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「インポーチン」の版間の差分

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{{Infobox protein
'''インポーチン'''(importin)は、[[核局在信号]](nuclear localization signal、NLS)と呼ばれる特定の[[アミノ酸]]配列に結合して、[[タンパク質]]を[[細胞核]]の中に運び込む役割を担う[[輸送タンパク質]]である。インポーチンは[[カリオフェリン]](karyopherin)の1つに分類される。
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'''インポーチン'''(importin)は、{{仮リンク|核局在化シグナル|en|Nuclear localization sequence}}(nuclear localization signal/sequence、NLS)と呼ばれる特定の[[アミノ酸]]配列に結合して、[[タンパク質]]を[[細胞核]]の中に運び込む役割を担う[[輸送タンパク質]]である。インポーチンは[[カリオフェリン]]の1つに分類される<ref name="Hartmann1994">{{cite journal|date=December 1994|title=Isolation of a protein that is essential for the first step of nuclear protein import|journal=Cell|volume=79|issue=5|pages=767–78|doi=10.1016/0092-8674(94)90067-1|pmid=8001116|vauthors=Görlich D, Prehn S, Laskey RA, Hartmann E}}</ref>。
インポーチンは2つの[[サブユニット]]、αとβから構成されている。インポーチンαは、核に輸送する対象となるタンパク質のNLSに結合する。一方インポーチンβは、インポーチンヘテロ2量体-輸送対象タンパク質複合体が核孔に結合するのを助ける。NLS-インポーチンα-インポーチンβ 3量体は核内に入ってからRan GTPに結合してから分解する。


インポーチンは2つの[[サブユニット]]、αとβから構成されている。インポーチンαは、核に輸送する対象となるタンパク質のNLSに結合する。一方インポーチンβは、インポーチンヘテロ二量体-輸送対象タンパク質複合体が[[核孔]]に結合するのを助ける。NLS-インポーチンα-インポーチンβ三量体は核内に移行し、[[グアノシン三リン酸|GTP]]結合型{{仮リンク|Ran|en|Ran (protein)}} (Ran-GTP) に結合してから解離する<ref name="Mattaj1998">{{cite journal|year=1998|title=Nucleocytoplasmic transport: the soluble phase|journal=Annual Review of Biochemistry|volume=67|issue=|pages=265–306|doi=10.1146/annurev.biochem.67.1.265|pmid=9759490|vauthors=Mattaj IW, Englmeier L}}</ref>。2つのインポーチンタンパク質は再利用のために[[細胞質]]へ送られる。
<!-- == 脚注 ==

{{脚注ヘルプ}}
==発見==
{{Reflist}} -->
インポーチンは、インポーチンα/βのヘテロ二量体、またはインポーチンβの単量体として存在する。インポーチンαは1994年にマックス・デルブリュック分子医学センター (Max Delbrück Center for Molecular Medicine) の Enno Hartmann を含むグループによって最初に単離された<ref name="Hartmann1994" />。すでに以前のレビューにおいてタンパク質の核内輸送の過程は記述されいたものの<ref name="Garcia1991">{{cite journal|date=March 1991|title=Nuclear protein localization|journal=Biochim. Biophys. Acta|volume=1071|issue=1|pages=83–101|doi=10.1016/0304-4157(91)90013-m|pmid=2004116|vauthors=Garcia-Bustos J, Heitman J, Hall MN}}</ref>、この過程に関与する主要なタンパク質が明らかにされたのは初めてであった。インポーチンαは約 60 kDaの[[細胞質]]のタンパク質で、タンパク質の核内への輸送に必須であり、ツメガエル属 (''Xenopus'') の卵から精製されたSRP1pタンパク質と44%の配列同一性があった。クローニング、配列決定、そして[[大腸菌]]での発現が行われ、シグナル依存的な輸送の完全な再構成のためにはRan(TC4)とともに用いられる必要があった。研究では、他の主要な促進因子も発見された<ref name="Hartmann1994" />。
== 参考文献 ==

