浄化槽管理士
浄化槽管理士 | |
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実施国 | 日本 |
資格種類 | 国家資格 |
分野 | 自然・環境 |
試験形式 | マークシート |
認定団体 | 環境省 |
根拠法令 | 浄化槽法 |
公式サイト | https://www.jeces.or.jp/ |
特記事項 | 試験や講習の実施は日本環境整備教育センターが担当 |
ウィキプロジェクト 資格 ウィキポータル 資格 |
浄化槽管理士(じょうかそうかんりし)は浄化槽法第45条の定めるところにより、環境大臣が交付する国家資格である。浄化槽管理士試験に合格した者(国家試験合格)又は指定講習機関が行う講習を修了した者(講習修了者)からの申請により交付される。[1]
名称が類似する国家資格として浄化槽の設置工事の監督に必要な「浄化槽設備士」があるが、浄化槽管理士とは業務範囲が異なるため、混同しないように注意が必要である。また、本項での解説には名称が近似する「浄化槽管理者」(一般的には建物の所有者や占有者で、届け出ている者をいう)、「浄化槽技術管理者」(一定の規模以上の浄化槽を統括管理する者をいう)が頻出する。本項が主題とする国家資格である「浄化槽管理士」と混同しないように留意されたい。
本項における用語法
記事を読みやすくするために、本項では以下のような略称や定義を便宜的に用いる。
- 関連する法令は次のように略記する。「法」=浄化槽法(昭和58年法律第43号、最終改正: 令和4年法律第68号)[2]、「施行規則」=環境省関係浄化槽法施行規則(昭和59年厚生省令第17号、最終改正: 令和4年環境省令第2号)[3]、「条例」=法第48条が定める条例による浄化槽の保守点検を業とする者の登録制度[4]にもとづき都道府県等がそれぞれ制定している条例。
- 頻出する用語について、浄化槽管理士は「管理士」、浄化槽管理者は「管理者」、浄化槽技術管理者は「技術管理者」、浄化槽管理士免状は「免状」と略すことがある。また、浄化槽の保守点検を業とする者の登録制度(法第48条にもとづく条例)[4]を実施している都道府県等は、「保守点検業登録を実施している都道府県等」と略すことがある。
- 浄化槽法では、保健所を設置する市(または特別区)[注 1]の市長(または区長)に対して都道府県知事と同格の権限を与える規定が多いことから[注 2]、「都道府県等」(または「都道府県知事等」)との表記で、保健所を設置する市(長)および特別区(長)を含むものとする。
- 「浄化槽」とは、現行の浄化槽法上では「合併処理浄化槽」のみを指す用語であるが[注 3]、法改正以前の既設の単独処理浄化槽も新法上の浄化槽とみなされ、同様に保守点検等の義務が適用されるため(「みなし浄化槽」と呼ぶ) [7]、本項で単に「浄化槽」と記す場合は「みなし浄化槽」を含むものとする。
業務範囲
浄化槽管理士は、浄化槽管理者(詳細な解説は後述)より委託を受けて、業として浄化槽の保守点検業務(点検、調整、修理)[8]に従事する者である[9][10]。管理者に課せられている「保守点検を定められた回数実施する義務」の履行を専門家として代理し、法令に定められた技術基準[11]に従って、保守点検業務を実施する。管理士が担えるのは「保守点検業務」のみであり、委託されている場合でも管理士は管理者とはならない。
管理士は自ら保守点検業務を行うか、実地で監督しなければならない[12]。管理士が実地で監督すれば、補助作業者は管理士資格は不要であるが、同時に複数の場所に設置されている浄化槽の保守点検を行うには、それぞれの場所で実地に管理士が監督しなければならないため、同時に行う基数と同等またはそれ以上の管理士の確保が必要である。
浄化槽法上の浄化槽であれば、処理方式や規模による従事の制限はなく、すべての浄化槽法上の浄化槽(みなし浄化槽を含む)の保守点検を実施することができる。501人槽以上の浄化槽については、管理者が浄化槽技術管理者を任命しなければならないが、技術管理者は1名で足り、501人槽以上の浄化槽であっても他の保守点検業務に従事する者は管理士資格のみで支障ないものである。実状としては、よほど大規模な浄化槽でなければ単独又は少人数で保守点検作業を行うことになる。
管理士は、委託を受けて保守点検の技術上の基準に従って保守点検を行う[13][14]、保守点検の記録を管理者に交付し、その内容を説明する義務[15]などが課されている。また、条例により、定期検査の受検時期の通知、清掃時期を通知し清掃業者へ連絡する義務、重大な異常を発見した場合は都道府県等へ通報する義務[16]などを課していることもある[17]。
