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欧州司法裁判所

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欧州連合司法裁判所から転送)
欧州連合
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欧州司法裁判所(おうしゅうしほうさいばんしょ)は、欧州連合基本条約法令を司り、これらを適切に解釈し、域内において平等に適用することを目的として設置されている機関。欧州連合における最高裁判所に相当する。英語では European Court of Justice; ECJと表記するのが一般的である。基本条約上は Court of Justice of the European Communities欧州諸共同体司法裁判所)といったが、2009年発効のリスボン条約で、正式名称がCourt of Justice of the European Union欧州連合司法裁判所)と改められた。ルクセンブルクの首都ルクセンブルク市に、司法裁判所(1952年創設)、裁判所(同1988年)、特別裁判所(同2004年)の3つのパートからなる常置機関として設置されている(各パートの設立年は欧州司法裁判所(公式サイト)による)。

欧州連合においては、欧州議会欧州連合理事会欧州委員会などの機関が法律を制定・執行しているが、このような法律が欧州共同体設立条約欧州連合条約といった基本条約と整合しないということが起こりうる。たとえるならば、国内においてある法律が憲法の規定に反するという状況だが、通常こういった場合はその国における裁判所において、憲法とその法律を解釈し、整合性の審査が行われる。ところが欧州連合の法律について、加盟国内の裁判所が判断を下すとなると、その判断が欧州連合全体で統一的なものにならないことが生じうる。そこで欧州共同体設立条約により、欧州司法裁判所は EU法について排他的に判断する権限が与えられ、統一的な法の解釈を行っている。

また加盟国が基本条約や第2次法で定められている義務を履行しない場合には、欧州委員会の請求を受けて、欧州司法裁判所は違法状態の認定を行ったり、違法とされた当該国が対応しないときには、高額の罰金を科したりすることによって、各種法令、とくに基本条約の尊重の確保に当たっている。

名称

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欧州司法裁判所(欧州連合司法裁判所)の正式名称は欧州連合の公用語で表記される。欧州連合の公用語は2007年1月1日時点では23言語となっており、欧州司法裁判所の正式名称もそれぞれの言語で表記されている。

沿革

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構成

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欧州司法裁判所は欧州共同体設立条約第220条により27人の判事と8人の法務官で構成されている。また裁判所は事務を統括する事務局長(任期6年、再任可能)を任命している。

判事

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判事の任命にあたって、各加盟国は自国籍を有する者1名を推薦し、全加盟国が相互に承認することで選出される。通常判事の数は加盟国の数と一致するが、欧州司法裁判所には必ず奇数人数の判事を置くことになっているので、加盟国数が偶数になったときには追加の判事1名が任命される。任期は6年で、再任することができる。3年ごとに13名、または14名を改選する。任命された判事は互選で欧州司法裁判所長官を選出する。長官の任期は3年で再任は可能である。2015年10月8日からはベルギー出身のクーン・レナールツが長官を務めている。

法務官

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法務官は、裁判所の係属事件について公平で独立した立場から意見を述べることで、裁判所を補佐している(ただし法務官の意見は直接的に判事を拘束するものではない)。判事と同様に法務官は各国の推薦を受け、全加盟国の相互承認を経て任命されるが、8人の法務官のうち5人は欧州連合の5大国(ドイツフランスイギリスイタリアスペイン)の国籍を有する者から任命され、残りの3人は5大国以外の22か国から輪番制で任命される。また裁判所は8人の法務官の中から1名を首席法務官に任命する。首席法務官の任期は1年で、第一審裁判所の判決について欧州司法裁判所で審査するかを提案する。リスボン条約では常任の法務官について、従来の5か国に加えて、かねてからこのポストを求めていたポーランドからも任命されることになっており、全体の人数も8名から11名に増員される。