{{節stub}}
インポーチンβは、インポーチンαとは異なり[[酵母]]に直接的な[[相同|ホモログ]]は存在しないが、90–95 kDaのタンパク質として精製され、多くの場合でインポーチンαとヘテロ二量体を形成することが判明した。このことを示した研究には Michael Rexach によって率いられた研究<ref name="Rexach1995">{{cite journal|date=July 1995|title=Identification of a yeast karyopherin heterodimer that targets import substrate to mammalian nuclear pore complexes|journal=J. Biol. Chem.|volume=270|issue=28|pages=16499–502|doi=10.1074/jbc.270.28.16499|pmid=7622450|vauthors=Enenkel C, Blobel G, Rexach M}}</ref>も含まれており、 Dirk Görlich によってさらなる研究が行われた<ref name="Gorlich 1995">
{{cite journal|date=April 1995|title=Two different subunits of importin cooperate to recognize nuclear localization signals and bind them to the nuclear envelope|journal=Current Biology|volume=5|issue=4|pages=383–92|doi=10.1016/s0960-9822(95)00079-0|pmid=7627554|vauthors=Görlich D, Kostka S, Kraft R, Dingwall C, Laskey RA, Hartmann E, Prehn S}}
</ref>。彼らのグループは、インポーチンαが機能するにはインポーチンβが必要であり、共に核局在化シグナル受容体を形成して核内への輸送を可能にしていることを発見した。これらの1994年と1995年の初期の発見以降、{{仮リンク|IPO4|en|IPO4}}や{{仮リンク|IPO7|en|IPO7}}などの多くのインポーチン遺伝子が、その構造や分布の違いによって、わずかに異なる積み荷タンパク質の核内輸送を促進していることが判明した。

==構造==

=== インポーチン&alpha;===
[[アダプタータンパク質]]であるインポーチンαの大部分は、直列に並んだいくつかの[[アルマジロリピート]]から構成されている。これらのリピート構造は積み重なって湾曲した構造を形成し、特定の積み荷タンパク質のNLSへの結合を促進する。NLSの主結合部位はN末端に存在し、副結合部位がC末端に存在する。アルマジロリピートに加えて、インポーチンαは90アミノ酸のN末端領域を含んでいる。この領域がインポーチンβへの結合を担い、IBB (importin-β binding domain) として知られている。また、この領域は自己阻害部位でもあり、インポーチンαが核へ到達した際に積み荷が解離する過程への関与が示唆されている<ref name="Conti1998">
{{cite journal|date=July 1998|title=Crystallographic analysis of the recognition of a nuclear localization signal by the nuclear import factor karyopherin alpha|journal=Cell|volume=94|issue=2|pages=193–204|doi=10.1016/s0092-8674(00)81419-1|pmid=9695948|vauthors=Conti E, Uy M, Leighton L, Blobel G, Kuriyan J}}
</ref>。

=== インポーチン&beta;===
インポーチンβは、カリオフェリンスーパーファミリーの典型的構造である。構造の基本は、18–20個の[[HEATリピート|HEAT]]モチーフの直列リピート構造である。リピート構造のそれぞれは[[ターン (生化学)|ターン]]で連結された逆平行の[[αヘリックス]]から構成され、それらが積み重なってタンパク質の全体構造が形成されている<ref name="Lee2005">
{{cite journal|date=June 2005|title=Structural basis for nuclear import complex dissociation by RanGTP|journal=Nature|volume=435|issue=7042|pages=693–6|doi=10.1038/nature03578|pmid=15864302|vauthors=Lee SJ, Matsuura Y, Liu SM, Stewart M}}
</ref>。

