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シュルツ方式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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シュルツ方式選択者を表す投票を用いて単一の当選者を選ぶ1997年にマルクス・シュルツが開発した選挙方法である。英語ではシュルツ方式はSchwartz Sequential DroppingSSD)、Cloneproof Schwartz Sequential DroppingCSSD)、Beatpath MethodBeatpath WinnerPath VotingPath Winnerとしても知られている。

シュルツ方式は次のことを表すコンドルセ方式である。グループで比較して全ての候補者の中から相応しいと思う候補者がいれば、この候補者はシュルツ方式が適用される場合に当選者となる。

現在シュルツ方式は最も広く使われるコンドルセ方式である(一覧)。シュルツ方式はウィキメディア財団DebianGentooSoftware in the Public Interestなどの数個の団体で用いられている。

(下記に定義する)シュルツ方式の出現で候補者の整理が行われている。従って数個の議席が得られるなら、kの最高位の候補者がkの議席を得られるようにすることでこの方式は修正することなくこの目的に用いることができる。更に比例代表選挙には単独移譲投票変形が提案されている。

シュルツ方式に関する解説

投票用紙

シュルツ方式に対する投票形式は、他の選好投票における単議席単票制と同じである。投票者はそれぞれに拘束が認められる候補者に関する整理された選好一覧を作成しなければならない。

投票者が投票用紙に選好を明記する一つの典型例は、下記の通りである。投票用紙にはそれぞれ候補者が全て一覧化され、投票者はそれぞれに番号を用いて選好順にこの一覧に番号を振る。投票者は最も好ましい候補者に「1」を、次に好ましい候補者に「2」を付けるというように番号を振る。投票者はそれぞれに次のように任意に行える。

  • 複数の候補者に同じ選好ができる。このことはこの投票者が立候補者間に差異を付けられないことを示している。
  • 選好を表すのに非連続番号を用いることができる。候補者が投票者の好みにより選好の絶対的な番号ではなく順位付けされて整理されるにすぎないためにこのことは選挙の結果に影響はない。
  • 候補者を順位付けしないままでも良い。投票者が候補者全てに順位を付けない場合、このことでこの投票者は(i)順位付していない候補者全てより順位付けした候補者全ての方が厳密には良くて(ii)順位付けしていない候補者間に差異は付けられないと解釈される。

シュルツ方式

W候補者よりV候補者を選択する候補者の数をd[V,W]とする。

強さpのX候補者からY候補者へのは、下記で得られるような候補者C(1),...,C(n)のである。

  1. C(1)=XでありC(n)=Yである。
  2. 全てについてi=1,...,(n-1):d[C(i),C(i+1)] > d[C(i+1),C(i)].
  3. 全てについてi=1,...,(n-1):d[C(i),C(i+1)] ≥ p.

A候補者からB候補者への最強の道の強さp[A,B]は、その強さのA候補者からB候補者への道があるような最大の価値である。A候補者からB候補者への道が全くなければ、p[A,B]=0である。

p[D,E] > p[E,D]であれば、D候補者はE候補者より良い

他のE候補者全てにとってp[D,E] ≥ p[E,D]であれば、D候補者は当選者の可能性がある

p[X,Y] > p[Y,X]とp[Y,Z] > p[Z,Y]が共にp[X,Z] > p[Z,X]を含むことが証明できる[1]:§4.1。従って(1)上記の「より良い」定義が本当に推移関係を証明し(2)他のE候補者全てにとってp[D,E] ≥ p[E,D]とともに少なくとも一人のD候補者がいつもいることを保証する。

用例

45人の投票者が5人の候補者を順位付けする下記の例を考えてみよう。

  • 5 ACBED(5人の投票者がA > C > B > E > Dと選好することを表す。)
  • 5 ADECB
  • 8 BEDAC
  • 3 CABED
  • 7 CAEBD
  • 2 CBADE
  • 7 DCEBA
  • 8 EBADC

初めに組になった選好を計算する。例えばAとBを比較する場合にBよりAを好む投票者が5+5+3+7=20いて、AよりBを好む投票者が8+2+7+8=25いる。そこでd[A,B]=20でd[B,A]=25となる。組になった選好の全体像はこうなる。

Directed graph labeled with pairwise preferences d[*, *]
組になる選好の素点
d[*,A] d[*,B] d[*,C] d[*,D] d[*,E]
d[A,*] 20 26 30 22
d[B,*] 25 16 33 18
d[C,*] 19 29 17 24
d[D,*] 15 12 28 14
d[E,*] 23 27 21 31

