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便宜置籍船

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
便宜置籍国から転送)
Table 1: 便宜置籍国 と 船籍港
便宜置籍国 船籍港 管理組織
アンティグア・バーブーダの旗 アンティグア・バーブーダ セントジョンズ ADOMS
ベリーズの旗 ベリーズ ベリーズシティ IMMARBE
ボリビアの旗 ボリビア ラパス
バハマの旗 バハマ ナッソー
カンボジアの旗 カンボジア プノンペン ISROC
キプロスの旗 キプロス リマソール DMS
ケイマン諸島の旗 ケイマン諸島 ジョージタウン
コモロの旗 コモロ モロニ
ドミニカ国の旗 ドミニカ国 ロゾー DMRI
ジョージア (国)の旗 ジョージア ポティ
ホンジュラスの旗 ホンジュラス サン・ロレンソ
ジャマイカの旗 ジャマイカ モンテゴ ベイ JSR
キリバスの旗 キリバス タラワ
リベリアの旗 リベリア モンロビア LISCR
マルタの旗 マルタ バレッタ
マーシャル諸島の旗 マーシャル諸島 マジュロ IRI
モンゴル国の旗 モンゴル ウランバートル
パナマの旗 パナマ パナマ SEGUMAR
セントクリストファー・ネイビスの旗 セントクリストファー・ネイビス バセテール SKANR
セントビンセント・グレナディーンの旗 セントビンセント・グレナディーン
シエラレオネの旗 シエラレオネ フリータウン
タンザニアの旗 タンザニア ザンジバル TZIRS
ツバルの旗 ツバル フナフティ
トンガの旗 トンガ
トーゴの旗 トーゴ
バヌアツの旗 バヌアツ ポートビラ VMSL
リベリアで登録されている商船三井のMOL PRIDE

便宜置籍船(べんぎちせきせん、: flag of convenience ship. FOC)とは、その船の事実上の船主の所在国とは異なる国家船籍を置くをいう。実質的な所有主の国籍国の船旗ではなく、便宜的に船籍を置いた他国の旗を付けて運航されている。

概要

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船主は所有船を国家に登録しなければならない(船籍)。船主の国籍が所在する国家に船籍登録するのが本来である。しかし、外国国籍の船主による船籍登録を認めている国家(オープン・レジストリー)があり、そのような国に便宜的に船籍登録するのが便宜置籍船である。外国の船主が船籍国へ直接に船籍登録する単純な方式のほか、実質的な船主が出資して、船を所有するためだけの実態を持たないペーパーカンパニーを置籍国に設立して名目上の船主とする方式が広く用いられる。船舶の所有・置籍に課す税金を低く抑えたり(タックス・ヘイヴン)、乗員の国籍要件等に関する規制を緩やかにする誘致政策によって、便宜置籍船が多く発生している。

便宜置籍船の歴史は、1910年代スペインアメリカ合衆国の商船が、本国の課税や法規制を逃れるためにパナマに船籍登録したことに始まる。パナマ政府も便宜置籍船による外国船誘致に着目し、1925年に外国船主による船籍登録を広く認めた。第二次世界大戦後にリベリアもパナマと同様に外国船籍誘致政策を執り、1949年ギリシャ系の船主が最初のリベリア船籍の便宜置籍船を登録した。

日本では、ニクソンショック以降の1970年代、大手海運業者を中心に運航コストの米ドル化を図るために便宜置籍船が増加した[1]

便宜置籍国便宜置籍船国としては、パナマやリベリアの他に、バハママルタキプロスなどの小国が同様の政策を執り、利用されている。加えてアンティグア・バーブーダカンボジアキリバスジョージアセントビンセント・グレナディーンツバルモンゴル国ベリーズホンジュラスボリビアシエラレオネなども便宜置籍国である[2]モンゴル国ボリビアは、海岸線を領土に持たない内陸国である。

便宜置籍船国はTOKYO MOU[3]PARIS MOU[4]の独自の検査結果により、ブラックリスト、グレーリスト、ホワイトリストの三つのカテゴリーに分類できる。便宜置籍船国は非難されることがあるが、ホワイト・リストの船籍国は国際条約を順守していると評価される。ブラック・リストの船籍国は国際条約を順守していないと評価される。分類基準は旗国に登録されている船舶の過去3年間のデータで評価される。ポートステートコントロールはブラック・リストの船籍船を優先的に検査する[5]。この評価システムにより比較的に良いと判断できる旗国はホワイト・リストに留まる努力をしている。

パナマについては、ノリエガ将軍米国と対立した際、パナマ籍船にも何らかの制裁が課されるのでは、との思惑から、船主がその支配船の籍を他の国に移す動きもあった。

国際法上の位置付け

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第二次世界大戦後に便宜置籍船が増加したことに対応するため、1958年公海に関する条約第5条、1982年採択の国連海洋法条約第91条では、国籍国と船舶の間には「真正な関係が存在しなければならない」と定められた。しかし、これらの条約では「真正な関係」について具体的な要件の定義がされず、船籍を付与する国の法令に委ねられていた[6]

その後、1986年に採択された船舶登録要件に関する国際連合条約により、初めて「真正な関係」の具体的要件が規定された。同条約では船籍国に船舶の所有者である法人やその子会社・営業所がある場合のほか、船籍国国籍の代理人か管理担当者である法人が存在する場合にも船籍登録が許容された(同条約第10条)。船籍登録に必要な船籍国民(法人を含む)の船舶所有に関する参加の具体的水準は各国の法令に委ねられ、船籍国民の資本参加までは要求されておらず(同条約第8条)、船員の国籍についても十分な部分を船籍国民とする原則を勧告的に尊重させるに留めて、外国人船員の乗船を許容した(同条約第9条)。これらは便宜置籍船の現状を追認する内容で、国際的な海運取引に何らの影響も与えない結果となった[6]