積み荷を核へ輸送するために、インポーチンβは[[核膜孔複合体]]と結合しなければならない。インポーチンβは、[[ヌクレオポリン]]のさまざまな[[フェニルアラニン|F]][[グリシン|G]]モチーフと弱い一時的結合を形成することでこれを行っている。[[X線結晶構造解析]]によって、これらのモチーフはインポーチンβの表面の浅い疎水的なポケットに結合することが示されている<ref name="Bayliss2000">{{cite journal|date=July 2000|title=Structural basis for the interaction between FxFG nucleoporin repeats and importin-beta in nuclear trafficking|journal=Cell|volume=102|issue=1|pages=99–108|doi=10.1016/s0092-8674(00)00014-3|pmid=10929717|vauthors=Bayliss R, Littlewood T, Stewart M}}</ref>。

== タンパク質の核内輸送のサイクル ==
インポーチンの主要な機能は、核局在化シグナル (NLS) を有するタンパク質が核膜孔複合体を通って核内へ移行するのを媒介することであり、この過程は nuclear protein import cycle (核タンパク質輸送サイクル) として知られる。

===積み荷の結合===
このサイクルの最初のステップは積み荷 (cargo) の結合である。単量体のインポーチンβもこの機能を果たすことができるが、通常はインポーチンαを必要とする。インポーチンαはNLSと相互作用し、積み荷タンパク質に対するアダプターとして機能する。NLSは核へ向かう積み荷としてタンパク質をタグ付けする塩基性アミノ酸配列である。積み荷タンパク質はこれらのモチーフを1つか2つ含んでおり、インポーチンα主結合部位と副結合部位に結合する。<ref name="Weis2003">{{cite journal|date=February 2003|title=Regulating access to the genome: nucleocytoplasmic transport throughout the cell cycle|journal=Cell|volume=112|issue=4|pages=441–51|doi=10.1016/s0092-8674(03)00082-5|pmid=12600309|vauthors=Weis K}}</ref>[[File:Nuclear Protein Import Cycle.png|thumb|left|核タンパク質輸送サイクルの概観]]

===積み荷の輸送===
いったん積み荷タンパク質が結合すると、インポーチンβは核膜孔複合体と相互作用し、複合体は細胞質から核へ拡散する。拡散の速度は、細胞質に存在するインポーチンαの濃度とインポーチンαの積み荷への[[解離定数|結合親和性]]の双方に依存する。核の内部へ移動すると、複合体は[[Rasスーパーファミリー|Rasファミリー]]の[[GTPアーゼ]]であるRan-GTPと相互作用する。これによってインポーチンβの[[コンフォメーション]]が変化し、複合体はインポーチンβ/Ran-GTPとインポーチンα/積み荷タンパク質へと解離する。インポーチンβはRan-GTPと結合したまま、再生の過程へと入る<ref name="Weis2003" />。

===積み荷の解離===
続いて、インポーチンβから解離したインポーチンα/積み荷タンパク質複合体から、積み荷タンパク質が核内へ放出される。インポーチンαのN末端のIBBドメインは、NLSモチーフを擬態する自己調節領域を含んでいる。インポーチンβの解離によってこの領域は自由になり、NLS主結合部位において積み荷タンパク質のNLSと競合するようになる。この競合がタンパク質の解離を引き起こす。一部の場合では、Nup2やNup50といった特定の解離因子が積み荷の解離を助けるために利用されることもある<ref name="Weis2003" />。

===再生===
最後に、インポーチンαが細胞質へ戻るためには、核からの排出を助けるRan-GTP/{{仮リンク|CAS/CSEタンパク質ファミリー|en|CAS/CSE protein family|label=CAS}}複合体と結合しなければならない。CAS (cellular apoptosis susceptibility protein) はインポーチンβスーパーファミリーのカリオフェリンで、核外輸送因子として定義される。インポーチンβはRan-GTPと結合したまま細胞質へ戻る。細胞質では、Ran-GTPはRan[[GTPアーゼ活性化タンパク質|GAP]]によって[[加水分解]]されてRan-[[グアノシン二リン酸|GDP]]となり、インポーチンαとインポーチンβが解離して更なる活動に利用される。全体としては、GTPの加水分解がこのサイクルのエネルギー源となっている。核内では[[グアニンヌクレオチド交換因子|GEF]]がRanにGTP分子を結合させ、細胞質ではGAPによって加水分解される。このRanの活性によって、タンパク質の一方向の輸送が可能になっている<ref name="Weis2003" />。

