トランスジェンダーになりたい少女たち
トランスジェンダー関連のアウトライン |
トランスジェンダー |
---|
LGBTポータル |
『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(あのこもトランスジェンダーになった SNSででんせんするせいてんかんブームのひげき、英: Irreversible Damage、以下「あの子もトランスジェンダーになった」)は、2020年にアビゲイル・シュライアーによって書かれ、レグナリー・パブリッシング社から出版された本である。この本は、急速発症性性別違和(ROGD)という論争のある概念を支持している[1][2][3] 。ROGDは、いかなる主要な専門機関によっても医学的診断として認められておらず、信頼できる科学的証拠に基づいていない[1]。
シュライアーは、出生時に女性として割り当てられた10代の若者たちを指しながら、2010年代に「思春期の女の子たちの中で突然、急激なトランスジェンダーの自己認識の急増があった」と述べる[4][1]。彼女は、これを「過去の数十年に渡り、拒食症や過食症、多重人格障害の犠牲になったことが多い、不安が強く、うつ病の傾向がある(主に白人の)女の子たち」の間の社会的伝染として挙げている[4]。また、シュライアーは若者の性別不調和に対する治療法としての、性を肯定する精神的サポート、ホルモン置換療法、性転換手術(一般に「性を肯定するケア」として参照される)を批判している[5]。
この本に対する反応は賛否両論である。肯定的なレビューの多くはシュライアーの主張を支持しているが、批判の多くは本の逸話の使用やその他の証拠に関する問題に焦点を当てている。この本をトランスフォビアと見做し、トランスマスキュリンやノンバイナリーと自己規定する10代の若者を「彼女」と呼ぶことはミス・ジェンダリングであるとして、いくつかのボイコットが行われた。
日本においても、当初は「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」という題名で2024年1月にKADOKAWAから刊行される予定だったが、書名ならびに事前公開された概要について各所で論争や批判が巻き起こり、2023年12月5日にKADOKAWAが刊行中止を表明する事態となった[6]。その一方で、「原作を読んで批判した者はどれだけいるのか。出版社に抗議して刊行を中止させるのは卑怯だ」という指摘もあった[7]。
背景と公開の歴史
シュライアーはコロンビア大学とオックスフォード大学に通い、イェール法科大学院で法務博士(J.D.)を取得した[8][9]。
『あの子もトランスジェンダーになった』が支持する急速発症性性別違和(ROGD)という論争のある概念は、2018年のリサ・リットマンによる論文で初めて提案された[1][2][3]。ROGDは、いかなる主要な専門機関によっても医学的診断として認められておらず、信頼できる科学的証拠に基づいていない[1]。
『あの子もトランスジェンダーになった』は2020年6月に保守的な出版社であるレグネリー・パブリッシングから最初に出版された[10]。パメラ・アルマンドがナレーションを務めるオーディオブックは、ブラックストーン・オーディオからリリースされた。イギリスでは、スウィフト・プレスから「10代の少女とトランスジェンダーの流行」という副題で出版された[11]。2020年7月の「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」でのインタビューで、シュライアーは性転換の願望を「伝染」と呼び、摂食障害や自傷行為と比較した[12]。彼女はトランスジェンダーの若者を自閉症と関連付けた[13]。彼女の発言は、Spotifyの従業員によるローガンのポッドキャストエピソードのプラットフォームからの削除を求める呼びかけを引き起こした[13][14]が、会社はこの要求を拒否した[15]。
『あの子もトランスジェンダーになった』のためにシュライアーにインタビューされたトランスジェンダーのYouTuber・チェイス・ロスは、2021年に本への参加を謝罪し、本の内容と著者の意図について誤解させられたと主張した[1]。
原著の評価
この本の評価については賛否が分かれている。スペクテーター・オーストラリア誌、エコノミスト紙(英)[16]、アイリッシュ・インデペンデント紙[17]、ナショナル・レビュー誌(米)[18]、サンデー・タイムズ紙(英)[19]、コメンタリー誌(米)[20]、タイムズ紙(英)[21]は好意的な書評を掲載した。エコノミスト誌は、2020年の優良図書の1つとしてこの本をあげた[22]。タイムズ紙も2021年のベスト・ブックの1つにこの本を選んでいる。神学者のティナ・ビーティーと心理学者のクリストファー・ファーガソンはそれぞれタブレット誌[11]と「サイコロジー・トゥデイ」ブログ[23]に肯定と否定の入り混じった書評を寄稿している。ロサンゼルス・レヴュー・オブ・ブックス誌[24]は否定的な書評を掲載し、トランスジェンダーの精神衛生を専門とする研究者のジャック・ターバンは「サイコロジー・トゥデイ」ブログ[5]でこの本を否定的に評価している。「サイエンス・ベースド・サイエンス」ブログは医師のハリエット・ホールによる肯定的な書評を掲載したが、その後この本を批判する記事をシリーズで掲載している[25] [26]。
脚注
- ^ a b c d e f Eckert, A.J. (July 4, 2021). “Irreversible Damage to the Trans Community: A Critical Review of Abigail Shrier's book Irreversible Damage (Part One)” (英語). Science-Based Medicine. July 5, 2021閲覧。
- ^ a b Parsons, Vic (June 23, 2020). “Amazon refuses to advertise renowned anti-trans journalist's book suggesting trans teens are a 'contagion'” (英語). PinkNews December 10, 2020閲覧。
- ^ a b Hsu, V. Jo (1 January 2022). “Irreducible Damage: The Affective Drift of Race, Gender, and Disability in Anti-Trans Rhetorics”. Rhetoric Society Quarterly 52 (1): 62–77. doi:10.1080/02773945.2021.1990381. ISSN 0277-3945 .
