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フウセンモ属

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フウセンモから転送)
フウセンモ属
1. フウセンモ属の1種(ポーランド
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
階級なし : ディアフォレティケス Diaphoretickes
階級なし : SARスーパーグループ
SAR supergroup
階級なし : ストラメノパイル Stramenopiles
: オクロ植物門 Ochrophyta
階級なし : Chrysista
: 黄緑色藻綱 Xanthophyceae
: フウセンモ目 Botrydiales
: フウセンモ科 Botrydiaceae
: フウセンモ属 Botrydium
学名
Botrydium Wallroth, 1815[1]
タイプ種
Botrydium argillaceum Wallroth, 1815
= Botrydium granulatum (L.) Greville, 1830[1]
シノニム
和名
フウセンモ属[3]、ボトリジウム属[4]
下位分類

フウセンモ属(フウセンモぞく; ボトリジウム属、学名: Botrydium)は、不等毛藻(オクロ植物門)の黄緑色藻綱フウセンモ目に分類されるの1つである。一般名としてフウセンモともよばれるが、本属の特定の種(Botrydium granulatum)に「フウセンモ(風船藻)」の和名を充てていることもある[5]。水田の畦など湿土上に、緑色の球形から棍棒状の多核体を形成する(図1)。直径数ミリメートルに達することもあるが、基本的に単細胞で隔壁を欠き、多数の葉緑体を含む。基部は分岐する仮根になり、土壌中に伸びている。不動胞子や耐久胞子による無性生殖を行い、また鞭毛をもつ配偶子の合体による有性生殖を行う。世界中から12種ほどが報告されている。

特徴

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2. フウセンモ(Botrydium granulatum

藻体は、地上にある嚢状部と、地中へ伸びる分岐した仮根からなる[1][6][7][3][8](図2)。藻体は多核体であり、細胞隔壁はなく、ひとつながりの原形質を含む[1]。地上の嚢状部は球状から棍棒状、大きなものは直径数ミリメートルに達する[1][3]。藻体内の大部分は液胞で占められ、表層に多数のと盤状の葉緑体が存在する[1][6]。仮根内にはふつう葉緑体はないが、多数の核が存在する[1][3]細胞壁には、しばしば炭酸カルシウムが沈着している[1][3]

藻体の原形質が多数の原形質(単核または多核)に分断し、細胞壁を形成して球形の不動胞子(aplanospore)になることで無性生殖を行う[1][8](図2)。不動胞子は発芽して栄養体になる[1]。また、乾燥すると原形質が不定形に分断されて厚い細胞壁を形成して大型の耐久胞子(hypnospore, resting cyst)になることもある[1][7][6][8](図2)。耐久胞子は、水に浸かると鞭毛細胞を放出する[7](図2)。

有性生殖においては、水没した際に藻体の原形質全体が分裂して多数(約4万個ともされる)の配偶子となり、放出される[1][7][6][8](図2)。配偶子は涙滴型で頂端付近から2本の不等鞭毛が生じ、1–4個の葉緑体をもつ[1][8]。ほぼ同大またはやや大きさの異なる配偶子が合体し、接合子を形成、これが発芽して藻体を形成する[1][6][8](図2)。また、配偶子が合体することなく新たな藻体へと発生することもある[1][8]

生態

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フウセンモ属の藻類は湿土上に生育し、川や湖沼の岸辺、水田温室裸地などに見られる[1][8](図1, 3)。ときに大量に発生し、土壌を覆っていることもある[1]。フウセンモ(Botrydium granulatum)は、春や秋に見られる[9]

3a. フウセンモ属の一種
3b. フウセンモ属の一種

Emericellopsis mirabilis子嚢菌門フンタマカビ綱)が、フウセンモ(Botrydium granulatum)の地上部に寄生している例が報告されている[10][11][12]

分類

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属名の Botrydium は、ギリシア語botrydion(小さなブドウの房)に由来する[6]

フウセンモ属は、多核嚢状性の藻体をもつことから、フシナシミドロ目に分類されていた[13][3][14]。しかしフシナシミドロ属Vaucheria)とは相違点が多く、また分子系統学的研究からもフウセンモ属とフシナシミドロ属の近縁性は支持されないことから、フウセンモ目として分けられるようになった[1][7][15](下表1)。ただし分子系統学的研究からは、フウセンモ属は、細胞壁が2個のパーツからなる黄緑色藻(トリボネマ属 Tribonema やオフィオキチウム属 Ophiocytium)からなる系統群の中に含まれることが示されている[16][17]

