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硫酸ジメチル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
硫酸ジメチル
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識別情報
CAS登録番号 77-78-1
日化辞番号 J2.823A
KEGG C19177
特性
化学式 C2H6O4S
モル質量 126.13 g/mol
外観 無色の液体
密度 1.33 g/ml, 液体
融点

−32 °C

沸点

188 °C 分解

への溶解度 水と反応
溶解度 メタノール, ジクロロメタン, アセトン
危険性
主な危険性 毒性, 接触毒性, 吸入毒性, 腐食性, 環境毒性, 発癌性, 突然変異原
Rフレーズ R45, R25, R26, R34,
R43, R68
Sフレーズ S53, S45
関連する物質
関連物質 硫酸ジエチル, トリフルオロメタンスルホン酸, 炭酸ジメチル
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

硫酸ジメチル(りゅうさんジメチル、dimethyl sulfate)は化学式 (CH3O)2SO2 で表される化合物で、硫酸のジメチルエステル。結合様式を表現せずに (CH3)2SO4 あるいは Me2SO4 とも表記する。

強力なメチル化剤として有機合成で広く使われる試薬のひとつで、塩基の存在下、アルコールを容易にメチルエーテルへと変換することができる。

標準状態においては無色の油状液体であり、タマネギに似た弱い悪臭を持つ。実験室での利用はトリフルオロメタンスルホン酸のメチルエステルである CF3SO3CH3 に置き換えられつつある。

腐食性・発癌性が強く、皮膚などに付くと危険であるため、防護手袋を着けるなど取り扱いには十分な配慮が必要である。

歴史

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1800年代初頭ごろ、不純な形ではあるが発見されている。その後、硫酸ジメチルの調製法はクラーソンによって広く研究された[1]

製造

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実験室的な製法は数多く知られている[2]メタノールと硫酸の反応

あるいは硫酸水素メチルの蒸留によって得られる[1]

亜硝酸メチルとクロロスルホン酸メチルの反応によっても合成できる[1]

アメリカ合衆国においては1920年代から工業的に製造されている。一般的な過程はジメチルエーテル三酸化硫黄の連続的反応である[3][4]

用途

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フェノール類アミンチオールのメチル化剤として最も良く知られる。通常、1つめのメチル基は残りの1つに比べてすばやく除去される。通常は SN2 反応を起こす。

酸素原子のメチル化

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フェノール類のメチル化に用いられるのが最も一般的である。単純なアルコールのメチル化にも適し、tert-ブタノールtert-ブチルメチルエーテルに変換する。

アルコキシドは即座にメチル化される。

アミン窒素のメチル化

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4級アンモニウム塩および3級アミンの製造に用いられる[5]

長鎖アルキル基を持つ4級アンモニウム化合物は界面活性剤や衣類の柔軟剤として利用される[6]

硫黄原子のメチル化

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アルコールと同様、メルカプチドのメチル化は容易に進行する。

チオエステルの合成に用いることもできる。

その他

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グアニンイミダゾール環を開環させることにより、塩基特異的にDNAを開裂させることができる[7]。この反応は塩基配列の決定やDNA鎖の切断などに使うことができる。

酸化銅(I)との反応で硫酸銅(I)を生成する。

安全性

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発癌性を持つ可能性が高いため有毒であるとされる。ラットに対して吸入または静脈内投与を行うとがんが発生することが確認されている[3]。硫酸ジメチルの毒性の高さから、化学兵器に転用できると考える者もいる[誰?]。皮膚、粘膜、消化管を通して吸収される。遅延毒性を持つため、自覚症状が現れる前に致命的な量の被曝を受ける危険がある[8]

毒性が高いため使用が避けられ、他のメチル化剤が用いられることも多い。しかしながら反応効率が高く入手も容易なので、より適切な試薬と判断されることもある。ヨウ化メチルO-メチル化に使われ、より危険性が低いが高価である[9]炭酸ジメチルは硫酸ジメチル、ヨウ化メチルの両者と比べ毒性が低く、反応にもよるが硫酸ジメチルのかわりに N-メチル化に使うことができる[10]

毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている[11]。また、労働安全衛生法第2類特定化学物質に指定されている。

脚注

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  1. ^ a b c Suter, C. M. (1944). The Organic Chemistry of Sulfur (Tetracovalent Sulfur Compounds). New York: John Wiley & Sons. pp. 49–53 
  2. ^ Shirley, D. A. (1967). Organic Chemistry. Texas: Holt, Rinehart and Winston. pp. 253 
  3. ^ a b アメリカ合衆国保健福祉省. “12th Report on Carcinogens”. 2011年11月4日閲覧。
  4. ^ アメリカ合衆国保健福祉省. “Substance Profiles - Dimethyl Sulfate” (PDF). 12th Report on Carcinogens. 2011年11月4日閲覧。
  5. ^ Lucier, J. J.; Harris, A. D.; Korosec, P. S. (1964). "N-Methylbutylamine". Organic Syntheses (英語). 44: 72.
  6. ^ デュポン. “DMS Overview”. 2007年10月14日閲覧。
  7. ^ Streitwieser, A.; Heathcock, C. H.; Kosower, E. M. (1992). Introduction to Organic Chemistry. New Jersey: Prentice-Hall. pp. 1169 
  8. ^ Rippey, J. C.; Stallwood, M. I. (2005). “Nine cases of accidental exposure to dimethyl sulphate - a potential chemical weapon”. Emerg. Med. J. 22: 878–879. PMID 16299199. 
  9. ^ Fieser, L. F.; Fieser, M. (1967). Reagents for Organic Synthesis. New York: John Wiley & Sons. pp. 295 
  10. ^ Shieh, W.-C.; Dell, S.; Repič, O. (2001). “1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene (DBU) and microwave-accelerated green chemistry in methylation of phenols, indoles, and benzimidazoles with dimethyl carbonate”. Org. Lett. 3: 4279–4281. doi:10.1021/ol016949n. 
  11. ^ 毒物及び劇物取締法 昭和二十五年十二月二十八日 法律三百三号 第二条 別表第二