名称独占資格であり、浄化槽管理士免状の交付を受けていない者は浄化槽管理士またはこれに紛らわしい名称を使用してはならない[18]。
なお、保守点検業登録を実施している都道府県等においては、登録を受けなければ浄化槽の保守点検を業として行うことが禁止されているため、自ら登録を受けるか、登録を受けた業者に所属しなければ浄化槽管理士としての業務を行うことはできないので注意が必要である。
法体系
管理士は、国が定める次の法令等の定めに従う必要がある。主な法令等には次のものである。[19]
- 法律
- 浄化槽法
- 政令
- 浄化槽法施行令
- 省令
- 環境省関係浄化槽法施行規則
このほか、浄化槽法により委任されている範囲内において、都道府県等が定める条例の定めにも従う必要があるので、業務区域には十分留意する必要がある。
浄化槽管理者との関係
浄化槽管理者は、浄化槽の管理について権原を有するものであり、管理している浄化槽においての最高責任者である[20]。
具体的には、浄化槽が接続されている建物の所有者、管理人、占有者(賃借物件の場合は大家の他、店子や管理会社を届け出ることもできる)のうちいずれか1名である[21]。
管理者には、保守点検および清掃を定められた回数実施する義務[10]、使用開始や技術管理者変更の報告義務[10]、新設・構造・規模の変更後の水質検査の受検義務[20]、定期検査の受検義務[22]、使用の休止や廃止の届出[22]、点検清掃記録の保存義務[23]などが課されている。適切な管理が行われないと、都道府県知事等から改善命令や勧告[24][25]などが発せられることになる。
原則として管理者は、自らが管理している浄化槽の保守点検および清掃を行わなければならないと定められているが、保守点検は浄化槽管理士に、清掃は浄化槽清掃業者に委託することが認められている[26][10]。管理者がみずから保守点検および清掃をおこなうことは困難であるため、ほとんど委託されているのが実状である。
管理士は、法により定められた免状を有する専門家であるが、浄化槽そのものは管理者の所有(占有)物であり、管理士は浄化槽に故障または異常を認めたときは管理者に報告しその指示を受ける必要がある。管理者に必要な処置を助言することはできるが、管理士は処置を強制する権限はないので、最高責任者である管理者の同意を得らない場合は保守点検作業をすることはできない。ただし、保守点検契約は所定の作業までは一定金額であることが多いため、その範囲を超える処置が必要な場合に指示を受けることになる。実際に処置を行うかは最終的には管理者の判断となるが、処置をせず放置される状態が長期間継続されると管理士側からしても触法状態の黙認に加担することによる責任を問われる恐れがあるため、管理士側から管理者が保守点検業務の遂行に適切に協力しないことを理由として保守点検契約(維持管理契約と呼ばれることもあるが同一意義)の解除や更新を拒絶されることもある。
管理者は、管理士をいつでも解任することができるが、直ちに他の管理士を充てるか、自ら保守点検業務を実施しなければならない。自ら実施することを望む場合、免状は不要(免状は業として委託を受ける場合にのみ必要)であるが、管理士が行うものと同様の法令に定められた技術基準に従うため必要な器具を用意し、基準通り実施しその記録を残す必要がある[13][27][10]。これらを正しく実施しないと、前述の通り都道府県知事等から改善命令や勧告などが発せられることになる。
浄化槽管理士免状
- 様式:施行規則第16条(附則様式第3号)により様式(文面)は定められている[28]。用紙サイズは法的には定められていないが、実際に交付されている免状は日本産業規格のA3より少し大きいサイズである。
- 有効期限:免状は終身有効で、更新や書換は不要である。
ただし、保守点検業登録を実施している都道府県等[4]では、法及び条例並びに環境省からの通知[29]により後述する所定の研修会の受講(受講しないと保守点検業務が行えないため、事実上の更新制度)を求めている。
- 携帯義務:浄化槽法では業務に従事しているときも含め、免状の携帯義務や提示義務は定めていない。
ただし、保守点検業登録を実施している都道府県等では、条例により何らかの証明書類(免状のコピーや浄化槽管理士証(日本環境整備教育センターが交付)が代表的である)や、都道府県等によってはその長から条例様式の浄化槽管理士証が交付がされ、業務に従事中は携帯すること、関係者からの求めに応じ提示する義務[30]も定めていることがあるため、業務区域の条例も併せて遵守する必要がある。[31]。
