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「嫡出」の版間の差分

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{{更新|2024年施行の民法改正|date=2024年12月}}
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'''嫡出'''(ちゃくしゅつ<ref group="注">このほか[[常用漢字表]]の表外の音訓となるが「てきしゅつ」の読みもある(法令用語研究会 『有斐閣法律用語辞典』有斐閣、2006年、1005頁及び『法律学小辞典 第4版補訂版』2008年、905頁参照)</ref>)とは、[[結婚|婚姻]]関係にある男女([[夫婦]])から生まれること。対義語は「庶出」である<ref>谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、91頁</ref>。
'''嫡出'''(ちゃくしゅつ)とは「[[婚姻]]関係にある男女([[夫婦]])から生まれた」の意。

実子の嫡出子には、出生と同時に嫡出の身分を取得する「'''生来嫡出子'''」のほか、[[準正]]によって嫡出子となる「'''準正嫡出子'''」がある。{{main|[[#準正嫡出子|準正嫡出子]]}}なお、法定親子関係である[[養子]]は法律上の血縁関係が[[擬制]]され縁組の日から[[嫡出子]]の身分を取得する([[b:民法第809条|民法第809条]]。養親子関係については[[養子]]を参照)。

「嫡出」という語は「正統」という意味を持ち、「庶出」という語は「異端」という意味を持っている。子は生まれの正統や異端を選べないのに、子を「庶出」「異端」呼ばわりして蔑むのは誤った行為だという批判もあり<ref>二宮周平著 『家族と法』 岩波書店〈岩波新書〉、2007年10月、7頁</ref>、近年では「嫡出子」を「'''婚内子'''」、「非嫡出子」を「'''婚外子'''」と称する場合もある。

日本の法制においては婚姻の有無とは関係なく血族関係は発生するが、ただし、後に述べられるように[[非嫡出子]]において父子関係が発生するためには[[認知 (親子関係)|認知]]を要する([[b:民法第779条|779条]]、[[b:民法第784条|784条]])<ref group="注">母子関係は分娩の事実より自明である。</ref><ref>谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、91-92頁</ref>。


*以下、[[民法 (日本)|民法]]については、条名のみ記す。
== 嫡出の法理 ==
== 嫡出の法理 ==
歴史的には、子が社会的にその存在を公認されるためには、婚姻関係にある男女から生まれることが重要な意味を持つとされた(嫡出の法理)。'''嫡出子'''とは婚姻関係にある男女間に生まれた子をいい<ref name="chida78">千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、78頁</ref>、'''非嫡出子'''とは婚姻関係にない男女間に生まれた子をいう<ref name="endo172">遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、172頁</ref>
母子の間の親子関係は分娩の事実によりほぼ自明<ref>しかし、現代は医学の進歩により、この前提が一部で崩壊し、[[代理母]]などの問題が生じている。</ref>であるのに対し、父子の間の親子関係は目に見える事実によっては必ずしも明らかにならないため、子の父が誰であるか、それをどう確定させればよいかが古くは問題とされてきた。現代は[[血液型]]や[[DNA鑑定]]などの科学技術の発展により、血統の面から親子関係を確定させることが可能となっているが、そのような手段が存在しない時代においては、生まれた子が社会的にその存在を公認されること([[認知#社会学での認知|認知]]されること)こそが血統以上に重要な要素であった。社会的にその存在を公認されるためには、婚姻関係にある男女から生まれることが必要であり(嫡出の法理)、そうでない子は俗に''私生児''、''私生子''、[[庶子]]と称され、その待遇が区別された。


[[1942年]]以前の日本の民法(明治民法)は、養子でない子を『嫡出子』、『[[庶子]]』(婚姻外で生まれ父が認知した子)、『[[私生子]]』(婚姻外で生まれ父の認知を受けない子)の三つに分け、私生子より庶子を優遇し、庶子より嫡出子を優遇していた<ref>富岡康郎(梶康郎)『民法正義』第4巻(親族編)、松陽堂、1903年、116-117頁。梶康郎『六法釈義全書』(民法・商法・民事訴訟法・国際公法・経済学)、法曹閣、再版1924年、205-207頁。</ref>。この年2月12日の改正で私生子と庶子を併せて「嫡出ニ非サル子」という表現に改めた<ref>昭和17年法律第7号。国立公文書館デジタルアーカイブ「[https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/Detail_F0000000000000040116 民法中改正法律・御署名原本・昭和十七年・法律第七号]」</ref><ref name="endo172"/>。現行の条文で嫡出子の語は残るが非嫡出子はなく、「嫡出でない子」と表現される。
日本の民法は嫡出の法理を前提としつつ、法律婚の保護を理由に「嫡出子」と「非嫡出子」との取り扱いを区別する法制を採っているが、伝統的な嫡出の法理は[[法の下の平等]]など近代法の原理により修正が施されつつある一方、科学技術の進歩による親子関係の複雑化といった新しい事情にも対応が不断に迫られている。


これらの区別は[[結婚#結婚と法制度|法律婚]]を重んじる趣旨とされるが、親も選べず、生まれの流派も選べない[[子供の権利|子供の立場]]を擁護する観点からは厭わしいと見て問題点も指摘されている<ref name="endo161">遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、161頁</ref>。歴史的に見ると、西洋では、非嫡出子は"nobody's child"(何人の子にもあらざる子)や"illegitimate child"(庶出の子供、規則違反の子供)と呼ばれてたりしてきたが、近年では子供を尊重する立場から"illegitimate"という語は廃れ、"'''extramarital'''"(結婚外)という語が使用されている。
== 嫡出子 ==
'''嫡出子'''とは婚姻関係にある男女から生まれた子である。嫡出でない子は'''[[非嫡出子]]'''と称される。


日本では、[[家制度]]との関係においては比較的優遇されてきたとされる<ref name="endo172"/>。しかし、日本でも婚外子は「私生児」として軽蔑され差別されてきた。そして、「私生児」という語が廃れた現在でも、全出生児に対する婚姻外出生児の割合は低い<ref name="chida81">千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、81頁</ref>。
=== 嫡出子と親子関係 ===
法律的親子には、生物的な親子関係のある'''実親子関係'''と、その関係のない'''法定親子関係'''がある。


現代の欧米諸国では、非嫡出子も嫡出子とほとんど同じ法律上の地位が認められるに至っている。しかし日本においては、現行の日本民法の[[b:民法第900条|民法第900条第4号]]の法定相続分の規定などに差別があるとして議論されてきた<ref name="endo172"/>。民法900条第4号については、[[2013年]]9月4日に最高裁判所がこの規定が[[違憲判決#非嫡出子の法定相続分規定|違憲]]であるとの判断を下した<ref>「婚外子相続差別は違憲 最高裁大法廷」日本経済新聞 [[2013年]]9月4日</ref>。そして、この最高裁決定を受けて、平成25年12月11日法律第94号により民法900条4号は改正されている。
==== 実親子関係 ====
実親子関係のうち、嫡出を「嫡出子」、そうでない子を「非嫡出子」(法文上は「嫡出でない子」と表現される)という。実子の嫡出子のうち、出生と同時に嫡出の身分を取得する「生来嫡出子」と、親の[[婚姻]]などの要件を満たすことによって嫡出子となる「準正嫡出子」がある。


== 日本の私法(民法)における嫡出 ==
==== 法定親子関係 ====
*以下、[[民法 (日本)|民法]]については、条名のみ記す。
法定親子関係である「[[養子]]」([[b:民法第792条|792条]]以下)、「特別養子」([[b:民法第817条の2|817条の2]]以下)は縁組の日から嫡出子の身分を取得する([[b:民法第809条|809条]])。


=== 嫡出子についての規定 ===
=== 概説 ===
嫡出の子を「嫡出子」、嫡出でない子を「非嫡出子」(法文上は「嫡出でない子」と表現される)という。先述のように、実子の嫡出子には出生と同時に嫡出の身分を取得する「'''生来嫡出子'''」と[[準正]]によって嫡出子となる「'''準正嫡出子'''」があり、また、法定親子関係である養子は法律上の血縁関係が擬制され、縁組の日から嫡出子の身分を取得する([[b:民法第809条|809条]]。養親子関係については[[養子]]を参照)。
====推定される嫡出子====
民法には嫡出子について直接の定義がない。
* [[b:民法第772条|772条]]1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」とし、同条2項により「婚姻成立の日から二百日後又は婚姻の解消若しくは取消の日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定」される。
* これを受けて[[b:民法第774条|774条]]は、772条の場合に「夫は、子が嫡出であることを否認することができる」とする。


本来、「嫡出子」は婚姻関係にある男女から生まれた子(婚姻中に懐胎した子)を意味するが、後に述べる[[b:民法第772条|772条]]の嫡出の推定及び懐胎時期の推定の法解釈との関係から、従来の「嫡出子」の範囲は実質的に修正を受けており<ref name="sato57">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、57頁</ref>、講学上において子は、'''推定される嫡出子'''、'''推定されない嫡出子'''、'''推定の及ばない子'''に区分されている<ref name="endo161"/>。
ここで「嫡出」という言葉が使われていることから、嫡出子とは婚姻関係にある男女から生まれた子であると捉えることができる。このように民法は子が嫡出であることの証明のために'''推定規定'''を置き、推定される嫡出子を「推定される嫡出子」と呼ぶ。


