title=Converted Boeing 757-200 freighter enters service with DHL|work=Flight International|date=March 20, 2001|accessdate=July 27, 2011}}</ref><ref>{{cite web |url=http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1999/1999%20-%203015.html |title=Boeing launches turnkey initiative with DHL freighter conversion contract|last=Kingsley-Jones|first=Max|date=October 13, 1999|work= Flight International |accessdate=April 3, 2012}}</ref>。SFは「'''S'''pecial '''F'''reighter」の意味である<ref name="htj-64"/>。ボーイングの一部門である「Boeing Airplane Serives」が改造した上で[[DHL]]にリースする契約となっている<ref name="htj-64"/>。また、[[イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ]]社、プレシジョン・コンバージョンズ社、{{仮リンク|STエアロスペース|en| ST Aerospace}}社も、757-200SFへの改造を請け負っている<ref name=dhl/>。改造は旅客用設備を撤去した上で、メインデッキの構造を強化し、胴体左舷前方に{{nowrap|757-200PF}}と同様の貨物扉を設置する<ref name=very>{{cite web|url= http://www.flightglobal.com/articles/2000/09/19/120359/very-special-freighters.html|title=Very special freighters|date=September 19, 2000|work=Flight International|accessdate=July 27, 2011}}</ref>。前方の2か所のドアを残し、メインデッキに757-200PFより1つ少ない14個の貨物パレットを搭載可能である<ref name=very/>。動物を搬送するための環境調整機能を備えた機体もある<ref>{{cite web |url= http://www.business-standard.com/india/news/blue-dart-inducts-two-boeing-757-200-freighters/248613/ |title=Blue Dart inducts two Boeing 757-200 freighters|work=Business Standard|date=May 31, 2006|accessdate=June 2, 2012}}</ref> 。2006年9月には、フェデックス・エクスプレスは2億6千万ドルで757の貨物改造機を80機以上導入し、727貨物機と置き換える計画を発表した<ref name="FedEx Fleet">{{cite web|url=http://articles.orlandosentinel.com/2006-09-26/business/FEDEX26_1_fedex-boeing-overnight-shipping|title=FedEx to spend $2.6 billion to replace its fleet of 727s|accessdate=April 1, 2012|last=Torbenson|first=Eric|author2=Gunsalus, James|publisher=Bloomberg|date=September 26, 2006}}</ref>。2014年2月には、貨物パレットを15個搭載できる仕様についても発表されている<ref>{{Cite web |url=https://www.staero.aero/downloads/2014/ST%20Aerospace%20signs%20757-200SF%2015%20pallet%20freighter%20conversion%20contract%20with%20SF%20Airlines.pdf |title=ST AEROSPACE SIGNS 757-200SF 15-PALLET FREIGHTER CONVERSION CONTRACT WITH SF AIRLINES |date=2014-02-10 |accessdate=2014-05-01}}</ref>。


=== 757-200 ===
=== 757-300 ===
[[File:B753.jpg|right|thumb|200px|[[ノースウエスト航空]]の757-300]]
==== 標準型 ====
{{nowrap|757-300}}は胴体延長型として開発され、1999年にコンドル航空が初就航させた<ref name=eden101/>。757-200の胴体を7.11m延長したストレッチ型である。全長54.43mはナローボディ旅客機としては旅客機史上2番目の長さ(1位はDC-8-61/63の全長57.12m)となり、ナローボディ双発旅客機に限れば最長である<ref name="htj-66"/>。チャーター便運航会社向け機材として、また、767-200の低コスト代替機として設計され、胴体が主翼の前後で延長されたが、基本設計は757-200と共通である<ref name=no96-8/>。757-300の扉配置は、左右側面それぞれに4か所の乗降用ドアと主翼上の非常口1か所が設けられており<ref name=757plan_24/>、289名までの乗客を乗せることができる<ref name=300_tech/>。最大離陸重量は123,600キログラムで、最大航続距離は6,287キロメートルである<ref name=300_tech/>。エンジンはRR社のRB211-535E4BとP&W社のPW2037、PW2040、PW2043が採用されている<ref name=300_tech/>。胴体延長に伴い、引き起こしの際に尾部が接地することを防ぐために、胴体尾部にテイルスキッドが装備されている<ref name="htj-66"/>ほか、重量増加に合わせ主翼の構造強化されている{{sfn|青木|2014|p=53}}。同じ時期に開発された767-400ERではコックピットが一新されたが、757-300ではコックピットについては大きな変更は行なわれていない<ref name="htj-66"/>。
{{Double image aside|right|N606AA-2008-09-13-YVR.jpg|192|United Parcel Service 757-200PF.jpg|192|[[アメリカン航空]]の757-200|UPSの757-200PF}}
757の標準型である。最初に開発、納入され913機製造された。[[2005年]][[4月26日]]に、757シリーズの最終機として生産を終了している。


コンドル航空は、[[カナリア諸島]]などへのレジャー旅行者を対象に低コストで大量輸送を行うために、マクドネル・ダグラス[[DC-10 (航空機)|DC-10]]の代替機としてこの757-300を発注した<ref>{{harvnb|Norris|Wagner|1999|p=96.}}</ref>。
==== 757-200PF ====
乗客が757-300に搭乗し終えるまでの時間をテストしたところ、757-200より最大8分長くなる場合があったことから、ボーイングとコンドル航空は、胴体が長い機体の乗降時間を短縮するためのゾーン別搭乗方式を開発した<ref name=no101>{{harvnb|Norris|Wagner|1999|p=101.}}</ref>。757-300は、コンチネンタル航空(後にユナイテッド航空と合併)ノースウエスト航空(後にデルタ航空と合併)といった米国の大手航空会社のほか、アイスランド航空、アルキア・イスラエル航空や、チャーター便運航会社のコンドル航空や{{仮リンク|トーマス・クック航空|en|Thomas Cook Airlines}}で採用された<ref name=WAC2011/>。757-300は55機が製造された<ref name=757_O_D_summ/>。757-200と共に製造を終了し、最終機は[[2004年]][[4月27日]]に[[コンチネンタル航空]]に納入されている{{sfn|青木2014|p=53}}。
757-200の貨物専用機タイプとして1985年に[[ユナイテッド・パーセル・サービス]](UPS)からの発注を受けて製造された。PFは「'''P'''ackage '''F'''reighter」の頭文字である<ref name="htj-63"/>。客室窓が一切なく、胴体前方左の側面に幅2.18m×高さ3.4mの貨物扉を設置した。他には操縦士の出入り用の小さい扉がある。キャビンには2.24m×3.18mというサイズのカーゴパレットを15個まで搭載可能。


=== 政府専用機・軍用機・プライベート機 ===
==== 757-200M ====
757は政府専用機、軍用機、プライベート機などにも採用され、要人輸送のほか航空機の研究のためにも使用されている。これらの派生機のベースには757-200が用いられている。757を政府専用機として最初に採用したのは[[メキシコ]]空軍で、1987年11月にVIP仕様の757-200を受領した<ref name=b126>{{harvnb|Birtles|2001|p=126.}}</ref>。
{{Double image aside|right|ロイヤルネパールエアラインズ.jpg|165|B-757 Frachter, DHL.jpg|220|[[ネパール航空]]の757-200M。タラップの左側に貨物ドアが見える|DHLの757-200SF}}
757-200の貨客混載機タイプとして開発されている。扉配置は標準型の757-200型をベースとしており、最前部(No.1ドア)と主翼前方のタイプAドア(No.2ドア)の間に757-200PFと同様の貨物扉を設置しているが、この貨物扉にも窓がある。キャビンには150人の乗客を乗せた状態で、2.24m×2.74mというサイズのカーゴコンテナを3個搭載可能。この仕様は[[ネパール航空]]の発注した1機のみ製造(機番 9N-ACB)<ref name="htj-64"/>。


[[File:And-c-32-89aw.jpg|right|thumb|200px|アメリカ空軍のC-32。757の派生型でアメリカ合衆国副大統領の移動に用いられる。]]
==== 757-200SF ====
;[[C-32 (航空機)|C-32]]
旅客用の中古機材を貨物型に改造したもので、ボーイングの一部門である「Boeing Airplane Serives」が改造した上で[[DHL]]にリースする契約となっている<ref name="htj-64"/>。改造は旅客用の内装を全て撤去した上で、757-200PFと同様の貨物扉を設置し、床面も強化した上でハンドリングシステムを付加するもの。SFは「'''S'''pecial '''F'''reighter」の意味<ref name="htj-64"/>。
: [[アメリカ空軍]]はVIP仕様の757-200を4機運用している<ref name=C-32>{{cite web|url= http://www.af.mil/AboutUs/FactSheets/Display/tabid/224/Article/104518/c-32.aspx |title=C-32 > U.S. Air Force > Fact Sheet Display |publisher=United States Air Force |accessdate=2014-05-02}}</ref> 。この4機はC-32Aと命名され、「エアフォースツー」のコールサインで[[アメリカ合衆国副大統領|副大統領]]の移動にも用いられることもある<ref name=C-32/>。C-32Aの機内は4区画に分けられ、通信センター区画、専用の洗面所や更衣室を備えた貴賓室区画、会議・スタッフ設備区画、一般座席区画が設けられている<ref name=C-32/>。アメリカ空軍は、C-32Bと名付けられた45座席仕様の757-200も運用しており、[[アメリカ合衆国国務省]]の「Foreign Emergency Support Team」と呼ばれる緊急時対処要員が使用する<ref name=b62>{{harvnb|Birtles|2001|p=62.}}</ref><ref>{{harvnb|United States General Accounting Office|2003|p=[http://books.google.com/books?id=fxK_V93uXakC&pg=PA197#v=onepage&q&f=false 197].}}</ref>。C-32Aはアメリカ空軍の要人輸送機で使用される青と白の塗装が施されている<ref name=C-32/>一方で、C-32Bは白一色に塗装され最小限の識別マークのみとなっている<ref>{{cite web |url= http://www.jointbasemdl.af.mil/shared/media/document/AFD-071004-083.pdf|publisher=305th and 514th Air Mobility Wings, McGuire Air Force Base|title=Midair Collision Avoidance Guide|date=September 2007|accessdate=June 2, 2012|pages=5, 8, 12}}</ref>。最初のC-32は1998年に納入され、[[C-137 (航空機)|C-137]]輸送機を代替した<ref name=b62/>。


;F-22 フライングテストベッド
=== 757-300 ===
:757の初号機はボーイングが所有しており、1998年にアメリカ空軍の[[F-22]]戦闘機の開発に際して、アビオニクスやセンサーシステムの試験に用いられた<ref name=htj-62/><ref name=b28-56>{{harvnb|Birtles|2001|pp=28, 56.}}</ref> 。機体のコックピットの上方には戦闘機の翼に組み込むセンサー配置をシミュレートするための[[エンテ型|カナード翼]]が取り付けられたほか、機首の前にはレーダーなどのシステムを搭載したF-22の胴体前半部が取り付けられ、さらに、キャビンには30席の研究スペースが設けられ、通信システム、[[電子戦]]システム、ナビゲーションシステムが搭載された<ref name=htj-62/><ref name=b28-56/><ref>{{harvnb|Pace|1999|pp=26–28.}}</ref>。
[[File:B753.jpg|right|thumb|200px|ノースウエスト航空の757-300]]
757-200の胴体を7.11m延長したストレッチ型である。全長54.43mはナローボディ旅客機としては旅客機史上2番目の長さ(1位はDC-8-61/63の全長57.12m)となり、ナローボディ双発旅客機に限れば最長である<ref name="htj-66"/>。胴体延長に伴い、引き起こしの際に尾部が接地することを防ぐために、尾部にテイルスキッドが装備されている<ref name="htj-66"/>ほか、重量増加に合わせ、主翼とギア、またそれら周辺の胴体部分が構造強化されている。なお、同じ時期には767-400ER型が開発されているが、757-300ではコックピットについては大きな変更は行なわれていない<ref name="htj-66"/>。55機が製造され、757-200と共に製造を終了している(最終機は[[2004年]][[4月27日]]に[[コンチネンタル航空]]に納入されている)。
{{-}}


[[File:Air Force Boeing 757 in Pegasus Field Antarctica.jpg|thumb|right|
=== ビジネス及び軍用型 ===
2009年にニュージーランド空軍は保有する757のうちの1機を初めて[[南極大陸]]に飛ばした。|alt=グレーの757が氷原の上で静止している。機体尾部からタラップが下り、その周りには職員がいる。]]
[[File:And-c-32-89aw.jpg|right|thumb|200px|アメリカ空軍のC-32]]
; ニュージーランド空軍 757コンビ型
[[サウジアラビア]]政府と[[アメリカ合衆国空軍|アメリカ空軍]]は、軍高官および政府首脳輸送任務用の757-200型を購入した([[C-32 (航空機)|C-32型機]])。アメリカ空軍では、[[アメリカ合衆国副大統領|副大統領]]などのVIP輸送機としても運用している。また、[[アルゼンチン]]や[[メキシコ]]、[[ニュージーランド]]や[[ウズベキスタン]]などの政府専用機としても使用されている。
: [[ニュージーランド]]空軍は、STエアロスペース社による757-200M改造機を2機運用しており、装備の輸送、医療救助、兵員輸送、要人輸送に用いている<ref>{{cite web |url= http://www.aviationweek.com/Blogs.aspx?plckBlogId=Blog%3a388668c6-b459-4ea7-941e-a0a2206d415f&plckPostId=Blog%3a388668c6-b459-4ea7-941e-a0a2206d415fPost%3abcd4fffc-526f-4f33-bfd0-499f3b954f28 |title=ST Aero Redelivers Combi 757 to RNZAF |first=Elyse |last=Moody|work=Aviation Week & Space Technology|date=August 5, 2008|accessdate=April 7, 2012}}</ref><ref name=rnzaf>{{cite web|url= http://www.airforce.mil.nz/projects/boeing757.htm|title=RNZAF – Boeing 757|publisher=Royal New Zealand Air Force|accessdate=July 21, 2011}}</ref>。貨物扉と収納式のタラップが備えられ、補助動力装置のアップグレードと通信システムの強化が行われている<ref name=rnzaf/>。727-100QCの代替機として導入され<ref name=rnzaf/>、ニュージーランド首相の移動に使用されるほか<ref>{{cite web |url= http://www.stuff.co.nz/auckland/local-news/5254580/Air-force-plane-struck-by-lightning |title=Air force plane struck by lightning |first=Michael |last=Field|work=Fairfax News|date=July 8, 2011|accessdate=April 6, 2012}}</ref>、ニュージーランドが[[南極大陸]]に設置した[[スコット基地]]への輸送にも用いられている<ref>{{cite web |url= http://www.stuff.co.nz/national/3172050/RNZAF-jet-lands-on-ice |title=RNZAF jet lands on ice |first=Michael |last=Field|work=Fairfax News|date=December 17, 2009|accessdate=April 6, 2012}}</ref>。


