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伝習館高校事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
伝習館訴訟から転送)
最高裁判所判例
事件名  行政処分取消
事件番号 昭和59(行ツ)45
1990年(平成2年)1月18日
判例集 集民 第159号1頁
裁判要旨
  1. 高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)は、法規としての性質を有する。
  2. 学校教育法五一条により高等学校に準用される同法二一条は、高等学校における教科書使用義務を定めたものである。
第一小法廷
裁判長 大堀誠一
陪席裁判官 角田禮次郎大内恒夫佐藤哲郎四ツ谷巖
意見
多数意見 全会一致
意見 なし
反対意見 なし
参照法条
学校教育法施行規則57条の2,高等学校学習指導要領(昭和35年文部省告示第94号),学校教育法21条,学校教育法51条
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最高裁判所判例
事件名 行政処分取消
事件番号 昭和59(行ツ)46
1990年(平成2年)1月18日
判例集 民集 第44巻1号1頁
裁判要旨
学校教育法五一条、二一条所定の教科書使用義務に違反する授業をしたこと、高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)から逸脱する授業及び考査の出題をしたこと等を理由とする県立高等学校教諭に対する懲戒免職処分は、各違反行為が日常の教科(日本史、地理B)の授業、考査に関して行われたものであつて、教科書使用義務違反の行為は年間を通じて継続的に行われ、右授業等は学習指導要領所定の当該各科目の目標及び内容から著しく逸脱するものであるほか、当時当該高等学校の校内秩序が極端に乱れた状態にあり、当該教諭には直前に争議行為参加による懲戒処分歴があるなど判示の事実関係の下においては、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。
第一小法廷
裁判長 大堀誠一
陪席裁判官 角田禮次郎大内恒夫佐藤哲郎四ツ谷巖
意見
多数意見 全会一致
意見 なし
反対意見 なし
参照法条
地方公務員法29条1項32条,学校教育法21条,学校教育法51条,学校教育法施行規則57条の2,行政事件訴訟法30条
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伝習館高校事件(でんしゅうかんこうこうじけん)とは日本行政訴訟判例[1]。伝習館訴訟とも呼ばれる[2]。公立高等学校の教員に対する授業内容を理由とした懲戒処分が、行政権の濫用に当たるかどうかが争点となった。

概要

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1970年6月6日福岡県教育委員会柳川市福岡県立伝習館高等学校で以下のような偏向教育を行ったとして3教諭を懲戒免職処分にした[3]

  • 倫理社会・政治経済担当のXは校内新聞で現体制批判の特定思想を生徒に啓発する文書を再三寄稿、教科書を使わず生徒全員に試験せず60点を与えたりした。
  • 日本史・地理担当のYは日本史の試験に「毛沢東思想を批判せよ」や地理の時間に「大学法と教育」等という授業をした。
  • 倫理社会・政治経済の担当のZは教科書は使わず、試験もせず一律の点数をつけ、『ロシア革命』『中国の赤い星』など思想的に中立を欠く本を生徒に薦めた。

懲戒免職となった3人は同年12月2日に処分取り消しを求める行政訴訟を提起した[4]。訴訟では学習指導要領の法的拘束力や教科書使用義務や一律評価が主な争点となった[5]日本教職員組合はこの3名の教師が日教組内でも最左派であったこと、生徒の保護者に支持を受けていなかったことなどからこの3名の教師を支援しなかった。

1978年7月28日福岡地方裁判所はXについて教科書使用義務違反、職務怠慢、職務専念義務違反等を認めて懲戒免職処分を妥当としたが、YとZについては学習指導要領違反や職務怠慢は認めるが解雇されるほどではないとして処分の取り消しを命じた[6]。控訴となったが、1983年12月24日福岡高等裁判所はそれぞれの控訴を棄却した[6]。処分に不服とする原告Xと被告の福岡県教育委員会は上告した。

1990年1月18日最高裁判所は学習指導要領に法規としての性格を認め、教科書使用義務について学校教育法によって使用が義務付けられているとし、「高校教育は教師が生徒に対して相当な影響力を持ち、生徒側は教師の教育内容を批判する十分な能力はなく、教師を選択する余地もあまりない。このため、国が教育の一定水準を維持しつつ、高校教育の内容と方法について守るべき基準を定める必要があり、法規によってそのような基準が定められている事については、教師の裁量にも制約がある」として教師の自主性に一定の制限を規定した[2]。その上でYとZの授業内容について法規違反の程度は決して軽くなく、当時の校内秩序の乱れを助長する恐れがあり、以前にもストライキへの参加で懲戒処分を受けたことがある事情を考慮すれば、YとZの懲戒免職を取り消した下級審判決を破棄して懲戒免職を適法とした[2]。また。Xの懲戒免職も教科書使用義務違反等を認めて懲戒処分とすることを適法とした上で、3人に対する懲戒免職を適法とする判決が確定した[2]

脚注

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  1. ^ 憲法判例研究会 2014, p. 192.
  2. ^ a b c d “指導要領は「法規的性質」 伝習館訴訟で教師側全面敗訴 最高裁判決”. 朝日新聞. (1990年1月19日) [要ページ番号]
  3. ^ “「偏向教育」と三教師懲戒免 福岡の県立高”. 朝日新聞. (1970年6月7日) [要ページ番号]
  4. ^ ““偏向教育”で免職は不当 元教諭3人が訴訟 福岡の伝習館高校”. 朝日新聞. (1970年12月3日) [要ページ番号]
  5. ^ “行政権は教室に及ぶか 伝習館訴訟 あす控訴審判決”. 朝日新聞. (1983年12月23日) [要ページ番号]
  6. ^ a b “伝習館訴訟 控訴を棄却 福岡高裁 「指導要領に拘束力」 一人処分 ほぼ一審通り”. 朝日新聞. (1979年3月23日) [要ページ番号]

参考文献

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  • 憲法判例研究会『判例プラクティス憲法 増補版』信山社、2014年。ISBN 9784797226362 

関連項目

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外部リンク

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