==疾患==
インポーチンαとインポーチンβの変異や発現の変化と関連した疾患と病理がいくつか存在する。

インポーチンは{{仮リンク|配偶子形成|en|Gametogenesis}}と[[胚発生]]の過程に必須の調節タンパク質である。そのため、インポーチンαの発現パターンの破壊は[[キイロショウジョウバエ]] ''Drosophila melanogaster'' において妊性の欠陥を引き起こすことが示されている<ref name="Terry2007">
{{cite journal|date=November 2007|title=Crossing the nuclear envelope: hierarchical regulation of nucleocytoplasmic transport|journal=Science|volume=318|issue=5855|pages=1412–6|doi=10.1126/science.1142204|pmid=18048681|vauthors=Terry LJ, Shows EB, Wente SR}}
</ref>。

また、インポーチンαの変化と一部の[[がん]]との関連が研究で示されている。[[乳がん]]の研究からは、NLS結合ドメインが欠けたインポーチンαとの関連が示唆されている<ref name="Kim2000">
{{cite journal|date=July 2000|title=Truncated form of importin alpha identified in breast cancer cell inhibits nuclear import of p53|journal=The Journal of Biological Chemistry|volume=275|issue=30|pages=23139–45|doi=10.1074/jbc.M909256199|pmid=10930427|vauthors=Kim IS, Kim DH, Han SM, Chin MU, Nam HJ, Cho HP, Choi SY, Song BJ, Kim ER, Bae YS, Moon YH}}
</ref>。加えて、インポーチンαは[[がん抑制遺伝子]]である[[BRCA1]]を核内へ輸送することが示されている。インポーチンαの過剰発現は、ある種の[[メラノーマ]]において低い生存率と関連している<ref name="Winnepenninckx2006">
{{cite journal|date=April 2006|title=Gene expression profiling of primary cutaneous melanoma and clinical outcome|journal=Journal of the National Cancer Institute|volume=98|issue=7|pages=472–82|doi=10.1093/jnci/djj103|pmid=16595783|vauthors=Winnepenninckx V, Lazar V, Michiels S, Dessen P, Stas M, Alonso SR, Avril MF, Ortiz Romero PL, Robert T, Balacescu O, Eggermont AM, Lenoir G, Sarasin A, Tursz T, van den Oord JJ, Spatz A}}
</ref>。

インポーチンの活性は、いくつかの[[ウイルス]]の病理とも関係している。例えば、[[エボラウイルス属|エボラウイルス]]の感染経路において重要な段階は、[[チロシン]]残基が[[リン酸化]]された[[シグナル伝達兼転写活性化因子|STAT]]1 (PY-STAT1) の核内輸送の阻害である。エボラウイルスのタンパク質VP24はインポーチンα上の、PY-STAT1が結合する非典型的結合部位に結合し、核内への輸送を選択的に阻害する<ref>{{Cite journal|last=Xu|first=Wei|last2=Edwards|first2=Megan R.|last3=Borek|first3=Dominika M.|last4=Feagins|first4=Alicia R.|last5=Mittal|first5=Anuradha|last6=Alinger|first6=Joshua B.|last7=Berry|first7=Kayla N.|last8=Yen|first8=Benjamin|last9=Hamilton|first9=Jennifer|date=2014-08-13|title=Ebola virus VP24 targets a unique NLS binding site on karyopherin alpha 5 to selectively compete with nuclear import of phosphorylated STAT1|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25121748|journal=Cell Host & Microbe|volume=16|issue=2|pages=187–200|doi=10.1016/j.chom.2014.07.008|issn=1934-6069|pmid=25121748|pmc=PMCPMC4188415}}</ref>。