757-200は上述以外にも要人輸送に使用されており、[[アルゼンチン]]空軍と[[メキシコ]]空軍は、それぞれの国の大統領専用機として757を運用している<ref name=tango01>{{cite web|url=http://edant.clarin.com/diario/2009/04/20/elpais/p-01901542.htm|title=El avión de Cristina se averió y tuvo que aterrizar en Caracas|language=Spanish|accessdate=August 13, 2011|work=El País|last=Braslavsky|first=Guido|date=April 20, 2009}}</ref><ref name=tp01>{{cite web|title=Defensa Nacional – Ejército, Fuerza Aérea y Marina |url=http://www.seguridadcondemocracia.org/atlas_2009/defensa_nacional_ejercito_fuerza_aerea_y_marina_13.pdf|last=Guevera|first=Íñigo|year=2009|publisher=Seguridad con Democracia|accessdate=July 24, 2011|page=304|language=Spanish}}</ref>。[[ロイヤルブルネイ航空]]の757-200は、1980年代から1995年に[[カザフスタン]]に売却されるまでの間、ブルネイ国王の移動に使用された<ref>{{harvnb|Birtles|2001|p=52.}}</ref>ほか、[[サウジアラビア]]王室は757-200を「空飛ぶ病院」として用いている<ref name=htj-29/>。
また、[[ビジネスジェット]]機としても数多く使用されている([[ポール・アレン]]、[[ドナルド・トランプ]]など)。また[[2004年]]には、[[アメリカ合衆国大統領]]候補者[[ジョン・ケリー]]は選挙期間中に「Freedom Bird」とニックネームを付けた757-200型機をチャーター使用した。


また、ビジネスジェットやプライベート機としても使用されており、[[2004年アメリカ合衆国大統領選挙]]では、候補者の[[ジョン・ケリー]]が選挙期間中に「Freedom Bird」とニックネームを付けた757-200型機をチャーター使用した<ref>{{cite web|last=Kasindorf|first=Martin|url=http://www.usatoday.com/news/politicselections/nation/president/2004-05-25-kerry-plane_x.htm|title=Kerry campaign gets a new ride |work=USA Today |date=May 25, 2004 |accessdate=July 27, 2011}}</ref>ほか、[[2008年アメリカ合衆国大統領選挙]]の期間中には上院議員だった[[バラク・オバマ]]がノースアメリカン航空の757-200をチャーターして使用した<ref>{{cite web |url= http://www.flynaa.com/pressrelease.aspx?id=99 |title=North American Airlines Operates Campaign Aircraft for Barack Obama|publisher=North American Airlines|date=July 23, 2008|accessdate=August 11, 2011}}</ref>。また、2008年には[[ヘヴィメタル]]・バンド「[[アイアン・メイデン]]」が世界ツアー用に757をチャーターし、バンドのメインボーカルを努める[[ブルース・ディッキンソン]]が「エドフォースワン」と名付けられたこの機体を自ら操縦した<ref>{{cite web|url=http://www.ironmaiden.com/bruce-air---now-with-added-ed-force-one.html|title=Fly on 'ED Force One'|publisher=Iron Maiden (official website)|date=March 5, 2008|accessdate=July 27, 2011}}</ref>。
=== ウィングレット改修 ===
{{clear}}
[[Image:Finnair Boeing 757-200.jpg|thumb|right|200px|フィンランド航空のウィングレット装着機757-200]]
[[コンチネンタル航空]]では、燃費改善のために、自社の保有する-200型に対して[[ウィングレット]]を後付けする改修を[[2005年]]より行っている。また2013年1月現在、[[アメリカン航空]]・[[ノースウエスト航空]]/[[デルタ航空]]・[[フィンランド航空]]・[[アイスランド航空]]・[[アメリカ空軍|米空軍]]でも同様の改修が確認されている。


== 運用の状況・特徴 ==
== 販売実績 ==
2013年7月現在、最も多くの757を運用しているのはデルタ航空で、その数は162機である<ref name=WAC2013/>。かつては、142機を運用していたアメリカン航空が首位に立っていたが<ref name=WAC2007/>、同社は運用する757の搭載エンジンを統一するため<ref>{{Cite news |newspaper=Fort Worth Star-Telegram |title=American set to return 19 jets when leases up. |date=2006-06-08 |page=C1}}</ref>、買収した[[トランス・ワールド航空]]から引き継いだ機体を退役させ<ref group="注釈">アメリカン航空は757のエンジンにロールス・ロイス製RB211を搭載していたが、トランス・ワールド航空から継承した757はP&W社のPW2000シリーズエンジンを搭載していた。</ref>、そのうち17機をデルタ航空が引き継いだことで、首位の座がアメリカン航空からデルタ航空に移った{{sfn|Delta Flight Museum}}。さらに、デルタ航空は2008年10月にノースウエスト航空と合併し、ノースウエストが保有していた61機がデルタ航空に引き継がれた{{sfn|Delta Flight Museum}}。
* {{USA}} [[デルタ航空]]
* {{USA}} [[アメリカン航空]]
* {{USA}} [[ユナイテッド航空]]
* {{USA}} [[ユナイテッド・パーセル・サービス]]
* [[ファイル:Flag of Mexico.svg|22x20px]] [[メキシコ]] [[メキシカーナ航空]]
* [[ファイル:Flag of Colombia.svg|22x20px]] [[コロンビア]] [[アビアンカ航空]]
* [[ファイル:Flag of Uzbekistan.svg|22x20px]] [[ウズベキスタン]] [[ウズベキスタン航空]]
* {{UK}} [[ブリティッシュ・エアウェイズ]]
* {{FIN}} [[フィンランド航空]]


2013年7月において貨物型の運用数が最も多いのはUPS航空で、75機の{{nowrap|757-200PF}}を運用している<ref name=WAC2013/>。貨物型への改造モデル{{nowrap|757-200SF}}の運用数首位は[[フェデックス・エクスプレス]]で、その数は68機である<ref name=WAC2013/>。また、DHL航空とその関連会社(DHL エア・UK、ヨーロピアン・エア・トランスポート・ライプツィヒ、ブルー・ダート・アビエーション、DHL アエロ・エクスプレッソ)による運用数は40機を超える<ref name=WAC2013/>。
=== 軍用・公用オペレーター ===
* [[アルゼンチン]]:政府専用機
* [[メキシコ空軍]]
* [[ニュージーランド空軍]]:第40飛行隊に2機導入
* [[サウジアラビア]]
* [[アメリカ空軍]]:[[C-32 (航空機)|C-32A]]をVIP輸送機として4機導入、C-32Bを2機導入


757のローンチカスタマーであったブリティッシュ・エアウェイズは{{nowrap|757-200}}を2010年11月に引退させるまで27年間運用した<ref>{{Cite web |url= http://blog.seattlepi.com/aerospace/2010/10/05/british-airways-revives-1983-livery-for-retiring-boeing-757/ |title=British Airways revives 1983 livery for retiring Boeing 757 |work=Seattle Post-Intelligencer|first=Aubrey |last=Cohen|date=October 5, 2010 |accessdate=2014-06-06}}</ref>。同航空は、757の引退記念として、最後まで運航した3機のうちの1機に対して757が初就航した1983年当時の塗装に復刻して2010年10月4日に公開した<ref name=flightglobal>{{Cite web|url= http://www.flightglobal.com/articles/2010/10/05/348135/picture-british-airways-unveils-retro-livery-as-757-era-ends.html|title=British Airways unveils 'retro' livery as 757 era ends|work=Flight International |accessdate=July 21, 2011|date=May 10, 2010|last=Kaminski-Morrow|first=David}}</ref>。ただし、その後も同社傘下の[[オープンスカイズ]]では757の運航は継続された<ref name=flightglobal/>。
=== 受注数 ===

{| class="wikitable" style="margin:1em 0em 2em 3em; font-size:80%; text-align:right;"
2013年7月時点で855機の755が民間路線に就航しており、主な運用者(括弧内は運用機数)はデルタ航空 (146) 、ユナイテッド航空 (130)、アメリカン航空 (97)、UPS航空 (75)、FedExエクスプレス (68)、USエアウェイズ (24)、DHLエア (22)である<ref name=WAC2013/>。そのほか、20機未満の757を運航している航空会社が北米、南米、欧州、アフリカ、アジアに点在しているが、日本の航空会社では757を運航していない<ref name=WAC2013/>。これまでに合計1,049機の757が生産・納入された<ref name=757_O_D_summ/>。なお、{{nowrap|757-200}}の1号機は顧客には渡されず試験用機体としてボーイングが保有しており<ref name=b12/>、これを含めると総生産数は1,050機である<ref name=last757built/>。
|-style="font-weight:bold; background-color:#dfa;"

|2005
=== 日本における就航事情と愛好家からの注目 ===
|2004
[[File:Chinasouthwest airlines Boeing757-200 TAK.jpg|thumb|250px|1994年に高松空港に飛来した[[中国西南航空]]の757]]
|2003

|2002
757は1982年の登場から2013年現在に至るまで日本の航空会社による発注・導入実績がない<ref name="al294-71"/><ref name=WAC2009/><ref name=WAC2010/><ref name=WAC2011/><ref name=WAC2012/><ref name=WAC2013/>ことに加え、日本への飛来数も多くなかった<ref name="al294-71"/>。日本に757が初飛来したのは、1982年8月にデモフライトで[[成田国際空港|新東京国際空港(当時)]]を訪れた時であるが、その後は1987年9月に[[ブルネイ]]王室のチャーター便として[[ロイヤルブルネイ航空]]の757が来日するまで、5年以上も日本には飛来実績はなかった<ref name="htj-84-88"/>。それ以後も年に数回程度チャーター便で来日する程度で、定期便として757が日本へ就航したのは、1994年10月に[[ネパール航空|ロイヤル・ネパール航空]]が[[関西国際空港]]への路線を開設したのが初めてとなった<ref name="htj-90"/>。
|2001

|2000
757の収容力や航続距離ではアメリカやヨーロッパからの長距離定期便には向いていないため<ref name="htj-86"/>、757が定期便で日本に乗り入れる可能性があるのは[[アジア]]地域の航空会社に限られる<ref name="htj-86"/>。その中でも定期路線運航の機材として757で日本に乗り入れを継続している航空会社が少く<ref name="htj-86"/>、2003年9月までに定期便に757を使用して乗り入れていたのは一時的な機材変更を除けば前述のロイヤル・ネパール航空と[[ユナイテッド・パーセル・サービス]]しかなかった<ref name="al294-71"/>。その後、2003年9月30日から、ノースウエスト航空が成田国際空港からアジア地区やグアム、サイパンへ向かう路線に就航させるため、それまで同様の目的で使用していた[[エアバスA320]]に代わって5機の757を成田に常駐させた<ref name="al294-71"/>ことで、日本の空港を拠点とした757の運航が行われるようになった。
|1999

|1998
757はアメリカやヨーロッパのみならず、[[南アメリカ]]でもメジャーな存在であった<ref name="htj-84"/>にもかかわらず、日本においてはなかなか見ることのできない航空機であったことから、日本の[[航空ファン]]からの注目を集めた<ref name="htj-88"/>。1987年12月にロイヤル・ネパール航空が民間チャーター便を[[名古屋飛行場|名古屋空港]]発着で運航した際には、日本発着の民間チャーター便としては初めて757を使用したこともあり、ツアーの旅客数並み<ref group="注釈">{{harvnb|「日本における757 人気の秘密」 |p=88}} では、「大げさな誇張でも冗談でもない」と念が押されている。</ref>の航空ファンが名古屋空港を訪れたという<ref name="htj-88"/>。[[イカロス出版]]の雑誌『[[エアライン (雑誌)|月刊エアライン]]』には、日本にチャーター便などで飛来した航空機の写真を掲載する「飛来機王国」というコーナーが存在するが、このコーナーを10年以上担当している編集者によれば、757が飛来すると写真の投稿数が増加する傾向があり<ref name="htj-84"/>、日本への757での乗り入れ実績が多い航空会社のチャーター便であったとしても、757であるというだけで写真投稿数が増えるという<ref name="htj-84"/>。
|1997

|1996
=== 受注・納入数 ===
|1995
{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:96%;"
|1994
|+ 年ごとのまとめ<ref name=last757built/><ref name=757_O_D_summ/>
|1993
|-
|-
! 年 !! 合計 !!2005 !! 2004 !! 2003 !! 2002 !! 2001 !! 2000 !! 1999 !! 1998 !! 1997 !! 1996 !! 1995 !! 1994 !! 1993 !!1992
|2
|11
|14
|29
|45
|45
|67
|54
|46
|42
|43
|69
|71
|-style="font-weight:bold; background-color:#dfa;"
|1992
|1991
|1990
|1989
|1988
|1987
|1986
|1985
|1984
|1983
|1982
|1981
|1980
|-
|-
! 受注数
|99
|'''1049'''||0||0||7||0||37||43||18||50||44||59||13||12||33||35
|80
|77
|51
|48
|40
|35
|36
|18
|25
|2
|0
|0
|-
|-
! 納入数
|'''1049'''||2||11||14||29||45||45||67||54||46||42||43||69||71||99
|}
|}
{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:96%;"
|-
! 年 !!1991!!1990!!1989!!1988!!1987!!1986!!1985!!1984!!1983!!1982!!1981!!1980!!1979!!1978
|-
! 受注数
|50||95||166||148||46||13||45||2||26||2||3||64||0||38
|-
! 納入数
|80||77||51||48||40||35||36||18||25||2||0||0||0||0
|}
{{clear}}


{| class="wikitable" style="text-align:center; font-size:96%;"
== 日本における757 ==
|+ モデルごとのまとめ<ref name=757_O_D_summ/>
1000機以上製造され<ref name="al294-71"/>、世界的には決して希少な機種ではない<ref name="al294-71"/>にもかかわらず、ボーイング757(以下、本節では単に「757」と表記)は日本においてはあまりなじみのない航空機である。2013年現在も日本の航空会社では発注・導入の実績がないのみならず、日本国外からの乗り入れ自体は多くない<ref name="al294-71"/>。
|-
! Model Series!!|[[国際民間航空機関|ICAO]]コード<ref name=ICAOcode/>||受注数|| 納入数
|-
!757-200
|B752
|913||913
|-
!757-200M
|B752
|1||1
|-
!757-200PF
|B752
|80||80
|-
!757-300
|B753
|55||55
|-
!colspan=2 style="text-align:right" | 合計
!|1049||1049
|}
{{clear}}


