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キモシン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
レンニンから転送)
Chymosin
ウシのキモシンと阻害剤CP-113972の複合体の結晶構造[1]
識別子
EC番号 3.4.23.4
CAS登録番号 9001-98-3
データベース
IntEnz IntEnz view
BRENDA BRENDA entry
ExPASy NiceZyme view
KEGG KEGG entry
MetaCyc metabolic pathway
PRIAM profile
PDB構造 RCSB PDB PDBj PDBe PDBsum
遺伝子オントロジー AmiGO / QuickGO
検索
PMC articles
PubMed articles
NCBI proteins
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キモシン: chymosin)またはレンニン: rennin)は、レンネット中に存在するプロテアーゼである。MEROPS英語版ではA1ファミリーに属するアスパラギン酸プロテアーゼである。キモシンは産まれたばかりの反芻動物の第4胃(ギアラ)の内壁で産生され、摂取した凝集凝乳)を行う。キモシンはチーズの製造に広く利用されている。現在ではウシ由来キモシンは、代替的供給源として大腸菌Escherichia coliコウジカビAspergillus niger var awamori酵母Kluyveromyces lactisでの組換え発現によっても製造されている。

産生

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キモシンは産まれたばかりの反芻動物の第4胃の主細胞で産生され、摂取した乳汁を凝乳する。その結果、乳は腸に長くとどまることとなり、良く吸収されるようになる。ブタ、ネコ、鰭脚類など、反芻動物以外の一部の動物もキモシンを産生する[2][3]

ある研究ではヒトの新生児でもキモシン様の酵素が存在することが報告されているが[4]、他の研究ではこの発見は再現されていない[5]。ヒトの1番染色体にはキモシンの偽遺伝子が存在し、タンパク質の産生は行われない[3][6]。ヒトは、ペプシンリパーゼといった乳汁の消化を行う他の酵素を持っている[7]:262

酵素反応

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キモシンは、チーズの製造時に乳の沈殿カードの形成に利用される。キモシンの天然の基質はκ-カゼイン英語版であり、105番のフェニルアラニンと106番のメチオニンアミノ酸残基の間のペプチド結合が特異的に切断される[8]カゼイン疎水的なパラカゼイン(para-casein)部分と親水的な酸性糖ペプチド(acidic glycopeptide)部分が切り離されることで、疎水的部分が凝集しゲル化が起こる。

κ-カゼインのヒスチジンとキモシンのグルタミン酸アスパラギン酸との間の静電的相互作用によって、酵素への基質の結合が開始される。キモシンに基質が結合していないときには、β-ヘアピン構造(「フラップ」とも呼ばれる)が活性部位水素結合を形成しており、活性部位を覆うことで基質の結合を防いでいる[1]

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反芻動物でキモシンをコードするCym遺伝子と、それに対応するヒトの偽遺伝子についての情報を示す。

Chymosin [Precursor] (B.taurus or C.dromedarius)
仔牛キモシンのX線結晶構造[9]
識別子
略号 Cym
他の略号 CPC
Entrez英語版 529879
PDB 4CMS (RCSB PDB PDBe PDBj)
RefSeq NP_851337.1
UniProt Q9GK11
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chymosin pseudogene (H.sapiens)
識別子
略号 CYMP
Entrez英語版 643160
HUGO 2588
OMIM 118943
RefSeq NR_003599
他のデータ
遺伝子座 Chr. 1 p13.3
テンプレートを表示

組換えキモシン

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微生物や動物由来のレンネットは不完全であり希少でもあったため、チーズの生産者は代替物を探していた。遺伝子工学が発展するにつれて、動物の胃からレンネットを産生する遺伝子を抽出し、それらを特定の細菌菌類や酵母へ挿入することで発酵によってキモシンを生産することが可能となった[10][11]。遺伝子組換え生物は発酵後に取り除かれること、キモシンは発酵培地から単離されることから、発酵法で生産されたキモシン(fermentation-produced chymosin、FPC)にはいかなる遺伝子組換えに由来する要素や成分も含まれていない[12]。FPCは動物由来のキモシンと同一であり、より効率的に生産される。FPC製品は1990年以降市場に出回っており、理想的な凝乳酵素であると見なされている[13]

FPCはアメリカ食品医薬品局(FDA)による登録と認可が行われた、最初の人工的に生産された酵素である。1999年時点ではアメリカ合衆国のハードチーズの約60%がFPCを用いて製造されており[14]、世界的なレンネット市場で最大80%を占めている[15]

