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ボルシチ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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ウクライナの紅ボルシチ

ボルシチウクライナ語: борщ、ボールシュチュ[1])は、テーブルビート(ビーツ)[2]をもとにしたウクライナの伝統的な料理で、鮮やかな深紅色をした煮込みスープである。

近世以後、ベラルーシポーランドモルドバラトビアリトアニアルーマニアロシアなどの東欧諸国に普及した。ポーランドとロシアでは自国の料理であると主張する意見も多い。現在、東欧文化圏のほかに、中央ヨーロッパギリシャイランや、北米在住の東欧系ユダヤ人[3]によっても作られており、多くの国で世界三大スープとして好まれている。

概要

ボルシチの作り方

ボルシチは、テーブルビートタマネギニンジンキャベツ牛肉などの材料を炒めてから、スープでじっくり煮込んで作る。但し、スープの中身は決まっているわけではない。それ以外の具としてソーセージハムベーコン肉だんご鶏肉などの肉類から揚げズッキーニリンゴインゲンマメなどを使ったりもする。ボルシチの素材は地域によって異なり、特にウクライナでは地方ごとに40種類以上のバリエーションがあるが、いずれもスメタナ又はサワークリームを混ぜて食べることと、主材料にテーブルビートを使用している点は共通している。仕上げに入れるハーブはディルが多いがイタリアンパセリでも代用ができる。

ボルシチを特徴づける鮮やかな深紅色は、テーブルビートの色素によるものである[4]

通常は温製で供されるが、夏季には冷製で供されることもある。具沢山になるように作るのが一般的であるが、具をすべて漉して汁だけを供する食べ方もある。ニンニクのソースをかけたパンプーシュカという揚げパンを添えることが多い。

語源

リトアニアの紫ボルシチ(サワーミルク入り)

ボルシチの語源についてはいくつの仮説があるが、定説はない。マックス・ファスマーの『ロシア語語源辞典』によれば[5]、「ボルシチ」は、欧亜で分布する多年生草のハナウド(ポルシテヴィク[6])に由来しているとある。本来のボルシチといえばこの多年生草でつくったスープをさしていたが、後世にテーブルビートのスープをさすようになったという。 また、1808年に書かれたロシアの旅行記ではボルシチの説明として「ボルシチというニンジンを一緒に煮込むことから、その名がついている」とあり、 19世紀のボルシチに必須な野菜はビーツではなくハナウドだった可能性があると言われる[7]

また、料理人の間で人気のある仮説としては[8]、「ボルシチ」(Бърщь)とは古スラヴ語のテーブルビートそのもの呼称でもあり、そのテーブルビートでつくったスープもまた「ボルシチ」と呼んでいた、というものがある。確かに、ボルシチの主な食材はテーブルビートではあるが、「ボルシチ」というテーブルビートの呼称がスラヴ諸語の辞典に登場していないので、これも仮説の域を越えない。

他の説では、「ボルシチ」とは「紅いシチー」(ブリ・シチー;бурі щі / burі shchі)を意味する単語だという指摘がある。シチーはキエフ大公国時代のキャベツ・スープであったが、ボルシチはテーブルビート(ブリャーク、意訳:「紅大根」)が加えられたスープを意味していたという。テーブルビートは温かい気候を好む植物であるために、当国の南方[9]で栽培され、その地方で「ボルシチ」を食べる風習が広まった。一方、当国の北方[10]ではテーブルビートの栽培が不可能であったため、その地方ではシチーを食べる習慣が定着したという[11]

つくり方

典型的なウクライナ風ボルシチ[12]
調味料類:
  1. 水2リットルを鍋で沸騰させ、豚肉でブイヨンを作る。
  2. 赤い色を出すためにテーブルビートを千切りもしくは摩り下ろしにし、塩と酢を加えてフライパンに入れる。ブイヨンから集めた、トマトピューレ、砂糖を焼き、鍋に入れ加えて炒め煮る。
  3. タマネギ、ニンジン、パセリの根を千切りにして炒める。
  4. 仕上がったブイヨンに四角に切ったじゃが芋を入れて沸騰させる。千切りにしたキャベツを加えて10分から15分にかけて煮る。その後、炒めたテーブルビート、タマネギ、ニンジン、パセリ、輪切りのトマト、黒胡椒、ローリエ、バターで炒めた小麦粉を加える。
  5. 5分ほど沸騰させる。その後、パセリの葉とサーロとともにおろしたニンニクを加える。沸騰させた後、火を消し、15分から20分にかけて休ませる。
  6. 味が薄かったら、塩で調整する。
  7. ボルシチを皿に盛り付け、スメタナ又はサワークリームと、細かくちぎったディルを加えて出来上がり。ニンニクのパンプーシュカを添える。

