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「フィッシュ・アンド・チップス」の版間の差分

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{{Redirect|フィッシュ&チップス|日本の[[お笑いコンビ]]|フィッシュ&チップス (お笑いコンビ)}}
{{出典の明記|date=2009年12月}}
{{Infobox prepared food
{{Otheruses|料理|1990年代後半に活動した日本の音楽グループ|Fish and Chips}}
| enname = Fish and chips
[[ファイル:Fish_and_chips.jpg|thumb|right|300px|典型的なフィッシュ・アンド・チップス]]
| image = [[File:Flickr adactio 164930387--Fish and chips.jpg|250px]]
[[ファイル:Fried Fish and French Fries.jpg|thumb|right|300px|フィッシュ・アンド・チップス([[サンディエゴ]]で撮影)]]
[[ファイル:Fish and chips with peas.jpg|thumb|right|300px|フィッシュ・アンド・チップス([[ロンドン]]の[[パブ]]で撮影)]]
| caption = [[イングランド]]・[[ブライトン]]のフィッシュ・アンド・チップス
| alternate_name = フィッシュ・サパーなど([[#別称|別称]]も参照)
<!--[[ファイル:Fried Fish and French Fries.jpg|thumb|魚のフライとフレンチフライ]]-->
| country = {{ENG}}
'''フィッシュ・アンド・チップス''' ({{lang-en|fish-and-chips}} または {{lang-en|Fish 'n' chips}})は、[[イギリス]]を代表する[[料理]]のひとつ。歴史ある[[ファーストフード]]の一つである手軽な食事。
| region =
| creator =
| course = メインディッシュ
| served = 熱い
| main_ingredient = 衣を付けて[[フライドフィッシュ|揚げた魚]]と[[フライドポテト]]
| variations =
| calories =
| other =
}}
'''フィッシュ・アンド・チップス'''({{lang-en|fish-and-chips}})は、[[イギリス]]を代表する[[料理]]の一つ。[[タラ]]などの[[白身魚]]の[[フライ (料理)|フライ]]に、棒状の[[ポテトフライ]]を添えたもの<ref>[http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/189980/m0u/ 「フィッシュアンドチップス」とは]</ref>。[[イングランド]]では[[ファストフード]]として親しまれ、[[国民食]]の長い歴史がある。'''バタード・フィッシュ'''({{lang-en|battered fish}})<ref group="注">[[wikt:batter#英語|b'''a'''tter]][bætə(ɹ)]は「衣をつける」の意([[バッター液]])。b'''u'''tter[-ʌ-]ではない。</ref>と呼ばれる場合もある<ref name="ishii">[[#石井|石井 (2006)]]、45頁。</ref>。


== 概略 ==
== 食材 ==
[[ファイル:Frying range.JPG|thumb|調理用のフライヤー]]
[[タラ]]や[[カレイ]]、[[オヒョウ]]などの[[:Category:白身魚|白身魚]]の切り身に、[[小麦粉]]を卵や水または[[ビール]]で溶いた衣をつけて油で揚げたものと、[[ジャガイモ]]を細い棒状に切って油で揚げたチップスと合わせて供する。この場合のチップスは、薄くパリッとした[[ポテトチップス]]のことではなく、日本で言うところの[[フライドポテト]]([[アメリカ合衆国|アメリカ]]で言うフレンチフライ)の[[イギリス英語|イギリスでの呼び名]]である。
[[ファイル:Chips and scraps 01Jun2011.JPG|thumb|160px|スクラップスとチップス]]
一概には言えないが、大体のカロリーは一人前(魚の切り身小一切れにジャガイモ中一個分)で450キロカロリー程。
[[ファイル:Fish-and-chips-horseshoe-bay.jpg|thumb|コッドを使ったフィッシュ・アンド・チップス(カナダ・[[ホースシュー・ベイ (カナダ)|ホースシュー・ベイ]])]]

=== 魚 ===
フライにされる魚は基本的に白身魚であり、[[コダラ|ハドック]](''{{interlang|en|Haddock}}'')や[[タイセイヨウダラ|コッド]](''{{interlang|en|Cod}}'')などの[[タラ]]類、[[プレイス]]などの[[カレイ]]・[[オヒョウ]]類が使われる<ref name="ishii"/><ref name="be122">[[#ベイリー|ベイリー (1972)]]、122頁。</ref><ref name="co106">{{cite book|和書|author=ジェイン・ベスト・クック|title=英国おいしい物語|others=原口優子訳|publisher=東京書籍|date=1994年9月|isbn=4487791758|page=106}}</ref><ref name="yamauchi">{{cite book|和書|author=山内玲子|chapter=料理と酒|title=イギリス|others=小池滋監修|series=読んで旅する世界の歴史と文化|publisher=新潮社|date=1992年5月|isbn=4106018322|page=285}}</ref>。また、[[シュリンプ]]や[[ロブスター]]が食材に使われる場合もあり<ref name="ishii"/>、低湿地である[[フェンランド]]では[[ウナギ]]がフライの材料に使われる<ref>[[#林|林 (1991)]]、74–75頁。</ref>。

魚のサイズには通常ミディアム(もしくはスモール)とラージの2種があり、ミディアムを注文するとおよそ長さ20センチ・幅10センチ・厚さ3センチの切り身が調理される<ref>[[#林|林 (1991)]]、74頁。</ref>。

=== 衣 ===
魚に付ける衣は[[小麦粉]]を卵や水で溶いたものである。小麦粉を水で溶いた生地に色合いを付けるために少量の[[炭酸水素ナトリウム|重曹]]と酢を入れるのが伝統的であり、重曹と酢が加えられた生地には泡が立っている。苦みと食感を加えるために[[ビール]](エール)を入れたり<ref name="ishii"/>、[[パンケーキ]]や[[ヨークシャー・プディング]]の生地のレシピを若干変えたものを衣にしたりと、レシピは店によって異なる<ref name="co106"/>。