== 主な事故・インシデント ==
なお、チャーター機や政府専用機、企業専用機や自家用機として飛来することもある<ref group="注釈">[[2002年]]5月には、日韓W杯出場の[[サッカーカメルーン代表]]を乗せたチャーター機が[[福岡空港]]に飛来し、[[2008年]]2月には、世界ツアーの日本公演のために来日したバンド「[[アイアン・メイデン]]」のメインボーカルの[[ブルース・ディッキンソン]]が、757のチャーター機を自ら操縦して来日した。</ref>。
2014年4月現在、757が遭遇した[[航空事故]]・ハイジャックは合計23件で<ref>{{cite web|url=http://aviation-safety.net/database/dblist.php?Type=105 |title=Boeing 757 incidents |publisher=Aviation Safety Network |date=2014-04-20 |accessdate=2014-04-26}}</ref>、うち8件は機体損失事故である<ref>{{cite web|url=http://aviation-safety.net/database/dblist.php?field=typecode&var=105%&cat=%1&sorteer=datekey&page=1 |title=Boeing 757 hull-losses |publisher=Aviation Safety Network |date=2014-04-20 |accessdate=2014-04-26}}</ref>。7件の墜落と11件の[[ハイジャック]]により、合わせて574人の乗員・乗客が死亡した<ref>{{cite web|url=http://aviation-safety.net/database/dblist.php?field=typecode&var=105%&cat=%1&sorteer=datekey&page=1 |title=Boeing 757 Statistics |publisher=Aviation Safety Network |date= 2014-04-20 |accessdate= 2014-04-26}}</ref>。757が関係する最初の死亡事故は1990年10月2日に発生した[[廈門航空機ハイジャック事件]]である。ハイジャックされた[[厦門航空]]の737が中国の[[広州白雲国際空港]]で着陸に失敗し、離陸のために待機していた[[中国南方航空]]の757に衝突し、乗員・乗客122名のうち46名が死亡した<ref>{{Cite web|url=http://aviation-safety.net/database/record.php?id=19901002-4|title=ASN Aircraft accident Boeing 757-21B B-2812 Guangzhou-Baiyun Airport (CAN) |publisher=Aviation Safety Network |date= 2014-04-20|accessdate=2014-04-26}}</ref>。2001年9月11日の[[アメリカ同時多発テロ事件]]ではハイジャックされたアメリカン航空77便が米国の[[バージニア州]][[アーリントン郡 (バージニア州)|アーリントン]]にある[[ペンタゴン]]に激突し、搭乗者64人全員と地上にいた125人が死亡したほか、同じくハイジャックされたユナイテッド航空93便が[[ペンシルベニア州]][[シャンクスヴィル]]の郊外に墜落し、搭乗者44人全員が死亡した<ref>{{cite news |url=http://www.nytimes.com/2004/07/23/world/threats-responses-excerpts-report-sept-11-commission-unity-purpose.html?pagewanted=all |title= Threats and Responses; Excerpts from the Report of the Sept. 11 Commission: 'A Unity of Purpose' |work=The New York Times |date= July 23, 2004 |accessdate=January 22, 2011}}</ref>。詳細は、[[アメリカン航空77便テロ事件]]および[[ユナイテッド航空93便テロ事件]]を参照。


[[ヒューマンエラー]]が関係する事故も起きており、1995年12月20日に、飛行制御装置に誤った入力がされ、飛行コースを外れたアメリカン航空965便が[[コロンビア]]の[[サンティアゴ・デ・カリ|カリ]]近郊の山に衝突し、4名が負傷、乗客151名と乗員8名が死亡した([[アメリカン航空965便墜落事故]])<ref>{{Cite web|url=http://www.sozogaku.com/fkd/cf/CA0000293.html|title=失敗事例 > データ入力ミスで旅客機が山に激突|work= 失敗知識データベース|accessdate=2014-04-28}}</ref>ほか、2002年7月1日には、航空交通管制のトラブルによって、[[ドイツ]]の[[バーデン=ヴュルテンベルク州]]ユーバーリンゲン上空でDHLの757と[[バシキール航空]]の[[ツポレフ]][[Tu-154]]が空中衝突を起こし、757の乗員2名とTu-154の69名が死亡した([[バシキール航空2937便空中衝突事故]])<ref>{{Cite web|url=http://www.sozogaku.com/fkd/cf/CA0000436.html|title=失敗事例 > 管制トラブルから旅客機と貨物航空機が空中衝突し、乗員乗客71名が死亡|work= 失敗知識データベース|accessdate=2014-04-28}}</ref>。機体の整備が不適切であったためにパイロットが自機の状態を見失い事故に至った例としては、1996年2月6日、[[ドミニカ共和国]][[プエルト・プラタ]]で発生した189の乗員乗客全員が死亡した[[バージェン航空301便墜落事故]]と,<ref>{{cite news |last=Pope |first=Hugh |url=http://www.independent.co.uk/news/crash-plane-may-not-have-been-serviced-1318149.html |title=Crash plane may not have been serviced |work=The Independent |date=February 10, 1996 |accessdate=November 19, 2009}}</ref>、1996年10月2日に[[ペルー]]の[[リマ]]近海で発生し搭乗者70名全員が死亡した[[アエロペルー603便墜落事故]]がある<ref name=birtles102>{{harvnb|Birtles|2001|pp=102–03.}}</ref>。バージェン航空の事故に関しては、事故機が長期間駐機された際に[[ピトー管]]に異物が入り込むのを防ぐためのカバーを装着されていなかったことが判明している<ref name=birtles102/>。一方、アエロペルーの事故では、ピトー管の静圧孔に貼られた保護テープを剥がし忘れていた<ref name=birtles102/>。
=== 少ない飛来実績 ===
[[File:Chinasouthwest airlines Boeing757-200 TAK.jpg|thumb|250px|1994年に高松空港に飛来した[[中国西南航空]]の757]]
日本に757が初飛来したのは、1982年2月19日に[[成田国際空港|新東京国際空港(当時)]]にデモフライトで飛来したのが初めてである<ref name="htj-88"/>が、1987年9月に[[ブルネイ]]王室のチャーター便として飛来した[[ロイヤルブルネイ航空]]の757が飛来するまで、5年以上も日本には757の飛来実績はなかった<ref name="htj-88"/>。それ以後も年に数回程度チャーター便で来日する程度で、定期便として757が日本への路線に就航したのは、1994年10月に[[ネパール航空|ロイヤル・ネパール航空(当時)]]が関西国際空港への路線を開設したのが初めてとなる<ref name="htj-90"/>。


757の後方乱気流が原因とされる事故も発生しており、2機のプライベート機が墜落した<ref name=wake/>。1992年12月18日、[[セスナ・サイテーション]]が[[モンタナ州]][[ビリングス・ローガン国際空港]]の近くで墜落し、搭乗者6名全員が死亡、また、1993年12月15日には[[IAI ウェストウィンド]]がカリフォルニア州のジョン・ウェイン空港の近くで墜落し、搭乗者5人全員が死亡した<ref name=wake/>。両機とも、757の後方3海里 (5.56&nbsp;km) 以内を飛行していた<ref name=wake/>。この後、FAAは、小型機が757の直後を飛行する際は4から5海里(7.14から9.26&nbsp;km)の間隔をとるよう規制を変更した<ref name=wake/>。
757の収容力や航続距離ではアメリカやヨーロッパからの長距離定期便には向いていないため<ref name="htj-86"/>、757が定期便で日本に乗り入れる可能性があるのは[[アジア]]地区の航空会社に限られる<ref name="htj-86"/>。しかし、そのアジア地区の航空会社で定期路線運航の機材として757で日本に乗り入れを継続している航空会社が少ない<ref name="htj-86"/>。2003年9月までは定期便に757を使用して乗り入れていたのは一時的な機材変更を除けば前述のロイヤル・ネパール航空と[[ユナイテッド・パーセル・サービス]]しかなかった<ref name="al294-71"/>。このような事情から、757はアメリカやヨーロッパのみならず、[[南アメリカ]]でもメジャーな存在であった<ref name="htj-84"/>にもかかわらず、日本においてはなかなか見ることのできない航空機であった<ref name="htj-88"/>。


1999年9月14日には、[[スペイン]]のジローナ・コスタ・ブラバ空港の近くで、ブリタニア航空の226A便が激しい雷雨の中で墜落し、胴体が複数に分解したが、搭乗者245名全員が救助された<ref name=birtles102/>。2010年10月25日には、アメリカン航空の1640便が米国のマイアミからボストンへ向けて高度31,000フィート(およそ9,500メートル)を飛行中に0.61メートルにわたり胴体の一部を損失したが、無事にマイアミ空港に引き返した<ref name="MiamiHoleInFuselage">{{cite web|url=http://www.dallasnews.com/business/headlines/20101029-Officials-investigate-what-caused-hole-in-7747.ece|title=Officials investigate what caused hole in American jet's fuselage|work=Dallas Morning News|date=October 29, 2010|accessdate=June 7, 2011}}</ref>。この件について調査が行われた後、FAAは米国で757を運航している航空会社に対して、定期的に胴体上部に対して構造疲労に関する点検を行うように指示を行った<ref name=aa1640>{{cite web |url= http://atwonline.com/international-aviation-regulation/news/faa-issues-ad-requiring-repetitive-757-fuselage-skin-inspecti |title=FAA issues AD requiring 'repetitive' 757 fuselage skin inspections|work=Aviation Week & Space Technology|first=Aaron|last=Karp|date=January 10, 2011|accessdate=March 25, 2012}}</ref>。
しかし2003年9月30日から、[[ノースウエスト航空]](当時)では、成田国際空港からアジア地区やサイパンへ向かう路線に就航させるため、それまで同様の目的で使用していた[[エアバスA320]]に代わって5機の757を成田に常駐させ、その後[[デルタ航空]]が引き継いでいる<ref name="al294-71"/>。日本の空港を拠点とした就航実績がある757は、このノースウエスト航空と、その後合併して路線と機材をノースウエスト航空から継承したデルタ航空の757だけである。なおその後[[上海航空]]が[[東京国際空港|羽田空港]]-[[上海虹橋国際空港|上海虹橋空港]]線に就航させた。


== 主要諸元 ==
=== 日本の航空ファンに人気の機種 ===
{| class="wikitable" style="font-size:90%; text-align:center;"
このような事情から、日本の[[航空ファン]]にも757は人気がある機種であるという<ref name="htj-84"/>。1987年12月にロイヤル・ネパール航空が民間チャーター便を[[名古屋飛行場|名古屋空港]]発着で運航した際には、日本発着の民間チャーター便としては初めて757を使用したこともあり、ツアーの旅客数並み<ref group="注釈">[[#AL2000-2|『ハイテク・ツイン・ジェット』 p.88]]では、「大げさな誇張でも冗談でもない」と念が押されている。</ref>の航空ファンが名古屋空港を訪れたという<ref name="htj-88"/>。
|+ 各モデルの主要諸元

イカロス出版の雑誌『[[エアライン (雑誌)|月刊エアライン]]』には、日本にチャーター便などで飛来した航空機の写真を掲載する「飛来機王国」というコーナーが存在するが、このコーナーを10年以上担当している編集者によれば、757が飛来すると写真の投稿数が増加する傾向があり<ref name="htj-84"/>、日本への757での乗り入れ実績が多い航空会社のチャーター便であったとしても、757であるというだけで写真投稿数が増えるという<ref name="htj-84"/>。

== 要目 ==
{| class="wikitable" style="font-size:80%; text-align:center; margin:1em 0em 2em 3em;"
|-
|-
!
!style="background-color:#ddd; width:8em;"|項目\機種
!757-200
!style="background-color:#dff; width:20em;"|757-200
!757-200PF
!style="background-color:#dff; width:24em;"|757-200PF
!757-300
!style="background-color:#dff; width:20em;"|757-300
|-
|-
! 運航乗務員数
!旅客数<br/>(1クラス制)
| colspan=3 | 2名
|239席<ref name="htj-66"/>
|&nbsp;
|289席<ref name="htj-66"/>
|-
|-
! {{nowrap|標準座席数}} {{nowrap|(2クラス)}}
!全長
|colspan="2"|47.32m<ref name="htj-66"/>
| 200席<ref name=200_tech/> || N/A || 243席<ref name=300_tech/>
|54.5m<ref name="htj-66"/>
|-
|-
! {{nowrap|標準座席数}} {{nowrap|(1クラス)}}
!全幅
|colspan="3"|38.05m<ref name="htj-66"/>
| 228席<ref name=200_tech/> || N/A || 280席<ref name=300_tech/>
|-
|-
! 貨物容積
!全高
|colspan="3"|13.60m<ref name="htj-66"/>
| 43.3&nbsp;[[立方メートル|m<sup>3</sup>]]<ref name=200_tech/>
| 239&nbsp;m<sup>3</sup><ref name=200f_tech/>
| 67.1&nbsp;m<sup>3</sup><ref name=300_tech/>
|-
|-
! 全長
!胴体
| colspan=2 | 47.32&nbsp;[[メートル|m]]
|colspan="3"|横幅3.76 m(キャビン横幅 3.54 m)
| 54.43&nbsp;m
|-
|-
! 全幅
!貨物容量
| colspan=2 | 38.05&nbsp;m
|43.3 m³
| 38.06&nbsp;m
|239 m³(最大グロスペイロード39,780 kg)
|67.1 m³
|-
|-
! 全高
!最大離陸重量
| 13.60&nbsp;m
|colspan="2"|108.860kg<ref name="htj-66"/>
| 14.00&nbsp;m
|123,600kg<ref name="htj-66"/>
| 13.56&nbsp;m
|-
|-
! 降着装置ホイールベース
!燃料容量
|colspan="2"|42.684L<ref name="htj-66"/>
| colspan=2 |18.29&nbsp;m<ref name=757plan_119/>
|43,494L<ref name="htj-66"/>
| 22.35&nbsp;m<ref name=757plan_119/>
|-
|-
! 客室幅
!航続距離
| 3.54&nbsp;m<ref name=757plan_21/> || N/A || 3.54&nbsp;m<ref name=757plan_21/>
|7,241km<ref name="htj-66"/>
|6,852km<ref name="htj-66"/>
|6,426km<ref name="htj-66"/>
|-
|-
! 最大離陸重量 (MTOW)<sup>†1</sup>
!巡航速度
| 115,650&nbsp;[[キログラム|kg]]
|colspan="3"|Mach 0.86<ref name="htj-66"/>
| 115,680&nbsp;kg
| 123,600&nbsp;kg
|-
|-
! 離陸滑走距離
!エンジン
| colspan=2 | 1,981&nbsp;m
|colspan="3"|双発 [[ロールス・ロイス]]製RB211型<ref name="htj-66"/>、[[プラット・アンド・ホイットニー]]製PW2037型<ref name="htj-66"/>、プラット・アンド・ホイットニー製PW2040型<ref name="htj-66"/>、<br/>または プラット・アンド・ホイットニー製PW2043型 high-bypass ratio [[ターボファンエンジン]]、<br/> rated at 36,600 [[lbf]] (163 [[ニュートン|kN]]) to 43,500 lbf (193 kN) thrust each
| 2,377&nbsp;m
|-
! 巡航速度
| colspan=3 | [[マッハ]]0.80 (530&nbsp;mph, 850&nbsp;km/h) <sup>†2</sup>
|-
! 航続距離
| 7,222&nbsp;[[キロメートル|km]]<ref name=200_tech/>
| 5,834&nbsp;km<ref name=200f_tech/>
| 6,287&nbsp;km<ref name=300_tech/>
|-
! {{nowrap|エンジン}}{{nowrap|(推力)}}
| {{nowrap|RR RB211-535E4}} (179&nbsp;[[ニュートン|kN]])<ref name=200_tech/><br/>{{nowrap|RR RB211-535E4B}} (193.5&nbsp;kN)<ref name=200_tech/><br/>{{nowrap|P&W PW2037}} (162.8&nbsp;kN)<ref name=200_tech/><br/>{{nowrap|P&W PW2040}} (178.4&nbsp;kN)<ref name=200_tech/>
| {{nowrap|RR RB211-535E4B}} (193.5&nbsp;kN)<ref name=200f_tech/><br/>{{nowrap|P&W PW2037}} (162.8&nbsp;kN)<ref name=200f_tech/><br/>{{nowrap|P&W PW2040}} (178.4&nbsp;kN)<ref name=200f_tech/>
| {{nowrap|RR RB211-535E4B}} (193.5&nbsp;kN)<ref name=300_tech/><br/>{{nowrap|P&W PW2037}} (162.8&nbsp;kN)<ref name=300_tech/><br/>{{nowrap|P&W PW2040}} (178.4&nbsp;kN)<ref name=300_tech/><br/>{{nowrap|P&W PW2043}} (189.4&nbsp;kN)<ref name=300_tech/>
|-
| colspan=4 style="text-align:left" |
* 出典:特に記載のないものは『旅客機年鑑 2014-2015』{{sfn|青木|2014|pp=51-53, 239}}による。
* RR: ロールス・ロイス、P&W: プラット・アンド・ホイットニー
* †1 標準海面高度、[[国際標準大気]]、RB211-535E4Bエンジン仕様の場合
* †2 巡航高度 35,000 ft (10,660&nbsp;m) における速度。海面高度ではない。[[マッハ数]]の説明と計算例は[http://www.grc.nasa.gov/WWW/K-12/airplane/mach.html NASA Mach number calculator page] を参照。
|}
|}

