法人税
法人税(ほうじんぜい、英語:Corporation Tax)とは、法人の所得金額などを課税標準として課される税金、国税で、直接税、広義の所得税の一種。
日本の法人税は主に法人税法(昭和40年法律第34号)に規定されているが、租税特別措置法や震災特例法などの特別法によって、修正を受ける。
根拠
法人税の課税根拠については、私法上の議論を踏まえて、次の二つの考え方に分かれる。
- 法人擬制説:法人は、単に法的に擬制された存在であって、所得は株主や出資者のものであり、法人税はこれらの者に対する所得税の前取りである。したがって、法人税は、個人所得税の源泉徴収と同一視でき、経済的二重課税は個人において排除すれば足りることから、税率も平均税率でよいこととなる。
- 法人実在説:法人は、個人から別個独立した権利能力を有する法的主体であるから、課税面においても法人自らが納税主体になりうる。したがって、法人には個人と同様に担税力に差異があることから、税率は累進税率を適用すべきである。さらに、法人所得税と個人所得税の間には経済的二重課税は生じず、その排除措置を講ずる必要はないこととなる。なお、この説は法人独立説と呼ばれることもある。
日本の法人税
日本の法人税は、当初は法人に対する所得税の一種として導入され、1899年の所得税法改正により新設された第一種所得(法人所得税)に由来する。1940年に法人に対する所得税が分離する形(法人税法の制定)によって成立した。
かつての高度経済成長時代における基幹税の役割を果たしていたが、バブル経済のころに所得税収に抜かれ、次第にその地位を下げつつある。
しかし、80年代からの大幅な所得税減税(約30%)や、定率減税、バブル崩壊後の景気低迷や、90年代後半の金融危機以後の景気低迷による雇用者報酬の伸び悩みなどにより所得税収が大幅に減少(1991年:26.7兆円→2006年:14.1兆円)、2003年からの量的金融緩和政策によるリフレ政策や、輸出面での好調から2006年には1988年以来の税収項目1位となった。2007年の国税の税収に占める割合は、所得税に次ぎ第2位である。
2008年は予算時点では、1位であるが、アメリカ発の金融危機の影響により各社が軒並み赤字となっていることから、その地位が下がることは必至であろう。
また、2002年度からは子会社などへの利益移転や損失隠し飛ばしを阻止するため、連結納税制度が導入され、グループ企業が連結での業績で法人税を納税できる制度ができた。企業グループによっては節税できるようになった。 また、IT投資促進税制(IT投資減税、2005年度まで)、研究開発促進税制(研究開発減税)が整備され、企業のIT投資、研究開発へのインセンティブとなっている。
一方、経団連をはじめとする企業側は、日本の法人税率の高さが生産の海外移転につながっていると主張し、米国と同等であるが、(EU統合を契機に法人税引き下げ競争の起こった)欧州と比べると高い日本の法人税率引き下げを求めている。ただし、国際的な法人税率引き下げ競争は、実質的な輸出補助金であるとみなされ、WTO上は原則違法であり、報復関税の対象となる。国際的な税率引き下げ競争に対しては、WTOなどの国際社会における枠組みの中でかかる競争を制限することが理想である。
日本の法人税は、税収の構成比では、アメリカ(15.1%)、イギリス(11.5%)、フランス(8.2%)、ドイツ(9.9%)と比較して最も高い(28.1%)。[1]
納税義務者
- 内国法人は、その全世界所得について納税義務を負う。ただし、内国法人のうち、公益法人等、人格のない社団等については、収益事業を営む場合又は退職年金業務等を営む場合にのみ納税義務を負う(法人税法4条1項)。
- 外国法人は、国内源泉所得があるとき又は退職年金業務等を行うときには、納税義務を負う。ただし、外国法人のうち、公益法人等または人格のない社団等については、国内源泉所得で収益事業から生じるものがある場合にのみ納税義務を負う(法人税法4条2項)。
- 公共法人には、上記1、2にかかわらず、納税義務がない(法人税法4条3項)。
課税の範囲
法人税が課税される対象は、次の4つに区分される。
- 各事業年度の所得に対する法人税
- 各連結事業年度の連結所得に対する法人税
- 退職年金等積立金に対する法人税
- 清算所得に対する法人税
申告、納付
法人税率の推移
- 35.0%
- 1952年 42.0%
- 1955年 40.0%
- 1958年 38.0%
- 1965年 37.0%
- 1966年 35.0%
- 1970年 36.75%(所得税減税に伴う税源確保)
- 1974年 40.0%(所得税の大幅減税に伴う財源確保)
- 1981年 42.0%(財政再建のため)
- 1984年 43.3%(所得税減税に伴う財源確保)
- 1988年 42.0%(暫定税率の期限切れ)
- 1989年 40.0%(抜本改正経過税率、消費税導入)
- 1990年 37.5%(抜本改正本則税率、消費税導入)
- 1998年 34.5%
- 1999年以降 30.0%
- 2003年資本金1億円以上の法人に対する法人事業税導入(赤字でも徴税する為)
- 上記税率は国税法人税のみ。法人地方税・法人事業税を含めた法定実効税率は現在多くの企業においておよそ40%。
- うち期末資本金が1億円を超えない普通法人および相互会社について
- 期末資本金が1億円以下の普通法人(いわゆる中小企業)および人格の無い社団
- 所得金額のうち年800万円以下の金額 22%
- (平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間に終了する事業年度では18%)
- 所得金額のうち年800万円を超える金額 30%
- 公益法人等、協同組合等、特定の医療法人 22%
- 組合員数50万人以上・店舗売上高1,000億円以上の特定協同組合等(大規模生協)
- 所得金額のうち年10億円以下の金額 22%
- 所得金額のうち年10億円を超える金額 26%
中小企業優遇税制
中小企業に対しては、租税特別措置法により税率の軽課や損金算入枠の拡大等といった優遇的調整がされている。[2]但し、法人税法本法には中小企業に対する優遇を示唆する条文はない。
繰越欠損金
赤字(欠損金)を出した企業の場合、その赤字を5年にわたって繰り越すことができ、利益と相殺できる。
この点において、国内からは否定的な意見がある(共産党など)が、欠損金の繰越制度は多くの国で採用されており、ドイツやイギリスに至っては、この繰越期間が無制限である。[2]
税収の推移
財務省の統計を参照(法人減税と不景気で過去最高を記録した1988年に比べ2002年は10兆円の減収となっている。)
- 1984年 12兆円
- 1985年 13.1兆円
- 1986年 15.8兆円
- 1987年 18兆円
- 1988年 約19兆円(税率42%)(過去最高)
- 1989年 約18兆4000億円(税率40%)
- 1997年 13兆4754億2600万円(税率37.5%)
- 1998年 11兆4231億9400万円(税率34.5%)
- 1999年 10兆7959億8500万円(税率30.0%)
- 2000年 11兆7471億9400万円
- 2001年 10兆2577億9100万円
- 2002年 9兆5234億3800万円
- 2003年 10兆1151億9400万円
- 2004年 11兆4436億9100万円
- 2005年 13兆2735億6700万円
- 2006年 14兆9178億7700万円
- 2007年 14兆7443億9800万円