==積み荷のタイプ==
多くの種類のタンパク質がインポーチンによって核内へ輸送される。多くの場合、異なるタンパク質は転位のために異なる組み合わせのαとβを必要とする。いくつかの例を下に示す。
{| class="wikitable"
|-
! 積み荷!! 核内輸送受容体
|-
|{{仮リンク|SV40|en|SV40}}|| インポーチンβとインポーチンα
|-
|{{仮リンク|ヌクレオプラスミン|en|Nucleoplasmin}}|| インポーチンβとインポーチンα
|-
|{{仮リンク|STAT1|en|STAT1}}|| インポーチンβとNPI-1 (インポーチンαのタイプ)
|-
|{{仮リンク|TFIIA|en|Transcription factor II A}}|| インポーチンαは不要
|-
|{{仮リンク|U1A|en|Small nuclear ribonucleoprotein polypeptide A}}|| インポーチンαは不要
|}

==ヒトのインポーチン遺伝子==
インポーチンを全体的に説明するためにインポーチンαとインポーチンβが用いられるが、それらは実際には、類似した構造と機能を有する[[タンパク質ファミリー]]である。αとβの双方に関してさまざまな遺伝子が同定されており、その一部を下に挙げる。

*'''カリオフェリンα(インポーチンα)''': {{仮リンク|KPNA1|en|KPNA1}}、{{仮リンク|KPNA2|en|KPNA2}}、{{仮リンク|KPNA3|en|KPNA3}}、{{仮リンク|KPNA4|en|KPNA4}}、{{仮リンク|KPNA5|en|KPNA5}}、{{仮リンク|KPNA6|en|KPNA6}}
*'''カリオフェリンβ(インポーチンβ)''': {{仮リンク|KPNB1|en|KPNB1}}
*'''β様インポーチン (β-like importins)''': {{仮リンク|IPO4|en|IPO4}}、{{仮リンク|IPO5|en|IPO5}}、{{仮リンク|IPO7|en|IPO7}}、{{仮リンク|IPO8|en|IPO8}}、{{仮リンク|IPO9|en|IPO9}}、{{仮リンク|IPO11|en|IPO11}}、{{仮リンク|IPO13|en|IPO13}}

== 出典 ==
{{Reflist}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

<!-- {{Commonscat|Importin}} -->
*[[カリオフェリン]]
* [[シグナル伝達兼転写活性化因子]]
*{{仮リンク|核局在化シグナル|en|Nuclear localization sequence}}
*[[核膜孔複合体]]
*{{仮リンク|核輸送|en|Nuclear transport}}
*{{仮リンク|Ran|en|Ran (protein)}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

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* {{MeshName|Importins}}
* {{PDB Molecule of the Month|85|Importins}}


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2019年4月29日 (月) 02:50時点における版

Karyopherin subunit alpha 1
識別子
略号 KPNA1
Entrez英語版 3836
HUGO 6394
OMIM 600686
RefSeq NP_002255
UniProt P52294
他のデータ
遺伝子座 Chr. 3 q21.1
テンプレートを表示
Karyopherin subunit beta 1
識別子
略号 KPNB1
Entrez英語版 3837
HUGO 6400
OMIM 602738
RefSeq NP_002256
UniProt Q14974
他のデータ
遺伝子座 Chr. 17 q21.32
テンプレートを表示

インポーチン(importin)は、核局在化シグナル(nuclear localization signal/sequence、NLS)と呼ばれる特定のアミノ酸配列に結合して、タンパク質細胞核の中に運び込む役割を担う輸送タンパク質である。インポーチンはカリオフェリンの1つに分類される[1]

インポーチンは2つのサブユニット、αとβから構成されている。インポーチンαは、核に輸送する対象となるタンパク質のNLSに結合する。一方インポーチンβは、インポーチンヘテロ二量体-輸送対象タンパク質複合体が核孔に結合するのを助ける。NLS-インポーチンα-インポーチンβ三量体は核内に移行し、GTP結合型Ran (Ran-GTP) に結合してから解離する[2]。2つのインポーチンタンパク質は再利用のために細胞質へ送られる。