実務としては条例により証明書類の携帯を定められていない場合でも、関係者(管理者など)から資格を確認したい旨の申し出があった場合に対応できないとトラブルとなる可能性がある。しかし、免状は携帯には不適なサイズおよび材質であるため、免状のコピーまたは浄化槽管理士証(日本環境整備教育センターが交付)を携帯するのが一般的である。
- 浄化槽管理士証の種類:
- (公財)日本環境整備教育センターが交付するもの
希望者のみに交付される。免状の交付を受けた後に、センターまたはセンターの指定機関を経由して別途手続(要手数料)をすることにより交付される[32]。浄化槽管理士手帳(事業者による証明欄や講習の受講記録、法令集となっている)も同時に交付される。 - 保守点検業登録を実施している都道府県等が交付するもの
条例による都道府県等の登録保守点検事業者に所属する浄化槽管理士として登録されると交付される。ただし、前述の通り都道府県等で管理士証を交付せず、センター交付の管理士証や免状のコピーなどで認めている都道府県もある。
- (公財)日本環境整備教育センターが交付するもの
浄化槽管理士研修会
浄化槽管理士講習(免状の取得のための講習)とは異なります。 |
2020年4月1日の改正法施行により、保守点検業登録を実施している都道府県等では、法及び条例の定めるところにより浄化槽管理士研修会を受講しないと、浄化槽管理士としての業務を行えないこととされている。
なお、これは免状の更新制度ではないため、受講期限を経過した場合でも、受講するまでの間は管理士としての業務は行えないが、再受講すれば支障ない。また、免状を有する者であっても、保守点検業登録を実施している都道府県等で業として管理士業務に従事していない場合は、受講の義務はない。任意での受講の可否は実施団体によるが、全浄連システム方式の場合は、任意で受講することは可能である。[33]
研修(修了証)自体に直接的な有効期間はないが、条例により保守点検業の登録期間ごとの受講(5年以下の間隔)とされていることがほとんどである。ただし、愛知県の優良浄化槽保守点検業者制度[33]のように登録期間が5年であっても研修は2年ごとという場合もあるので、業務区域の条例に従う必要がある。
研修会は、法改正後から2022年ごろまでは、都道府県知事等やその地域の浄化槽関連団体が実施していたが、近年は体制が整いつつあり、一般社団法人全国浄化槽団体連合会が実施する研修(全浄連システム方式)を採用する都道府県等が増えている。
研修の内容
1日間(5時間)の研修である。全講義を漏れなく受講すれば修了で、全浄連システム方式では修了試験(考査や効果確認)は課されない。
- 浄化槽行政について(地域の実情に応じた事項)
- 浄化槽行政の動向
- 浄化槽の構造と機能
- 浄化槽の保守点検と清掃
- (希望者のみ任意受講)指定採水員講習 +30分
ほとんどが全国共通の内容ではあるが、研修の内容に「地域の実情に応じた事項」が含まれる。全浄連システム方式の研修では、講習会を開催した都道府県等の地域の実情に応じた事項を履修するため、講習を受けた地域とは異なる保守点検業登録を実施している他の都道府県等でも浄化槽管理士としての業務に従事したい場合には、地域の実情に応じた事項の所定の補講(自宅学習など[34])を求められる。
全浄連システム方式の場合、指定採水員講習については、内容のほとんどが浄化槽管理士研修と重複することから、希望者は研修に続いて指定採水員講習を受講することにより、1日で浄化槽管理士研修と指定採水員講習を修了することもできる。
免状の取得
浄化槽管理士免状は、浄化槽管理士試験に合格した者(国家試験合格)又は指定講習機関が行う講習を修了した者(講習修了者)に対して申請により交付される。合格または修了のみでは免状は与えられず、国家試験の合格証書又は講習の修了証書と共に同封される案内文書に従い、環境大臣に申請する必要がある。国家試験、講習ともに、受験および受講資格(学歴、実務経験等)はない。[35]
国家試験、講習ともに、環境大臣指定試験(講習)機関である公益財団法人日本環境整備教育センターが実施する。[36][37]
浄化槽管理士試験(国家試験)[38]