ビールに含まれる二酸化炭素の働きによって、生地は明るい橙褐色に変化する。ビールの種類によって生地の風味も変化し、[[ラガー (ビール)|ラガー]]を使用する店もあれば<ref>{{cite web|author=Pratt, Jo'|url=http://www.bbc.co.uk/food/recipes/database/deepfriedfishinbeerb_67776.shtml|title=Deep fried fish in beer|publisher=BBC|work=Food Recipes|date=|accessdate=2009-03-23}}</ref><ref>{{cite news|url=http://www.independent.co.uk/life-style/food-and-drink/recipes/gurnard-in-beer-batter-772989.html|title=Gurnard in beer batter|date=2008-01-26|accessdate=2009-03-23 | work=The Independent | location=London | first=Mark | last=Hix}}</ref>[[スタウト]]や[[ビター (ビール)|ビター]]を使用する店もある。生地に含まれるアルコール分は調理中に飛ばされるため、できあがったフィッシュ・アンド・チップスにアルコール分はほとんど含まれていない。

魚のフライを作る過程で生まれた衣のかけら(日本における[[天かす]]に相当するもの)はスクラップス(もしくはビッツ<ref>{{cite web|last=Brennan|first=Christopher|title=How to order fish and chips in Yorkshire|url=http://allpointsnorth.co.uk/2009/08/12/how-to-order-fish-and-chips-in-yorkshire/|work=All Points North|accessdate=1 June 2011}}</ref>)と呼ばれ、チップスとともに提供される<ref>{{cite news|last=Alexander|first=James|title=The unlikely origin of fish and chips|url=http://news.bbc.co.uk/1/hi/8419026.stm|accessdate=1 June 2011|newspaper=BBC News|date=18 December 2011}}</ref>。伝統的に、フィッシュ・アンド・チップスの店でスクラップスは無料で提供されていた<ref name="guardian scraps">{{cite news|last=Busfield|first=Steve|title=Do you know what scraps are? And why they should be free|url=http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/wordofmouth/2007/jul/13/doyouknowwhatscrapsarean|accessdate=1 June 2011|newspaper=[[The Guardian]]|date=17 July 2007}}</ref>。イングランド北部では今なおスクラップスは人気があり、しばしば客の子供たちに振る舞われる。

=== ジャガイモ ===
フィッシュ・アンド・チップスに付く「チップス」は、いわゆる[[ポテトチップス]]のことではなく、[[フライドポテト]]([[アメリカ合衆国]]で言うフレンチフライ<ref group="注">ちなみに、フレンチフライは1本だけで供されることはないため、通常は複数形で「French fries」(フレンチフライズ)、略して「fries」(フライズ)と呼ばれる。なお、アメリカ合衆国においても、この料理に限っては「フィッシュ・アンド・チップス」という呼称がそのまま使われ、「フィッシュ・アンド・フライズ」のような言い方はしない。</ref>)の[[イギリス英語|イギリスでの呼び名]]である(イギリス英語でポテトチップスは一般に'''クリスプス'''「Crisps」と呼ぶ)。アメリカ合衆国資本のファーストフードチェーンで出されるフライドポテトに比べてイギリスのチップスは太い<ref name="ishii"/><ref group="注">アメリカ合衆国本土では、太めのフライドポテト(フレンチフライズ)を出す店もある。</ref>。

食用油が浸透するのはフライドポテトの比較的浅い部位に留まり、フライドポテトに含まれる脂肪分は表面積に比例する。チップスの表面積の割合はフレンチフライに比べて小さいため、ポテトの総重量が同じであれば、含まれる脂肪分が比較的少なくなる。また、チップスはフレンチフライよりも長い調理時間を要する。

=== 油 ===
伝統的には[[ヘット]]や[[ラード]]が使用されていたが、現在では[[ピーナッツ油]]などの[[植物油]]が主流である。しかし、イングランド北部と[[スコットランド]]の少数の店、および北アイルランドの多くの店では、いまだにラードが使用されている。ラードは料理に独特の風味を与えるが、反面[[菜食主義|ベジタリアン]]や肉食・豚肉を忌避する宗教の信者からは敬遠される。また、イギリスではフィッシュ・アンド・チップスを揚げた後に出る廃油が、[[バイオディーゼル]]燃料の原料として再利用されている<ref>{{cite web|author=Hogan, Michael|editor=Blackburn, Peter|url=http://www.planetark.com/dailynewsstory.cfm/newsid/47581/story.htm |title=German Biodiesel Firm To Use Chip Fat |publisher=Planet Ark|date=2008-03-19 |accessdate=2009-06-22}}</ref>。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
=== 魚とジャガイモ ===
[[:Category:白身魚|白身魚]]の切り身を揚げた料理は、少なくとも[[中世]][[ヨーロッパ]]に存在していた。[[新大陸]]から[[ジャガイモ]]がもたらされると、[[17世紀]]にはヨーロッパ各地でジャガイモを揚げた料理も作られるようになった。両者はしばらく別々のもので、これがいつどこで組み合わされるようになったかは諸説入り乱れている。記録に残る限りでは、[[1860年]]に[[ロンドン]]の[[ジョセフ・マリン]]が開いたフィッシュ・アンド・チップスの店が最古のものである。[[19世紀]]後半に[[底引き網]]漁の[[技術革新]]が起こり、[[北海]]の魚が安価に手に入るようになると、フィッシュ・アンド・チップスは[[労働者階級]]の日常食になった。[[第二次世界大戦]]下のイギリスで[[配給制]]がとられたとき、数少ない配給食糧のひとつがフィッシュ・アンド・チップスであった。戦後もフィッシュ・アンド・チップスは安価な[[ファーストフード]]として、一定の人気を維持している。
[[19世紀]]中ごろのイギリスでは、既に魚のフライとポテト・チップスが店舗で販売されていた<ref name="kawakita177">[[#川北|川北 (2006)]]、177頁。</ref>。本来は魚のフライはユダヤ人セファルディ系の移民が安息日に食べていた料理をイギリスにもちこんだものであり、その販売業は[[ロンドン]]に住んでいたユダヤ人を発祥としていた。1840年代の[[ソーホー (ロンドン)|ソーホー]]では魚のフライをごく普通に購入することができた<ref name="kawakita177"/>。