2023年現在、フウセンモ属には12種ほどが知られる(下表1)。

表1. フウセンモ属の分類体系[1][3]

脚注

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出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Botrydium”. Algaebase. 2024年4月22日閲覧。
  2. ^ a b Taxonomy Browser: Family Botrydiaceae”. Algaebase. 2024年4月22日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j 廣瀬弘幸 & 山岸高旺 (1977). “フウセンモ属”. 日本淡水藻図鑑. 内田老鶴圃. pp. 201, 208–209. ISBN 978-4753640515 
  4. ^ 山岸高旺 (2007). “バウケリア属”. 淡水藻類: 淡水産藻類属総覧. 内田老鶴圃. ISBN 9784753640850 
  5. ^ フウセンモ」『改訂新版 世界大百科事典』https://kotobank.jp/word/%E3%83%95%E3%82%A6%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%A2コトバンクより2024年4月27日閲覧 
  6. ^ a b c d e f Graham, J.E., Wilcox, L.W. & Graham, L.E. (2008). “Botrydium”. Algae. Benjamin Cummings. p. 277. ISBN 978-0321559654 
  7. ^ a b c d e van den Hoek, C., Mann, D., Jahns, H. M. & Jahns, M. (1995). “Heterokontophyta: Class Xanthophyceae”. Algae: An introduction to phycology. Cambridge University Press. pp. 123–130. ISBN 978-0521316873 
  8. ^ a b c d e f g h 山岸高旺 (1993). “Botrydium granulatum (Linneus) Greville (フウセンモ)”. In 堀輝三. 藻類の生活史集成 第3巻 単細胞性・鞭毛藻類. 内田老鶴圃. pp. 224–225. ISBN 978-4-7536-4059-1 
  9. ^ Johnson, L. R. (2002). “Botrydium”. In John, D. M. & Whitton, B. A.. The Freshwater Algal Flora of the British Isles: An Identification Guide to Freshwater and Terrestrial Algae. Cambridge University Press. p. 246. ISBN 978-0521770514 
  10. ^ 半世紀前に記載された糸状菌が藻類に発生することを解明”. 筑波大学山岳科学センター (2021年9月2日). 2024年4月27日閲覧。
  11. ^ 高島勇介 (2020年12月13日). “フウセンモのハリセンボン”. 菅平生き物通信. 筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所. 2024年4月27日閲覧。
  12. ^ Takashima, Y., Nakayama, T. & Degawa, Y. (2021). “Revisiting the isolation source after half a century: Emericellopsis mirabilis on a yellow-green alga”. Mycoscience 62 (4): 260-267. doi:10.47371/mycosci.2021.03.009. 
  13. ^ 千原光雄 (1997). “黄緑藻綱”. 藻類多様性の生物学. 内田老鶴圃. pp. 55-59. ISBN 978-4753640607 
  14. ^ 川井浩史 & 中山剛 (1999). “黄緑藻綱”. In 千原光雄 (編). バイオディバーシティ・シリーズ (3) 藻類の多様性と系統. 裳華房. pp. 223–225. ISBN 978-4785358266 
  15. ^ Maistro, S., Broady, P., Andreoli, X. & Negrisolo, E. (2017). “Xanthophyceae”. In Archibald, J. M., Simpson, A. G. B. & Slamovits, C. H.. Handbook of the Protists. Springer. pp. 407-434. ISBN 978-3319281476 
  16. ^ Maistro, S., Broady, P. A., Andreoli, C. & Negrisolo, E. (2009). “Phylogeny and taxonomy of xanthophyceae (Stramenopiles, Chromalveolata)”. Protist 160 (3): 412-426. doi:10.1016/j.protis.2009.02.002. 
  17. ^ Graf, L., Yang, E. C., Han, K. Y., Küpper, F. C., Benes, K. M., Oyadomari, J. K., ... & Yoon, H. S. (2020). “Multigene phylogeny, morphological observation and re-examination of the literature lead to the description of the Phaeosacciophyceae classis nova and four new species of the Heterokontophyta SI clade”. Protist 171 (6): 125781. doi:10.1016/j.protis.2020.125781. 
  18. ^ a b c Xanthophyceae”. Algaebase. 2024年3月30日閲覧。

外部リンク

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