== 事故概略 ==
(2004年現在)
* 機体損失事故:6回、総計568人死亡。
* 他の原因:2回、総計0人死亡。
* [[ハイジャック]]:5回、総計282人死亡。
** [[アメリカ同時多発テロ事件]]:[[アメリカ国防総省]](ペンタゴン)に突入した航空機及び、[[ペンシルベニア州]][[ピッツバーグ]]郊外に墜落した航空機は共にボーイング757である。後者の乗員乗客の行動は映画『[[ユナイテッド93]]』で再現された。

=== 主な事故 ===
* [[アメリカン航空965便墜落事故]]
* [[バージェン航空301便墜落事故]]
* [[アエロペルー603便墜落事故]]


== 脚注 ==
== 脚注 ==
309行目: 372行目:
=== 出典 ===
=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
{{Reflist|2|refs=
<ref name="htj-7">[[#AL2000-1|『ハイク・ツイン・ェット』 p.7]]</ref>
<ref name="htj-7">{{harvnb|「新世紀ス 757&767ルネッサンス!」|p=7}}</ref>
<ref name="htj-45">[[#帆足2000|帆足 (2000) p.45]]</ref>
<ref name="htj-29">{{harvnb|「Boeing757」|p=29}}</ref>
<ref name="htj-49">[[#帆足2000|帆足 (2000) p.49]]</ref>
<ref name="htj-45">{{harvnb|帆足|2000|p=45}}</ref>
<ref name="htj-50">[[#帆足2000|帆足 (2000) p.50]]</ref>
<ref name="htj-49">{{harvnb|帆足|2000|p=49}}</ref>
<ref name="htj-51">[[#帆足2000|帆足 (2000) p.51]]</ref>
<ref name="htj-50">{{harvnb|帆足|2000|p=50}}</ref>
<ref name="htj-5152">[[#帆足2000|帆足 (2000) pp.51-52]]</ref>
<ref name="htj-51">{{harvnb|帆足|2000|p=51}}</ref>
<ref name="htj-52">[[#帆足2000|帆足 (2000) p.52]]</ref>
<ref name="htj-5152">{{harvnb|帆足|2000|pp=51-52}}</ref>
<ref name="htj-59">[[#藤田2000|藤田 (2000) p.59]]</ref>
<ref name="htj-52">{{harvnb|帆足|2000|p=52}}</ref>
<ref name="htj-60">[[#藤田2000|藤田 (2000) p.60]]</ref>
<ref name="htj-59">{{harvnb|藤田|2000|p=59}}</ref>
<ref name="htj-63">[[#藤田2000|藤田 (2000) p.63]]</ref>
<ref name="htj-60">{{harvnb|藤田|2000|p=60}}</ref>
<ref name="htj-64">[[#藤田2000|藤田 (2000) p.64]]</ref>
<ref name="htj-62">{{harvnb|藤田|2000|p=62}}</ref>
<ref name="htj-65">[[#藤田2000|藤田 (2000) p.65]]</ref>
<ref name="htj-63">{{harvnb|藤田|2000|p=63}}</ref>
<ref name="htj-66">[[#藤田2000|藤田 (2000) p.66]]</ref>
<ref name="htj-64">{{harvnb|藤田|2000|p=64}}</ref>
<ref name="htj-70">[[#藤田2000|藤田 (2000) p.70]]</ref>
<ref name="htj-65">{{harvnb|藤田|2000|p=65}}</ref>
<ref name="htj-80">[[#AJ2000|Jun (2000) p.80]]</ref>
<ref name="htj-66">{{harvnb|藤田|2000|p=66}}</ref>
<ref name="htj-84">[[#AL2000-2|『ハイテク・ツイン・ジェット』 p.84]]</ref>
<ref name="htj-70">{{harvnb|藤田|2000|p=70}}</ref>
<ref name="htj-86">[[#AL2000-2|『ハイテク・ツイン・ジェット』 p.86]]</ref>
<ref name="htj-80">{{harvnb|Shidara|2000|p=80}}</ref>
<ref name="htj-88">[[#AL2000-2|『ハイテク・ツイン・ジェット』 p.88]]</ref>
<ref name="htj-84">{{harvnb|「日本における757 人気の秘密」|p=84}}</ref>
<ref name="htj-84-88">{{harvnb|「日本における757 人気の秘密」|pp=84, 88}}</ref>
<ref name="htj-90">[[#AL2000-2|『ハイテク・ツイン・ジェット』 p.90]]</ref>
<ref name="htj-147">[[#鍛治2000|鍛治 (2000) p.147]]</ref>
<ref name="htj-86">{{harvnb|「日本における757 人気の秘密」|p=86}}</ref>
<ref name="al280-46">[[#伊藤280|伊藤 (2002) p.46]]</ref>
<ref name="htj-88">{{harvnb|「日本における757 人気の秘密」|p=88}}</ref>
<ref name="al294-71">[[#伊藤294|伊藤 (2003) p.71]]</ref>
<ref name="htj-90">{{harvnb|「日本における757 人気の秘密」|p=90}}</ref>
<ref name="al294-73">[[#伊藤294|伊藤 (2003) p.73]]</ref>
<ref name="htj-150">{{harvnb|鍛治|2000|p=150}}</ref>
<ref name="al295-129">[[#青木295|青木 (2004) p.129]]</ref>
<ref name="al280-46">{{harvnb|伊藤|2002|p=46}}</ref>
<ref name="al295-130">[[#青木295|青木 (2004) p.130]]</ref>
<ref name="al294-71">{{harvnb|伊藤|2003|p=71}}</ref>
<ref name="al294-73">{{harvnb|伊藤|2003|p=73}}</ref>
<ref name="al295-129">{{harvnb|青木|2004|p=129}}</ref>
<ref name="al295-130">{{harvnb|青木|2004|p=130}}</ref>
<ref name=b12>{{harvnb|Birtles|2001|p=12.}}</ref>
<ref name=b15>{{harvnb|Birtles|2001|p=15.}}</ref>
<ref name=b14>{{harvnb|Birtles|2001|p=14.}}</ref>
<ref name=b16>{{harvnb|Birtles|2001|pp=16–17.}}</ref>
<ref name=b18>{{harvnb|Birtles|2001|pp=18–19.}}</ref>
<ref name=b22>{{harvnb|Birtles|2001|pp=22–26.}}</ref>
<ref name=b26>{{harvnb|Birtles|2001|p=26.}}</ref>
<ref name=b28>{{harvnb|Birtles|2001|pp=28–29.}}</ref>
<ref name=b31>{{harvnb|Birtles|2001|p=31.}}</ref>
<ref name=b38>{{harvnb|Birtles|2001|p=38.}}</ref>
<ref name=b47>{{harvnb|Birtles|2001|p=47.}}</ref>
<ref name=b50>{{harvnb|Birtles|2001|pp=50–51.}}</ref>
<ref name=b53>{{harvnb|Birtles|2001|pp=53, 55.}}</ref>
<ref name=davies102>{{harvnb|Davies|1990|p=102.}}</ref>
<ref name=davies103>{{harvnb|Davies|2000|p=103.}}</ref>
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*{{Citation |title=757-200/300 Airplane Characteristics for Airport Planning |publisher=Boeing |date=November 1989, Minor update, May 2011 |url= http://www.boeing.com/commercial/airports/757.htm |format=PDF |language=English |accessdate=2014-04-25 |ref={{harvid|Boeing|2011}}}}
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
{{Commons&cat|Boeing 757|Boeing 757}}
* [http://www.boeing.com/commercial/757family/index.html Boeing 757 Family(英語版)]
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2014年5月30日 (金) 11:11時点における版

ボーイング757

ボーイング757Boeing 757)は、アメリカボーイング社が開発・製造した中型の双発ジェット旅客機である。757はボーイング社で最大のナローボディ機で、1981年から2004年まで生産された。2人乗務のグラスコックピットターボファンエンジンを備え、空力抵抗を抑制できるスーパークリティカル翼型の設計が採用された。

757はボーイング727の後継機として短・中距離路線向けに開発され、座席数は仕様によって200から289席、航続距離は3,150から4,100海里(5,830から7,590キロメートル)である。開発はワイドボディ双発機のボーイング767と同時平行で行われ、757と767でシステムの共通化が図られ、パイロットの操縦資格も共通化された。

757シリーズには胴体長が異なる2種類のモデルがある。最初のモデルとなる757-200は1983年に引き渡しが開始され、同じ胴体長の貨物専用型757-200PFと貨客混載型757-200Mは1980年代後半に登場した。1999年に初就航した発展型の757-300は、史上最も長い胴体を持つナローボディ双発ジェット機となった。旅客型の757-200からは貨物専用機への改造も行われたほか、米国のC-32のような要人輸送機や多目的機などの軍用の派生型、さらにはプライベート機や政府専用機なども作られ、輸送用途や研究用途に用いられた。757に搭載されたエンジンはロールス・ロイス (RR) 製RB211シリーズまたはプラット・アンド・ホイットニー (P&W) 製PW2000シリーズのいずれかであった。

757はイースタン航空ブリティッシュ・エアウェイズによって1983年に就航した。757は旧式のナローボディ機の後継機として米国の短中距離国内線、シャトル便、大陸横断路線で一般的に使われる旅客機となった。1986年にはETOPSと呼ばれる双発機の長距離飛行に関する緩和要件が適用され、航空会社は757を大陸間路線にも就航させ始めた。757の主な運航者は米国の大手航空会社、欧州チャーター便航空会社、貨物航空会社である。2012年6月までに757の機体損失事故は8件発生しており、うち7件は死亡事故である。

757は54の顧客向けに総計1,050機が製造され、2004年10月28日に生産が終了した。757シリーズの中では757-200が圧倒的に多く913機が製造された。旅客機需要の中心が、より小さい機体に移ったことで757の販売が縮小したことから、ボーイングは小型機の737シリーズに力を入れ、757の生産終了時に直接的な後継機は開発されなかった。757の最終機は2005年4月26日に上海航空に引き渡された[5]。2013年7月の時点で855機が就航しており、最大の運用者であるデルタ航空は162機を運用している[1]。なお、日本の航空会社はボーイング製旅客機を好んで使う傾向にあるが、ボーイング757は1機も購入・使用された実績がない[6]

本項では以下、ボーイング製の旅客機については「ボーイング」という表記を省略して数字のみで表記する。また、エアバス製旅客機についても同様に社名を省略する。例えば「ボーイング747」であれば「747」、「エアバスA320」であれば「A320」とする。

沿革

開発の背景

727の後継機種構想

757開発の出発点となったボーイング727

ボーイングでは、1963年に短中距離向けのナローボディの3発ジェット機として727を初飛行させていた[7]。727はジェット旅客機としては好調な売れ行きを記録し、胴体延長型の727-200も含めて最終的には1,832機の販売実績を有するベストセラーとなるが、より小型だが運航乗務員が2人で済み、さらに双発エンジンのため燃費にも優れる737-200やマクドネル・ダグラスDC-9-40/50シリーズとの競合もあり1974年頃には売れ行きは鈍化していた[8]。ボーイングは727を改良することでさらに販売機数を伸ばせると考え、改良型として727-300の開発に着手した[8]。この727-300は、胴体を延長した上でエンジンを低騒音化し、降着装置も4輪式にするなどの改良が加えられる計画で、これにより、座席あたりの燃費を13%低減するとともに、年ごとに厳しくなる騒音規制をクリアすることができると考えられた[8]

ボーイングでは727-300の開発に強い意欲を示し、原寸大の金属製モックアップの製作を進めていたが、1975年に入り、ユナイテッド航空などのアメリカ国内の航空会社727-300構想に対して、「その程度の燃費改善では、新機材導入のコストをカバーするには不十分であり、騒音規制への対応にも一時的にしか対応できず、長く使い続けることのできる機体ではない」という考えを示した[8]。ボーイングは、727-300構想に既に5000万ドルの資金を投入しており、モックアップも作成していたが、航空会社が727-300を好まないのであれば、この計画を破棄した上で、全く新しい機体を開発する方が将来的にもメリットが大きいと考えた[8]。このような事情から、727-300開発計画は1975年8月には正式に破棄されることになった[8]

7N7構想

当時「7X7」として開発が進められていた767

一方で、当時、ボーイングではワイドボディジェット旅客機として、250席程度の座席数を持つ「7X7」(後の767)の開発構想を進めていたが、これと同時に、将来にわたって長く販売を続けることが可能で、7X7よりは座席数の少ない新型ナローボディ旅客機を並行開発するという発想が生まれた[8]。この構想は「7N7」と呼ばれることになり、1976年1月から7N7計画の調査と研究が開始された[8]