ポテト・チップスの販売業は[[ランカシャー]]のマンチェスター北東にあるオールダム(Oldham)で始まったとされているが{{要出典|date=2024年4月}}、これはイギリスにおいてジャガイモを食用にする習慣は北部から広まったことに由来する<ref name="kawakita179">[[#川北|川北 (2006)]]、179頁。</ref>。

二つのフライが「フィッシュ・アンド・チップス」として一緒に販売される形態が普及するのは1860年代以降である<ref name="kawakita174">[[#川北|川北 (2006)]]、174頁。</ref>。これには[[産業革命]]により急速に整備された鉄道輸送が寄与しており、ミッドランド・ディストリクトやリンカンシャーなどの地方からジャガイモと魚が大都市に運ばれることにより食文化として成立することとなった<ref>『図説世界史を変えた50の鉄道』(2014 原書房)pp.142</ref>。

===フィッシュ・アンド・チップスの起源===
フィッシュ・アンド・チップスの正確な起源は不明であるが、[[ヴィクトリア朝]]期に多数存在したホット・パイ・ショップが発祥だと推測されている<ref name="kawakita177"/>。ホット・パイ・ショップではパイ以外に魚のフライとチップスも売られていたが、次第にパイではなく魚のフライとチップスが中心になったと考えられている<ref name="kawakita177"/>。魚のフライとチップスを提供する店は「フィッシュ・アンド・チップス」と呼ばれ、そこで出される料理そのものも店と同じ名前で呼ばれた<ref name="#1">[[#川北|川北 (2006)]]、173–174頁。</ref>。

[[1860年]]にロンドンのジョセフ・マリンが販売を始めたとされるマリンズ(Malin's)が最古であると考えられているが確かな記録は残されておらず、ランカシャー州モスリーにあったリーズィズ(Lees's)が最古であると考える見解もある。しかしマリンズ(Malin's)は1972年に閉店、リーズィズ(Lees's)も現存してはいない<ref>{{cite news|url=http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2003/jan/19/foodanddrink.restaurants|title=Enduring Love|publisher=|accessdate=2003-01-19|work=The Guardian|location=London|first=Jay|last=Rayner|date=2005-11-03}}</ref>。

=== 産業革命との関係 ===
フィッシュ・アンド・チップスが普及した背景には、[[産業革命]]による技術革新が存在していた<ref>[[#川北|川北 (2006)]]、181頁。</ref>。

産業革命前は新鮮な生魚を遠方に輸送する手段は存在していなかったが、[[鉄道]]網の整備と[[蒸気船]]の登場により、ロンドンなどの大都市に迅速に鮮魚を輸送することが可能となった<ref>[[#川北|川北 (2006)]]、181–182頁。</ref>。また、生魚の保存に役立つ冷凍技術が発達し、1880年代に導入された[[トロール漁業]]によって多量の魚を獲ることが可能となった<ref>[[#川北|川北 (2006)]]、175頁、182頁。</ref>。

産業革命期の労働者は、安価ですぐに食べられ、さらに腹持ちの良い食事を求めており<ref>[[#ベイリー|ベイリー (1972)]]、111頁。</ref>、イギリスの工業化の進行とともに魚のフライとチップスの組み合わせは、労働者の食事の主体として普及した<ref name="#1"/>。

=== 20世紀以降 ===
[[Image:Fishandchips z01.jpg|thumb|right|ロンドンのフィッシュ・アンド・チップスの店(2000年)]]
20世紀の初頭、ロンドンには約1,200軒のフィッシュ・アンド・チップスが存在していた<ref name="kawakita180">[[#川北|川北 (2006)]]、180頁。</ref>。フィッシュ・アンド・チップスは庶民にとっての最初の外食産業であり<ref>[[#川北|川北 (2006)]]、182頁。</ref>、1930年代になると中流階級もフィッシュ・アンド・チップスを利用するようになる<ref>[[#川北|川北 (2006)]]、175頁。</ref>。井戸端会議の集会場、若者のたまり場としてフィッシュ・アンド・チップスは都会の労働者階級の社交場としての地位を確立する<ref>[[#川北|川北 (2006)]]、175–176頁。</ref>。パブの衰退と同時期に、パブよりも健全なたまり場であるフィッシュ・アンド・チップスの台頭が始まる<ref name="kawakita176">[[#川北|川北 (2006)]]、176頁。</ref>。

1913年には英国フィッシュフライヤーズ連盟(The British National Federation of Fish Friers)が設立され、フィッシュ・アンド・チップスの売り込みと調理法の教育が提供された。

[[第二次世界大戦]]下のイギリスで[[配給制]]がとられたとき、数少ない配給食糧のひとつがフィッシュ・アンド・チップスであった<ref>{{cite web|url=http://www.rls.org.uk/database/record.php?usi=000-000-001-467-L |title=Resources for Learning, Scotland: Rationing |publisher=Rls.org.uk |date=1998-01-05 |accessdate=2009-06-22}}</ref>。戦後もフィッシュ・アンド・チップスは安い[[ファストフード]]として、一定の人気を維持している。

1970年代のロンドンにはフィッシュ・アンド・チップスの店が多く現れ、町中に屋台が建ち並んでいた<ref name="kawakita254">[[#川北|川北 (2006)]]、254頁。</ref>。70年代の初頭には夕方になると新聞紙に包まれたフィッシュ・アンド・チップスを手に労働者たちが帰宅する光景が見られた<ref name="kawakita174"/>。また、70年代から80年代のロンドンでは、地下鉄やバスの乗務員として多く雇用されたカリブ系黒人女性が夕食にフィッシュ・アンド・チップスを持ち帰る姿がしばしば見られた<ref name="kawakita176"/>。現在、外資系のファーストフードチェーンに押され、屋台の数は減少している<ref>{{cite book|和書|author=出口保夫、小林章夫、齊藤貴子編|title=21世紀イギリス文化を知る事典|publisher=東京書籍|date=2009年4月|isbn=4487801907|page=432–433}}</ref>。