最強の道を視覚化するために右の図式は、直接的な票の形式でd[A,B]とともにAからBへの矢印で表している(この例では結果に影響を及ぼさないことを示す投票者の大半をd[A,B]が表す際にd[A,B]を示すだけの図式を取り散らかすことのないように)。

道の強さが最弱なリンクの強さであることを思い出してください。最強の道の強さを計算するとp[B,D]=33となる一例をあげると、BからDへの最強の道は、強さ33の直線道(B,D)である。対象としてp[A,C]も計算してみましょう。AからCへの最強の道は、強さ26の直線道(A,C)ではなく、逆に最強の道は、強さ最弱(30,28)=28の非直線道(A,D,C)である。

X・Y候補者の組それぞれにとって下記の表は、下線を引いた最弱のリンクとともにX候補者からY候補者への最強道を赤で示している。

最強の道
... Aに ... Bに ... Cに ... Dに ... Eに
Aから ...
A-(30)-D-(28)-C-(29)-B
A-(30)-D-(28)-C
A-(30)-D
A-(30)-D-(28)-C-(24)-E
Aから ...
Bから ...
B-(25)-A
B-(33)-D-(28)-C
B-(33)-D
B-(33)-D-(28)-C-(24)-E
Bから ...
Cから ...
C-(29)-B-(25)-A
C-(29)-B
C-(29)-B-(33)-D
C-(24)-E
Cから ...
Dから ...
D-(28)-C-(29)-B-(25)-A
D-(28)-C-(29)-B
D-(28)-C
D-(28)-C-(24)-E
Dから ...
Eから ...
E-(31)-D-(28)-C-(29)-B-(25)-A
E-(31)-D-(28)-C-(29)-B
E-(31)-D-(28)-C
E-(31)-D
Eから ...
... Aに ... Bに ... Cに ... Dに ... Eに
最強の道の強さ
p[*,A] p[*,B] p[*,C] p[*,D] p[*,E]
p[A,*] 28 28 30 24
p[B,*] 25 28 33 24
p[C,*] 25 29 29 24
p[D,*] 25 28 28 24
p[E,*] 25 28 28 31

ここでシュルツ方式による結果を決定できる。例えばAとBを比較すると、28=p[A,B] > p[B,A]=25であるゆえにシュルツ方式ではA候補者はB候補者より良い。別の例では、31=p[E,D] > p[D,E]=24であるゆえにE候補者はD候補者より良い。この方法を続ければ、シュルツ順位はE > A > C > B > Dであり、Eが当選したとの結果を得る。言い方を変えれば、Eは他の全てのX候補者にとってp[E,X] ≥ p[X,E]であるゆえに当選した。

実践

シュルツ方式を実践するにあたって唯一困難な段階は、最強の道の強さを計算することである。しかしこのことは時にwidest path problemとして知られる表理論における良く知られた問題である。従って強さを計算する単純な一つの方法は、ワーシャル・フロイド法の変形である。下記の擬似コードは、アルゴリズムを表している。

# Input: d[i,j](j候補者よりi候補者を好む投票者の数)
# Output: p[i,j](i候補者からj候補者への最強の道の強さ)

for i from 1 to C
   for j from 1 to C
      if (i <> j) then
         if (d[i,j] > d[j,i]) then
            p[i,j] := d[i,j]
         else
            p[i,j] := 0

for i from 1 to C
   for j from 1 to C
      if (i <> j) then
         for k from 1 to C
            if (i <> k and j <> k) then
               p[j,k] := max ( p[j,k], min ( p[j,i], p[i,k] ) )

このアルゴリズムは優れていて、Cが候補者の数であるC3に比例してランニング時間がある。(このことはd[*,*]を計算するランニング時間を数えるものではなく、最も簡単な方法で実践するなら、C2掛ける投票者の数に比例して時間を使うことになる。)

束縛と二者択一の実践

利用者に選好にあたって束縛があることを認めた場合、シュルツ方式の結果は、定義[*,*]におけるこの束縛をどう解釈するかによっておのずと違ってくる。本来の選択は二つあり、d[A,B]は厳密にBよりAを好む(A>B)投票者を表すか、(A>Bの投票者)引く(B>Aの投票者)のを表すかである。例え如何にdが定義されていても、シュルツ方式の順位付けは、周回するものではなく、dは束縛されない独自のものだと思われる[1]