ボルシチ風スープ

宇宙食として開発されたチューブ入りボルシチ

中国台湾中華民国)、香港日本などでは、ボルシチと同じ調味料を用いながら、テーブルビートを用いずに、代用としてトマトを用いた具だくさんでオレンジ色のスープを「ボルシチ」と称している例がみられる。中国は、ロシア革命後の白系ロシア人の移住に引き続いてソ連との関係が深く、ロシア料理が西洋料理の代表であったが、テーブルビートの入手は困難であったため、正統な「紅菜湯」に対して、トマトで代用したものを「羅宋湯」と称して、洋食店で提供し普及した。「羅宋」は、上海語でルーソンと読むが、英語の「Russian」に漢字を当てたもの[13]で、「ロシアの」を意味する。香港では「茶餐廳」と呼ばれる喫茶レストランや学校の食堂でもよく出る洋食メニューである。

日本でのボルシチの紹介は、東京・新宿中村屋ロシアの作家、ウクライナ人ヴァスィリー・エロシェンコが伝え、1927年に販売されたものが本格的な始まりとされているが、このボルシチはテーブルビートを使用せず、トマトを煮込んだものである[14]。同じくボルシチを供する老舗である渋谷ロゴスキーでは、トマトを使用したものを「いなか風」、テーブルビートを使用したものを「ウクライナ風」と分けて呼び習わしている[15]

脚注

  1. ^ 英語: borsch(t)ポーランド語: barszcz, [バールシュチュ];ロシア語: ru-borshch.ogg борщ[ヘルプ/ファイル], [ボールシ、またはボールシシ]
  2. ^ ロシア語で「赤いブリャーク」(червоний буряк / chervonii buryak チェルヴォーヌィイ・ブリャーク)と呼ばれる根菜テーブルビート)を基礎に作られる。日本ではテンサイ (ビーツ砂糖大根)から作られ、これから深紅色の色素が出ると紹介されることが多いがこれは誤りである。砂糖大根は赤くなく、また甘すぎるためボルシチには用いられない。ウクライナでは、ボルシチに用いられるブリャークと砂糖大根はそれぞれ「赤いブリャーク」(червоний буряк / chervonii buryak)と「砂糖のブリャーク」(цукровий буряк / tsukrovii buryak ツクローヴイ・ブリャーク)と区別されている。日本では常食されない両者は詳しく区別されておらず、砂糖大根もボルシチに用いる赤いブリャークも等しく「ビーツ」と呼ばれている。
  3. ^ アシュケナジム移民の多かった地域(ニューヨークなど)。
  4. ^ 生のテーブルビートが入手困難なときは缶詰でも代用できるが、味は落ちる。なお、家庭でトマトピューレを用いて着色し、カブを代わりに入れる例も見かけられるが、これは正確にはボルシチとは呼ばない。
  5. ^ М. Фасмер, Этимологический сл. русского языка (В 4 т.). — М.: «Прогресс», 1986 (изд. 2-е, перев. О. Н. Трубачёва), -1:198 (ロシア語)
  6. ^ ハナウド、HeracleumБорщевик
  7. ^ ジャネット・クラークソン著 富永佐知子訳『スープの歴史』、原書房、2014年、p.119
  8. ^ ウクライナのボルシチウクライナ料理 // 世界の民族料理 (ロシア語)ウクライナ料理の歴史 (ウクライナ語)
  9. ^ 現在のウクライナと南ベラルーシの地域。
  10. ^ 現在のロシアと北ベラルーシの地域。
  11. ^ ボルシチの歴史 (ロシア語)
  12. ^ (ウクライナ語) Українські страви. К.: Державне видавництво технічної літератури УРСР, 1961.
  13. ^ 許宝華、陶寰編、『上海方言詞典』、p46、江蘇教育出版社、1997年
  14. ^ 新宿中村屋・伝統の菓史
  15. ^ メニューの歴史ロシア料理渋谷ロゴスキー

参考文献

  • (ウクライナ語) Українські страви. К.: Державне видавництво технічної літератури УРСР, 1961.
  • (ウクライナ語) Абельмас Н.В. Українська кухня: Улюблені страви на святковому столі. K., 2007.
  • (英語) Best of Ukrainian Cuisine (Hippocrene International Cookbook Series). 1998.

関連項目

外部リンク