- ^ a b Shrier, Abigail (November 24, 2020). “Gender activists are trying to cancel my book; Why is Silicon Valley helping them?”. Pittsburgh Post-Gazette. ISSN 1068-624X
- ^ a b Turban, Jack (December 6, 2020). “New Book 'Irreversible Damage' Is Full of Misinformation” (英語). Psychology Today. October 17, 2021閲覧。 “Shrier claims that 'in most cases—nearly 70 percent—gender dysphoria resolves,' and thus youth should not be provided gender-affirming medical care. That statistic is false.”
- ^ “KADOKAWA、トランスジェンダーに関する書籍を発行中止 SNSで議論や批判”. ITmedia NEWS (2023年12月6日). 2023年12月8日閲覧。
- ^ 奥原慎平 (2023年12月6日). “KADOKAWAジェンダー本の刊行中止「抗議して委縮させるのは卑怯」 武蔵大の千田有紀教授”. 産経ニュース. 2023年12月8日閲覧。
- ^ Strimpel, Zoe (30 April 2022). “Abigail Shrier: Taking on the trans lobby has made me Public Enemy No 1”. The Telegraph
- ^ Lovell, Rose (July 2, 2021). “Abigail Shrier's Irreversible Damage: A Wealth of Irreversible Misinformation” (英語). Science-Based Medicine. July 5, 2021閲覧。
- ^ Italie, Hillel (July 15, 2021). “Booksellers association apologizes for anti-trans mailing”. Associated Press January 1, 2022閲覧。
- ^ a b Beattie, Tina (March 10, 2021). “No Turning Back” (英語). The Tablet 275 (9393): 25. ISSN 0039-8837 October 17, 2021閲覧。.
- ^ Ellis, Philip (July 22, 2020). “Joe Rogan Is Spreading Transphobic Hate Speech and It's Putting Lives in Danger”. Men's Health. ISSN 1054-4836 December 19, 2020閲覧. "Shrier invalidated the lived experience of trans and nonbinary kids and teens, and made numerous dangerous, entirely unsound false equivalencies. She compared transitioning among teenagers to historic adolescent phenomena such as eating disorders, self-harm, and (bafflingly) the occult, calling this age group 'the same population that gets involved in cutting, demonic possession, witchcraft, anorexia, bulimia.' She even described wanting to transition as a 'contagion' with the potential to infect other children with the same ideas, drawing yet more scientifically baseless parallels with eating disorders."
- ^ a b Cox, Joseph; Maiberg, Emanuel (September 16, 2020). “Spotify CEO Defends Keeping Transphobic Joe Rogan Podcasts Online” (英語). Vice December 19, 2020閲覧。
- ^ Quah, Nicholas (November 3, 2020). “Should Spotify Be Responsible for What Joe Rogan Does?” (英語). Vulture December 27, 2020閲覧。
- ^ Steele, Anne (October 31, 2020). “Joe Rogan's Podcast Sparks Tensions Inside Spotify” (英語). The Wall Street Journal. ISSN 0099-9660. オリジナルのOctober 31, 2020時点におけるアーカイブ。
- ^ “Miss gender – A book on transitioning girls is denounced as transphobic” (英語). The Economist (London). (November 26, 2020). ISSN 0013-0613 December 30, 2022閲覧。.
- ^ Hourican, Emily (January 17, 2021). “Girls who would be boys: The rise in teen gender dysphoria”. Independent.ie. ISSN 0021-1222 January 19, 2021閲覧。
- ^ Kearns, Madeleine (October 19, 2020). “The Beginning of Gender” (英語). National Review 72 (19): 36–39. ISSN 0028-0038 December 13, 2023閲覧。.
- ^ Patterson, Christina (January 3, 2021). “Irreversible Damage by Abigail Shrier review — the risks of transgender activism” (英語). The Sunday Times. オリジナルのJanuary 3, 2021時点におけるアーカイブ。 January 19, 2021閲覧。
- ^ Riley, Naomi Schaefer (June 16, 2020). “The Trans Cult” (英語). Commentary. ISSN 0010-2601 December 27, 2020閲覧。.
- ^ Turner, Janice (December 30, 2020). “Irreversible Damage by Abigail Shrier review — resisting the 'transgender craze'” (英語). The Times. オリジナルのDecember 30, 2020時点におけるアーカイブ。 December 13, 2023閲覧。
- ^ “Cold comforts – Our books of the year” (英語). The Economist. (December 3, 2020). ISSN 0013-0613 December 30, 2022閲覧。.
- ^ “A Review of 'Irreversible Damage' by Abigail Shrier” (英語). Psychology Today (January 19, 2021). December 13, 2023閲覧。
- ^ Fonseca, Sarah (January 17, 2021). “The Constitutional Conflationists: On Abigail Shrier's 'Irreversible Damage' and the Dangerous Absurdity of Anti-Trans Trolls”. Los Angeles Review of Books January 19, 2021閲覧。
- ^ “Trans Science: A review of Abigail Shrier's Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters” (英語). Skeptic (June 17, 2021). December 13, 2023閲覧。
- ^ Novella, Steven (June 30, 2021). “The Science of Transgender Treatment” (英語). Science-Based Medicine. July 4, 2021閲覧。