シュルツ方式の順位付けにおける束縛はありそうもないが[2]、可能性はある。シュルツの最初の論文は[1]、無作為に選んだ投票者に従って束縛をなくし必要に応じて巡回することを提案した。

シュルツ方式による当選者とする二者択一の手間取る方法に下記の手続きがある。

  1. 全候補者の載った完璧な一覧表を作成し、可能な限り特定の候補者が不利にならないようにする。
  2. 反復して[a]シュワルツセットではない候補者を全て削除し(例:他の候補者の得票数に達しない候補者)[b]最弱のリンクを削除する。
  3. 当選者は削除してはならない。

基準を満たした例と満たしていない例

満たした基準

シュルツ方式は下記の基準を満たしている。

満たしていない基準

シュルツ方式はコンドーセット基準を満たしているので、自動的に下記の基準は満たしていない。

同様にシュルツ方式は独裁制ではなく満場一致の投票で一致しているので、アローの不可能性定理はこの方式が基準を満たしていないことを暗示している。

比較表

下記の表は、シュルツ方式と他の選好投票単議席単票制を比較したものである。

単一強健 コンドーセット 多数派 コンドーセット敗者 多数派敗者 相互多数派 スミス ISDA クローン独立 逆行対称 多項式時間 参加, 一貫性
Schulze Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes No
順位づけられた組み合わせ Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes No
ケメニー・ヤング Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes Yes No Yes No No
ナンソン No Yes Yes Yes Yes Yes Yes No No Yes Yes No
ボールドウィン No Yes Yes Yes Yes Yes Yes No No No Yes No
Instant-runoff voting No No Yes Yes Yes Yes No No Yes No Yes No
ボルダ Yes No No Yes Yes No No No No Yes Yes Yes
バックリン Yes No Yes No Yes Yes No No No No Yes No
クームズ No No Yes Yes Yes Yes No No No No Yes No
ミニマックス Yes Yes Yes No No No No No No No Yes No
小選挙区制 Yes No Yes No No No No No No No Yes Yes
反小選挙区制 Yes No No No Yes No No No No No Yes Yes
コンティジェント投票 No No Yes Yes Yes No No No No No Yes No
スリランカコンティジェント投票 No No Yes No No No No No No No Yes No
補足投票 No No Yes No No No No No No No Yes No
ドッジソン No Yes Yes No No No No No No No No No

シュルツ方式と順位づけられた組み合わせの主な違いは(両方とも上記の表では同じ可否をチェックしている)、この例で見ることができる。

候補者の組み合わせXのミニマックススコアが候補者B ∈ Xに対する候補者A ∉ Xの最強の組み合わさった当選の強さと仮定する。この時シュルツ方式は(順位づけられた組み合わせではない)、当選者が常に最小のミニマックススコアで組み合わされた候補者であることを保障する[1]:§4.8。そこである意味でシュルツ方式は当選者を決定する際に覆さなければならない最強の組み合わさった当選を最小化する。

シュルツ方式の歴史

シュルツ方式は1997年にマルクス・シュルツにより開発された。初めて公のメーリングリストで1997年-1998年と[4]2000年に[5]討論された。その後シュルツ方式はSoftware in the Public Interest(2003年)[6]Debian(2003年)[7]Gentoo(2005年)[8]TopCoder(2005年)[9]ウィキメディア(2008年)[10]KDE(2008年)[11]Free Software Foundation Europe(2008年)[12]スウェーデン海賊党(2009年)[13]ドイツ海賊党(2010年)[14]などで用いられている。フランス語版ウィキペディアではシュルツ方式は2005年に多数決で賛成された二つの候補者が多数いる場合の方式の一つであり[15]、数回用いられている[16]

2011年、シュルツは学術誌Social Choice and Welfareでこの方式を発表した[1]