== 販売形態 ==
フィッシュ・アンド・チップスを販売している店は「チッピー(chippy)」と呼ばれ<ref name="co106"/>、イギリス各地に多数の店舗が存在する<ref>[[#林|林 (1991)]]、73頁。</ref>。また、発祥地のイギリスでは洒落を効かせて "The Batter Plaice"、"A Salt and Battery"、"The Codfather"、"The Fish Plaice" などの名前で呼ばれることもある。

イギリス、[[アイルランド]]、[[オーストラリア]]、[[ニュージーランド]]、北アメリカでは、フィッシュ・アンド・チップスは通常独立した店舗において[[テイクアウト|テイク・アウェイ]]方式で販売されている。店舗の営業規模はごく小規模の自営業者から[[チェーンストア]]に至るまで幅広く、地方の市場の多くで経営される地元資本のシーフードレストランでもポピュラーな料理となっている。また、臨時的な店舗として、[[移動販売]]の形態をとるチップ・バンズが存在する<ref>{{cite web|title=How To Start Your Own Mobile Catering Business?|url=http://www.mobilecateringuk.co.uk/how-to-start-up-mobile-catering-business.htm|publisher=MobileCateringUK.co.uk.|accessdate=2012-06-09}}</ref>。

最も優れたフィッシュ・アンド・チップスの店を選出するコンクールが多く存在し<ref name="seafish1">{{Cite web|url=http://www.seafish.org/plate/fishandchips.asp?p=gf182|title=The Fish & Chip Shop of the Year Competition|accessdate=2007-01-04|publisher=Seafish|archiveurl=https://web.archive.org/web/20070122144451/http://www.seafish.org/plate/fishandchips.asp?p=gf182|archivedate=2007-01-22|url-status=dead|url-status-date=2017-09}}</ref><ref name="seafish2">{{Cite web|url=http://www.seafish.org/plate/fishandchips.asp?p=gf502|title=Frier's Quality Award|accessdate=2007-01-04|publisher=Seafish|archiveurl=https://web.archive.org/web/20070122144547/http://www.seafish.org/plate/fishandchips.asp?p=gf502|archivedate=2007-01-22|url-status=dead|url-status-date=2017-09}}</ref>、コンクールで入賞することは[[大衆文化]]における一種のステータスとなっている<ref name="bbc1">{{cite news|url=http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/4670504.stm|title=Couple scoop best chip shop award|accessdate=2007-01-04|publisher=BBC News| date=2006-02-01}}</ref>。


== 食べ方 ==
== 食べ方 ==
[[ファイル:Fish, chips and mushy peas.jpg|thumb|マッシーピーとタルタルソースを添えたフィッシュ・アンド・チップス]]
[[モルトビネガー]]([[麦芽]]を原料とする[[酢|穀物酢]])と[[食塩]]をかけて[[マッシイピー]](潰した緑色の豆)と共に熱いうちに食べるのが、伝統的かつ一般的だが、[[マヨネーズ]]や[[タルタルソース]]などをかけて食べることもある。[[カレーソース]]、[[ケチャップ]]や[[ウスターソース]]、[[醤油]]や[[マヨネーズ]]など好みにより、多様な味付けを行なってよい。飲食店内では皿に載せて供される。[[テイクアウト]]の場合、かつては日本の[[石焼き芋]]のように、紙袋に入れるか[[円錐]]型に丸めた[[新聞紙]]に包まれて渡されることが多く、現在は[[発泡スチロール]]の容器に入れて提供する店もある。[[ファストフード]]店では、フィッシュを[[バンズ]]に挟み、チップス([[フライドポテト]])とともに供するのも一般的である。
フィッシュ・アンド・チップスを持ち帰る場合、フライは白紙で包まれ、白紙の外側に油分を吸収する[[新聞紙]]が巻かれた状態で提供される<ref name="yamauchi"/>。あるいは、円錐状に丸められた新聞紙か[[わら半紙]]に入れられて渡されることも多かった。ソルト[塩]をふりかけることもある<ref>[[#林|林 (1991)]]、78頁。</ref>。包装紙に包まれたフィッシュ・アンド・チップスを渡された客は歩きながら、あるいはどこかに腰かけてフライを指でつまんで食べるのが一般的である<ref name="yamauchi"/><ref>[[#林|林 (1991)]]、79頁。</ref>。[[パブ]]やイスとテーブルが置かれたフィッシュ・アンド・チップス{{#tag:ref|イスとテーブルを設置され、皿とともにナイフとフォークが準備される形態の店舗はソフィスティケイテッド・フィッシュ・アンド・チップス (sophisticated fish and chips) と呼ばれる<ref>[[#林|林 (1991)]]、80頁。</ref>。|group="注"}}の店では、皿に載せて供される。

イギリスでは、伝統的にフィッシュ・アンド・チップスには[[酢]]と[[食塩|塩]]をかけて食べる<ref>{{Cite web |author=Alan Masterson, tictoc design |url=http://www.seafish.org/plate/fishandchips.asp |title="Seafish. On Plate. Fish & chips" (UK Sea Fish Industry Authority website) |publisher=Seafish.org |date= |accessdate=2009-06-22 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20081011050658/http://www.seafish.org/plate/fishandchips.asp |archivedate=2008-10-11 |url-status=dead|url-status-date=2017-09 }}</ref>。酢は[[モルトビネガー]]([[w:Malt vinegar|Malt vinegar]]、[[麦芽]]を原料とする酢)やオニオンビネガーが使用され、醸造されていない安価な調味料がかけられることもある。付け合せには[[マッシーピー]]([[w:Mushy peas|Mushy peas]]、潰した緑色の豆)が一般的であり<ref>{{cite web|author=BBC |url=http://www.bbcgoodfood.com/recipes/3411/crispy-fish-and-chips-with-mushy-peas |title=Crispy fish & chips with mushy peas recipe - Recipes - BBC Good Food |date= |accessdate=2010-03-07}}</ref>、テーブルが置かれたフィッシュ・アンド・チップスの店とパブでは通常料理と一緒に輪切りのレモン、酢と塩とソース類が出され、客は好みで味付けができる。

