布製マスク
布製マスク(ぬのせいマスク、英語: cloth facemask)または布マスク(ぬのマスク)は、布(通常は木綿やガーゼ)で作られた、口と鼻を覆うマスクである。サージカルマスクやN95マスクのような防毒マスクとは異なり、規格は定められていない。また、現在感染経路や粒子状物質大気汚染に対する保護手段としての有効性について、ほとんど調査されておらず、指針もない。
概要
19世紀後半から20世紀中葉にかけて、健康管理に携わる人々によって日常的に使われてきた。先進国では、1960年代に現在のサージカルマスクが主流となり、使用量を減らしたが、開発途上国では医療現場で未だに使われ続けている[1]。新型コロナウイルス感染症の流行でサージカルマスクや防毒マスクの品薄により最後の拠り所として先進国での使用が復活した[2]。日本の小中学校では、給食当番がマスクを着用することが文部科学省作成の「食に関する指導の手引」に記載されており[3]、児童生徒は市販の白いガーゼマスクを身につけるのが一般的である。
使用法
再利用できる布製マスクは、主に開発途上国や特にアジアで使われている[1]。メルトブロー製法で形成される不織布を用いて作られるサージカルマスクやN95マスクのような防毒マスクと好対照で、有効性には限界がある[5]。防毒マスクとは異なり、サージカルマスクと同様に、布製マスクは顔の周辺の密閉はできない[1]。
健康管理の環境で呼吸飛沫を通した伝染を減らす「感染源管理 (source control)」として患者に対して、またサージカルマスクや防毒マスクが入手できない時に健康管理に携わる人々により用いられている。布製マスクは一般にサージカルマスクや防毒マスクを使い果たした場合に最後の拠り所としてのみ用いるよう要請されている[1]。伝染病や粒子状物質大気汚染の双方に対して知られている防御策として家族環境や共同体環境で一般大衆からも使われている[1][6]。
数種類の布製マスクが商業上特にアジアで手に入る[6]。手製のマスクも、バンダナ[4]やTシャツ[4][5]、ハンカチ[5]、襟巻き[5]、タオル[7]を使って即席で作れる。
有効性
2015年時点で、再利用可能な布製マスクの使用に関するランダム化比較試験や指針は存在しない[1][7]。ほとんどの調査は、使い捨てのサージカルマスクが普及する前の20世紀前半に行われた。ある2010年の研究は、微粒子の40%から90%が布製マスクを貫通していることを見出した[1]。布製マスクの性能は、編み方の細かさや層の数だけでなく、形や相性、編み方の種類によっても[6]大きく変化する[7]。2006年時点で、布製マスクをサージカルマスクとして使うことついて、アメリカ合衆国のアメリカ食品医薬品局は認可していない[5]。
歴史
最初に記録された布製マスクの使用は、パリで1897年に手術を行ったフランス人外科医ポル・ベルジェに関係がある[8]。マスクは20世紀前半に伝染病を防止するのに使われるようになった[1][7]。腺ペストが発生した1910年秋に中国の宮廷で働いていた伍連徳による意匠は、実験でバクテリアから使用者を守った最初の例で、スペインかぜでマスクが使われることに寄与した[9]。健康管理に携わる人々による最初のマスク使用の研究は、1918年に行われた[1][7]。1940年代、寒冷紗から作られたマスクは、結核から看護師を守るのに使われた[10]。
開発途上国ではいまだに使われ続けているが[1]、布製マスクは主として1960年代に不織布で作られた現在のサージカルマスクに取って代わられた[5][7]。2002年-2004年のSARS発生の際のアジアや2014年の西アフリカエボラ出血熱流行の際の西アフリカで使われた[1]。
2020年3月、新型コロナウイルス感染症の流行に際して、アメリカ合衆国アメリカ疾病予防管理センター (CDC) は、医療従事者が防毒マスクやサージカルマスクを手に入れられず、最後の拠り所として、アメリカ国立労働安全衛生研究所で評価・承認されていないマスクや手製マスクを使う必要がある場合においても、注意を払うように呼びかけた[11]。2020年4月、CDCは無症候キャリアや発症前の患者による感染が有意であることから、特に市中感染が著しい地域の、食料品店やドラッグストアのような社会的距離を維持するのが難しい公共の場では、布で顔を覆うように公衆に勧告した[4][12][2]。
出典
- ^ a b c d e f g h i j k MacIntyre, C. R.; Chughtai, A. A. (April 9, 2015). “Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings” (英語). BMJ 350 (apr09 1): h694–h694. doi:10.1136/bmj.h694. ISSN 1756-1833 .
- ^ a b “米国の新型コロナウイルス対策が、一転して「布マスクでも着用すべき」になった理由|WIRED.jp”. WIRED.jp. WIRED. 2020年4月16日閲覧。
- ^ “食に関する指導の手引第5章”. 文部科学省. 2020年4月22日閲覧。
- ^ a b c d “Use of Cloth Face Coverings to Help Slow the Spread of COVID-19” (英語). U.S. Centers for Disease Control and Prevention (April 4, 2020). April 5, 2020閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ a b c d e f Reusability of Facemasks During an Influenza Pandemic: Facing the Flu. Washington, D.C.: National Academies Press. (July 24, 2006). pp. 6, 36–38. doi:10.17226/11637. ISBN 978-0-309-10182-0
- ^ a b c Shakya, Kabindra M.; Noyes, Alyssa; Kallin, Randa; Peltier, Richard E. (May 1, 2017). “Evaluating the efficacy of cloth facemasks in reducing particulate matter exposure” (英語). Journal of Exposure Science & Environmental Epidemiology 27 (3): 352–357. doi:10.1038/jes.2016.42. ISSN 1559-064X .
- ^ a b c d e f Chughtai, Abrar Ahmad; Seale, Holly; MacIntyre, Chandini Raina (June 19, 2013). “Use of cloth masks in the practice of infection control – evidence and policy gaps”. International Journal of Infection Control 9 (3). doi:10.3396/IJIC.v9i3.020.13. ISSN 1996-9783 .
- ^ Lowry, H. C. (November 1, 1947). “Some Landmarks in Surgical Technique”. The Ulster Medical Journal 16 (2): 102–13. PMC 2479244. PMID 18898288 .
- ^ Wilson, Mark (March 24, 2020). “The untold origin story of the N95 mask” (英語). Fast Company. March 27, 2020閲覧。
- ^ McNett, Esta H. (January 1, 1949). “The Face Mask in Tuberculosis: How the cheese-cloth face mask has been developed as a protective agent in tuberculosis”. AJN The American Journal of Nursing 49 (1): 32–36. ISSN 0002-936X .
- ^ “Strategies for Optimizing the Supply of N95 Respirators: Crisis/Alternate Strategies” (英語). U.S. Centers for Disease Control and Prevention (March 17, 2020). March 28, 2020閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Recommendation Regarding the Use of Cloth Face Coverings, Especially in Areas of Significant Community-Based Transmission” (英語). U.S. Centers for Disease Control and Prevention (April 3, 2020). April 5, 2020閲覧。