2008年までに、アメリカ合衆国とイギリスでは商業的に生産されているチーズの約80%から90%がFPCを用いて製造されるようになっている[12]。最も広く利用されているFPCはA. nigerまたはK. lactisを用いて生産されたものである。

FPCはキモシンBのみを成分として含むため、動物由来のレンネットと比較して高い純度が得られている。動物や微生物由来のレンネットと比較して、FPCはより高い収率で、よりキメが細かく苦みの少ないカードを製造することができる[13]

出典

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  1. ^ a b PDB: 1CZI​; “A 2.3 A resolution structure of chymosin complexed with a reduced bond inhibitor shows that the active site beta-hairpin flap is rearranged when compared with the native crystal structure”. Protein Eng. 11 (10): 833–40. (October 1998). doi:10.1093/protein/11.10.833. PMID 9862200. https://academic.oup.com/peds/article-pdf/11/10/833/18542197/110833.pdf. 
  2. ^ “Immunohistochemical study of the ontogeny of prochymosin--and pepsinogen-producing cells in the abomasum of sheep”. Anatomia, Histologia, Embryologia: Journal of Veterinary Medicine Series C 30 (4): 231–5. (August 2001). doi:10.1046/j.1439-0264.2001.00326.x. PMID 11534329. 
  3. ^ a b Staff, Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM) Database. Last updated February 21, 1997 Chymosin pseudogene; CYMP prochymosin, included, in the OMIM
  4. ^ Henschel, M. J.; Newport, M. J.; Parmar, V. (1987). “Gastric proteases in the human infant”. Biology of the Neonate 52 (5): 268–272. doi:10.1159/000242719. ISSN 0006-3126. PMID 3118972. 
  5. ^ Szecsi, Pal Bela; Harboe, Marianne (2013). “Chapter 5: Chymosin”. In Rawlings, Neil D. (英語). Handbook of Proteolytic Enzymes. 1. pp. 37–42. doi:10.1016/B978-0-12-382219-2.00005-3. https://www.researchgate.net/publication/278718218 
  6. ^ Fox, P. F. Google books. Cheese: Chemistry, Physics and Microbiology: Volume 1: General Aspects.
  7. ^ Ian R. Sanderson M.D. and W. Allan Walker Development of the Gastrointestinal Tract pmph usa 1999. ISBN 155009081X
  8. ^ “Functional implications of the three-dimensional structure of bovine chymosin”. Adv. Exp. Med. Biol.. Advances in Experimental Medicine and Biology 306: 23–37. (1991). doi:10.1007/978-1-4684-6012-4_3. ISBN 978-1-4684-6014-8. PMID 1812710. 
  9. ^ PDB: 4CMS​; “X-ray analyses of aspartic proteinases. IV. Structure and refinement at 2.2 A resolution of bovine chymosin”. J. Mol. Biol. 221 (4): 1295–309. (October 1991). doi:10.1016/0022-2836(91)90934-X. PMID 1942052. 
  10. ^ “Synthesis of calf prochymosin (prorennin) in Escherichia coli”. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80 (12): 3671–5. (June 1983). Bibcode1983PNAS...80.3671E. doi:10.1073/pnas.80.12.3671. PMC 394112. PMID 6304731. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC394112/. 
  11. ^ “Molecular cloning and nucleotide sequence of cDNA coding for calf preprochymosin”. Nucleic Acids Res. 10 (7): 2177–87. (April 1982). doi:10.1093/nar/10.7.2177. PMC 320601. PMID 6283469. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC320601/. 
  12. ^ a b Chymosin”. GMO Compass. 2015年3月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年3月3日閲覧。
  13. ^ a b Law BA (2010). Technology of Cheesemaking. UK: Wiley-Blackwell. pp. 100–101. ISBN 978-1-4051-8298-0. http://eu.wiley.com/WileyCDA/WileyTitle/productCd-1405182989.html 
  14. ^ Food Biotechnology in the United States: Science, Regulation, and Issues”. U.S. Department of State. 2006年8月14日閲覧。
  15. ^ “Major technological advances and trends in cheese”. J. Dairy Sci. 89 (4): 1174–8. (April 2006). doi:10.3168/jds.S0022-0302(06)72186-5. PMID 16537950. 

関連文献

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外部リンク

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  • ペプチダーゼとその阻害剤に関するMEROPSオンラインデータベース: A01.006