スープレックス
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スープレックス(Suplex)は、プロレスで用いられる投げ技の一種である。
定義
[編集]狭義
[編集]ジャーマン・スープレックスの略称もしくは、その派生技[1]の総称である。総合格闘技でも狭義の解釈が採用される場合がある。
カール・ゴッチがインタビューで前田日明が使うとされた「12種類のスープレックス」について記者に訊ねられた時に曰く、「日本の皆さんは投げ技を皆、スープレックスと呼んでいるがスープレックスと呼ばれるものは後ろから相手の胴をクラッチして反り投げてブリッジで固めるものだけだ。それ以外の投げ技は「サルト」であって相手の腕を前から掴んで投げるものはスロイダー」と答えている。
また、ゴッチは別のインタビューでも「ブリッジして固める技をスープレックス」とも言っている[2]。
あるインタビューでも「ブリッジしながら相手を後方に投げる技を、よく◯◯◯スープレックスという呼び方をしているが、スープレックスと呼べるのはジャーマンスープレックスだけだ。ただそれも正確にはジャーマンスープレックスではなく単にスープレックスだ。それ以外のブリッジしながら後方に投げる技はすべてサルトと呼ばれるものであり、その他の通常の投げ技はスウィングである。またサルトにはその投げ方によってそれぞれに正式な呼び名があるので、まず君たちプロレスマスコミがそこをきちんと正確に伝えていかなければならない」と話していた。
そのカール・ゴッチの提言に従ったものだったのか、当時前田日明がマスターした「12種類のスープレックス」のそれぞれの名称は、ジャーマンやフルネルソン(ドラゴンスープレックス)以外は当時としては初めて耳にする名称の物がほとんどで、かんぬきスープレックスは「サルト」、フロントスープレックスは「ウンターグルフ」とされていたし、イギリスから凱旋帰国して対戦したポール・オーンドーフに決めた「リバースアームサルト」は、ダブルアームスープレックスホールドであった。それ以外の技(ダブルリスト・アームサルト、ハーフハッチ、スロイダー、リバース・サルト、デアポート・スロイダー、クオーター・ネルソン・サルト、ダブルアーム・ロック・サルト)は雑誌に写真付きで紹介されるまで全く未知の技だった。
ビル・ロビンソンと宮戸優光はスープレックスを「相手を自分の頭越しに投げるもの」、サルトは「肩越しに、ひねって投げるもの」と説明している[3]。
広義
[編集]クラッチの方法にかかわらず反り投げて、そのままピンフォールする技のことである。近年のプロレスにおける投げ技は年々新しいクラッチの方法が開発され多様化しているため、ゴッチの定義を、そのまま扱うことが難しくなりだした。そのため、近年は解釈を広げてクラッチの方法にかかわらず反り投げて、そのままピンフォールする技がスープレックスと定義されている。
最広義
[編集]通俗的には相手を自身の後ろに投げる技(バックドロップなども含め)をまとめて「スープレックス」と呼ぶ傾向がある。なお、この用法は正確なものではなかったが現在は、この用法も定着している他に前述の狭義の意味での使用時は「スープレックス」、広義または最広義の意味での使用時は「スープレックス系」と言い分ける場合もある。
分類
[編集]なお、前述のように元来、スープレックスはピンフォールを狙う技なので「スープレックス・ホールド」と呼ぶ必要はなく、そのまま「スープレックス」と呼ばれるのが正当であるが、日本のメディアではブリッジして固める本来のスープレックスを、しばしば、「スープレックス・ホールド」と表記して「投げっ放し式(ホイップ式)スープレックス」と区別することがある。
こういった混乱の原因は当時のマスコミ関係者が技の開発経緯や出自についての情報に疎く「投げて、そのままフォールする」という技自体が珍しかったため、情報伝達上判り易くするため、「スープレックス・ホールド」としたことにある。
語源
[編集]スープレックス(Suplex)の語源には幾つかの説が存在する。
- スープレイ(Suplay)説