==== 嫡出子と非嫡出子の差異 ====
'''嫡出否認の訴え'''は、夫がこの出生を知ったときから1年以内に提起しなければならず([[b:民法第777条|777条]])、子の出生後に夫が嫡出を承認したときはその否認権を失う([[b:民法第776条|776条]])。
非嫡出子は嫡出子と比較して、法律上において一定の差異がある<ref name="chida81"/>。
# 父子関係の成立
#: 嫡出子は母の夫が父であると推定されるが([[b:民法第772条|772条]])、非嫡出子の父子関係は父の認知によって成立する([[b:民法第779条|779条]])。なお、母子関係については後述の通り、通常、懐胎・分娩という事実から当然に発生する(判例として最判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)。
# 親権
#: 嫡出子の[[親権]]は父母が共同で行うが([[b:民法第818条|818条]])、非嫡出子の親権は'''母が単独'''で行う。ただし父が認知し、父母の協議によって父を親権者と定めることができる([[b:民法第819条|819条]]4項)。
# 氏
#: 嫡出子は父母の氏を称するが([[b:民法第790条|790条]]1項)、非嫡出子は'''母の氏'''を称する(同条2項)。父の氏への変更は[[家庭裁判所]]の許可により可能で([[b:民法第791条|791条]]1項)、このとき子は父の戸籍に入る。


なお、2013年12月の民法一部改正(平成25年12月11日法律第94号)までは非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする規定(旧・[[b:民法第900条|900条]]4号)が設けられていた。しかし、この規定については[[2013年]][[9月4日]]に最高裁[[大法廷]]によって違憲判断が下された([[婚外子相続差別訴訟]])。
====推定されない嫡出子====
一方、772条の条件を満たすものの'''推定を及ぼすことが不自然'''な場合には、嫡出の推定が及ばないとされることがある。判例上認められているものとして、妊娠したとみられる時期に夫が出征していた場合(最判平成10年8月31日判時1655号128頁)、妊娠したとみられる時期に夫が収監されていた場合がある。なお、夫婦が遠隔地に別居して没交渉だった場合などに推定が及ぶか否かについては争いがある。判例は、父の子でないことが外観上明白である場合に限り772条の推定が及ばないとするものと理解されている。別居開始後9箇月余後に生まれた子について、婚姻の実態がないことが明らかでない以上嫡出推定が及ぶとした判例として最判平成10年8月31日判時1655号112頁(前掲判例と同日だがページ数が異なっている点に注意)。<br/>
嫡出推定が及ばない事情のもとで産まれた嫡出子を「推定の及ばない子」「772条の推定を受けない嫡出子」「表見嫡出子」などという。<br/>
'''親子関係不存在確認'''の訴え(人事訴訟法2条2号)は、「推定の及ばない子」「772条の推定を受けない嫡出子」について許され、確認の利益が認められれば誰からでも、[[b:民法第777条|777条]]の期間にかかわらずいつでも提起できる。


==== 婚姻中ないが嫡出と扱われる場合 ====
==== 戸籍の記載 ====
戸籍の父母との続柄欄において嫡出子は「長男」「長女」のように記載されるが、2004年(平成16年)11月1日までは非嫡出子は「男」「女」と記載された(戸籍法施行規則33条1項および附録6号)。東京地裁平成16年3月2日判決(訟務月報51巻3号549頁)は、当時の続柄欄の記載は[[戸籍]]制度の目的との関連で必要性の程度を越えており、[[プライバシー]]権を害しているとの判断を示した。そこで、同規則が2004年(平成16年)11月1日より改正され、それ以降に非嫡出子出生の届出がされた場合、嫡出子と同様の「長男」「長女」といった記載がなされることとなった。ただし、既に「男」「女」と記載されているものに関しては、当事者の申請によってはじめて更正され、また[[除籍]]等については申請しても更正を拒否されるなど、問題が多いと指摘されている(これに対して[[住民票]]における世帯主との続柄記載は、1995年3月に行政の責任において一律に「子」と更正されている)。
また、婚姻中の懐胎でないために772条の推定を受けない場合でも、嫡出子として扱われることがある。[[内縁]]が先行している場合でも婚姻成立後200日以内に生まれた子は嫡出子として扱われる(大連判S15.1.23民集19-54)。このような「推定されない嫡出子」も戸籍上は嫡出子として扱われている。近年の日本では<!--ウィキペディア日本語版=日本版ではないため、わが国=日本とするのは不適当-->「[[できちゃった結婚]]」の夫婦が増えてきているため、両親の婚姻から200日以内に生まれてくる子供も多い。しかし772条の推定を受けない以上、父子関係は嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えで争うことができる。内縁成立後200日以上経過していた場合も推定されない嫡出子となる([http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=28062&hanreiKbn=01 最判S41.2.15 民集20-2-202])。


==== 準正による嫡出身分の取得 ====
=== 嫡出と親子関係 ===
==== 母子関係 ====
ところで、'''出生時に非嫡出であってもその後両親が婚姻'''すると[[準正]]により嫡出の身分を取得する。<br/>
[[b:民法第779条|779条]]によると、非嫡出子と母の間の母子関係にも[[認知 (親子関係)|認知]]が必要ともとれるが(要認知説)、現在の通説・判例では、通常、自然血縁上の母子関係は[[懐胎]]・[[分娩]]という事実から明確することができ、認知という特別の法手段を待つ必要はないとされる(当然発生説。判例として最判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)<ref name="endo172"/><ref name="sato56">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、56頁</ref>。したがって、[[b:民法第779条|779条]]は母の認知に関しては、[[棄児]]や[[迷子]]など懐胎・分娩の事実が立証不可能の場合に限り機能する規定ということになる<ref name="sato56"/>。通常、母子関係については分娩によって当然に発生することから、子は母の認知にかかわりなく母子関係の存在について確認の訴えを提起できる(判例として最判昭49・3・29家月26巻8号47頁)。ただし、分娩と母子関係については[[代理母]]のような特殊な場合も生じており、立法上の問題となっている<ref>川井健著 『民法概論5親族・相続』 有斐閣、2007年4月、61頁</ref>。現行法のもとでは、代理母による出産は[[卵子]]を提供した者の子ではなく代理母の子として取り扱われることになる(最決平19・3・23民集61巻2号619頁)。
父が認知した子はその父母の婚姻によつて嫡出子たる身分を取得し([[b:民法第789条|789条]]1項)、これを婚姻準正という。<br/>
婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から(ただし、[[法務省]]の[[戸籍]]先例においては、不都合防止のため「婚姻の時から」と解釈している)嫡出子たる身分を取得し(同条2項)、これを認知準正という。<br/>
これらの規定は子が既に死亡した場合に準用される(同条3項)。同条2項には「父母が認知した子」と表記されているが、母と子の親子関係は分娩の事実で当然発生するので母による認知は不要である(最判S37.4.27 民集16-7-1247)。


== 非嫡出子 ==
==== 関係 ====
母子関係に比して、父子関係の証明は難しい問題とされる<ref name="#1">中川善之助・米倉明編著 『新版 注釈民法〈23〉親族 3』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、2004年12月、149頁</ref>。非嫡出子の場合に法律上の父子関係を生じるには、父の[[認知 (親子関係)|認知]]が必要とされる([[b:民法第779条|779条]]、[[b:民法第784条|784条]])。ただし、子供の母が別の男性と結婚しており、後に述べる[[嫡出推定]]が働く場合、子供はその夫婦の嫡出子となるので、[[嫡出否認]]の訴えが認められるまで認知できない。
=== 認知と民法上の特徴 ===
以上の嫡出の条件にあてはまらない子を非嫡出子という。非嫡出子の場合、父親との間に'''法的親子関係'''を生じるためには'''認知'''が必要となる。ただし、子供の母が別の男性と結婚している場合、子供はその夫婦の嫡出子となるので、嫡出否認もしくは親子関係不存在の訴えが認められるまで認知できない。<br/>
その他、非嫡出子は嫡出子と比較して次のような特徴がある。


父子関係の証明の問題に関連して[[DNA鑑定]]による親子鑑定が取り上げられることがあるが、[[プライバシー]]保護の観点から諸外国でもこれに慎重な立法例が多いとされ、日本の今後の立法においても遺伝子分析による鑑定のあり方について十分な検討が必要と指摘されている<ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、120-121頁</ref>。
* 嫡出子は母の夫が父であると推定されるが([[b:民法第772条|772条]])、非嫡出子は父の認知によって父子関係が成立する([[b:民法第779条|779条]])。
* 嫡出子は父母の氏を称するが([[b:民法第790条|790条]]1項)、非嫡出子は'''母の氏'''を称する(同条2項)。父の氏への変更は[[家庭裁判所]]の許可により可能で([[b:民法第791条|791条]]1項)、このとき子は父の戸籍に入る。
* 嫡出子の[[親権]]は父母が共同で行うが([[b:民法第818条|818条]])、非嫡出子の親権は'''母が単独'''で行う。ただし父が認知し父母の協議によって父を親権者と定めることができる([[b:民法第819条|819条]]4項)。
* 非嫡出子の法定相続分は嫡出子の'''2分の1'''である([[b:民法第900条|900条]]4号)。この規定が[[日本国憲法第14条|憲法第14条]]1項に反するとの下級審の判例があるが(東京高裁H5.6.23判時1465-55ほか)、最高裁は立法裁量権の範囲内であり違憲とまでは言えないと判断している([http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=25608&hanreiKbn=01 最裁大決H7.7.5民集49-7-1789])。
* [[最高裁判所]]は[[2003年]]([[平成]]15年)[[3月31日]]」に、婚外子(非嫡出子)の相続分について嫡出子と同じでないことについて憲法違反であるとの訴えに対して、「非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁)。憲法14条1項違反をいう論旨は、採用することができない。」として棄却している<ref>[http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/saikousaihannketu0303.htm 2003(平成15)年03月31日第一小法廷判決 平成14年(オ)第1963号 預金返還請求及び預金返還等請求当事者参加事件] 松山大学</ref>。