コンチネンタル航空は、当初727-300の設計にフィードバックを行っていたが、7N7の研究が始まると727-300への興味を失ってしまった[9]727-300案を提示された他の航空会社も、同案に大きな興味を示すことはなかった[10]。一方で、7N7案に盛り込まれた高バイパス比のターボファンエンジン、新しいコックピット、軽量化された機体、空力特性の向上、低運用コストという特徴に航空会社は関心をよせた[9][11]。これら7N7の新しい特徴は7X7との並行開発によって得られるものもあり[12]、7N7は7X7とともにボーイングの将来を担う重要なプロジェクトとして扱われることになった[8]

7N7では727の胴体設計を継承するものの、新設計の主翼と高バイパス比のエンジンを採用することになった[13]。まず最初にまとめられたデザイン案は、164席の客席を有する「モデル761-161」と呼ばれるもので、これは「工具まで同じものが使用可能」という在来機種との共通性を重視した結果、胴体は707・727・737と同じ構造とされた[14]。ただし、エンジンは双発とされ、胴体尾部に3発のエンジンを装備する727と比較するとスマートなデザインとなった[14]。また、エンジンと主翼以外にも、垂直尾翼や降着装置などに新技術が採用されていた[14]1978年1月に、ボーイングはイースタン航空ブリティッシュ・エアウェイズに対して、この「モデル761-161」の構想を説明した。この2社は、かねてから727の発展型となる機体に関心を示していたのである[14]

ところが、この2社の要求はそれぞれ異なる内容であった。具体的には、イースタン航空が2クラスで165席クラスの機体を求めていたのに対し、ブリティッシュ・エアウェイズは単一クラスで190席クラスの機体を希望したのである[14]。ブリティッシュ・エアウェイズは政府との結びつきが強い航空会社であり、かつヨーロッパの航空会社であることからエアバスの旅客機を購入することが求められていた[14]。ボーイングもその事情を把握していたため、ブリティッシュ・エアウェイズの要望には特別な配慮を行なっていた[14]。ボーイングでは、できるだけこの2社の要求に応えるべく、デザインの見直しを行い、2クラスで165席から175席、単一クラスで190席設置できるようなサイズに改めたのである[14]。さらにこの頃のアメリカの大手航空会社は、航空旅客数の増加に確信を持っており、アメリカ航空業界では「機体は大きければ大きいほどいい」という考え方が一般化していた[15]

そこで、ボーイングはさらに胴体を延長した上で、180席を標準座席数とするデザイン案「モデル761-177」をまとめた[15]。最終的にはこのデザイン案が開発のベースとなることになる[15]が、提案当時は水平尾翼を垂直尾翼の上部に配置する「T字尾翼」となっていた[14]。これは、727の尾翼部分の設計を一部流用することを考えていたためである[15]

1978年には、機体サイズが160席の短胴型7N7-100と180席以上の長胴型7N7-200の2種類に絞りこまれた[11]。同年8月31日に、イースタン航空から確定21機(オプション24機)、ブリティッシュ・エアウェイズからは確定19機(オプション12機)の7N7-200を受注したことが発表された[2][11][16] 。これらの注文は1979年3月23日に調印が行われ、ボーイングは7N7を「757」と命名することを公表して正式に開発を開始した[17][11] 。発注を受けてから開発開始までの期間が長かったのは、767の開発を並行して進めるため、開発作業のタイミングをずらす意図があったとされている[2]。また、計画当初は757-100を最初に開発する予定だったが、航空会社からの受注が得られず開発が中止された[13]

設計への取組み

757は在来機の727よりも高い収容能力と優れた経済性を持つ機体を目指して設計された[18]1973年第四次中東戦争をきっかけに燃料価格が高騰し、運用コストの上昇を懸念していた航空会社は燃費性能の向上を求めた[11][19]。設計目標の中には燃料消費量の削減が掲げられ、削減方法と目標値(従来機比)は新エンジンの採用により20パーセント、航空力学面での改善により10パーセントとされた[19]。より軽い材料と新しい主翼の採用も燃費性能を向上させると期待された[11]最大離陸重量 (MTOW) は727よりも4,540キログラム大きい[20]99,800キログラムに設定された[21]。高い気温と高度のために離陸性能が低下する高温・高地環境のために、ペイロード容量を向上させた重量型がオプション設定された[21]

正面から見たトランサヴィアの757-200。胴体の輪郭、翼の上反角、2発のエンジンが見える。
正面から見たトランサヴィア757-200。胴体の輪郭、翼の上反角、RB211エンジンが見える。

エンジン数は3発または4発の場合と比べて燃費性能面で有利だという理由から双発とされた[22]。ローンチカスタマーのイースタン航空とブリティッシュ・エアウェイズは推力166キロニュートンロールス・ロイス (RR) 製RB211-535C ターボファンエンジンを選択した[23]。ボーイングの旅客機ではこれまで米国製以外のエンジンを採用したローンチが無く、今回のロールス・ロイス製エンジン搭載仕様の受注によるローンチが初めてのケースとなり[2]、その後も787のローンチまで例がなかった[注釈 1]。後に、米国のエンジン製造企業であるプラット・アンド・ホイットニー(以下P&W)は170キロニュートンの推力を持つPW2000型を実用化し、デルタ航空が1980年11月に発注した60機に搭載された[11][24][25]。開発プログラムの初期にはゼネラル・エレクトリック社製のCF6-32の搭載も検討されたが需要が無く実現しなかった[26]

757は727の後継機と考えられており、当初は727との共通性が重視されたが、いずれ退役することが見込まれる727よりも、同時進行で開発中の767との共通性を高めた方が良いと考えられるようになった[27]。ボーイングはリスクを低減するため、そして開発費を節約するために両機の設計作業を統合し[10][22]、結果として両機種は搭載機器や取扱上の特性などが共通化された[28][15]。767で採用されたコンピュータを用いた設計手法 (CAD) が757の設計でも取り入れられ、全体の3分の1を超える設計図がCADで作成された[29]。1979年の前半には757と767のコックピットが共通化され、両機で同じ計器類やアビオニクス、飛行管理システムが採用された[28]。従来の機械式計器類の代わりに合計6個のカラーCRTを配置して操縦士が把握しやすい情報提示を行うとともに、コンピュータによる自動化を進めることで、操縦士の作業負荷の低減やヒューマンエラーの防止が図られた[30]。まだグラスコックピットという言葉もない時代であったが[15]、この新しいコックピットシステムは、それまで操縦士2人と航空機関士の計3人で乗務する必要があったものを、操縦士2人のみで運航できるように設計された[31]。757と767のコックピットの共通化はパイロットの操縦資格まで共通化することを視野に入れていた[15]。通常、旅客機の操縦資格は機種ごとに取得することになるが、1つの操縦資格で2機種に乗務できることになれば、ボーイングの顧客となる航空会社側でも操縦士の勤務割り当ての自由度が増すことになり、メリットは大きくなる[31]。この共通資格認定は1983年7月22日に認められ、地上での数時間の教習によって757と767の相違について学習することにより、双方の機種への乗務が認められることになった[31]

空港のエプロンに並んで駐機している757と727を横から見た写真。両機ともタラップが接続され扉が開いている。
757と727の並び。727はエア・アトランティスの727-200、757はエア・ヨーロッパの757-200

757の主翼はスーパークリティカル翼を元に開発され、翼の上面のほぼ全域で揚力を発生できる新しい翼型が採用された[11][32]。この主翼には767の主翼と共通の設計技術が用いられ、従来機より抗力が低減されたほか、燃料タンク容量を増やすことができた[11]。また、727よりも大きくなった翼幅によって誘導抗力の発生が少なくなり、主翼の付け根部分が大きくなって主脚の格納スペースが拡大したことで後に胴体延長型を開発する際に役立った[29]

1979年の中頃になると727の面影を残す特徴であったT字尾翼を取り止めて胴体尾部に水平尾翼を装備するデザインに変更された[11]。この変更は、ディープストールと呼ばれる空力学的状態に陥るリスクを避けるとともに、胴体後部の絞り込みを小さくして客室容量を増やす目的で行われた[33]757-200の全長は47.32メートル[5]727-200から64センチメートル長くなったが[7]、尾部のエンジンがなくなったことで客室に割り当てられるスペースはずっと大きくなり[13]座席数は727から50席増えて239席となった[20][34]。これで、727から757に引き継がれた主要な特徴は胴体断面だけとなった[35]。一時は開発をワイドボディの7X7計画に一本化することも考えられたが、結局ワイドボディ機とナローボディ機の両方を開発することになった[36]。757をナローボディとしたのは主には抗力を減らすためで[19]、イースタン航空とブリティッシュ・エアウェイズがナローボディ機の方が経済的だと主張したほか[27]、イースタン航空がシャトル便を多数運航していたニューヨークのラガーディア空港は単通路機の乗り入れしか認められていなかったこともあり[37]、ボーイングが予測した民間航空機市場においてナローボディ機の需要があると判断したことによる[38][27]

製造と試験

ボーイングは757の最終組み立てラインを707、727、737が生産されているワシントンのレントン工場に設けた[39][40]。開発プログラムの初期にボーイングとブリティッシュ・エアウェイズ、ロールス・ロイスの3社は英国の航空機メーカーにも757の主翼の生産に参加するよう働きかけたが、話はまとまらなかった[16][41]。結局、主翼、機首部、尾翼を含む機体の約半分がボーイングの自社設備で生産され、残りの部分は主に米国を拠点とする下請け企業によって生産された[42]フェアチャイルド社は前縁スラット、グラマン社はフラップ、ロックウェル・インターナショナル社は主胴体を生産・供給した[42]。この新しいナローボディ機の生産立ち上げは、在来機種である727の生産縮小と歩調を合わせて行われ[42]1981年の1月に初号機の組み立てが完了した[23]

降着装置を下ろして飛行中の757を右側から見た写真。背後には草原の丘を望む。
ブリティッシュ・エアウェイズはRB211エンジンを搭載した757の最初の顧客となった.

757のプロトタイプは1982年1月13日にレントン工場にてロールアウトした[43]。この機体はRB211-535Cエンジンを搭載し[43]、計画よりも1週間前倒しされ1982年2月19日に初飛行が行われた[44]。この初飛行では油圧低下の表示に続いてエンジンストールが発生した[45]。ボーイングのテストパイロットはシステムによる診断内容を確認してからエンジンの再始動に成功し、以降は正常に飛行した[45]。その後、この初号機は週7日のスケジュールで試験飛行を行った[46]。この時までに、エア・フロリダアメリカン航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、デルタ航空、イースタン航空、モナークエアライントランス・ブラジル航空の7社から計136機の受注を獲得していた[23]

7か月におよぶ757の試験飛行には初号機から5号機までの5機が投入された[47]。試験内容には飛行システム・推進システムの試験、高温・低温気象下での試験、路線実証飛行 (route-proving flights)が含まれた[48]。767の開発課程で得られたデータも757の開発に役立てられた[46]。設計上の問題点が洗い出された後、757の非常口ドアには取り扱いを簡単にするために2重ばね構造が採用されたほか、バードストライクに備えて胴体が強化された[49]。実際に製造された機体は当初の仕様より1,630キログラム軽くなったほか、予想よりも燃料消費率が3パーセント向上した[48]。このことにより、航続距離が200海里(370キロメートル)延びて、ボーイングは躍起になって757の経済性を宣伝した[48]。1,380時間の試験飛行の後[50]、1982年12月21日にRB211エンジン搭載仕様の757に対して米国の連邦航空局(Federal Aviation Administration、以下FAA)の型式証明が交付され、続く1983年1月14日には英国の民間航空局(Civil Aviation Authority、以下CAA)からも型式証明が下りた[45][47]。最初の引き渡しはローンチカスタマーのイースタン航空に対して1982年12月22日に行われた[45][51]。これは767の初引き渡しの約6か月後のことであった[45][51]。PW2037エンジンを搭載した最初の757は約1年後にロールアウトし、1984年11月5日にデルタ航空に対して引き渡された[45]

就航開始・運用の変遷

側面から見た銀色に光る757。尾翼には「757」のロゴが描かれている。
イースタン航空は1983年1月に757の運航を開始した。後に757を大陸横断路線へも就航させた。

イースタン航空は757の初の営業飛行を1983年1月1日にアトランタ-タンパ線で行った[45]。1983年2月9日にはブリティッシュ・エアウェイズがロンドン-ベルファスト間のシャトル便に757を就航させ、3発旅客機であるホーカー・シドレー トライデントを置き換えた[52]。チャーター便を運航しているモナークエアラインとエア・ヨーロッパ英語版もこの年の後半に757の運用を開始した[53]。早くから757を就航させた航空会社では、従来のジェット旅客機と比べて757は信頼性と静粛性能が向上していると評した[53]。従来機種からの転換訓練によって、パイロットがCRTを用いた新しいコックピットに対応するのを助け、大きな技術的問題が起きることもなかった[53]。イースタン航空は、757は従来機よりもペイロード容量が大きく、消費燃料が少なく、また、運航乗務員が2人で済むことから運用コストが低減されることを認めた[53]。757の座席当たりの消費燃料は、特に典型的な中距離フライトでは、707よりも40パーセント、727よりも40パーセント少なくて済んだ[54]

757のデビューは成功したものの、米国の航空自由化[注釈 2]により需要が小型機に移ったことに加え、燃料価格が下落した結果、1980年代の大半で販売が伸び悩んだ[45]。直接的な競合機種は存在しなかったが[22]、マクドネル・ダグラスMD-80などの150席級のナローボディ機は機体価格が低く、757の座席配置によってはほぼ同じ乗客数を乗せることができた[21][45]。全く売れない期間が3年間続いたが、1983年11月にノースウエスト航空から20機の受注があったことで、生産ペースを下げずに済んだ[56]1985年12月には貨物型の757-200PFが発表されUPS航空から20機の受注を得た[45]ほか、1986年2月には貨客混載型の757-200Mがローンチされロイヤル・ネパール航空から1機受注した[57]。貨物型はメインデッキ(旅客型で客席が設けられる部分)を貨物室としたタイプであり、1987年の9月にUPS航空によって就航した[58]。貨客混載型はメインデッキに乗客と貨物を収容できるモデルで、1988年9月にロイヤル・ネパール航空によって就航した[57]

