合同数
合同数(ごうどうすう)とは、辺の長さがすべて有理数である直角三角形の面積となるような自然数のことである[1]。例えば、辺の長さが (3, 4, 5) の直角三角形の面積 6 や、(3/2, 20/3, 41/6) の面積 5 は合同数である。しかし、1, 2, 3, 4 は合同数ではない。
具体例
[編集]48以下の数で合同数かどうか | ||||||||
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NCP : 合同数でない NCP×k2 : 合同数でない CP : 合同数 CP×k2 : 平方因子を持つ合同数 | ||||||||
mod 8 | 1 | 2 | 3 | 4(=22) | 5 -3 |
6 -2 |
7 -1 |
0 |
n | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
NCP | NCP | NCP | 1×22 | CP | CP | CP | 2×22 | |
n | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
1×32 | NCP | NCP | 3×22 | CP | CP | CP | 1×42 | |
n | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
NCP | 2×32 | NCP | 5×22 | CP | CP | CP | 6×22 | |
n | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 |
1×52 | NCP | 3×32 | 7×22 | CP | CP | CP | 2×42 | |
n | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 |
NCP | CP | NCP | 1×62 | CP | CP | CP | 10×22 | |
n | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 |
CP | NCP | NCP | 11×22 | 5×32 | CP | CP | 3×42 |
- その他の例[2]
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合同数の問題
[編集]合同数の問題とは、どのような数が合同数になるかという問題である。これは数学上の未解決問題の一つである。定義より明らかに、合同数は正の有理数である。また、辺の長さが (a, b, c) である直角三角形の面積が S であるとき、(k a, k b, k c) の面積は k2 S であることから、合同数問題においては、平方因子をもたない自然数のみ考慮すればよい。
基本的な事実
[編集]定義を数式化すると、 合同数とは
を満たす有理数 a , b , c が存在するような n のことである。
n が合同数であるための必要十分条件は楕円曲線
が正の階数を持つことである。実際、 a,b,c が上述した方程式を満たすとき、 x , y を x = n(a+c)/b , y = 2n2(a+c)/b2 とおくと、
で、 y は 0 ではない( y が 0 ならば、 a = -c より b = 0 だが (1/2)ab = n ≠ 0 に矛盾する)。
逆に、 x , y ( y ≠ 0)を上の楕円曲線上の点とするとき、 a = (x2 - n2)/y, b = 2nx/y, c = (x2 + n2)/y は上記の方程式の解となる。
上の楕円曲線の有限位数の点は y = 0 を満たすことが知られている。それで、 n が合同数であるかどうかは、上記の楕円曲線が無限位数の点をもつかどうかという問題に帰着する。
タネルの定理
[編集]1983年、タネル(en:Jerrold B. Tunnell)は完全な解決ではないにしても、合同数問題における革新的な定理を発表した。その内容は次の通りである。n は平方因子をもたない自然数とし、整数 An、Bn、Cn、Dn を以下で定義する。
このとき、n が奇数の合同数ならば 2An = Bn を、偶数の合同数ならば 2Cn = Dn を満たす。さらに、バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想が正しければ、合同数はそのような数に限る。
与えられた n に対して、上記の条件を満たすか否か判定するのは易しい。したがって、バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想が肯定的に解決されれば、合同数問題も自動的に解けたとみなせる。
さて、n を 8 で割ったあまりが 5 または 7 の場合、An = Bn = 0 であり、n を 8 で割ったあまりが 6 の場合、Cn = Dn = 0 である。したがって、これらの場合は上記の条件を満たすため、以下の事実が期待される。
- 平方因子をもたない整数 n を 8 で割ったあまりが 5, 6, 7 のいずれかである場合、n は合同数であろう。
これは合同数問題の一部であるが、これさえも未だ証明されていない。なお、この命題の逆は成り立たない。n = 34 がその最初の反例であり、8 で割ったあまりは 2 であるが、これは合同数である。実際、直角三角形 (24,17/6,145/6) の面積が 34 である。
近年の進展
[編集]部分的な解決として、以下の事実が証明されている。ここに、p は奇素数とする。
- p を 8 で割ったあまりが 3 のとき、p は合同数ではなく、2p は合同数である。
- p を 8 で割ったあまりが 5 のとき、p は合同数である。
- p を 8 で割ったあまりが 7 のとき、p と 2p は合同数である。
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ 足立 1987, p. 173.
- ^ 合同数=正方形の数学 神戸大学理学部 神戸大学理学部 渡邉 清
参考文献
[編集]- 足立恒雄「合同数の歴史」『数学』第39巻第2号、1987年、173–179頁、doi:10.11429/sugaku1947.39.173。