2014年7月の最高裁の判例では父子以外の血縁関係がDNA鑑定で証明されても、それを理由として戸籍上の父との親子関係を取り消すことはできないとして、[[嫡出推定]]の規定はDNA鑑定に優先するとの判断を示した<ref name="nikkei20140717">[https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG17H0N_X10C14A7000000/ 民法「嫡出推定」、DNA鑑定より優先 最高裁初判断] 日本経済新聞 2014年7月17日</ref>。
=== 戸籍での記載 ===
戸籍の父母との続柄欄において嫡出子は「長男」「長女」のように記載されるが、2004年(平成16年)11月1日までは非嫡出子は「男」「女」と記載された(戸籍法施行規則33条1項および附録6号)。東京地裁平成16年3月2日判決(訟務月報51巻3号549頁)は、当時の続柄欄の記載は戸籍制度の目的との関連で必要性の程度を越えており、[[プライバシー]]権を害しているとの判断を示した。そこで、同規則が2004年(平成16年)11月1日より改正され、それ以降に非嫡出子出生の届出がされた場合、嫡出子と同様の「長男」「長女」といった記載がなされることとなった。ただし、既に「男」「女」と記載されているものに関しては、当事者の申請によってはじめて更正され、また除籍等については申請しても更正を拒否されるなど、問題が多いと指摘されている。(これに対して[[住民票]]における世帯主との続柄記載は、1995年3月に行政の責任において一律に「子」と更正されている)


==== 立法上の課題 ====
=== 「嫡出子」「非嫡出子」という用語に対する批判 ===
日本において[[明治]]時代初期に制定された[[民法]]は、現代の生殖医療技術による子の出産をまったく予定しておらず、もはや従来の法解釈だけでは到底対応できなくなっており、いかなる生殖補助医療まで許されるか、親子関係の決定の基準など解決すべき問題も多いとされ、これらの点について立法措置による明確化が必要と考えられている<ref>佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、55頁</ref><ref>千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、86-87頁</ref><ref>中川善之助・米倉明編著 『新版 注釈民法〈23〉親族 3』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、2004年12月、182-183頁</ref>。
「嫡出子」という言葉には「正妻から生まれた正統な子」であるという意味合いが込められており、対照的に「非嫡出子」という言葉には「婚姻関係から生まれなかった正統でない子」という意味合いが込められることとなる。さらに「非嫡出子」という文言は、法文上も出てこない表現である。これら用語法は、婚姻関係にない男女から生まれた子に対する偏見を強める差別的ものであり、「婚内子」「婚外子」といった用語法の方が好ましいとされる。


また、[[血液型]]や[[DNA鑑定]]などの血縁上の親子関係の鑑定技術が向上する中で、法律上の親子関係について、血縁上の親子関係との一致を重視すべきか、養育の事実と本人の意思を基礎とする外観的な親子関係の保護を重視すべきか、今後の立法において特に重大な課題とされる<ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、130-131頁</ref>。
=== 各国の非嫡出子 ===
2003年度の各国の非嫡出子の割合は、[[アイスランド]] 63.6 %、[[スウェーデン]] 56 %、[[ノルウェー]] 50 %、[[デンマーク]] 44 %、[[イギリス]] 43 %、[[アメリカ]] 33 %、[[オランダ]] 31 %、[[イタリア]] 10 % となっている。これらは各国で2006年現在も上昇傾向にある。中でも、婚外子が過半数を占める[[フランス]]やスウェーデンでは「親の様々な生き方を認める」観点から、非嫡出子は嫡出子と法的には等しくなっている。


=== 推定される嫡出子 ===
日本の非嫡出子の割合は 1.93 % であり、上記の欧米諸国より著しく低い。
==== 父性の推定と嫡出性の推定 ====
[[b:民法第772条|772条]]1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と規定する。この規定は'''父性の推定'''(子の父が誰かについての推定)の規定である<ref name="sato57"/>。一方、[[b:民法第774条|774条]]は「第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる」として[[嫡出否認]]の訴えについて定めているが、これは772条により嫡出性が推定されることを前提としているものと考えられている。このようなことから、772条は父性の推定のみならず、嫡出性付与について定めた規定という二つの意味を持つ<ref name="#1"/>(本条については父性の推定、嫡出性付与、嫡出否認の訴えの前提としての[[嫡出推定]]の三つの要素を有すると構成する見解もある<ref name="endo162">遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、162頁</ref>)。


本条の父性推定は、母の夫が子の父であろう蓋然性が極めて高い点に根拠を置くもので<ref name="sato58">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、58頁</ref>、本条による推定を受ける子を'''推定される嫡出子'''(嫡出推定を受ける嫡出子)と呼ぶ<ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、115頁</ref>。
=== 民法772条の問題点 ===
上記のとおり、嫡出子の推定については[[b:民法第772条|772条]]で婚姻成立の日から200日以後婚姻解消・取消しの300日以内とされているため、離婚後300日以内に前夫以外の者を父とする子どもが生まれた場合、この子は前夫の子と推定される。これは戸籍窓口で推定規定に反する者を父とする[[出生届]]の受理を認めてられていないうえ、女性が前夫との関わりを避けたい場合には出生届を提出しないため、結果として無戸籍の子を生じているとの問題が指摘されている([[離婚後300日問題]])。


772条の推定は[[法律上の推定]]であり、嫡出否認の訴えによってのみ覆すことができる<ref name="endo162"/>。このように父性の推定を覆すためには嫡出否認の訴えによることとなるが、これとは別に[[DNA鑑定]]によって父性の推定を覆すことができるか争いがあるが、2014年7月の最高裁の判例では子どもの身分の法的安定性という観点から、父子以外の血縁関係がDNA鑑定で証明されても、その事実をもって戸籍上の父との親子関係を取り消すことはできないとして、嫡出推定の規定はDNA鑑定に優先するとの判断を示した<ref name="nikkei20140717"/>。
2007年(平成19年)5月7日付の法務省民事局長通達では、5月21日以降は婚姻の解消または取消し後300日以内に生まれた子のうち、離婚後の妊娠であるという医師の証明書を添えて出生届を提出すれば、772条の推定が及ばないものとして取り扱われるとされている。しかし遺伝上の父を父とする出生届を受理しないという戸籍運用であることには変わりはなく、結婚生活が事実上破綻していても婚姻継続中に妊娠した場合には依然として離婚後300日問題が残っている。


なお、2013年12月の最高裁の判例ではこの父性推定は[[性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律]]により女性から男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた夫について、妻との性的関係の結果もうけた子でなくても及ぶとした(最決平25・12・10)。
このような場合、出産した新生児と前夫との親子関係を否定するためには審判が必要であるが、出生届の提出前に遺伝上の父に対して[[認知]]を求める訴えを提起することは出来ない<ref> デイリースポーツが2010年3月28日に配信したニュースによれば、芸能人の[[爆笑問題]]の[[田中裕二 (爆笑問題)|田中裕二]]が、離婚した前妻が婚姻継続中に妊娠した第三者が父親の胎児について、田中の実子として出生届が出された後に[[家庭裁判所]]にDNA鑑定結果を提出し田中と元妻との間の嫡出子ではないと法律上確定させる手続きをとると報道した。</ref>ため、出生届提出後に前夫ないし前妻が嫡出子否認の訴えを提起するしかない。

==== 懐胎時期の推定と離婚後300日問題 ====
<!--一般には婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもは婚姻中の夫婦間にできた子(嫡出子)と推定されるため,仮に他の男性との間に生まれた子どもであっても出生届を提出すると夫との間の子どもとして戸籍に入籍することになる<ref>{{Cite web |url=https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_15/index.html |title=嫡出否認調停 |access-date=2023-10-18 |publisher=裁判所}}</ref>。しかし、-->772条2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定する。懐胎時期が母の婚姻中であったことを証明しなければ父性推定が働かないとすると、父性推定の実質的意義が損なわれ、子の保護の点からも妥当でないことから、772条2項はこのような不都合を解消しようとする趣旨である<ref name="sato59">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、59頁</ref>。

本項はあくまでも懐胎時期の推定の規定で、父子関係存在の推定とは直接的には関係がなく、懐胎時期について具体的な立証があった場合には、その立証された懐胎時期を基準として父性の推定が生じるか否か判断される<ref name="sato59"/>。