シュルツ方式の利用

ウィキメディア理事会選挙用の投票用紙見本

シュルツ方式は現在議会選挙では使われていない。しかしスウェーデンの海賊党の代議員予備選挙で用いられている。他の公的機関でも支援を受け始めている。シュルツ方式を現在採用している機関は、次の通りである。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n Markus Schulze, A new monotonic, clone-independent, reversal symmetric, and condorcet-consistent single-winner election method, Social Choice and Welfare, volume 36, number 2, page 267–303, 2011. Preliminary version in Voting Matters, 17:9-19, 2003.
  2. ^ 投票者の数が候補者の数を上回る場合の合理的で確率論的な仮説の下で
  3. ^ a b c Douglas R. Woodall, 選好選挙規則の所有, Voting Matters, issue 3, pages 8-15, December 1994
  4. ^ 下記を参照のこと。
  5. ^ 下記を参照のこと。
  6. ^ a b Process for adding new board members, January 2003
  7. ^ a b 下記を参照のこと。
  8. ^ a b 下記を参照のこと。
  9. ^ a b 下記を参照のこと。
  10. ^ a b 下記を参照のこと。
  11. ^ a b section 3.4.1 of the Rules of Procedures for Online Voting
  12. ^ a b 下記を参照のこと。
  13. ^ a b 下記を参照のこと。
  14. ^ a b 11 of the 16 regional sections and the federal section of the Pirate Party of Germany are using LiquidFeedback for unbinding internal opinion polls. In 2010/2011, the Pirate Parties of Neukölln (link), Mitte (link), Steglitz-Zehlendorf (link), Lichtenberg (link), and Tempelhof-Schöneberg (link) adopted the Schulze method for its primaries. In 2011, the Pirate Party of Berlin adopted this method for its primaries (link)
  15. ^ a b Choix dans les votes
  16. ^ fr:Spécial:Pages liées/Méthode Schulze
  17. ^ Election of the Annodex Association committee for 2007, February 2007
  18. ^ Condorcet method for admin voting, January 2005
  19. ^ 下記を参照のこと。
  20. ^ Project Logo, October 2009
  21. ^ Codex Alpe Adria Competitions”. 0xaa.org (2010年1月24日). 2010年5月8日閲覧。
  22. ^ Fellowship Guidelines” (PDF). 2011年6月1日閲覧。
  23. ^ Report on HackSoc Elections, December 2008
  24. ^ Adam Helman, Family Affair Voting Scheme - Schulze Method
  25. ^ appendix 1 of the constitution
  26. ^ Logo Competition, May 2009
  27. ^ 下記を参照のこと。
  28. ^ Guidance Document”. Eudec.org (2009年11月15日). 2010年5月8日閲覧。
  29. ^ article XI section 2 of the bylaws
  30. ^ Democratic election of the server admins, July 2010
  31. ^ article 51 of the statutory rules
  32. ^ See:
  33. ^ GnuPG Logo Vote, November 2006
  34. ^ §14 of the bylaws
  35. ^ User Voting Instructions”. Gso.cs.binghamton.edu. 2010年5月8日閲覧。
  36. ^ Haskell Logo Competition, March 2009
  37. ^ A club by any other name ..., April 2009
  38. ^ 下記を参照のこと。
  39. ^ Knight Foundation awards $5000 to best created-on-the-spot projects, June 2009
  40. ^ 下記を参照のこと。
  41. ^ article 8.3 of the bylaws
  42. ^ 下記を参照のこと。
  43. ^ Lumiera Logo Contest, January 2009
  44. ^ The MKM-IG uses Condorcet with dual dropping. That means: The Schulze ranking and the ranked pairs ranking are calculated and the winner is the top-ranked candidate of that of these two rankings that has the better Kemeny score. See:
  45. ^ Wahlmodus” ((ドイツ語)). Metalab.at. 2010年5月8日閲覧。
  46. ^ Benjamin Mako Hill, Voting Machinery for the Masses, July 2008
  47. ^ 下記を参照のこと。
  48. ^ 下記を参照のこと。
  49. ^ 2009 Director Elections
  50. ^ NSC Jersey election, NSC Jersey vote, September 2007
  51. ^ 2010 OpenStack Community Election, November 2010
  52. ^ Voting Procedures”. Parkscholars.org. 2010年5月8日閲覧。
  53. ^ §6(10) of the bylaws
  54. ^ 23 January 2011 meeting minutes
  55. ^ Piratenversammlung der Piratenpartei Schweiz, September 2010
  56. ^ 2006 Community for Pittsburgh Ultimate Board Election, September 2006
  57. ^ LogoVoting, December 2007
  58. ^ 下記を参照のこと。
  59. ^ Squeak Oversight Board Election 2010, March 2010
  60. ^ 下記を参照のこと。
  61. ^ Election status update, September 2009
  62. ^ See this mail.
  63. ^ See:
  64. ^ See e.g. here (May 2009), here (August 2009), and here (December 2009).
  65. ^ See here and here.
  66. ^ 下記を参照のこと。

外部リンク

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