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広将棋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
廣象棋から転送)

広将棋広象棋(こうしょうぎ)は、将棋の一種であり、二人で行うボードゲーム(盤上遊戯)の一種である。

荻生徂徠が兵学の入門教材として考案したとされる[1]。ルールや駒の名前、動きなどが独特で、他の多くの古将棋とは非常に異質である。

ルール

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基本ルール

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  • 盤は囲碁の19路盤を用いる。駒をマスの中ではなく囲碁やシャンチー(中国象棋)のように交点に置く。
  • 駒は碁石に白石には黒、黒石には白、裏面の成駒は朱色の字を書いて使う。34種類あり、それぞれ動きが決まっている。
  • 競技者双方が交互に、盤上にある自分の駒を一回ずつ動かす(本将棋とは違い持ち駒という概念はない)。
  • 自分から見て六路目までが自陣で、敵から見て六路目までが敵陣である。
  • 本将棋とは違い、捕獲した駒を自らの持ち駒にできない。
  • 自分の駒を動かすとき、動く先に相手の駒があるとき、その駒を取ることができる。
  • 自分の将と「中軍と旗のどちらか」を取られると負けである。ただし中軍が帥に成れば将と同じで、将と旗が取られても負けにならない。
  • 記室が軍師に成ると、敵の毒火は死ぬ[2]
  • 敵陣に入ったとき、その駒が成る。
  • 将・中軍・旗・鼓を取ったとき、取った駒が成る。
  • 力士・龍驤・招揺・霹靂を取ったとき、一路までしか進めない駒(親兵・舎人・舎餘・軍吏・軍匠・中軍・鼓・護兵・仏狼機・弓・弩・砲・歩兵・牌・旗)ならば成る。
  • 仏狼機を馬兵が取ったとき、その馬兵が成る。
  • 記室が軍師に成ったとき、同時に前衝と後衝も成る。
  • 高道が死んでいると、旗と鼓は成れない。霹靂・招揺は高道が死ぬと旗・鼓に戻る。
  • 聖燈から八方向5路の所に五里霧があれば、それは高道に戻る。

用語

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  • 殺す - 敵の駒のいる所に自分の駒を動かして駒を取ること。
  • 射る - 空いている路に動いて、そこから離れた敵の駒を取ること。「n路射」と言えば、ある方向の「n路」までにある駒を射ることが出来るという意味になる。
  • 居喰い - 駒を動かさずに敵の駒を取ること。
  • 死ぬ - 駒が射られる、殺されるなどして盤上から除かれること。
  • 二著する - 一度に二手分動かせること。一手目で止まってもよい。

初期配置図

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前衝 高道 軍匠 軍吏 舎餘 舎人 力士 親兵 参謀 記室 親兵 力士 舎人 舎餘 軍吏 軍匠 神僧 前衝
後衝 百総 把総 千総 護兵 中軍 護兵 千総 把総 百総 後衝
仏狼機
騎総 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 騎総
歩総 歩兵 歩兵 歩兵 歩総 歩兵 歩兵 歩兵 歩総
車総 牌総 牌総 牌総 車総
先鋒
先鋒
車総 牌総 牌総 牌総 車総
歩総 歩兵 歩兵 歩兵 歩総 歩兵 歩兵 歩兵 歩総
騎総 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 馬兵 騎総
仏狼機
後衝 百総 把総 千総 護兵 中軍 護兵 千総 把総 百総 後衝
前衝 神僧 軍匠 軍吏 舎餘 舎人 力士 親兵 記室 参謀 親兵 力士 舎人 舎餘 軍吏 軍匠 高道 前衝

「前衝」が「後衝」の後方に配置されているが、「広象棋譜」の駒配置記述の原文ママである[3]

駒の動き

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元の駒
動きと機能 成駒
動きと機能


八方向に一路ずつ進める。
  • 玉将に当たるが、中軍と旗、または帥が残っていれば負けにならない。
  • これを取った駒は、その場で成る。
- - - -
記室


