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スポンジケーキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
スポンジ生地から転送)
スポンジケーキの断面

スポンジケーキ、あるいはスポンジ生地とはフランス菓子に代表される洋菓子において、小麦粉をベースとしたパティスリと呼ばれる分野の菓子の基本的な生地のひとつ。膨化食品の一種でもある。溶いた鶏卵の起泡性を利用し、オーブンで弾力に富んだ軽いスポンジ(海綿)状に焼き上げるケーキ生地で、製菓関係の文脈では略して単にスポンジと称することもある。日本ではショートケーキチョコレートケーキロールケーキの土台として使われることでなじみぶかく、またこの生地を使用した一群のケーキの総称としてもスポンジケーキの呼称を使うこともある。

作り方・生地について

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グラスゴーウィロー・ティールームズで出しているヴィクトリアスポンジとミルクティー

スポンジ生地の基本的な組成は、鶏卵、砂糖、小麦粉である。鶏卵は製菓材料の中でもっとも多量の空気を含む性質を持っており、溶いて強くかき混ぜると気泡を形成する。これを卵の起泡性といい、さらにこれを加熱すると気泡の空気が熱で膨張して生地が膨れ、さらにタンパク質の熱変性によって空気を含んだまま熱凝固することによって生地の基本的な骨格を形成する。さらに、これに小麦粉を加えることで、生地の中で形成されたグルテンと、焼き上げたときに糊化したデンプンとが生地の骨格をより強化させている。泡立てた卵に小麦粉を加えて混和すると気泡がつぶれてしまうので、砂糖を加えることであらかじめ卵の気泡を安定化させる。砂糖にはメイラード反応で香ばしそうな焼き色を生成し、また鶏卵と混ぜるとわずかながら粘性を示すので生地の弾力を強化し、しっとり感を増す効果もある。最も基本的な組成は3つの基本材料の等量配合であるが、泡立てた鶏卵に加える砂糖と小麦粉の分量を減らすことで焼き上がりの質感を軽くすることができる。

スポンジ生地には、起泡性の根幹となる卵の泡立て方で、卵白卵黄を分けてあわ立てる別立法と同時に泡立てる共立法のふたつの製法があり、前者で作る生地をビスキュイ生地(パータ・ビスキュイ pâte à biscuit )、後者で作る生地をジェノワーズ生地(パータ・ジェノワーズ pâte à génoise )という。

ビスキュイとは「2度(bis)焼く(cuit)」に由来し、元来はいったん焼いたパンを薄切りにしてもう一度カリカリになるまで焼いて保存性を増し、遠洋航海のための保存食軍隊糧とした乾パンのことで、転じてフランス語ではスポンジ生地のことを、英語ではビスケットを指すようになった[注釈 1]。別立法のパータ・ビスキュイは卵白を全卵から分けて泡立てメレンゲをつくると卵黄の脂質で泡の組織が破壊されるのを防ぐことができるので、全卵をあわ立てるよりはるかに多量の空気を含ませることができ、これがスポンジ生地の基本製法となる。生地の基本構造は、卵黄と砂糖が練り合わさったものの中に小麦粉が分散し、そこに卵白によるメレンゲの気泡が保持されている形となる。卵白に砂糖を加えながらしっかりと角が立つまで泡立てた|メレンゲと、砂糖を加えて白っぽくなるまで撹拌した卵黄を気泡を壊さないようにあわせ、そこに小麦粉を混ぜ込んで焼き上げる。焼く前の生地は流動性に乏しいため、絞り袋でクッキングペーパーなどの上に絞り出して焼くことが多い。

パータ・ビスキュイの呼称は広義にはスポンジ生地全体の総称でもあるため、共立法で作った生地もビスキュイの名で呼ばれることもあり、その場合パータ・ジェノワーズはパータ・ビスキュイ・ジェノワーズ pâte à biscuit génoise となり、「ジェノヴァ風のビスキュイ生地」を意味する。全卵と砂糖の合わさった生地の中に小麦粉が分散し、その内部に直接細かい気泡が形成されている。全卵を溶いたものに砂糖を加えたものをリュバン状と呼ばれる白くふんわりとした状態まで泡立てて、これに小麦粉を加えて焼き上げる。別立法の単なるビスキュイ生地と比べると、強力な起泡力を持つ卵白でメレンゲを作らないので生地に含まれる気泡の量は少なく、また別立法で作るよりも力と時間を要するが、生地の肌理は細かく、しっとりとした仕上がりが得られる。焼く前にはやわらかく流動性が高いので、絞り出しではなく型などに流し込んで焼く。全卵を泡立てたものより油脂によって不安定になる傾向が強い、メレンゲを使わないので、バターを添加してこくのある風味を出しやすく、通常生地の調整の最後に溶かしバターを混ぜ込み、泡立てた全卵の気泡が壊れる前にすばやく焼き上げる。バターを加えた生地は厳密にはビスキュイ・オ・ブールと呼ぶが、先述のとおり通常共立法のパータ・ジェノワーズで作るため、単にパータ・ジェノワーズといえばバターを加えた共立法スポンジ生地を指すのが通例である。