管轄権

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欧州連合条約が発効した時点においては、欧州司法裁判所に与えられた権限は限られたものであった。とくに「3つの柱」のうち、第1の柱である欧州共同体に関する分野については管轄権を有していたものの、ほかの2つ(共通外交・安全保障政策警察・刑事司法協力)の分野についてはまったくと言ってよいほど管轄権が与えられていなかった。このことは欧州連合条約や欧州共同体設立条約において同裁判所が欧州連合の司法裁判所 (Court of Justice of the European Union) とされていないことからもうかがうことができる(なおリスボン条約が発効すれば Court of Justice of the European Union と改称される)。現在ではアムステルダム条約により、第3の柱である警察・刑事司法協力の分野に関しても一定の条件の下で部分的に管轄権が認められている。欧州司法裁判所が管轄する事案には以下のものが挙げられる。

  • 共同体としての活動に関する事項一般(欧州共同体設立条約と欧州原子力共同体設立条約、およびこれらに関連する法体系)
  • 警察・刑事司法協力分野に関する一部事項(欧州連合条約第VI編) - ただしアムステルダム条約に署名したうえで、それ以降に加盟国が管轄権を受諾したことを宣言することを要する。
  • 緊密な協力に関する規定(欧州連合条約第VII編) - ただし共同体としての活動分野と警察・刑事司法協力分野についてのみ管轄する。(欧州共同体設立条約第11条および第11条a、欧州連合条約第40条)
  • 欧州連合の諸機関の行為に対する個人の基本権保護に関する事項(欧州連合条約第6条2項)
  • 加盟国の資格停止手続き規定(欧州連合条約第7条)
  • 基本条約改正手続き規定、欧州連合への加盟手続き規定など(欧州連合条約第46条から第53条)

したがって、第2の柱である共通外交・安全保障政策に関する分野については欧州司法裁判所は一切の管轄権を有していない。

運営

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欧州司法裁判所には欧州共同体設立条約により3種類の法廷が存在する。どの法廷で事件を扱うかについては、全ての判事と法務官からなる総会で決定する。

全法廷

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全法廷は全ての判事が担当する。取り扱う事案は欧州司法裁判所規程に以下の4つが定められている。

  • 欧州議会のオンブズマンの解任
  • 欧州委員の職務・倫理規定
  • 欧州委員の解任
  • 欧州会計監査院の委員の解任

大法廷

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大法廷は13人の判事が担当し、長官が裁判長を務める。また判決にあたっては最低9人の判事の出席を要する。取り扱う事案は重要なものであり、欧州司法裁判所規程で定められる。また裁判の当事者となる加盟国または欧州連合の機関が求めたときは大法廷で審理しなければならない。

小法廷

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小法廷は3人または5人の判事が担当する。3人からなる小法廷の裁判長の任期は1年、5人からなる小法廷の裁判長の任期は3年である。多くの事案はこの小法廷で審理され、判決には最低3人の判事の出席を要する。また、欧州司法裁判所で用いられる言語は加盟国のそれぞれの公用語である23言語であり、審理においては事案ごとに使い分けられているが、裁判所内での作業言語はフランス語が使われており、判決文はフランス語で起草されたのちに事案によって翻訳されている。

訴訟類型

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欧州司法裁判所で審理される案件は欧州共同体設立条約により分類されている。主な類型は以下のものが挙げられる。

義務不履行訴訟

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義務不履行訴訟とは、ある加盟国が欧州連合の各種法令に違反している状態にあると考えられるとき、欧州委員会またはほかの加盟国は当該国を相手にし、欧州司法裁判所に対して違法状態の認定を求める訴えである。これに先立ち欧州委員会は当該国の意見を聞き、当該国に対し問題となっている事態に対応させるよう努めなければならない。当該国がこれに従わなければ提訴となるが、その後欧州司法裁判所が違法を認定してもなお対応しない場合は、欧州連合条約により、欧州委員会の要請を受けて、欧州司法裁判所は当該国に対して制裁措置を執ることができる。

