ナブルスのオリーブ石鹼

ナーブルス石鹸（ナーブルスソープ）（アラビア語: صابون نابلسي, ṣābūn Nābulsi）は、パレスチナの都市ナーブルスで生産されるカスティール石鹸の一種である。その主な原料は、バージンオリーブオイル、水、および水酸化ナトリウムなどのアルカリ性ナトリウム化合物である。完成品は象牙色で、ほとんど香りがない。伝統的に家庭用に女性たちが手作りしていたものが、14世紀までにはナーブルスの主要産業となった。

1907年には、ナーブルスに存在した30の石鹸工場が、パレスチナ全土の石鹸の半分を供給していた。しかし、1927年のエリコ地震によるナーブルス旧市街の被害や、1967年の第三次中東戦争およびその後のイスラエルによる西岸地区占領の影響により、産業は20世紀半ばから衰退し始めた。2008年の時点で、ナーブルスで操業している石鹸工場はわずか2軒となっている。

ナーブルスソープの歴史

ナーブルス石鹸（ナーブルスソープ）は、10世紀に小規模な石鹸製造工場が出現する以前から、家庭用として女性たちによって手作りされていた。また、ナーブルスやヘブロンにおける石鹸製造には、遊牧民との取引が不可欠であった。彼らだけが製造に必要なアルカリ性ソーダ（キルワ、qilw）を供給することができたからである。

14世紀までには、ナーブルスでは重要な石鹸製造産業が発展し、その石鹸はイギリスのエリザベス1世に愛用されていたと言われている。この石鹸は中東全域やヨーロッパに輸出されていた。

19世紀にはナーブルスでの石鹸製造が大規模に拡大し、肥沃な三日月地帯全体の石鹸生産の中心地となった。1907年には、市内の30の工場が年間約5,000トンのナーブルス石鹸を生産し、これはパレスチナ全体の石鹸生産量の半分以上に相当した。

1830年代にイギリスのジョン・ボーリングは、ナーブルス石鹸を「レバント地方で非常に高く評価されている」と述べており、1930年代のシリア人歴史家ムハンマド・クルド・アリは「ナーブルス石鹸は、今日最良で最も有名な石鹸であり、その秘密は純粋で丁寧に製造されていることにあるようだ」と記している。

ナーブルスの石鹸産業は20世紀半ばから衰退し始めた。その原因の一部は、1927年のエリコ地震によるナーブルス旧市街の大規模な被害をはじめとする自然災害であり、また一部はイスラエルの軍事占領によるものであった。第二次インティファーダ中のイスラエル軍による攻撃では、ナーブルスの歴史地区にあるいくつかの石鹸工場が破壊された。

現在もナーブルスにはいくつかの石鹸工場が存在しており、製品は主にパレスチナやアラブ諸国で販売されているが、一部はフェアトレード製品としてヨーロッパや他地域にも輸出されている。しかし、石鹸製造や輸出における課題は依然として続いている。2008年、トゥカン家が所有する工場のゼネラルマネージャーは次のように述べた：

「2000年以前、私たちの工場では年間600トンの石鹸を生産していた。しかし、イスラエルの占領、特に検問所による物理的・経済的な障害のため、現在ではその半分しか生産できていない。」

国連人道問題調整事務所によると、西岸地区全域に設置された検問所や道路封鎖が、工場への資材や製品の輸送、さらには工場労働者の移動を妨げているとされている。それにもかかわらず、ナーブルス石鹸はナーブルス市内や西岸地区で広く販売されており、ヨルダン、クウェート、ナザレなどのアラブ系イスラエル都市にも輸出されている。

ナーブルスの文化遺産として重要視されているナーブルス石鹸製造業の保存は、いくつかの地域プロジェクトの焦点となっている。例えば、旧アラファト石鹸工場を文化遺産啓発センターに改修・復元するプロジェクトが進められた。このセンターには研究や展示の設備があり、伝統的な方法でナーブルス石鹸を製造する小規模なモデル工場も含まれている。また、Project Hopeをはじめとする地域の非政府組織は、石鹸を西側諸国で販売し、他の地域社会プロジェクトの資金を調達している。