斜めには一路、縦横には二路目まで飛び越えて行ける。
  • 記室が成ったときは、同時に自分の前衝と後衝が成り、敵の毒火が死ぬ。[2]
軍師


獅子のように、記室の動きを2手分できる。1手分で止まってもよい。

ただし、2手分で敵の駒を2個取ることは出来るが、1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。

参謀



縦横には一路、斜めには二路目まで飛び越えて行ける。 旗鼓

獅子のように、参謀の動きを2手分できる。1手分で止まってもよい。

ただし、2手分で敵の駒を2個取ることは出来るが、1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。

親兵



後ろ以外の七方に一路進める。 把総


縦横に何路でも進め、斜めに一路進める。飛び越えては行けない。
力士


獅子のように、将の動きを2手分できる。1手分で止まってもよい。

ただし、2手分で敵の駒を2個取ることは出来るが、1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。
一路しか進めない駒がこれを取ると、その駒はその場で成る。

- - - -
舎人



縦横と斜め前に一路進める。 千戸


縦に何路でも進め、横と斜めに一路進める。飛び越えては行けない。
舎餘


前と斜めに一路進める。 百戸



横に何路でも進め、縦と斜めに一路進める。飛び越えては行けない。
軍吏


斜めと縦に一路進める。 副司

前と斜めに何路でも進める。飛び越えては行けない。
軍匠




斜め前と縦に一路進める。 毒火


斜め前と縦に一路進み、進んだ所の隣接八路にある駒を敵味方関係なく全て殺す。

敵の記室が成ると死ぬ。[2]

高道



(一路射)

全ての方向に、二路目に間の駒を飛び越えて行ける。ただし、高道と神僧以外の敵の駒は取れない。

そして、進んだ所の隣接八路にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。
この駒が死ぬと自分の旗と鼓は成ることができず、霹靂と招揺は元に戻る。

五里霧

五里

(一路射×2)

獅子のように、高道の動きを2手分できる。1手分で止まってもよい。ただし敵の駒は取れない。

1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。
1手目、2手目のそれぞれで隣接八路にある敵の駒を一つずつ動かずに取れる(射る)。

  • 五路以内の距離から弓、弩、砲、仏狼機に射られることはない。六路以上離れた所からなら仏狼機に射られる。
  • この駒から八方向の五路以内に敵の聖燈がいれば、高道に戻る。
神僧



(一路射)

全ての方向に、二路目に間の駒を飛び越えて行ける。ただし、高道と神僧以外の敵の駒は取れない。

そして、進んだ所の隣接八路にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。

聖燈




(一路射×2)

獅子のように、神僧の動きを2手分できる。1手分で止まってもよい。ただし敵の駒は取れない。

1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。
1手目、2手目のそれぞれで隣接八路にある敵の駒を一つずつ動かずに取れる(射る)。
この駒から八方向の五路以内に敵の五里霧がいれば、それを高道に戻す。

前衝




前に何路でも進め、後ろに一路進める。飛び越えては行けない。

記室が成ると、この駒も同時に成る。

天網



斜め前と横に何路でも進め、後ろに一路進める。飛び越えては行けない。
中軍




八方向に一路ずつ進める。
  • 将が取られても、これと旗が残っていれば負けにならない。
  • これを取った駒は、その場で成る。

八方向に一路ずつ進める。
  • 将と旗が取られても、これが残っていれば負けにならない。
  • これを取った駒は、その場で成る。
横と斜めに一路進める。

この駒が死ぬと、自分の歩兵は前に進めなくなる。
自分の高道が死んでいると、成ることができない。

霹靂



(太線は動きの例)

縦横に、左右に曲がりながら5路進める。途中では止まれない。

通り道の敵の駒は全て殺しながら進める。つまり一手で最高5個の駒を取れる。味方の駒は飛び越えられない。

  • 一路しか進めない駒がこれを取ると、その駒はその場で成る。
  • 自分の高道が死ぬと鼓に戻る。
横と斜めに一路進める。
  • 将が取られても、これと中軍が残っていれば負けにならない。
  • 自分の高道が死んでいると、成ることができない。
招揺