- グレコローマンスタイルレスリングにおいて、使われていた後ろ反り投げのことを、かつては「スープレイ(suplay)」と呼んでいた。それをレスリング経験者であるカール・ゴッチらがプロレスに持ち込んだとする説がある。往年のアメリカでプロレス実況者のゴードン・ソリーやロッド・トロンガード、近年ではテリー・テイラーらは実況において、スープレックスのことを「スープレイ」と発音していた[4]。
- スープレス(Souplesse)説[要出典]
- 「柔軟性」を表すフランス語: Souplesseから来ているとする説がある。相手をブリッジで反り固める際に体幹の柔軟性が必要とされるためである。
- スーパーエクセレント(Super-Excellent)説[要出典]
- かつては滅多に見られない大技であったことから、この技で勝負が決まった試合は「大変素晴らしい(Super-Excellent)」とされたという。いつしかSuper-Excellentが短縮されてSuplexとなったという説がある。
種類
[編集]ここでは最広義のスープレックスについて記述している。
後方から組み付く
[編集]胴をホールド
[編集]- ジャーマン・スープレックス
- 相手の胴をクラッチ。
- ダルマ式ジャーマン・スープレックス
- 相手の両腕ごと胴クラッチ。長与千種のクラッシュスープレックス
- クロスアーム・スープレックス
- 相手の両腕を前で交差させて胴クラッチ。ジャガー横田のジャガースープレックス
ネルソン・ホールド
[編集]- ドラゴン・スープレックス(フルネルソン・スープレックス)
- ハーフネルソン・スープレックス
- 相手の片腕をハーフネルソン。
- タイガー・スープレックス'85
- 相手の脇を通した変型フルネルソン・クラッチ。
チキンウィング・クラッチ
[編集]- タイガー・スープレックス
- ダブルチキンウイングクラッチ。
- ジャパニーズ・オーシャン・スープレックス
- ダブルチキンウイングに捕らえた手首を自身の腕をクロスさせてクラッチ。
- ミレニアム・スープレックス
- チキンウィングフェイスロッククラッチ。
- テキーラ・サンライズ
- 相手の右腕をハーフネルソンから手首を掴み、ロックして左腕をチキンウイングにクラッチ。
- ミスト・クラッシュ
- 相手の片腕をハーフネルソン、もう片腕をチキンウイングにクラッチ。
- タイガー・スープレックス'04
- 相手の片腕をチキンウイングに取り、相手の足を膝のあたりを背後から抱える。
手首をホールド
[編集]- リバース・ダブルリストアームサルト
- 後ろから相手の脇に頭を入れて相手の両手首を掴んで反り投げる。
その他
[編集]- スリーパー・スープレックス
- クラッチを胴ではなくスリーパー・ホールドにしたものである。使用者は小橋建太で彼の得意技。スリーパーホールドから自身の右腕を相手の腕の下から持ち替えて後方に相手を投げ捨てる技。
- スナップ・スリーパー・スープレックス
- 新日本プロレス所属のジェイ・ホワイトが使用。相手を高速で叩きつけるスリーパー・スープレックス。略称SSS。
- コブラクラッチ・スープレックス
- 相手の腕を掴んで首に巻いたコブラクラッチにしたものである。
- ジャパニーズ・オーシャン・サイクロン・スープレックス
- 相手の腕を前で交差させて後ろから、その両手を掴みながら肩車をして反り投げる。
- スクールボーイ・スープレックス
- スクールボーイの要領で相手を捕らえて、そのまま丸め込まず強引に持ち上げて叩きつける。
- ボールズ・プレックス
- 相手の股下に後ろから両手を回して、そのまま股関節を掴んで反り投げる。
前方から組み付く
[編集]胴をホールド
[編集]- フロント・スープレックス
- 反り投げ。
- ウンターグルフ
- 捻りを加えたフロント・スープレックス。
- リバース・サルト
- 両差しから両手を上に上げ、相手を引きつけ、後ろに反り投げる。閂スープレックスの返し技としても使用される。別名胴そり投げ(どうそりなげ)[5]。
腕をホールド
[編集]- スロイダー
- 片腕を巻き込んで後方へと捻り投げる。
- 閂スープレックス
首をホールド
[編集]- デアポート・スロイダー
- 相手の首を抱えて後方へと捻り投げる。