生産工程

ナーブルス石鹸（ナーブルスソープ）の主な原料は、カスティール石鹸と同様に、バージンオリーブオイル、水、およびアルカリ性ナトリウム化合物である。このナトリウム化合物は、ヨルダン川沿いで生育するバリラ草（キルワ、qilw）の粉末状の灰と、地元で供給される石灰（シード、sheed）を混ぜ合わせることで作られる。この化合物は、その後、水とオリーブオイルとともに発酵ピットの上に設置された大型の銅製容器で加熱される^[要出典]。

製造過程では、ナトリウム化合物と水の溶液が約8日間にわたって40回の循環を繰り返し、徐々に濃縮されていく。その間、**デュクシャブ（dukshab）**と呼ばれるオール型の木製ツールを使って、液体石鹸を絶え間なく攪拌する。その後、液体石鹸は木枠に流し込まれて固められる。固化した石鹸は、ナーブルス石鹸（ナーブルスソープ）の特徴である立方体の形状にカットされ、製造会社の商標シールが押印される。

石鹸の立方体は、天井まで届く円錐状の構造物に積み上げられ、中心に空洞を設けて空気が循環するようにしながら、3ヶ月から1年かけて乾燥させる。この工程を経て完成した石鹸は象牙色で、ほとんど香りがない（ナーブルス石鹸には香料が一切使用されない）。

工場から出荷される前に、地元向けに販売される個々の石鹸は片面にワックスが塗られた紙で手作業で包まれる。一方、輸出用の石鹸は包装されずに、硬い麻袋に詰められて輸送中の損傷を防ぐ。

ユネスコ無形文化遺産

2024年12月4日、ナーブルスソープの製造技術は、ユネスコの無形文化遺産に登録された。この登録は、ナーブルスソープの製造が地域の文化的アイデンティティを象徴し、持続可能な伝統技術の重要性を認めたものである。ユネスコは、これらの技術が保存され、次世代に伝えられることを支援している^[1]。

度重なる戦火とナーブルスソープ

ナーブルスソープは、パレスチナのナーブルスで何世紀にもわたり受け継がれてきた伝統工芸品であり、主にオリーブオイルを原料としている。しかし、度重なる戦火や政治的な混乱の中で、この伝統産業は深刻な危機に直面している。

オリーブの木の伐採と土地の喪失

ナーブルスソープの主要原料であるオリーブオイルは、地域のオリーブの木から収穫されるオリーブから作られる。しかし、パレスチナの土地はイスラエルの入植者による伐採や占領の影響を受け、オリーブの木が次々と失われている。この結果、オリーブオイルの収穫量は年々減少し、供給不足によってオリーブオイルの価格が高騰している。この影響はナーブルスソープの価格にも波及しており、製品価格が高騰せざるを得ない状況が続いている。

輸送の困難とコスト増加

パレスチナから海外市場への輸送は、地理的・政治的な制約により極めて困難である。ナーブルスソープはイスラエルの空港を経由する必要があり、輸送経路が限られるため物流コストが高額になる。さらに、世界的な燃料費の高騰も相まって、輸出価格はさらに上昇している。このような輸送問題は、ナーブルスソープの国際市場での競争力を低下させている。

消費者の選択と伝統産業の危機

ナーブルスソープは、品質の高さや天然素材の使用で知られているが、高価格のために消費者が安価な代替品を選ぶ傾向が強まっている。結果として、地元の伝統産業は輸出に頼らざるを得ない状況にあるが、国際市場での需要も安価な石鹸に奪われつつある。

持続可能性への課題

ナーブルスソープの製造は、ナーブルスの文化的遺産と経済の重要な一部を構成している。しかし、戦火や土地喪失、輸送コストの増加が続く中、この伝統産業を次世代に引き継ぐことは容易ではない。ユネスコ無形文化遺産への登録を通じて、国際社会の支援や認知度向上が期待されるが、持続可能性を確保するには多くの課題が残されている。

ナーブルスソープの支援活動

ナーブルスソープは、パレスチナのナーブルスで生産される伝統的な石鹸であり、オリーブオイルを主原料として製造されている。この石鹸は長い歴史と高い品質で知られる一方、近年は様々な課題に直面している。戦火や政治的混乱によるオリーブの木の伐採、原材料の高騰、輸送コストの増加などがナーブルスソープの生産と流通に深刻な影響を与えている。