発見

インポーチンは、インポーチンα/βのヘテロ二量体、またはインポーチンβの単量体として存在する。インポーチンαは1994年にマックス・デルブリュック分子医学センター (Max Delbrück Center for Molecular Medicine) の Enno Hartmann を含むグループによって最初に単離された[1]。すでに以前のレビューにおいてタンパク質の核内輸送の過程は記述されいたものの[3]、この過程に関与する主要なタンパク質が明らかにされたのは初めてであった。インポーチンαは約 60 kDaの細胞質のタンパク質で、タンパク質の核内への輸送に必須であり、ツメガエル属 (Xenopus) の卵から精製されたSRP1pタンパク質と44%の配列同一性があった。クローニング、配列決定、そして大腸菌での発現が行われ、シグナル依存的な輸送の完全な再構成のためにはRan(TC4)とともに用いられる必要があった。研究では、他の主要な促進因子も発見された[1]

インポーチンβは、インポーチンαとは異なり酵母に直接的なホモログは存在しないが、90–95 kDaのタンパク質として精製され、多くの場合でインポーチンαとヘテロ二量体を形成することが判明した。このことを示した研究には Michael Rexach によって率いられた研究[4]も含まれており、 Dirk Görlich によってさらなる研究が行われた[5]。彼らのグループは、インポーチンαが機能するにはインポーチンβが必要であり、共に核局在化シグナル受容体を形成して核内への輸送を可能にしていることを発見した。これらの1994年と1995年の初期の発見以降、IPO4英語版IPO7英語版などの多くのインポーチン遺伝子が、その構造や分布の違いによって、わずかに異なる積み荷タンパク質の核内輸送を促進していることが判明した。

構造

インポーチンα

アダプタータンパク質であるインポーチンαの大部分は、直列に並んだいくつかのアルマジロリピートから構成されている。これらのリピート構造は積み重なって湾曲した構造を形成し、特定の積み荷タンパク質のNLSへの結合を促進する。NLSの主結合部位はN末端に存在し、副結合部位がC末端に存在する。アルマジロリピートに加えて、インポーチンαは90アミノ酸のN末端領域を含んでいる。この領域がインポーチンβへの結合を担い、IBB (importin-β binding domain) として知られている。また、この領域は自己阻害部位でもあり、インポーチンαが核へ到達した際に積み荷が解離する過程への関与が示唆されている[6]

インポーチンβ

インポーチンβは、カリオフェリンスーパーファミリーの典型的構造である。構造の基本は、18–20個のHEATモチーフの直列リピート構造である。リピート構造のそれぞれはターンで連結された逆平行のαヘリックスから構成され、それらが積み重なってタンパク質の全体構造が形成されている[7]

積み荷を核へ輸送するために、インポーチンβは核膜孔複合体と結合しなければならない。インポーチンβは、ヌクレオポリンのさまざまなFGモチーフと弱い一時的結合を形成することでこれを行っている。X線結晶構造解析によって、これらのモチーフはインポーチンβの表面の浅い疎水的なポケットに結合することが示されている[8]

タンパク質の核内輸送のサイクル

インポーチンの主要な機能は、核局在化シグナル (NLS) を有するタンパク質が核膜孔複合体を通って核内へ移行するのを媒介することであり、この過程は nuclear protein import cycle (核タンパク質輸送サイクル) として知られる。

積み荷の結合

このサイクルの最初のステップは積み荷 (cargo) の結合である。単量体のインポーチンβもこの機能を果たすことができるが、通常はインポーチンαを必要とする。インポーチンαはNLSと相互作用し、積み荷タンパク質に対するアダプターとして機能する。NLSは核へ向かう積み荷としてタンパク質をタグ付けする塩基性アミノ酸配列である。積み荷タンパク質はこれらのモチーフを1つか2つ含んでおり、インポーチンα主結合部位と副結合部位に結合する。[9]