- バーディカル・スープレックス
- 通常形のブレーンバスターとして広く知られる技だが本来はブレーンバスターとは違う技。
- フロント・ネックチャンスリー・ドロップ
- 相手の首を両腕で脇に抱えるようにクラッチして一気に反り投げる。
その他
[編集]- キャプチュード
- 正面から相手の頭と相手の片膝を抱えるようにクラッチして反り投げる。前田日明のオリジナル・ホールド。
相手にがぶる
[編集]ネルソン・ホールド
[編集]- ダブルアーム・スープレックス
- 相手をリバース・フルネルソンにクラッチ。
- クラッチを胴ではなく、リバース・フルネルソンにしたものである。別名リバース・アームサルト。
- フロント・フルネルソン・スープレックス
- 正面からがぶり、裏閂に固定して反り投げる[要出典]。
- リバース・ダブルアームサルト
- 相手を裏閂に極めて反り投げる[要出典]。
- クォーターネルソンサルト
- 相手の首を両腕でフロント・フェイスロックに固めて反り投げる。
足と頭をホールド
[編集]- ブリザード・スープレックス
- 相手を横抱き気味に頭と片足を抱えるようにクラッチ。
- ライジングスター・スープレックス
- 相手の両腕を左脇で抱え込み、右腕で相手の左足を抱え込んで反り投げる。
ハーフハッチ
[編集]- ハーフハッチ・スープレックス
- 相手の首を片腕で脇に抱えて、もう一方の腕を相手の脇下に下から通して自身の手を相手の背中の辺りで固定して反り投げる。
- 魔神風車固め
- ハーフハッチの際、相手の片腕の手首を相手の背中で極めて投げる。
腕をホールド
[編集]- シングルアームサルト
- 相手の片腕を閂に抱え込み反り投げる。
- ダブルロックアームサルト
- 相手の両腕をまとめて片脇に閂状態で抱え込み反り投げる。
その他
[編集]- ジャンボ・スープレックス
- 相手をパワーボムの体勢から引っこ抜いて、そのまま後ろに相手の前面から投げ捨てる。女子プロレスラー、ジャンボ堀の得意技。
相手にもぐりこむ
[編集]胴をホールド
[編集]- ノーザンライト・スープレックス
- 自身の頭を相手の脇に差し入れて両腕ごと胴をクラッチ。
- ファイヤーマンズキャリー・スロー
- 相手の片腕を取り、その脇に自分の頭を入れて片腕をクラッチしたまま横に投げる。
- アングル・スラム
- 相手をファイヤーマンズキャリーで担ぎ上げて90度捻りながら反り投げる。
- バックフリップ
- 相手を横抱きに肩車して頭と足を抱えて後ろに反り投げる。
- ダックアンダー・スープレックス
- 相手の懐にもぐりこむように正面からタックルして相手の片腕と逆側の足を対角線上にクラッチして反り投げる。
- リバース・スープレックス
- 相手に、がぶられた際に自身の上体を後方へと反らせて相手を投げ落とす。
- フィッシャーマンズ・スープレックス
- 相手をブレーンバスターの体勢から片腕で相手の足を外側から抱え込む。
- ゴリラーマンズ・スープレックス
- 相手をブレーンバスターの体勢から相手の左手を相手の左足外側から回し、膝を抱え込むような体勢にさせて自身の右手で相手左手首をリストクラッチする。
- サブマリナー・スープレックス
- 相手をブレーンバスターの体勢から相手の右手を相手の左足内側から回し、膝を抱え込むような体勢にさせて自身の右手で相手右手首をリストクラッチする。
- タカミ・スペシャル
- 相手をフィッシャーマンズ・スープレックスの体勢から相手正面から片腕をアームロックに捕える。
手首をホールド
[編集]- ダブルリストアームサルト
- 前から相手の両手首を持ち頭部を相手の腋に入れて相手を自らの背後に反り投げて固める。
- ダブルクロスアームサルト
- クロスアーム・ダブルリストアームサルト。
相手を横抱きにする
[編集]- ブロックバスター
- 相手を横抱えして、そのままブリッジしながら後方に反り投げる。アメリカではフォールアウェイ・スラムとも呼ばれる。ジョージ・ゴーディエンコの得意技として知られており、初代タイガーマスク(佐山聡)も使用していた。アントニオ猪木は、後方に投げた相手を抱えたままブリッジしてフォールするブロックバスター・ホールドを一度だけ披露したことがあり、1975年にこの技でルー・テーズをフォールしている。全日本プロレス時代の大仁田厚も一時フィニッシュホールドとして使用していた。