しかし、かつて実務は、婚姻解消後300日以内に出生した子が出生証明書の妊娠月数からの逆算で、婚姻解消後に懐胎した子とみられる場合についても、嫡出でない子としての出生届は受理されなかったため(昭和24年9月5日民事甲1942号(二)337号民事局長回答)、離婚後300日以内に前夫以外の者を父とする子が生まれた場合には、722条2項により子は前夫の子と推定されることになって、実際の自然血縁関係と異なる結果を生じることとなってしまい、この推定を覆すためには前夫による嫡出否認の訴えが必要となる。この場合、女性が前夫との関わりを避けたい場合に出生届を提出しないことも多く、戸籍のない子などの社会問題([[離婚後300日問題]])を生じたため、現在の戸籍実務では医師の懐胎時期に関する証明によって772条の推定が及ばず、前夫の子としない出生届を提出することが可能となった(平成19年5月7日法務省民一第1007号民事局長通達)<ref name="takahashi116">高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、116頁</ref>。

ただし、事実上の離婚状態のまま事実上の[[再婚]]状態となり、出産に至った場合には、上の戸籍実務での救済はない<ref name="takahashi116"/>。

このような場合、出産した新生児と前夫との親子関係を否定するためには審判が必要であるが、出生届の提出前に遺伝上の父に対して[[認知 (親子関係)|認知]]を求める訴えを提起することは出来ない<ref group="注">『[[デイリースポーツ]]』が2010年3月28日に配信したニュースによれば、芸能人の[[爆笑問題]]の[[田中裕二 (お笑い芸人)|田中裕二]]が、離婚した前妻が婚姻継続中に妊娠した第三者が父親の胎児について、田中の実子として出生届が出された後に[[家庭裁判所]]にDNA鑑定結果を提出し、田中と元妻との間の嫡出子ではないと法律上確定させる手続きをとると報道した。</ref>ため、出生届提出後に原則として前夫が嫡出否認の訴えを提起するしかない。


なお、戸籍がなくとも[[住民票]]の交付、[[学校教育]]を受けることは可能であるが、[[パスポート]]の交付は受けられないため海外渡航は不可能である。
なお、戸籍がなくとも[[住民票]]の交付、[[学校教育]]を受けることは可能であるが、[[パスポート]]の交付は受けられないため海外渡航は不可能である。

==== 嫡出否認の訴え ====
実親子関係が成立するには自然血縁関係を必要とするが、父子関係の確認の困難さを回避するため、772条は父性を推定する規定を置いている<ref name="sato60">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、60頁</ref>。しかし、父性の推定が事実と異なる場合にこれを覆すため、嫡出否認の訴えを認める([[b:民法第774条|774条]])<ref name="sato60"/>。

家庭の平和の維持と子の地位の早期安定を図るため、嫡出否認の訴えには厳格な制限が設けられており<ref name="chida81"/>、出訴期間中に嫡出否認の訴えがない場合には親子関係は確定することになるが、不実の父子関係の確定を生じた場合の子の保護などの問題もあり、民法上の厳格な制限については議論がある<ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、119頁</ref>。

嫡出否認の訴えは父性の推定を覆すための訴えであるから、戸籍の届出・記載にかかわらず、また、別居後300日以内に生まれた子など、推定が及ぶ限り嫡出否認の訴えの対象となる(大判昭13・12・24民集17巻2533頁、最判平10・8・31判時1655号112頁)。
; 原告適格
: 否認権者は原則として夫のみである(774条)。母や子、真実の父に否認権はない<ref name="sato61">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、61頁</ref><ref name="chida79">千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、79頁</ref>。夫婦間の問題に第三者が介入すべきでないことを根拠とするが、立法論として妻子にも否認権を認めるべきではないかとの議論がある<ref name="endo162"/>。ただ、否認権者の拡大は結果として嫡出の否認の制度の否定につながるという点も問題とされる<ref name="sato61"/>。
; 否認の制限
: 夫が子の出生後に子が嫡出であることを承認したときは否認権を失う([[b:民法第776条|776条]])。「承認」の方法について民法に定めはなく、任意の方式で足りるとされている<ref name="sato60"/>。父として子の命名を行うことや、戸籍法上の義務として出生届を提出しただけでは「承認」にあたらない<ref name="takahashi118">高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、118頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、164-165頁</ref>。
; 被告適格
: 嫡出の否認は子又は親権を行う母に対する訴えにより、親権を行う母がいないときは特別代理人の選任を要する([[b:民法第775条|775条]])。胎児に対する訴えはできない<ref name="sato60"/>。また、子の死亡後は訴えを提起できないとされる(通説<ref name="sato62">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、62頁</ref>)。
; 提訴期間
: 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない([[b:民法第777条|777条]])。身分関係安定のためである(最判昭55・3・27判時970号151頁)。「夫が子の出生を知った時」とは妻が分娩した事実を知った時を指す(大判昭17・9・10法学12巻333頁)<ref name="sato62"/><ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、164頁</ref>。
: 提訴期間内に嫡出否認のないときは夫婦の子としての身分は確定的なものとなる<ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、120頁</ref>。
; 否認の効果
: 嫡出否認の判決が確定したときは、子の出生の時に遡って、子は夫の子でなく母の非嫡出子であったことが確認される<ref name="sato62"/>。

=== 推定されない嫡出子-嫡出子の範囲の拡張 ===
「嫡出子」は本来的には婚姻中に懐胎した子を指し、婚姻から200日以内に生まれた子については先述の772条2項の法律上の推定が及ばないことになるが、判例・実務は772条2項の推定を受けなくとも婚姻成立後に出生した子について嫡出子として扱い、その範囲を拡張している<ref name="sato57"/>。すなわち、772条2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定している関係上、婚姻から200日以内に生まれた子は嫡出の推定を受けず、かつて判例はこのような子は非嫡出子であるとし(大判明31・2・6新聞2957号6頁)<ref>中川善之助・米倉明編著 『新版 注釈民法〈23〉親族 3』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、2004年12月、179頁</ref>、父母が認知すれば準正によって嫡出子たる身分を取得するとしていた。しかし、このような法解釈は実際の生活感情と合致せず、子が生まれる直前に婚姻届が出された場合に不都合である<ref>我妻榮・有泉亨・川井健 『民法3 親族法・相続法 第二版』 勁草書房、2005年10月、133頁</ref>。また、当時の民法は死後認知を認めていなかったため、父が死亡した場合には嫡出子たる身分を取得できないという問題を生じていた<ref name="takahashi118"/>。その後、判例は内縁中に懐胎した子は内縁の夫の子であるとの事実上の推定を認め、内縁が先行する場合には、このような子も出生と同時に当然に父母の嫡出子となるとした(事実上の推定説、大連判昭15・1・23民集19巻54頁)。このような772条による嫡出の推定(法律上の推定)は受けないものの、出生によって嫡出子たる身分を取得する子を'''推定されない嫡出子'''(推定を受けない嫡出子)という<ref name="chida79"/><ref name="kawai58">川井健著 『民法概論5親族・相続』 有斐閣、2007年4月、58頁</ref>。

ただ、実務においては戸籍吏には内縁が先行していたかどうか判断する実質的審査権を持たないため 婚姻後に生まれた子はすべて嫡出子として受理することになっており(昭和15年4月8日民事甲432号民事局長通牒)、判例や学説もこれを支持する<ref>千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、79頁</ref><ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、168頁</ref>。なお、このような場合に他の男性が父である場合を考慮し、戸籍実務では母が婚姻成立後200日以内に出生した子について非嫡出子として出生届を出した場合においては、母の非嫡出子として受理することになっている(昭和26年6月27日民事甲1332号回答)<ref name="takahashi118"/>。

推定されない嫡出子ついては、民法772条類推適用説もあるが、通説・判例は事実上の推定説をとっており、親子関係を争う場合には嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えによるべきとする(最判昭41・2・15民集20巻2号202頁)<ref name="kawai58"/>

民法上には「嫡出子」について直接的に定義した規定がなく、嫡出子とは具体的にどのような子を指すのか必ずしも明確でないが<ref name="sato72">佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、72頁</ref>、772条や774条の条文からは父母の婚姻中に懐胎した子を意味していると解され<ref name="sato72"/>、本来、「嫡出子」の語は父母の婚姻後に懐胎された子を意味していたが、その後、子の保護の観点から先述のような内縁関係の先行による「推定されない嫡出子」にも概念が拡張された結果、現在では懐胎時期にかかわらず父母の婚姻後に出生した子を指す語となっているとされる<ref name="sato57"/>。

=== 推定の及ばない子-嫡出子の範囲の制限 ===
嫡出の推定が強く認められ、嫡出否認の訴えにも厳格な制限が設けられている関係上、嫡出推定を画一的に適用すると真実と異なる結果を招きやすくなることから'''推定の及ばない子'''の概念が導入されている<ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、165頁</ref>。すなわち婚姻中に懐胎した子は772条によって父性の推定を受けるはずだが、妻の懐胎時に夫が在監・失踪・行方不明・長期間の別居などのため明らかに夫の子ではないときには父性推定は及ばない(通説<ref name="sato58"/><ref name="chida79"/><ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、121頁</ref>。判例として最判昭44・5・29民集23巻6号1064頁、このほか嫡出の推定が及ばないとした判例として、妊娠したとみられる時期に夫が出征していた場合につき最判平成10年8月31日判時1655号128頁)。