アイルランド、[[ウェールズ]]、イングランド北部では、多くのテイク・アウェイ店では[[グレイビーソース]]、[[カレー|カレーソース]]などのソースやマッシーピーがトッピングとして用意され、これらのソースは通常フライの上に直接かけられた状態で提供される。

オーストラリアとニュージーランドでは、しばしばフィッシュ・アンド・チップスを客に渡す前に[[シーズンドソルト]]が振り掛けられる。これらの国では[[トマトソース]]と[[タルタルソース]]が一般的なトッピングであり、小さなプラスチック製の容器に入れられた状態で売られている。また、フィッシュ・アンド・チップスを店内で食べる場合でも持ち帰る場合のいずれにおいても、レモンの輪切りが添えられる。

[[カナダ]]ではイギリスでの伝統に則ってフィッシュ・アンド・チップスと一緒に酢と塩が用意されることもあるが、多くのレストランでは皿に盛られたフィッシュ・アンド・チップスと一緒にくし切りにされたレモンとタルタルソースが用意される。アメリカの場合、モルトビネガーが出されることもあるが、ほとんどのレストランでトッピングとして提供されるのはタルタルソース、[[ケチャップ]]などのソース類と[[コールスロー]]である。

== 包装 ==
[[ファイル:Fish n chips.jpg|thumb|オークニー諸島・[[ストロムネス]]のフィッシュ・アンド・チップス。白い紙の上に新聞紙で包まれている]]
かつては新聞紙に包んで客に出すのが半ば常識になっていたが<ref>[[#ベイリー|ベイリー (1972)]]、112頁。</ref>、今日では衛生面の問題で新聞紙を包装に使用することは禁止されている<ref name="co106"/>。新聞紙の印刷に使用されるインクに含まれる[[鉛]]の中毒性が指摘されたためであるが、印刷業者は現在新聞の印刷に使用されるインクに健康上の害は無いと述べている<ref>{{cite web|url=http://www.mhm.de/ti/ZD49102E.pdf|format=PDF|title=Newspaper inks and the environment|accessdate=2007-10-27|month=September|year=2003|author=Huber Group}}</ref>。禁止された新聞紙の代用としては、新聞紙の柄を印刷した用紙を用いることが多い<ref>{{cite book|和書|author=川成洋、石原孝哉編著|title=ロンドンを旅する60章|series=エリア・スタディーズ|publisher=明石書店|date=2012年5月|isbn=4750336033|page=357}}</ref>。またイギリスの[[都市伝説]]として、『[[タイムズ]]』よりも『[[ザ・サン]]』で包んだほうがフライが美味になるという俗説も存在する<ref>{{cite book|和書|author=小林章夫|title=イギリス紳士のユーモア|series=講談社現代新書|publisher=講談社|date=1990年10月|isbn=4061490230|page=65}}</ref>。

== オセアニア ==
オーストラリアやニュージーランドでもフィッシュ・アンド・チップスの販売は一般的な事業であり、[[華僑]]を始めとするアジア系移民の主要な働き口となっている<ref>{{cite book|author=Swillingham, Guy|title=Shop Horror|publisher=Fourth Estate|location=London|year=2005|isbn=0-00-719813-2}}</ref>。オーストラリアやニュージーランドでは「外で夕食をすませる」という言葉はフィッシュ・アンド・チップスの店に行くか、あるいはパイ・カート<ref group="注">トレーラーで営業するカフェ。[[オーストラリアン・ミートパイ|ミートパイ]]に様々なトッピングを付けて提供する。</ref>を利用することを意味する<ref name="ken">{{cite book|和書|author=ケネス・カイプル、クリームヒルト・コニー・オルネラス|title=ケンブリッジ世界の食物史大百科事典|volume=1|others=石毛直道他監訳|publisher=朝倉書店|date=2004年9月|isbn=4254435312|page=420}}</ref>。1960年代からフィッシュ・アンド・チップスの店はアメリカ式のファーストフード店との競合にさらされ、持ち帰り用のメニューに中華料理などの別の料理を加える努力が行われている<ref name="ken"/>。

== 持続可能な漁業 ==
フィッシュ・アンド・チップスの原料である[[大西洋]]北東部・[[北海]]のタラは、イギリスをはじめとするヨーロッパの国々の乱獲により2000年前後には枯渇寸前になっており、回復が試みられている。2003年度は、[[欧州連合|EU]]水産担当相会議により北海のタラの漁獲量を前年度より45%削減し、漁船団の出港日を月15日以内に制限する取り決めがされた<ref>{{Cite journal|和書|author=山本一郎|title=北海タラ資源に絶滅の恐れ|date=2003-03-04|publisher=[[時事通信社]]|journal=世界週報|volume=84|number=8|pages=57-59}}</ref>。

2012年5月、イギリスの[[チャールズ3世 (イギリス王)|チャールズ3世]](当時皇太子)がスコットランドで開催された世界水産学会議に出席。講演の中で、[[ゴードンストウン]]校に通っていた学生時代、フィッシュ・アンド・チップスを買って食べたことを引き合いに出しつつ、今後も伝統食を守ることができるよう持続可能な漁業の重要性を訴えた<ref>{{Cite news|url=http://www.cnn.co.jp/fringe/30006580.html|title=英皇太子がフィッシュ&チップスの未来を憂慮、持続可能な漁業訴え|work=CNN News|publisher=[[CNN]]|date=2012-05-14|accessdate=2012-06-15}}</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}