こうした基本的なスポンジ生地のバリエーションとして、パータ・ジェノワーズにココアパウダーを加えたパータ・ジェノワーズ・ショコラ、コーヒーを加えたパータ・ジェノワーズ・オ・カフェ、別立法の要素も加味してメレンゲも加えた上で小麦粉の一部をアーモンドの粉末に置き換えたパータ・ビスキュイ・ジョコンド、さらに小麦粉をアーモンドの粉末とコーンスターチを混ぜたものに完全に置き換えパータ・パン・ド・ジェンヌといったものがある。

スポンジ生地はバターの添加量を増やしていくと卵の起泡性が維持できなくなって生地が成り立たなくなる。バターの比率を高くしてそのこくや深い味わいをより強く出すには卵の起泡性に依存しない方法で生地に空気を取り込まなければならない。逆転の発想で、卵の起泡性に依存せず、バターそのものに撹拌するとバターのエマルション構造が空気を取り込み、微細な気泡を内部に形成する性質があることを使って生地を膨らませるのが、バター生地(パータ・ケック pâte à cake )である。

ケーキの膨化には,砂糖の量が大きく関与しており、砂糖の量が多いほどよく膨らみケーキの中央がくぼむことが少なくなる。この原因は生地中の砂糖量が増大するとグルテンを弱めてでんぷんを糊化し、でんぷんゲルが軟らかさを増しこれがケーキの軟らかさと容積を増すためである。

その他の卵の起泡方法

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従来、スポンジケーキの製造における起泡方法は、「共立て法」及び「別立て法」の2区分とされてきたが、長崎大学の野口道子の研究資料を参考にした合同会社本気の猿Laboの早坂昌幸によれば、更に3つの手法(気泡する新たな3つの方法)があり合計5区分となる。いずれも、特定の環境下、なおかつ特定の配合における実験製造では、製品化が実証されている技術であることも付記しておく。参考頁(クックパッド

それに先立ち、従来の手法について再定義する。

  1. 共立て法とは、全卵を泡立てる方法。
  2. 別立て法とは、卵白と卵黄に分け、卵白はメレンゲに、卵黄はほぐした後に双方を合わせる方法。

※卵黄は水を加えて初めて起泡し体積が明らかに膨張するので、加水しない従来の別立て法においては「立てる」のではなく「ほぐす」という表現に留まる。なお、詳細な定義は別項に譲るものとする。

起泡する新たな3つの方法

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  1. 卵黄に、その数倍の加水をし攪拌する事で起泡する方法。
    卵黄のみで起泡する事から『卵黄1本立て』と称する[1]
  2. 『卵黄1本立て』に、卵白のメレンゲを加える方法。
    従来の別立て法とは異なり、卵黄も起泡しているので『両立て法』と称する。
  3. 『卵黄1本立て』に卵白をほぐしたものを加える方法。
    従来の別立て法とは逆で、卵黄を起泡し、卵白は起泡しないので『逆立て法』と称する。

便宜上それぞれには手法の名称が必要であるので、2023年のクックパッド[2]を引用した。

新たな起泡方法の意味合いと効果

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  1. 卵黄の気泡がボディとなるので、必要な卵白量に絶対値がなくなる。つまり、卵黄と卵白は別な原料と捉える事が出来るので、配合比率の改編等の可能性が相当に広がり、従来にないスポンジケーキの製造に繋がる。極端な事例では、卵白を配合しないレシピがある[3]
  2. 卵黄のボディは、理論的には卵白のそれよりも口溶けが良いので、新たな食感が期待出来る。それは、卵を焼成した際に卵黄は完全に凝固せず、卵白は凝固し硬化することから容易に推察できる。
  3. スポンジケーキ等において、従来は卵白の量と質に依存したふわふわ感である為、旨味成分を伴わないものが大半であるが、卵黄にこそ旨味成分が含まれているので、美味しさを損なわずにふわふわに仕上げることが、従来の方法以上に可能になる。逆説的に説明すれば、卵白メレンゲがボディであると旨味成分が少ないため、生地そのもの単体ではなくトッピング等による味付けに頼った構造のお菓子が大半である。
  4. 卵黄に含まれる油脂で起泡出来るので、例えばシフォンケーキに配合されるサラダ油等の油脂を除く配合が可能である。
  5. 同じく、卵黄に含まれる油脂を利用するので、別に油脂を配合するよりも摂取油分量を抑えることができる。

歴史

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カスティーリャ王国で生まれた「カスティーリャ・ボーロ」が始まりとする説があり、南蛮船によって日本に伝来後、カスティーリャはカステラに、ボーロはそばぼうろにアレンジされたとされる[4]

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. ^ 実際、イタリアのトスカーナ地方には同様の作り方をしたカントゥチーニ(Cantuccini)というビスケット菓子が存在する。

出典

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  1. ^ 野口道子 1970.
  2. ^ クックパッドにて初めて手法を公表した合同会社本気の猿Labo代表早坂昌幸によるもの
  3. ^ 新井映子 & 伊東清枝 1991.
  4. ^ お菓子の由来物語 P.11

参考文献

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外部リンク

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