斜め後ろから見た757の離陸の様子。背景には雪に覆われた山々が写っている。
モナークエアラインは757によるチャーター便の運航を1983年に開始した。

1980年代後半になると、ハブ空港への路線集中が進み、米国で空港の騒音規制が始まったこともあり757の販売が好転した[45]。1988年から1989年の間に合計322機の受注を獲得し、そのうちの合わせて160機はアメリカン航空とユナイテッド航空からの受注であった[45][59]。このときまでに、米国の短距離国内路線と大陸横断路線では757が当たり前のように見られるようになり[58]、老朽化した707や727、ダグラスDC-8、マクドネル・ダグラスDC-9を置き換えた[60]757-200の最大航続距離は3,900海里 (7,220 km)[5]と727の1.5倍を超える長さとなり[20]、航空会社は無着陸でより長い距離の路線に就航させることができた[61]。さらに、757は厳しい騒音規制が課せられた空港(カリフォルニア州ジョン・ウェイン空港など)[62]や、機体サイズに制限があった空港(ワシントンD.C.のビジネス街に近いワシントン・ナショナル空港(当時)など)[63]からも飛び立つことが出来た。最終的に、デルタ航空とアメリカン航空ははそれぞれ100機以上の757を就航させ、米国で最大の757運用者となった[58]

欧州では、ブリティッシュ・エアウェイズ、イベリア航空、アイスランド航空が757の主要なユーザーとなった一方で、ルフトハンザドイツ航空など他の航空会社はナローボディ機のニーズに比べて757は大きすぎると考えた[49]。また、1980年代の後半に欧州の多くのチャーター便航空会社(エア2000英語版エア・ホラント英語版LTU国際航空など[51])が757を採用してパッケージ旅行向けなどの便に使用した[58][60]。アジアでは旅客数の多さから757より大きな機体が好まれたたため、受注数は少なかった[64] 。1982年における757の販売実績は、潜在的顧客である日本航空に発注を促すほどのものではなかった[51][65]。シンガポール航空はアジア初の757ユーザとなり、インドネシアとマレーシアの路線に757を就航させたが、ちょうど5年後の1989年には、保有機種を240席のワイドボディ機であるエアバスA310に統一するために4機の757を売却してしまった[66]。757は中華人民共和国では比較的受け入れられ、1987年に中国民用航空局が最初の発注を行った[58]。中国での受注数は59機まで増えてアジアで最大の市場となった[51]中国南方航空中国西南航空上海航空厦門航空中国新疆航空ら中国の航空会社は757を中距離国内線で使用した[67]

1986年にFAAはRB211エンジン仕様の757に対して、ETOPSと呼ばれる長距離飛行に関する規制緩和要件を認可し、北大西洋横断航路へ就航させられるようになった[16][50]。ETOPSは着陸可能な飛行場が近くに無い海上などを飛行する双発機に関してまとめられた安全規格であり、この要件のもとで航空会社は757を中距離国際線に就航させた[16]。この認可は767が先行事例となった[68]。当初、757は大洋を横断する路線への就航は想定されていなかったものの、北米の大陸横断路線で蓄積された信頼性性能に基づいて規制当局の認可が下された[68][69]。PW2000シリーズエンジンを搭載した757に対するETOPS認証は1992年に認められた[57]

1990年代の前半になると、FAAやアメリカ航空宇宙局 (NASA) や国家運輸安全委員会 (NTSB) などの米国の政府機関は757の後方乱気流特性について調査を始めた[70]。757のすぐ後ろを飛行していた小型のプライベート機が操縦不能に陥り墜落した例など死亡事故2件を含む事故が続いたほか、小型機が757の背後を飛行中に予期しないローリング運動を起こすという報告を受けた調査であった[70][71]。調査団は757の主翼形状に着目して調査を行ったところ、離陸中や着陸中のある特定の状況において、757より大型の767や747よりも翼端の渦流が強くなる可能性があった[72]。これは試験飛行の時点では見過ごされていた[71]。また、他の試験結果からは確定的な結論を出せず、各政府機関の間で論争を引き起こした[70]。結局、FAAは1994年1996年航空交通管制の規制を改訂し、757の直後を飛行する場合は大型機に分類される他のジェット機よりも間隔を大きくとることになった[70][73] 。このため、FAAの分類規定において、757は136,000 kg(300,000ポンド)に満たない航空機で唯一「heavy」ジェットに分類されることになった[72]

胴体延長型の開発

1990年代の前半には757の生産が年間100機となりピークを迎え[74]、この間に発展型の検討も始められた[75]。757はボーイング社の単通路ジェット機のなかで、10年以上にわたって発展型が存在しない唯一のモデルであり、航続距離延長型の757-200Xや胴体延長型757-300Xの噂がたびたび流れたが、公式な発表は行われていなかった[75]1980年代エアバスA320の開発が始まろうとしていた時期には、対抗する商品として短胴型として757-50を検討していたが実現しなかった[76]。一方、欧州のチャーター便航空会社のは座席定員を増やした胴体延長型に特に興味を示し、そのような機体ができれば757の特徴である長い航続距離をもっと活かすことができると考えていた[58]。胴体延長モデルが実現すれば、チャーター便航空会社のニーズに応えられるほか、767-200より低い運用コストで同等の乗客数を乗せられる機種がボーイングのラインナップ加わることになり[77]、座席数185席のエアバスA321[注釈 3][78]の航続距離延長型にも対抗できる可能性があった[79][80]

飛行中の757を横から見たところ。降着装置も見える。
1999年3月にコンドル航空は胴体延長モデル757-300の最初の運航会社となった。

1996年の9月2日、チャーター便航空会社のコンドル航空から12機の発注を獲得し、ボーイングはファーンボロー国際航空ショーにおいて胴体延長型の757-300の開発を発表した[75][76]757-200のローンチ後18年ぶりの発展型の開発となった[76]。この新型機は757-200よりも胴体が7.11メートル長くなり、座席数を約20パーセント、貨物室容積を約50パーセント増やすことができる機内空間が生み出された[81]。ボーイングは757-300の設計期間を同社史上最短すべく開発に取り組み、ローンチから型式証明までに要した時間は27か月であった[75]。開発上・コスト上の問題から大規模な改良は行われず、737ネクストジェネレーション(以下、737NG)シリーズで採用された新コックピットの採用も見送られた[82]。この胴体延長モデルは、改良されたエンジンと強化されたアビオニクスを搭載し、内装も再設計された[57][82]757-300の初号機は1998年5月31日にロールアウトし、同年8月2日に初飛行した[58]。1999年1月に型式証明を受領し、1999年3月19日にコンドル航空が初就航させた[58]

757-300アメリカン・トランス航空アルキア・イスラエル航空コンチネンタル航空からも受注した[51]。ボーイングでは、この757-300については「757-200のリプレイスを行なう機材ではなく、757-200767-300の隙間を埋める、全く新しい機体」としていた[83]。しかし、757-300の販売は低調で、最終的に合計55機が製造されるにとどまった[58]。ボーイングは767-200の2大顧客であったアメリカン航空とユナイテッド航空に後継機として757-300を売り込もうとしたが、両社とも新型機の話に乗れるような財務状態では無かった[84] 。他のチャーター便航空会社へも売り込みをかけたが、新たな受注につながらなかった[85]757-300を市場投入したにもかかわらず、1999年11月までに販売が先細りし、受注残が減少したことを受けてボーイングは757の生産率を減らすことを検討し始めた[86]

その後の展開

757計画は財務上は成功をおさめたが、2000年代の初めには受注が伸び悩んで生産の継続が危うくなってきた[86][87]。航空会社は財務リスクが低下したことによって、再び737やA320といった、757より小さい機体を求めるようになっていた[88]。航空業界の景気が後退していたことに加え、機体年齢が比較的若い757が多く就航していたことも買い換え需要を少なくした[87]2000年にはエア2000とコンチネンタル航空が興味を示したことを受けて、ボーイングは長距離型の757-200Xを開発するかどうか再検討した[89]。提案された派生モデルは、補助燃料タンクを追加するとともに757-300から主翼と降着装置を改良することで最大離陸重量を増やし、航続距離を5,000海里 (9,260 km)以上に延ばすというものであった[89]。しかし、この提案は受注を得られることは無かった[51][85]2001年3月には、ボーイングは中古の757-200を貨物用の757-200SFに改造してDHL航空に初めて引き渡した[90]。この757-200SFは、ボーイングが旅客機から貨物機への改造事業に初めて進出した事例となった[91]

前方斜め下から見上げた757の離陸の様子。降着装置も見える。
2005年に上海航空は757の最終号機 (B-2876) を受領した。

757に対する航空会社の興味は失われる一方で、2003年には販売キャンペーンがリニューアルされ、新規受注が5機しかなかった757-300757-200PFに販売の軸足が移された[85]。さらに、姉妹商品であるはずの767も、767-400ERでは777と同様のグラスコックピットを採用したため、これまで通り757と767で共通という操縦資格を維持するためには、グラスコックピットでありながら在来型の計器表示での様式が必要となった[92]。合理的な手段としては、767-400ER以外の767についてもグラスコックピットの様式を揃えることが考えられ[92]、実際に2003年からは767-200ER767-300ERでも、コックピットを767-400と同様式とすることになった[93]。このような状況下で、757はボーイングの旅客機の中で、取り残され孤立した状態にあるとみられた[92]

その後、コンチネンタル航空が発注済みの757-300のうち未受領分を737-800に切り替える決定をしたことを受けて、2003年10月16日、ボーイングは2004年末で757の生産を終了することを発表した[85][37]。1,050番目となる最終機は上海航空向けの757-200で、2004年10月28日にレントン工場での生産工程を完了し[3]2005年4月26日に納入された[5][94]。ボーイングは757の生産プログラムが終了したのに合わせて、レントン工場の737型機の組み立てラインを整理・統合し、生産設備を40パーセント縮小して人員を他施設に移した[95]

757の生産終了後も、特に米国では、ほとんどの機体はそのまま営業運航に就いていた[58][96] 。しかし、2004年から2008年の間にかけて燃料価格が跳ね上がり、航空会社は保有機材の燃料効率を改善する必要性に迫られた[97]。そこで、ボーイングは737NGで採用されたブレンデッド・ウィングレットと同様のものを757に追加装備できるようにした[5]757-200へのウィングレットの取り付け改修はアビエーション・ パートナーズ社によって行われることになり、2005年5月にFAAからの認可が下りた[5]757-200のウィングレットを発注したのはコンチネンタル航空であった [98]。このウィングレットによって誘導抗力が減少して燃料効率が5パーセント向上し、航続距離が200海里 (370 km) 延長した[99][100]757-300へのブレンデッド・ウィングレット追加改修についても2008年にFAAから認可され、改修作業はアビエーション・ パートナーズ社によって行われた[101]757-300のウィングレット改修第1号は757-200と同じくコンチネンタル航空の機体で、2009年2月に就航を開始した[98][101]

左下からみた上昇中の757。
コンチネンタル航空のウィングレット装着機757-300。ウィングレットにより誘導抗力が減り、燃料効率が改善される。

2010年代には、757は米国の全レガシーキャリア[注釈 4](アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空、USエアウェイズ)がまとまった機数を運用している唯一のナローボディ機となった[1][80]。757の持つ収容能力と航続距離性能に肩を並べられるほどのナローボディ機は依然として存在しなかった[103]。航空会社が757を置き換える際には、座席数が少なく航続距離が短い機種(737-900ER、A321など)を選ぶか、大型で航続距離が長いワイドボディ機(787ドリームライナー、A330-200など)を選ぶかのいずれかを強いられた[80][104]。1989年に登場したツポレフ Tu-204は757に近い設計のナローボディの双発ジェット旅客機で[105]、座席数200席のバージョンが存在したが、主にロシアの航空会社向けと見られていた[106][107]。ボーイング社内では、215席で航続距離3,200海里 (5,930 km) の737-900ER757-200に最も近い機種と見なされた[108]

ボーイング関係者は2011年に757の後継機となる200席級の旅客機の開発に取り組む計画は無いと述べた[109]。その代わり、737-700737-800でカバーしていた座席数145から180席の市場向けにコードネーム「ボーイングY1」と呼ばれる新型旅客機が検討されていた[[109][110]。Y1の胴体延長モデル、または787の中距離バージョンが実現すれば757の後継機となる可能性があった[104]。しかし、2012年にY1プロジェクトは棚上げされ、737に新エンジンを採用して再設計する「737MAX」を開発することが決まった[111]。ボーイングは737MAXの最大モデルで757の代替市場の大部分をカバーできるだろうと考えた[111]。それと同時に、ボーイングは大西洋横断路線を想定した757の長距離型の後継機に関する研究を行っていることを明らかにした[111]

機体の特徴

概観

駐機場を移動中の双発ジェット機を上から見下ろした写真。
上から見下ろしたエチオピア航空757-200ロンドン・ヒースロー空港にて。

757は片持ち式の主翼を低翼に配置した単葉機であり、胴体尾部に水平尾翼と垂直尾翼を直接取り付けた通常の尾翼構造を持つ。主翼はスーパークリティカル翼断面で前縁スラットを5枚、6枚のスポイラー、そして、シングル・スロッテッド・フラップ、ダブル・スロッテッド・フラップ、外側エルロンを1枚ずつ備える[112]。主翼の翼型などは757シリーズで同一であり、25度の後退角を持ちマッハ0.8(時速858キロメートル)での巡航に最適化された[29][81]。25度という後退角は浅いものであるが[81][注釈 5]、これによって内側エルロンが不要となり、飛行経路のほとんどが上昇と下降で占められる短・中距離路線では抗力による悪影響をほとんど受けなかった[113]。機体には複合材料と強度を改善したアルミニウム合金が採用され、機体重量が約900キログラム軽減された[23]。使用された複合材料には主に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とケブラー(アラミド繊維)強化複合材料(KFRP)で、昇降舵方向舵エルロンスポイラーエンジンカウル、エルロンカバー、脚格納室のドア、点検用パネルなどに使用された[23][114]。使用された炭素繊維は日本の東レから提供された[115]

飛行中の機体を真下から見上げた写真。左右の主翼にエンジンが1つずつ備わっている。胴体が丸い機首からまっすぐ伸び、尾部で徐々に細くなって2枚の水平尾翼が取り付けられている。
着陸のためのファイナルアプローチに入ったユナイテッド航空757-200を真下から見上げる。降着装置を下し、フラップとスラットを展開している。

757の降着装置は引込式のものを前輪式[注釈 6]に配置され、727では2輪式だった主脚が4輪式に変更された[116][13]。胴体延長型の757-300については、離着陸時に尾部が地面にあたるのを避けるため、従来のボーイング製ナローボディ機よりも降着装置の脚長を長くした[117]。1982年には757-200は亜音速ジェット機として初めてカーボンブレーキ(ダンロップ製)がオプション設定された[118]

757と767でアビオニクスとコンピュータシステムが共通化されたほか、757の補助動力装置 (APU)、電力システム、操縦室、油圧系の部品には767と同じ物が採用された[119]。757と767の間では飛行特性を揃える工夫がなされ、パイロットの操縦資格も共通化された[27][28][120]。757のパイロットは767にも乗務できる共通資格を取得できることで、両機種を運用する航空会社では操縦士の勤務割り当てを行う際の自由度が増すことなどから、コストが低減される[31][22][50]

