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義歯安定剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
入れ歯安定剤から転送)

義歯安定剤(ぎしあんていざい)とは、維持・安定が悪い義歯(入れ歯)を安定させるために、使用する製剤のこと。製剤の性状により数種に分類される。

維持安定の悪い義歯に対し用いる製剤で、粘着作用による義歯粘着剤と、密着性を向上させるホームリライナーがある[1][2]。その必要性については議論が分かれる部分もあり[1]、多くの歯科医師は適合のいい義歯を作成すれば必要がないと考えていた[3]が、現在ではその利用が有効であるとの報告が増えてきている[3]日本補綴歯科学会ガイドラインでは不良な顎堤形態や口腔乾燥などの義歯使用に不利な口腔内状態の高齢者に対しては有効として推奨され、長期の使用による為害作用を防ぐために、歯科医師管理下で短期間の使用が望ましいとしている[2]

本来であれば薬理作用が期待されていないため、義歯安定でなく義歯安定と呼ばれるべきであるが、安定という呼び名が一般的になっている[4]

分類

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基本的な分類は変わらないが、報告により各タイプの呼び名は異なる。

  • ホームリライナー[2]・クッションタイプ[2]・家庭用裏装剤[4] - 主に総義歯に用いられる。義歯と歯肉との隙間を埋めることにより、義歯の陰圧の回復、かたつきを減少させる効果がある。金属床は不適合とされる[4]
    • ポリデント入れ歯安定剤
    • クッションコレクト
    • コレクトソフトA
    • 新ライオデント
    • タフグリップ
  • 義歯粘着剤
    • クリームタイプ[2] - 主に粘着作用により義歯を安定させるものであるが、ペーストタイプと比較すると効果は弱いものの密着による義歯安定作用も期待できる。
      • 新ポリグリップS
      • 新ポリグリップ無添加
      • 新ポリグリップV
      • コレクトクリーム
      • タフグリップクリーム
    • テープタイプ[2]・シートタイプ[2] - 粘着作用により、義歯を安定させる。使用が簡便である。
      • シーボンド
      • タッチコレクトII
    • パウダータイプ[2]・パウダータイプ - 主成分として用いられるものにカルボキシメチルセルロースナトリウム塩カラヤゴムアラビアゴムなどがある。粘着作用により、義歯を安定させる[4]
      • ポリグリップパウダー無添加
      • 新ファストン

問題点

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不適合の義歯を連用すると、不均等な圧がかかるため顎骨が吸収されるという問題がある。かみ合わせ、適合が大きく狂っている義歯の本剤を用いての連用は避けることが望ましい。

亜鉛の含有

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一部の義歯安定剤には亜鉛が用いられているが、2008年に過度の義歯安定剤の使用を行った場合にこの亜鉛により神経障害が発生する可能性を示唆する報告がなされた[1][5]2010年3月にはグラクソ・スミスクラインが「新ポリグリップEX」に含まれる亜鉛が健康被害を生じる可能性があるとして製造を中止し、全世界で自己回収を行った。同製品は日本国内シェア9%の商品であった。他の製品は亜鉛が含まれていないため回収対象外であった。

発癌性

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使用者の自己判断による不適切な使用のため発生した刺激の増大が原因と考えられる、口腔底癌の発生報告もある[6]

細胞毒性

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in vitroの実験で培養細胞に対する細胞毒性が報告されている[7]

衛生性

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安定剤としての効果を優先するため、その接着力や持続性等のみを目的にした製品では、その結果口腔内が不潔になりやすいという問題点がある[3]


出典

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  1. ^ a b c 廣瀬知二「義歯安定剤中の亜鉛含有量」『歯界展望』第114巻第5号、医歯薬出版東京都文京区、2009年11月、987-989頁、ISSN 0011-8702 
  2. ^ a b c d e f g h 社団法人日本補綴歯科学会 医療委員会 診療ガイドライン作成部会「歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008 CQ5-2義歯装着者において,義歯安定剤は,有効であるか?」『日本補綴歯科学会誌』第1巻第2号、日本補綴歯科学会、2009年4月、E183-187、ISSN 1883-44262010年12月11日閲覧 
  3. ^ a b c 佐藤佑介、水口俊介早川巖「クリニカル 義歯安定剤の現状と問題点」『日本歯科医師会雑誌』第61巻第3号、日本歯科医師会東京都千代田区、2008年6月、6-13頁、ISSN 0047-1763NAID 40016102278 
  4. ^ a b c d 高橋英和義歯安定剤の種類と性質」(PDF)『日本補綴歯科学会雑誌』第47巻第3号、日本補綴歯科学会、2003年6月、474-483頁、doi:10.2186/jjps.47.474ISSN 0389-5386NAID 10011435370、ONLINE ISSN 1883-177X JOI:JST.Journalarchive/jjps1957/47.4742011年11月19日閲覧 [リンク切れ]
  5. ^ Nations SP, Boyer PJ, Love LA, Burritt MF, Butz JA, Wolfe GI, Hynan LS, Reisch J, Trivedi JR. (Aug 2008). “Denture cream: an unusual source of excess zinc, leading to hypocupremia and neurologic disease.”. Neurology 71 (9): 639-643. ISSN 0028-3878. PMID 18525032. ISSN 1526-632X(Electronic). 
  6. ^ 岡達牧弥寿夫金田敏郎田口望市販の軟性義歯接着剤 (いわゆる義歯安定剤) の誤用により発症したと思われる口底部扁平上皮癌の一例」(PDF)『日本口腔科学会雑誌』第34巻第1号、日本口腔科学会、1985年1月、245-249頁、ISSN 0029-0297、ONLINE ISSN 2185-0461 JOI:JST.Journalarchive/stomatology1952/34.2452011年11月19日閲覧 [リンク切れ]
  7. ^ 牧平清超二川浩樹西村春樹西村正宏村田比呂司貞森紳丞石田和寛山城啓文金辰江草宏福島整浜田泰三義歯安定剤 (材) 溶出液がヒト歯肉線維芽細胞に与える影響」(PDF)『日本補綴歯科学会雑誌』第45巻第3号、日本補綴歯科学会、2001年6月、403-411頁、doi:10.2186/jjps.45.403ISSN 0389-5386NAID 10011435370、ONLINE ISSN 1883-177X JOI:JST.Journalarchive/jjps1957/45.4032011年11月19日閲覧 [リンク切れ]

関連項目

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