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スベスベマンジュウガニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
滑々饅頭蟹から転送)
スベスベマンジュウガニ
沖縄県西表島で撮影された野生個体。
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 甲殻綱 Crustacea
: エビ目(十脚目) Decapoda
下目 : カニ下目 Brachyura
: オウギガニ科 Xanthidae
: マンジュウガニ属 Atergatis
: スベスベマンジュウガニ A. floridus
学名
Atergatis floridus
(Linnaeus1767)
和名
スベスベマンジュウガニ
英名
-

スベスベマンジュウガニ(滑々饅頭蟹、Atergatis floridus)は、エビ目カニ下目・オウギガニ科・マンジュウガニ属 に分類されるカニ有毒種。

生態

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甲長3.5cm、甲幅5cmほど[1]の小型のカニで、インド洋から西太平洋に分布し、日本では千葉県から沖縄県にかけての太平洋岸の岩礁海岸サンゴ礁の潮干帯に生息し[2]、水深100mまでに生息する。夜行性と考えられており[2]、飼育下でもほとんど動かない[2]。あまりすばやく逃げないので、磯遊びなどで見かける機会もある。

名のとおり、甲は半球型に盛り上がり[1]、表面は滑らかである[1]。体色は赤褐色から紫褐色[2]。灰白色の斑紋がある[2]。鋏の先は黒い。海藻貝類ゴカイなどを食べる。

クロダイなどの魚が好んで食べる「タンクガニ」はスベスベオウギガニという別種のカニであり、本種とは関係がない。

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本種は有毒ガニであり食べられない。これまでにこのカニから検出された毒成分には、麻痺性貝毒(PSP)の成分のゴニオトキシンサキシトキシンネオサキシトキシンテトロドトキシン(フグ毒、TTX)があり、生息地によって成分の構成比、毒量が大きく異なる。分布北限近くの神奈川県三浦半島のものはフグ毒を主成分とし、沖縄などの亜熱帯のものは、個体によって麻痺性貝毒を主成分とするものとフグ毒を主成分とするものがあり、中間域ともいえる徳島県淺川湾のものでは、1個体が両毒を合わせもっているとの報告がある(西尾、1991年)。これらの毒は基本的には餌に由来すると推測されており、生息環境によって餌にする生物が異なることが毒の成分や量の違いの原因だと考えられている。体内での合成や、共生微生物の存在などについてはまだわかっていない。沖縄県石垣島のリーフで採集された標本の場合、筋肉中に1000 MU/g以上の毒を含んでいた例もあり、充分に致死量の毒を含んでいると言える。

毒は主に体表部(外骨格="殻")と、歩脚、鋏脚の筋肉に含まれるとされる。神奈川県和歌山県の個体(2004年)では、毒は特に鋏脚部の掌節と腕節(ハサミの付け根の太い部分周辺)の筋肉に高濃度に分布し、頭胸部(胴体)の筋肉は、調査個体に関しては無毒であったことから、カニが敵に対してハサミを振りかざしたり、逃げる際に自切することなどと関連付けて、毒が捕食者に対する防御に役立っているのではないかと推察している。なお、フグ毒を持つ動物のうちトラフグ Takifugu rubripesトゲモミジガイAstropecten polyacanthusヒトデの一種)などはフグ毒に著しく誘引されるとの実験結果があり、彼らが積極的に毒を摂取・蓄積している可能性も指摘されているが、スベスベマンジュウガニに関しては不明である。

他の毒ガニ

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本種も含め、有毒のカニが存在することは地方によっては古くから知られていたようであるが、より広く知られるようになったのはそれほど古いことではない。Hashimotoら(1967)[3]によれば、公式な記録で最も古いものは1965年に鹿児島県の環境衛生課が報告した名瀬市(現・奄美市)での中毒例であるという。この例では45歳の女性と20歳の息子が、味噌汁にして食べた甲羅の幅が約10cmの"セガニ"が原因で中毒症状に陥り、数日後に回復した。また聞き込み調査で得られた同じ名瀬市の別の例では、"ハムンガン"と呼ぶ甲羅の幅約11cmのカニを味噌汁にして食べて2人が死亡、3人が重症となったという。この外にも複数の中毒事例が確認できたため、Hashimotoらは中毒の原因となったと思われる種や、漁師らに毒蟹だと言われているカニなど15種類を奄美と宮古島から集めて調べた。その結果、ウモレオウギガニZozymus aeneusツブヒラアシオウギガニPlatypodia granulosa が有毒と判明し、1967年に報告している[3]。彼らのグループはその後も調査を進め、7科に属する56種を調べた結果、スベスベマンジュウガニも有毒であることを1968年に初めて報告[4]した。1969年には更に種類を増やして8科72種1000個体の調査結果を報告した[5]が、この時には新たな有毒種の追加はなかった。

スベスベマンジュウガニは本州も含めた広い分布域をもつ普通種だが、小型であるためか、これをあえて食べようとする人もいないらしく[1]、2000年現在まで、日本国内での公式の中毒事故例はないようである[1]

同じオウギガニ科の有毒種で、暖かい海に生息するウモレオウギガニツブヒラアシオウギガニの2種では、1984年までに日本国内だけでも全部で10件あまりの事故が記録されている。すべての事故が鹿児島県と沖縄県で発生しており、両県では観光施設、保健所などが有毒ガニを食べないようにポスター、パンフレットなどで啓蒙をつづけており、事故件数は減少しつつある。

またFresco(2001)はフィリピン農業研究局(BAR)の月報[6]において、この時までに報告された有毒蟹として、上記3種を含む下記の9種を挙げ、誤って食べないよう注意を呼びかけている。

ヒシガニ科

オウギガニ科

なおスベスベマンジュウガニでは、同じ地域でも有毒個体と無毒個体とが存在する。よって他のカニについても、たまたま最初に食べた個体が無毒であっても別の個体が有毒である可能性もある。したがって、よく知らないカニ(特にオウギガニ科)を不用意に食べるべきではない。

スベスベマンジュウガニを題材にしたもの

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参考文献

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脚注

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  1. ^ a b c d e 奥野淳兒. “美味しそうな名前の有毒ガニ スベスベマンジュウガニ 【海の紳士録】”. www.chibanippo.co.jp. 千葉日報. 2022年12月10日閲覧。
  2. ^ a b c d e 新潟市水族館 マリンピア日本海 生物図鑑 ≫ 「スベスベマンジュウガニ」”. www.marinepia.or.jp. マリンピア日本海. 2022年12月10日閲覧。
  3. ^ a b Hashimoto, Y., Konosu, S., Yasumoto, T., Inoue, A., Noguchi, T. Occurrence of toxic crabs in Ryukyu and Anami Islands. Toxicon 5:85-90. 1967.
  4. ^ Inoue, A., Noguchi, T., Konosu, S., Hashimoto, Y., A new toxic crab, Atergatis floridus. Toxicon 6:119-123. 1968.
  5. ^ Hashimoto, Y., Konosu, S., Inoue, A., Saisho, T., Miyake, S. Screening of toxic crabs in the Ryukyu and Amami Islands. 日本水産学会誌. 35(1):83-87. 1969.
  6. ^ Fresco, Mary Charlotte O. (2002). “Not all crabs are safe to eat.” (英語). BAR Chronicle--フィリピン農業研究局の月報 (The Phillippines) (2). オリジナルの2007年10月9日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20071009022330/http://www.bar.gov.ph/barchronicle/2002/jan02_16-31_notall.asp.