このような状態において懐胎した子のことを、'''推定の及ばない子'''(推定の及ばない嫡出子、表見嫡出子)と呼ぶ<ref name="sato58"/><ref name="chida79"/>。なお、実質は非嫡出子であるから「推定の及ばない嫡出子」と呼ぶのは不適当で、「推定の及ばない子」と呼ぶべきとする論もある<ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、166頁</ref>。

推定の及ばない子(表見嫡出子)の範囲については、外観説(婚姻関係が破綻していたなど、外観上、夫の子でないことが明らかな場合に限る)、血縁説(血液型などから実質的に親子関係が否定される場合を含む)、家庭平和説・家庭破綻説(家庭が平和な状態にあるときは外観にとどめ、破綻状態にあるときは血縁という事実によるべきで家庭の状態により区別すべきとする説)などがある<ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、122-123頁</ref>。最高裁の判例は外観説をとる(最判平10・8・31判時1655号128頁、最判平12・3・14家月52巻9号85頁)<ref name="takahashi116"/>。

ただし、夫婦間の子である可能性がある場合には、父性の推定が働かなくなると解すべきではないとされる(通説<ref name="sato59"/>、別居開始後9箇月余後に生まれた子について、婚姻の実態がないことが明らかでない以上嫡出推定が及ぶとした判例として最判平10・8・31判時1655号112頁(前掲判例と同日だがページ数が異なっている点に注意))。


なお、推定されない嫡出子(推定を受けない子)や推定の及ばない子については、772条の推定が働いてないことから嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えによるべきとされる<ref name="sato61"/><ref name="chida79"/>。確認の利益が認められれば誰からでも、[[b:民法第777条|777条]]の期間にかかわらず、いつでも提起できる。

=== 二重推定の問題 ===
772条2項の規定によれば、前婚の解消から300日以内でかつ再婚後200日後に生まれた子は、前婚の夫の子と後婚の夫の子の二重の推定を受けることになり、問題を生じる(ただし、[[b:民法第733条|733条]]の[[再婚禁止期間]]があるため、実際問題としては少ないとされる)<ref>高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、117頁</ref>。このような場合に備え、民法は[[b:民法第773条|773条]]で前条(772条)の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所がこれを定めると規定する。この訴えを'''父を定める訴え'''という。なお、773条は母親が重婚状態にあるときに懐胎した子に準用すべきとされる<ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、167頁</ref>。

=== 準正嫡出子 ===
[[準正]]とは嫡出でない子に嫡出子としての地位を与えることをいい([[b:民法第789条|民法789条]])<ref name="sato72"/>、'''婚姻準正'''([[b:民法第789条|789条]]1項)と'''認知準正'''([[b:民法第789条|789条]]2項)がある。

{{see also|準正}}

==== 婚姻による準正 ====
父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する([[b:民法第789条|民法789条]]1項)。これを婚姻準正という<ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、190-191頁</ref>。

==== 認知による準正 ====
婚姻中、父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する([[b:民法第789条|民法789条]]2項)。これを認知準正という<ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、191頁</ref>。

法文では「父母が」となっているが、先述のように母子関係は分娩の事実により当然に発生するので、母の認知は原則として必要でない(当然発生説。通説・判例。判例として最判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)<ref name="endo172"/><ref name="sato56"/>。

法文では認知の効力の始期について「認知の時から」となっているが、民法には非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1であるとする規定([[b:民法第900条|900条]]4号)があり、父の死後の強制認知の場合において認知時に効力が発生すると解すると、相続時(父の死亡時)には嫡出子としてではなく非嫡出子としての[[法定相続分]]を取得するにすぎないことになる。そのため子の保護の観点から、認知による準正の場合にも婚姻時に準正の効果を生じるものと解され(通説)、実務でもそのように扱われていた(昭和42年([[1967年]])[[3月8日]]民甲第373号民事局長回答)<ref>川井健著 『民法概論5親族・相続』 有斐閣、2007年4月、69頁</ref>。なお、先述のようにその後、2013年9月4日に民法第900条4号の規定そのものについて、最高裁[[大法廷]]が違憲判断を下すに至り、平成25年12月11日法律第94号により民法900条4号は改正されている。

== 各国における状況 ==
=== 法律面の状況 ===
法律上に婚外子の相続分差別規定を設けている国はフィリピンがあり、人権面からの批判がある<ref>[http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/bessei_kongaisi_FAQ.pdf 選択的夫婦別姓・婚外子の相続分差別Q&A]</ref>。

=== 非嫡出子(婚外子)の割合 ===
2016年の欧州で誕生した新生児のうち非嫡出子の割合が高かった国は、[[アイスランド]](69.6%)、[[フランス]](59.7%)、[[ブルガリア]]および[[スロベニア]](58.6%)、[[ノルウェー]](56.2%)、[[エストニア]](56.1%)、[[スウェーデン]](54.9%)、[[デンマーク]](54.0%)、[[ポルトガル]](52.8%)であった。一方、[[トルコ]](2.9%)、[[ギリシャ]](9.4%)、[[マケドニア]](12.0%)、[[ベラルーシ]](13.3%)など割合の低い国も存在する<ref>{{Cite web|和書|date=2018-04-19 |url= http://japanese.donga.com/List/3/all/27/1290839/1|title= 結婚の没落?…欧州10ヵ国で婚外出産が全新生児数の半分以上|publisher= 東亜日報|accessdate=2018-04-20}}</ref>。なお、日本の非嫡出子の割合は 約2%台となっている。日本(2.3%)、韓国(1.9%)と東アジアは低い部類に入る(中野信子 『不倫』 文春新書 2018年 164頁)。

{| class="wikitable"
|+
!国名
!割合(2016年)<ref>[http://www.oecd.org/els/family/database.htm OECD Family Database - OECD]</ref>
|-
|チリ
|72.7%
|-
|アイスランド
|69.6%
|-
|メキシコ
|67.1%
|-
|フランス
|59.7%
|-
|スロベニア
|58.6%
|-
|ブルガリア
|58.6%
|-
|ノルウェー
|56.2%
|-
|エストニア
|56.1%
|-
|スウェーデン
|54.9%
|-
|デンマーク
|54.0%
|-
|ポルトガル
|52.8%
|-
|オランダ
|50.4%
|-
|ベルギー
|49.0%
|-
|チェコ
|47.7%
|-
|イギリス
|47.7%
|-
|ハンガリー
|46.7%
|-
|ニュージーランド
|45.9%
|-
|スペイン
|45.9%
|-
|フィンランド
|44.9%
|-
|オーストリア
|42.2%
|-
|アメリカ
|39.8%
|-
|アイルランド
|36.7%
|-
|ドイツ
|35.5%
|-
|オーストラリア
|34.0%
|-
|カナダ
|33.9%
|-
|イタリア
|31.5%
|-
|ポーランド
|25.0%
|-
|スイス
|24.2%
|-
|クロアチア
|18.9%
|-
|ギリシャ
|9.4%
|-
|イスラエル
|6.8%
|-
|トルコ
|2.9%
|-
|日本
|2.3%
|-
|韓国
|1.9%
|}


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references/>
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{reflist|2}}


== 関連書籍 ==
== 関連書籍 ==
* 共著『社会学入門(新版)』有斐閣、pp.38(袖井孝子執筆部分)
* 共著『社会学入門(新版)』有斐閣、pp.38(袖井孝子執筆部分)
* 久々湊晴夫ほか共著(2003/3)『やさしい家族法』成文堂、 pp.117-146
* 久々湊晴夫ほか共著(2003年3月)『やさしい家族法』成文堂、 pp.117-146
* 内田貴 (2002/7)『民法IV 親族・相続法』 東京大学出版会、 pp.163-208
* 内田貴(2002年7月)『民法IV 親族・相続法』 東京大学出版会、 pp.163-208
* 民法改正を考える会『よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて』朝陽会、2010年
* 日本弁護士連合会編『今こそ変えよう! 家族法―婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える』日本加除出版、2011年


==参照==
== 外部リンク ==
*推定 - [https://gendai.media/articles/-/67001 小泉進次郎は「父ではない」…できちゃった婚の「意外なリスク」(井戸 まさえ) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)]
* [http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI45/refer01.html 嫡出でない子の「父母との続柄」欄の記載方法の改善(骨子)]
* [http://www.moj.go.jp/MINJI/minji66.html 戸籍における嫡出でない子の父母との続柄欄の記載の変更について(法務省)]
*[http://archive.mag2.com/M0074991/20101126181000000.html 民法出でて平等亡ぶか?]


