コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

タラットスクス亜目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
タラットスクス類から転送)
タラットスクス亜目
生息年代: ジュラ紀前期–白亜紀前期, 195–125 Ma
メトリオリンクス科のダコサウルスの復元図
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : ワニ形上目 Crocodylomorpha
階級なし : 新鰐類 Neosuchia
亜目 : タラットスクス亜目Thalattosuchia
学名
Thalattosuchia
Fraas, 1834

タラットスクス亜目(タラットスクスあもく)とは前期ジュラ紀から前期白亜紀にかけて生息したワニ形上目新鰐類のうち、海生種と半海生種からなるグループである。そのため、このグループは俗に海ワニ(英語ではmarine crocodilessea crocodiles)と呼ばれる。ワニ目の中でも水中生活によく適応した分類群であり、一部の種はサメのような尾鰭と鰭状の手足を発達させ、完全な水中生活へと移行した。

概要

[編集]

タラットスクス亜目はFraas(1901)によって提唱された[1]。古典的な分類ではワニ目中鰐亜目に属する。この分類群を中鰐亜目の中に置く場合はタラットスクス下目となる。しかし分岐分類学的概念では、側系統群である中鰐亜目は無効となるため、最近はタラットスクスを独自の亜目に立てる場合が多い。タラットスクス亜目は現在のワニ(正鰐類)に繋がる系統から比較的早期に分岐し、子孫を残さずに絶滅した。現在のイリエワニが沿岸部に生息し、海水中でも活動することから「海ワニ」などと呼ばれることもあるが、タラットスクス亜目と現在のワニとの間に直接の系統関係はない。

系統・分類

[編集]

タラットスクス亜目は半海生のテレオサウルス科と、より海中生活に適応したメトリオリンクス科の2科からなる[2]。 テレオサウルス科のうち初期の数種は非海成層から見つかっており、原始的な種類は陸上中心の生活を営んでいたのかもしれない。 ペラゴサウルス属の分類は混乱しており、テレオサウルス科に含める説やテレオサウルス科とメトリオリンクス科の姉妹群とする説がある。一方で、ペラゴサウルス属をメトリオリンクス科の基底的な属とする説もある[2]。本項目ではペラゴサウルス属をテレオサウルス科の中に含めた[3]

テレオサウルス科

[編集]
1894年に描かれたテレオサウルスの復元図

テレオサウルス科はジュラ紀前期(トアルシアン)から白亜紀前期[4]にかけて生息した。 テレオサウルス科の特徴は現世のガビアルのように細長く伸びた吻部である。これで魚などの小動物を捕食していたと考えられている。皮骨板を持ち、手足もにはなっていなかった(水かき程度はあったかもしれない)。 化石はアフリカ(エチオピアマダガスカルモロッコ)、ヨーロッパ(イギリスフランスドイツイタリアポルトガルロシアスイス)、北アメリカ(オレゴン州)、南アメリカ(アルゼンチン)、インドから見つかっている。また中国からもこのグループと思しき化石が見つかっている[5][6][7][8][9][10]

メトリオリンクス科

[編集]
ダコサウルスが魚竜(Caypulisaurus)を襲撃している想像図

メトリオリンクス科はジュラ紀中期(バジョーシアン)から白亜紀前期(ヴァランジニアン)にかけて生息した。 前足は縮小して状になり、皮骨板は退化した。水中生活のため体は大型化し、サメ尾びれを逆さまにしたような逆異尾型の尾びれを持っていた[11]。メトリオリンクス科は外洋での水中生活に完全に適応した主竜形類唯一のグループである(ただし水鳥を除く) [5]。手足を鰭状に変化させ、尾びれを発達させ、流線型の体型で水中生活に適応していった進化のパターンは同時代の魚竜や後代のモササウルス科と共通しており、一種の収斂現象と見なすことができる。

メトリオリンクス科はオーストリアの動物学者Leopold Fitzingerによって1843年に提唱された[12]。メトリオリンクス科はメトリオリンクス亜科とゲオサウルス亜科に分けられる[13][14]。メトリオリンクス亜科の頭骨は細長く華奢であることから、メトリオリンクス亜科は魚類頭足類などの小動物を中心に捕食していたと考えられる。一方、ゲオサウルス亜科の頭骨は頑丈で前後に短く、には鋸歯が発達することから、ゲオサウルス亜科は大型の脊椎動物を捕食していたと考えられる。 メトリオリンクス科の化石は南アメリカ(アルゼンチンチリ)と北アメリカ(メキシコ)、ヨーロッパ各地(イギリスフランスドイツイタリアポーランドロシアスイス)から見つかっている[5][14]

科・属のリスト

[編集]
ステネオサウルスの骨格標本。背中側と腹側の皮骨板が確認できる
ゲオサウルスの骨格標本。尾椎が途中で折れ曲がっている箇所にサメの尾を逆さにしたような逆異尾型の尾びれがあったと推定されている