飛行システム

757のコックピットの様子。6枚のカラーディスプレイが配置されている。
アメリカン航空757-200のコックピット。CRTディスプレイが配置され、パイロット2名での運航を可能にする設計がなされた。

操縦室には、6個のCRTで航空機の計器情報を表示するロックウェル・コリンズ製のコクピットシステムや電子飛行計器システム (electronic flight instrument system, EFIS)、エンジン計器・乗員警告システム (engine indication and crew alerting system, EICAS)が装備されている[28]。これらのシステムにより、パイロットが航空機関士に頼らずにモニタリング作業を行うことが可能になった[28]。757の飛行管理システムは初期の747で用いられたシステムに改良を重ねたものであり、航法をはじめ諸機能が自動化されたほか[28]、自動着陸システムによって視程150メートルの視界不良状態においてもカテゴリーIIIb計器着陸が容易になった[121]757-200で搭載された慣性航法装置はレーザージャイロスコープを使用した最初の事例となった[43]757-300では操縦室のアップグレードがはかられ、ハネウェル社のペガサス飛行管理コンピュータとEICASの改良版が搭載され、各種ソフトウェアシステムのアップデートも行われた[122]

操縦室を767と共通化するため、757の機首は従来のナローボディ機と比べて丸みを帯びた形状となった[18][123]。このことによりスペースに余裕が生まれ、計器パネルの可視性が確保されたほか、オブザーバーシートのための場所もできた[124]。また、757と767とでパイロットの視界を揃えるために、757ではコックピット全体を下に2度傾けた上で客室より少し低く配置されたほか、コックピット正面の2枚の窓を767と同一にし、残りの窓についても胴体形状と辻褄をあわせつつ形状や配置が工夫された[49][37][125][126]

757には独立した3系統の油圧システムが搭載され、2基のエンジンで油圧1系統をそれぞれ駆動し、最後の1系統は電動ポンプで駆動される[23][116]。緊急事に操縦を行うために最低限必要となる電力を供給するため、ラムエア・タービンも装備されている[116]。従来の機械的なケーブル類に代わって電気的信号により操舵するフライ・バイ・ワイヤの基本形がスポイラー操作系に採用された[42]。このフライ・バイ・ワイヤシステムは767と共通のもので[42]、このシステムにより機体重量が低減されたほか、個々のスポイラーを独立して操作可能になった[127]。また、757をETOPSに適合させる際には、信頼性向上のために油圧モーター発電機のバックアップと電子機器収納区画の冷却ファンの予備が追加された[50]

客室

ファイル:757-200 Pantallas Tactiles Delta.jpg
757-200デルタ航空機のアップグレード改装後のエコノミー席。中央の通路を挟んで座席が3席ずつ配置されている。各座席の背面にモニターが取り付けられている。

座席配置は、中央に通路を挟んで1列あたり6席まで配置可能である[43]。757は当初、平均2時間程度のフライトが最適になるように設計された[22]。客室には、空間をより広く感じられるような内装デザインや照明が取り入れられた[40]。座席上の荷物棚(オーバーヘッド・ビン)は767と同様に、ガーメントバッグ[注釈 7]を収納できるものが採用され[128]、727と比べて2倍の大きさになった[40]。エコノミークラスの最後尾には767と同様にギャレーが標準装備された[128] 。機体重量を低減するため、内装パネルや荷物棚にはハニカム・サンドイッチ構造材が使用された[40]。着水したときに備えて、757の乗降口には747に見られるような脱出用スライドと救命いかだが一体になった緊急脱出装置が採用された[40]。1980年代には、ボーイングは自社の他のナローボディ機についても757と同様の内装デザインに改めた[129]

1998年に登場した757-300では内装が再設計され、737NGシリーズや777に類似したデザインが採用された[81]。間接照明が採用されたほか、オーバーヘッド・ビンが従来より大型になり、ビンの下部には乗客が移動しやすいように手すりが取り付けられた[130]。通路の天井にはセンターライン・ストレージ・コンテナが取り付けられ、予備の救命いかだなど非常用装備が追加された[131]。この757-300の内装は、のちに757-200の新造機でもオプションとして取り入れられた[132]。その後、車輪付きのスーツケースが一般に広まったことをうけて、デルタ航空は2000年に保有している757-200のオーバーヘッド・ビンの大型化改修を行い[133]、続いて2001年にアメリカン航空も同じ改修を行った[134]。この荷物棚の大型化改修は、天井パネルや照明の改良を含むアフターマーケットでの内装アップグレードの一環として行われた[135]。757の化粧室には日本の横浜ゴム社製のユニット採用され同社から独占供給されたほか、内装リニューアルのための改良版ユニットも同社から発売された[136][137]

シリーズ構成

アメリカン航空757-200

757は標準型の757-200と胴体延長型の757-300が生産された[138]。まず、基本モデルとなる旅客型の757-200が登場し、後にその発展型として貨物型の757-200PF757-200SF[91]ならびに貨客混載型の757-200Mが登場した[138]。胴体延長型の757-300は旅客型のみ存在する[139]

ボーイング社や航空会社では機種名 (757) と派生型の識別名(例:-200-300)をまとめた短縮表示(例:752や753[140])を使うことがある。国際民間航空機関 (International Civil Aviation Organization, ICAO)では757-200を基準として757シリーズを分類しており757-200はB752、757-300はB753というコード名が使われている[141]

757-200

標準のドア配置。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼後方にタイプIの非常口が1つ
標準のドア配置。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼後方にタイプIの非常口が1つ
改良型。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼上にタイプIIIの非常口が2つ
改良型。タイプAドアは最前部、主翼前方と最後部に設置、主翼上にタイプIIIの非常口が2つ

757-200はシリーズで最初に開発され、1983年に初就航した[45]757-200のローンチ当初の側面の扉配置は、最前部、主翼前方、最後部に乗降用ドア(またはサービス・ドア)を配し、扉下端が床面となる大きさの非常口を主翼後方に設けていた[2][142]。しかし、デルタ航空へ納入された機材では、主翼後方の非常口に代えて、主翼上に小型の非常口を2つ設置する仕様となった[2][142]。この仕様では座席を8席増加させられるため、以後はこの仕様が主流となった[2]。最初に757-200に採用されたエンジンはRR社ののRB211-535Cであるが、1984年10月にRB211-535E4にアップグレード更新された[143]。他に搭載されているエンジンは、RR社のRB211-535E4B、P&W社のPW2037とPW2040である[144]

757-200は短・中距離路線向けに設計されたが、実際に就航されると、高頻度のシャトル便から大西洋横断路線まで幅広い役割を担った[58]。1982年にETOPS認証を取得した後、ATA航空は757-200を米国のツーソン-ホノルル便に投入した[57]。21世紀入って、米国の大手航空会社は欧州と米国を結ぶ大西洋横断路線に757-200を就航させ、特に、ワイドボディ機を用いるほどの旅客需要がない小都市間の路線に用いられた[145]。757-200は757シリーズ中で最多となる913機が製造された[51]。757シリーズで最後に生産された機体もこのタイプで、2005年4月26日に顧客へ引き渡された[5]

757-200PF

UPSの757-200PF

757-200の貨物専用型として製造され、1987年にUPS航空が初就航させた[69]。PFは「Package Freighter」の頭文字である[146]。小口貨物の速達事業者向けに開発され[69]、メインデッキの貨物搭載容積は187立方メートルで、航空貨物コンテナまたはパレットを15個まで搭載可能である[147]。また、胴体下部には52立方メートルの貨物スペースがあり、ばら積み貨物を搭載できる[147]。コンテナ重量を含めた積載可能重量は最大で39,780キログラムである[144]。757-200PFの最大離陸重量は115,668キログラムで、最大積載時の最大航続距離は3,150海里(5,834キロメートル)である[144]。757-200PFは貨物専用機であり乗客がいないので、ETOPSの規制を受けることなく大西洋横断路線に就くことが可能である[57]。搭載されているエンジンは、RR社のRB211-535E4B、P&W社のPW2037、PW2040のいずれかである[144]

757-200PFにはメインデッキの貨物を搭載するため、上側に開く大型の貨物扉が胴体前方の左舷に設けられている[148]。また、この機種には乗客用のドアや客室窓、乗客用設備が一切なく、乗務員用のドアが貨物扉の前方に設置されている[149][150]。メインデッキの貨物室の床面はガラス繊維を用いた複合材で強化されているほか、貨物がコックピットにぶつかるのを防ぐための防護壁が設けられている[151][150][152]。大西洋横断路線向けの追加装備として、UPS社が保有する757-200PFでは補助動力装置がアップグレードされたほか、貨物室に追加の消火装置が搭載され、オプションの燃料タンクが胴体尾部の下部に追加された[57]。757-200PFの総生産数は80機である[51]

757-200M

ネパール航空757-200M。タラップの左側に貨物ドアが見える

757-200Mは、メインデッキに貨物と乗客を収容できる貨客混載型として開発され、1988年にロイヤル・ネパール航空(のちに「ネパール航空」に改名)が就航させた[51][153]。このタイプは757-200M「コンビ」とも呼ばれ[152]、扉と窓の配置は標準型の757-200を踏襲しているが、757-200PFと同様の貨物扉が設置されている[57]。貨物扉の設置位置は胴体左舷の最前部(No.1ドア)と主翼前方のドア(No.2ドア)との間にあたり、この貨物扉にも窓がある(右写真参照)。

ネパール航空はヒマラヤ山脈の麓に位置するトリブバン国際空港からの旅客・貨物の運送需要を満たすため、757-200Mを発注した[154]。この派生モデルは737や747で作られたコンバーチブル型[注釈 8]にならって開発され、2個から4個の貨物パレットをメインデッキに搭載でき、残りのスペースを客席にすることで123席から148席まで設けることが可能である[57]757-200Mはネパール航空が発注した1機のみが製造され[51]、エンジンにはRR社のRB211-535E4を採用し、最大離陸重量は109,000キログラムである[57][138]

2010年10月に、ペムコ・ワールド・エア・サービス社とプレシジョン・コンバージョンズ社は、旅客型の757-200からコンビ仕様への改造事業にそれぞれ乗り出した[155][156]。また、VTシステムズ英語版社も類似した改造事業を2011年12月に開始した[157]。これら3社による改造事業は、機体の前方に貨物パレットを10個まで搭載できるよう改造し、残りのスペースに45席から58席程度の座席を配置するというものである[155][156][157]。757コンビ改造機の顧客は、エア・トランスポート・サービス・グループ英語版ナショナル航空 (N8)英語版ノースアメリカン航空である[157]

757-200SF

DHLの757-200SF

757-200SFは、旅客型の757-200を貨物用に改造したもので、2001年にDHL航空が就航させた[90][158]。SFは「Special Freighter」の意味である[159]。ボーイングの一部門である「Boeing Airplane Serives」が改造した上でDHLにリースする契約となっている[159]。また、イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ社、プレシジョン・コンバージョンズ社、STエアロスペース英語版社も、757-200SFへの改造を請け負っている[90]。改造は旅客用設備を撤去した上で、メインデッキの構造を強化し、胴体左舷前方に757-200PFと同様の貨物扉を設置する[91]。前方の2か所のドアを残し、メインデッキに757-200PFより1つ少ない14個の貨物パレットを搭載可能である[91]。動物を搬送するための環境調整機能を備えた機体もある[160] 。2006年9月には、フェデックス・エクスプレスは2億6千万ドルで757の貨物改造機を80機以上導入し、727貨物機と置き換える計画を発表した[161]。2014年2月には、貨物パレットを15個搭載できる仕様についても発表されている[162]

757-300

ノースウエスト航空の757-300

757-300は胴体延長型として開発され、1999年にコンドル航空が初就航させた[122]。757-200の胴体を7.11m延長したストレッチ型である。全長54.43mはナローボディ旅客機としては旅客機史上2番目の長さ(1位はDC-8-61/63の全長57.12m)となり、ナローボディ双発旅客機に限れば最長である[4]。チャーター便運航会社向け機材として、また、767-200の低コスト代替機として設計され、胴体が主翼の前後で延長されたが、基本設計は757-200と共通である[77]。757-300の扉配置は、左右側面それぞれに4か所の乗降用ドアと主翼上の非常口1か所が設けられており[163]、289名までの乗客を乗せることができる[164]。最大離陸重量は123,600キログラムで、最大航続距離は6,287キロメートルである[164]。エンジンはRR社のRB211-535E4BとP&W社のPW2037、PW2040、PW2043が採用されている[164]。胴体延長に伴い、引き起こしの際に尾部が接地することを防ぐために、胴体尾部にテイルスキッドが装備されている[4]ほか、重量増加に合わせ主翼の構造強化されている[101]。同じ時期に開発された767-400ERではコックピットが一新されたが、757-300ではコックピットについては大きな変更は行なわれていない[4]

コンドル航空は、カナリア諸島などへのレジャー旅行者を対象に低コストで大量輸送を行うために、マクドネル・ダグラスDC-10の代替機としてこの757-300を発注した[165]。 乗客が757-300に搭乗し終えるまでの時間をテストしたところ、757-200より最大8分長くなる場合があったことから、ボーイングとコンドル航空は、胴体が長い機体の乗降時間を短縮するためのゾーン別搭乗方式を開発した[166]。757-300は、コンチネンタル航空(後にユナイテッド航空と合併)ノースウエスト航空(後にデルタ航空と合併)といった米国の大手航空会社のほか、アイスランド航空、アルキア・イスラエル航空や、チャーター便運航会社のコンドル航空やトーマス・クック航空で採用された[167]。757-300は55機が製造された[51]。757-200と共に製造を終了し、最終機は2004年4月27日コンチネンタル航空に納入されている[101]

政府専用機・軍用機・プライベート機

757は政府専用機、軍用機、プライベート機などにも採用され、要人輸送のほか航空機の研究のためにも使用されている。これらの派生機のベースには757-200が用いられている。757を政府専用機として最初に採用したのはメキシコ空軍で、1987年11月にVIP仕様の757-200を受領した[168]