=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{cite book|和書|author=石井理恵子|title=英国フード記 A to Z|pages=44–47頁|publisher=三修社|date=2006年1月|isbn=4384037651|ref=石井}}
* {{cite book|和書|author=川北稔|title=イギリス|series=世界の食文化17|publisher=農山漁村文化協会|date=2006年7月|isbn=454006004X|ref=川北}}
* {{cite book|和書|author=林望|title=イギリスはおいしい|publisher=平凡社|date=1991年3月|isbn=4582452086|ref=林}}
* {{cite book|和書|author=エイドリアン・ベイリー|title=イギリス料理|others=江上トミ日本語版監修|publisher=タイムライフインターナショナル|year=1972|ref=ベイリー}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[イギリス料理]]
* [[イギリス料理]]
* [[フライ (料理)|フライ]]
* [[タラ戦争]]
* [[白身魚のフライ]]
* [[チキン・アンド・チップス]]


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2024年9月27日 (金) 13:14時点における最新版

フィッシュ・アンド・チップス
イングランドブライトンのフィッシュ・アンド・チップス
別名 フィッシュ・サパーなど(別称も参照)
フルコース メインディッシュ
発祥地 イングランドの旗 イングランド
提供時温度 熱い
主な材料 衣を付けて揚げた魚フライドポテト
Cookbook ウィキメディア・コモンズ
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フィッシュ・アンド・チップス英語: fish-and-chips)は、イギリスを代表する料理の一つ。タラなどの白身魚フライに、棒状のポテトフライを添えたもの[1]イングランドではファストフードとして親しまれ、国民食の長い歴史がある。バタード・フィッシュ英語: battered fish[注 1]と呼ばれる場合もある[2]

食材

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調理用のフライヤー
スクラップスとチップス
コッドを使ったフィッシュ・アンド・チップス(カナダ・ホースシュー・ベイ

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フライにされる魚は基本的に白身魚であり、ハドックHaddock)やコッドCod)などのタラ類、プレイスなどのカレイオヒョウ類が使われる[2][3][4][5]。また、シュリンプロブスターが食材に使われる場合もあり[2]、低湿地であるフェンランドではウナギがフライの材料に使われる[6]

魚のサイズには通常ミディアム(もしくはスモール)とラージの2種があり、ミディアムを注文するとおよそ長さ20センチ・幅10センチ・厚さ3センチの切り身が調理される[7]

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魚に付ける衣は小麦粉を卵や水で溶いたものである。小麦粉を水で溶いた生地に色合いを付けるために少量の重曹と酢を入れるのが伝統的であり、重曹と酢が加えられた生地には泡が立っている。苦みと食感を加えるためにビール(エール)を入れたり[2]パンケーキヨークシャー・プディングの生地のレシピを若干変えたものを衣にしたりと、レシピは店によって異なる[4]

ビールに含まれる二酸化炭素の働きによって、生地は明るい橙褐色に変化する。ビールの種類によって生地の風味も変化し、ラガーを使用する店もあれば[8][9]スタウトビターを使用する店もある。生地に含まれるアルコール分は調理中に飛ばされるため、できあがったフィッシュ・アンド・チップスにアルコール分はほとんど含まれていない。

魚のフライを作る過程で生まれた衣のかけら(日本における天かすに相当するもの)はスクラップス(もしくはビッツ[10])と呼ばれ、チップスとともに提供される[11]。伝統的に、フィッシュ・アンド・チップスの店でスクラップスは無料で提供されていた[12]。イングランド北部では今なおスクラップスは人気があり、しばしば客の子供たちに振る舞われる。

ジャガイモ

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フィッシュ・アンド・チップスに付く「チップス」は、いわゆるポテトチップスのことではなく、フライドポテトアメリカ合衆国で言うフレンチフライ[注 2])のイギリスでの呼び名である(イギリス英語でポテトチップスは一般にクリスプス「Crisps」と呼ぶ)。アメリカ合衆国資本のファーストフードチェーンで出されるフライドポテトに比べてイギリスのチップスは太い[2][注 3]

食用油が浸透するのはフライドポテトの比較的浅い部位に留まり、フライドポテトに含まれる脂肪分は表面積に比例する。チップスの表面積の割合はフレンチフライに比べて小さいため、ポテトの総重量が同じであれば、含まれる脂肪分が比較的少なくなる。また、チップスはフレンチフライよりも長い調理時間を要する。

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伝統的にはヘットラードが使用されていたが、現在ではピーナッツ油などの植物油が主流である。しかし、イングランド北部とスコットランドの少数の店、および北アイルランドの多くの店では、いまだにラードが使用されている。ラードは料理に独特の風味を与えるが、反面ベジタリアンや肉食・豚肉を忌避する宗教の信者からは敬遠される。また、イギリスではフィッシュ・アンド・チップスを揚げた後に出る廃油が、バイオディーゼル燃料の原料として再利用されている[13]

歴史

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魚とジャガイモ

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19世紀中ごろのイギリスでは、既に魚のフライとポテト・チップスが店舗で販売されていた[14]。本来は魚のフライはユダヤ人セファルディ系の移民が安息日に食べていた料理をイギリスにもちこんだものであり、その販売業はロンドンに住んでいたユダヤ人を発祥としていた。1840年代のソーホーでは魚のフライをごく普通に購入することができた[14]

ポテト・チップスの販売業はランカシャーのマンチェスター北東にあるオールダム(Oldham)で始まったとされているが[要出典]、これはイギリスにおいてジャガイモを食用にする習慣は北部から広まったことに由来する[15]

二つのフライが「フィッシュ・アンド・チップス」として一緒に販売される形態が普及するのは1860年代以降である[16]。これには産業革命により急速に整備された鉄道輸送が寄与しており、ミッドランド・ディストリクトやリンカンシャーなどの地方からジャガイモと魚が大都市に運ばれることにより食文化として成立することとなった[17]

フィッシュ・アンド・チップスの起源

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フィッシュ・アンド・チップスの正確な起源は不明であるが、ヴィクトリア朝期に多数存在したホット・パイ・ショップが発祥だと推測されている[14]。ホット・パイ・ショップではパイ以外に魚のフライとチップスも売られていたが、次第にパイではなく魚のフライとチップスが中心になったと考えられている[14]。魚のフライとチップスを提供する店は「フィッシュ・アンド・チップス」と呼ばれ、そこで出される料理そのものも店と同じ名前で呼ばれた[18]

