抗原
抗原(こうげん、英: antigen 、略号Ag)は、免疫細胞上の抗原レセプター(抗原受容体)に結合し、免疫反応を引き起こさせる物質の総称。抗体やリンパ球の働きによって生体内から除去されることになる。
通常、細菌やウイルスなどの外来病原体や人為的な注射などで体内に入るタンパク質などが抗原となるが、自己免疫疾患では自分の体を構成している成分が抗原となって免疫反応が起きてしまう。また、アレルギー反応を引き起こす抗原を特にアレルゲンと呼ぶことがある。
抗原に対して有効な反応性を持った抗体を産生するためには多くの場合T細胞の関与が必要であるが、多糖類などのように抗体産生にT細胞を必要としない抗原 (#胸腺非依存性抗原) もある。
抗原性と免疫原性
抗原は抗体と補い合うような語で、抗体が抗原に結合する機能によって定義されるのと同じように、抗原は抗体に結合する機能によって定義される。抗体に結合することができる抗原の性質を抗原性と呼ぶ。多くの場合、抗原は抗体を誘導する物質、免疫原、と同一であるが、抗原の中には既存の抗体に反応するけれども、生体内であらたな抗体を誘導しない物質も含まれている。このように抗原性を持つが免疫原性を持たない物質の中で特に低分子物質をハプテンと呼ぶ。ハプテンは低分子であるため、抗体の誘導に必要なT細胞を活性化する構造を持っていない。
胸腺非依存性抗原
B細胞は通常、活性化にCD4 T細胞による補助を必要とするが、これを必要としない抗原がある。これらの抗原のことを胸腺非依存性抗原 (thymus-independent antige, TI抗原) と呼ぶ。これに対し、通常のT細胞を要する抗原を胸腺依存性抗原 (thymus-dependent antigen, TD抗原) と呼ぶ[1]。 B細胞のクラススイッチにはT細胞が必要なため、TI抗原によってはIgMしか産生されない。
TI抗原にはB細胞表面の抗体に非特異的なTI-1抗原と特異的なTI-2抗原に分類される。TI-1の代表例はグラム陰性菌のリポ多糖、TI-2の代表例は細菌壁の多糖類である。
医学的な利用
医学では、細胞表面の機能性分子を抗原抗体反応による有無の検査に使う。そこから、細胞表面に発現している物質はまだ同定されていない物質でも検査対象となり、これらすべてを抗原と呼んでいる。
抗原の発現は、腫瘍(しゅよう)細胞の性状を判定するのに有用な所見であり頻用される。血中に現れた抗原は腫瘍マーカーと呼ばれ、腫瘍の早期発見や検索、術後フォローアップに重要である。
さらに、癌(がん)の表面には癌特異的な癌抗原が存在し、癌抗原をターゲットにした免疫療法としてがんワクチン療法などが癌治療に応用されている。
また、免疫細胞の持つ主要組織適合抗原(MHC、人間のものは特にHLAと呼ぶ)は自己と他者の認識を司る重要なセンサーであり、HLAの型(白血球型)は臓器移植、特に骨髄移植の際に適合させる必要がある。
脚注
- ^ Parham, Peter『エッセンシャル免疫学』笹月健彦、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2007年。