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[婚姻]]
* [[結婚|婚姻]]
* [[相続]]
* [[相続]]
* [[父親]]
* [[父親]]
* [[精子バンク]]
* [[精子バンク]]
* [[嫡男|嫡子]]
* [[嫡男]]
* [[庶子]]
* [[庶子]]
* [[事実婚]]
* [[夫婦別姓]]
=== 判例 ===
* [[婚外子相続差別訴訟]]
* [[婚外子国籍訴訟]]
* [[児童扶養手当法施行令事件]]


== 外部リンク ==
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* [https://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI45/refer01.html 嫡出でない子の「父母との続柄」欄の記載方法の改善(骨子)]
* [https://www.moj.go.jp/MINJI/minji66.html 戸籍における嫡出でない子の父母との続柄欄の記載の変更について(法務省)]

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2024年12月14日 (土) 09:06時点における最新版

嫡出(ちゃくしゅつ[注 1])とは、婚姻関係にある男女(夫婦)から生まれること。対義語は「庶出」である[1]

実子の嫡出子には、出生と同時に嫡出の身分を取得する「生来嫡出子」のほか、準正によって嫡出子となる「準正嫡出子」がある。

なお、法定親子関係である養子は法律上の血縁関係が擬制され縁組の日から嫡出子の身分を取得する(民法第809条。養親子関係については養子を参照)。

「嫡出」という語は「正統」という意味を持ち、「庶出」という語は「異端」という意味を持っている。子は生まれの正統や異端を選べないのに、子を「庶出」「異端」呼ばわりして蔑むのは誤った行為だという批判もあり[2]、近年では「嫡出子」を「婚内子」、「非嫡出子」を「婚外子」と称する場合もある。

日本の法制においては婚姻の有無とは関係なく血族関係は発生するが、ただし、後に述べられるように非嫡出子において父子関係が発生するためには認知を要する(779条784条[注 2][3]

嫡出の法理

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歴史的には、子が社会的にその存在を公認されるためには、婚姻関係にある男女から生まれることが重要な意味を持つとされた(嫡出の法理)。嫡出子とは婚姻関係にある男女間に生まれた子をいい[4]非嫡出子とは婚姻関係にない男女間に生まれた子をいう[5]

1942年以前の日本の民法(明治民法)は、養子でない子を『嫡出子』、『庶子』(婚姻外で生まれ父が認知した子)、『私生子』(婚姻外で生まれ父の認知を受けない子)の三つに分け、私生子より庶子を優遇し、庶子より嫡出子を優遇していた[6]。この年2月12日の改正で私生子と庶子を併せて「嫡出ニ非サル子」という表現に改めた[7][5]。現行の条文で嫡出子の語は残るが非嫡出子はなく、「嫡出でない子」と表現される。

これらの区別は法律婚を重んじる趣旨とされるが、親も選べず、生まれの流派も選べない子供の立場を擁護する観点からは厭わしいと見て問題点も指摘されている[8]。歴史的に見ると、西洋では、非嫡出子は"nobody's child"(何人の子にもあらざる子)や"illegitimate child"(庶出の子供、規則違反の子供)と呼ばれてたりしてきたが、近年では子供を尊重する立場から"illegitimate"という語は廃れ、"extramarital"(結婚外)という語が使用されている。

日本では、家制度との関係においては比較的優遇されてきたとされる[5]。しかし、日本でも婚外子は「私生児」として軽蔑され差別されてきた。そして、「私生児」という語が廃れた現在でも、全出生児に対する婚姻外出生児の割合は低い[9]

現代の欧米諸国では、非嫡出子も嫡出子とほとんど同じ法律上の地位が認められるに至っている。しかし日本においては、現行の日本民法の民法第900条第4号の法定相続分の規定などに差別があるとして議論されてきた[5]。民法900条第4号については、2013年9月4日に最高裁判所がこの規定が違憲であるとの判断を下した[10]。そして、この最高裁決定を受けて、平成25年12月11日法律第94号により民法900条4号は改正されている。

日本の私法(民法)における嫡出

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  • 以下、民法については、条名のみ記す。

概説

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嫡出の子を「嫡出子」、嫡出でない子を「非嫡出子」(法文上は「嫡出でない子」と表現される)という。先述のように、実子の嫡出子には出生と同時に嫡出の身分を取得する「生来嫡出子」と準正によって嫡出子となる「準正嫡出子」があり、また、法定親子関係である養子は法律上の血縁関係が擬制され、縁組の日から嫡出子の身分を取得する(809条。養親子関係については養子を参照)。

本来、「嫡出子」は婚姻関係にある男女から生まれた子(婚姻中に懐胎した子)を意味するが、後に述べる772条の嫡出の推定及び懐胎時期の推定の法解釈との関係から、従来の「嫡出子」の範囲は実質的に修正を受けており[11]、講学上において子は、推定される嫡出子推定されない嫡出子推定の及ばない子に区分されている[8]

嫡出子と非嫡出子の差異

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非嫡出子は嫡出子と比較して、法律上において一定の差異がある[9]

  1. 父子関係の成立
    嫡出子は母の夫が父であると推定されるが(772条)、非嫡出子の父子関係は父の認知によって成立する(779条)。なお、母子関係については後述の通り、通常、懐胎・分娩という事実から当然に発生する(判例として最判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)。
  2. 親権
    嫡出子の親権は父母が共同で行うが(818条)、非嫡出子の親権は母が単独で行う。ただし父が認知し、父母の協議によって父を親権者と定めることができる(819条4項)。
  3. 嫡出子は父母の氏を称するが(790条1項)、非嫡出子は母の氏を称する(同条2項)。父の氏への変更は家庭裁判所の許可により可能で(791条1項)、このとき子は父の戸籍に入る。

なお、2013年12月の民法一部改正(平成25年12月11日法律第94号)までは非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする規定(旧・900条4号)が設けられていた。しかし、この規定については2013年9月4日に最高裁大法廷によって違憲判断が下された(婚外子相続差別訴訟)。

戸籍での記載

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戸籍の父母との続柄欄において嫡出子は「長男」「長女」のように記載されるが、2004年(平成16年)11月1日までは非嫡出子は「男」「女」と記載された(戸籍法施行規則33条1項および附録6号)。東京地裁平成16年3月2日判決(訟務月報51巻3号549頁)は、当時の続柄欄の記載は戸籍制度の目的との関連で必要性の程度を越えており、プライバシー権を害しているとの判断を示した。そこで、同規則が2004年(平成16年)11月1日より改正され、それ以降に非嫡出子出生の届出がされた場合、嫡出子と同様の「長男」「長女」といった記載がなされることとなった。ただし、既に「男」「女」と記載されているものに関しては、当事者の申請によってはじめて更正され、また除籍等については申請しても更正を拒否されるなど、問題が多いと指摘されている(これに対して住民票における世帯主との続柄記載は、1995年3月に行政の責任において一律に「子」と更正されている)。

嫡出と親子関係

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母子関係

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779条によると、非嫡出子と母の間の母子関係にも認知が必要ともとれるが(要認知説)、現在の通説・判例では、通常、自然血縁上の母子関係は懐胎分娩という事実から明確することができ、認知という特別の法手段を待つ必要はないとされる(当然発生説。判例として最判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)[5][12]。したがって、779条は母の認知に関しては、棄児迷子など懐胎・分娩の事実が立証不可能の場合に限り機能する規定ということになる[12]。通常、母子関係については分娩によって当然に発生することから、子は母の認知にかかわりなく母子関係の存在について確認の訴えを提起できる(判例として最判昭49・3・29家月26巻8号47頁)。ただし、分娩と母子関係については代理母のような特殊な場合も生じており、立法上の問題となっている[13]。現行法のもとでは、代理母による出産は卵子を提供した者の子ではなく代理母の子として取り扱われることになる(最決平19・3・23民集61巻2号619頁)。

父子関係

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母子関係に比して、父子関係の証明は難しい問題とされる[14]。非嫡出子の場合に法律上の父子関係を生じるには、父の認知が必要とされる(779条784条)。ただし、子供の母が別の男性と結婚しており、後に述べる嫡出推定が働く場合、子供はその夫婦の嫡出子となるので、嫡出否認の訴えが認められるまで認知できない。

父子関係の証明の問題に関連してDNA鑑定による親子鑑定が取り上げられることがあるが、プライバシー保護の観点から諸外国でもこれに慎重な立法例が多いとされ、日本の今後の立法においても遺伝子分析による鑑定のあり方について十分な検討が必要と指摘されている[15]

2014年7月の最高裁の判例では父子以外の血縁関係がDNA鑑定で証明されても、それを理由として戸籍上の父との親子関係を取り消すことはできないとして、嫡出推定の規定はDNA鑑定に優先するとの判断を示した[16]

立法上の課題

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日本において明治時代初期に制定された民法は、現代の生殖医療技術による子の出産をまったく予定しておらず、もはや従来の法解釈だけでは到底対応できなくなっており、いかなる生殖補助医療まで許されるか、親子関係の決定の基準など解決すべき問題も多いとされ、これらの点について立法措置による明確化が必要と考えられている[17][18][19]

また、血液型DNA鑑定などの血縁上の親子関係の鑑定技術が向上する中で、法律上の親子関係について、血縁上の親子関係との一致を重視すべきか、養育の事実と本人の意思を基礎とする外観的な親子関係の保護を重視すべきか、今後の立法において特に重大な課題とされる[20]

推定される嫡出子

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父性の推定と嫡出性の推定

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772条1項は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と規定する。この規定は父性の推定(子の父が誰かについての推定)の規定である[11]。一方、774条は「第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる」として嫡出否認の訴えについて定めているが、これは772条により嫡出性が推定されることを前提としているものと考えられている。このようなことから、772条は父性の推定のみならず、嫡出性付与について定めた規定という二つの意味を持つ[14](本条については父性の推定、嫡出性付与、嫡出否認の訴えの前提としての嫡出推定の三つの要素を有すると構成する見解もある[21])。

