コンテンツにスキップ

大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Annihilation00 (会話 | 投稿記録) による 2016年4月17日 (日) 02:14個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎その他)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(En:Transatlantic Trade and Investment Partnership もしくは TTIP)は、米国EUとの間の協定であり、互いの市場に存在する規制や関税をカットする狙いがある[1]。 欧州版TPPである。TPP(Trans-Pacific Partnership)は環太平洋戦略的経済連携協定と訳されているが、transは環と訳されるべきではない。 TTIPは安全基準を下げ、公的サービスの質を下げ、人々の権利を脅かすものである。2015年10月時点で250万人が反対の署名を行っている[2]

しばしばティーティップのように発音される。

概説

2007年4月30日にジョージ・W・ブッシュアンゲラ・メルケルジョゼ・マヌエル・ドゥラン・バローゾの3人がホワイトハウスで大西洋横断経済会議を発足させた。これが大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定の母体となった。

表向きはEUと米国との貿易協定という事になっているが、実質は民主主義にダメージを与える協定である[3]。 それまで社会の利益となる全てのサービスを政府がコントロールしてきたが、TTIPによってその権限が民間企業に移ることになりうる[4]。TTIPは2015年10月時点では依然として交渉段階であるが、基本的サービスに関してとてつもなく大きな市場開放がなされうる。それは水道事業であったり、郵便健康保険分野であったりする。それらの市場に企業が参入し独占する権利を与えるのである[4]。 国営の水道事業では水道水の価格に上限が設定されているが、民営化されれば価格の上限に圧力がかかり、公共の福祉を害することになる。

規制の緩和・撤廃

TTIPは単なる関税引き下げの協定ではない。TTIPは貿易を妨げる規制を緩和もしくは撤廃するための協定である[3]化粧品に使われる禁止化学薬品、遺伝子組換え食品(GMO)、肉に使われる成長ホルモンなどについての規制も緩和・撤廃の対象になりうる[5]

環境保護や食品安全規制についてはEUが米国より強いために、TTIPを批准することでそれらの基準を米国の基準にまで下げなくてはならない[5]

化粧品についても、EUは1200もの薬品を禁じているが米国が禁じる薬品数は12である[5]

ISDS

TTIPにはInvestor-state dispute settlement(ISDS)も含まれている。民間企業の経済的損失の原因となる政策(公共財のための政策も含む)が採られていた場合に、その民間企業がその政策を採った国家を訴えることができるようになる[3]。例えばタバコの宣伝を制限する政策は公共のためであるが、タバコ会社がその規制を不服とし、ISDSを利用して国を訴えるというシナリオもある。

多くの企業が既にISDSを利用している。ヴェオリア・エンバイロメントはフランス政府による最低賃金上げを不服として訴えている。バッテンフォールはドイツが原子核エネルギーを禁止したことを不服として訴えている[2]フィリップ・モリスとオーストラリアによるタバコのパッケージングに関する論争はしばしば引き合いに出される[1]

国際連合の調べでは2000年から2015年の間に米国企業が主権国家を訴えることで何十億ドルという金額を勝ち取っている[6]

政府による水道水価格の上限設定はすでにISDSの標的にされている[4]

政府調達

企業が政府調達へ際限なくアクセスすることで、政府が地方の非営利供給団体を支援する権利が制限されうる[4]。 公的セクター雇用が民間セクターにアウトソースされ、より低レベルの賃金や労働環境で従業員が働くことになる。

米国のロビー団体AHCと米国政府はTTIPにおける調達の閾値を下げることを望んでいる。

決議

TTIP交渉を進める案はドイツのSPD主導で作成され密かな協定とされた[7]。 そしてギリシャ危機の背後に隠れる形で議会が開かれた。議会での決議にも問題があった。欧州議会議員1人あたり40人のロビイストらが付き添っていた[3]。 2015年7月、欧州議会にて賛成436反対241でTTIPの提案が可決され、TTIP交渉が継続することになった。 この案にはイタリアやスペインなどの社会民主主義政党も賛成票を投じた。一方英国の労働党の欧州議会議員らはTTIP案に反対票を投じた。フランス、ベルギー、オランダの社会民主主義らも反対票を投じた。

ISDSの修正は多くの人が求めていたが投票にかけられず、表面を変えただけのISDSが承認された。マルティン・シュルツはISDSを修正する動きを妨げた[7]

懸念

TTIPは非常に問題のある協定だとする多方面からの指摘がある。 そもそもTTIPの交渉が非公開である[8]。 TTIPによってEU産の車の輸出が2倍になると書かれているが、むしろ米国からEUへの輸出が勝り、EU製造業の体力を削ぐのではと考えられている。 TTIPはネガティブリスト協定であり、政府の活動項目に関して明確に除外されていない項目はTTIPの対象となりうる。 政府の活動が投資家の将来的損失になるかどうかを推しはかることはできないだろう[8]。 「TTIPに関わる全ての契約は、当該国家の福祉・環境保護目的の法的措置を妨害する限り、無効となる」という文言を今後の全ての貿易協定に入れるべきという声もある。ギリシャでは急進左派連合がTTIPに反対すると述べている[1]ウィキリークスは情報提供に10万ユーロの賞金をかけた[9]

その他

このTTIPは英国の欧州連合離脱に関連する案件の一つにもなっている。2016年6月に開かれるEU離脱の是非を問う国民投票において、TTIPはとりわけ左側の人達の間での議論の争点となりうる[10]

もしEUと米国がTTIPを締結すれば英国の国民保健サービス(NHS)が部分的に民営化されてしまうと専門家が指摘している。NHSのいくらかの業務が民間会社に委託され、それらのサービスをNHSに戻すことは難しくなるというのである[10]

TTIPに含まれる「市場アクセス条項」が国家による独占市場(公的サービス等)を禁じているためである[5]

一方のビジネス・イノベーション・技能省は、TTIPその他の貿易・投資協定でNHSが脅かされることはありえないと主張している[10]。だが英国政府はTTIPの詳細な情報を英国国民に伝えることを拒否している。

ノーベル賞経済学者ジョセフ・スティグリッツは、もしEUがTTIPを締結するならば英国はEU離脱するほうが経済状況は良くなるだろうと述べている[6]

関連項目

脚注

  1. ^ a b c TTIP under pressure from protesters as Brussels promises extra safeguardsP. Inman and L. Elliott, The Guardian, 19 Feb 2015
  2. ^ a b Brexit, TTIP and Labour's Fight for a Fair EU Trade PolicyJ. Kirton-Darling, The Huffington Post, 29 Oct 2015
  3. ^ a b c d You won't know this, but a very important TTIP vote happened in Europe this weekL. Williams, The Independent, Voices, 10 Jul 2015
  4. ^ a b c d Public Services Under Attack through TTIP and CETA Atlantic Trade DealsCorporate Europe Observatory, Centre for Reseach on Globalization, 19 Oct 2015
  5. ^ a b c d What is TTIP and why is it so controversial?I. Fraser, The Daily Telegraph, 11 Jun 2015
  6. ^ a b Brexit better for Britain than toxic TTIP, says Joseph StiglitzRT, 3 Mar 2016
  7. ^ a b TTIP will force all Europeans to take Greece's medicineJ. Hilary, Politics.co.uk, 13 Jul 2015
  8. ^ a b This US-Europe trade deal needs revisionThe Guardian, 24 Feb 2015
  9. ^ WikiLeaks goes after hyper-secret Euro-American trade pact 11 August 2015
  10. ^ a b c NHS could be part-privatised if UK and EU agree controversial TTIP trade deal, expert warnsI. Johnston, The Independent, 21 Feb 2016