- 毎年10月の日曜日(おおむね中旬から下旬)に宮城・東京・愛知・大阪・福岡で行われる。受験料は23,600円(2023年現在)。他に受験料振込手数料、申請書を取り寄せる際と申請書を提出する際の送料、自分宛に受験票を送るための切手代や証明写真代などが別途必要になる。2023年(令和5年)時点でインターネット(電子)申請には対応しておらず、書面での申請を要する。
国家試験時の試験問題
- 試験問題は下記の国家試験科目に関する内容より出題される。試験時間は午前と午後に分かれ、午前が2時間30分(10時00分 - 12時30分)、午後が2時間30分(14時00分 - 16時30分)だが、それぞれ開始60分後に退席が可能である。問題数は100問(午前50問+午後50問)の五択で、マークシート方式。
- 後述の認定講習考査に比べると選択肢も問題数も多くなり、浄化槽に対する非常に多くの知識が問われる。
- 試験問題の内容は、浄化槽や浄化槽管理士としての業務に係る事項や法令のほか、水資源や環境問題についての知識を問う設問となっている。
国家試験科目
- 試験科目ごとの最低得点は規定されておらず、午前に1–4、午後に5–7がまとめて出題される。試験科目は施行規則第21条に定められている以下の7科目である[39]。
- 浄化槽概論 — 10問程度
- 浄化槽行政論 — 10問程度
- 浄化槽の構造及び機能 — 20問程度
- 浄化槽工事概論 — 10問程度
- 浄化槽の点検、調整及び修理 — 30問程度
- 水質管理 — 10問程度
- 浄化槽の清掃概論 — 10問程度
国家試験結果通知
- 試験終了後1か月以内に(具体的な日付は受験日に説明される)、合格者の受験番号を官報、公益財団法人日本環境整備教育センターの掲示場およびホームページにおいて発表するとともに、郵送により合格者に合格証書を交付し、不合格者には不合格の旨を通知する[40]。
- 令和3年度の受験申請者数1,175人のうち受験者は1,034人で、受験率88.0%、うち合格者数は215人で、合格率は20.8%となっている。
- 合格基準点は午前午後の総得点で判定され、科目ごとの最低得点はない。原則65点以上/100点満点である。合格点は難易度調整により若干上下することがある。
- 合格者には、合格証書が交付されるので、その写しを添えて免状交付申請を行う必要がある。
浄化槽管理士講習[41]
- 講習期間は13日間(80時間)で、遅刻・早退・欠席は一切認められず、すべての講義を漏れなく受講する必要がある。午前と午後それぞれ出席の確認が行われる(日程については公益財団法人日本環境設備教育センター、社団法人全国浄化槽団体連合会に確認。講習料は129,700円〈2023年現在〉)。
- 浄化槽管理士試験と比較して、講習の考査(試験)での合格率が高いため、講習修了により免状を申請する者が圧倒的に多い。講習期間中に宿泊が必要な場合、指定宿泊施設の利用を希望することも可能であるが、宿泊にかかる費用は別に受講者側が負担する必要がある[42]。
- 以前は、環境大臣が認定した「浄化槽管理士認定講習会」と呼ばれていたが、浄化槽法の一部を改正する法律(平成13年法律第74号、同年10月1日施行)[43]により、環境大臣が指定する者(指定講習)に改められたことにより、現在では「浄化槽管理士講習」と呼称されている。
講習科目
講習科目は、施行規則第41条に次のように定められている[44]。
- 浄化槽概論 8時間以上 ※
- 浄化槽行政 4時間以上
- 浄化槽の構造及び機能 22時間以上
- 浄化槽工事概論 4時間以上 ※
- 浄化槽の点検、調整及び修理 30時間以上
- 水質管理 10時間以上
- 浄化槽の清掃概論 2時間以上
- 浄化槽設備士の資格を有する者については、※印を付した1および4の科目が免除される[44]。
考査(試験)
- 全講習を漏れなく受講すると、最終日の考査の受験資格を得ることができ、考査に合格することにより修了と認められる。
- 考査問題は、講習に使用されるテキスト「浄化槽の維持管理」より出題、テキストは講習の初日に配布される。試験時間は2時間30分で、開始30分後から退席可能である。問題は全40問の四択でマークシート方式である。浄化槽設備士資格で講習の一部免除を受けた場合でも、一般受講者と同じ問題(考査の一部免除はない)が出題される。近年は難しくなり、合格率は80%前後である。
- 考査不合格者は、再考査を合否発表後3年以内であれば、なんどでも受験可能であるが、都度手数料の納入が必要である。再試験の合格率は、20%から30%である。
- 考査の合格者には、修了証書が後日交付されるので、その写しを添えて免状交付申請を行う必要がある。
関係者に関する解説