縦横に5路まで進める。

通り道の敵の駒は全て殺しながら進める。つまり一手で最高5個の駒を取れる。味方の駒は飛び越えられない。

  • 一路しか進めない駒がこれを取ると、その駒はその場で成る。
  • 自分の高道が死ぬと旗に戻る。
護兵


前以外の七方に一路進める。 百総




斜めに何路でも進め、縦横に一路進める。飛び越えては行けない。
千総



全ての方向に何路でも進める。飛び越えては行けない。 龍驤





千総と力士の両方の動きができる。

一路しか進めない駒がこれを取ると、その駒はその場で成る。

把総


縦横に何路でも進め、斜めに一路進める。飛び越えては行けない。 虎翼


縦横に何路でも進める。飛び越えては行けない。

また、獅子のように、牌の動きを2手分できる。1手分で止まってもよい。
ただし、2手分で敵の駒を2個取ることは出来るが、1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。

百総




斜めに何路でも進め、縦横に一路進める。飛び越えては行けない。 鷹揚



斜めに何路でも進める。飛び越えては行けない。

また、縦横には一路か二路進め、二路目に行くときは一路目と二路目の両方の敵の駒を取ることが出来る。 一路目に味方の駒があれば、それを飛び越えては行けない。

後衝



後ろに何路でも進め、前に一路進める。飛び越えては行けない。

記室が成ると、この駒も同時に成る。

地網


斜め後ろと横に何路でも進め、前に一路進める。飛び越えては行けない。
仏狼機



[4]
仏狼

(七路射×2)

斜めに一路進める。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の七路以内にある敵の駒を二つまで動かずに取れる(射る)。
ただし自分の駒や敵の駒を越えて向こうの駒を取ることは出来ない。二つの取る駒の方向は違っていてもよい。
天塁と牌総は射れない。五里霧は六路以上離れていないと射れない。
馬兵がこの駒を取ると、その馬兵は成る。

神機車



神機

(七路射×2)

縦横に5路まで進める。飛び越えては行けない。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の七路以内にある敵の駒を二つまで動かずに取れる(射る)。
ただし自分の駒や敵の駒を越えて向こうの駒を取ることは出来ない。二つの取る駒の方向は違っていてもよい。
天塁は射れず、取ることもできない。


斜めに何路でも進める。飛び越えては行けない。 - - - -


(三路射)

斜めに一路進める。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の三路以内にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。
ただし自分の駒や敵の駒を越えて向こうの駒を取ることは出来ない。
天塁、牌、牌総、車、車総、砲車、五里霧は射れない。

[5]


(三路射)

八方向に桂馬飛びできる。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の三路以内にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。
ただし自分の駒や敵の駒を越えて向こうの駒を取ることは出来ない。

(五路射)

斜めに一路進める。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の五路以内にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。
ただし自分の駒や敵の駒を越えて向こうの駒を取ることは出来ない。
天塁、牌、牌総、車、車総、砲車、五里霧は射れない。

弩騎

(五路射)

八方向に桂馬飛びできる。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の五路以内にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。
ただし自分の駒や敵の駒を越えて向こうの駒を取ることは出来ない。 天塁、牌、牌総、車、車総、砲車、五里霧は射れない。


(五路射)

斜めに一路進める。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の五路以内にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。
他の駒を越えた向こうの駒を取ることもできるが、牌総や天塁(敵味方関係なく)を貫通することはできない。
天塁、牌総、五里霧は射れない。

砲車



(五路射)

縦横に5路まで進める。飛び越えては行けない。

そして進んだ所から縦横斜め八方向の五路以内にある敵の駒を一つ動かずに取れる(射る)。
他の駒を越えた向こうの駒を取ることもできるが、牌総や天塁(敵味方関係なく)を貫通することはできない。
天塁は射れず、取ることもできない。また弓と弩には射られない。