核タンパク質輸送サイクルの概観

積み荷の輸送

いったん積み荷タンパク質が結合すると、インポーチンβは核膜孔複合体と相互作用し、複合体は細胞質から核へ拡散する。拡散の速度は、細胞質に存在するインポーチンαの濃度とインポーチンαの積み荷への結合親和性の双方に依存する。核の内部へ移動すると、複合体はRasファミリーGTPアーゼであるRan-GTPと相互作用する。これによってインポーチンβのコンフォメーションが変化し、複合体はインポーチンβ/Ran-GTPとインポーチンα/積み荷タンパク質へと解離する。インポーチンβはRan-GTPと結合したまま、再生の過程へと入る[9]

積み荷の解離

続いて、インポーチンβから解離したインポーチンα/積み荷タンパク質複合体から、積み荷タンパク質が核内へ放出される。インポーチンαのN末端のIBBドメインは、NLSモチーフを擬態する自己調節領域を含んでいる。インポーチンβの解離によってこの領域は自由になり、NLS主結合部位において積み荷タンパク質のNLSと競合するようになる。この競合がタンパク質の解離を引き起こす。一部の場合では、Nup2やNup50といった特定の解離因子が積み荷の解離を助けるために利用されることもある[9]

再生

最後に、インポーチンαが細胞質へ戻るためには、核からの排出を助けるRan-GTP/CAS英語版複合体と結合しなければならない。CAS (cellular apoptosis susceptibility protein) はインポーチンβスーパーファミリーのカリオフェリンで、核外輸送因子として定義される。インポーチンβはRan-GTPと結合したまま細胞質へ戻る。細胞質では、Ran-GTPはRanGAPによって加水分解されてRan-GDPとなり、インポーチンαとインポーチンβが解離して更なる活動に利用される。全体としては、GTPの加水分解がこのサイクルのエネルギー源となっている。核内ではGEFがRanにGTP分子を結合させ、細胞質ではGAPによって加水分解される。このRanの活性によって、タンパク質の一方向の輸送が可能になっている[9]

疾患

インポーチンαとインポーチンβの変異や発現の変化と関連した疾患と病理がいくつか存在する。

インポーチンは配偶子形成英語版胚発生の過程に必須の調節タンパク質である。そのため、インポーチンαの発現パターンの破壊はキイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster において妊性の欠陥を引き起こすことが示されている[10]

また、インポーチンαの変化と一部のがんとの関連が研究で示されている。乳がんの研究からは、NLS結合ドメインが欠けたインポーチンαとの関連が示唆されている[11]。加えて、インポーチンαはがん抑制遺伝子であるBRCA1を核内へ輸送することが示されている。インポーチンαの過剰発現は、ある種のメラノーマにおいて低い生存率と関連している[12]

インポーチンの活性は、いくつかのウイルスの病理とも関係している。例えば、エボラウイルスの感染経路において重要な段階は、チロシン残基がリン酸化されたSTAT1 (PY-STAT1) の核内輸送の阻害である。エボラウイルスのタンパク質VP24はインポーチンα上の、PY-STAT1が結合する非典型的結合部位に結合し、核内への輸送を選択的に阻害する[13]

積み荷のタイプ

多くの種類のタンパク質がインポーチンによって核内へ輸送される。多くの場合、異なるタンパク質は転位のために異なる組み合わせのαとβを必要とする。いくつかの例を下に示す。

積み荷 核内輸送受容体
SV40英語版 インポーチンβとインポーチンα
ヌクレオプラスミン英語版 インポーチンβとインポーチンα
STAT1 インポーチンβとNPI-1 (インポーチンαのタイプ)
TFIIA英語版 インポーチンαは不要
U1A英語版 インポーチンαは不要

ヒトのインポーチン遺伝子

インポーチンを全体的に説明するためにインポーチンαとインポーチンβが用いられるが、それらは実際には、類似した構造と機能を有するタンパク質ファミリーである。αとβの双方に関してさまざまな遺伝子が同定されており、その一部を下に挙げる。

出典

  1. ^ a b c “Isolation of a protein that is essential for the first step of nuclear protein import”. Cell 79 (5): 767–78. (December 1994). doi:10.1016/0092-8674(94)90067-1. PMID 8001116. 
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関連項目

外部リンク