ミン (トラ)
生物 | トラ(Panthera tigris) |
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品種 | アムールトラ/ベンガルトラ (P. t. altaica/tigris)[1] |
性別 | 雄 |
生誕 | 2000年2月[2] アメリカ合衆国ミネソタ州ラシーン[3] |
死没 | 2019年2月[4] アメリカ合衆国オハイオ州ベルリン・センター ノアズ・ロスト・アーク・アニマル・サンクチュアリー[4] |
墓地 | アメリカ合衆国ニューヨーク州ハーツデール ハーツデール・ペット墓地[4] |
著名な要素 | ニューヨーク市ハーレムのアパートで飼われていたトラ |
飼い主 |
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ミン(Ming)は、2003年10月にアメリカ合衆国・ニューヨーク市ハーレムのアパートで飼われていたことで有名になったトラである。
ハーレムの公営住宅の5階にある5LDKのアパートの一室で、放し飼いで飼われていた。発見されたときには3歳だった。当時の飼い主のアントワン・イェーツの部屋には、他にも一般的なペットのほかエキゾチックアニマルが数匹飼われており、他に「アル」という名のワニもいた。
ミンはその後、オハイオ州ベルリン・センターにあるノアズ・ロスト・アーク・アニマル・サンクチュアリーに送られ、そこで余生を過ごした。ミンは2019年2月に自然死し、ニューヨーク州ハーツデールにあるハーツデール・ペット墓地に埋葬された[4]。
歴史
[編集]発見まで
[編集]2000年4月、ニューヨーク市ハーレムに住む31歳のタクシー運転手アントワン・イェーツ(Antoine Yates)は、ミネソタ州ラシーンにある自然動物園・ベアキャット・ホロウ・アニマルパーク(BEARCAT HOLLOW Animal Park)で、生後8週間のオスのアムールトラとベンガルトラの雑種を購入し[5]、「ミン」と名付けた[2][6][3]。記録によると、イェーツはそれ以前にも同じ自然動物園でライオンの子供を購入していたが、イェーツはミンを飼い始めた後すぐに、ライオンを他の人に譲った[3][2]。
発見
[編集]2003年9月30日、ミンに腕と足を噛まれたイェーツがハーレム医療センターの救急室を訪れたことから、ミンの存在が発覚し、メディアで報道された[7][8]。治療の際、イェーツはペットの犬に噛まれたと主張したが[5]、噛み跡の幅から、もっと大きな顎を持つ動物ではないかと医療関係者は疑った。その後、イェーツは、飼い始めたばかりの猫をミンが襲おうとしたため、遠ざけようとして噛まれたと語った[9][10]。
イェーツが退院した10月3日、情報提供を受けたニューヨーク市警の警官がイェーツの自宅へ調査に向かった。しかし、アパートのドアから大きなうなり声が聞こえてきたため、警官は立ち入りを避けた[8]。ニューヨーク市警の技術支援対応部隊は、隣家の壁に穴を開け、棒の先に取り付けられたカメラでミンがいる場所を確認した。また、警官のマーティン・ダフィーが屋上からロープで降下し、窓から中を確認した。そして、ブロンクス動物園獣医長のロバート・クック獣医師が用意した麻酔銃をミンに向かって撃った[11][5]。
麻酔銃を打たれたミンは、ダフィーが発砲した窓に突撃して窓を壊し、その後アパートの奥へと後退していった。麻酔が効くまで数分間待った後、動物管理チームがイェーツの部屋に送り込まれた。クック獣医師は、再度の鎮静剤の注射をさせた。ミンは6人以上の人手によってトラックまで運ばれた[11]。動物管理チームは、別の部屋で飼われていた体長5.5フィートのワニも発見した[9]。イェーツはその後、フィラデルフィアの病院へ移送され、警護された[8]。
2003年10月にミンがイェーツのアパートで発見された後、近隣住民に取材したところ、トラの存在は少なくとも3年前から広く知られており、一種の都市伝説のようになっていたことが判明した[8]。イェーツが近所のスーパーで生の鶏肉を大量に購入していたことも判明し、「毎日あんなに鶏肉を食べるなんて」とアパートで話題になっていたという。2003年までイェーツは、ミンに1日約9キログラムの鶏肉、レバー、骨を食べさせていた[11]。イェーツのアパートの部屋には同居人もいたが、彼らは当初、家の中に動物がいることを知らなかった[12]。『ニューヨーク・デイリーニューズ』は次のように報じている。
ハーレムのアパートで体重425ポンドのトラと同居していた女性は、昨日、最初は怖かったが、すぐにこの人食いトラとの生活に慣れたと語った。虎の飼い主であるアントワン・イェーツから夫と一緒に一部屋を借りていたキャロライン・ドミンゴさんは、『デイリーニューズ』に対し、アパートで大きな猫が自由に動き回っているのを見つけたときは、自分の目を疑ったが、...[中略]...最終的には「みんな家族になりました」と語った[12]。
法的措置
[編集]イェーツは、無謀な危険行為と野生動物の不法所持の容疑で逮捕された[13]。その後、このアパートで子守をしていたイェーツの母親が、子供の福祉を脅かした罪で起訴された。母親の罪を軽くするための司法取引の一環として、イェーツは無謀な危険行為を認め、最終的には懲役5か月、保護観察5年の刑に処された[14][15]。イェーツは3か月の服役で釈放された後、ペットを失ったことと、アパートにあったと主張する7千ドルの現金の返還を求めてニューヨーク市を訴えた[16]。裁判官は、「フツパー」(厚かましい)と述べて、この訴えを却下した[17]。
また、イェーツにトラを売った自然動物園の経営者も、野生動物の違法売買で有罪となった[5]。
その後
[編集]当局は、押収した動物たちをより適切な住居に移すことを決定した。ミンはオハイオ州ベルリン・センターにあるノアズ・ロスト・アーク・アニマル・サンクチュアリーに、ワニのアルはインディアナ州に送られた[18][14]。
イェーツは、2010年頃にはネバダ州ラスベガス近郊のパランプで、4頭のトラを含む22頭の大型ネコ科動物と暮らし、「アントワン・タイガーマン・イェーツ」(Antoine Tigermann Yates)と名乗るようになった[2]。2011年に「Reach Out And Respond(ROAR)財団」を設立した[19]。しかし、2018年に『ニューヨーク・ポスト』紙に掲載された記事では、パランプでトラの飼育ライセンスを持つ人物が、イェーツはネバダ州に住んだことがないと述べていることを指摘し、イェーツの主張の真実性に疑問を投げかけている[11]。
脚注
[編集]- ^ “Tiger Captured in New York Apartment; Owner To Face Fines”. Jet 104 (18): 36–38. (27 October 2003). ISSN 0021-5996 26 February 2015閲覧。.