浄化槽技術管理者との関係[45]
所定の規模を超える浄化槽の浄化槽管理者は、「管理士の資格を有する者で所定の要件を満たす者を浄化槽技術管理者として任命する」か「自らが技術管理者の業務を行うこと」が必要であるが、これは役職であり免許ではない。技術管理者は、大規模浄化槽施設などで複数の管理士が業務を行う場合でも、任命すべき技術管理者は1名で足り、他の者は管理士資格のみで大規模浄化槽の保守点検業務に従事することが可能である。任命されなければ法的権限を有しないため、後述の技術管理者講習(認定講習)を修了した者であっても、任命されなければ技術管理者としての業務を行うことはできない【法第10条2】。
技術管理者は、「技術的に高い知見を有し、専門的判断に基づき、浄化槽の維持管理に関して必要な改善措置などを講ずる。浄化槽の保守点検や清掃業務の統括的な把握、トラブル発生時の対応等を行う。」とされており、具体的には自身が技術管理者として任命されている大規模浄化槽の浄化槽の維持管理の方針を浄化槽管理者と協議のうえ決定し、業務に従事する管理士やその補助作業者、清掃業者、その他の業者(修理業者、電気工事業者など)を統括管理する業務である。技術管理者の業務に清掃業務の統括があるが、技術管理者であることを根拠として自ら清掃業務を行うことはできない(会社が浄化槽清掃業の許可を受けている場合は可能)。保守点検については技術管理者は管理士でもあるので自ら行うことも可能である。
技術管理者の選任要件は、「所定の規模を超える浄化槽の保守点検及び清掃に関する技術上の業務の実務経験2年」または「これと同等の知識及び技能を有する者」である。前者は既に技術管理者が任命されている大規模浄化槽で管理士として実務経験を積む方法、後者は、日本環境整備教育センターが実施している浄化槽技術管理者講習(認定講習)を受講し、修了することにより得られる【施行規則第8条】。
浄化槽管理者は自ら技術管理者となることができ、この場合管理士資格や実務経験は不要である【法第10条2ただし書き】。しかし前述のとおり統括管理する業務であるため、現実的には困難である。
浄化槽設備士との関係
類似の資格として国土交通大臣が所管する浄化槽設備士がある。設備士は浄化槽工事業の登録を受けた者に所属して、「浄化槽設置工事またはその構造若しくは規模の変更工事」の監督を行うことができる。監督資格であるため、その現場に有資格者が一人でも居れば他の作業者に設備士資格は不要であるが、実地で監督を行う必要がある。設備士が工事を業務範囲とするのに対し、管理士は、保守点検および修理が業務範囲である。双方の資格に優劣や上位下位はなく、それぞれ別の業務範囲の資格であるため工事と保守点検および修理の両方を実施するには、設備士および管理士両方の資格が必要である。難易度としては、設備士の方が受験資格が必要なため取得がやや困難である。
浄化槽清掃業者との関係
管理士や設備士の業務範囲に浄化槽の清掃は含まれていない。浄化槽の清掃とは、浄化槽の中にある汚泥等(水、沈殿物、付着物、スカムなど)を浄化槽外に引き出し、洗浄、掃除を行うことである。浄化槽清掃は、浄化槽清掃業の許可を受けている者でなければできない。原則として清掃作業者に作業資格は不要であるが、浄化槽清掃業の許可を受けるためには、「浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能を有する者」として浄化槽槽清掃技術者講習(認定講習)[46]を修了した者を配置する必要がある。また、様々な年代、メーカー、型式、処理方式が混在し、手順を誤ると水圧や土圧により浄化槽を破損させてしまうこともあり得るため、十分な知識が必要である。実態としては、保守点検業者が浄化槽清掃業の許可も受けていることもあり、その場合は管理士と同じ人物が浄化槽の清掃を行うということもあり得るが、前述のとおり管理士資格は何ら関係しない。
浄化槽管理者は、法的には自ら清掃も行うことも可能であるが、近年では引き出した汚泥の処分方法などに課題があり、個人では適切な処分が困難なため、現実的ではない。
管理士は、浄化槽の中にある汚泥等を浄化槽外に引き出す必要がない場合で、保守点検の技術上の基準を満たすための洗浄や掃除、汚泥やスカム等を別の槽へ移送することは清掃にはあたらないので可能である。槽内の状態が著しく悪化しまたは点検修理のために浄化槽外に汚泥等を引き出す必要がある場合は、清掃業者に依頼することになる。
法定検査員との関係