その他
[編集]- エクスプロイダー
- 相手の脇に頭を入れて相手の首付近と相手の片足を外側から抱えるようにクラッチ。
- ハーフリストアームサルト
- 相手の片腕を取り、その脇に自分の頭を入れ反り投げる。
横方向から組み付く
[編集]胴をクラッチ
[編集]- サイド・スープレックス
- 相手の胴をサイドからクラッチして相手を引っこ抜いて180度ひっくり返すように投げる。レスリングにおける「俵返し」の応用技。
類似技
[編集]- バックドロップ
- アメリカではベリー・トゥー・バック・スープレックスとも呼ばれる。相手の背後から片脇に頭を潜り込ませて相手の腰を両腕で抱え込み、体をブリッジさせる勢いで相手を後方へと反り投げる。
- 同じくレスリングを起源とした技だが、こちらは抱え投げを規範にしているため、狭義でのスープレックスには含まれない。ただし、最広義のスープレックスには含まれる。
- 裏投げ
- 柔道における真捨身技に分類される投げ技の一種である。向かい合った相手の右脇に頭を潜り込ませて相手の左肩の上に右腕を引っ掛けて、相手の背中に左腕を回し、落下させた相手の体を抱え上げて自身の体を左方向へと軽く捻りながら相手の背中を抱えていた左腕を離して落下する相手に体を浴びせ掛けるように倒れ込み、相手の後頭部や背中を叩きつける。
- 1989年4月29日、新日本プロレスがプロレス界初の東京ドーム大会において、アントニオ猪木と異種格闘技戦で対戦した柔道家のショータ・チョチョシビリがチダオバ流裏投げ3連発で猪木からKO勝ちして初の異種格闘技戦で猪木から敗北を付けた。その後、裏投げの威力に目を付けた馳浩と飯塚高史がロシア遠征でサンボ修行を行った際に裏投げを体得して使用している。
フィクションにおける派生技
[編集]「キン肉マン」シリーズ
[編集]- ダブルレッグ・スープレックス
- 漫画『キン肉マン』の超人であるネプチューンマンの必殺技。背後から相手の背中をチョッキの針で突き刺して動きを封じた後、両足を抱えて後方に投げ飛ばす大技。破壊力は凄まじく、衝撃でウォーズマンが失明し、サンシャインが絶命したほど。チョッキの針に刺さずに背後から両足を抱えて後方に投げ飛ばすだけの場合もある。作中ではネプチューンマンの単独最強技の一つといわれている。
「ストリートファイター」シリーズ
[編集]複数のキャラクターが類似技を使用している。
- フーリガンスープレックス
- キャミィの投げ技。
- ドラゴンスープレックス
- ガイルの投げ技。
- レインボースープレックス
- バルログの投げ技。
脚注
[編集]- ^ ダルマ式ジャーマン・スープレックスとクロスアーム・スープレックスのことである。
- ^ 厳密にいえば、スープレックスに分類されたものでもフォールせずに投げ捨ててしまえば、それはスープレックスではないことになる。
- ^ 『別冊宝島』824号「男を鍛える本【速効編】」109Pより(2003年8月出版)
- ^ “Gordon Solie”. World Wrestling Entertainment. 2010年1月4日閲覧。
- ^ 笠原茂『レスリング : グレコ・ローマン・スタイル』(初版)不昧堂書店、日本〈体育図書館シリーズ〉、1969年4月1日、69頁 。「胴そり投げ」
- ^ 佐山聡『佐山聡のシューティング入門 : 打投極』(第1刷)講談社、日本、1986年8月20日、124-125頁。ISBN 4062027119 。「ソルト」
- ^ 笠原茂『レスリング : グレコ・ローマン・スタイル』(初版)不昧堂書店、日本〈体育図書館シリーズ〉、1969年4月1日、63,66,68-69頁 。
参考文献
[編集]- The Professional Wrestlers' Workout & Instructional Guide - Harley Race, Ricky Steamboat, Les Thatcher, and Alex Marvez pg. 80-84