1860年にロンドンのジョセフ・マリンが販売を始めたとされるマリンズ(Malin's)が最古であると考えられているが確かな記録は残されておらず、ランカシャー州モスリーにあったリーズィズ(Lees's)が最古であると考える見解もある。しかしマリンズ(Malin's)は1972年に閉店、リーズィズ(Lees's)も現存してはいない[19]

産業革命との関係

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フィッシュ・アンド・チップスが普及した背景には、産業革命による技術革新が存在していた[20]

産業革命前は新鮮な生魚を遠方に輸送する手段は存在していなかったが、鉄道網の整備と蒸気船の登場により、ロンドンなどの大都市に迅速に鮮魚を輸送することが可能となった[21]。また、生魚の保存に役立つ冷凍技術が発達し、1880年代に導入されたトロール漁業によって多量の魚を獲ることが可能となった[22]

産業革命期の労働者は、安価ですぐに食べられ、さらに腹持ちの良い食事を求めており[23]、イギリスの工業化の進行とともに魚のフライとチップスの組み合わせは、労働者の食事の主体として普及した[18]

20世紀以降

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ロンドンのフィッシュ・アンド・チップスの店(2000年)

20世紀の初頭、ロンドンには約1,200軒のフィッシュ・アンド・チップスが存在していた[24]。フィッシュ・アンド・チップスは庶民にとっての最初の外食産業であり[25]、1930年代になると中流階級もフィッシュ・アンド・チップスを利用するようになる[26]。井戸端会議の集会場、若者のたまり場としてフィッシュ・アンド・チップスは都会の労働者階級の社交場としての地位を確立する[27]。パブの衰退と同時期に、パブよりも健全なたまり場であるフィッシュ・アンド・チップスの台頭が始まる[28]

1913年には英国フィッシュフライヤーズ連盟(The British National Federation of Fish Friers)が設立され、フィッシュ・アンド・チップスの売り込みと調理法の教育が提供された。

第二次世界大戦下のイギリスで配給制がとられたとき、数少ない配給食糧のひとつがフィッシュ・アンド・チップスであった[29]。戦後もフィッシュ・アンド・チップスは安いファストフードとして、一定の人気を維持している。

1970年代のロンドンにはフィッシュ・アンド・チップスの店が多く現れ、町中に屋台が建ち並んでいた[30]。70年代の初頭には夕方になると新聞紙に包まれたフィッシュ・アンド・チップスを手に労働者たちが帰宅する光景が見られた[16]。また、70年代から80年代のロンドンでは、地下鉄やバスの乗務員として多く雇用されたカリブ系黒人女性が夕食にフィッシュ・アンド・チップスを持ち帰る姿がしばしば見られた[28]。現在、外資系のファーストフードチェーンに押され、屋台の数は減少している[31]

販売形態

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フィッシュ・アンド・チップスを販売している店は「チッピー(chippy)」と呼ばれ[4]、イギリス各地に多数の店舗が存在する[32]。また、発祥地のイギリスでは洒落を効かせて "The Batter Plaice"、"A Salt and Battery"、"The Codfather"、"The Fish Plaice" などの名前で呼ばれることもある。

イギリス、アイルランドオーストラリアニュージーランド、北アメリカでは、フィッシュ・アンド・チップスは通常独立した店舗においてテイク・アウェイ方式で販売されている。店舗の営業規模はごく小規模の自営業者からチェーンストアに至るまで幅広く、地方の市場の多くで経営される地元資本のシーフードレストランでもポピュラーな料理となっている。また、臨時的な店舗として、移動販売の形態をとるチップ・バンズが存在する[33]

最も優れたフィッシュ・アンド・チップスの店を選出するコンクールが多く存在し[34][35]、コンクールで入賞することは大衆文化における一種のステータスとなっている[36]

食べ方

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マッシーピーとタルタルソースを添えたフィッシュ・アンド・チップス

フィッシュ・アンド・チップスを持ち帰る場合、フライは白紙で包まれ、白紙の外側に油分を吸収する新聞紙が巻かれた状態で提供される[5]。あるいは、円錐状に丸められた新聞紙かわら半紙に入れられて渡されることも多かった。ソルト[塩]をふりかけることもある[37]。包装紙に包まれたフィッシュ・アンド・チップスを渡された客は歩きながら、あるいはどこかに腰かけてフライを指でつまんで食べるのが一般的である[5][38]パブやイスとテーブルが置かれたフィッシュ・アンド・チップス[注 4]の店では、皿に載せて供される。

イギリスでは、伝統的にフィッシュ・アンド・チップスにはをかけて食べる[40]。酢はモルトビネガーMalt vinegar麦芽を原料とする酢)やオニオンビネガーが使用され、醸造されていない安価な調味料がかけられることもある。付け合せにはマッシーピーMushy peas、潰した緑色の豆)が一般的であり[41]、テーブルが置かれたフィッシュ・アンド・チップスの店とパブでは通常料理と一緒に輪切りのレモン、酢と塩とソース類が出され、客は好みで味付けができる。

アイルランド、ウェールズ、イングランド北部では、多くのテイク・アウェイ店ではグレイビーソースカレーソースなどのソースやマッシーピーがトッピングとして用意され、これらのソースは通常フライの上に直接かけられた状態で提供される。

オーストラリアとニュージーランドでは、しばしばフィッシュ・アンド・チップスを客に渡す前にシーズンドソルトが振り掛けられる。これらの国ではトマトソースタルタルソースが一般的なトッピングであり、小さなプラスチック製の容器に入れられた状態で売られている。また、フィッシュ・アンド・チップスを店内で食べる場合でも持ち帰る場合のいずれにおいても、レモンの輪切りが添えられる。

カナダではイギリスでの伝統に則ってフィッシュ・アンド・チップスと一緒に酢と塩が用意されることもあるが、多くのレストランでは皿に盛られたフィッシュ・アンド・チップスと一緒にくし切りにされたレモンとタルタルソースが用意される。アメリカの場合、モルトビネガーが出されることもあるが、ほとんどのレストランでトッピングとして提供されるのはタルタルソース、ケチャップなどのソース類とコールスローである。