- ^ a b c d Somaiya, Ravi (28 July 2010). “The trouble with tigers”. Newsweek 26 February 2015閲覧。
- ^ a b c Laurence, Charles (12 October 2003). “Police probe couple who sold 400lb tiger found in Harlem flat”. The Telegraph (London) 26 February 2015閲覧。
- ^ a b c d Kilgannon, Corey (2 October 2019). “Ming, the Bengal Tiger Raised in a Harlem Apartment, Has Died”. The New York Times: p. A26 2 October 2019閲覧. "Ming’s cremated remains received a homecoming of sorts, as reported Monday in The New York Post. The remains were interred in April at the Hartsdale Pet Cemetery in Westchester County, about 17 miles north of the Harlem apartment where Ming lived a pent-up childhood."
- ^ a b c d “自宅にトラを飼う危険なペット熱”. ニューズウィーク日本版. (2010年9月21日) 2022年1月3日閲覧。
- ^ Corey Kilgannon (2020年4月18日). “A 425-Pound Tiger Living in a Harlem Apartment? Yes, It Happened: Before "Tiger King," there was New York's infamous Tiger Man”. The New York Times 2020年4月19日閲覧. "Ming quickly went from bottle feeding to consuming 20 pounds of chicken thighs a day, which Mr. Yates would heft home each morning from a local supermarket. And in less than three years, the Siberian-Bengal mix grew into a 425-pound behemoth."
- ^ Martha T. Moore (2003年10月9日). “Tiger in Harlem among thousands of kept wild 'pets'”. USA Today
- ^ a b c d Polgreen, Lydia; George, Jason (October 6, 2003). “From a Cub to a Menace, and Now a Mystery”. The New York Times (New York, New York) October 8, 2014閲覧。
- ^ a b Saulny, Susan (October 8, 2003). “A Tiger's Keeper Says He Misses His 'Friend'”. The New York Times (New York, New York) October 8, 2014閲覧。
- ^ “10 Questions with Antoine Yates”. animalplanet.com. Animal Planet (15 May 2012). October 8, 2014閲覧。
- ^ a b c d Fonrouge, Gabrielle; Italiano, Laura (November 4, 2018). “That time someone had a pet tiger in Harlem”. New York Post 8 March 2019閲覧。
- ^ a b Colangelo, Lisa L.; Woodberry Jr., Warren; Goldiner, Dave (6 October 2003). “She Shared Apt. with Tiger, Gator: It Was a Room with a Zoo”. New York Daily News October 8, 2014閲覧。
- ^ Saulny, Susan (December 19, 2003). “From Tiger Man to Sharp-Dressed Man for His Day in Court”. The New York Times (New York, New York) October 8, 2014閲覧。
- ^ a b Tavernise, Sabrina (October 8, 2004). “Man Who Kept Tiger in Apartment Gets 5-Month Jail Term”. The New York Times (New York, New York) October 8, 2014閲覧。
- ^ Ramírez, Eddy; Cave, Damien (July 21, 2004). “Tiger's Former Owner Reaches Plea Agreement”. The New York Times (New York, New York) October 8, 2014閲覧。
- ^ Ortega, Ralph R. (December 24, 2004). “Tiger Guy Out, Eyes Reunion”. New York Daily News (New York, New York) October 8, 2014閲覧。
- ^ Yates v. N.Y.C., 04 Civ. 9928 (S.D.N.Y. 2006) (“The word chutzpah, despite not debuting in a reported judicial opinion until 1972, is now vastly overused in the legal literature. Yet in a case such as this ... it is a most appropriate term to use.”).
- ^ “Rescued Animals”. Noah's Lost Ark. October 8, 2014閲覧。
- ^ “EWCN: Team ROAR”. Eden World Conservation Network (2013年). 27 February 2015時点のオリジナルよりアーカイブ。26 February 2015閲覧。
外部リンク
[編集]- Ilias (1 August 2014). “Antoine Tigermann Yates - Talks with Ilias”. The New Plan Network. 26 February 2015閲覧。