アメリカ空軍のC-32。757の派生型でアメリカ合衆国副大統領の移動に用いられる。
C-32
アメリカ空軍はVIP仕様の757-200を4機運用している[169] 。この4機はC-32Aと命名され、「エアフォースツー」のコールサインで副大統領の移動にも用いられることもある[169]。C-32Aの機内は4区画に分けられ、通信センター区画、専用の洗面所や更衣室を備えた貴賓室区画、会議・スタッフ設備区画、一般座席区画が設けられている[169]。アメリカ空軍は、C-32Bと名付けられた45座席仕様の757-200も運用しており、アメリカ合衆国国務省の「Foreign Emergency Support Team」と呼ばれる緊急時対処要員が使用する[170][171]。C-32Aはアメリカ空軍の要人輸送機で使用される青と白の塗装が施されている[169]一方で、C-32Bは白一色に塗装され最小限の識別マークのみとなっている[172]。最初のC-32は1998年に納入され、C-137輸送機を代替した[170]
F-22 フライングテストベッド
757の初号機はボーイングが所有しており、1998年にアメリカ空軍のF-22戦闘機の開発に際して、アビオニクスやセンサーシステムの試験に用いられた[173][174] 。機体のコックピットの上方には戦闘機の翼に組み込むセンサー配置をシミュレートするためのカナード翼が取り付けられたほか、機首の前にはレーダーなどのシステムを搭載したF-22の胴体前半部が取り付けられ、さらに、キャビンには30席の研究スペースが設けられ、通信システム、電子戦システム、ナビゲーションシステムが搭載された[173][174][175]
グレーの757が氷原の上で静止している。機体尾部からタラップが下り、その周りには職員がいる。
2009年にニュージーランド空軍は保有する757のうちの1機を初めて南極大陸に飛ばした。
ニュージーランド空軍 757コンビ型
ニュージーランド空軍は、STエアロスペース社による757-200M改造機を2機運用しており、装備の輸送、医療救助、兵員輸送、要人輸送に用いている[176][177]。貨物扉と収納式のタラップが備えられ、補助動力装置のアップグレードと通信システムの強化が行われている[177]。727-100QCの代替機として導入され[177]、ニュージーランド首相の移動に使用されるほか[178]、ニュージーランドが南極大陸に設置したスコット基地への輸送にも用いられている[179]

757-200は上述以外にも要人輸送に使用されており、アルゼンチン空軍とメキシコ空軍は、それぞれの国の大統領専用機として757を運用している[180][181]ロイヤルブルネイ航空の757-200は、1980年代から1995年にカザフスタンに売却されるまでの間、ブルネイ国王の移動に使用された[182]ほか、サウジアラビア王室は757-200を「空飛ぶ病院」として用いている[183]

また、ビジネスジェットやプライベート機としても使用されており、2004年アメリカ合衆国大統領選挙では、候補者のジョン・ケリーが選挙期間中に「Freedom Bird」とニックネームを付けた757-200型機をチャーター使用した[184]ほか、2008年アメリカ合衆国大統領選挙の期間中には上院議員だったバラク・オバマがノースアメリカン航空の757-200をチャーターして使用した[185]。また、2008年にはヘヴィメタル・バンド「アイアン・メイデン」が世界ツアー用に757をチャーターし、バンドのメインボーカルを努めるブルース・ディッキンソンが「エドフォースワン」と名付けられたこの機体を自ら操縦した[186]

運用の状況・特徴

2013年7月現在、最も多くの757を運用しているのはデルタ航空で、その数は162機である[1]。かつては、142機を運用していたアメリカン航空が首位に立っていたが[187]、同社は運用する757の搭載エンジンを統一するため[188]、買収したトランス・ワールド航空から引き継いだ機体を退役させ[注釈 9]、そのうち17機をデルタ航空が引き継いだことで、首位の座がアメリカン航空からデルタ航空に移った[189]。さらに、デルタ航空は2008年10月にノースウエスト航空と合併し、ノースウエストが保有していた61機がデルタ航空に引き継がれた[189]

2013年7月において貨物型の運用数が最も多いのはUPS航空で、75機の757-200PFを運用している[1]。貨物型への改造モデル757-200SFの運用数首位はフェデックス・エクスプレスで、その数は68機である[1]。また、DHL航空とその関連会社(DHL エア・UK、ヨーロピアン・エア・トランスポート・ライプツィヒ、ブルー・ダート・アビエーション、DHL アエロ・エクスプレッソ)による運用数は40機を超える[1]

757のローンチカスタマーであったブリティッシュ・エアウェイズは757-200を2010年11月に引退させるまで27年間運用した[190]。同航空は、757の引退記念として、最後まで運航した3機のうちの1機に対して757が初就航した1983年当時の塗装に復刻して2010年10月4日に公開した[191]。ただし、その後も同社傘下のオープンスカイズでは757の運航は継続された[191]

2013年7月時点で855機の755が民間路線に就航しており、主な運用者(括弧内は運用機数)はデルタ航空 (146) 、ユナイテッド航空 (130)、アメリカン航空 (97)、UPS航空 (75)、FedExエクスプレス (68)、USエアウェイズ (24)、DHLエア (22)である[1]。そのほか、20機未満の757を運航している航空会社が北米、南米、欧州、アフリカ、アジアに点在しているが、日本の航空会社では757を運航していない[1]。これまでに合計1,049機の757が生産・納入された[51]。なお、757-200の1号機は顧客には渡されず試験用機体としてボーイングが保有しており[18]、これを含めると総生産数は1,050機である[3]

日本における就航事情と愛好家からの注目

1994年に高松空港に飛来した中国西南航空の757

757は1982年の登場から2013年現在に至るまで日本の航空会社による発注・導入実績がない[6][192][193][167][194][1]ことに加え、日本への飛来数も多くなかった[6]。日本に757が初飛来したのは、1982年8月にデモフライトで新東京国際空港(当時)を訪れた時であるが、その後は1987年9月にブルネイ王室のチャーター便としてロイヤルブルネイ航空の757が来日するまで、5年以上も日本には飛来実績はなかった[195]。それ以後も年に数回程度チャーター便で来日する程度で、定期便として757が日本へ就航したのは、1994年10月にロイヤル・ネパール航空関西国際空港への路線を開設したのが初めてとなった[196]

757の収容力や航続距離ではアメリカやヨーロッパからの長距離定期便には向いていないため[197]、757が定期便で日本に乗り入れる可能性があるのはアジア地域の航空会社に限られる[197]。その中でも定期路線運航の機材として757で日本に乗り入れを継続している航空会社が少く[197]、2003年9月までに定期便に757を使用して乗り入れていたのは一時的な機材変更を除けば前述のロイヤル・ネパール航空とユナイテッド・パーセル・サービスしかなかった[6]。その後、2003年9月30日から、ノースウエスト航空が成田国際空港からアジア地区やグアム、サイパンへ向かう路線に就航させるため、それまで同様の目的で使用していたエアバスA320に代わって5機の757を成田に常駐させた[6]ことで、日本の空港を拠点とした757の運航が行われるようになった。

757はアメリカやヨーロッパのみならず、南アメリカでもメジャーな存在であった[198]にもかかわらず、日本においてはなかなか見ることのできない航空機であったことから、日本の航空ファンからの注目を集めた[199]。1987年12月にロイヤル・ネパール航空が民間チャーター便を名古屋空港発着で運航した際には、日本発着の民間チャーター便としては初めて757を使用したこともあり、ツアーの旅客数並み[注釈 10]の航空ファンが名古屋空港を訪れたという[199]イカロス出版の雑誌『月刊エアライン』には、日本にチャーター便などで飛来した航空機の写真を掲載する「飛来機王国」というコーナーが存在するが、このコーナーを10年以上担当している編集者によれば、757が飛来すると写真の投稿数が増加する傾向があり[198]、日本への757での乗り入れ実績が多い航空会社のチャーター便であったとしても、757であるというだけで写真投稿数が増えるという[198]

受注・納入数

年ごとのまとめ[3][51]
合計 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992
受注数 1049 0 0 7 0 37 43 18 50 44 59 13 12 33 35
納入数 1049 2 11 14 29 45 45 67 54 46 42 43 69 71 99
1991 1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 1983 1982 1981 1980 1979 1978
受注数 50 95 166 148 46 13 45 2 26 2 3 64 0 38
納入数 80 77 51 48 40 35 36 18 25 2 0 0 0 0
モデルごとのまとめ[51]
Model Series ICAOコード[141] 受注数 納入数
757-200 B752 913 913
757-200M B752 1 1
757-200PF B752 80 80
757-300 B753 55 55
合計 1049 1049

主な事故・インシデント

2014年4月現在、757が遭遇した航空事故・ハイジャックは合計23件で[200]、うち8件は機体損失事故である[201]。7件の墜落と11件のハイジャックにより、合わせて574人の乗員・乗客が死亡した[202]。757が関係する最初の死亡事故は1990年10月2日に発生した廈門航空機ハイジャック事件である。ハイジャックされた厦門航空の737が中国の広州白雲国際空港で着陸に失敗し、離陸のために待機していた中国南方航空の757に衝突し、乗員・乗客122名のうち46名が死亡した[203]。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件ではハイジャックされたアメリカン航空77便が米国のバージニア州アーリントンにあるペンタゴンに激突し、搭乗者64人全員と地上にいた125人が死亡したほか、同じくハイジャックされたユナイテッド航空93便がペンシルベニア州シャンクスヴィルの郊外に墜落し、搭乗者44人全員が死亡した[204]。詳細は、アメリカン航空77便テロ事件およびユナイテッド航空93便テロ事件を参照。

ヒューマンエラーが関係する事故も起きており、1995年12月20日に、飛行制御装置に誤った入力がされ、飛行コースを外れたアメリカン航空965便がコロンビアカリ近郊の山に衝突し、4名が負傷、乗客151名と乗員8名が死亡した(アメリカン航空965便墜落事故[205]ほか、2002年7月1日には、航空交通管制のトラブルによって、ドイツバーデン=ヴュルテンベルク州ユーバーリンゲン上空でDHLの757とバシキール航空ツポレフTu-154が空中衝突を起こし、757の乗員2名とTu-154の69名が死亡した(バシキール航空2937便空中衝突事故[206]。機体の整備が不適切であったためにパイロットが自機の状態を見失い事故に至った例としては、1996年2月6日、ドミニカ共和国プエルト・プラタで発生した189の乗員乗客全員が死亡したバージェン航空301便墜落事故と,[207]、1996年10月2日にペルーリマ近海で発生し搭乗者70名全員が死亡したアエロペルー603便墜落事故がある[208]。バージェン航空の事故に関しては、事故機が長期間駐機された際にピトー管に異物が入り込むのを防ぐためのカバーを装着されていなかったことが判明している[208]。一方、アエロペルーの事故では、ピトー管の静圧孔に貼られた保護テープを剥がし忘れていた[208]

757の後方乱気流が原因とされる事故も発生しており、2機のプライベート機が墜落した[70]。1992年12月18日、セスナ・サイテーションモンタナ州ビリングス・ローガン国際空港の近くで墜落し、搭乗者6名全員が死亡、また、1993年12月15日にはIAI ウェストウィンドがカリフォルニア州のジョン・ウェイン空港の近くで墜落し、搭乗者5人全員が死亡した[70]。両機とも、757の後方3海里 (5.56 km) 以内を飛行していた[70]。この後、FAAは、小型機が757の直後を飛行する際は4から5海里(7.14から9.26 km)の間隔をとるよう規制を変更した[70]

1999年9月14日には、スペインのジローナ・コスタ・ブラバ空港の近くで、ブリタニア航空の226A便が激しい雷雨の中で墜落し、胴体が複数に分解したが、搭乗者245名全員が救助された[208]。2010年10月25日には、アメリカン航空の1640便が米国のマイアミからボストンへ向けて高度31,000フィート(およそ9,500メートル)を飛行中に0.61メートルにわたり胴体の一部を損失したが、無事にマイアミ空港に引き返した[209]。この件について調査が行われた後、FAAは米国で757を運航している航空会社に対して、定期的に胴体上部に対して構造疲労に関する点検を行うように指示を行った[210]

主要諸元

各モデルの主要諸元
757-200 757-200PF 757-300
運航乗務員数 2名
標準座席数 (2クラス) 200席[211] N/A 243席[164]
標準座席数 (1クラス) 228席[211] N/A 280席[164]
貨物容積 43.3 m3[211] 239 m3[144] 67.1 m3[164]
全長 47.32 m 54.43 m
全幅 38.05 m 38.06 m
全高 13.60 m 14.00 m 13.56 m
降着装置ホイールベース 18.29 m[212] 22.35 m[212]
客室幅 3.54 m[213] N/A 3.54 m[213]
最大離陸重量 (MTOW)†1 115,650 kg 115,680 kg 123,600 kg
離陸滑走距離 1,981 m 2,377 m
巡航速度 マッハ0.80 (530 mph, 850 km/h) †2
航続距離 7,222 km[211] 5,834 km[144] 6,287 km[164]
エンジン(推力) RR RB211-535E4 (179 kN)[211]
RR RB211-535E4B (193.5 kN)[211]
P&W PW2037 (162.8 kN)[211]
P&W PW2040 (178.4 kN)[211]
RR RB211-535E4B (193.5 kN)[144]
P&W PW2037 (162.8 kN)[144]
P&W PW2040 (178.4 kN)[144]
RR RB211-535E4B (193.5 kN)[164]
P&W PW2037 (162.8 kN)[164]
P&W PW2040 (178.4 kN)[164]
P&W PW2043 (189.4 kN)[164]
  • 出典:特に記載のないものは『旅客機年鑑 2014-2015』[214]による。
  • RR: ロールス・ロイス、P&W: プラット・アンド・ホイットニー
  • †1 標準海面高度、国際標準大気、RB211-535E4Bエンジン仕様の場合
  • †2 巡航高度 35,000 ft (10,660 m) における速度。海面高度ではない。マッハ数の説明と計算例はNASA Mach number calculator page を参照。

脚注

注釈

  1. ^ ボーイング787のローンチカスタマーである全日本空輸はロールス・ロイスのエンジンを選択した。次世代中型機「7E7シリーズ」のエンジンを「Trent 1000」に決定(全日本空輸公式サイト内プレスリリース)”. 2009年12月16日閲覧。
  2. ^ 米国では1978年に航空規制緩和法が成立し、路線参入と運賃に関する規制が撤廃された[55]
  3. ^ エアバス社のナローボディ旅客機A320の胴体延長モデルとして開発され、1993年に初飛行した[78]
  4. ^ 格安航空会社に対し、機内食の無料提供など従来どおりの付帯サービスを完備する航空会社」。引用元:デジタル大辞泉[102]
  5. ^ 例えば、同時期に共通の技術によって開発された767の主翼は31度の後退角である[32]
  6. ^ 機首部に前輪、左右の主翼付近に主脚を配置する方式。
  7. ^ スーツなどの衣服をハンガーに掛けたまま持ち運べる折り畳み式かばん
  8. ^ メインデッキに貨物スペースを客席スペースを設定可能な派生型
  9. ^ アメリカン航空は757のエンジンにロールス・ロイス製RB211を搭載していたが、トランス・ワールド航空から継承した757はP&W社のPW2000シリーズエンジンを搭載していた。
  10. ^ 「日本における757 人気の秘密」, p. 88 では、「大げさな誇張でも冗談でもない」と念が押されている。

出典

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  7. ^ a b 青木 2014, p. 84. 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "FOOTNOTE青木201484"が異なる内容で複数回定義されています
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オンライン資料

外部リンク

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