取消訴訟

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欧州連合の諸機関が制定した拘束力のある法令(規則指令決定)について、その適法性を審査することを求めて提訴することができる。欧州司法裁判所は該当する法令について、権限の欠缺、重大な手続要件違反、基本条約やほかのEU法違反、権限の濫用が認められれば制定時にまでさかのぼり、全てのものを対象に無効を宣言することができる。ただしこの訴えを提起できるものには以下の条件がある。

  1. 加盟国、欧州議会、欧州連合理事会、欧州委員会は常に提起できる
  2. 欧州会計監査院と欧州中央銀行は自らの権利を守る場合に制限される
  3. 個人法人(地方政府も含まれる)については当該法令による効果が直接的かつ個人的に受ける場合に限定される

不作為訴訟

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欧州議会、欧州連合理事会、欧州委員会、欧州会計監査院、欧州中央銀行が欧州連合の活動のために必要な行動をしないとき、これらの機関を被告として不作為の違法認定を欧州司法裁判所に求めることができる。この訴えを提起できるのは加盟国、欧州議会、欧州連合理事会、欧州委員会、欧州会計監査院、欧州中央銀行のほか、個人や法人も諸機関が法令を制定しないことについて原告となりえる。ただし原告は提訴する前に当該機関に対して行動するよう求めなければならず、2か月以内に当該機関が行動しなければ提訴をすることができる。

損害賠償請求訴訟

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欧州連合の諸機関やその官吏の職務の行為によって損害が発生したときは、加盟国は欧州司法裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することができる。

控訴

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第一審裁判所の裁決につき、法的な部分を改めて審査することを欧州司法裁判所に対して求めることができる。

先行判決

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欧州連合の3つの柱のうち欧州共同体分野の法令は加盟各国の行政機関が適用・執行している。したがってこの分野の法令は加盟国内の裁判所における審理においても用いることができる。このとき受訴裁判所は欧州司法裁判所に対して法解釈の照会をしなければならない。欧州司法裁判所は照会を受けた事案につき意見を発することができるが、受訴裁判所はこの意見に基づいた判決を下すこととなる。また欧州司法裁判所が発した意見は受訴裁判所のほか、加盟国の全ての裁判所における同様の事案に対する判断を拘束する。このことから欧州司法裁判所の意見を先行判決という。

審理の分担

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欧州司法裁判所は1952年の創立以来、単独で法解釈にかかる案件を裁いてきたが、加盟国や各機関の拡大やEU法の充実により審査対象が増加したことにより、その負担が大きくなっていった。そこで1988年単一欧州議定書に基づき欧州連合理事会において、2審制の整備も兼ねて第一審裁判所の導入が決定され、翌年に欧州司法裁判所に併設された。その後2003年にはニース条約により第一審裁判所の独自性が認められるようになった。第一審裁判所では個人や法人が提起する訴訟の多数を係属する。またニース条約ではさらなる負担軽減策として、第一審裁判所の下に司法小委員会を設置することを認め、特定分野の訴訟を扱うことができるようにした。これを受けて欧州連合理事会は欧州連合の諸機関とその職員との間の雇用条件や職務規程に関する訴訟を扱う特別裁判所として、欧州連合公務員裁判所を設置した。

問題点

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欧州司法裁判所は、ドイツ連邦共和国基本法が欧州連合の条約と整合しないために違法であるとした2001年の裁定のために、一部の欧州懐疑論者から恐れられている。欧州司法裁判所は、基本条約およびその第2次法となる法令(指令、規則、決定)がいかなる加盟国内の法よりも優先するという判決をたびたび出している。したがって欧州司法裁判所は、欧州連合の法に整合しないいかなる加盟国国内法も無効であると宣言する権限を持っている。

外部リンク

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座標: 北緯49度37分15.7秒 東経6度8分26.2秒 / 北緯49.621028度 東経6.140611度 / 49.621028; 6.140611