本条の父性推定は、母の夫が子の父であろう蓋然性が極めて高い点に根拠を置くもので[22]、本条による推定を受ける子を推定される嫡出子(嫡出推定を受ける嫡出子)と呼ぶ[23]

772条の推定は法律上の推定であり、嫡出否認の訴えによってのみ覆すことができる[21]。このように父性の推定を覆すためには嫡出否認の訴えによることとなるが、これとは別にDNA鑑定によって父性の推定を覆すことができるか争いがあるが、2014年7月の最高裁の判例では子どもの身分の法的安定性という観点から、父子以外の血縁関係がDNA鑑定で証明されても、その事実をもって戸籍上の父との親子関係を取り消すことはできないとして、嫡出推定の規定はDNA鑑定に優先するとの判断を示した[16]

なお、2013年12月の最高裁の判例ではこの父性推定は性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律により女性から男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた夫について、妻との性的関係の結果もうけた子でなくても及ぶとした(最決平25・12・10)。

懐胎時期の推定と離婚後300日問題

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772条2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定する。懐胎時期が母の婚姻中であったことを証明しなければ父性推定が働かないとすると、父性推定の実質的意義が損なわれ、子の保護の点からも妥当でないことから、772条2項はこのような不都合を解消しようとする趣旨である[24]

本項はあくまでも懐胎時期の推定の規定で、父子関係存在の推定とは直接的には関係がなく、懐胎時期について具体的な立証があった場合には、その立証された懐胎時期を基準として父性の推定が生じるか否か判断される[24]

しかし、かつて実務は、婚姻解消後300日以内に出生した子が出生証明書の妊娠月数からの逆算で、婚姻解消後に懐胎した子とみられる場合についても、嫡出でない子としての出生届は受理されなかったため(昭和24年9月5日民事甲1942号(二)337号民事局長回答)、離婚後300日以内に前夫以外の者を父とする子が生まれた場合には、722条2項により子は前夫の子と推定されることになって、実際の自然血縁関係と異なる結果を生じることとなってしまい、この推定を覆すためには前夫による嫡出否認の訴えが必要となる。この場合、女性が前夫との関わりを避けたい場合に出生届を提出しないことも多く、戸籍のない子などの社会問題(離婚後300日問題)を生じたため、現在の戸籍実務では医師の懐胎時期に関する証明によって772条の推定が及ばず、前夫の子としない出生届を提出することが可能となった(平成19年5月7日法務省民一第1007号民事局長通達)[25]

ただし、事実上の離婚状態のまま事実上の再婚状態となり、出産に至った場合には、上の戸籍実務での救済はない[25]

このような場合、出産した新生児と前夫との親子関係を否定するためには審判が必要であるが、出生届の提出前に遺伝上の父に対して認知を求める訴えを提起することは出来ない[注 3]ため、出生届提出後に原則として前夫が嫡出否認の訴えを提起するしかない。

なお、戸籍がなくとも住民票の交付、学校教育を受けることは可能であるが、パスポートの交付は受けられないため海外渡航は不可能である。

嫡出否認の訴え

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実親子関係が成立するには自然血縁関係を必要とするが、父子関係の確認の困難さを回避するため、772条は父性を推定する規定を置いている[26]。しかし、父性の推定が事実と異なる場合にこれを覆すため、嫡出否認の訴えを認める(774条[26]

家庭の平和の維持と子の地位の早期安定を図るため、嫡出否認の訴えには厳格な制限が設けられており[9]、出訴期間中に嫡出否認の訴えがない場合には親子関係は確定することになるが、不実の父子関係の確定を生じた場合の子の保護などの問題もあり、民法上の厳格な制限については議論がある[27]

嫡出否認の訴えは父性の推定を覆すための訴えであるから、戸籍の届出・記載にかかわらず、また、別居後300日以内に生まれた子など、推定が及ぶ限り嫡出否認の訴えの対象となる(大判昭13・12・24民集17巻2533頁、最判平10・8・31判時1655号112頁)。

原告適格
否認権者は原則として夫のみである(774条)。母や子、真実の父に否認権はない[28][29]。夫婦間の問題に第三者が介入すべきでないことを根拠とするが、立法論として妻子にも否認権を認めるべきではないかとの議論がある[21]。ただ、否認権者の拡大は結果として嫡出の否認の制度の否定につながるという点も問題とされる[28]
否認の制限
夫が子の出生後に子が嫡出であることを承認したときは否認権を失う(776条)。「承認」の方法について民法に定めはなく、任意の方式で足りるとされている[26]。父として子の命名を行うことや、戸籍法上の義務として出生届を提出しただけでは「承認」にあたらない[30][31]
被告適格
嫡出の否認は子又は親権を行う母に対する訴えにより、親権を行う母がいないときは特別代理人の選任を要する(775条)。胎児に対する訴えはできない[26]。また、子の死亡後は訴えを提起できないとされる(通説[32])。
提訴期間
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(777条)。身分関係安定のためである(最判昭55・3・27判時970号151頁)。「夫が子の出生を知った時」とは妻が分娩した事実を知った時を指す(大判昭17・9・10法学12巻333頁)[32][33]
提訴期間内に嫡出否認のないときは夫婦の子としての身分は確定的なものとなる[34]
否認の効果
嫡出否認の判決が確定したときは、子の出生の時に遡って、子は夫の子でなく母の非嫡出子であったことが確認される[32]

推定されない嫡出子-嫡出子の範囲の拡張

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「嫡出子」は本来的には婚姻中に懐胎した子を指し、婚姻から200日以内に生まれた子については先述の772条2項の法律上の推定が及ばないことになるが、判例・実務は772条2項の推定を受けなくとも婚姻成立後に出生した子について嫡出子として扱い、その範囲を拡張している[11]。すなわち、772条2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定している関係上、婚姻から200日以内に生まれた子は嫡出の推定を受けず、かつて判例はこのような子は非嫡出子であるとし(大判明31・2・6新聞2957号6頁)[35]、父母が認知すれば準正によって嫡出子たる身分を取得するとしていた。しかし、このような法解釈は実際の生活感情と合致せず、子が生まれる直前に婚姻届が出された場合に不都合である[36]。また、当時の民法は死後認知を認めていなかったため、父が死亡した場合には嫡出子たる身分を取得できないという問題を生じていた[30]。その後、判例は内縁中に懐胎した子は内縁の夫の子であるとの事実上の推定を認め、内縁が先行する場合には、このような子も出生と同時に当然に父母の嫡出子となるとした(事実上の推定説、大連判昭15・1・23民集19巻54頁)。このような772条による嫡出の推定(法律上の推定)は受けないものの、出生によって嫡出子たる身分を取得する子を推定されない嫡出子(推定を受けない嫡出子)という[29][37]

ただ、実務においては戸籍吏には内縁が先行していたかどうか判断する実質的審査権を持たないため 婚姻後に生まれた子はすべて嫡出子として受理することになっており(昭和15年4月8日民事甲432号民事局長通牒)、判例や学説もこれを支持する[38][39]。なお、このような場合に他の男性が父である場合を考慮し、戸籍実務では母が婚姻成立後200日以内に出生した子について非嫡出子として出生届を出した場合においては、母の非嫡出子として受理することになっている(昭和26年6月27日民事甲1332号回答)[30]

推定されない嫡出子ついては、民法772条類推適用説もあるが、通説・判例は事実上の推定説をとっており、親子関係を争う場合には嫡出否認の訴えではなく親子関係不存在確認の訴えによるべきとする(最判昭41・2・15民集20巻2号202頁)[37]

民法上には「嫡出子」について直接的に定義した規定がなく、嫡出子とは具体的にどのような子を指すのか必ずしも明確でないが[40]、772条や774条の条文からは父母の婚姻中に懐胎した子を意味していると解され[40]、本来、「嫡出子」の語は父母の婚姻後に懐胎された子を意味していたが、その後、子の保護の観点から先述のような内縁関係の先行による「推定されない嫡出子」にも概念が拡張された結果、現在では懐胎時期にかかわらず父母の婚姻後に出生した子を指す語となっているとされる[11]

推定の及ばない子-嫡出子の範囲の制限

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嫡出の推定が強く認められ、嫡出否認の訴えにも厳格な制限が設けられている関係上、嫡出推定を画一的に適用すると真実と異なる結果を招きやすくなることから推定の及ばない子の概念が導入されている[41]。すなわち婚姻中に懐胎した子は772条によって父性の推定を受けるはずだが、妻の懐胎時に夫が在監・失踪・行方不明・長期間の別居などのため明らかに夫の子ではないときには父性推定は及ばない(通説[22][29][42]。判例として最判昭44・5・29民集23巻6号1064頁、このほか嫡出の推定が及ばないとした判例として、妊娠したとみられる時期に夫が出征していた場合につき最判平成10年8月31日判時1655号128頁)。

このような状態において懐胎した子のことを、推定の及ばない子(推定の及ばない嫡出子、表見嫡出子)と呼ぶ[22][29]。なお、実質は非嫡出子であるから「推定の及ばない嫡出子」と呼ぶのは不適当で、「推定の及ばない子」と呼ぶべきとする論もある[43]