生態

[編集]
  • タラットスクス亜目については、同時代の魚竜首長竜のように繁殖に関する手がかりが発見されていない。そのため、彼らがどのように交尾したのか、卵生か胎生か、繁殖したのは陸上か海中か、何も分かっていない。
  • ドイツ南部の上部ジュラ系ゾルンホーフェン石灰岩からはステネオサウルス、ゲオサウルス、ダコサウルス、クリコサウルス、ラケオサウルスの5属のタラットスクス亜目が見つかっているが、これらはそれぞれ捕食対象を分けることで棲み分けていたと考えられる(i.e. ゲオサウルス・ダコサウルスは魚竜首長竜などの大型脊椎動物を捕食、ステネオサウルス・クリコサウルス・ラケオサウルスは魚類頭足類などの小動物を捕食)。
  • 近年の研究では、メトリオリンクスは塩腺を持っており、海水から水分補給が可能だったと考えられている[15]。このことは、メトリオリンクスは生理学的に完全に海中生活に適応していたことを示している。
  • ジュラ紀後期にヨーロッパに生息していた巨大な硬骨魚リードシクティスの骨格からはメトリオリンクスの歯が発見されている。以前はメトリオリンクスがリードシクティスに襲いかかった証拠とされてきた[16]が、近年ではメトリオリンクスがリードシクティスの死体を漁った可能性も指摘されている。他にもメトリオリンクスが首長竜の死体を漁っていた痕跡も見つかっており[17]、メトリオリンクスは日常的に腐肉を食べていたのかもしれない。

画像

[編集]

参考文献

[編集]
  1. ^ Fraas E. 1901. Die Meerkrokodile (Thalattosuchia n. g.) eine neue Sauriergruppe der Juraformation. Jahreshefte des Vereins für vaterländische Naturkunde, Württemberg 57: 409-418.
  2. ^ a b Buffetaut, E. 1982. Radiation évolutive, paléoécologie et biogéographie des Crocodiliens mésosuchienes. Mémoires Societé Geologique de France 142: 1–88.
  3. ^ 英語版ウィキペディアのテレオサウルス科での記述にもとづく
  4. ^ a b http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667115301178
  5. ^ a b c Steel R. 1973. Crocodylia. Handbuch der Paläoherpetologie, Teil 16. Stuttgart: Gustav Fischer Verlag,116 pp.
  6. ^ Bardet N, Hua S. 1996. Simolestes nowackianus HUENE, 1938 from the Late Jurassic of Ethiopia is a teleosaurid crocodile, not a pliosaur. Neues Jahrbuch für Geologie und Paläontologie Monatschefte 1996: 65-71.
  7. ^ Buffetaut E. 1979. Jurassic marine crocodilians (Mesosuchia, Teleosauridae) from central Oregon; first record in North America. Journal of Paleontology 53 (1):10-215.
  8. ^ Owen R. 1852. Note on the crocodilians remains accompanying Dr. T.L. Bell's paper on Kotah. Quarterly Journal of the Geological Society of London 8: 233.
  9. ^ Delfino M, Dal Sasso C. 2006. Marine reptiles (Thalattosuchia) from the Early Jurassic of Lombardy (northern Italy). Geobios 39 (3): 346-354.
  10. ^ Storrs GW, Efimov MB. 2000. Mesozoic crocodyliformes of north-central Eurasia. In: Benton M, Shishkin MA, Unwin DM, Kurichkin EN (eds). The Age of Dinosauria in Russia and Mongolia. P. 402-419, Cambridge University Press, Cambridge.
  11. ^ Fraas E. 1902. Die Meer-Krocodilier (Thalattosuchia) des oberen Jura unter specieller Berücksichtigung von Dacosaurus und Geosaurus. Paleontographica 49: 1-72.
  12. ^ Fitzinger LJFJ. 1843. Systema Reptilium. Wien: Braumüller et Seidel, 106 pp.
  13. ^ Mark T. Young and Marco Brandalise de Andrade (2009). “What is Geosaurus? Redescription of Geosaurus giganteus (Thalattosuchia: Metriorhynchidae) from the Upper Jurassic of Bayern, Germany”. Zoological Journal of the Linnean Society 157 (3): 551–585. doi:10.1111/j.1096-3642.2009.00536.x. 
  14. ^ a b Mark T. Young, Stephen L. Brusatte, Marcello Ruta and Marco Brandalise de Andrade (2010). “The evolution of Metriorhynchoidea (Mesoeucrocodylia, Thalattosuchia): an integrated approach using geometrics morphometrics, analysis of disparity and biomechanics”. Zoological Journal of the Linnean Society 158 (4): 801–859. doi:10.1111/j.1096-3642.2009.00571.x. 
  15. ^ Fernández M, Gasparini Z. 2008. Salt glands in the Jurassic metriorhynchid Geosaurus: implications for the evolution of osmoregulation in Mesozoic crocodyliforms. Naturwissenschaften 95: 79-84.
  16. ^ Martill, D.M., 1986, "The diet of Metriorhynchus, a Mesozoic marine crocodile", Neues Jahrbuch fur Geologie und Paläontologie, Monatshefte 1986: 621-625
  17. ^ Forrest R. 2003. Evidence for scavenging by the marine crocodile Metriorhynchus on the carcass of a plesiosaur. Proceedings of the Geologists’ Association 114: 363-366.

関連項目

[編集]