馬兵


八方向に桂馬飛びできる。

仏狼機を取ると、その場で成る。

騎総


八方向に桂馬飛びした後、さらに縦横の同じ方向に桂馬飛びするか、元の位置に戻れる。1手分で止まってもよい。

2手分で敵の駒を2個取ることは出来るが、1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。

騎総


八方向に桂馬飛びした後、さらに縦横の同じ方向に桂馬飛びするか、元の位置に戻れる。1手分で止まってもよい。

2手分で敵の駒を2個取ることは出来るが、1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。

天馬


獅子のように、馬兵の動きを2手分できる。1手分で止まってもよい。

ただし、2手分で敵の駒を2個取ることは出来るが、1手目に自分の駒があったとき、それを飛び越えることはできない。

歩兵



縦横に一路進める。

ただし鼓が死ぬと前に進めなくなる。

歩総 ぶそう

縦に何路でも進め、横に一路進める。飛び越えては行けない。
歩総


縦に何路でも進め、横に一路進める。飛び越えては行けない。 都司

縦と斜めに何路でも進める。飛び越えては行けない。

斜めに一路進める。

弓、弩、騎、弩騎には射られない。

牌総



横に何路でも進め、斜めに一路進める。飛び越えては行けない。

弓、弩、騎、弩騎、砲、砲車、仏狼機、神機車には射られない。

牌総



横に何路でも進め、斜めに一路進める。飛び越えては行けない。

弓、弩、騎、弩騎、砲、砲車、仏狼機、神機車には射られない。

天塁



横と斜めに何路でも進める。飛び越えては行けない。

弓、弩、騎、弩騎、砲、砲車、仏狼機、神機車には射られない。
車、車総には殺されない。


縦横に5路まで進める。飛び越えては行けない。天塁は取れない。

弓、弩、騎、弩騎には射られない。

車総



縦横に何路でも進める。飛び越えては行けない。天塁は取れない。

弓、弩、騎、弩騎には射られない。

車総



縦横に何路でも進める。飛び越えては行けない。天塁は取れない。

弓、弩、騎、弩騎には射られない。

千総



全ての方向に何路でも進める。飛び越えては行けない。
先鋒



前に5路まで進める。飛び越えては行けない。 都司

縦と斜めに何路でも進める。飛び越えては行けない。

駒取りの制限一覧

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射る場合

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射\的 天塁 牌総 五里霧 牌・車・車総・砲車 その他の駒
弓・ × × × ×
弩・弩騎 × × × ×
砲・砲車 × × ×
仏狼機・神機車 × ×
高道
神僧
五里霧
聖燈

※仏狼機は、6路以上離れた所からなら五里霧を射れる。

殺す場合

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  • 高道と神僧は、相手の駒を移動して取ることはできない。相手の高道と神僧に限り移動して取ることができる。
  • 天塁は車・車総・砲車・神機車に移動して取られない。

脚注

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  1. ^ 高山大毅. “駒場図書館に荻生徂徠の貴重資料が寄贈されました!(連載第二回・完) 荻生家資料の魅力”. 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部. 教養学部報. 2024年12月7日閲覧。
  2. ^ a b c これについては物茂卿の本と広象棋譜愚解の双方とも。記室の成りの説明後に「它毒火自死」(他(てき)の毒火は自ら死ぬ)と明記されているが、「片方の記室が軍師に成った時は敵の軍匠がまだ成っておらず、その後軍匠が成りの条件を満たしたときにまだ軍師が盤上に存在する。」場合、軍匠が成れるのか否か、成れた場合「它毒火自死」が適用されその場で死ぬのか、それとも「它毒火自死」は記室の成りの瞬間だけで以後は毒火は死ななくてよいのか、についての説明がない。
  3. ^ 物茂卿の本と広象棋譜愚解の双方とも「第一路、将在中央、(中略、左右に並べる駒を順番に説明)前衝、第二路、中軍在中央、(中略、左右に並べる駒を順番に説明)後衝、」と、自分から数えて第一列目両端が前衝、第二列目両端が後衝としている。
  4. ^ 文雄『広象棋譜愚解』雁金屋儀助、1773年https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100169203 (合本『広象棋譜・広象棋譜愚解』内)
    • 19-24枚:駒の動き図解、駒の読み仮名
  5. ^ 」は弓+廣。JIS X 0212に収録。

関連項目

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リンク

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