浄化槽の法定検査をおこなう法定検査員(浄化槽検査員)は、都道府県の指定検査機関に所属し、法第7条または11条に基づき浄化槽の外観・水質・書類を検査するものである[20][22]。点検や調整修理は行わない。法定検査での結果(指摘事項)により、都道府県知事から改善命令(助言、指導、勧告)や浄化槽の使用停止命令が発出されることがある[47]。指定検査機関はその地域ごとに一つの機関が指定されており、管理士(保守点検業者)や清掃業者のように管理者が任意に選択することはできない。
法定検査員となるには都道府県からの推薦(指定検査機関に所属)と、管理士(学歴経験不問)または所定の学歴と実務経験が必要である。
管理士と検査員が直接やりとりすることは原則ないが、検査の指摘事項が保守点検に係るものである場合は、都道府県知事からの改善命令などが管理士に対して発出されることがある。
自治体によっては管理士を指定採水員として任命し、検査員の一部業務を委任していることがある。この場合、外観検査、書類検査と採水のみを指定採水員である管理士が行い、水質検査と総合判定を指定検査機関(検査員)が行う。
脚注
注釈
- ^ 地域保健法第5条第1項は「保健所は、都道府県、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の十九第1項の指定都市、同法第252条の二十二第1項の中核市その他の政令で定める市又は特別区が、これを設置する。」と定めている。都道府県および政令指定都市、中核市、特別区には保健所設置の義務があり、このほか特に政令で定めた市に限り保健所を設置できる。保健所を設置する市は保健所政令市(保健所設置市)と呼ばれる。
- ^ 浄化槽法第5条・48条・49条参照[2]。保健所を設置している市や特別区では浄化槽管理士その他の業務について都道府県の条例とは異なる独自の規則・規制を実施している場合があり、注意が必要である。
- ^ 浄化槽法第2条第1項は、浄化槽について「便所と連結してし尿及びこれと併せて雑排水(工場廃水、雨水その他の特殊な排水を除く。以下同じ。)を処理し、下水道法(昭和33年法律第79号)第2条第6号に規定する終末処理場を有する公共下水道(以下「終末処理下水道」という。)以外に放流するための設備又は施設 であって、同法に規定する公共下水道及び流域下水道並びに廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第6条第1項の規定により定められた計画に従って市町村が設置したし尿処理施設 以外のものをいう。」と定義する[5]。単独処理浄化槽は、2000年(平成12年)6月の法改正で浄化法上の「浄化槽」の定義から除外された[6]。
出典
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- ^ “浄化槽法 附則(平成12年6月2日法律第106号)第2条”. 2023年8月26日閲覧。「〔附則〕第2条 この法律による改正前の浄化槽法第2条第1号に規定する浄化槽(し尿のみを処理するものに限る。)であって この法律の施行の際現に設置され、若しくは設置の工事が行われているもの 又は現に建築の工事が行われている建築物に設置されるもの(以下「既存単独処理浄化槽」という。)は、この法律による改正後の浄化槽法(以下「新法」という。)の規定(第3条第2項及び第12条の六の規定を除く。)の適用については、新法第2条第1号に規定する浄化槽とみなす。」
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- ^ “浄化槽管理士講習のご案内”. 2023年8月23日閲覧。
- ^ 日本環境整備教育センター指定の宿泊施設を利用可能だが、割引き制度などは用意されていない。
- ^ “浄化槽法の一部を改正する法律(平成13年法律第74号)”. 2023年9月3日閲覧。
- ^ a b 浄化槽法施行規則 第41条 - e-Gov法令検索、2023年8月19日閲覧。
- ^ “浄化槽技術管理者認定講習会の認定について”. 2023年8月23日閲覧。
- ^ “浄化槽清掃技術者認定講習会の認定について”. 2023年8月23日閲覧。
- ^ 浄化槽法 第12条、第12条の2 - e-Gov法令検索、2023年8月19日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 環境省【浄化槽サイト】浄化槽に関係する国家資格 - 環境省「浄化槽サイト」
- 公益財団法人日本環境整備教育センター - 浄化槽管理士および浄化槽設備士の指定講習機関