包装

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オークニー諸島・ストロムネスのフィッシュ・アンド・チップス。白い紙の上に新聞紙で包まれている

かつては新聞紙に包んで客に出すのが半ば常識になっていたが[42]、今日では衛生面の問題で新聞紙を包装に使用することは禁止されている[4]。新聞紙の印刷に使用されるインクに含まれるの中毒性が指摘されたためであるが、印刷業者は現在新聞の印刷に使用されるインクに健康上の害は無いと述べている[43]。禁止された新聞紙の代用としては、新聞紙の柄を印刷した用紙を用いることが多い[44]。またイギリスの都市伝説として、『タイムズ』よりも『ザ・サン』で包んだほうがフライが美味になるという俗説も存在する[45]

オセアニア

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オーストラリアやニュージーランドでもフィッシュ・アンド・チップスの販売は一般的な事業であり、華僑を始めとするアジア系移民の主要な働き口となっている[46]。オーストラリアやニュージーランドでは「外で夕食をすませる」という言葉はフィッシュ・アンド・チップスの店に行くか、あるいはパイ・カート[注 5]を利用することを意味する[47]。1960年代からフィッシュ・アンド・チップスの店はアメリカ式のファーストフード店との競合にさらされ、持ち帰り用のメニューに中華料理などの別の料理を加える努力が行われている[47]

持続可能な漁業

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フィッシュ・アンド・チップスの原料である大西洋北東部・北海のタラは、イギリスをはじめとするヨーロッパの国々の乱獲により2000年前後には枯渇寸前になっており、回復が試みられている。2003年度は、EU水産担当相会議により北海のタラの漁獲量を前年度より45%削減し、漁船団の出港日を月15日以内に制限する取り決めがされた[48]

2012年5月、イギリスのチャールズ3世(当時皇太子)がスコットランドで開催された世界水産学会議に出席。講演の中で、ゴードンストウン校に通っていた学生時代、フィッシュ・アンド・チップスを買って食べたことを引き合いに出しつつ、今後も伝統食を守ることができるよう持続可能な漁業の重要性を訴えた[49]

脚注

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注釈

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  1. ^ batter[bætə(ɹ)]は「衣をつける」の意(バッター液)。butter[-ʌ-]ではない。
  2. ^ ちなみに、フレンチフライは1本だけで供されることはないため、通常は複数形で「French fries」(フレンチフライズ)、略して「fries」(フライズ)と呼ばれる。なお、アメリカ合衆国においても、この料理に限っては「フィッシュ・アンド・チップス」という呼称がそのまま使われ、「フィッシュ・アンド・フライズ」のような言い方はしない。
  3. ^ アメリカ合衆国本土では、太めのフライドポテト(フレンチフライズ)を出す店もある。
  4. ^ イスとテーブルを設置され、皿とともにナイフとフォークが準備される形態の店舗はソフィスティケイテッド・フィッシュ・アンド・チップス (sophisticated fish and chips) と呼ばれる[39]
  5. ^ トレーラーで営業するカフェ。ミートパイに様々なトッピングを付けて提供する。

出典

[編集]
  1. ^ 「フィッシュアンドチップス」とは
  2. ^ a b c d e 石井 (2006)、45頁。
  3. ^ ベイリー (1972)、122頁。
  4. ^ a b c d ジェイン・ベスト・クック『英国おいしい物語』原口優子訳、東京書籍、1994年9月、106頁。ISBN 4487791758 
  5. ^ a b c 山内玲子「料理と酒」『イギリス』小池滋監修、新潮社〈読んで旅する世界の歴史と文化〉、1992年5月、285頁。ISBN 4106018322 
  6. ^ 林 (1991)、74–75頁。
  7. ^ 林 (1991)、74頁。
  8. ^ Pratt, Jo'. “Deep fried fish in beer”. Food Recipes. BBC. 2009年3月23日閲覧。
  9. ^ Hix, Mark (2008年1月26日). “Gurnard in beer batter”. The Independent (London). http://www.independent.co.uk/life-style/food-and-drink/recipes/gurnard-in-beer-batter-772989.html 2009年3月23日閲覧。 
  10. ^ Brennan, Christopher. “How to order fish and chips in Yorkshire”. All Points North. 1 June 2011閲覧。
  11. ^ Alexander, James (18 December 2011). “The unlikely origin of fish and chips”. BBC News. http://news.bbc.co.uk/1/hi/8419026.stm 1 June 2011閲覧。 
  12. ^ Busfield, Steve (17 July 2007). “Do you know what scraps are? And why they should be free”. The Guardian. http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/wordofmouth/2007/jul/13/doyouknowwhatscrapsarean 1 June 2011閲覧。 
  13. ^ Hogan, Michael (2008年3月19日). Blackburn, Peter: “German Biodiesel Firm To Use Chip Fat”. Planet Ark. 2009年6月22日閲覧。
  14. ^ a b c d 川北 (2006)、177頁。
  15. ^ 川北 (2006)、179頁。
  16. ^ a b 川北 (2006)、174頁。
  17. ^ 『図説世界史を変えた50の鉄道』(2014 原書房)pp.142
  18. ^ a b 川北 (2006)、173–174頁。
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  20. ^ 川北 (2006)、181頁。
  21. ^ 川北 (2006)、181–182頁。
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  23. ^ ベイリー (1972)、111頁。
  24. ^ 川北 (2006)、180頁。
  25. ^ 川北 (2006)、182頁。
  26. ^ 川北 (2006)、175頁。
  27. ^ 川北 (2006)、175–176頁。
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参考文献

[編集]
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  • 川北稔『イギリス』農山漁村文化協会〈世界の食文化17〉、2006年7月。ISBN 454006004X 
  • 林望『イギリスはおいしい』平凡社、1991年3月。ISBN 4582452086 
  • エイドリアン・ベイリー『イギリス料理』江上トミ日本語版監修、タイムライフインターナショナル、1972年。 

関連項目

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