問題点

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旗国主義との関係で、実質的な船主の国の法規制が便宜置籍船には原則として及ばない。そのため、一部の船主がこの制度を悪用して、乗組員の処遇を他の国と比較して極端に低く抑えたりすることが国際的に問題となっている。先進国の船主が便宜置籍船を利用して自国の法規制を逃れて商船の運用コストを抑えているところ[7]、自国海運の育成を図る発展途上国は、船籍国の資本参加や船籍国民の乗船を船籍登録の要件として便宜置籍船の規制を強化することで先進国の国際競争力を削ごうとしたが、#国際法上の位置付けで前述のとおり、1986年に採択された船舶登録要件に関する国際連合条約では現状が追認された[6]

管理・監督が甘い便宜置籍船国(TOKYO MOU[3]やPARIS MOU[4]でブラック・リストになっている旗国)に登録された船が[8]、麻薬[9]や兵器の輸送[10]、国際水域において違法漁業[11]などさまざまな問題が起きている。ブラック・リストの便宜置籍船国 (旗国)に登録された船はサブスタンダード船である比率が非常に高い。結果として国際条約を順守していないサブスタンダード船としてポートステートコントロールから出港停止命令を受ける船が多い。

便宜置籍船は主に外航海運で注目されているが、漁業においても国際漁業協定に加盟していない国に船籍を置くことによって[12]、捕獲規制対象になっている魚種を捕獲している便宜置籍船が存在しており、国際的な問題になっている[13]

経済制裁を回避する手段に用いられている問題もある。北朝鮮が登録料や税金を安く設定し、外国船舶に北朝鮮船籍を認めるビジネスを行っており、元手要らずで毎年更新料という定期的な外貨稼ぎが見込めるため、国際連合経済制裁下で外貨収入が先細る北朝鮮が好んでいる。また、北朝鮮がタンザニアなど逆に外国の船籍を取得して、複数の便宜置籍船舶を運用し、国連制裁で禁止されている密漁や貿易を隠すのに用いていることも判明している[14][15][16][17]

関連書籍

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脚注・出典

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注釈

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出典

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  1. ^ 「パナマ船籍」なぜ多い 船籍をあえて外国へ 世界をまたにかける外航海運業の戦略とは”. 乗り物ニュース (2018年6月24日). 2018年6月25日閲覧。
  2. ^ FOC Countries International Transport Workers' Federation Archived 2010年7月18日, at the Wayback Machine.
  3. ^ a b TOKYO MOU
  4. ^ a b PARIS MOU
  5. ^ アジア太平洋地域18か国で外国船検査を強化へ 平成24年4月20日 国土交通省海事局総務課外国船舶監督業務調整室
  6. ^ a b c 財団法人日本海運振興会『船舶登録要件に関する国際連合条約(仮訳)』日本海運振興会、1988年3月15日http://www.jpmac.or.jp/research/pdf/57.pdf 
  7. ^ 「船の墓場:南アジア」”. Global News View (GNV). 2018年5月3日閲覧。
  8. ^ “North Korean Ploy Masks Ships Under Other Flags” (英語). New York Times. (2006年10月20日). http://www.nytimes.com/2006/10/20/world/asia/20shipping.html 
  9. ^ “Cambodia-listed ship was carrying cocaine : Raid at sea highlights flag abuses Richardson, Michael” (英語). New York Times. (2002年6月24日). http://www.nytimes.com/2002/06/24/news/24iht-a5_64.html 
  10. ^ “密輸貨物船、数隻存在か 中朝間を頻繁に往来”. 朝日新聞. (2012年6月24日). http://www.asahi.com/special/08001/TKY201206220721.html 
  11. ^ カンボジアニュース―欧州、カンボジア水産物輸入禁止”. カンボジア クロマーマガジン (2013年11月29日). 2013年12月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年12月28日閲覧。
  12. ^ “不買指導対象の前歴FOC中国船名等を公表 前歴カンボジア、フィリピンの2隻=水産庁 前歴FOCのパナマ船、ICCATで問題に”. 日刊かつお・まぐろ通信. (2013年5月24日). http://www.oprt.or.jp/news_0524.html 
  13. ^ “EU Fish Ban Blamed on Cambodian-Flagged Vessels Hruby, Denise” (英語). The Cambodia Daily. (2013年11月28日). http://www.cambodiadaily.com/news/eu-fish-ban-blamed-on-cambodian-flagged-vessels-48065/ 
  14. ^ “モンゴル、北朝鮮の便宜置籍船14隻の登録取り消し”. 中央日報. (2016年8月4日). https://japanese.joins.com/JArticle/219044 
  15. ^ “制裁対象の北朝鮮船舶、見ているだけの政府”. 東亜日報. (2016年3月18日). http://japanese.donga.com/List/3/01/27/527946/1 
  16. ^ “北朝鮮、タンザニア船籍で制裁破り”. (2016年10月20日). https://dailynk.jp/archives/75851 
  17. ^ “北朝鮮が“船籍ビジネス” 中東に拠点、外貨目的か 国連決議違反の疑い”. (2016年5月16日). https://web.archive.org/web/20160517100355/http://www.sankei.com/world/news/160516/wor1605160013-n1.html 

関連項目

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外部リンク

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