推定の及ばない子(表見嫡出子)の範囲については、外観説(婚姻関係が破綻していたなど、外観上、夫の子でないことが明らかな場合に限る)、血縁説(血液型などから実質的に親子関係が否定される場合を含む)、家庭平和説・家庭破綻説(家庭が平和な状態にあるときは外観にとどめ、破綻状態にあるときは血縁という事実によるべきで家庭の状態により区別すべきとする説)などがある[44]。最高裁の判例は外観説をとる(最判平10・8・31判時1655号128頁、最判平12・3・14家月52巻9号85頁)[25]

ただし、夫婦間の子である可能性がある場合には、父性の推定が働かなくなると解すべきではないとされる(通説[24]、別居開始後9箇月余後に生まれた子について、婚姻の実態がないことが明らかでない以上嫡出推定が及ぶとした判例として最判平10・8・31判時1655号112頁(前掲判例と同日だがページ数が異なっている点に注意))。


なお、推定されない嫡出子(推定を受けない子)や推定の及ばない子については、772条の推定が働いてないことから嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えによるべきとされる[28][29]。確認の利益が認められれば誰からでも、777条の期間にかかわらず、いつでも提起できる。

二重推定の問題

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772条2項の規定によれば、前婚の解消から300日以内でかつ再婚後200日後に生まれた子は、前婚の夫の子と後婚の夫の子の二重の推定を受けることになり、問題を生じる(ただし、733条再婚禁止期間があるため、実際問題としては少ないとされる)[45]。このような場合に備え、民法は773条で前条(772条)の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所がこれを定めると規定する。この訴えを父を定める訴えという。なお、773条は母親が重婚状態にあるときに懐胎した子に準用すべきとされる[46]

準正嫡出子

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準正とは嫡出でない子に嫡出子としての地位を与えることをいい(民法789条[40]婚姻準正789条1項)と認知準正789条2項)がある。

婚姻による準正

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父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する(民法789条1項)。これを婚姻準正という[47]

認知による準正

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婚姻中、父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する(民法789条2項)。これを認知準正という[48]

法文では「父母が」となっているが、先述のように母子関係は分娩の事実により当然に発生するので、母の認知は原則として必要でない(当然発生説。通説・判例。判例として最判昭37・4・27民集16巻7号1247頁)[5][12]

法文では認知の効力の始期について「認知の時から」となっているが、民法には非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1であるとする規定(900条4号)があり、父の死後の強制認知の場合において認知時に効力が発生すると解すると、相続時(父の死亡時)には嫡出子としてではなく非嫡出子としての法定相続分を取得するにすぎないことになる。そのため子の保護の観点から、認知による準正の場合にも婚姻時に準正の効果を生じるものと解され(通説)、実務でもそのように扱われていた(昭和42年(1967年3月8日民甲第373号民事局長回答)[49]。なお、先述のようにその後、2013年9月4日に民法第900条4号の規定そのものについて、最高裁大法廷が違憲判断を下すに至り、平成25年12月11日法律第94号により民法900条4号は改正されている。

各国における状況

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法律面の状況

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法律上に婚外子の相続分差別規定を設けている国はフィリピンがあり、人権面からの批判がある[50]

非嫡出子(婚外子)の割合

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2016年の欧州で誕生した新生児のうち非嫡出子の割合が高かった国は、アイスランド(69.6%)、フランス(59.7%)、ブルガリアおよびスロベニア(58.6%)、ノルウェー(56.2%)、エストニア(56.1%)、スウェーデン(54.9%)、デンマーク(54.0%)、ポルトガル(52.8%)であった。一方、トルコ(2.9%)、ギリシャ(9.4%)、マケドニア(12.0%)、ベラルーシ(13.3%)など割合の低い国も存在する[51]。なお、日本の非嫡出子の割合は 約2%台となっている。日本(2.3%)、韓国(1.9%)と東アジアは低い部類に入る(中野信子 『不倫』 文春新書 2018年 164頁)。

国名 割合(2016年)[52]
チリ 72.7%
アイスランド 69.6%
メキシコ 67.1%
フランス 59.7%
スロベニア 58.6%
ブルガリア 58.6%
ノルウェー 56.2%
エストニア 56.1%
スウェーデン 54.9%
デンマーク 54.0%
ポルトガル 52.8%
オランダ 50.4%
ベルギー 49.0%
チェコ 47.7%
イギリス 47.7%
ハンガリー 46.7%
ニュージーランド 45.9%
スペイン 45.9%
フィンランド 44.9%
オーストリア 42.2%
アメリカ 39.8%
アイルランド 36.7%
ドイツ 35.5%
オーストラリア 34.0%
カナダ 33.9%
イタリア 31.5%
ポーランド 25.0%
スイス 24.2%
クロアチア 18.9%
ギリシャ 9.4%
イスラエル 6.8%
トルコ 2.9%
日本 2.3%
韓国 1.9%

脚注

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注釈

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  1. ^ このほか常用漢字表の表外の音訓となるが「てきしゅつ」の読みもある(法令用語研究会 『有斐閣法律用語辞典』有斐閣、2006年、1005頁及び『法律学小辞典 第4版補訂版』2008年、905頁参照)
  2. ^ 母子関係は分娩の事実より自明である。
  3. ^ デイリースポーツ』が2010年3月28日に配信したニュースによれば、芸能人の爆笑問題田中裕二が、離婚した前妻が婚姻継続中に妊娠した第三者が父親の胎児について、田中の実子として出生届が出された後に家庭裁判所にDNA鑑定結果を提出し、田中と元妻との間の嫡出子ではないと法律上確定させる手続きをとると報道した。

出典

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  1. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、91頁
  2. ^ 二宮周平著 『家族と法』 岩波書店〈岩波新書〉、2007年10月、7頁
  3. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、91-92頁
  4. ^ 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、78頁
  5. ^ a b c d e f 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、172頁
  6. ^ 富岡康郎(梶康郎)『民法正義』第4巻(親族編)、松陽堂、1903年、116-117頁。梶康郎『六法釈義全書』(民法・商法・民事訴訟法・国際公法・経済学)、法曹閣、再版1924年、205-207頁。
  7. ^ 昭和17年法律第7号。国立公文書館デジタルアーカイブ「民法中改正法律・御署名原本・昭和十七年・法律第七号
  8. ^ a b 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、161頁
  9. ^ a b c 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、81頁
  10. ^ 「婚外子相続差別は違憲 最高裁大法廷」日本経済新聞 2013年9月4日
  11. ^ a b c d 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、57頁
  12. ^ a b c 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、56頁
  13. ^ 川井健著 『民法概論5親族・相続』 有斐閣、2007年4月、61頁
  14. ^ a b 中川善之助・米倉明編著 『新版 注釈民法〈23〉親族 3』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、2004年12月、149頁
  15. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、120-121頁
  16. ^ a b 民法「嫡出推定」、DNA鑑定より優先 最高裁初判断 日本経済新聞 2014年7月17日
  17. ^ 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、55頁
  18. ^ 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、86-87頁
  19. ^ 中川善之助・米倉明編著 『新版 注釈民法〈23〉親族 3』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、2004年12月、182-183頁
  20. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、130-131頁
  21. ^ a b c 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、162頁
  22. ^ a b c 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、58頁
  23. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、115頁
  24. ^ a b c 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、59頁
  25. ^ a b c 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、116頁
  26. ^ a b c d 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、60頁
  27. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、119頁
  28. ^ a b c 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、61頁
  29. ^ a b c d e 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、79頁
  30. ^ a b c 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、118頁
  31. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、164-165頁
  32. ^ a b c 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、62頁
  33. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、164頁
  34. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、120頁
  35. ^ 中川善之助・米倉明編著 『新版 注釈民法〈23〉親族 3』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、2004年12月、179頁
  36. ^ 我妻榮・有泉亨・川井健 『民法3 親族法・相続法 第二版』 勁草書房、2005年10月、133頁
  37. ^ a b 川井健著 『民法概論5親族・相続』 有斐閣、2007年4月、58頁
  38. ^ 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、79頁
  39. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、168頁
  40. ^ a b c 佐藤義彦・伊藤昌司・右近健男著 『民法Ⅴ-親族・相続 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2005年10月、72頁
  41. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、165頁
  42. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、121頁
  43. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、166頁
  44. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、122-123頁
  45. ^ 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 『民法7親族・相続 第2版』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2007年10月、117頁
  46. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、167頁
  47. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、190-191頁
  48. ^ 遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、191頁
  49. ^ 川井健著 『民法概論5親族・相続』 有斐閣、2007年4月、69頁
  50. ^ 選択的夫婦別姓・婚外子の相続分差別Q&A
  51. ^ 結婚の没落?…欧州10ヵ国で婚外出産が全新生児数の半分以上”. 東亜日報 (2018年4月19日). 2018年4月20日閲覧。
  52. ^ OECD Family Database - OECD

関連書籍

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  • 共著『社会学入門(新版)』有斐閣、pp.38(袖井孝子執筆部分)
  • 久々湊晴夫ほか共著(2003年3月)『やさしい家族法』成文堂、 pp.117-146
  • 内田貴(2002年7月)『民法IV 親族・相続法』 東京大学出版会、 pp.163-208
  • 民法改正を考える会『よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて』朝陽会、2010年
  • 日本弁護士連合会編『今こそ変えよう! 家族法―婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える』日本加除出版、2011年

参照

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関連項目

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判例

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外部リンク

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